(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109054
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】紫外線放電管の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 47/00 20060101AFI20170327BHJP
B23K 26/046 20140101ALI20170327BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20170327BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20170327BHJP
H01J 9/36 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
H01J47/00
B23K26/04 C
B23K26/00 N
B23K26/20 310N
H01J9/36 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-257242(P2013-257242)
(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-115230(P2015-115230A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123434
【弁理士】
【氏名又は名称】田澤 英昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100173934
【弁理士】
【氏名又は名称】久米 輝代
(74)【代理人】
【識別番号】100156351
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 秀央
(72)【発明者】
【氏名】津村 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】片桐 宗和
(72)【発明者】
【氏名】松田 有紀
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−207971(JP,A)
【文献】
特開2013−196812(JP,A)
【文献】
特開昭50−152938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70、
H01J 9/36、47/00−47/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のカソード電極の表面にレーザー光を照射して裏面に当接した電極線の一端部を溶接するステップを具備する紫外線放電管の製造方法において、
集光した前記レーザー光の焦点部から光軸方向にずらした位置に前記表面を配置する
ことを特徴とする紫外線放電管の製造方法。
【請求項2】
厚さ0.1ミリメートルのタングステンからなる前記カソード電極に前記レーザー光を照射することを特徴とする請求項1記載の紫外線放電管の製造方法。
【請求項3】
前記表面における前記レーザー光のエネルギー密度を33ジュール毎平方ミリメートル以下にすることを特徴とする請求項2記載の紫外線放電管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線放電管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボディーや部品の塗装ラインの乾燥炉、アルミや亜鉛ダイキャストの溶解炉、及び金属部品の焼き入れ用の熱処理炉などの各種工業炉において、燃焼安全装置の火炎検出センサとして紫外線放電管(以下「UVチューブ」という)が用いられている。
【0003】
図8を参照して、従来のUVチューブについて説明する。
図中、1はガラスパッケージである。ガラスパッケージ1は、内部空間に特殊な混合ガスが一定圧で封入されている。また、ガラスパッケージ1の内部に、互いの面を対向させた板状のカソード電極2及びアノード電極3が設けられている。
【0004】
カソード電極2のエッジ部に、複数本の電極線4a〜4cの一端部がそれぞれレーザー溶接されている。電極線4a〜4cの他端部は、ガラスパッケージ1の外部に引き出されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
このように構成されたUVチューブ100は、2枚の電極間に0ボルト(V)〜400Vの交流電圧を印加することで、ガラスパッケージ1の外部から特定波長(185nm〜245nm)の紫外線を照射した場合のみ2枚の電極間で放電が起こる。これにより、紫外線のみを選択的に検知して反応する。
【0006】
ここで、UVチューブ100の感度波長は、カソード電極2及びアノード電極3を構成する材料の仕事関数によって決まる。そのため、カソード電極2及びアノード電極3は、感度波長が紫外線の波長(185nm〜245nm)となる仕事関数を有し、かつ放電時の発熱に耐える高い融点(約3000度)を有する金属であるタングステンで構成されている。
【0007】
また、電極線4a〜4cの材料は、ガラスパッケージ1を構成するホウ珪酸ガラスと線膨張係数を合わせる必要がある。そのため、電極線4a〜4cはコバールで構成されている。以下、電極線4a〜4cを「コバール線」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5296618号公報
【特許文献2】特開2012−207971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
UVチューブは、燃焼安全装置などに用いられることから、信頼性を確保することが重要となる。
【0010】
UVチューブの電極表面にひび割れ(以下「クラック」という)が発生すると、溶接部の接合強度が低下して信頼性が損なわれる。また、電極表面が汚染されると、放電特性が悪くなり信頼性が損なわれる。したがって、UVチューブの製造工程において、電極表面の汚染やクラックの発生を防ぐことが求められる。
【0011】
これに対し、従来のUVチューブ100の製造方法は、以下のようにレーザー溶接の工程でカソード電極2の表面にクラックが発生するのを防ぐことができなかった。
まず、
図9に示す如く、カソード電極2の裏面にコバール線4a〜4cの一端部を当接させる。次いで、
図10に示す如く、カソード電極2の表面に集光したレーザー光5を照射する。これにより、カソード電極2の一部及びコバール線4a〜4cの一端部が溶融して溶融部6a〜6cとなる。
【0012】
このように、いわゆる「突き当て溶接」を行うことで、溶接後のカソード電極2の表面にタングステン以外の材料が露出しないようにしている。
【0013】
このとき、照射したレーザー光5の熱により、カソード電極2を構成するタングステンが高温になり、タングステンの再結晶が起こる。これにより、
図11に示す如く、溶接後のカソード電極2の表面にはクラックが発生している。
【0014】
一方、
図12に示す如く、カソード電極2の表面を治具等(不図示)で支持して、裏面に当接させたコバール線4a〜4cの一端部にレーザー光5を照射する製造方法によれば、タングステンの再結晶を防ぐことができる。しかしながら、カソード電極2の表面が治具等に当接して汚染される。
【0015】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、レーザー溶接の工程においてカソード電極の表面の汚染を防ぎ、かつクラックの発生を防ぐことができるUVチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明の紫外線放電管の製造方法は、板状のカソード電極の表面にレーザー光を照射して裏面に当接した電極線の一端部を溶接するステップを具備する紫外線放電管の製造方法において、集光したレーザー光の焦点部から光軸方向にずらした位置に表面を配置するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明の紫外線放電管の製造方法によれば、レーザー溶接の工程においてカソード電極の表面の汚染を防ぎ、かつクラックの発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の実施の形態1のUVチューブの斜視図である。
【
図2】この発明の実施の形態1の溶接前のカソード電極及びコバール線をA−A’断面から見た説明図である。
【
図3】この発明の実施の形態1の溶接中のカソード電極及びコバール線をA−A’断面から見た説明図である。
【
図4】この発明の実施の形態1のレーザー光及び出射レンズを側面から見た説明図である。
【
図5】この発明の実施の形態1のz軸高さに対する照射部径及びエネルギー密度を示す特性図である。
【
図6】この発明の実施の形態1の溶接後のカソード電極の表面を上面から見た写真である。
【
図7】この発明の実施の形態1のz軸高さに対する溶接部の接合強度を示す特性図である。
【
図9】従来の溶接前のカソード電極及びコバール線をA−A’断面から見た説明図である。
【
図10】従来の溶接中のカソード電極及びコバール線をA−A’断面から見た説明図である。
【
図11】従来の溶接後のカソード電極の表面を上面から見た写真である。
【
図12】従来の他の溶接中のカソード電極及びコバール線をA−A’断面から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1を参照して、この発明の実施の形態1のUVチューブについて説明する。
図中、10は筒状のエンベロープである。エンベロープ10の上端の開口部は天板11で塞がれており、下端の開口部は台座12により支持されている。台座12には、エンベロープ10に連通した排気管13が設けられている。ホウ珪酸ガラスなどの硬質ガラスからなるエンベロープ10、天板11、台座12及び排気管13によって、ガラスパッケージが構成されている。このガラスパッケージの内部空間に、特殊な混合ガスが一定圧で封入されている。
【0020】
ガラスパッケージの内部には、互いの面を対向させた円板状のカソード電極14及びアノード電極15が設けられている。ここで、カソード電極14及びアノード電極15を構成するタングステンは層状の構造となっている。また、アノード電極15は、断面が矩形状の貫通孔を面方向に沿って複数配列した網板状になっている。
【0021】
カソード電極14のエッジ部(周端部)に、鉄、ニッケル及びコバルトの合金(コバール)からなる3本の電極線(以下「コバール線」という)16a〜16cの一端部がそれぞれレーザー溶接されている。コバール線16a〜16cの他端部は、台座12を貫通してガラスパッケージの外部にそれぞれ引き出されている。
【0022】
アノード電極15のエッジ部(周端部)に、断面が円形状の3つの貫通孔17a〜17cが設けられている。貫通孔17a〜17cに、コバール線18a〜18cの一端部がそれぞれレーザー溶接されている。コバール線18a〜18cの他端部は、台座12を貫通してガラスパッケージの外部にそれぞれ引き出されている。
【0023】
このようにして構成されたUVチューブ(紫外線放電管)101の製造方法について、カソード電極14にコバール線16a〜16cをレーザー溶接する工程を中心に説明する。
まず、
図2に示す如く、カソード電極14の裏面19にコバール線16a〜16cの一端部を当接させる。次いで、
図3に示す如く、カソード電極14の表面20にレーザー光21を照射する。これにより、カソード電極14の一部及びコバール線16a〜16cの一端部が溶融して溶融部22a〜22cとなる。
【0024】
このとき、集光したレーザー光21の焦点部から、光軸方向に所定距離ずらした位置にカソード電極14の表面20を配置する。これにより、表面20におけるレーザー光21の直径がレーザー光21の焦点部の直径よりも大きくなり、表面20におけるレーザー光21のエネルギー密度がレーザー光21の焦点部のエネルギー密度よりも低くなる。その結果、カソード電極14を構成するタングステンの再結晶を抑制して、クラックの発生を防ぐことができる。
【0025】
図4は、この実施の形態1の溶接中のレーザー光及び出射レンズを側面から見た説明図である。図中、z軸はレーザー光21の焦点部23を基準とする光軸方向の高さ[ミリメートル(mm)]を示している。また、z軸と直交するx軸は、レーザー光21,24,25及び出射レンズ26の直径[mm]を示している。
【0026】
まず、図示しない光源が平行光のレーザー光25を照射する。光源は、ランプ電圧を253ボルト(V)に設定し、レーザー出力を15.9ジュール(J)に設定する。
【0027】
次いで、出射レンズ26がレーザー光25を集光する。出射レンズ26は、焦点距離fが100mmで、中央部の直径d
Lが26mmの凸レンズを用いる。
【0028】
ここで、出射レンズ26により集光したレーザー光21の焦点部23から、z軸方向に+4mmずらした位置にカソード電極14の表面20を配置する。このように、集光したレーザー光21の焦点部23から光軸方向にずらした位置に表面20を配置することを、以下「アウトフォーカス」するという。また、焦点部23を基準とする光軸方向の表面20の高さZを、以下「z軸高さ」という。
【0029】
図4に示す如く、焦点部23から光軸方向に±2.3mm離れた位置におけるレーザー光21の直径(以下「ビームウェスト径」という)d
Wは0.6mmとなる。これに対し、z軸高さZを+4mmとした表面20におけるレーザー光21の直径(以下「照射部径」という)d
Iは1.04mmとなる。
【0030】
図5は、z軸高さZに対する照射部径d
Iの値を示す折れ線グラフと、z軸高さZに対する表面20におけるレーザー光21のエネルギー密度E[ジュール毎平方ミリメートル(J/mm
2)]の値を示す棒グラフである。
図5から明らかなように、z軸高さZが0mm〜+2mmの範囲においては、照射部径d
Iは0.6mmで一定であり、エネルギー密度Eは56J/mm
2で一定である。これに対し、z軸高さZを+3mmにすると、照射部径d
Iは0.78mmに拡大し、エネルギー密度Eは33J/mm
2に低下する。以下、z軸高さZの値を大きくするにつれて、照射部径d
Iが拡大し、エネルギー密度Eは低下する。
【0031】
以上のように、レーザー光21の焦点部23からカソード電極14の表面20をアウトフォーカスすることで、表面20におけるレーザー光21の照射部径d
Iが拡大して、エネルギー密度Eが低下する。その結果、カソード電極14を構成するタングステンの再結晶を抑制して、クラックの発生を防ぐことができる。
【0032】
なお、z軸高さZを−3mm以下としても、同様にエネルギー密度Eを低下させることができる。しかしながら、焦点部23で交差した後のレーザー光25にはぼやけが生じる。そのため、z軸高さZを+3mm以上として、焦点部23で交差する前のレーザー光21をカソード電極14に照射するのが好適である。
【0033】
図6及び
図7を参照して、この実施の形態1の製造方法で製造されたUVチューブ101の効果について説明する。
図6は、z軸高さZを+4mmとして、厚さ0.1mmのタングステンからなるカソード電極14にレーザー光21を照射した場合の、カソード電極14の溶接部の表面20を示す写真である。
図6から明らかなように、表面20におけるエネルギー密度Eを低下させることで、タングステンの再結晶によるクラックの発生を防ぐことができている。
【0034】
図7は、z軸高さZを0mm〜+5mmとして、厚さ0.1mmのタングステンからなるカソード電極14にレーザー光21を照射した場合の、複数個(n個)のUVチューブ101の溶接部の接合強度P[ニュートン(N)]の最小値、最大値及び平均値を示す棒グラフである。
図7から明らかなように、z軸高さZが0mm〜+2mmの範囲においては、接合強度Pの平均値は90N〜100Nとなっている。これに対し、z軸高さZを+3mm以上とすると、接合強度Pの平均値は120N〜130Nとなっている。
【0035】
以上のように、この実施の形態1のUVチューブ101の製造方法は、カソード電極14にコバール線16a〜16cをレーザー溶接する工程において、レーザー光21の焦点部23からカソード電極14の表面20をアウトフォーカスする。これにより、表面20におけるレーザー光21の照射部径d
Iが拡大して、エネルギー密度Eが低下する。
その結果、カソード電極の表面にクラックが発生するのを防ぎ、溶接部の接合強度を高くすることができる。また、カソード電極の表面が治具等に当接せず、カソード電極の表面が汚染されるのを防ぐことができる。
【0036】
なお、実施の形態1におけるカソード電極の厚さ0.1mmの値は、多少の誤差を許容する値である。最大で厚さ0.2mmのカソード電極であっても、実施の形態1と同様にクラックの発生を防ぐことができる。
【0037】
また、光源の設定や出射レンズ26の形状は、
図4に示すものに限定されない。表面20におけるエネルギー密度Eを、カソード電極14の厚さに応じてクラックが発生しない程度に低下させることができるものであれば、任意の構成のものを用いて良い。
【0038】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 ガラスパッケージ
2 カソード電極
3 アノード電極
4a〜4c コバール線(電極線)
5 レーザー光
6a〜6c 溶融部
10 エンベロープ
11 天板
12 台座
13 排気管
14 カソード電極
15 アノード電極
16a〜16c コバール線(電極線)
17a〜17c 貫通孔
18a〜18c コバール線(電極線)
19 裏面
20 表面
21,24,25 レーザー光
22a〜22c 溶融部
23 焦点部
26 出射レンズ
100,101 UVチューブ(紫外線放電管)