(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係るマスク製造装置について、有機EL素子の製造工程において真空蒸着を行う際に使用されるメタルマスクを製造するメタルマスク製造装置を例に説明する。
図1は、メタルマスク製造装置を示す斜視図である。なお、以下の説明においてはXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照して説明する。XYZ直交座標系は、図に示すように、XY平面がメタルマスク製造装置を載置する水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。
【0014】
メタルマスク製造装置2には、メタルマスクフレーム34(
図2参照)をXY平面に平行になるように載置する矩形状の平板であるテーブル部6、メタルマスクフレーム34に貼付けるメタルマスクシート32(
図2参照)の測定等を行う測定部8、測定部8を±X方向にスライド可能に支持するフレーム10、フレーム10を±Y方向にスライド可能に支持する一対のガイドレール12、メタルマスクシート32に±X方向の張力を付与する張力装置13、張力装置13を±Y方向にスライド可能に支持する一対のガイドレール14、及び基台16が備えられている。なお、張力装置13は、一対のセットとして取扱われ、メタルマスクシート32の両側部に互いに向かい合うようにして配置されている。また、テーブル部6の近傍には、メタルマスクフレーム34に±X方向の押圧力を付与する一対の押し螺子60(
図7参照)が備えられている。
【0015】
図2は、実施の形態に係るメタルマスク製造装置2によって製造されるメタルマスクを示す図である。
図2に示すように、メタルマスク30は、メタルマスクシート32をメタルマスクフレーム34に貼り付けることにより製造され、有機EL素子の製造工程において有機材の真空蒸着を行う際に使用される。
【0016】
ここで、メタルマスクシート32は、一方向に長い帯状の金属薄板により構成されており、多数のスリットを備えた矩形状の開口部32aを長手方向に沿って複数有している。また、開口部32aの短辺方向の縁部に沿って、メタルマスクシート32の位置を測定する際の指標となる管理ポイント32bを複数有している。なお、メタルマスクシート32の両端部32cは、メタルマスクフレーム34に貼り付けられた後に切断される。
【0017】
また、メタルマスクフレーム34は、メタルマスクシート32を取付けるための金属製のフレームであり、中央に矩形状の開口部34aを有している。また、メタルマスクフレーム34の四隅には、後述するフレーム座標系(
図7参照)を設定する際の指標となるアラインメントマーク34bが設けられている。
【0018】
図3は、実施の形態に係るメタルマスク製造装置2の測定部8を正面から視た図である。
図3に示すように、測定部8は、メタルマスクシート32の位置を測定する測定用顕微鏡42、メタルマスクフレーム34にメタルマスクシート32を溶接する溶接用レーザ顕微鏡44、及びメタルマスクフレーム34に溶接されたメタルマスクシート32の両端部32cを切断するシートカット用レーザ顕微鏡46を備えている。
【0019】
ここで、測定用顕微鏡42は、鏡筒42aの下側の端部に所定の倍率でメタルマスクシート32を観察する対物レンズ42bを備え、鏡筒42aの上側の端部に対物レンズ42bによって観察されるメタルマスクシート32の像を撮像するカメラ42cを備えている。
【0020】
また、溶接用レーザ顕微鏡44は、溶接時にメタルマスクフレーム34を押え付けるシート押さえ機構45を鏡筒44aの下側の端部に備え、図示しない対物レンズによって観察されるメタルマスクシート32の像を撮像するカメラ44cを鏡筒44aの上側の端部に備えている。
【0021】
また、鏡筒44aの側面には、メタルマスクシート32をメタルマスクフレーム34に溶接するために図示しないレーザ発信器より出射されたレーザ光をファイバーで導き、鏡筒44aに入射させるためのレーザ入射口44dが設けられている。なお、鏡筒44aの内部には、レーザ光を反射し可視光を透過する図示しないダイクロイックミラー、またはハーフミラーが備えられている。
【0022】
また、シート押さえ機構45の側面には、メタルマスクシート32を溶接する際に必要となる窒素ガスをシート押さえ機構45内に噴入させる窒素ガス噴入部45aが備えられ、シート押さえ機構45の下側には、溶接の際にメタルマスクシート32をメタルマスクフレーム34に押付ける押付け部47が備えられている。
【0023】
また、シートカット用レーザ顕微鏡46は、側面にメタルマスクシート32の両端部32cを切断するためのレーザ光を入射するレーザ入射口46aを備えている。
【0024】
図4は、実施の形態に係るメタルマスク製造装置2のシート押さえ機構45を鉛直方向に切断した場合の断面を示す図である。ここで、シート押さえ機構45は、円筒形状の部材であり、内部に円錐台状の空洞部45bを備えている。また、シート押さえ機構45の下側の端部には、押付け部47をシート押さえ機構45に係止するための円環形状の係止溝45cが設けられている。
【0025】
ここで、押付け部47の下側の端部には、レーザ光や窒素ガスを通過させる開口部47aが形成され、押付け部47の上側には、押付け部47の外側に向かって突出する突出部47bが形成されている。
【0026】
また、係止溝45cは、所定の高さ、幅を有しており、突出部47bの外側及び上側に間隙が形成されている。このため、押付け部47は、シート押さえ機構45に取付けられたまま鉛直方向及び水平方向にフレキシブルに移動することができる。
【0027】
図5は、実施の形態に係るメタルマスク製造装置2に備えられる張力装置13を示す図である。
図5に示すように、張力装置13は、モータ13a、ボールねじ13b、及び可動部13cを備えている。ここで、モータ13aが駆動してボールねじ13bが回転すると、ナット13dが+X方向に移動し、可動部13c全体がリニアガイドレール13eに沿って+X方向に移動する。
【0028】
なお、可動部13cは、リニアガイドブロック13fを介してリニアガイドレール13eにスライド可能に支持されている。また、リニアガイドレール13eは、±X方向に延びており、メタルマスク製造装置2の所定の位置に備えられている。
【0029】
可動部13cが+X方向に移動すると、狭持部13gによって狭持されたメタルマスクシート32に張力が付与される。
【0030】
次に、
図6のフローチャートを参照して、実施の形態に係るメタルマスク製造装置2によるメタルマスクシート32の位置合わせ処理について説明する。まず、メタルマスクフレーム34がテーブル部6の所定の位置に載置されると、メタルマスク製造装置2の図示しない制御部は、
図7に示すように、押し螺子60を突出させ(ステップS1)、押し螺子60の先端部分をメタルマスクフレーム34の両側部の中央部分34cの外壁に当接させる。更に、制御部は、押し螺子60の先端部が当接位置から所定の距離開口部34aの内側に移動するまで押し螺子60を突出させ、中央部分34cを所定の距離分内側に撓ませる。
【0031】
ここで、所定の距離は、メタルマスクフレーム34に全てのメタルマスクシート32を貼り付けた場合に予想される中央部分34cの変形量に相当する距離である。なお、中央部分34cの変形量は、予め実際にメタルマスクフレーム34に全てのメタルマスクシート32を張り付けて行われたシミュレーションによって求められ、図示しない記憶部に記憶されている。
【0032】
このようにして、メタルマスクフレーム34に予め変形を加えることにより、メタルマスクシート32をメタルマスクフレーム34に貼り付ける際において、貼付の前後で、メタルマスクフレーム34が変形することを防止することができる。
【0033】
次に、制御部は、測定用顕微鏡42を移動させて、メタルマスクフレーム34の四隅に設けられたアラインメントマーク34bの像をカメラ42cにより撮像する。次に、制御部は、撮像した画像の画像データに対して所定の画像処理を施すことにより、画像内におけるアラインメントマーク34bの位置座標を求める。そして、画像内におけるアラインメントマーク34bの位置座標と、テーブル部6上におけるカメラ42cの位置座標とに基づいて、テーブル部6上におけるアラインメントマーク34bの位置座標を特定する。
【0034】
次に、制御部は、アラインメントマーク34bの位置座標に基づいて、
図7に示すように、4個のアラインメントマーク34bの中心位置を座標(0、0)とするフレーム座標系を設定する(ステップS2)。
【0035】
次に、メタルマスクシート32がテーブル部6の所定の検査位置に搬入されると、制御部は、張力装置13の挟持部13gによりメタルマスクシート32の両端部32cを挟持する。次に、張力装置13は、モータ13aを駆動させることにより可動部13cを±X方向に移動させてメタルマスクシート32に所定の張力を加え(ステップS3)、メタルマスクシート32を歪みや弛みのない平坦に張った状態にする。
【0036】
次に、制御部は、測定用顕微鏡42の位置を移動させながら、全ての管理ポイント32bについて、対物レンズ42bによって観察されるメタルマスクシート32の像をカメラ42cにより撮像し、フレーム座標系における管理ポイント32bの位置座標を特定する(ステップS4)。
【0037】
次に、制御部は、図示しない情報記憶部に記憶されているメタルマスクシート32の設計図のデータを読み出し、設計図上のメタルマスクシートをメタルマスクフレーム34に正しく取付けた場合における、設計図上のメタルマスクシートの管理ポイント(以下、設計管理ポイントという。)のフレーム座標系における位置座標を特定する。
【0038】
次に、制御部は、メタルマスクシート32の管理ポイント32bの位置座標と設計図上のメタルマスクシートの設計管理ポイントの位置座標とのズレが所定の誤差の範囲内(例えば、±5μmの範囲内)に収まるか否かを判定する(ステップS5)。
【0039】
メタルマスクシート32の管理ポイント32bの位置座標と設計図上のメタルマスクシートの設計管理ポイントの位置座標とのズレが所定の誤差の範囲内に収まる場合(ステップS5:Yes)、制御部は、一連の位置合わせ処理を終了する。一方、
図8に示すように、メタルマスクシート32の管理ポイント32bの位置座標と設計図上のメタルマスクシートの設計管理ポイントの位置座標とのズレが所定の誤差の範囲内に収まらない場合(ステップS5:No)、制御部は、メタルマスクシート32の管理ポイント32bの位置座標と設計図上のメタルマスクシートの設計管理ポイントの位置座標とが一致する位置にメタルマスクシート32を移動させる(ステップS6)。ここで、ステップS4〜S6の処理は、メタルマスクシート32の管理ポイント32bの位置座標と設計図上のメタルマスクシートの設計管理ポイントの位置座標とのズレが所定の誤差の範囲内に収まるまで繰り返して行われる。
【0040】
次に、図面を参照して実施の形態に係るメタルマスク製造装置2によるメタルマスクシート32の取付け処理について説明する。位置合わせが完了すると、制御部は、溶接用レーザ顕微鏡44の位置をメタルマスクシート32の溶接対象となる位置(以下、溶接位置という。)の直上に合わせ、溶接用レーザ顕微鏡44の下降を開始する。なお、この時点において、押付け部47は、突出部47b(
図4参照)の底面47cが係止溝45cの上面45fと係合する初期状態の位置に位置している。
【0041】
次に、溶接用レーザ顕微鏡44が所定量下降すると、押付け部47の開口部47a(
図4参照)がメタルマスクシート32に接触し、押付け部47の下降がメタルマスクシート32によって妨げられる。
【0042】
更に溶接用レーザ顕微鏡44が対物レンズの焦点位置まで下降すると、
図4に示すように、突出部47bの底面47cが係止溝45cの上面45fから外れる。このため、メタルマスクシート32は、フレキシブルに動く押付け部47の自重によって、メタルマスクフレーム34に押付けられる。
【0043】
次に、制御部は、押付け部47の自重によってメタルマスクフレーム34にメタルマスクシート32を密着させた状態で、窒素ガス噴入部45aから窒素ガスを噴入させる。ここで、空洞部45b内に噴出された窒素ガスは、開口部47aを介してメタルマスクシート32に吹き付けられる。これにより、溶接位置の近傍の酸素濃度が低下し、溶接時にメタルマスクシート32が酸化して焦げ付くことが防止される。
【0044】
次に、制御部は、窒素ガスをメタルマスクシート32に吹き付けた状態において、レーザ入射口44dから鏡筒44aにレーザ光を入射させる。入射されたレーザ光は、ダイクロイックミラーで反射された後、開口部47aを介して溶接位置を照射する。これにより、メタルマスクシート32の溶接位置がメタルマスクフレーム34に溶接される。なお、溶接位置の像はカメラ44cによって撮像されるため、撮像した画像に基づいて的確に溶接がなされているか(例えば、溶接位置に黒ずみが発生してないか等)否かをチェックすることが出来る。
【0045】
次に、制御部は、レーザ入射口46aからシートカット用レーザ顕微鏡46にレーザ光を入射させ、図示しない集光レンズによってメタルマスクシート32上にレーザ光を集光させることにより、メタルマスクシート32の両端部32c(
図2参照)を切断する。なお、両端部32cの切断は、シートカット用レーザ顕微鏡46をメタルマスクシート32上の図示しないシートカット用溝に沿って移動させながら行われる。
【0046】
以上の処理がメタルマスクフレーム34に貼り付けるメタルマスクシート32の数(
図2参照)の分繰り返されることにより、メタルマスク30が完成する。
【0047】
この実施の形態に係るメタルマスク製造装置2によれば、メタルマスクシート32の貼付けを行う前に、メタルマスクシート32に張力を付与し、メタルマスクシート32を歪みや弛みのない平坦に張った状態でメタルマスクフレーム34への貼り付け位置の位置合わせを行うため、高精度のメタルマスクを製造することができる。また、メタルマスクフレーム34を予め変形させてからメタルマスクシート32の貼付けを行うため、メタルマスクシート32の貼付け前後でメタルマスクフレーム34が変形することを防止することができ、位置合わせを行った通りに精度良くメタルマスクシート32を貼付けることができる。
【0048】
また、シート押さえ機構45によりメタルマスクフレーム34にメタルマスクシート32を密着させて溶接を行うため、メタルマスクシート32に浮き上がりのない状態で的確に溶接を行うことができる。また、通常シートの位置合わせを行なった後に強い押圧力でシートを押さえると、例えば押圧方向(Z軸)が傾いていた場合等に、位置決めしたシートの位置がズレることがあるが、本発明では、フレキシブルに動くシート押さえ機構45の自重によって溶接時のメタルマスクシート32をメタルマスクフレーム34に押さえ付けるため、このような事態を防止することができる。即ち、位置合わせを行なった後にメタルマスクシート32を押さえても、メタルマスクシート32が位置ズレすることがない。
【0049】
なお、上述の実施の形態において、
図9に示すように、複数の押し螺子60を備え、複数の押し螺子60を用いてメタルマスクフレーム34の両側部を内側に撓ませるようにしてもよい。これにより、押し螺子60によって撓ませた際のメタルマスクフレーム34の変形を、実際にメタルマスクフレーム34にメタルマスクシート32を貼りつけた際の変形に更に近づけることができる。
【0050】
また、上述の実施形態においては、加圧部として押し螺子60を用いたが、エアーシリンダーや、油圧シリンダー等の圧力化変な加圧機構を用いてもよい。また、加圧部は一対でなく片側固定でもよい。また、上述の実施形態では直線状に加圧しているが、
図10に示すようにカム機構を備えた加圧部を用いてもよい。
【0051】
また、上述の実施の形態においては、メタルマスクシート32を移動させて位置を調整する場合を例に説明しているが、テーブル部6を移動させて位置を調整するようにしてもよい。
【0052】
また、上述の実施の形態において、メタルマスクフレーム34を変形させずに全てのメタルマスクシート32を張り付けた場合に予想される変形量は、メタルマスクフレーム34の設計データ、及びメタルマスクシート32の設計データを用いて行われた理論上のシミュレーションによって算出されたものであってもよい。
【0053】
また、上述の実施の形態においては、開口部32aに多数のスリットを備えたスリットパターンのメタルマスクシート32を例に説明しているが、開口部32aにドット状に配列された多数の孔を有するドットパターンのメタルマスクシートを用いてもよい。その他、開口部32aにスリットもドットも有しない、いわゆるオープンマスクを用いてもよい。
【0054】
また、上述の実施の形態においてメタルマスクシート32の位置合わせを行う場合、必ずしも管理ポイント32b(
図2参照)の位置座標を測定する必要はない。例えば、ドットパターンのメタルマスクシート32を用いる場合、ドット状に配列された孔の位置座標を測定してメタルマスクシート32の位置合わせを行ってもよい。
【0055】
また、上述の実施の形態においては、メタルマスク30(
図2参照)が有機EL素子の製造工程において用いられる場合を例に説明しているが、メタルマスク30は、有機EL照明、半導体素子、プリント基板、液晶表示素子等の製造工程において用いられるものであってもよい。
【0056】
また、上述の実施の形態においては、窒素ガス噴入部45a(
図3参照)からシート押さえ機構45に窒素ガスが噴入される場合を例に説明しているが、キセノンガスやヘリウムガス等の他の不活性ガスが噴入されてもよい。