(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
補強箇所を覆い、且つ、当該補強箇所に作用する主応力の方向と前記第1強化繊維の繊維方向とが一致するように、請求項1乃至8の何れか1つに記載の補強用シートを接着剤で貼り付けることを特徴とする補強用シートを用いた補強方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の繊維強化シートを用いて構造物を補強する場合、繊維強化プラスチック線材の長手方向が補強箇所の軸方向に一致するように繊維強化シートを補強箇所に貼り付け、複数本の繊維強化プラスチック線材によって軸方向補強を行うと考えられる。しかしながら、繊維強化シートを構成する線材固定材は、繊維強化プラスチック線材のバラケ防止のために用いられているが、ねじれなどに対するせん断補強が想定されていないため、構造物の欠損部分やひびわれ部分に対するせん断耐力が十分に得られない恐れがある。
【0006】
また、特許文献2のシート状の炭素繊維強化プラスチックには炭素繊維が0°と90°の2方向に配列されているため、補強箇所の軸方向補強およびせん断補強が行われているものの、炭素繊維強化プラスチックは硬化物であるため、曲面や折れ曲がり部分などの平面以外の箇所にシート状の炭素繊維強化プラスチックを確実に貼り付けることが困難である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。すなわち、その課題とするところは、補強効果および使用性に優れた補強用シートおよびその補強用シートを用いた補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決を目的としてなされた本発明に係る補強用シートは、以下の構成を備えている。
【0009】
(1)全体的にシート状を呈する補強用シートであって、
繊維方向が略一方向に揃えられた多数の第1強化繊維に第1マトリックス樹脂が含浸して硬化し、剛性を有する複数の本体部が当該繊維方向に略直交する方向に並んで配列された主部と、
前記複数の本体部に接着され、前記第1強化繊維の繊維方向に交差する多数の第2強化繊維を含み、柔軟性を有する副部と、を備え、
前記主部には、隣接する前記本体部と前記本体部との間で当該補強用シートを折り曲げるための折曲部が形成され、
前記多数の第2強化繊維は可撓性および樹脂浸透性を有し、当該多数の第2強化繊維には第2マトリックス樹脂が含浸して硬化していることを特徴とする。
ここで、副部に含まれる多数の第2強化繊維は樹脂浸透性を有しているので、第2マトリックス樹脂は多数の第2強化繊維に確実に含浸する。よって、副部では第2強化繊維と第2マトリックス樹脂とが確実に複合化されている。そのため、第1強化繊維の繊維方向と補強箇所の軸方向とが一致するように補強用シートを補強箇所に貼り付けることで、主部によって、曲げ補強や圧縮補強などの軸方向補強を行うと共に、副部によって、主部を拘束してせん断耐力を向上させて、ねじれなどに対するせん断補強を行うことができる。すなわち、主部で軸方向に作用する主応力を負担させ、副部に周方向に発生するせん断応力を分配する(分散させる)ことで、補強箇所に作用する応力を補強用シート全体で均等に面として受けることができる。この点、例えば、特許文献1の線材固定材は、糸条の周りに樹脂層が形成されているに過ぎず、本発明のように、糸条と樹脂層とが確実に複合化されていないので、せん断耐力を向上させることができない恐れがある。すなわち、補強箇所に作用する応力を、特許文献1に記載の強化繊維シート全体で均等に面として受けることができない恐れがある。そもそも、ねじれなどに対するせん断補強が想定されていないが、仮に線材固定材によってせん断耐力を向上させようとすると、線材固定材の直径を大きくし過ぎることは好ましくないとされているので、線材固定材の本数を増やす必要がある。しかしながら、本数を増やすことによって繊維強化シートの製造に手間が掛かってしまい、製造コストが増大する。
また、本発明の補強用シートの副部は柔軟性を有し、主部に折曲部が形成されているので、折曲部で補強用シートを折り曲げることができる。よって、曲面や屈曲部などの平面以外の箇所に補強用シートを貼り付け、平面以外の箇所についても補強用シート全体で複数方向の応力に対する補強効果を発揮することができる。
【0010】
(2)(1)に記載の補強用シートにおいて、
前記隣接する前記本体部と前記本体部は分離していることを特徴とする。
【0011】
(3)(2)に記載の補強用シートにおいて、
前記隣接する前記本体部と前記本体部の間に隙間が形成されており、前記折曲部は当該隙間で構成されていることを特徴とする。
【0012】
(4)(2)に記載の補強用シートにおいて、
前記隣接する前記本体部と前記本体部は接触しており、前記折曲部は当該接触箇所で構成されていることを特徴とする。
【0013】
(5)(1)に記載の補強用シートにおいて、
前記主部には、互いに結合されている前記本体部があり、
当該結合されている前記本体部と前記本体部との間に、前記第1強化繊維の繊維方向に沿って、当該結合箇所で切断容易な切り目が形成されており、前記折曲部は当該切り目で構成されていることを特徴とする。
【0014】
(6)(1)乃至(5)の何れか1つに記載の補強用シートにおいて、
前記第1強化繊維および前記第2強化繊維は炭素繊維からなることを特徴とする。
【0015】
(7)(1)乃至(6)の何れか1つに記載の補強用シートにおいて、
前記副部は、前記第1強化繊維の繊維方向に
対して略直交方向に配された複数本の柔軟性を有するテープ状部材からなり、
各テープ状部材は、繊維方向が前記テープ状部材の長手方向に揃えられた多数の前記第2強化繊維に前記第2マトリックス樹脂が含浸して硬化して構成されていることを特徴とする。
【0016】
(8)(1)乃至(6)の何れか1つに記載の補強用シートにおいて、
前記副部は、前記第1強化繊維の繊維方向に対して斜め方向に配された複数本の柔軟性を有するテープ状部材からなり、
各テープ状部材は、繊維方向が前記テープ状部材の長手方向に揃えられた多数の前記第2強化繊維に前記第2マトリックス樹脂が含浸して硬化して構成されていることを特徴とする。
【0017】
上記課題の解決を目的としてなされた本発明に係る補強用シートを用いた補強方法は、以下の構成を備えている。
(9)補強箇所を覆い、且つ、当該補強箇所に作用する主応力の方向と前記第1強化繊維の繊維方向とが一致するように、(1)乃至(8)の何れか1つに記載の補強用シートを接着剤で貼り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る補強用シートによれば、補強効果および使用性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
最初に、本発明の補強用シートの第1実施形態に係る補強用シート1Aについて説明する。
図1に示すように、補強用シート1Aは、全体的にシート状に形成されている。補強用シート1Aの幅W1は25cmであり、補強用シート1Aの長さL1は約1mである。なお、
図1では補強用シート1Aの一方側(平面視左側)の端部しか図示されていない。
【0021】
補強用シート1Aは、補強用シート1Aの長手方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本(第1実施形態では70本)の第1強化繊維束10を含む主部1と、補強用シート1Aの幅方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本(第1実施形態では3本)の第2強化繊維束20を含む副部2と、を備えている。すなわち、補強用シート1Aにおいて、複数本の第1強化繊維束10と複数本の第2強化繊維束20とが直交する2方向に配列されている。各第2強化繊維束20は、全ての第1強化繊維束10の表面にまたがって接着されている。すなわち、第2強化繊維束20によって、複数本の第1強化繊維束10と第2強化繊維束20とが一体化されている。
【0022】
図2(B)に示すように、隣接する各第1強化繊維束10と第1強化繊維束10の間に、離間距離P1の隙間13が形成されている。ここでは、離間距離P1は3mmに設定されている。また、
図2(A)に示すように、隣接する第2強化繊維束20と第2強化繊維束20とは離間距離P2をおいて配されている。ここでは、離間距離P2は80mmに設定されている。
【0023】
図2(C)に示すように、第1強化繊維束10は、略矩形断面で幅狭の板状体からなる。具体的に、第1強化繊維束10の幅B11は12mmであり、第1強化繊維束10の厚さt11は1.5mmである。また、第1強化繊維束10の長さは、補強用シート1Aの幅W1に一致しており、25cmである。
【0024】
第1強化繊維束10は、炭素繊維強化プラスチックで構成されており、全体的な繊維方向が一方向に揃って3次元的に密接して配列された多数の炭素繊維(フィラメント)で構成された第1芯材11と、第1芯材11に含浸して硬化した第1マトリックス樹脂12とからなる。
【0025】
補強用シート1Aにおいて、第1芯材11を構成する炭素繊維の全体的な繊維方向は補強用シート1Aの幅方向(長手方向に直交する方向)と一致している。また、第1芯材11の断面と第1強化繊維束10の断面とは略一致している。すなわち、第1芯材11には、幅B11、厚さt11の略矩形断面となるように、直径5〜7ミクロンの炭素繊維が密集して配されている。なお、
図2(C)は第1強化繊維束10の断面構造を説明するための図であるので、その炭素繊維の本数とは一致していない。
【0026】
第1芯材11を構成する炭素繊維はPAN系炭素繊維である。そして、第1芯材11を構成する炭素繊維の弾性率は240GPaであり、引張強度は4900MPaである。また、第1強化繊維束10の引張強度は2300MPaである。
【0027】
第1マトリックス樹脂12は、熱硬化性のエポキシ樹脂で構成されている。第1マトリックス樹脂12の弾性率は、2GPaである。
【0028】
以上のように構成される第1強化繊維束10の可撓性は非常に低く、すなわち、第1強化繊維束10は高い剛性を有している。よって、第1強化繊維束10をその繊維方向に沿って折り曲げることはほとんどできない。
【0029】
図2(D)に示すように、第2強化繊維束20は、略矩形断面のテープ状体からなる。具体的に、第2強化繊維束20の幅B12は10mmであり、第2強化繊維束20の厚さt12は0.07mmである。また、第2強化繊維束20の長さは、補強用シート1Aの長さL1に一致しており、約1mである。
【0030】
第2強化繊維束20は、全体的な繊維方向が一方向に揃って3次元的に配列された多数の炭素繊維(フィラメント)で構成された第2芯材21と、第2芯材21に含浸して硬化した第2マトリックス樹脂22と、第2芯材21の底面に積層された粘着部23と、からなる。
【0031】
第2芯材21は、複数の円形断面の炭素繊維束(炭素繊維原糸)が開繊によって全体的に非常に薄く略均一に広げられ、扁平状に加工されてなる。具体的には、およそ幅B12(10mm)で厚さt12(0.07mm)からなる略矩形断面の範囲内に、直径5〜7ミクロンの炭素繊維が約6000本、適度にばらけて配されている。そのため、第2芯材21は、全体で容易に折り曲げる又は折りたたむことができる程度に可撓性(柔軟性)を有している。なお、
図2(D)は第2強化繊維束20の断面構造を説明するための図であるので、その炭素繊維の本数とは一致していない。
【0032】
また、第2芯材21を構成する多くの炭素繊維(単糸)間には隙間が十分に形成されている。換言すれば、第2芯材21の内部には、空隙部が十分に形成されている。この空隙部に第2マトリックス樹脂22が含浸(浸透)している。
【0033】
第2マトリックス樹脂22は、市販の又は一般的な木工用接着剤で構成されている。第2マトリックス樹脂22の弾性率は、0.01GPaであり、第2芯材21を構成する炭素繊維の弾性率よりも低い。
【0034】
第2芯材21を構成する多くの炭素繊維間(内部)には十分な隙間(空隙部)が形成されているため、第2マトリックス樹脂22は第2芯材21に十分に含浸している。逆説的に言えば、第2芯材21は、第2マトリックス樹脂22を十分に含浸(浸透)させるための空隙部を有し、第2マトリックス樹脂22を内部全体に容易に且つ十分に含浸(浸透)させることができる程度の樹脂浸透性を有している。よって、多数の炭素繊維からなる第2芯材21と第2マトリックス樹脂22とが確実に複合化されている。なお、第2マトリックス樹脂22の樹脂浸透性については、刷毛やローラーなどの道具を用いて第2芯材21の内部全体に第2マトリックス樹脂22を容易に且つ十分に浸透させるのではなく、第2芯材21の上側から第2マトリックス樹脂22を垂らした後、第2マトリックス樹脂22が、自重で自然と第2芯材21の内部全体に染み込むように、容易に且つ十分に浸透することができる程度の樹脂浸透性を有することが好ましい。なお、第2芯材21に含まれる炭素繊維の本数は約6000本に限られず、さらに少なくても多くても良い。また、第2強化繊維束20における第2芯材21の炭素繊維間の間隙も、
図2(D)に示すよりも大きく形成されていても小さく形成されていても良い。
【0035】
また、第2マトリックス樹脂22の弾性率は、第2芯材21を構成する炭素繊維の弾性率よりも低い。よって、第2芯材21の弾性率が第2強化繊維束20の全体の弾性率に依存する。ここで、第2芯材21を構成する炭素繊維の弾性率は240GPaであり、第2芯材21は、その繊維方向に沿って全体で容易に折り曲げる又は折りたたむことができる程度の可撓性を有し、非常に柔らかいので、第2強化繊維束20も、その繊維方向に沿って全体で容易に折り曲げること又は折りたたむことが可能であり、非常に柔らかい。
【0036】
また、粘着部23は、一般的な両面テープに使用される粘着剤からなる。すなわち、一般的な両面テープに使用される粘着剤を、第2マトリックス樹脂22が含浸して硬化した第2芯材21の底面に積層したものが第2強化繊維束20である。
【0037】
このように構成される第2強化繊維束20の目付は、42g/m
2であり、第2強化繊維束20の引張強度は0.001MPaである。
【0038】
そして、補強用シート1Aの長手方向に沿って相互に平行になるように並んだ全ての第1強化繊維束10が各第2強化繊維束20に粘着部23で接着されており、複数本の第1強化繊維束10と複数本の第2強化繊維束20とが一体化している。
【0039】
このように、補強用シート1Aは、補強用シート1Aの長手方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本(第1実施形態では70本)の第1強化繊維束10を含む主部1と、補強用シート1Aの幅方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本(第1実施形態では3本)の第2強化繊維束20を含む副部2と、を備え、各第2強化繊維束20は、全ての第1強化繊維束10の表面にまたがって接着されているので、主部1によって軸方向補強を行う(補強箇所の軸方向に作用する主応力に対する補強効果を発揮する)と共に、副部2によって、ねじれなどに対するせん断補強を行う(補強箇所の周方向に作用するせん断応力に対する補強効果を発揮する)ことができる。すなわち、主部1に主応力を負担させ、副部2に、せん断応力を分配する(分散させる)ことで、補強箇所に作用する応力を補強用シート1A全体で均等に面として受けることができる。また、前述の通り、補強用シート1Aを構成する第1強化繊維束10自体は剛性を有するため、その繊維方向に沿って折り曲げることが困難であるが、第1強化繊維束10の配列方向に沿って隙間13が形成されており、第1強化繊維束10を繋ぐ第2強化繊維束20は非常に薄くて柔らかいので、補強用シート1Aを、長手方向に沿って隣接する全ての第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間で折り曲げることができる。よって、補強用シート1Aを、平面の他、曲面や屈曲部、さらにはH型断面などの複雑な形状の断面に、その形状に沿って貼り付けることができる。すなわち、補強用シート1Aの使用性および経済性が向上する。また、第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間の隙間13の部分で折り曲げることができるので、補強用シート1Aを長手方向に沿って巻き付けてコンパクト化した状態で保管・運搬することができる。さらに、第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との隙間13の部分で折り曲げることができるので、保管状態において、第1強化繊維束10に反りや撓みなどの変形が生じることを防止することができる。そのため、第1強化繊維束10が反ったり撓んだりすることによって補強対象物への接着作業に支障を来すことを防止することができる。また、隣接する全ての第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間に離間距離P1からなる隙間13が形成されているので、補強用シート1Aの折り曲げが容易になる。また、第2強化繊維束20は非常に薄くて柔らかいので、はさみやカッターなどの道具によって、隣接する第1強化繊維束10と第1強化繊維束10とをつないでいる第2強化繊維束20で容易に切断することができる。そのため、補強用シート1Aの長さ調整を容易に行うことができる。また、隣接する全ての第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間に離間距離P1からなる隙間13が形成されているので、第2強化繊維束20の切断作業も容易になる。なお、主部1が本発明の主部を構成し、副部2が本発明の副部を構成する。また、第1強化繊維束10が本発明の本体部を構成し、隙間13が本発明の折曲部を構成する。
【0040】
次に、補強用シート1Aを用いて、構造物を補強する補強方法について説明する。例えば、
図3(A)に示すように、鋼製の円柱100の所定位置に欠損部101が生じていたとする。この場合、図示していないが、欠損部101の表面や欠損部101周辺などの補強用シート1Aを取り付ける箇所の不陸調整を行った後(準備工程)、
図3(B)に示すように、補強用シート1Aを取り付ける箇所に、ローラーなどの所定の道具で金属用の接着剤102を塗布する(接着剤塗布工程)。また、補強用シート1Aの第2強化繊維束20が取り付けられている側の表面全体にも接着剤102を塗布する(接着剤塗布工程)。そして、
図3(C)に示すように、補強用シート1Aの接着剤102を塗布した表面側から、円柱100の軸方向と、第1強化繊維束10の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)とが平行になるように、円柱100の欠損部101を含む範囲に補強用シート1Aを円柱100の周方向に沿って貼り付けて、欠損部101を補強用シート1Aで覆う(補強用シート貼付工程)。ここでは、補強用シート1Aを円柱100の全周に亘って貼り付ける。
【0041】
円柱100に貼り付けられた第1強化繊維束10の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)と円柱100の軸方向とが平行であるので、円柱100の第1強化繊維束10が貼り付けられている部分の圧縮強度(座屈荷重)が向上し、円柱100の軸方向補強(曲げ補強および圧縮補強)を行うことができる。また、第2強化繊維束20の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)は円柱100の軸方向に直交している(円柱100の周方向に平行である)ので、円柱100のせん断補強を行う(欠損部101のせん断耐力を向上させる)ことができる。すなわち、第2強化繊維束20によって、補強箇所に作用するせん断応力に対する補強効果が発揮される。
【0042】
このように、補強用シート1Aを様々な箇所(第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間の隙間13の部分)で簡単に折り曲げることができるので、円柱100などのような曲面の周方向に沿って、補強用シート1Aを貼り付け、容易に且つ短時間で円柱100を補強することができる。
【0043】
また、
図4(A)に示すように、H型鋼からなる柱200のウェブ201Aの所定位置に欠損部201が生じていたとする。この場合、円柱100の補強の場合と同様に、欠損部201の表面や欠損部201周辺などの不陸調整を行った後(準備工程)、
図4(B)に示すように、補強用シート1Aを取り付ける箇所に、ローラーなどの所定の道具で金属用の接着剤202を塗布する(接着剤塗布工程)。また、補強用シート1Aの第2強化繊維束20が取り付けられている側の表面全体にも接着剤202を塗布する(接着剤塗布工程)。そして、
図4(C)に示すように、補強用シート1Aの接着剤202を塗布した表面側から、柱200の軸方向と、第1強化繊維束10の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)とが平行になるように、柱200の欠損部201を含む範囲に補強用シート1Aを柱200の周方向に沿って貼り付けて、欠損部201を補強用シート1Aで覆う(補強用シート貼付工程)。ここでは、補強用シート1Aを柱200の全周に亘って貼り付ける。
【0044】
柱200に貼り付けられた第1強化繊維束10の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)と柱200の軸方向とが平行であるので、柱200の第1強化繊維束10が貼り付けられている部分の圧縮強度(座屈荷重)が向上し、柱200の座屈を防止することができる。また、第2強化繊維束20の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)は柱200の軸方向に直交している(柱200の周方向に平行である)ので、柱200のせん断補強を行う(欠損部201のせん断耐力を向上させる)ことができる。すなわち、第2強化繊維束20によって、補強箇所に作用するせん断応力に対する補強効果が発揮される。
【0045】
このように、補強用シート1Aを様々な箇所(第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間の隙間13の部分)で簡単に折り曲げることができるので、H型断面の柱200などのような複雑な断面形状の周方向に沿って、補強用シート1Aを貼り付け、容易に且つ短時間で柱200を補強することができる。
【0046】
また、
図5(A)に示すように、I型鋼からなる橋桁300のウェブ300Aに設置されているリブ300Bの付近に欠損部301が生じていたとする。この場合、円柱100や柱200の補強の場合と同様に、欠損部301の表面や欠損部301周辺などの不陸調整を行った後(準備工程)、
図5(B)に示すように、補強用シート1Aを取り付ける箇所に、ローラーなどの所定の道具で接着剤302を塗布する(接着剤塗布工程)。また、補強用シート1Aの第2強化繊維束20が取り付けられている側の表面全体にも接着剤302を塗布する(接着剤塗布工程)。そして、
図5(C)に示すように、補強用シート1Aの接着剤302を塗布した表面側から、ウェブ300Aに作用する圧縮応力方向と、第1強化繊維束10の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)とが平行になるように、リブ300Bの凸形状に沿わせ、且つ、欠損部301を含む範囲で補強用シート1Aを貼り付けて、欠損部301を補強用シート1Aで覆う(補強用シート貼付工程)。ここでは、橋桁300のウェブ300Aの欠損部301が生じている面のウェブ300Aの上端から下端まで補強用シート1Aを貼り付ける。
【0047】
第1強化繊維束10の長手方向(炭素繊維の全体的な繊維方向)とウェブ300Aに作用する圧縮応力方向と、が平行であるので、ウェブ300Aの軸方向補強を行うことができる。
【0048】
このように、補強用シート1Aを貼り付けるだけで橋桁300を補強することができるので、容易に且つ短時間で橋桁300を補強することができる。
【0049】
以上のように、補強用シート1Aを隙間13の部分で折り曲げることができるので、1枚の補強用シート1Aを現地で補強対象箇所の形状に合わせて1回貼り付けるだけで、補強を行うことができる。すなわち、補強用シート1Aを用いた補強方法の作業性が向上する。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の補強用シートの第2実施形態である補強用シート1Bについて説明する。ここでは、主に、第1実施形態の補強用シート1Aとの相違点について説明し、同一の部分については、同一の名称・符号を用いてその説明を省略する。
【0051】
図6、
図7(A)および
図7(B)に示すように、補強用シート1Bは、補強用シート1Aにおいて副部2を構成する3本の第2強化繊維束20が、1枚の第2強化繊維束30に置き換わっている。すなわち、補強用シート1Bは、複数本(70本)の第1強化繊維束10を含む主部1と、1枚の第2強化繊維束30を含む副部3と、で構成されている。なお、補強用シート1Bの全体的な形状・寸法、および、補強用シート1Bに含まれる第1強化繊維束10の本数、ならびに、隙間13の数は、第1実施形態の補強用シート1Aと同一である。また、第1強化繊維束10および隙間13については第1実施形態の場合と同一である。
【0052】
ここで、第1実施形態との相違点として、第2強化繊維束30の幅は、第1実施形態の第2強化繊維束20の幅B12より広い200mmである。また、第1実施形態の補強用シート1Aには3本の第2強化繊維束20が含まれていたのに対して、補強用シート1Bには1枚の第2強化繊維束30が含まれている。なお、第2強化繊維束30の断面構造は、第1実施形態の第2強化繊維束20の断面構造と同一である。すなわち、
図7(C)に示すように、第2強化繊維束30は、第2強化繊維束20と同じ材質の材料からなる第2芯材31と、第2マトリックス樹脂32と、粘着部33と、を備える。また、第2強化繊維束30の長さおよび厚さも、第1実施形態の第2強化繊維束20の長さおよび厚さと同一である。
【0053】
そして、第2実施形態の補強用シート1Bでは、含まれる炭素繊維の全体的な繊維方向に直交する方向に沿って離間距離P1をおいて相互に平行に並んで配された複数本の第1強化繊維束10の上に、1枚のシート状の第2強化繊維束30が、第2強化繊維束20と同様に、全ての第1強化繊維束10にかけて接着されている。
【0054】
以上のように、補強用シート1Bは、補強用シート1Bの長手方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第1強化繊維束10を含む主部1と、含まれる炭素繊維が補強用シート1Bの幅方向に揃えられた1枚の第2強化繊維束30を含む副部3と、を備え、第2強化繊維束30は、全ての第1強化繊維束10の表面にまたがって接着されているので、主部1によって軸方向補強を行う(補強箇所の軸方向に作用する主応力に対する補強効果を発揮する)と共に、副部3によって、ねじれなどに対するせん断補強を行う(補強箇所の周方向に作用するせん断応力に対する補強効果を発揮する)ことができる。すなわち、主部1に主応力を負担させ、副部3に、せん断応力を分配する(分散させる)ことで、補強箇所に作用する応力を補強用シート1B全体で均等に面として受けることができる。
【0055】
なお、補強用シート1Bでは、第2強化繊維束30が第1強化繊維束10の長手方向の両端部を除く中央部分を覆っているが、第2強化繊維束30の第1強化繊維束10に対する接着位置はこれに限られない。例えば、第2強化繊維束30を、第1強化繊維束10の一方の端に合わせて接着してもよい。また、第2強化繊維束30の幅と、第1強化繊維束10の長さとを一致させ、第2強化繊維束30を第1強化繊維束10の両端に合わせて接着してもよい。さらに、第2強化繊維束20の本数を3本以外の本数にしてもよい。
【0056】
(第3実施形態)
次に、本発明の補強用シートの第3実施形態である補強用シート1Cについて説明する。ここでは、主に、第1実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の名称・符号を用いてその説明を省略する。
【0057】
図8、
図9(A)、
図9(B)に示すように、補強用シート1Cは、補強用シート1Aにおける主部1が、当該主部1とは異なる主部1’に置き換わっている。すなわち、補強用シート1Cは、複数本(70本)の第1強化繊維束10を含む主部1’と、3本の第2強化繊維束20を含む副部2と、で構成されている。なお、第2強化繊維束20については第1実施形態の場合と同一である。また、隣接する第2強化繊維束20と第2強化繊維束20との離間距離(隙間)も第1実施形態の場合と同一である。
【0058】
第1実施形態などとの相違点として、補強用シート1Cでは、隣接する第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間に隙間が形成されていない。すなわち、隣接する第1強化繊維束10と第1強化繊維束10とは、分離しているものの、それぞれの対向する側面で接触している。以下において、隣接する第1強化繊維束10と第1強化繊維束10とが相互に接触している箇所(面)を接触箇所14とする。なお、第1強化繊維束10は第1実施形態の場合と同一である。よって、補強用シート1Cの幅は補強用シート1A,1Bと同一であるが、補強用シート1Cの長さは、隣接する第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間に隙間13が形成されていない分、補強用シート1A,1Bより短い。また、各第2強化繊維束20の長さも、補強用シート1Cと同様に、第1強化繊維束10と第1強化繊維束10との間に隙間がない分、第1実施形態に比べて短くなっている。
【0059】
そして、第3実施形態の補強用シート1Cでは、分離している複数本の第1強化繊維束10が、含まれる炭素繊維の全体的な繊維方向に直交する方向に接触箇所14で接触した状態で並んで配されている。そして、3本の第2強化繊維束20が、第1強化繊維束10の炭素繊維の全体的な繊維方向に沿って所定間隔をおいて相互に平行に並んだ状態で、全ての第1強化繊維束10にまたがって接着している。なお、主部1’が本発明の主部を構成し、副部2が本発明の副部を構成する。また、第1強化繊維束10が本発明の本体部を構成し、接触箇所14が本発明の折曲部を構成する。
【0060】
以上のように、補強用シート1Cは、補強用シート1Cの長手方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第1強化繊維束10を含む主部1’と、補強用シート1Cの幅方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第2強化繊維束20を含む副部2と、を備え、各第2強化繊維束20は、全ての第1強化繊維束10の表面にまたがって接着されているので、主部1’によって軸方向補強を行う(補強箇所の軸方向に作用する主応力に対する補強効果を発揮する)と共に、副部2によって、ねじれなどに対するせん断補強を行う(補強箇所の周方向に作用するせん断応力に対する補強効果を発揮する)ことができる。すなわち、主部1’に主応力を負担させ、副部2に、せん断応力を分配する(分散させる)ことで、補強箇所に作用する応力を補強用シート1C全体で均等に面として受けることができる。
【0061】
なお、補強用シート1Cでは、第2強化繊維束20が第1強化繊維束10の軸方向における両端部を除いて接着されているが、第2強化繊維束20の第1強化繊維束10に対する接着位置はこれに限られない。例えば、両端に位置する第2強化繊維束20の一方または双方を、第1強化繊維束10の一方の端または双方の端に合わせて接着してもよい。また、中央に位置する第2強化繊維束20を、一方の端の第2強化繊維束20に片寄らせて配してもよい。また、何れかの第2強化繊維束20と第2強化繊維束20との隙間をなくしてもよい。さらに、第2強化繊維束20の本数を3本以外の本数にしてもよい。
【0062】
(第4実施形態)
次に、本発明の補強用シートの第4実施形態である補強用シート1Dについて説明する。ここでは、主に、第1実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の名称・符号を用いてその説明を省略する。
【0063】
図10、
図11(A)および
図11(B)に示すように、補強用シート1Dは、補強用シート1Aにおける全ての第1強化繊維束10が、当該第1強化繊維束10とは異なる第1強化繊維束50に置き換わっている。すなわち、補強用シート1Dは、複数本(70本)の第1強化繊維束50を含む主部5と、3本の第2強化繊維束20を含む副部2と、で構成されている。なお、第2強化繊維束20については第1実施形態の場合と同一である。また、隣接する第2強化繊維束20と第2強化繊維束20との離間距離(隙間)も第1実施形態の場合と同一である。
【0064】
第1実施形態との相違点として、補強用シート1Dに含まれる第1強化繊維束50は、略円形断面の棒状体からなる。第1強化繊維束50の直径(幅および厚さ)は5mmである。また、第1実施形態と同様に、隣接する第1強化繊維束50と第1強化繊維束50との間に、離間距離P4の隙間53が形成されている。この隙間の離間距離P4は2mmに設定されている。なお、補強用シート1Dに含まれる第1強化繊維束50の本数および第1強化繊維束50の長さは第1実施形態の場合と同一である。よって、補強用シート1Dの幅は補強用シート1Aと同一であるが、補強用シート1Dの長さは、第1強化繊維束50の幅および隙間53の大きさ(離間距離P4)が第1実施形態に比べて狭い分、補強用シート1Aより短い。また、各第2強化繊維束20の長さも、補強用シート1Dの長さと同様に、第1強化繊維束50の幅および隙間53の大きさ(離間距離P4)が第1実施形態に比べて狭い分、第1実施形態に比べて短くなっている。
【0065】
また、
図11(C)に示すように、第1強化繊維束50は、第1強化繊維束10と同様に、炭素繊維強化プラスチックで構成されており、全体的な繊維方向が一方向に揃って3次元的に密接して配列された多数の炭素繊維(フィラメント)からなる第1芯材51と、第1芯材51に含浸して硬化した第1マトリックス樹脂52とからなる。補強用シート1Dにおいて、第1芯材51を構成する炭素繊維の全体的な繊維方向は補強用シート1Dの幅方向(長手方向に直交する方向)と一致している。また、第1芯材51の断面と第1強化繊維束50の断面とは略一致している。すなわち、第1芯材51には、直径5mmの略円形断面となるように、直径5〜7ミクロンの炭素繊維が密集して配されている。なお、
図11(C)は第1強化繊維束50の断面構造を説明するための図であるので、その炭素繊維の本数とは一致していない。
【0066】
第1芯材51を構成する炭素繊維は、第1芯材11を構成するPAN系炭素繊維と同一のPAN系炭素繊維で構成されている。また、第1マトリックス樹脂52は、第1マトリックス樹脂12を構成する熱硬化性のエポキシ樹脂と同一のエポキシ樹脂で構成されている。よって、第1強化繊維束50の可撓性も非常に低く(剛性も非常に高く)、第1強化繊維束50もほとんど折り曲げることができない。
【0067】
そして、第4実施形態の補強用シート1Dでは、棒状の複数本の第1強化繊維束50がその軸に直交にする方向に沿って離間距離P4をおいて相互に平行に並んで配され、その上に3本の第2強化繊維束20が、第1強化繊維束50の軸方向に沿って相互に離間距離P2をおいて平行に並んだ状態で、全ての第1強化繊維束50にまたがって接着している。なお、主部5が本発明の主部を構成し、副部2が本発明の副部を構成する。また、第1強化繊維束50が本発明の本体部を構成し、隙間53が本発明の折曲部を構成する。
【0068】
以上のように、補強用シート1Dは、補強用シート1Dの長手方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第1強化繊維束50を含む主部5と、補強用シート1Dの幅方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第2強化繊維束20を含む副部2と、を備え、各第2強化繊維束20は、全ての第1強化繊維束50の表面にまたがって接着されているので、主部5によって軸方向補強を行う(補強箇所の軸方向に作用する主応力に対する補強効果を発揮する)と共に、副部2によって、ねじれなどに対するせん断補強を行う(補強箇所の周方向に作用するせん断応力に対する補強効果を発揮する)ことができる。すなわち、主部5に主応力を負担させ、副部2に、せん断応力を分配する(分散させる)ことで、補強箇所に作用する応力を補強用シート1D全体で均等に面として受けることができる。
【0069】
なお、補強用シート1Dでは、第2強化繊維束20が第1強化繊維束50の軸方向における両端部を除いて接着されているが、第2強化繊維束20の第1強化繊維束50に対する接着位置はこれに限られない。例えば、両端に位置する第2強化繊維束20の一方または双方を、第1強化繊維束50の一方の端または双方の端に合わせて接着してもよい。また、中央に位置する第2強化繊維束20を、一方の端の第2強化繊維束20に片寄らせて配してもよい。また、何れかの第2強化繊維束20と第2強化繊維束20との隙間をなくしてもよい。さらに、第2強化繊維束20の本数を3本以外の本数にしてもよい。
【0070】
(第5実施形態)
次に、本発明の補強用シートの第5実施形態である補強用シート1Eについて説明する。ここでは、主に、第1実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の名称・符号を用いてその説明を省略する。
【0071】
図12、
図13(A)および
図13(B)に示すように、補強用シート1Eは、全体的に平面視略矩形状のシート状に形成されている。補強用シート1Eの短辺方向長さL51は30cmであり、補強用シート1Eの長辺方向長さL52は1mである。
【0072】
補強用シート1Eは、平面視略矩形状の第1強化繊維シート60Sと、第1強化繊維シート60Sの一方の表面上に、その長手方向を第1強化繊維シート60Sの長辺方向に揃えて第1強化繊維シート60Sの短辺方向に沿って相互に平行に並んで配された3本のテープ状の第2強化繊維束20と、を備えている。すなわち、補強用シート1Eは、1枚の第1強化繊維シート60Sを含む主部6と、3本の第2強化繊維束20を含む副部2’と、で構成されている。なお、第2強化繊維束20の内部構造・形状・寸法、本数、隣接する第2強化繊維束20の離間距離(隙間)は第1実施形態の場合と同一である。
【0073】
第1強化繊維シート60Sは、薄い板状体からなる。具体的に、第1強化繊維シート60Sの厚さt5は2mmである。また、平面視略矩形状の第1強化繊維シート60Sの短辺方向長さおよび長辺方向長さは、補強用シート1Eの短辺方向長さL51および長辺方向長さL52に一致しており、それぞれ30cmと1mである。
【0074】
第1強化繊維シート60Sは、炭素繊維強化プラスチックで構成されており、
図13(C)に示すように、全体的な繊維方向が一方向に揃って3次元的に密接して配列された多数の炭素繊維(フィラメント)からなる第1芯材61と、第1芯材61に含浸して硬化した第1マトリックス樹脂62とからなる。第1芯材61を構成する炭素繊維の全体的な繊維方向は第1強化繊維シート60Sの短辺方向に揃っている。また、第1芯材61の断面と第1強化繊維シート60Sの断面とは略一致している。具体的には、幅L52(1m)で厚さt5(2mm)からなる略矩形断面の範囲内に、直径5〜7ミクロンの炭素繊維が密集して配されている。
【0075】
第1芯材61を構成する炭素繊維は、第1実施形態の第1芯材11などを構成するPAN系炭素繊維と同一である。また、第1マトリックス樹脂62は、第1実施形態の第1マトリックス樹脂12などを構成する熱硬化性のエポキシ樹脂と同一のエポキシ樹脂で構成されている。よって、第1強化繊維シート60Sの可撓性も非常に低く(剛性も非常に高く)、第1強化繊維シート60Sもほとんど折り曲げることができない。
【0076】
そして、第1強化繊維シート60Sの第2強化繊維束20が接着される表面と反対の表面に、第1強化繊維シート60Sの短辺方向(炭素繊維の繊維方向)に平行な複数本の切れ目63が、第1強化繊維シート60Sの長辺方向に沿って離間距離P5をおいて平行に並んで形成されている。ここでは、離間距離P5は10mmに設定されている。すなわち、第1強化繊維シート60Sの長辺方向に沿って10mmピッチで、第1強化繊維シート60Sの短辺方向に平行な切れ目63が形成されている。各切れ目63は、第1強化繊維シート60Sの短辺方向における一方の端から他方の端まで形成、すなわち、第1強化繊維シート60Sの短辺方向を横断して形成されている。また、各切れ目63は、第1強化繊維シート60Sの厚さ方向の途中まで形成されており、厚さ方向に対して貫通していない。
【0077】
このように、第1強化繊維シート60Sに含まれる炭素繊維と略同一の方向に切れ目63が形成されているので、補強用シート1Eを、切れ目63で簡単に折り曲げることができる。補強用シート1Eが切れ目63で折り曲げられると、第1強化繊維シート60Sは、その位置で分断されることになる。よって、仮に、補強用シート1Eが全ての切れ目63で折り曲げられると、補強用シート1Eは切れ目63の数の分だけ分断されることとなり、(切れ目63の本数+1)本の短冊状の板状体が生成されることとなる。そこで、この板状体の元となる第1強化繊維シート60Sの切れ目63で区切られる部分を第1強化繊維束60とする(
図13(B)、
図13(C)参照)。よって、第1強化繊維シート60Sにおいて、複数本の第1強化繊維束60が炭素繊維の繊維方向に直交する方向に相互に結合した状態で並んで配されているということができる。なお、この第1強化繊維束60は、使用時において、前述の第1強化繊維束10,50に相当する。
【0078】
なお、切れ目63は、最終的に第1強化繊維シート60Sに形成されていればよく、その形成過程は特に限定されない。例えば、切れ目63の形成されていない第1強化繊維シート60S(短辺方向長さL51、長辺方向長さL52で厚さt5からなる炭素繊維強化プラスチック)を生成した後に、工場などで所定の道具を用いて切れ目63を形成してもよい。また、炭素繊維強化プラスチックの中間材料であるプリプレグ(炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させて、マトリックス樹脂が半硬化状態のもの)に対して、切れ目63を形成してもよい。
【0079】
そして、以上のように構成される補強用シート1Eを用いて、円柱や橋桁などの構造物を補強する場合は、現場で直接、補強用シート1Eを補強対象箇所に合わせて切れ目63で折り曲げた後、第1実施形態などと同様に、第1強化繊維シート60Sに含まれる炭素繊維の全体的な繊維方向が軸方向と一致する向きで、第2強化繊維束20が設けられている表面側から接着剤で補強対象箇所に貼り付ける。
【0080】
なお、主部6が本発明の主部を構成し、副部2’が本発明の副部を構成する。また、第1強化繊維束60が本発明の本体部を構成し、切れ目63が本発明の折曲部を構成する。
【0081】
以上のように、補強用シート1Eは、補強用シート1Eの長手方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第1強化繊維束60を含む主部6と、補強用シート1Dの幅方向に沿って相互に平行に並んで配された複数本の第2強化繊維束20を含む副部2’と、を備え、各第2強化繊維束20は、全ての第1強化繊維束60の表面にまたがって接着されているので、主部6によって軸方向補強を行う(補強箇所の軸方向に作用する主応力に対する補強効果を発揮する)と共に、副部2’によって、ねじれなどに対するせん断補強を行う(補強箇所の周方向に作用するせん断応力に対する補強効果を発揮する)ことができる。すなわち、主部6に主応力を負担させ、副部2’に、せん断応力を分配する(分散させる)ことで、補強箇所に作用する応力を補強用シート1E全体で均等に面として受けることができる。
【0082】
(その他の実施形態)
以上のように、本発明の補強用シートの実施形態として補強用シート1A〜補強用シート1Eについて説明したが、本発明の補強用シートの実施形態としては補強用シート1A〜補強用シート1Eに限られない。以下に、補強用シート1A〜補強用シート1E以外の本発明の補強用シートについての実施形態(その他の実施形態)について説明する。
【0083】
補強用シート1A〜補強用シート1Eを構成する第1強化繊維束10,50,第1強化繊維シート60S(主部1,5,6)と第2強化繊維束20,30,40(副部2,2’,3)との組み合わせは、第1実施形態〜第5実施形態に限られず、寸法・形状などを適宜に変更してこれらの組み合わせを部分的に置き換えることもできる。例えば、補強用シート1Cの3本の第2強化繊維束20(副部2)に代えて、補強用シート1Bの1枚の第2強化繊維束30(副部3)を、全ての第1強化繊維束10(主部1’)の一方の表面側から、当該全ての第1強化繊維束10(主部1’)を完全に覆うように接着させても良い。また、補強用シート1Eの3本の第2強化繊維束20(副部2’)に代えて、補強用シート1Bの1枚の第2強化繊維束30(副部3)を、1枚の第1強化繊維シート60Sの切れ目63が形成されていない表面側から、当該第1強化繊維シート60S(主部6)を完全に覆うように接着させても良い。
【0084】
また、各第2強化繊維束20,30の表面全体を覆うように、ポリウレア樹脂で構成される防護シートを形成(積層)させてもよい。これにより、第2強化繊維束20,30の耐摩耗性、耐食性等が向上する。
【0085】
また、各補強用シート1A〜補強用シート1Eを構成する第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30を構成する要素は、第1実施形態〜第5実施形態に限られず適宜に設定することができる。ここで、第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30を構成する要素としては、構造,形状,寸法などの中位概念的な構成要素の他に、さらにこれらを構成する材料の種類・量、断面形状、平面視形状、幅、長さ、厚さなどの下位概念的な構成要素もある。
【0086】
例えば、第1芯材11,51,61、および、第2芯材21,31を構成する炭素繊維はPAN系炭素繊維ではなく、ピッチ系炭素繊維であってもよい。また、炭素繊維ではなく、ガラス繊維、ボロン繊維、チタン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維などの他の種類の繊維であってもよい。さらには、1種類の繊維で単独で構成されるのではなく、複数の種類の繊維によるハイブリッドで構成させてもよい。ただし、少なくとも補強対象箇所に必要な引張強度となる繊維を用いる必要がある。
【0087】
また、第1強化繊維束10,50,60(第1強化繊維シート60S)を構成する第1マトリックス樹脂12,52,62は、熱硬化性のエポキシ樹脂に限られず、フェノール樹脂,不飽和ポリエステル樹脂などの他の熱硬化性樹脂やポリアミドやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂であってもよい。また、常温硬化性樹脂であってもよい。なお、第1マトリックス樹脂12,52,62に用いる樹脂の種類は、硬化した後に第1芯材11,51,61と一体化した状態で高い剛性を有するものが望ましい。
【0088】
また、第2強化繊維束20,30を構成する第2マトリックス樹脂22,32は、第2芯材21,31を構成する炭素繊維の弾性率よりも低い弾性率であり、折り曲げることが容易な程度の可撓性(柔軟性)を有する材料であれば、木工用接着剤に限られない。また、第2マトリックス樹脂22,32を構成する材料は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレア樹脂などの常温硬化性樹脂および熱硬化性樹脂やポリエチレン、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂でもよい。
【0089】
また、第1実施形態〜第5実施形態における第1強化繊維束10,50,60の長さは適宜に設定してもよい。さらに、第1強化繊維束10,50の断面形状は、略楕円形、略正方形、略菱形、および、略六角形など適宜に設定してもよい。また、第1実施形態、第3実施形態〜第5実施形態における第2強化繊維束20の幅・断面形状は適宜に設定してもよい。
【0090】
また、第1強化繊維束10,50,60の厚さ・幅・離間距離なども、補強対象箇所に必要な軸方向強度(曲げ強度および圧縮強度)や貼り付け箇所の形状・曲率に応じて適宜に設定することができる。そして、一般的に必要とされる補強対象箇所に必要な軸方向強度(曲げ強度および圧縮強度)や想定される貼り付け箇所の形状・曲率を鑑みると、例えば、第1強化繊維束10,60の幅が12mm程度である場合、厚さを1〜2mmにし、離間距離を0.5〜3mmにすることができる。また、第1強化繊維束10,60の厚さが0.25mm程度である場合、幅を3〜5mmにし、離間距離を0.1〜0.5mmにすることができる。なお、第1強化繊維束50の直径についても、第1強化繊維束10,60と同様に、6mmに限定されず、補強対象箇所に必要な引張強度や形状などに応じて適宜に設定することができる。
【0091】
また、第2強化繊維束20,30の厚さは0.07mmであり、目付量は42g/m
2であるが、この値に限定されず、適宜に設定することができる。しかしながら、第2強化繊維束20,30によるせん断補強効果を発揮しつつ、第2強化繊維束20,30に柔軟性を持たせるために、さらには、第2マトリックス樹脂22,32を第2芯材21,31に十分に含浸させるために、第2強化繊維束20,30の厚さが0.03〜0.4mmであり、目付量が15〜260g/m
2であることが望ましい。さらに、第2強化繊維束20,30の厚さが0.05〜0.2mmであり、目付量が30〜130g/m
2であることがより望ましい。第2強化繊維束20,30の柔軟性が増し、取り扱い性および汎用性が高まるからである。また、第2マトリックス樹脂22,32の弾性率も0.01GPaに限られず、第2芯材21,31より低い範囲または高い範囲で適宜に設定することができる。しかしながら、第2強化繊維束20,30の柔軟性を高めるために、第2マトリックス樹脂22,32の弾性率は2GPa以下であることが望ましい。さらに、第2マトリックス樹脂22,32の弾性率は0.2GPa以下であることが望ましい。さらに、第2マトリックス樹脂22,32の弾性率は0.02GPa以下であることが望ましい。また、第2強化繊維束20,30の離間距離も、80mmに限られず、80mm以外に設定してもよい。例えば、第2強化繊維束20,30の離間距離を100mmに設定、すなわち、第2強化繊維束20,30を100mmで一列配置するようにしても良い。
【0092】
また、第2芯材21,31は、複数の炭素繊維束が開繊されてなるが、第2芯材21,31の生成方法は開繊に限られない。最終的に、第2マトリックス樹脂22,32を内部全体に容易に且つ十分に浸透させることができる程度の樹脂浸透性を確保できる空隙部が形成されていれば、第2芯材21,31の生成方法は限定されない。例えば、所定の厚さ且つ所定の空隙率となるよう、炭素繊維(フィラメント)を手作業又は機械などで直接引き揃えても良い。
【0093】
また、第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30を構成する要素は、各補強用シート1A〜補強用シート1Eを構成する全ての第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30について同一であるが、複数本の第1強化繊維束10,50,60、および、複数本の第2強化繊維束20,30のうちの一部または全部が異なるようにしてもよい。
【0094】
例えば、第1実施形態〜第3実施形態では、各補強用シート1A〜1Cを構成する全ての第1強化繊維束10の長さ・幅が同一であるが、全ての第1強化繊維束10のうちの一部または全部が異なるようにしてもよい。また、第1実施形態〜第4実施形態では、各補強用シート1A〜1Dを構成する全ての第1強化繊維束10,50の断面形状が同一であるが、例えば、並んでいる方向に対して、略矩形断面と略円形断面とを繰り返す、または、3つに1つは略円形断面で2つは略矩形断面などのように、一部が異なるようにしてもよい。
【0095】
また、第1実施形態および第3実施形態〜第5実施形態では、補強用シート1A,1C〜1Eを構成する全ての第2強化繊維束20の幅・断面形状が一定であるが、一部または全てが異なるようにしてもよい。例えば、第2強化繊維束20の幅の長さは、相対的に狭い幅と広い幅とを繰り返すなど一部が、または、全てが異なるようにしてもよい。また、第2強化繊維束20の断面形状は、略矩形断面と略円形断面とを繰り返すなど一部が、または、全てが異なるようにしてもよい。
【0096】
また、第1実施形態、第2実施形態および第4実施形態における隣接する第1強化繊維束10,50と第1強化繊維束10,50との隙間13、53の大きさについても適宜に設定してもよい。また、第1実施形態、第2実施形態および第4実施形態では、隣接する第1強化繊維束10,50と第1強化繊維束10,50との隙間13、53の大きさは全て同一であるが、この隙間13、53は、例えば、並んでいる方向における一方の端から狭い隙間と広い隙間とを繰り返すようにしてもよい。また、隣接する第1強化繊維束10,50と第1強化繊維束10,50との隙間13、53の大きさは全て異なっていてもよい。さらに、第1実施形態〜第4実施形態における隣接する第1強化繊維束10,50と第1強化繊維束10,50との間については、並んでいる方向における一方の端から隙間有りと隙間なしを繰り返す、または、3つに1つは隙間なしで2つは隙間有りなど、所定の規則性を持って隙間有りと隙間なしを設定してもよい。隙間有りと隙間なしとを規則性を持たせずにランダムに設定してもよい。
【0097】
また、補強用シート1A〜1Eでは、第2強化繊維束20の長手方向(第2強化繊維束20に含まれる炭素繊維の全体的な繊維方向)が、第1強化繊維束10,50,60の長手方向(炭素繊維の繊維方向)に直交しているが、第2強化繊維束20の長手方向(第2強化繊維束20に含まれる炭素繊維の全体的な繊維方向)の第1強化繊維束10,50に対する向きはこれに限られない。例えば、
図14(A)に示すように、第2強化繊維束20の長手方向(第2強化繊維束20に含まれる炭素繊維の全体的な繊維方向)が、第1強化繊維束10の長手方向(第1強化繊維束10の炭素繊維の全体的な繊維方向)に対して45度および135度交差してもよい。この場合、補強用シート1A,1C〜1Eのねじれ剛性を高めることができる。すなわち、第1強化繊維束10の長手方向に対して45度および135度交差して配された第2強化繊維束20によって、補強箇所に発生するせん断応力を補強することができる。また、補強用シート1Bでは、第2強化繊維束30に含まれる炭素繊維が、第1強化繊維束10の長手方向(第1強化繊維束10の炭素繊維の繊維方向)に直交しているが、第2強化繊維束30に含まれる炭素繊維の繊維方向が、第1強化繊維束10の長手方向(第1強化繊維束10の炭素繊維の繊維方向)に対して45度および135度交差して配向されていてもよい。この場合も、補強用シート1Bのねじれ剛性を高めることができる。すなわち、第2強化繊維束30に含まれる、第1強化繊維束10の長手方向に対して45度および135度交差して配された多数の炭素繊維によって、補強箇所に発生するせん断応力を補強することができる。なお、この第2強化繊維束20の長手方向および第2強化繊維束30に含まれる炭素繊維の繊維方向は45度および135度に限られず、適宜に設定してもよい。また、45度および135度の2方向に限られず、例えば、
図14(B)に示すように、45度、90度および135度というように3方向に設定してもよい。さらに、4方向以上に設定することもできる。
【0098】
また、補強用シート1A〜補強用シート1Eでは、第2強化繊維束20,30が、第1強化繊維束10,50,第1強化繊維シート60Sの一方の面に接着されているが、両面に接着させても良い。すなわち、副部2,2’,3を主部1,1’,5,6の両面に接着させても良い。さらに、補強用シート1A〜補強用シート1Eでは、各1本の第2強化繊維束20,30が、全ての第1強化繊維束10,50,60にわたって接着されているが、全ての第1強化繊維束10,50,60のうちの一部にわたって接着され、残りの第1強化繊維束10,50,60は別の第2強化繊維束20,30によって接着させてもよい。すなわち、補強用シート1A〜補強用シート1Eの長手方向に対して、複数本の第2強化繊維束20,30で分けて複数本の第1強化繊維束10,50,60に接着させてもよい。
【0099】
また、補強用シート1Eの主部6は、長辺方向長さが1mの1枚の第1強化繊維シート60Sで構成されているが、例えば長辺方向(第1強化繊維束60の炭素繊維の繊維方向に直交する方向)長さが25cmの第1強化繊維シート60Sを4枚、その長辺方向に隙間なく並べて構成させてもよい。この場合、各第1強化繊維シート60Sについて、第5実施形態と同様に、例えば、炭素繊維の繊維方向に直交する方向に沿って10mmピッチで、切れ目63を形成させる。すなわち、長辺方向長さが3mの1枚の第1強化繊維シート60Sを、炭素繊維の全体的な繊維方向に平行な切れ目63が、炭素繊維の繊維方向に直交する方向に所定間隔で形成された炭素繊維強化プラスチックを複数枚、炭素繊維の繊維方向に直交する方向に並べて構成させてもよい。
【0100】
また、第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30は、繊維方向が長手方向(一方向)に揃った多数の炭素繊維で構成されているが、第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30を構成する炭素繊維の繊維方向(配向方向)は複数(2方向、3方向または4方向以上)であってもよい。例えば、第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30の何れか一方または何れも、繊維方向が長手方向に平行する方向(0度方向)の多数の炭素繊維と長手方向に直交する方向(90度方向)の多数の炭素繊維で構成されていてもよい。
【0101】
また、補強用シート1A〜1Eの第2強化繊維束20,30が設けられている表面は、未使用状態において露出しているが、この面に、例えば、電解防止を防ぐための電解防止層を積層させ、さらに、その表面側に面の荒い接着層を積層させても良い。電解防止層を積層させるのは、補強対象物との接着面から水分が内部に浸入してくると、第1強化繊維束10,50,60、および、第2強化繊維束20,30に含まれる炭素繊維が劣化することから、その水分の浸入を防ぐためである。また、接着層を積層させるのは、補強対象箇所との接着力を高めるためである。ここで、電解防止層は、例えば、ガラス繊維が0度と90度の2方向で配向されるガラス繊維強化プラスチックで構成させることができる。
【0102】
また、補強用シート1A〜1Eの第2強化繊維束20,30には、両面テープに使用される粘着剤からなる粘着部23,33が含まれており、粘着部23,33で第1強化繊維束10,50,60(主部1,5,6)に接着しているが、粘着部23,33が含まれておらず、所定の接着剤で直接、第2強化繊維束20,30を第1強化繊維束10,50,60(主部1,1’,5,6)に接着して、補強用シート1A〜1Eを生成してもよい。
【0103】
また、補強用シート1A〜1Eの平面視形状・寸法も第1実施形態〜第5実施形態に限られず、適宜に設定することができる。例えば、補強用シート1A〜1Eの幅方向長さ(第1強化繊維束10などの長手方向長さ)を、30cm、50cm、1m以上などに設定することができる。また、補強用シート1A〜1Eの長手方向長さ(第2強化繊維束20などの長手方向長さ)を、1m未満または1mより長くすることができる。また、補強用シート1A〜1Eの平面視形状を、幅方向長さに対して相当長くし(例えば、5mや10mなど)、全体として帯状にしてもよい。
【0104】
また、補強用シート1A〜1Eの補強対象の設計荷重が非常に大きくなった場合、補強用シート1A〜1Eの厚さを厚くするのではなく、補強用シート1A〜1Eを必要な分だけ重ねて貼り付けることで、補強対象の補強を行う補強方法を適用することもできる。
【0105】
補強用シート1A〜1Eを貼り付ける対象、すなわち、補強用シート1A〜1Eの補強対象物は、第1実施形態などに限られない。例えば、円柱や柱以外のトラス材、ブレス材、橋脚などにも補強用シート1A〜1Eを用いて補強することができる。また、道路などに設置されている標識を設置するための円柱、電柱、鉄塔および配管などの工作物、および、ダムやビルなどの構造物にも補強用シート1A〜1Eを用いて補強することができる。また、補強用シート1A〜1Eの補強対象箇所の材質についても、コンクリートや金属などの様々な材質の構造物・工作物などに対して補強用シート1A〜1Eを用いて補強を行うことができる。このとき、補強対象箇所の材質に応じて補強用シート1A〜1Eを貼り付けるための接着剤を選択する必要がある。また、補強用シート1A〜1Eの補強対象箇所も、曲面、H型断面、および、平面に限られず、C型断面や湾曲面などの他の形状からなる面に適用することもできる。
【解決手段】繊維方向が略一方向に揃えられた多数の第1強化繊維からなる第1芯材11に第1マトリックス樹脂12が含浸して硬化し、剛性を有する複数の第1強化繊維束10が当該繊維方向に略直交する方向に並んで配された主部1と、主部1に接着し、柔軟性を有する副部2と、を備える。主部1の各隣接する第1強化繊維束10と第1強化繊維束10の間に、主部1を折り曲げるための隙間13が形成されている。副部2は、繊維方向が第1強化繊維の繊維方向に交差する方向に揃えられ、可撓性および樹脂浸透性を有する多数の第2強化繊維からなる第2芯材21に第2マトリックス樹脂22が含浸して硬化した第2強化繊維束20で構成されている。