(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定位置に配置されたプローブを用いて超音波の反射波の振幅測定を実行可能であって該振幅測定の結果に基づいて座標に対応付けられた複数の振幅データからなるマップデータを作成可能なフェイズドアレイ超音波探傷装置を用いた耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法において、
前記フェイズドアレイ超音波探傷装置を検査対象の耐熱部材の溶接部に適用した場合に得られる振幅データと前記検査対象の耐熱部材の溶接部の余寿命に関係する余寿命パラメータとの対応関係を求める予備工程と、
前記検査対象の耐熱部材の溶接部に前記フェイズドアレイ超音波探傷装置を適用してマップデータを取得する実測工程と、
前記予備工程で求められた対応関係、及び、前記実測工程で取得されたマップデータに含まれる振幅データに基づいて、前記検査対象の耐熱部材の溶接部の余寿命に関係する余寿命パラメータを求める解析工程とを備え、
前記実測工程は、
前記検査対象の溶接部の溶接線に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置に前記プローブを順次配置し、複数の一時マップデータを取得する第1走査工程と、
前記第1走査工程で取得された前記複数の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより前記実測工程で取得されるマップデータを生成する第1合成工程と、
前記フェイズドアレイ超音波探傷装置の感度を前記第1走査工程における感度とは異なる値に調整する工程と、
前記検査対象の耐熱部材の溶接部の溶接線に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置に、前記感度が調整されたフェイズドアレイ超音波探傷装置のプローブを順次配置し、複数の補正用の一時マップデータを取得する工程と、
前記複数の補正用の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより補正用のマップデータを合成する工程と、
前記第1合成工程で生成されたマップデータと前記補正用のマップデータとの差を演算することにより前記第1合成工程で生成されたマップデータを補正する工程と
を含み、
前記解析工程において、前記補正されたマップデータを用いて余寿命パラメータが求められる
ことを特徴とする耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法。
前記標準試料の厚さ又は直径に基づいて、前記第1走査工程において前記フェイズドアレイ超音波探傷装置のプローブを移動させる距離を決定する移動距離決定工程を更に備える
ことを特徴とする請求項2に記載の耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェイズドアレイ超音波探傷装置によって測定される反射波の振幅は、同一の傷からの反射波の振幅であっても、フェイズドアレイ超音波探傷装置からの超音波の入射角度によって微妙に変化する。
このため、特許文献1に記載の金属材料の損傷評価方法において、クリープボイド個数密度と反射波の振幅との関係を求めるために使用される反射波の振幅や、検査対象の耐熱鋼管について測定された反射波の振幅が、入射角度に依存する誤差を含んでしまう。この結果として、求められる余寿命についても誤差を含んだものとなってしまう。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、耐熱部材の溶接部の余寿命に関係する余寿命パラメータを正確に求めることができる耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法は、
測定位置に配置されたプローブを用いて超音波の反射波の振幅測定を実行可能であって該振幅測定の結果に基づいて座標に対応付けられた複数の振幅データからなるマップデータを作成可能なフェイズドアレイ超音波探傷装置を用いた耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法において、
前記フェイズドアレイ超音波探傷装置を検査対象の耐熱部材の溶接部に適用した場合に得られる振幅データと前記検査対象の耐熱部材の溶接部の余寿命に関係する余寿命パラメータとの対応関係を求める予備工程と、
前記検査対象の耐熱部材の溶接部に前記フェイズドアレイ超音波探傷装置を適用してマップデータを取得する実測工程と、
前記予備工程で求められた対応関係、及び、前記実測工程で取得されたマップデータに含まれる振幅データに基づいて、前記検査対象の耐熱部材の溶接部の余寿命に関係する余寿命パラメータを求める解析工程とを備え、
前記実測工程は、
前記検査対象の溶接部の溶接線に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置に前記プローブを順次配置し、複数の一時マップデータを取得する第1走査工程と、
前記第1走査工程で取得された前記複数の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより前記実測工程で取得されるマップデータを生成する第1合成工程と
を含む。
【0009】
検査対象の任意の領域(反射領域)にクリープボイドやクラック等のクリープ損傷が存在する場合、クリープ損傷によって生じる超音波の反射波の振幅(エコー高さ)は、クリープ損傷に対する超音波の入射角度で変化する。
そこで、上述の構成では、実測工程に含まれる第1走査工程において、複数の測定位置でプローブを用いて反射波の振幅が測定される。これは、同一の反射領域について、複数の入射角度で反射波の振幅を測定することに相当する。このようにして測定された反射波の振幅データのうち最大の反射波の振幅データを抽出することで、入射角度に依存する反射波の振幅データの誤差が抑制される。この結果、正確な反射波の振幅データを用いて余寿命パラメータを求めることができ、余寿命パラメータを正確に検査することができる。
【0010】
幾つかの実施形態では、
前記予備工程は、
溶接部を有する複数の標準試料についてクリープ試験を行い、余寿命パラメータの相違する溶接部を有する複数の標準試料を用意する工程と、
前記用意された複数の標準試料の溶接部における余寿命パラメータとクリープボイド個数密度との対応関係を求める工程と、
前記検査対象の耐熱部材の溶接部のうちから代表的な溶接部を選択する工程と、
前記代表的な溶接部に前記フェイズドアレイ超音波探傷装置を適用してマップデータを取得する代表溶接部実測工程と、
前記代表的な溶接部におけるクリープボイド個数密度を測定する工程と、
前記代表的な溶接部のマップデータに含まれる振幅データと前記代表的な溶接部のクリープボイド個数密度との対応関係を求める工程と、
前記余寿命パラメータとクリープボイド個数密度との対応関係、及び、前記振幅データとクリープボイド個数密度との対応関係に基づいて、前記振幅データと余寿命パラメータとの対応関係を求める工程と
を含む。
【0011】
この構成によれば、クリープ試験に供された標準試料を用いることで、余寿命パラメータとクリープボイド個数密度との対応関係を正確に求めることができる。そして、検査対象から選択された代表的な溶接部を用いることで、振幅データとクリープボイド個数密度との対応関係を正確に求めることができる。これらの結果、余寿命パラメータとクリープボイド個数密度との正確な対応関係と、振幅データとクリープボイド個数密度との正確な対応関係に基づいて、振幅データと余寿命パラメータとの対応関係を正確に求めることができ、余寿命パラメータを正確に求めることができる。
【0012】
幾つかの実施形態では、
前記代表溶接部実測工程は、
前記代表的な溶接部の溶接線に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置に前記プローブを順次配置し、複数の一時マップデータを取得する第2走査工程と、
前記第2走査工程で取得された前記複数の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより前記実測工程で取得されるマップデータを生成する第2合成工程と
を有する。
【0013】
この構成によれば、代表的な溶接部についても、複数の測定位置でプローブを用いて反射波の振幅が測定される。これは、同一の反射領域について、複数の入射角度で反射波の振幅を測定することに相当する。このようにして測定された反射波の振幅データのうち最大の反射波の振幅データを抽出することで、入射角度に依存する反射波の振幅データの誤差が抑制される。この結果、正確な反射波の振幅データを用いて、振幅データとクリープボイド個数密度との対応関係を正確に求めることができ、ひいては余寿命パラメータを正確に検査することができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、
前記経路の位置を前記耐熱部材の溶接部の溶接線に沿う方向に変更し、前記実測工程及び前記解析工程を繰り返し実行する。
この構成によれば、検査対象の耐熱部材の溶接部の全域に渡って、余寿命パラメータを正確に検査することができる。
【0015】
幾つかの実施形態では、
前記経路は矩形波形状を有する。
【0016】
幾つかの実施形態では、
耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法は、
前記標準試料の厚さ又は直径に基づいて、前記第1走査工程において前記フェイズドアレイ超音波探傷装置のプローブを移動させる距離を決定する移動距離決定工程を更に備える。
【0017】
クリープ試験では、標準試料の厚さ又は直径に相当する長さのクラックが発生すると標準試料が破断して寿命が尽きる。このため、標準試料の厚さ又は直径に相当する長さを有するクリープ損傷の存在を、検査対象の耐熱部材の溶接部において正確に把握することは重要である。
この点につき、この構成では、標準試料の厚さ又は直径に基づいて、第1走査工程においてフェイズドアレイ超音波探傷装置のプローブを移動させる距離を決定することで、標準試料の厚さ又は直径に相当する長さを有するクリープ損傷の存在を正確に把握することを可能にしている。
【0018】
幾つかの実施形態では、
耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法は、
前記検査対象の耐熱部材の溶接部における熱影響部の位置を確認する熱影響部確認工程を更に備え、
前記解析工程において、前記実測工程で取得されたマップデータに含まれる振幅データのうち、前記熱影響部確認工程で確認された熱影響部の座標に対応する振幅データについて前記余寿命パラメータが求められる。
【0019】
耐熱部材の内部で溶接熱影響部の細粒域に生じたクリープ損傷は成長しやすく、耐熱部材の寿命に大きな影響を与える。一方、耐熱部材の内部での熱影響部の位置は、外観からでは判断が困難である。この点、この構成によれば、熱影響部の座標に対応する振幅データを用いて余寿命パラメータを求めることで、耐熱部材の余寿命を正確に検査することができる。
また、クリープボイドの寸法は小さく、クリープボイドからの反射波と、母材や溶金中に普通に存在する析出物の偏析等からの反射波との区別が難しいという問題がある。この点、クリープ損傷によるクリープボイドは、溶接熱影響部に沿って発生、増加及び進展するため、反射源が溶接熱影響部に沿っているか否かで、反射源がクリープ損傷かそれ以外のものかを判定することができる。
しかしながら、熱影響部の位置を、設計図にて指定されていた当初の開先面の位置から推定することは困難である。なぜならば、溶接時における開先面近傍の母材の溶融等によって、開先形状が変化するからである。そのため、設計図に記載された開先形状と反射源の位置を照らし合わせてクリープ損傷か否かを判断すると、熱影響部の位置を見誤ることがある。そしてこの結果、クリープ損傷によるものではない通常の溶接検査で合格となるような溶接欠陥があっても、該溶接欠陥をクリープ損傷の進んだボイド密集と判断してしまう可能性がある。
この点、上述した構成によれば、クリープ損傷が発生する熱影響部の位置を特定した上で、熱影響部に対応する振幅データに基づいて余寿命パラメータを判定することで、クリープ損傷に対応する反射波に基づいて耐熱部材の余寿命を正確に検査することができる。
【0020】
幾つかの実施形態では、
前記フェイズドアレイ超音波探傷装置による反射波の測定において、周波数が10MHz以上の横波の超音波又は周波数が20MHz以上の縦波の超音波が用いられる。
【0021】
微小なクリープボイドを検出するには、超音波の波長を短くする必要がある一方で、波長が短くなると超音波の減衰が大きくなってしまうという問題がある。この点、この構成によれば、周波数が10MHz以上の横波の超音波又は周波数が20MHz以上の縦波の超音波を用いることで、微小なクリープボイドの存在を反射波の振幅データに基づいて的確に検出することができる。この結果として、検査対象の耐熱部材の溶接部の余寿命パラメータを正確に求めることができる。
【0022】
幾つかの実施形態では、
前記実測工程は、
前記フェイズドアレイ超音波探傷装置の感度を前記第1走査工程における感度とは異なる値に調整する工程と、
前記検査対象の耐熱部材の溶接部の溶接線に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置に、前記感度が調整されたフェイズドアレイ超音波探傷装置のプローブを順次配置し、複数の補正用の一時マップデータを取得する工程と、
前記複数の補正用の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより補正用のマップデータを合成する工程と、
前記補正用のマップデータを利用して、前記第1合成工程で生成されたマップデータを補正する工程と
を更に有し、
前記解析工程において、前記補正されたマップデータを用いて余寿命パラメータが求められる。
【0023】
電気的ノイズに由来する振幅データは、感度を変えたとしても、感度に比例して変化することはない。このため、上述した構成のように感度を変えて反射波の振幅データを測定して比較すれば、任意の座標に対応づけられた振幅データが電気的ノイズに由来するものであるか否かを判定することができる。そして、電気的ノイズに由来する反射波の振幅データを除外すれば、余寿命パラメータをより正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、耐熱部材の溶接部の余寿命に関係する余寿命パラメータを正確に求めることができる耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0027】
図1は、本発明の少なくとも一実施形態に係る耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法(以下、単に余寿命検査方法ともいう)の概略的な手順を示すフローチャートである。
図2は、
図1中の実測工程の概略的な手順を示すフローチャートである。
図3は、
図1の余寿命検査方法が適用される検査対象の耐熱鋼管10の一部の断面と、
図1の余寿命検査方法に用いられるフェイズドアレイ超音波探傷装置(以下、単に探傷装置ともいう)12の構成を概略的に示す図である。
【0028】
耐熱鋼管10は、例えばボイラに使用される蒸気管であり、第1の管14aと第2の管14bが、溶接部16を介して接続されている。第1の管14a及び第2の管14bは、例えば、クロムを9〜12質量%程度含有する高クロム鋼や、高クロム鋼と類似組織を有しクロムを2〜3質量%程度含有する高強度低合金鋼からなる。
【0029】
溶接部16は、環形状を有し、溶金18と、溶金18の両側の熱影響部20とからなる。熱影響部20には、長期間に亘る高温での使用によってクリープボイドが発生する。クリープボイドは長時間の使用によってその数が増加し、隣接するクリープボイド同士が繋がってクラックとなる。そして、クラックは徐々に成長し、最終的には溶接部16を厚さ方向に貫通して、内部流体のリークが発生する。このため、ボイラ等の運用においては、耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命検査を適確に行う必要がある。
【0030】
探傷装置12は、探傷装置本体22と、探傷装置本体22と電気的に接続されたプローブ24とを有する。
探傷装置本体22は、例えばコンピュータによって構成される。
プローブ24は、一列に配列された複数の振動素子26からなるアレイ素子28を有する。各振動素子26は圧電素子からなり、電気信号が加えられることによって振動して超音波を出射し、超音波が入射したときに超音波の振幅に対応する電気信号を出力するように構成されている。超音波の出射角度は、圧電素子に加える電気信号の位相を調整することによって制御可能である。
【0031】
プローブ24は、耐熱鋼管10の表面の測定位置に配置され、探傷装置本体22は、プローブ24を用いて、超音波の反射波の振幅を測定可能である。そして、探傷装置本体22は、振幅の測定結果に基づいて、座標に対応付けられた複数の振幅データからなるマップデータを作成可能である。
【0032】
図1に示したように、余寿命検査方法は、予備工程S10と、実測工程S12と、解析工程S14とを有する。
予備工程S10では、探傷装置12を検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16に適用した場合に得られる振幅データと検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命に関係する余寿命パラメータPrとの対応関係が求められる。
なお、余寿命とは、現時点から溶接部16がクリープ損傷により破断するまでの時間であるが、余寿命パラメータPrは、溶接部16の余寿命に関係する値を表すものであればよく、全寿命に対し現時点までに経過した時間の割合を示す寿命消費率であってもよい。また、余寿命パラメータPrは、クリープ損傷の程度を表すものであってもよく、クリープボイド個数密度であってもよい。
【0033】
実測工程S12では、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16に探傷装置12を適用してマップデータが取得される。
解析工程S14では、予備工程S10で求められた対応関係、及び、実測工程S12で取得されたマップデータに含まれる振幅データに基づいて、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命に関係する余寿命パラメータPrが求められる。
【0034】
そして
図2に示したように、サブルーチンとしての実測工程S12は、第1走査工程S20と、第1合成工程S22とを含む。
図4は、第1走査工程S20を説明するための図であり、
図5は、任意の一つの測定位置に配置されたプローブ24を用いて得られる一つの一時マップデータを概略的に示す図である。一時マップデータは、座標に対応付けられた複数の振幅データからなり、
図5では、振幅データの大きさ(エコー高さ)がグラデーションで表現されている。
【0035】
図4に示したように、第1走査工程S20では、検査対象の溶接部16の溶接線29に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置にプローブ24が順次配置され、複数の測定位置に対応して複数の一時マップデータが取得される。
なお、溶接線29は溶接部16の延在方向(長手方向)に沿って延びている。検査対象が耐熱鋼管10の溶接部16である場合、溶接線29は耐熱鋼管10の周方向に延びており、溶接線29に直交する方向は、耐熱鋼管10の軸線方向に延びている。
【0036】
第1合成工程S22では、第1走査工程S20で取得された複数の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより、実測工程S12で取得されるマップデータが生成される。
具体的には、
図4に示したように、測定位置が近い場合、複数の一時マップデータ間で座標が重なる。したがって、複数の一時マップデータを取得した場合、同一の座標に対応付けられた複数の振幅データが存在することになる。これらの複数の振幅データのうち最大値が、該座標に対応するものとして抽出される。そして、全ての座標の各々について振幅データの最大値が抽出され、抽出された最大値を組み合わせて、実測工程S12で取得されるべき一つのマップデータが生成される。かくして生成されたマップデータが解析工程S14に供され、余寿命パラメータPrが求められる。
【0037】
検査対象の任意の領域(反射領域)にクリープボイドやクラック等のクリープ損傷が存在する場合、クリープ損傷によって生じる超音波の反射波の振幅(エコー高さ)は、クリープ損傷に対する超音波の入射角度で変化する。
そこで、上述の構成では、実測工程S12に含まれる第1走査工程S20において、複数の測定位置でプローブ24を用いて反射波の振幅が測定される。これは、同一の反射領域について、複数の入射角度で反射波の振幅を測定することに相当する。このようにして測定された反射波の振幅データのうち最大の反射波の振幅データを抽出することで、入射角度に依存する反射波の振幅データの誤差が抑制される。この結果、正確な反射波の振幅データを用いて余寿命パラメータPrを求めることができ、余寿命パラメータPrを正確に検査することができる。
【0038】
図6は、幾つかの実施形態に係る予備工程S10の概略的な手順を示すフローチャートである。
サブルーチンとしての予備工程S10は、
図6に示したように、標準試料準備工程S30、Pr−ρv対応関係取得工程S32、代表溶接部選択工程S34、代表溶接部実測工程S36、代表溶接部ρv測定工程S38、振幅−ρv対応関係取得工程S40、及び、振幅−Pr対応関係取得工程S42を含む。
【0039】
標準試料準備工程S30では、例えば
図7に示す形状を有する、溶接部30をそれぞれ有する複数の標準試料32が用意される。各標準試料32は、第1の円柱部34aと第2の円柱部34bを有し、第1の円柱部34aと第2の円柱部34bが溶接部30を介して相互に接続されている。第1の円柱部34a及び第2の円柱部34bの直径は例えば6mmである。第1の円柱部34aと第2の円柱部34bは、検査対象の耐熱鋼管10の第1の管14a及び第2の管14bと同じ材料からなる。また、標準試料32の溶接部30は、溶金36と、溶金36の両側の熱影響部38とからなる。
【0040】
そして、標準試料準備工程S30では、溶接部30を有する複数の標準試料32が、所定の引張強度での高温クリープ試験に供される。高温クリープ試験は何回かに分けて中断され、その都度幾つかの標準試料32が抜き取られる。これにより、余寿命パラメータPrの相違する溶接部30を有する複数の標準試料32が用意される。
なお例えば、抜き取りは、破断時間の20%、40%、60%、及び、80%に相当する時間で行われる。
【0041】
Pr−ρv対応関係取得工程S32では、用意された複数の標準試料32の溶接部30における余寿命パラメータPrとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係が求められる。
図8は、Pr−ρv対応関係取得工程S32で求められる余寿命パラメータPrとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を表す第1マスターカーブを概略的に示すグラフである。なお、
図8では、余寿命パラメータPrは寿命消費率である。
【0042】
代表溶接部選択工程S34では、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16のうちから代表的な溶接部16が選択される。代表的な溶接部16は、探傷装置12によってクリープ損傷を検出可能なものであればよい。代表的な溶接部16の数は特に限定されることはないが、複数の代表的な溶接部16を選択してもよい。
【0043】
代表溶接部実測工程S36では、代表的な溶接部16に探傷装置12を適用してマップデータが取得される。
【0044】
代表溶接部ρv測定工程S38では、代表的な溶接部16におけるクリープボイド個数密度ρvが測定される。このクリープボイド個数密度ρvの測定は、代表溶接部実測工程S36において、クリープ損傷が検出された座標にて実施される。クリープボイド個数密度ρvの測定は、異なる座標で複数回行われてもよい。例えばクリープボイド個数密度ρvの測定は、標準試料32を切断して断面を研磨し、研磨された断面の金属組織を観察することにより行われる。
【0045】
振幅−ρv対応関係取得工程S40では、代表溶接部実測工程S36で取得された代表的な溶接部16のマップデータに含まれる振幅データと、代表溶接部ρv測定工程S38で測定された代表的な溶接部16のクリープボイド個数密度ρvあるいはクリープ損傷の程度との対応関係が求められる。
図9は、振幅−ρv対応関係取得工程S40で求められる振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を表す第2マスターカーブを概略的に示すグラフである。
【0046】
振幅−Pr対応関係取得工程S42では、Pr−ρv対応関係取得工程S32で取得された余寿命パラメータPrとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係、及び、振幅−ρv対応関係取得工程S40で取得された振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係に基づいて、振幅データと余寿命パラメータPrとの対応関係が求められる。
図10は、振幅−Pr対応関係取得工程S42で求められる振幅データと余寿命パラメータPrとの対応関係を表す第3マスターカーブを概略的に示すグラフである。なお、
図10では、余寿命パラメータPrは寿命消費率である。
【0047】
上述した構成によれば、クリープ試験に供された標準試料32を用いることで、余寿命パラメータPrとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を正確に求めることができる。そして、検査対象の耐熱鋼管10から選択された代表的な溶接部16を用いることで、振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を正確に求めることができる。これらの結果、余寿命パラメータPrとクリープボイド個数密度ρvとの正確な対応関係と、振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの正確な対応関係に基づいて、振幅データと余寿命パラメータPrとの対応関係を正確に求めることができ、余寿命パラメータPrを正確に求めることができる。
【0048】
図11は、幾つかの実施形態に係る
図6中の代表溶接部実測工程S36の概略的な手順を示すフローチャートである。
幾つかの実施形態では、予備工程S10に含まれる代表溶接部実測工程S36は、第2走査工程S50と、第2合成工程S52とを含む。
【0049】
第2走査工程S50では、選択された代表的な溶接部16の溶接線29に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置にプローブ24が順次配置され、複数の測定位置に対応して複数の一時マップデータが取得される。
第2合成工程S52では、第2走査工程S50で取得された複数の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより代表溶接部実測工程S36で取得されるマップデータが生成される。
【0050】
上述した構成によれば、検査対象の耐熱鋼管10の代表的な溶接部16についても、複数の測定位置でプローブ24を用いて反射波の振幅が測定される。これは、同一の反射領域について、複数の入射角度で反射波の振幅を測定することに相当する。このようにして測定された反射波の振幅データのうち最大の反射波の振幅データを抽出することで、入射角度に依存する反射波の振幅データの誤差が抑制される。この結果、正確な反射波の振幅データを用いて、振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を正確に求めることができ、ひいては余寿命パラメータPrを正確に検査することができる。
【0051】
図12は、幾つかの実施形態に係る実測工程S12の概略的な手順を示すフローチャートである。
図13は、
図12の実測工程S12を説明するための図である。
幾つかの実施形態では、経路の位置を耐熱鋼管10の溶接部16の溶接線29に沿う方向に変更し、複数の経路について、実測工程S12及び解析工程S14が繰り返し実行される。そのために
図13に示したように、第1合成工程S22の終了後に、全経路について第1走査工程S20が実行されたか否か判定され(S60)、判定結果がいいえの場合、経路変更工程S62が実行され、経路が変更される。経路変更工程S62を実行することで、プローブ24は、例えば
図13中の一点鎖線40に沿って移動させられる。つまり、経路が、二軸に沿った矩形波形状を有する。
この構成によれば、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16の全域に渡って、余寿命パラメータPrを正確に検査することができる。
【0052】
図14は、幾つかの実施形態に係る実測工程S12の概略的な手順を示すフローチャートである。
図15は、
図14の実測工程S12を説明するための図である。
幾つかの実施形態では、実測工程S12は移動距離決定工程S70を更に有する。移動距離決定工程S70では、標準試料32の厚さ又は直径に基づいて、第1走査工程S20において探傷装置12のプローブ24を移動させる距離が決定される。
【0053】
図15に示したように、プローブ24からの超音波の出射角度がθであり、プローブ24の移動距離(走査距離)がLである場合、検査対象の溶接部16の深さ方向において、同一の入射角度で検査可能な検査範囲の長さをtとすると、次式(1)及び(2)が成立する。
t=(tanθ)/L・・・(1)
L=t*tanθ ・・・(2)
が成立する。
そこで、本実施形態では、標準試料32の厚さ又は直径がDであるとき、t=Dとして、次式(3)が成立するように、移動距離Lが設定される。
L=D*tanθ ・・・(3)
【0054】
クリープ試験では、標準試料32の厚さ又は直径に相当する長さのクラックが発生すると標準試料32が破断して寿命が尽きる。このため、標準試料32の厚さ又は直径に相当する長さを有するクリープ損傷の存在を、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16において正確に把握することは重要である。
この点につき、この構成では、標準試料32の厚さ又は直径に基づいて、第1走査工程S20において探傷装置12のプローブ24を移動させる距離を決定することで、標準試料32の厚さ又は直径に相当する長さを有するクリープ損傷の存在を正確に把握することを可能にしている。
【0055】
図16は、幾つかの実施形態に係る耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命検査方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
図17は、
図16に含まれる熱影響部確認工程を説明するための図である。
【0056】
図16に示したように、幾つかの実施形態では、耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命検査方法は、熱影響部確認工程S80を更に有している。
熱影響部確認工程S80では、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16における熱影響部20の位置が確認される。例えば、通常の超音波探傷装置を用いて、
図17に示したように検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16の断面像を取得することにより、熱影響部20の位置(座標)を確認することができる。
そして、解析工程S14では、実測工程S12で取得されたマップデータに含まれる振幅データのうち、熱影響部確認工程S80で確認された熱影響部20の座標に対応する振幅データについて余寿命パラメータPrが求められる。
【0057】
耐熱鋼管10の内部で溶接の熱影響部20の細粒域に生じたクリープ損傷は成長しやすく、耐熱鋼管10の寿命に大きな影響を与える。一方、耐熱鋼管10の内部での熱影響部20の位置は、外観からでは判断が困難である。この点、この構成によれば、熱影響部20の座標に対応する振幅データを用いて余寿命パラメータPrを求めることで、耐熱鋼管10の余寿命を正確に検査することができる。
【0058】
また、クリープボイドの寸法は小さく、クリープボイドからの反射波と、母材(第1の管14a、第2の管14b)や溶金18中に普通に存在する析出物の偏析等からの反射波との区別が難しいという問題がある。この点、クリープ損傷によるクリープボイドは、溶接熱影響部20に沿って発生、増加及び進展するため、反射源が溶接熱影響部20に沿っているか否かで、反射源がクリープ損傷かそれ以外のものかを判定することができる。
【0059】
しかしながら、熱影響部20の位置を、設計図にて指定されていた当初の開先面の位置から推定することは困難である。なぜならば、溶接時における開先面近傍の母材の溶融等によって、開先形状が変化するからである。そのため、設計図に記載された開先形状と反射源の位置を照らし合わせてクリープ損傷か否かを判断すると、熱影響部20の位置を見誤ることがある。そしてこの結果、クリープ損傷によるものではない通常の溶接検査で合格となるような溶接欠陥があっても、該溶接欠陥をクリープ損傷の進んだボイド密集と判断してしまう可能性がある。
この点、上述した構成によれば、クリープ損傷が発生する熱影響部20の位置を特定した上で、熱影響部20に対応する振幅データに基づいて余寿命パラメータを判定することで、クリープ損傷に対応する反射波に基づいて耐熱部材の余寿命を正確に検査することができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、探傷装置12による反射波の測定において、周波数が10MHz以上の横波の超音波又は周波数が20MHz以上の縦波の超音波が用いられる。
【0061】
微小なクリープボイドを検出するには、超音波の波長を短くする必要がある一方で、波長が短くなると超音波の減衰が大きくなってしまうという問題がある。この点、この構成によれば、周波数が10MHz以上の横波の超音波又は周波数が20MHz以上の縦波の超音波を用いることで、微小なクリープボイドの存在を反射波の振幅データに基づいて的確に検出することができる。この結果として、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命パラメータPrを正確に求めることができる。
【0062】
図18は、幾つかの実施形態に係る耐熱鋼管10の溶接部16の余寿命検査方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
図19は、
図18の余寿命検査方法を説明するための図である。
図18に示したように、幾つかの実施形態では、実測工程S12は、感度調整工程S90と、補正用一時マップデータ取得工程S92と、補正用マップデータ合成工程S94と、マップデータ補正工程S96とを有する。そして、解析工程S14において、マップデータ補正工程S96で補正されたマップデータを用いて余寿命パラメータが求められる。
【0063】
より詳しくは、感度調整工程S90では、探傷装置12の感度が第1走査工程S20における感度とは異なる値に調整される。
補正用一時マップデータ取得工程S92では、検査対象の耐熱鋼管10の溶接部16の溶接線29に対し直交する方向に沿って延びる経路上の複数の測定位置に、感度が調整された探傷装置12のプローブ24を順次配置し、複数の測定位置に対応して複数の補正用の一時マップデータが取得される。
【0064】
補正用マップデータ合成工程S94では、補正用一時マップデータ取得工程S92で取得された複数の補正用の一時マップデータに含まれる複数の振幅データから、座標毎に最大の振幅データを抽出して組み合わせることにより補正用のマップデータが合成される。
マップデータ補正工程S96では、補正用マップデータ合成工程S94で合成された補正用のマップデータを利用して、第1合成工程S22で生成されたマップデータが補正される。
【0065】
ここで、
図19の(a)は、通常の感度で測定された反射波の振幅の時間変化を示すグラフであり、(b)は、感度を例えば2倍(+6dB)にして測定された反射波の振幅の時間変化を示すグラフであり、(c)は、(b)の振幅を1/2倍(―6dB)して得られるグラフであり、(d)は、(a)から(c)を差し引いて得られるグラフである。
【0066】
電気的ノイズに由来する振幅データは、
図19(b)のように感度を変えたとしても、感度に比例して変化することはない。このため、上述した構成のように感度を変えて反射波の振幅データを測定して比較すれば、任意の座標に対応づけられた振幅データが電気的ノイズに由来するものであるか否かを判定することができる。そして、電気的ノイズに由来する反射波の振幅データを除外すれば、余寿命パラメータPrをより正確に求めることができる。
【0067】
本発明は上述した幾つかの実施形態に限定されることはなく、上述した幾つかの実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した幾つかの実施形態では、検査対象の耐熱鋼管10の代表的な溶接部16に探傷装置12を適用し、振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を求めたが、標準試料32の形状等によっては、標準試料32に探傷装置12を適用し、振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を求めてもよい。すなわち、標準試料32に対し探傷装置12を適用してマップデータを測定するとともにクリープボイド個数密度ρvの測定を行い、振幅データとクリープボイド個数密度ρvとの対応関係を求めてもよい。
【0068】
最後に、本発明の耐熱部材の溶接部の余寿命検査方法は、耐熱鋼管10以外の耐熱部材にも適用可能である。