(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
PrP-resの存在を検出する段階が、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、側方流動アッセイ法、SOPHIA (Surround optical fiber immunoassay)またはウエスタンブロット法を含む、請求項19〜24のいずれか一項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
いくつかの態様の詳細な説明
本明細書において開示される方法は、数ある中でも、血液、血液画分、血液製剤、尿、鼻腔液、唾液、脳脊髄液、糞便、筋生検、リンパ系組織、皮膚サンプル、移植のための組織のサンプルを含む、いくつかの生体サンプルにおけるプリオン汚染、診断および/または監視のための試験を可能にする。これらの方法は、医学的および獣医学的用途を有し、また、生物工学製品ならびに環境サンプル(水、土壌、植物、埋め立てごみ、下水のような)および農業サンプル(動物に基づく食品、動物に基づく飼料および栄養補助食品、動物の老廃物、副産物、死骸、食肉処理場からの廃棄物、特定危険部位のような)を検査するために用いて、プリオンによる汚染がないことを確実にすることができる。本開示の方法はまた、ウシ、ヒツジおよびシカにおけるような、プリオンを含まない群れ/集団の認証のために用いることもできる。本明細書において開示される方法はまた、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病を検出するために用いることもできる。
【0029】
現在、TSE感染性の検出のための最も直接的なかつ信頼性のあるアッセイ法は、動物バイオアッセイ法である。感染性の定量化は、エンドポイント(Stamp et al., 1959)または限界希釈バイオアッセイ法(Gregori et al., 2004)によって達成することができる。プリオン因子および宿主種のいくつかの組み合わせで、感染価と疾患潜伏期との間の強い相関関係が実験げっ歯類において確立されており、潜伏期を用いて、感染性のレベルを測定することを可能にしている(Hunter et al., 1963; Prusiner et al., 1982)。これらのバイオアッセイ法の不都合は、それらが動物集約的であり、多くの時間を要し、費用のかかることである。ある種のネズミ適応スクレイピー株の場合、細胞培養に基づく標準スクレイピー細胞アッセイ法(standard scrapie cell assay; SSCA)を用いて、エンドポイントおよび限界希釈法により感染性レベルを測定することもできる(Klohn et al., 2003)。SSCAは動物バイオアッセイ法に比べていくつかの利点をもたらすが、しかしそれでもなお、実施するのに数週間を要し、少数のマウス適応スクレイピー株に限られている。類似の、シカプリオンに対する細胞に基づくアッセイ法(cell-based assay for cervid prions; CPCAと指定されている)も報告されている(Bian et al., J Virol, 84, 8322-8326, 2010)。動物バイオアッセイ法、SSCAおよびCPCAの限界は、プリオンの定量化のためのもっと実践的なアッセイ法が必要とされることを意味している。
【0030】
プリオンの検出のためのいくつかの高感度インビトロ法が報告されている(Atarashi et al., Nat Methods, 4, 645-650, 2007; Atarashi et al., Nat Methods, 5, 211-212, 2008; Bieschke et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 97, 5468-5473, 2000; Chang et al., J Virol Methods, 159, 15-222009; Colby et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 104, 9741-9746, 2007; Fujihara et al., FEBS J, 276, 2841-2848, 2009; Orru et al., Protein Eng Des Sel, 22, 515-521, 2009; Rubenstein et al., J Gen Virol, 91, 1883-1892, 2010; Saa et al., Science, 313, 92-94, 2006a; Saa et al., J Biol Chem, 281, 35245-35252, 2006b; Terry et al., J Virol, 83, 12552-12558, 2009; Trieschmann et al., BMC Biotechnol, 5, 26, 2005; Wilham et al., PLoS Pathog, 6, e1001217, 2010)。蛍光相関分光法を用いて、蛍光的にタグ付けされた抗体で処理した脳脊髄液(CSF)サンプル中のフェムトモル濃度のPrP-res凝集体を検出することができる(Bieschke et al., supra, 2000)。蛍光的に標識された組み換えPrP
C (rPrP
C)の、合成プリオンタンパク質凝集体への結合がFACS分析によるその超高感度検出を可能にし、類似の手法がいくつかのBSE感染牛および非感染牛の血清の識別を可能にした(Trieschmann et al., 2005)。タンパク質ミスフォールディングサイクル増幅(PMCA)反応を用いて脳由来PrP
Cを基質として用い複数ラウンドの超音波処理反応にて、わずか1 agのPrP-resを検出することができる(Saa et al., 前記, 2006b)。周囲光ファイバー免疫アッセイ法(Surround optical fiber immunoassay; SOPHIA)と呼ばれる高感度の蛍光検出技法との限定連続PMCAのカップリングにより、わずか10 agのPrP-resのさらに迅速な検出および非感染血液サンプルと対比してプリオン感染サンプルの識別が可能になる(Chang et al., supra, 2009;Rubenstein et al., . J Gen Virol, 91, 1883-1892, 2010)。
【0031】
PMCAアッセイ法の速さおよび実用性はまた、rPrP
C (Atarashi et al., 前記, 2007)の使用により、およびクエイキング誘導変換(
quaking-
induced
conversion; QuIC)反応(Atarashi et al., 前記, 2008; Orru et al., 前記, 2009)について記述されている超音波処理段階に代えて振盪を用いることにより改善されている。標準的
QuIC (
standard
QuIC;「SQ」とも呼ばれる)アッセイ法は、1日のうちにハムスター脳ホモジネート(BH)中のフェムトグラム未満の量の(1大脳内致死量未満の) PrP-resを検出することができる。プリオン検出のためのSQの有効性は、CSF (Atarashi et al., 前記, 2008;Orru et al., 前記, 2009)または鼻洗浄液(Bessen et al., PLoS Pathogens, 6, e1000837, 2010)のサンプル2 μlを用いて正常ハムスターとプリオン感染ハムスターとを識別するその能力によって実証された。SQ反応の適合によって、ヒト組織中の変種CJD (vCJD)およびヒツジ組織中のスクレイピーの高感度検出がもたらされた(Orru et al., 前記, 2009)。
【0032】
SQおよびPMCAアッセイ法の読み出しは、免疫ブロッティングによる特異的プロテアーゼ耐性プリオンシードrPrP産物の検出であり、これを自動高速大量処理の形式に適合させることは困難である。代替の、かつ潜在的にさらに高速大量処理の手法がアミロイドシーディング・アッセイ(ASA)法に用いられており、ここではrPrP
C重合のプリオンシーディングを検出するため、蛍光色素チオフラビンT (ThT)が用いられた(参照により本明細書に組み入れられるColby et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 104, 20914-20919, 2007)。ASA法はまた、プロテアーゼ感受性の病原プリオンを検出することができ、プリオン病の神経病理学的兆候と98%の相関を有する(Colby et al., PLoS Pathog, 6, e1000736, 2010)。しかしながら、潜在的に混乱をもたらすASA法の局面は、プリオンシード反応の誘導期のおよそ2倍以内での(プリオンによるシーディングなしでの) rPrP原線維の頻繁な自発的形成である(Colby et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 104, 20914-20919, 2007)。自発的な原線維形成の問題は、SQアッセイ法のいくつかの局面(断続的な振盪、rPrP
C調製、サンプル調製およびカオトロピック塩の欠如)と、ASA法のものなどの蛍光ThTの読み出しとを組み合わせた、別のプリオンシードrPrP
C重合アッセイ法、つまりリアルタイム(RT)-QuIC (RTQとも呼ばれる; 例えば、Wilham et al., PLoS Pathog, 6, e1001217, 2010を参照されたく、これは、そのアッセイ法について記述しており、参照により本明細書に組み入れられる)において大いに低減される。
【0033】
最近まで、PMCA法、SQ法、RTQ法およびASA法の主な制約は、プリオン定量化の欠如であった。Chenおよびその仲間らは、定量PMCA (qPMCA)と呼ばれる方法について報告しており、ここでは陽性応答に必要なPMCAラウンド数によってPrP
Sc含量が推定される(Chen et al., Nat Methods, 7, 519-520, 2010)。つい最近、エンドポイント希釈滴定を用いた、異なる手法が、インビトロでのプリオンシーディング・アッセイ法で相対的なプリオン定量を行うための方法としてRTQとともに記述された(Wilham et al., 前記, 2010)。さらに、プリオンシーディング活性がプリオン感染ハムスターの鼻腔液およびCSFにおいて測定された。したがって、エンドポイント希釈分析とともに、RTQは、動物バイオアッセイ法の感度に匹敵する感度で、しかし大幅に減少した時間および費用で相対プリオン濃度を迅速に判定することができる。
【0034】
本記述の方法は、SQおよびRTQのようなプリオンシーディング/増幅アッセイ法の感度および適用性を、一つには、それらを新規のプリオン/PrP-res/PrP
Sc免疫沈降および処理プロトコルと一体化させることにより、実質的に改善する。これらの方法は、強力なプリオン阻害因子を含有しうる、血漿などの複雑な生体標本を含めて、さまざまな体液または組織抽出物中の、極端に低いレベルのプリオンの捕捉および検出を可能にする。
【0035】
用語
特に断りのない限り、技術用語は、慣例的用法にしたがって用いられる。分子生物学における一般的な用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes V, Oxford University Press出版, 1994 (ISBN 0-19-854287-9); Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, Blackwell Science Ltd.出版, 1994 (ISBN 0-632-02182-9); およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, VCH Publishers, Inc.出版, 1995 (ISBN 1-56081-569-8)のなかで見出されうる。
【0036】
本開示のさまざまな態様の概説を容易とするために、特定の用語の以下の説明を提供する。
【0037】
凝集体:
プリオンタンパク質の二量体、多量体および重合体のような、結合している2つ以上の分子、例えばPrP-resまたはrPrP-res
(Sc)の凝集体、二量体、多量体および重合体。
【0038】
撹拌:
例えば超音波処理、かき混ぜまたは振盪によって、混合物または反応混合物の中に任意のタイプの乱流または動きを導入すること。いくつかの態様において、撹拌には、rPrP-res
(Sc)凝集体および/または重合体を分散させてさらなる増幅を容易とする、rPrP-res
(Sc)凝集体を断片化するのに十分な力の使用が含まれる。ある例では、断片化は完全な断片化を含むが、他の例では、断片化は部分的にすぎず、例えば、凝集体の集団は撹拌によっておよそ1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%断片化されうる。例示的な撹拌法は以下の実施例の項に記述されている。
【0039】
抗体:
抗原のエピトープまたはその断片を特異的に認識かつ結合する少なくとも軽鎖または重鎖免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドリガンド。抗体はPrP-res/PrP
Scを特異的に結合することができる。抗体は重鎖および軽鎖から構成されることができ、重鎖および軽鎖の各々が、可変重鎖(V
H)領域および可変軽鎖(V
L)領域と呼ばれる、可変領域を有する。ともに、V
H領域およびV
L領域は、抗体によって認識された抗原を結合するのに関与する。
【0040】
抗体という用語は、インタクトな免疫グロブリンならびに当技術分野において周知のそれらの変種および部分、例えばFab'断片、F(ab)'
2断片、単鎖Fvタンパク質(「scFv」)およびジスルフィド安定化型Fvタンパク質(「dsFv」)を含む。scFvタンパク質は免疫グロブリンの軽鎖可変領域および免疫グロブリンの重鎖可変領域をリンカーによって結合した融合タンパク質であり、dsFvにおいては、鎖の結合を安定化させるために鎖を変異させてジスルフィド結合を導入している。この用語はまた、遺伝子操作された形態、例えばキメラ抗体(例えばヒト化抗体)、ヘテロ結合体抗体(例えば二重特異性抗体)を含む。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995 (Pierce Chemical Co., Rockford, IL); Kuby, J., Immunology, 3
rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York, 1997も参照されたい。
【0041】
典型的には、天然の免疫グロブリンは、ジスルフィド結合によって相互に連結された重(H)鎖および軽(L)鎖を有する。軽鎖には二つのタイプ、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)がある。抗体分子の機能的活性を決定する主要な重鎖には5つのクラス(またはアイソタイプ): IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEがある。
【0042】
各々の重鎖および軽鎖は、定常領域および可変領域を含む(これらの領域は「ドメイン」としても公知である)。重鎖および軽鎖の可変領域は一組で抗原に特異的に結合する。軽鎖および重鎖の可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる、3つの超可変領域で分断された「フレームワーク」領域を含む。フレームワーク領域およびCDRの範囲は規定されている(参照により本明細書に組み入れられるKabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Department of Health and Human Services, 1991を参照のこと)。Kabatデータベースは現在もオンラインで運営されている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種のなかで比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわちその構成要素である軽鎖および重鎖の総フレームワーク領域は、三次元空間においてCDRを配置およびアラインメントさせる働きをする。
【0043】
CDRは主として、抗原のエピトープへの結合を担う。各々の鎖のCDRは典型的には、N末端側から順番に番号を付され、CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、また典型的には特定のCDRが位置する鎖によって識別される。したがって、V
H CDR3は、それが発見された抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、V
L CDR1はそれが発見された抗体の軽鎖の可変ドメイン由来のCDR1である。関心対象の抗原に結合する抗体は、特有のV
H領域配列およびV
L領域配列を有する、つまり特有のCDR配列を有する。異なる特異性(異なる抗原に対する異なる結合部位による)を有する抗体は、異なるCDRを有する。CDRは抗体によって異なるが、CDR内の限られた数のアミノ酸位置のみが抗原結合に直接的に関与する。CDR内のこれらの位置は、特異性決定残基(SDR)と呼ばれる。
【0044】
「V
H」または「VH」に対する言及は、Fv、scFv、dsFvまたはFabの可変領域を含む、免疫グロブリン重鎖の可変領域をいう。「V
L」または「VL」に対する言及は、Fv、scFv、dsFvまたはFabの可変領域を含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域をいう。
【0045】
「モノクローナル抗体」は、単一のBリンパ球クローンにより、または単一の抗体の軽鎖および重鎖の遺伝子をトランスフェクトされた細胞もしくはその子孫細胞により産生される抗体である。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法によって、例えば骨髄腫細胞と免疫脾細胞との融合によりハイブリッド抗体形成細胞を作製することによって産生される。モノクローナル抗体にはヒト化モノクローナル抗体が含まれる。
【0046】
抗体結合親和性:
PrP-resのような、抗原に対する抗体の親和性。1つの態様において、親和性は、Frankel et al., Mol. Immunol., 16: 101-106, 1979に記述されている改定版スキャッチャード法により算出される。別の態様において、結合親和性は、抗原/抗体解離速度により測定される。さらに別の態様において、高い結合親和性は、競合放射免疫アッセイ法により測定される。いくつかの例において、高い結合親和性は、少なくともおよそ1×10
-8 Mである。他の態様において、高い結合親和性は、少なくともおよそ1.5×10
-8 M、少なくともおよそ2.0×10
-8 M、少なくともおよそ2.5×10
-8 M、少なくともおよそ3.0×10
-8 M、少なくともおよそ3.5×10
-8 M、少なくともおよそ4.0×10
-8 M、少なくともおよそ4.5×10
-8 Mまたは少なくともおよそ5.0×10
-8 Mである。
【0047】
抗原:
動物へ注射または吸収される組成物を含めて、動物でのT細胞応答または抗体産生を刺激できる化合物、組成物または物質。抗原は、異種免疫原によって誘導されるものを含めて、特異的な体液性または細胞性免疫の産物と反応する。「抗原」という用語は、関連する全ての抗原エピトープを含む。「エピトープ」または「抗原決定基」は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位をいう。1つの態様において、T細胞は、エピトープがMHC分子とともに提示される場合、エピトープに応答する。エピトープは、連続的なアミノ酸またはタンパク質の三次構造の折り畳みによって並列配置される非連続なアミノ酸の両方から形成されることができる。連続的なアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒へ曝露しても維持されるが、三次構造の折り畳みによって形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒を用いた処理で失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3個、より一般的には、少なくとも5個、およそ9個または8〜10個のアミノ酸を固有の空間構造中に含む。エピトープの空間構造を判定する方法は、例えば、X線結晶学および2次元核磁気共鳴を含む。抗原は組織特異抗原、または疾患特異抗原、例えばPrP-resであることができる。これらの用語は、組織特異抗原が疾患特異抗原であってもよいので、排他的ではない。
【0048】
保存的変種:
プリオンタンパク質との関連において、類似の生化学的特性を有するアミノ酸に代えて1つまたはいくつかのアミノ酸を用いること(いわゆる保存的置換)でのみ別のアミノ酸配列と異なるペプチドまたはアミノ酸配列をいう。保存的アミノ酸置換は、得られるタンパク質の活性に対してわずかな影響しか及ぼさない可能性がある。保存的置換に関するさらなる情報は、例えば、Ben Bassatら(J. Bacteriol., 169:751-757, 1987)、O'Reganら(Gene, 77:237-251, 1989)、Sahin-Tothら(Protein Sci., 3:240-247, 1994)、Hochuliら(Bio/Technology, 6: 1321-1325, 1988)のなかで、ならびに遺伝学および分子生物学の広く用いられているテキストブックのなかで見出すことができる。ある例では、プリオンタンパク質変種は、最大で1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、30個、45個、またはそれ以上の保存的アミノ酸変化を有することができる。
【0049】
1つの例では、保存的変種プリオンタンパク質は、類似の基本成分のように実質的に機能を果たすもの、例えば、参照プリオンタンパク質と比べて配列の変化を有するプリオンタンパク質である。例えば、プリオンタンパク質またはそのプリオンタンパク質の保存的変種は、例えばPrP-res (またはPrP
Sc)と凝集し、rPrP
CをrPrP-res
(Sc)に変換するであろう(またはrPrP-res
(Sc)に変換されるであろう)。この例では、プリオンタンパク質および保存的変種プリオンタンパク質は、同じアミノ酸配列を持たない。保存的変種は、例えば、対応するプリオンタンパク質に依然として相補的である限り、配列における1つの変化、2つの変化、3つの変化、4つの変化、または5つもしくはそれ以上の変化を有することができる。
【0050】
いくつかの態様において、保存的変種プリオンタンパク質は、それが導出されたプリオンタンパク質と比べて1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を含み、それにもかかわらず、プリオンタンパク質の生物学的活性を保持する。例えば、保存的変種プリオンタンパク質は、それが導出された親プリオンタンパク質分子の生物学的活性の少なくとも10%、またはあるいは、少なくとも20%、少なくとも30%、または少なくとも40%を保持することができる。いくつかの好ましい態様において、保存的変種プリオンタンパク質は、それが導出された親プリオンタンパク質分子の生物学的活性の少なくとも50%を保持する。保存的変種プリオンタンパク質の保存的アミノ酸置換は、プリオンタンパク質のいずれのドメインで行われてもよい。
【0051】
接触させること:
「接触させること」は溶液中および固相中で、例えばPrP-resに特異的に結合する抗体などの、特異的な結合剤とサンプルを接触させることを含む。
【0052】
検出するのに十分な条件:
所望の活性を可能にする任意の環境、例えば、抗体をPrP-resのような、抗原に結合させること、およびその相互作用を検出することを可能にする任意の環境。例えば、そのような条件は適切な温度、緩衝溶液、およびデジタル画像装置のような検出手段を含む。
【0053】
検出する:
作用物質(シグナルまたはタンパク質、例えばPrP-resのような)が存在するかまたは存在しないかを判定すること。ある例では、これは定量化、例えばサンプル、例えば血清サンプル、またはサンプルの画分中のPrP-resの量の定量化をさらに含むことができる。
【0054】
診断的:
非限定的に、クロイツフェルト・ヤコブ病におけるような、PrP-resの存在を特定することなどの、病的状態の存在または性質を特定すること。診断方法はその感度および特異性が異なる。診断アッセイ法の「感度」は、検査で陽性と出る罹患個体の割合(真の陽性の比率)である。診断アッセイ法の「特異性」は1マイナス偽陽性率であり、その際、偽陽性率は検査では陽性と出る病気ではない者の比率として定義される。特定の診断方法は状態の確定診断を与えないこともあるが、その方法が診断に役立つ肯定的な暗示を与えるなら事足りる。「予後」は、病的状態の発生(例えば重症度)の可能性である。
【0055】
脱凝集する:
PrP-resまたはrPrP-res
(Sc)の凝集体のような、凝集体を部分的にまたは完全にバラバラにすること。
【0056】
コードする:
第1の分子または配列とは異なる第2の分子または配列の産生を指令するために重合体巨大分子または配列中の情報が用いられる任意のプロセス。本明細書において用いられる場合、この用語は広義に解釈され、種々の用途を有することができる。いくつかの局面において、「コードする」という用語は、新たに合成された相補的姉妹鎖をDNA依存性DNAポリメラーゼによりコードさせるための鋳型として二本鎖DNA分子の一方の鎖を用いる半保存的DNA複製プロセスを記述する。
【0057】
別の局面において、「コードする」という用語は、第1の分子とは異なる化学的性質を有する第2の分子の産生を指令するために、ある分子中の情報が用いられる任意のプロセスをいう。例えば、DNA分子は(例えば、DNA依存性RNAポリメラーゼ酵素を組み入れた転写プロセスにより) RNA分子をコードすることができる。また、RNA分子は翻訳プロセスのように、ペプチドをコードすることもできる。翻訳プロセスを記述するために用いられる場合、「コードする」という用語は、アミノ酸をコードするトリプレットコドンにまで及ぶ。いくつかの局面において、RNA分子は、例えば、RNA依存性DNAポリメラーゼを組み入れた逆転写プロセスにより、DNA分子をコードすることができる。別の局面において、DNA分子はペプチドをコードすることができ、ここでその場合に用いられる「コードする」とは転写および翻訳のプロセスの両方を包含するものと理解される。
【0058】
フルオロフォア:
限定された波長の光のような、特定の刺激への曝露によって励起される場合、例えば、異なる波長(より長い波長の光のような)で、光を放出する(蛍光を発する)化合物。フルオロフォアは、比較的大きなクラスの発光化合物の一部である。発光化合物は、冷光を発するのに特定の波長の光を必要とするのではなく、化学エネルギー源を用いる化学発光分子を含む。それゆえ、化学発光分子(エクオリンのような)を用いることで、レーザーのような、外部の電磁放射源の必要性をなくすことができる。
【0059】
数ある中でも、4-アセトアミド-4'-イソチオシアナトスチルベン-2,2'ジスルホン酸、アクリジンおよび誘導体、例えばアクリジンおよびアクリジンイソチオシアネート、5-(2'-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)、4-アミノ-N-[3-ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド-3,5 ジスルホン酸(ルシファーイエローVS)、N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド、アントラニルアミド、ブリリアントイエロー、クマリンおよび誘導体、例えばクマリン、7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(クマリン151); シアノシン; 4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI); 5',5''-ジブロモピロガロール-スルホンフタレイン(ブロモピロガロールレッド); 7-ジエチルアミノ-3-(4'-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン; ジエチレントリアミンペンタアセテート; 4,4'-ジイソチオシアナトジヒドロ-スチルベン-2,2'-ジスルホン酸; 4,4'-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2'-ジスルホン酸; 5-[ジメチルアミノ]ナフタレン-1-スルホニルクロリド(DNS、ダンシルクロリド); 4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4'-イソチオシアネート(DABITC); エオシンおよび誘導体、例えばエオシンおよびエオシンイソチオシアネート; エリスロシンおよび誘導体、例えばエリスロシンBおよびエリスロシンイソチオシアネート; エチジウム; フルオレセインおよび誘導体、例えば5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、5-(4,6-ジクロロトリアジン-2-イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2'7'-ジメトキシ-4'5'-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、およびQFITC (XRITC); フルオレスカミン; IR144; IR1446; マラカイトグリーンイソチオシアネート; 4-メチルウンベリフェロン; オルトクレゾールフタレイン; ニトロチロシン; パラローズアニリン; フェノールレッド; B-フィコエリトリン; o-フタルジアルデヒド; ピレンおよび誘導体、例えばピレン、ピレン酪酸および1-ピレン酪酸スクシンイミジル; Reactive Red 4 (Cibacron(商標) Brilliant Red 3B-A); ローダミンおよび誘導体、例えば6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシローダミン(R6G)、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、ローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、スルホローダミンB、スルホローダミン101およびスルホローダミン101のスルホニルクロリド誘導体(テキサスレッド(Texas Red)); N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA); テトラメチルローダミン; テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC); リボフラビン; ロゾール酸およびテルビウムキレート誘導体; LightCycler Red 640; Cy5.5; ならびにCy56-カルボキシフルオレセイン; 5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM); ホウ素ジピロメテンジフルオリド(BODIPY); N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA); アクリジン、スチルベン、-6-カルボキシ-フルオレセイン(HEX)、TET (テトラメチルフルオレセイン)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、テキサスレッド(Texas Red)、2',7'-ジメトキシ-4',5'-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、Cy3、Cy5、VIC(登録商標) (Applied Biosystems)、LC Red 640、LC Red 705、ヤキマイエロー(Yakima yellow)のような、PrP
Scに特異的に結合する抗体に付着されうる特定のフルオロフォアの例が、Nazarenkoらの米国特許第5,866,366号のなかで提供されている。
【0060】
他の適当なフルオロフォアには当業者に公知のもの、例えばMolecular Probes (Eugene, OR)から入手可能なものが含まれる。特定の例では、フルオロフォアはドナーフルオロフォアとしてまたはアクセプタフルオロフォアとして用いられる。ある例では、フルオロフォアは検出可能な標識、例えば抗体に付着された検出可能な標識である。
【0061】
免疫アッセイ法:
抗体とその同種抗原との反応、例えば抗体とPrP-resのような、タンパク質との特異的結合を用いて、生体サンプル、例えば対象から得た血清サンプルのような、サンプル中の物質の存在または濃度を測定する生化学的検査。抗原の存在も、存在する抗原の量も測定することができる。ある例では、PrP-resの量が測定される。
【0062】
免疫沈降(IP):
タンパク質抗原を、その特定のタンパク質に特異的に結合する抗体またはペプチドを用いて溶液から沈降させる技法。これらの溶液は、多くの場合、動物組織の粗溶解物の形態であろう。他のサンプルタイプは体液または生体由来の他のサンプルでありうる。一般的に、IPでは抗体またはペプチドは、手順のうちのどこかの時点で固体基材にカップリングされる。
【0063】
単離された:
ペプチドもしくはポリペプチドのアセンブリ(例えばPrP
Sc)、細胞、核酸または血清サンプルのような、「単離された」生体成分は、その成分が天然に存在している生物の細胞中の他の生体成分、例えば、他の染色体のおよび染色体外のDNAおよびRNA、ならびにタンパク質から実質的に分離され、別に産生され、または精製されている。「単離された」核酸、ペプチドおよびタンパク質はしたがって、標準的な精製法により精製された核酸およびタンパク質を含む。この用語はまた、細胞における組み換え発現により調製された核酸、ペプチドおよびタンパク質、ならびに化学的に合成されたペプチドおよび核酸を包含する。「単離された」または「精製された」という用語には、絶対的な純度は必要とされない; むしろ、それは相対的な用語であると意図される。したがって、例えば、単離されたペプチド調製物は、ペプチドまたはタンパク質が細胞内でのその自然環境にあるよりも濃縮されているものである。好ましくは、調製物は、タンパク質またはペプチドが調製物のペプチドまたはタンパク質総含有量の少なくとも50%、例えばペプチドまたはタンパク質濃度の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または場合により少なくとも99%に相当するように精製される。
【0064】
核酸分子:
ヌクレオチドの重合体型であり、これはRNA、cDNA、ゲノムDNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方、ならびに前記の合成型および混合重合体を含むことができる。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾型をいう。本明細書において用いられる「核酸分子」は、「核酸」および「ポリヌクレオチド」と同義である。核酸分子は、通常、特別の定めのない限り、長さが少なくとも10塩基である。この用語は、一本鎖型および二本鎖型のDNAを含む。核酸分子は、天然に存在するおよび/または天然に存在しないヌクレオチド結合によってともに連結された、天然ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドの一方または両方を含むことができる。
【0065】
プリオン:
主にタンパク質から構成される感染性因子の一種。プリオンはウシでのウシ海綿状脳症(BSE、狂牛病としても公知)およびヒトでのクロイツフェルト・ヤコブ病を含めて、種々の動物においていくつかの疾患を引き起こす。既知のプリオン病の全てが脳または他の神経組織の構造に影響を及ぼし、全てが処置不可能かつ致命的である。「伝染性海綿状脳症(TSE)」またはプリオン病は、ヒトクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ウシ海綿状脳症(BSE)、ヒツジスクレイピー、シカ慢性消耗性疾患(CWD)および伝染性ミンク脳症(TME)を含む致命的な神経変性障害である。
【0066】
プリオンは、正常なそのタンパク質分子を異常な構造形態(例えば、スクレイピーでのPrP
Scまたは変種CJDでのPrP
vCJD)に変換しうる構造への異常な再折り畳みによって感染かつ伝播するものと考えられており、それらの構造形態は、通常、プロテイナーゼK消化に対して部分的に耐性であり、ゆえに、本明細書においてPrP-耐性を表すPrP-resと総称される。全部ではないが、大部分の既知のプリオンは、隙間なく詰め込まれたβシートに富むアミロイド原線維に重合しうる。この構造変化によって、それらは、化学的および物理的因子による変性に対して異常に耐性となり、これらの粒子の処分および封じ込めが困難になる。
【0067】
プリオン病では、病的な、典型的にはプロテアーゼ耐性な形態のプリオンタンパク質PrP-resは、プロテイナーゼK消化に対して感受性である、その正常な、宿主によりコードされるプロテアーゼ感受性前駆体PrP-senまたはPrP
Cの、PrP-resへの変換を誘導することにより感染宿主においてそれ自体を伝播するものと思われる。PrP-sen (PrP
C)は単量体グリコホスファチジルイノシトール結合型糖タンパク質であり、これはβ-シート含有量が低く、高度にプロテアーゼ感受性である。逆に、PrP-res (例えばPrP
Sc)凝集体は、β-シート含有量が高く、部分的にプロテアーゼ耐性である。変換の機構的詳細は十分には理解されていないが、しかしPrP
Cの立体構造変化を引き起こす、PrP-resとPrP
Cとの間の直接的な相互作用を伴う。というのは、後者が成長中のPrP-res多量体に動員されるからである(Caughey & Baron, Nature 443, 803-810, 2006に概説されている)。したがって、変換機構は自己触媒的なシード(または核形成)重合と暫定的に記述されている。本明細書において開示されるアッセイ法において、PrP-resまたはプリオンを含む生体サンプルの添加は、反応混合物中での組み換えPrP
C (rPrP
C)のrPrP-res
(Sc)への変換を引き起こし、これを次に検出することができる。組み換えタンパク質rPrP-res
(Sc)は、プリオンの由来の種および株にかかわらず、プリオン誘導性のrPrP変換産物の総称である。組み換えタンパク質rPrP-res
(Sc)は、感染性ではない。
【0068】
PMCAまたはタンパク質ミスフォールディングサイクル増幅:
PrP
Cをサンプルと混合し、反応混合物をインキュベートして、PrP-res凝集体へのPrP
Cの変換をPrP-resに開始させ、インキュベーション段階の間に形成された任意の凝集体を断片化し(典型的には超音波処理によって)、インキュベーションおよび断片化段階の1回または複数回のサイクルを繰り返すことにより、サンプル中のPrP-resを増幅するための方法。
【0069】
ポリペプチド:
単量体が、アミド結合を通じてともにつなぎ合わされているアミノ酸残基である重合体。アミノ酸がα-アミノ酸である場合、L-光学異性体またはD-光学異性体のどちらかを用いることができるが、L-異性体が好ましい。本明細書において用いられる「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、任意のアミノ酸配列を包含するものと、および糖タンパク質のような修飾された配列を含むものと意図される。「ポリペプチド」という用語は、特に、天然に存在するタンパク質も、組み換えまたは合成により産生されるタンパク質も網羅するものと意図される。
【0070】
「ポリペプチド断片」という用語は、少なくとも1つの有用なエピトープを示すポリペプチドの部分をいう。「ポリペプチドの機能的断片」という用語は、ポリペプチドの活性を保持しているポリペプチドの全ての断片をいう。生物学的に機能的な断片は、例えば、抗体分子に結合できるエピトープのような小さいポリペプチド断片から、細胞内の表現型変化の特徴的な誘導またはプログラミングに関与できる大きなポリペプチドまで、サイズがさまざまでありうる。
【0071】
QuICまたはクエイキング誘導変換(Quaking Induced Conversion):
凝集したrPrP
CおよびrPrP-res
(Sc)をバラバラにするために超音波処理の代わりに反応容器の振盪が行われる、特定のタイプのPrP増幅アッセイ法。
【0072】
リアルタイム(RT)-QuIC:
凝集したPrP
CおよびPrP-resをバラバラにするために断続的な振盪を含む、かつ蛍光色素チオフラビンT (ThT)のような、蛍光の読み出しの使用を含むアッセイ法。例示的なプロトコルは、例えば、Wilham et al., PLOS Pathog. 6(12): e1001217, pages 1-15に開示されている。一般的に、このアッセイ法では、基質としてのPrP
C、断続的な振盪反応、主に界面活性剤を含まない(例えば0.002%以下のSDS)または界面活性剤を含まない、かつカオトロープを含まない反応条件、およびThTに基づくプリオンシードrPrP
Cアミロイド原線維の蛍光検出を用いる。
【0073】
サンプル:
ヒトまたは獣医学的対象のような、対象から得られる生体サンプルであり、これは、例えば、核酸および/またはタンパク質を含有する。本明細書において用いられる場合、生体サンプルは、細胞、組織、ならびに体液、例えば: 血液; 血液の派生物および画分、例えば血清; 抽出された胆汁; 例えば、固定されていない、凍結されている、ホルマリン固定されている、および/もしくはパラフィン包埋されている組織を含む、生検を実施された、もしくは外科的に除去された組織; 涙; 乳; 皮膚切屑; 表面洗浄液; 尿; 痰; 脳脊髄液; 前立腺液; 膿; または脊髄穿刺液を含むが、これらに限定されない、対象におけるPrP-res/プリオンの検出に有用な全ての臨床サンプルを含む。特定の態様において、生体サンプルは対象から、例えば血清サンプルのような血液サンプルの形態で、得られる。サンプルには、土壌または水サンプルのような、環境サンプルも含まれる。
【0074】
配列同一性:
2つの核酸配列間、または2つのアミノ酸配列間の類似性は、配列間で共有される配列同一性のレベルに関して表される。配列同一性は、典型的には、%同一性に関して表される; %が高いほど、それだけ2つの配列は類似している。比較のために配列をアラインメントさせる方法は、以下で詳細に、詳細な説明のIV Eの項に記述されている。
【0075】
単一ラウンド:
連続増幅が行われない方法を行うこと。例えば、rPrP-res
(Sc)は、サンプルを精製rPrP
Cと混合して反応混合物を作出し; (i) 反応混合物をインキュベートして、反応混合物中に存在しうるPrP-resとのrPrP
Cの共凝集を可能にする段階、およびPrP-resとのrPrP
Cの共凝集を促進する、かつrPrP-res
(spon) (プリオンまたはPrP-resの非存在下で自発的に作出されるプロテアーゼ耐性rPrP産物)の発生を阻害しながらrPrP-res
(Sc)へのrPrP
Cの変換をもたらすインキュベーション条件を維持する段階、(ii) 段階(i)の間に形成された凝集体を攪拌する段階、(iii) 段階(i)および(ii)を1回または複数回、任意で繰り返してもよい段階を含む増幅反応を行うことにより、サンプル中で増幅されることができる。rPrP-res
(Sc)が反応混合物中で検出され、ここで反応混合物中のrPrP-res
(Sc)の検出は、PrP-resがサンプル中に存在していたことを示す。さらなる基質(rPrP
C)を誘導期の間(サンプルの添加および検出可能のrPrP-res
(Sc)の形成の間)のような、反応の間に加えることができる。しかしながら、反応混合物の一部分が除去され、別の反応混合物中でさらなるrPrP
Cとともにインキュベートされるわけではない。
【0076】
超音波処理:
音波エネルギーを用いて生体材料をバラバラにするまたは散り散りにするプロセス。
【0077】
特異的結合剤:
規定の標的だけに実質的に結合する薬剤。いくつかの態様において、特異的結合剤は、PrP-resに特異的に結合するが、PrP
Cには結合しない抗体である。
【0078】
「特異的に結合する」という用語は、抗原との、全部または一部での、抗体または他のリガンドの選択的結合をいう。特異的結合は抗原の特異的認識を通じて媒介されるものと識別されうる。選択的に反応する抗体は抗原に結合するが、それらは低い親和性でそれをすることもある。他方で、特異的な結合は結合抗体(または他のリガンド)と別のタンパク質(または抗原を欠いている細胞)との間でよりも抗体(または他のリガンド)と抗原(または抗原を保有している細胞)との間ではるかに強い結び付きをもたらす。特異的結合は、典型的には、標的エピトープを発現している細胞または組織との結合抗体または他のリガンドの量(単位時間あたり)の2倍超の、例えば5倍超の、10倍超の、または100倍超の増加を、このエピトープを欠いている細胞または組織と比べて、もたらす。種々の免疫アッセイ形式が、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体または他のリガンドを選択するのに適している。例えば、固相ELISA免疫アッセイ法は、タンパク質と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択するために日常的に用いられる。特異的な免疫反応性を判定するために使用できる免疫アッセイ形式および条件の記述については、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New York (1988)を参照されたい。
【0079】
特別の説明のない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。単数形の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の指示対象を含む。同様に「または」という言葉は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、「および」を含むことが意図される。核酸またはポリペプチドに対して与えられる、全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、および全ての分子量または分子質量の値は、近似であり、説明のために提供されていることがさらに理解されるべきである。本明細書において記述されるものと類似または同等の方法および材料を、本開示の実践または試験に使用できるが、適当な方法および材料を以下に記述する。「含む(comprise)」という用語は「含む(include)」を意味する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その内容が参照により組み入れられる。矛盾する場合は、用語の説明を含めて、本明細書が優先する。さらに、材料、方法および実施例は、単なる例示にすぎず、限定するものであると意図されない。
【0080】
本開示の実践または試験に適した方法および材料を以下に記述する。しかしながら、提供される材料、方法および実施例は、単なる例示にすぎず、限定するものであると意図されない。したがって、特に指定のない限り、本開示の方法および技法は、記述されているものと類似もしくは同等の方法および材料にしたがってならびに/または当技術分野において周知の従来の方法にしたがって、ならびに本明細書の全体を通して引用され論じられている種々の一般的なおよびより具体的な参考文献(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989; Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Press, 2001; Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, 1992 (および2000年までの補巻); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, 4th ed., Wiley & Sons, 1999を参照のこと)に記述されているように行うことができる。
【0081】
本明細書において開示される方法では、プリオンタンパク質の免疫沈降等の、親和性精製、その後に、生体サンプル等の、サンプル中のプリオンを検出するための、クエイキング誘導変換アッセイ法(QuIC)またはリアルタイム・クエイキング誘導変換アッセイ法(RT-QuIC)等であるがそれらに限定されない、別の検出方法を利用する。本明細書において開示される方法は、数ある中でも、血液、血液画分、および血液製剤、尿、鼻腔液、唾液、脳脊髄液、糞便、筋生検、リンパ系組織、皮膚サンプル、移植のための組織のサンプルを含む、いくつかの生体サンプルにおけるプリオン汚染、診断および/または監視のための試験を可能にする。これらの方法は、医学的/獣医学的用途の両方を有し、また、生物工学製品ならびに環境サンプル(水、土壌、植物、埋め立てごみ、下水のような)および農業サンプル(動物に基づく食品、動物に基づく飼料および栄養補助食品、動物の老廃物、副産物、死骸、食肉処理場からの廃棄物、特定危険部位のような)を検査するために用いて、プリオンによる汚染がないことを確実にすることができる。本開示の方法はまた、ウシ、ヒツジおよびシカにおけるような、プリオンを含まない群れ/集団の認証のために用いることもできる。親和性精製(免疫沈降のような)およびQuICまたはRT-QuICの組み合わせにより、PrP-resの検出のための予想外に優れた感度および特異性が提供される。
【0082】
I. プリオンおよびプリオン病の概要
伝染性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)は、ヒツジでのスクレイピー、ウシでのウシ海綿状脳症(BSE; 狂牛病としても公知)、ミンクでの伝染性ミンク脳症(TME)、エルク、ムースおよびシカでの慢性消耗性疾患(CWD)、ネコでのネコ海綿状脳症、ニアラ、オリックスおよびネジツノカモシカでの外来性有蹄類脳症(EUE)、ならびにヒトでのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)およびその亜種(医原性クロイツフェルト・ヤコブ病(iCJD)、変種クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、家族性クロイツフェルト・ヤコブ病(fCJD)および散発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD))、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症(fFI)、散発性致死性不眠症(sFI)およびクールーを含む(がこれらに限定されない)哺乳類の感染性神経変性疾患である。TSEは数ヶ月から数年の潜伏期間を有するが、しかし臨床徴候の出現後は、多くの場合、急速に進行し、処置不可能であり、かつ例外なく致死性である。TSEのリスク低減の試みは、農産品、医薬品、化粧品および生物工学製品の製造および貿易の重大な変化につながった。
【0083】
TSEでは、PrP
ScまたはPrP-resと呼ばれる、病的な、プロテアーゼ耐性な形態のプリオンタンパク質は、その正常な、宿主によりコードされる前駆体、つまりPrP
Cとしても公知のPrP-senの、PrP-resへの変換を誘導することにより感染宿主においてそれ自体を伝播するものと思われる。PrP
Cは単量体グリコホスファチジルイノシトール結合型糖タンパク質であり、これはβ-シート含有量が低く、高度にプロテアーゼ感受性である。逆に、PrP-res凝集体は、β-シート含有量が高く、部分的にプロテアーゼ耐性である。変換の機構的詳細は十分には理解されていないが、しかしPrP
Cの立体構造変化を引き起こす、PrP-resとPrP
Cとの間の直接的な相互作用を伴う。というのは、後者が成長中のPrP-res多量体に動員されるからである(Caughey & Baron (2006) Nature 443, 803-810に概説されている)。したがって、変換機構は自己触媒的なシード(または核形成)重合と暫定的に記述されている。
【0084】
プリオン伝播の機構をよりよく理解するために、無細胞系においてPrP-resの形成を繰り返すように多くの試みがなされている。初期実験により、PrP-resが準化学量論的な収量ではあるが、株特異的および種特異的にPrP-res様産物へのPrP
Cの変換を誘導しうることが示された。つい最近、PrP-res形成およびTSE感染性が粗脳ホモジネート、つまり変換のための多数の潜在的な補因子を含有する媒体中で無制限に増幅されうることが示された(Castilla et al., (2005) Cell 121, 195-206)。この「タンパク質ミスフォールディングサイクル増幅」(PMCA)反応の詳細な分析によって、RNAのような多価陰イオンが加えられている限り、脳組織から精製されたPrP
Cを用いてPrP-resおよびプリオン感染性が増幅されうることも示された(Deleault et al., (2007) Proc Natl Acad Sci USA.104(23):9741-6)。大腸菌(E. coli)由来の組み換えPrP
C (rPRP
C、rPrP-senとも呼ばれる)は、グリコシル化およびGPIアンカーを欠いており、自発的にまたは予形成されたrPrP原線維によるシード添加時にアミロイド原線維に重合するように誘導されうる。大部分のrPrPアミロイド調製物は感染性ではないが、単独で、または脂質および核酸との組み合わせでrPrP
Cから構成される調製物のなかには少なくとも中程度の量の感染性を有するものもある[Legname et al. (2004) Science 305, 673-676; Kim et al., (2010) J Biol Chem 285(19): 14083-7; Wang et al., (2010) Science 327(5969): 1132-5; Makarava et al., (2010) Acta Neuropath 119(2): 177-87; Colby et al., (2010) PLoS Path 6(1):e1000736]。
【0085】
TSEに対処する際の主要課題は、迅速な方法による低レベルのTSE感染性(プリオン)の迅速な検出である。TSE感染に最もよく用いられるマーカーはPrP-resであり、PMCA反応は、罹患組織にて1感染単位を下回るレベルでのPrP-resの超高感度な検出を可能にする。しかしながら、先述の通り、PMCAの現行の制約には、最適な感度を達成するのに必要とされる時間(およそ3週間)および増幅基質としての脳PrP
Cの使用が含まれる。
【0086】
動物において最も一般的なTSEはスクレイピーであるが、最も有名で危険なTSEはBSEであり、これはウシに影響を与え、一般用語「狂牛病」で知られている。ヒトにおいて、最も一般的なTSEはCJDであり、これは毎年100万人あたり0.5〜1.5の新規症例の発生率で世界的に生じている。3つの異なる形態のCJDが伝統的に認識されてきた: 散発性(sCJD; 症例の85%)、家族性(fCJD; 10%)および医原性(iCJD; 5%)。しかしながら、1996年に、UKにおいて新たな変種形態のCJD (vCJD)が現れ、これは、BSEに感染した肉の消費に関係していた。典型的なsCJDと対照的に、vCJDは、平均年齢27歳の若い患者に影響を与え、比較的長期間の疾病である(sCJDの4.5ヶ月に比べて14ヶ月)。潜伏時間および汚染されたウシ食品への曝露のレベルに関して入手できる情報が不十分なため、vCJDの将来の発生率を予測することは困難である。動物においては、疾患の遺伝型についてエビデンスがほとんどなく、大部分の症例は、水平または垂直伝播により感染したものと思われる。
【0087】
sCJDの臨床的診断は、迅速進行性多発性認知症と、錐体路および錐体外路徴候、ミオクローヌス、および、特徴的周期的脳波図(EEG)を伴う視覚または小脳徴候との組み合わせに基づく。sCJDを診断し、それをアルツハイマー病および他の認知症から識別するための重要な特徴は、臨床的症候の迅速進行と、しばしば2年未満である疾患の短い持続時間である。fCJDの臨床的発現は、sCJDにおけるよりもわずかに早期に疾患が発症することを除いて非常に似ている。遺伝されたCJDの家族歴またはプリオンタンパク質遺伝子における変異の遺伝子スクリーニングを用いてfCJDの診断が達成されるが、家族歴がないことが、遺伝された起源を排除するわけではない。
【0088】
変種CJDは、最初は、不安、抑鬱、無気力、引きこもりおよび妄想の症候によって特徴付けられる進行性神経精神障害のように思われ、これに、持続的疼痛性感覚症候が組み合わされ、運動失調、ミオクローヌスおよび認知症が続く。変種CJDは、疾病の持続時間(通常、6ヶ月より長い)およびEEG分析(vCJDは、sCJDで観察される不規則パターンを示さない)によりsCJDから区別される。vCJDの診断を助けるために、MRI中に見られる両側視床枕の高信号が用いられることが多い。さらに、リンパ系組織(扁桃および虫垂のような)を汚染しているPrP
vCJDについて検査で陽性と示されたいくつかの症例のvCJDに基づき、扁桃生検を、vCJDの診断を助けるために用いることができる。しかしながら、この試験の侵襲的性質のため、それは、脳のMRIが特徴的視床枕徴候を示さないというvCJDの臨床的基準を満たす患者においてのみ行われる。
【0089】
GSSは、認知症、パーキンソン症候および比較的長い持続時間(典型的には、5〜8年)によって特徴付けられる優性遺伝疾病である。臨床的には、GSSは、運動失調および発作をしばしば伴うことを除き、アルツハイマー病に類似している。診断は、臨床実験およびプリオンタンパク質変異に対する遺伝子スクリーニングにより確定される。FFIも優性遺伝され、プリオンタンパク質変異と関連する。しかしながら、FFIに関連する主な臨床所見は不眠症であり、末期には、ミオクローヌス、幻覚、運動失調および認知症が続く。
【0090】
CJDを含む、TSEを検出することが可能な、ならびに血液製剤中のプリオン汚染を検出することを含むが、これに限定されない、生体サンプルおよび環境サンプル中のプリオンを検出することが可能な必要があり続けている。したがって、プリオンの検出のための迅速かつ高感度なアッセイ法が必要とされている。本開示では、プリオンを検出するための高感度かつ特異的な方法を提供するために、免疫沈降、引き続きQuICおよびRT-QuICのような、第2の検出方法を用いるアッセイ系を提供する。いくつかの態様において、QuICまたはRT-QuICアッセイ法におけるrPrPC基質の先制的補充が利用される。理論によって束縛されるわけではないが、この組み合わせアッセイ法により、感度の予想外の増加、およびアッセイ時間の驚くべき低減が提供される。これらのアッセイ法は、2日以内のような、短い間のうちに極めて低い力価(例えば、1 mlあたり0.001感染単位)のおよび/または阻害剤を含む、血漿のような体液からのプリオンの捕捉および検出を可能にする。
【0091】
II. 免疫沈降
本明細書において開示される方法は、生体サンプルのような、サンプルを、プリオンタンパク質(例えばPrP
Sc、PrP
vCJDまたはPrP-res)の疾患関連の立体構造だけに特異的に結合する抗体と接触させる段階を含む。本明細書において開示される方法において、生体サンプルのような、サンプルを、固体支持体に固定化されうる、捕捉モノクローナル抗体(またはそのエピトープ結合断片)と接触させる。PrP-res上に発現されるが、しかしPrP
C上には発現されないエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体を選択することができる。
【0092】
PrP-resまたはPrP
Scに特異的に結合するモノクローナル抗体は、ネズミ抗体など、任意の種に由来することができる。モノクローナル抗体は、公知のモノクローナル抗体産生法によって産生することができる。典型的には、モノクローナル抗体は、関心対象のタンパク質で免疫された動物から脾細胞を回収し、従来のやり方で、例えば、骨髄腫細胞との融合によってまたはエプスタイン・バー・ウイルス形質転換によって細胞を不死化し、所望の抗体を発現しているクローンをスクリーニングすることにより調製される。例えば、Kohler and Milstein Eur. J. Immunol. 6:511 (1976)を参照されたい。モノクローナル抗体、またはモノクローナル抗体のエピトープ結合領域は、あるいは、組み換え法によって産生されてもよい。したがって、いくつかの態様において、使用の抗体が、PrP-resまたはPrP
Scに特異的に結合する抗体の相補性決定領域(CDR)を含むキメラ型またはヒト化型のモノクローナル抗体が利用される。
【0093】
例として、関心対象のタンパク質が、PrP-res凝集体を形成するように立体構造を変化させることができるプリオンタンパク質である場合、モノクローナル抗体は、「ノックアウト」マウスを組み換え正常マウス細胞タンパク質(PrP
C)で免疫することによって作製されるネズミモノクローナル抗体であることができる。免疫したマウス由来の脾細胞(限られた寿命の抗体産生リンパ球)を次いで、非産生骨髄腫細胞(「不死」である腫瘍リンパ球)と融合させて、ハイブリドーマを作出することができる。ハイブリドーマを次に、PrP-resまたはPrP
Scに特異的な抗体の産生および組織培養での増殖能についてスクリーニングすることができる。これらのハイブリドーマを次に、培養して、特異的モノクローナル抗体の永続的かつ安定的な供給源を提供することができる。この方法により産生された特定のモノクローナル抗体が米国特許第6,528,269号に開示されている。これらのモノクローナル抗体には、ヒトPrP-resに特異的に結合しうる、また、マウス、ウシ、ヒツジおよび他の種由来のPrP-resに結合しうる、細胞株PrP2F8、PrP5B2、PrP6H3、PrP8C6、PrP8H4およびPrP9H7によって産生される2F8、5B2、6H3、8C6、8H4および9H7が含まれ、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2005/0118720号も参照されたい。
【0094】
本明細書において開示される方法はまた、参照により本明細書に組み入れられる、2008年9月1日付で公開された、米国特許出願公開第2008/0220447号に記述されている、モノクローナル抗体15B3を利用することができる。抗体15B3は、Prionics AG, Zurich, Switzerlandから入手可能であり、この抗体を作製するための方法は、参照により本明細書に組み入れられるPCT公開番号WO 98/37210に開示されている。このPCT公開には、PrP-resに結合するが、PrP
Cには結合しない抗体も記述されている。PCT公開番号WO 98/37210には、抗体15B3を産生するハイブリドーマがアクセッション番号: DSM ACC2298の下でDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (Germany) (Zellkulturen GmbH, Inhoffenstraβe 7 B 38124 Braunschweig, Germany)にブダペスト条約にしたがって寄託されたことが開示されている。
【0095】
IgMモノクローナル抗体15B3は、疾患関連型のプリオンタンパク質(すなわちPrP-resまたはPrP
Sc)を特異的に認識し、PK消化の必要なしに脳ホモジネート中の異常なPrPを検出することができる(参照により本明細書に組み入れられるKorth et al., Nature 1997; 390:74-77, 1997)。さらに、抗体15B3は、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群の遺伝子導入マウスモデルにおいてプロテアーゼ感受性型のPrP
Scに結合することが示されたが、これはかなり重要である。というのは、血中での感染力はプロテアーゼ消化に感受性であることが示されているからである(Nazor et al., EMBO J. 24(13):2472-80, 2005; Yakovleva et al., Transfusion 44: 1700-5, 2004)。
【0096】
捕捉モノクローナル抗体(15B3、Ig 261、Ig W226または262のような)は、アッセイ手順の前に捕捉モノクローナル抗体を固定化することにより、例えば、不水溶性マトリックスもしくは表面への吸着(全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第3,720,760号)または、例えば、硝酸および還元剤で支持体を予め活性化させてもしくは活性化させないで(米国特許第3,645,852号にもしくはRotmans et al., J. Immunol. Methods 57:87-98, 1983に記述されているように)、例えば、グルタルアルデヒドもしくはカルボジイミド架橋結合を用いて、非共有結合的もしくは共有結合的カップリングにより、あるいはアッセイ手順の後に、例えば免疫沈降により、固相に固定化することができる。
【0097】
固定化に用いられる固相は、例えば、表面、粒子、多孔性マトリックス、セファロースなどの形態の支持体を含めて、本質的に不水溶性である、かつ免疫アッセイ法において有用である任意の不活性支持体または担体であってよい。一般的に用いられる支持体の例としては、小シート、セファデックス、ポリ塩化ビニル、プラスチックビーズ、磁気ビーズ、ならびに96ウェルマイクロタイタープレートおよび384ウェルマイクロタイターウェルプレートを含む、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどから製造されたアッセイプレートまたは試験管のほかに、ろ紙、アガロース、架橋デキストランおよび他の多糖類のような、粒子材料も挙げられる。あるいは、米国特許第3,969,287号; 同第3,691,016号; 同第4,195,128号; 同第4,247,642号; 同第4,229,537号; および同第4,330,440号に記述されている反応性の不水溶性マトリックス、例えば臭化シアン活性化炭水化物および反応性基材が捕捉モノクローナル抗体の固定化に適当に利用される。1つの例では、固定化される捕捉モノクローナル抗体は、マイクロタイタープレート上にコーティングされ、具体的には、固相はマルチウェルマイクロタイタープレートであることができる。例えば、マルチウェルマイクロタイタープレートは、マイクロテスト96ウェルELISAプレートであることができる。固相は磁気ビーズ、例えばDYNABEADS(登録商標) (Invitrogen)または他の磁気ビーズ、例えばNEW ENGLAND BIOLABS(登録商標)から入手可能なものもしくはDYNAL(登録商標)磁気ビーズであることができる。
【0098】
一般的に、捕捉モノクローナル抗体(限定されるものではないが、15B3等)は固体基材に付着される。この付着は、所望のように非共有結合性もしくは共有結合性の相互作用または物理的結合によるものであることができる。付着のための技法には、米国特許第4,376,110号およびその中で引用されている参考文献に記述されているものが含まれる。共有結合が用いられるなら、プレート、ビーズまたは他の固相を、当技術分野において周知の条件の下で捕捉試薬と一緒に架橋剤とともにインキュベートすることができる。
【0099】
固体基材はまた抗体を、例えば固体基材に共有結合されたウサギ抗マウス抗体またはウサギ抗ヒト抗体を、有していてもよい。固体基材に付着された抗体を次いで、関心対象の二次抗体(マウスまたはヒト抗体のような)とともにインキュベートして、固体基材への二次抗体の付着を達成することができる。1つの特定の非限定例では、ウサギ抗マウス抗体を固体基材にカップリングし、これを次いで、15B3、IgG W226またはIgG 261等であるがそれらに限定されない、プリオンタンパク質に特異的に結合する二次抗体とともにインキュベートする。
【0100】
固相基材に捕捉モノクローナル抗体を付着させるために一般に用いられている架橋剤は、例えば、1,1-ビス(ジアゾアセチル)-2-フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-アジドサリチル酸とのエステル、3,3'-ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)のようなジスクシンイミジルエステルを含むホモ二官能性イミドエステル、およびビス-N-マレイミド-1,8-オクタンのような二官能性マレイミドを含む。メチル-3-[(p-アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデートのような誘導体化剤は、光の存在下で架橋を形成しうる光活性化可能な中間体を生じる。
【0101】
マイクロタイターウェルプレート(例えば、96ウェルプレートまたは384ウェルプレート)が利用されるなら、それらを、例えば、室温で、およびおよそ2時間〜およそ3時間、親和性精製された捕捉モノクローナル抗体(典型的には緩衝液中で希釈された)でコーティングすることができる。プレートを直接的に、PrP-resまたはPrP
Scに特異的に結合する抗体でコーティングすることもできる。プレートはアッセイ自体よりもずっと前に積み重ねられ、コーティングされてもよく、その後、手動的に、半自動的にまたは自動的に、例えばロボット工学を用いることにより、いくつかのサンプルに対して同時にアッセイを行うことができる。
【0102】
同様に、DYNABEADS(登録商標) M-450(ラット抗マウスIgM)などのDYNABEADS(登録商標)が利用されるなら、当技術分野において公知の任意の手段を用いてビーズを抗体でコーティングすることができる。1つの非限定例では、ボルテックス操作を用いてDYNABEADS(登録商標)をバイアル中で懸濁させ、その後、適切な量のDYNABEADS(登録商標)をポリプロピレン管またはポリスチレン管に移す。この管を短時間、磁石の上に置き、その後、磁石から取り除く。コーティング緩衝液を加え、ビーズを、例えばボルテックスを用いることにより、混合する。1つの非限定例では、リン酸緩衝生理食塩水中およそ0.01%〜1%の、例えばおよそ0.1%のウシ血清アルブミンを含むコーティング緩衝液が利用される。コーティング緩衝液のためのさらなるブロッキング剤の例としては、非限定的に、卵アルブミン、カゼインおよび無脂肪乳が挙げられよう。関心対象の抗体(非限定的に15B3、IgG W226またはIgG 261等)を加え、DYNABEADS(登録商標)を関心対象の抗体とともに、抗体がビーズに付着するのに十分な時間、穏やかに混合しながらインキュベートする。次に磁石を用いて、コーティングされたビーズを上清から分離することができ、コーティング緩衝液を加えることができる。抗体とカップリングされたDYNABEADS(登録商標)を繰り返し洗浄することができ、将来使うために貯蔵することができる。
【0103】
1つの例では、抗体(限定されるものではないが、15B3等)を、DYNABEADS(登録商標) 100 μlあたり抗体およそ5 μgとして基材とカップリングさせることができる。別の例では、抗体(限定されるものではないが、15B3等)を、15B3抗体1 μgあたりDYNABEADS(登録商標) 1×10
-6個として基材とカップリングさせることができる。別の例では、DYNABEADS(登録商標) (例えば、ビーズ4×10
8個/ml) 100 μlあたり抗体、例えば15B3 30〜50 μg、例えば36 μgのような、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20または30倍多くの抗体を利用することができる。他の態様において、ビーズ1×10
8個に抗体1 ng〜10 μgを用いることができる。さらに別の例では、DYNABEADS(登録商標) 1×10
-8個(例えば、ビーズ4×10
8個/ml)あたり抗体、例えば15B3 100〜300 μgを利用することができる。いくつかの非限定例では、磁気ビーズ上の抗体の濃度は、ビーズ1×10
8個あたり15B3およそ10〜500 μgである。
【0104】
コーティングされたプレートまたはビーズは任意で、結合部位に非特異的に結合し、結合部位を飽和して、プレートのウェル上の過剰な部位への遊離リガンドの望ましくない結合を阻止するブロッキング剤により処理されてもよい。この目的のために適したブロッキング剤の例としては、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、卵アルブミン、カゼインおよび無脂肪乳が挙げられる。
【0105】
コーティングおよびブロッキングの後、固定化された抗体に、分析されるサンプルを加える。サンプルは生体サンプルまたは環境サンプルであることができる。サンプル(例えば脳サンプルのような、組織サンプルの場合)は、ホモジナイズすることができ、例えば、溶解緩衝液(例えば、1% Nonidet P-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、5 mM EDTAおよびpH 8.0を有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS))で適切に希釈することができる。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むが、これに限定されない、陰イオン性、陽イオン性または非イオン性界面活性剤のような、他の界面活性剤を用いて、サンプルをホモジナイズすることができる。あるいは、ピペッティングまたはブレンダーおよびホモジナイザーのような装置を用いるような、機械的手段を利用することができる。生体サンプルは血液、血清、血漿、または、脳脊髄液もしくは鼻腔液等であるがそれらに限定されない、別の生体液のサンプルであることができる。サンプルは脳サンプルまたはリンパ系組織サンプル(扁桃腺などの)ような、組織サンプルであることができる。サンプルは緩衝液、例えばウシ血清アルブミンを含む緩衝液中などで、希釈することができる。1つの態様において、サンプルは、界面活性剤を任意で含んでもよい、トリス緩衝生理食塩水(TBS)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような、緩衝液中で希釈される。界面活性剤は陽イオン性、陰イオン性または非イオン性界面活性剤であることができる。1つの態様において、界面活性剤はサルコシルである。例えば、ビーズをTBS中およそ0.1%〜およそ1%、例えばおよそ0.4%のサルコシルの存在下でサンプルと接触させることができる。別の態様において、ビーズをTBS中およそ0.1%〜およそ1%のサルコシル、例えばTBSまたはPBSのような、緩衝液中0.4%〜およそ1%のサルコシルの存在下でサンプルと接触させることができる。ある例では、TBSまたはPBSのような、緩衝液中およそ0.1%、およそ0.4%、およそ1%、およそ2%、およそ3%またはおよそ4%のサルコシルが利用される。
【0106】
十分な感度のため、固定化された捕捉モノクローナル抗体に加えられるサンプルの量は、固定化された捕捉モノクローナル抗体が、サンプルの適切な希釈後の生体サンプル中において予想される立体構造の変化したタンパク質の最大モル濃度のモル過剰であるようなものでありうる。
【0107】
生体サンプルおよび固定化されたモノクローナル抗体のインキュベーションのための条件は、アッセイ法の感度を最大化するように、かつ解離を最小化するように選択される。好ましくは、インキュベーションはおよそ0℃からおよそ40℃に及ぶ、ほとんど一定の温度で、例えばおよそ4℃、室温(例えば、およそ25℃)、およそ35℃〜およそ39℃で、またはおよそ37℃、もしくはおよそ35℃〜40℃で達成される。いくつかの態様において、温度はおよそ19〜およそ40℃、例えば室温である。インキュベーションのための時間は、例えば、2時間〜12時間、例えば終夜であることができる。ある例では、インキュベーション時間はおよそ0℃〜およそ40℃で、例えばおよそ4℃、室温(例えばおよそ25℃)または37℃で2、4、6、8、10、12、20または24時間、例えば終夜である。特定の非限定例では、インキュベーションは室温でおよそ2時間または4℃で終夜、例えば4℃でおよそ12時間または室温でおよそ10〜20時間、例えば室温または37℃で20時間である。
【0108】
固定化された捕捉モノクローナル抗体(15B3のような)との生体サンプルの接触後、生体サンプルを洗浄する。洗浄媒体は一般に、熟慮してpHを決めた緩衝液(「洗浄緩衝液」)およびインキュベーション段階に典型的に用いられる緩衝液である。洗浄は、例えば、1回、2回、3回またはそれ以上の回数行われてもよい。洗浄は任意の温度、例えばおよそ0℃〜およそ40℃で、例えば室温(例えば25℃)でまたは37℃で行うことができる。さらなる態様において、本方法は緩衝液中でのSDS、例えば0.01%〜0.1% SDS、例えばおよそ0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%または0.07% SDS、例えば0.04%〜0.06% SDS、例えばおよそ0.05% SDSの使用を含む。洗浄緩衝液の例としては、サルコシル、例えばおよそ0.05〜0.5%サルコシル、例えば0.1%、0.2%、0.3%または0.4%サルコシルを任意で含んでもよい、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびトリス緩衝生理食塩水(TBS)が挙げられるが、これらに限定されることはない。1つの例示的な洗浄緩衝液は、TBS中0.2%のサルコシルである。
【0109】
サンプルと接触された磁気ビーズのような、固体基材を次に、処理して、例えば、以下に論じられているように、標準的QuIC (SQ)反応またはリアルタイムQuIC (RTQ)反応を用いて、結合したプリオンタンパク質を検出することができる。1つの態様において、抗体に結合したプリオンタンパク質(例えばPrP
Sc)は、結合したプリオンタンパク質を検出する前に放出(溶出)されるのではなく、むしろ抗体を含む固体基材とプリオンタンパク質の両方を含んだ反応混合物を、SQまたはRTQ等であるがそれらに限定されない、アッセイ法において直接用いて、PrP-resまたはPrP
Scを検出する。したがって、PrP-resに特異的に結合する抗体を含む免疫複合体は、反応混合物から分離されるのではなく、SQまたはRTQアッセイ法において直接用いられる。
【0110】
III. QuIC (SQ)およびRT-QuIC (RTQ)
タンパク質ミスフォールディングサイクル増幅(PMCA)と呼ばれるプリオン検出法は、PrP
Cを含有する組織ホモジネートにおいてプリオンがインビトロで増幅する能力に基づく(例えば、PCT公開番号WO0204954を参照のこと)。PMCAでは、脳組織に由来する適当なプリオンタンパク質基質とのインキュベーションを通じたPrP-resの増幅、例えばインキュベーションおよび超音波処理の段階を交互に行うことによる、PrP
Cの連続増幅、ならびに結果として生じたPrP-resの検出を伴う。場合によっては、インキュベーションおよび超音波処理は、およそ3週間にわたって交互に行われ、断続的に、反応混合物の一部分を取り出し、サンプル中のPrP-resを連続的に増幅するためにさらなるPrP
Cとともにインキュベートする。繰り返して行われるインキュベーション/超音波処理/希釈段階の後、結果として生じたPrP-resを反応混合物中で検出する。脳抽出物に基づいたPMCAは、PrP-resを検出するための非常に高感度なアッセイ法であるが、PCMAには、とりわけ最適な感度を達成するのに必要とされる時間(2〜3週間)および増幅基質としての脳由来PrP
Cの使用といった、いくつかの制約がある。この方法ではまた、超音波処理を用いる。
【0111】
対照的に、QuIC法(SQおよびRTQ)では、超音波処理によるのではなく、振盪により攪拌を行う。これらのアッセイ法では、基質として組み換えにより発現されたrPrP
Cを用いる(参照により本明細書に組み入れられるAtarashi et al., (2008) Nat Methods, 5, 211-212)が、これは高純度で大量に素早く得ることができる一方で、脳組織からの天然PrP
Cの精製は困難であり、得られる収量がはるかに低い(Deleault et al. (2005) J. Biol. Chem. 280, 26873-26879; Pan et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 10962-10966; Hornemann et al., (2004) EMBO Rep. 5, 1159-1164)。さらに、脳ホモジネート中のPrP
Cまたは脳から精製されたPrP
Cとは異なり、rPrP
Cは、関連産物の検出を簡素化かつ短期化するために、容易に変異させることができ、またはプローブで戦略的に標識することができる。
【0112】
rPrP
Cを利用する2つのタイプのPrP-res増幅法があり、1つが超音波処理を用いるもの(rPrP-PMCA) (Atarashi et al., (2007) Nat Methods, 4, 645-650)であり、1つが振盪を利用するもの(QuIC) (Atarashi et al., (2008) Nat Methods, 5, 211-212)である。これらの方法は、PrP-resの構造および変換機構の基礎的研究を容易にする。部位特異的突然変異は、rPrP-res
(Sc)凝集体内の分子間距離と分子内距離の両方や、立体構造変化に関して報告しうる種々のプローブによるrPrP
Cの正確な標識を可能にしうる。さらに、RTQはチオフラビンT (ThT)を用いて増幅産物の検出を可能にする。増強RTQでは、多くの検出可能な(ThT陽性の)重合が行われる前に(例えばインキュベーションの24時間前に)、既存のrPrP-res
(Sc)を保持しながら、rPrP
Cが先制的に補充される。
【0113】
QuICおよびRT-QuIC法は一般に、サンプル(例えば、プリオンもしくはPrP-resを含有するのではないかと疑われる組織サンプル、CSFサンプルまたは血漿サンプル)を精製rPrP
Cと混合して、反応混合物を作出する段階、および一次反応を行って、混合物中で特定の形態のrPrP-res
(Sc)を形成かつ増幅させる段階を伴う。この一次反応は、反応混合物をインキュベートして、rPrP-res
(Sc)の特定の凝集体または重合体へのrPrP
Cの変換をPrP-resに開始させる段階; インキュベーション段階中に形成された任意の凝集体または重合体を断片化する段階; ならびにインキュベーションおよび断片化の段階を1回または複数回、例えばおよそ1〜2回、1〜4回、1〜10回または10〜およそ50回繰り返す段階を含む。この方法のいくつかの態様において、反応混合物の一部分を取り出し、それをさらなるrPrP
Cとともにインキュベートすることにより、連続増幅が行われる。他の態様において、さらなるrPrP
Cを、誘導期の間(検出可能のrPrP-res
(Sc)の形成の前、例えば反応の24時間前)等に反応に加え、かつインキュベーションおよび断片化の段階を繰り返す。
【0114】
さらなる態様において、この方法は、基質に結合したプリオンが反応容器中で保持され、かつ潜在的なPrP-resシードを除去せずに基質が補充されるような、連続増幅なしに行われる。例えば、PrP-resは、サンプルを精製rPrP
Cと混合して反応混合物を作出し; (i) 反応混合物をインキュベートして、反応混合物中に存在しうるPrP-res/PrP
ScとのrPrP
Cの共凝集を可能にする段階、およびPrP-resとのrPrP
Cの共凝集を促進する、かつrPrP-res
(spon)の発生を阻害しながらrPrP-res
(Sc)へのrPrP
Cの変換をもたらすインキュベーション条件を維持する段階; (ii) 段階(i)の間に形成された凝集体を攪拌する段階; (iii) 段階(i)および(ii)を1回または複数回、任意で繰り返してもよい段階を含む増幅反応を行うことにより、サンプル中で増幅されることができる。rPrP-res
(Sc)が反応混合物中で検出され、ここで反応混合物中のrPrP-res
(Sc)の検出は、PrP-resがサンプル中に存在していたことを示す。さらなる基質(rPrP
C)を、サンプルの添加とrPrP-res
(Sc)形成の検出との間の誘導期の間等の、反応の間に加えることができる。しかしながら、単一ラウンドの増幅が用いられる場合、反応混合物の一部分が除去され、さらなるrPrP
Cとともにインキュベートされるわけではない。いくつかの態様において、さらなるrPrP
C基質を反応混合物に加えることにより、rPrP
Cを補充することができる。
【0115】
一般に、QuICまたはRT-QuIC (SQもしくはRTQ)のいずれかを用いるなら、反応には、超音波処理なしでの振盪の使用(QuIC反応)、および継続時間中およそ1:1である振盪/休止のサイクルの使用が含まれる。1つの非限定例では、反応は60秒の振盪および60秒の無振盪(休止)を交互に行う。別の非限定例では、反応は30秒の振盪および30秒の無振盪(休止)を交互に行う。しかしながら、45秒の振盪および45秒の無振盪または70秒の振盪および70秒の無振盪など、時間は変えられてもよい。したがって、休止の時間および振盪の時間は等しい。他の態様において、休止の時間および振盪の時間は、サイクル全体で長さがおよそ120秒である。したがって、ある例では、反応は90秒の振盪および30秒の無振盪、または100秒の振盪および20秒の無振盪、または80秒の振盪および40秒の休止を含む。さらなる態様において、全サイクル時間は、長さがおよそ60、70、80、90、100、110または120秒であり、少なくとも30秒、少なくとも40秒、または少なくとも50秒の振盪を含む。
【0116】
反応は37〜60℃、例えば45〜55℃、例えばおよそ50℃で、またはおよそ42℃〜46℃で特に効率的であることも分かった。これらの条件は、無シード反応の最初の24時間以内にrPrP-res
(spon)の形成を低減しながら、rPrP-res
(Sc) (とりわけ17 kDaのPK耐性種)の形成を促進するのに特に効果的である。したがって、反応は3〜12時間、例えば6〜12時間、例えば8〜10時間行うことができる。しかしながら、14時間、16時間、20時間、24時間、例えば少なくとも45時間、48時間または場合により65もしくは96時間のさらに長い増幅反応も、反応温度に依り、素晴らしい結果をもたらすことができる。いくつかの態様において、反応は3〜96時間行われる。例えば、反応は12時間以下、24時間以下、36時間以下、48時間以下、72時間以下、96時間以下または120時間以下行うことができる。ある例では、反応はおよそ5時間〜およそ120時間行われる。
【0117】
いくつかの態様において、反応は塩化ナトリウム(NaCl)を用いて100 mM〜500 mM、例えばおよそ100 mM、200 mM、300 mM、400 mM NaClの濃度で行われる。他の態様において、反応は200〜400 mM NaClを用いて行われる。
【0118】
免疫沈降およびリアルタイムQuICが用いられる方法(IP-RTQ反応またはeQuIC)では、ThTを用いてrPrP-res
(Sc)を検出する。固体基材が磁気ビーズのような、ビーズであるなら、ビーズおよび結合した任意のプリオンまたはプリオン誘導性RTQ変換産物は、ウェルのような、反応容器の底面にくっつく傾向がある。したがって、多くのビーズまたは結合した反応産物をウェルから除去せずに、反応液を容易に交換することができ、基質をその前RTQ状態で補充することができる。ThT陽性によってプリオンシード・アミロイド産物への変換による多くの消費が示される前のような、誘導期の間にrPrP
C基質を先制的に補充することができる。補充により、IP-RTQは極めて高感度であり、その結果、RTQの全体の感度は少なくとも1000倍増大したし、全体の反応時間は大いに低減される。基質の濃度は一般に、0.1 mg/mlである。
【0119】
したがって、QuIC反応はRT-QuIC反応であることができ、かくしてrPrP-res
(Sc)の検出を可能にするチオフラビンT (ThT)を含むことができる。RT-QuICアッセイ法では、基質としてのrPrP
C、96ウェルプレート中のような反応の断続的な振盪、界面活性剤かつカオトロープを含まない反応条件およびThTに基づくプリオンシードrPrP
Cアミロイド原線維の蛍光検出を組み入れている。ThTを用いることの1つの利点は、それを反応混合物に含められるということである。チオフラビンTは、アミロイド原線維への結合によって増強した蛍光を示すベンゾチアゾール色素であり(Khurana et al., J. Structural Biol. 151: 229-238, 2005を参照のこと)、アミロイド原線維を検出するために一般的に用いられる。
【0120】
増幅の後、反応混合物中の、プリオンで開始されたrPrP-res
(Sc)を検出する。ThTが反応(RT-QuIC)に含まれるなら、励起450+/-10 nMおよび放出480+/-10 nmでの蛍光を用いてrPrP-res
(Sc)を検出することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられるWilham et al., PLOS Pathogens 6(12): 1-15, 2010を参照のこと)。ThTは増幅混合物中に直接含めることができる。いくつかの態様において、ThTが含まれるなら、反応混合物はカオトロープまたは界面活性剤を含まない。いくつかの態様において、ThTが含まれるなら、反応混合物は、ThTのrPrP-res
(Sc)感受性を変化させうるカオトロープ剤または界面活性剤を含まない。1つの非限定例では、RTQ反応で15B3免疫沈降が用いられる場合、各反応におけるThTの終濃度は1 mMである。他の例では、ThTは反応においておよそ0.1〜1 mMの終濃度で用いられる。
【0121】
塩化ナトリウム(NaCl)濃度は反応において変えられてもよい。いくつかの態様において、およそ200〜400 mMのNaCl濃度により、基質の自発的変換の発生を低減しながらハムスター、ヒツジ、シカおよびヒトPrP-resの高感度検出が可能になる。いくつかの態様において、0.002%超の濃度での界面活性剤は、RTQ反応に含まれない。
【0122】
QuICが利用されるなら、PrP-resはThT蛍光以外の手段により、例えば、抗体の使用により検出することができる(下記参照)。ある例では、反応混合物をrPrP-res
(Sc)の検出の前にプロテイナーゼK (これは反応混合物中に残存するrPrP
Cを消化する)で消化する。2つのタイプのミスフォールドタンパク質、つまり1つは自発的に生じるもの(rPrP-res
(spon))およびもう1つは試験サンプル中のプリオンの存在によって開始されるもの(rPrP-res
(Sc))がQuIC反応において作出されうる。したがって、前者と後者の識別は、プロテイナーゼKへの曝露によって作出された異なるタンパク質断片サイズに基づいて行うことができる。形成されるrPrP-res
(spon)の量の、予想外にずば抜けた減少は、QuICアッセイ法で達成される。したがって、RT-QuIC (RTQ) (これはチオフラビンTを含む)反応では、プロテイナーゼK処理に供される必要がない。したがって、この段階は任意選択的である。
【0123】
SQおよびRTQのような、本明細書において開示される方法の全てが種々の条件の下でうまく働く。いくつかの態様において、特異的プリオン/PrP-resシードSQを支持する最適な条件には、イオン性および/または非イオン性界面活性剤のような、界面活性剤の使用が含まれる。この条件では、およそ0.05〜0.1%の、SDSのような、イオン性界面活性剤の使用を含めることができる。この条件では、反応混合物中およそ0.05〜0.1%の、TX-100のような非イオン性界面活性剤の使用を含めることもできる。
【0124】
PrP
C基質に関して、SQおよびRTQアッセイ法では、標的PrP-resの異種間増幅を行うことができることも分かった。実際、ヒトプリオンの増幅のためのSQおよびRTQ反応においてrHaPrPおよびキメラrPrP
Cを用いることができる。rHaPrPは、rPrP-res
(spon)副産物の形成を最小限に抑えてこれらの凝集体の形成を促進する構造を有するものと思われる。ゆえに、rHaPrP
C、およびHaPrP構成成分を含むキメラを用いて、ヒト、ヒツジ、ウシまたはシカから採取されたサンプルのような、ハムスター以外の種から採取されたサンプルにおいて標的PrP-resを増幅させることができる。
【0125】
反応において用いられるPrP
Cは、組み換えプリオンタンパク質、例えば該タンパク質を過剰発現させるために遺伝子操作された細胞由来のプリオンタンパク質であることができる。rPrP
Cを作出するために任意のプリオンタンパク質配列、例えば: アフリカツメガエル(Xenopus laevis) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: NP001082180)、ウシ(Bos Taurus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: CAA39368)、ゼブラフィッシュ(Danio verio) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: NP991149)、クーズー(Tragelaphus strepsiceros) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: CAA52781)、ヒツジ(Ovis aries) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: CAA04236)、アカミミガメ(Trachemys scripta) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: CAB81568)、ニワトリ(Gallus gallus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAC28970)、ドブネズミ(Rattus norvegicus) NP036763)、ハツカネズミ(Mus musculus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: NP035300)、ハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: NP001035117)、ヒト(Homo sapiens) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: BAA00011)、キリン(Giraffa camelopardalis) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAD13290)、アナウサギ(Oryctolagus cuniculus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: NP001075490)、アカゲザル(Macaca mulatta) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: NP001040617)、アジアスイギュウ(Bubalus bubalus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30514)、シマカモシカ(Tragelaphus imberbis) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30511)、ニルガイ(Boselaphus tragocamelus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30507)、ガウル(Bos garus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV 30505)、アメリカバイソン(Bison bison) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30503)、バンテン(Bos javanicus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30498)、アフリカスイギュウ(Syncerus caffer caffer) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30492)、アフリカアカスイギュウ(Syncerus caffer nanus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30491)、およびコブウシ(Bos indicus) (GENBANK(登録商標)アクセッション番号: AAV30489)を用いることができる。これらのGENBANK(登録商標)配列は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0126】
いくつかの態様において、部分的なプリオンタンパク質配列だけがrPrP
Cとして発現される。例えば、ある種の例では、rPrP
Cはハムスター(SEQ ID NO: 8)もしくはマウス(SEQ ID NO: 9)プリオンタンパク質配列のアミノ酸残基番号23〜231 (SEQ ID NOS: 1, 2)または他のプリオンタンパク質配列の対応するアミノ酸、例えばヒト(129M)プリオンタンパク質(SEQ ID NO: 10)のアミノ酸残基番号23〜231 (SEQ ID NO: 3)、ヒト(129V)プリオンタンパク質(SEQ ID NO: 11)のアミノ酸残基番号23〜231 (SEQ ID NO: 4)、ウシ(6-オクタリピート)プリオンタンパク質のアミノ酸残基番号25〜241 (SEQ ID NO: 5)、ヒツジ(136A 154R 171Q)プリオンタンパク質のアミノ酸残基番号25〜233 (SEQ ID NO: 6)、またはシカ(96G 132M 138S)プリオンタンパク質のアミノ酸残基番号25〜234 (SEQ ID NO: 7)を含む。rPrP
Cとして発現される部分的なプリオンタンパク質配列は、天然の成熟全長PrP
C分子のポリペプチド配列に対応し、rPrP
Cポリペプチドがアミノ末端シグナル配列とカルボキシ末端グリコホスファチジルイノシトールアンカー付着配列の両方を欠くことを意味しうる。別の例では、ヒト、ヒト129V、ウシ、ヒツジまたはシカのいずれか1つのアミノ酸残基番号30〜231、40〜231、50〜231、60〜231、70〜231、80〜231または90〜231が、本明細書において記述されるアッセイ法において利用される。当業者は、SEQ ID NO: 1〜11に提供されている配列情報を用いて、またはGENBANK(登録商標)において利用可能な(2007年7月20日付で利用可能な通りの)情報を用いて、これらのポリペプチドを容易に産生することができる。
【0127】
rPrP
Cは、タンパク質の一部分が1つの種由来であり、かつタンパク質の一部分がもう1つの種由来であるキメラrPrP
Cであることができ、これを利用することもできる。1つの例では、rPrP
Cのおよそ10〜およそ90%、例えばおよそ10%、およそ20%、およそ30%、およそ40%、およそ50%、およそ60%、およそ70%、およそ80%またはおよそ90%が1つの種由来であり、かつ、それに対応して、およそ90%、およそ80%、およそ70%、およそ60%、およそ50%、およそ40%、およそ30%、およそ20%またはおよそ10%がもう1つの種由来である。キメラタンパク質は、例えば、ハムスターrPrP
Cおよび別の種由来のrPrP
C、例えばヒトPrP
Cを含むことができる。別の態様において、キメラタンパク質はハムスターPrP
CおよびヒツジPrP
Cを含む。キメラハムスター・ヒツジrPrP
C構築体は、例えば、非限定的に、ヒトvCJDプリオンの検出のために、用いることができる。1つの態様において、キメラ分子が、シリアンハムスター配列のものであった残基番号23〜137およびヒツジ由来の残基番号141〜234 (R154, Q171多型)と相同であった残りの残基番号138〜231を含む、キメラrPrP
C (Ha-S PrP
Cと名付けた)が用いられる。
【0128】
いくつかの態様において、rPrP
Cを産生するために、rPrP
C、例えばヒト、ウシ、ヒツジもしくはハムスターrPrP
C、またはそのキメラ形態を発現する核酸ベクターで宿主細胞を形質転換する。これらの細胞は哺乳類細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、または生物そのもの、例えば遺伝子導入マウスであることができる。他の細胞もPrP
Cの供給源となりうる。特定の例では、細胞は大腸菌細胞のような、細菌細胞である。rPrP
C発現細胞または、場合によっては、raw細胞溶解物から精製されたrPrP
Cを、非病原性タンパク質の供給源として用いることができる。
【0129】
いくつかの態様において、組み換えタンパク質はさらなるアミノ酸配列と融合される。例えば、過剰発現されるタンパク質を精製のために、またはサンプル中の該タンパク質の検出を容易にするためにタグ付けすることができる。作出されうる可能な融合タンパク質のなかには、ヒスチジンタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ならびにFlagおよびmycタグ付rPrPが含まれる。これらのさらなる配列は、組み換えタンパク質の精製および/または検出を補助するために用いることができ、場合によっては、プロテアーゼ切断によって後に除去される。例えば、特定のプロテアーゼ切断部位のコード配列を、PrP
Cコード配列と精製タグコード配列との間に挿入することができる。そのような配列の1つの例は、トロンビンに対する切断部位である。かくして、融合タンパク質をプロテアーゼで切断して、PrP
Cを精製タグから遊離させることができる。
【0130】
当業者に公知の多種多様のベクターのいずれかを用いて、rPrP
Cを過剰発現させることができる。例えば、プラスミドまたはウイルスベクターを用いることができる。これらのベクターは、トランスフェクション(例えば、リポソーム、リン酸カルシウム、エレクトロポレーション、粒子衝突などによる)、形質転換、およびウイルス形質導入を含むが、これらに限定されない、種々の方法によって細胞に導入することができる。
【0131】
組み換えPrP
Cは、野生型配列と比べて置換、挿入、欠失および停止コドンを含んだアミノ酸配列を有するタンパク質を含むこともできる。ある種の態様において、タンパク質がプリオン形態に変換された後にタンパク質の不活化を可能とするために、プロテアーゼ切断配列を加える。例えば、トロンビン、タバコエッチ病ウイルス(Life Technologies, Gaithersburg, Md.)または第Xa因子(New England Biolabs, Beverley, Mass.)プロテアーゼによって認識される切断配列を配列に挿入することができる。いくつかの態様において、タンパク質がPrP-resシード形態に転換された後にタンパク質を不活化することは、反応から生じるrPrP-res
(Sc)が感染性をほとんどまたは全く持たないので、不要である。
【0132】
pPrP
Cタンパク質コード配列の中に、例えば、マウス、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカおよび/またはエルク・プリオンタンパク質に対するコード配列(それぞれ、GENBANK(登録商標)アクセッション番号NM_011170、NM_183079、AY335912、AY723289、AY723292、AF156185およびAY748455、これらの全てが参照により本明細書に組み入れられる、2007年7月20日)の中に変化を作出することもできる。例えば、さまざまな哺乳類プリオンタンパク質遺伝子に対して知られている種々の変異および多型に適合するように変異を作出することができる(例えば、表1を参照のこと)。さらに、(例えば異なる宿主種または株由来の) 2つまたはそれ以上の異なる天然PrP配列由来の配列を含むキメラPrP分子を、組み換えPrP遺伝子配列によりベクターから発現させることができ、そのようなキメラをさまざまな種由来のプリオンのRT-QuICおよびQuIC検出のために用いることができる。これらの変化させたプリオンタンパク質遺伝子を発現する細胞を、rPrP
Cの供給源として用いることができ、これらの細胞は、変異体rPrP遺伝子を内在的に発現する細胞、または発現ベクターの導入によって変異体rPrPタンパク質を発現するように作出された細胞を含むことができる。変異rPrP
Cの使用は有利でありうる。というのは、これらのタンパク質のなかには、プロテアーゼ耐性型にいっそう容易にもしくは特異的に変換されるか、または自発的(プリオン非依存的な)変換の傾向が少なく、かくして、方法の感度をさらに増強できるものもあるからである。
【0133】
ある種の態様において、システイン残基がハムスタープリオンタンパク質配列の位置番号94および95に、それらの部位でrPrPを、マレイミドに基づく官能基に連結されたピレンおよびフルオレセインのような、スルフヒドリル反応性標識により選択的に標識できるように配置する。ある種の態様において、これらのタグは変換を妨げないが、しかし反応産物の、はるかに迅速な、蛍光に基づく検出を可能にする。1つの例では、rPrP-res
(Sc)の隣接分子中のピレンが、エキシマー形成を可能とするのに十分にごく接近した状態で保持され、これが蛍光放射スペクトルを異なるかつ検出可能な形でシフトさせる。未変換のrPrP
C分子から、または未変換のrPrP
C分子上に放出された遊離ピレンは、エキシマー対を形成する可能性が低い。したがって、反応をマルチウェルプレート中で行い、これをプロテイナーゼKで消化することができ、その後、エキシマー蛍光を測定して、rPrP-res
(Sc)の存在について素早く調べることができる。位置番号94および95の部位を標識のために選んだが、これは、PrP-resのこの領域におけるPK耐性がrPrP-res
(Sc)とrPrP-res
(spon)とを区別し、17 kDaのrPrP-res
(Sc)のバンドを生じるからである。17 kDaのrHa PrP-res
(Sc)断片を全てのrHaPrP-res
(spon)断片から区別するPK耐性領域における他の位置も、この目的に役立ちうる。
【0135】
組み換えプリオンタンパク質(rPrP
C)は、当業者に公知の任意の方法によって産生することができる。1つの例では、プリオンタンパク質をコードする核酸配列を産生するための方法として、インビトロでの核酸増幅(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような)を利用することができる。PCRは、例えば、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis et al., San Diego, CA:Academic Press, 1990)、またはPCR Protocols, Second Edition (Methods in Molecular Biology, Vol. 22, ed. by Bartlett and Stirling, Humana Press, 2003)に記述されている標準的な技法である。
【0136】
PCRにより組み換えプリオンタンパク質をコードする核酸配列を産生するための代表的な技法は、プリオンタンパク質をコードする配列を含む標的核酸分子を含んだサンプルを調製する段階を伴う。例えば、DNAまたはRNA (mRNAもしくは全RNAのような)は、PCR反応に適した標的核酸分子となりうる。任意で、標的核酸分子は、当業者に周知の種々の方法(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. and Wiley-Intersciences, 1992)のいずれか1つによって細胞から抽出されてもよい。プリオンタンパク質は種々の哺乳類細胞において発現される。RNAが初期標的である例では、RNAを(当技術分野において一般的に知られている無数の逆転写酵素の1つを用い)逆転写して、その後の増幅のための二本鎖鋳型分子を産生する。この特定の方法は、逆転写酵素(RT)-PCRとして公知である。RT-PCRのための代表的な方法および条件は、例えば、Kawasakiら(In PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Innis et al. (eds.), 21-27, Academic Press, Inc., San Diego, California, 1990)に記述されている。
【0137】
増幅プライマーの選択は、増幅される標的核酸分子の部分にしたがってなされよう。さまざまな態様において、プライマー(典型的には、プリオンをコードする核酸配列の少なくとも10個の連続ヌクレオチド)は、プリオンをコードする配列の全部または一部を増幅するように選ぶことができる。異なる長さおよび組成のプライマーおよび単位複製配列を適応させるには、増幅条件の変化が必要とされうる; そのような考察は、当技術分野において周知であり、例えば、Innisら(PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, San Diego, CA: Academic Press, 1990)に論じられている。提供されたプリオンタンパク質をコードする核酸配列から、当業者は、プリオンタンパク質をコードする配列の全部または一部を成功裏に増幅できる多くの異なるプライマーを容易にデザインすることができる。
【0138】
本明細書において記述されるように、いくつかのプリオンタンパク質をコードする核酸配列が公知である。特定の核酸配列が開示されるが、当業者は、本明細書において記述される機能を有する多くの関連配列、例えば、プリオンタンパク質の保存的変種をコードする核酸分子も提供されることを理解するであろう。2つの核酸分子が密接に関連する(例えば、互いの変種である)ことの1つの指標は、配列間で共有される配列同一性のレベルに関して表される2つの核酸配列間のまたは2つのアミノ酸配列間の類似性の尺度である、配列同一性である。配列同一性は、典型的には、%同一性に関して表される; %が高ければ、それだけ2つの配列は類似している。
【0139】
比較のために配列をアラインメントさせる方法は、当技術分野において周知である。さまざまなプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970; Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988; Higgins and Sharp, Gene 73:237-244, 1988; Higgins and Sharp, CABIOS 5: 151-153, 1989; Corpet et al., Nucleic Acids Research 16: 10881-10890, 1988; Huang, et al., Computer Applications in the Biosciences 8:155-165, 1992; Pearson et al., Methods in Molecular Biology 24:307-331, 1994; Tatiana et al., (1999), FEMS Microbiol. Lett., 174:247-250, 1999に記述されている。Altschulらは、配列アラインメント法および相同性計算の詳細な考察を提示している(J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)。
【0140】
National Center for Biotechnology Information (NCBI) Basic Local Alignment Search Tool (BLAST(商標), Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)は、National Center for Biotechnology Information (NCBI, Bethesda, MD)を含むいくつかの供給元から利用可能であり、インターネット上で、配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと接続して用いる。このプログラムを用いて配列同一性を判定する方法の説明は、インターネット上のBLAST(商標)についてのヘルプセクション下で入手可能である。
【0141】
およそ30アミノ酸超のアミノ酸配列の比較については、BLAST(商標) (Blastp)プログラムの「Blast 2配列」機能を、デフォルトパラメータ(ギャップ開始コスト[デフォルト = 5]; ギャップ伸長コスト[デフォルト = 2]; ミスマッチについてのペナルティ[デフォルト = -3]; マッチについての報酬[デフォルト = 1]; 期待値(E) [デフォルト = 10.0]; ワードサイズ[デフォルト = 3]; 1行記載の数(V) [デフォルト = 100]; 示すアラインメントの数(B) [デフォルト = 100])に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックスを用いて利用する。短いペプチド(約30アミノ酸未満)をアラインメントさせる場合、アラインメントは、デフォルトパラメータ(開始ギャップ9、伸長ギャップ1ペナルティ)に設定されたPAM30マトリックスを利用するBlast 2配列機能を用いて行われるべきである。参照配列とよりいっそう高い類似性を有するタンパク質は、この方法で評価した場合、関心対象の配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性のような、%同一性の増加を示す。
【0142】
核酸配列の比較については、BLAST(商標) (Blastn)プログラムの「Blast 2配列」機能を、デフォルトパラメータ(ギャップ開始コスト[デフォルト = 11]; ギャップ伸長コスト[デフォルト = 1]; 期待値(E) [デフォルト = 10.0]; ワードサイズ[デフォルト = 11]; 1行記載の数(V) [デフォルト = 100]; 示すアラインメントの数(B) [デフォルト = 100])に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックスを用いて利用する。参照配列とよりいっそう高い類似性を有する核酸配列は、この方法で評価した場合、関心対象のプリオン配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性のような、%同一性の増加を示す。
【0143】
配列同一性の別の指標は、核酸ハイブリダイゼーションである。ある種の態様において、プリオンタンパク質をコードする核酸変種は、例えば、低いストリンジェンシー、高いストリンジェンシー、または非常に高いストリンジェンシー条件の下で、開示の(またはさもなくば公知の)プリオンタンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズする。特定の程度のストリンジェンシーを生じるハイブリダイゼーション条件は、最適なハイブリダイゼーション法の性質ならびにハイブリダイズする核酸配列の組成および長さに応じて変化する。一般的に、ハイブリダイゼーションの温度およびハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度(とりわけNa
+濃度)によって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーが決定されるが、洗浄回数もストリンジェンシーに影響を及ぼす。特定の程度のストリンジェンシーを得るために必要とされるハイブリダイゼーション条件に関する計算は、Sambrook et al. (ed.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989, chapters 9 and 11により論じられている。
【0144】
以下は、代表的なハイブリダイゼーション条件であり、限定するものであると意図されない。
非常に高いストリンジェンシー(少なくとも90%の配列同一性を共有する配列を検出する)
ハイブリダイゼーション: 16時間65℃で5×SSC
洗浄2回: 各15分間室温(RT)で2×SSC
洗浄2回: 各20分間65℃で0.5×SSC
高いストリンジェンシー(少なくとも80%の配列同一性を共有する配列を検出する)
ハイブリダイゼーション: 16〜20時間65℃〜70℃で5×〜6×SSC
洗浄2回: 各5〜20分間RTで2×SSC
洗浄2回: 各30分間55℃〜70℃で1×SSC
低いストリンジェンシー(少なくとも50%の配列同一性を共有する配列を検出する)
ハイブリダイゼーション: 16〜20時間RT〜55℃で6×SSC
洗浄少なくとも2回: 各20〜30分間RT〜55℃で2×〜3×SSC。
【0145】
類似の生化学的特性を有するアミノ酸に代えて1つまたはいくつかのアミノ酸を用いること(いわゆる保存的置換)を含む、プリオンタンパク質変種を本記述の方法において用いることもできる。保存的アミノ酸置換は、PrP-resに変換するその能力のような、得られるタンパク質の活性に対してわずかな影響しか及ぼさない可能性がある。保存的置換に関するさらなる情報は、例えば、Ben Bassatら(J. Bacteriol., 169:751-757, 1987)、O'Reganら(Gene, 77:237-251, 1989)、Sahin-Tothら(Protein Sci., 3:240-247, 1994)、Hochuliら(Bio/Technology, 6: 1321-1325, 1988)のなかで、ならびに遺伝学および分子生物学の広く用いられているテキストブックのなかで見出すことができる。ある例では、プリオンタンパク質変種は、最大で3個、5個、10個、15個、20個、25個、30個、40個、または50個の保存的アミノ酸変化を有することができる。以下の表は、本主張のアッセイ法においてなお使用されうるような、プリオンタンパク質、例えばSEQ ID NO: 1〜7に示される組み換えプリオンタンパク質に対してなされうる例示的な保存的アミノ酸置換を示す。
【0147】
組み換え(または天然)供給源からPrP
Cを精製するために、この組成物は、さまざまな他の成分を組成物から除去するための分画に供される。タンパク質精製で用いるのに適したさまざまな技法は、周知である。これらには、例えば、硫酸アンモニウム、PTA、PEG、抗体などを用いる、または熱変性とその後の遠心分離による沈降; 金属キレート、イオン交換、ゲルろ過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、レクチン親和性および他の親和性クロマトグラフィー段階のようなクロマトグラフィー段階; 等電点電気泳動; ゲル電気泳動; ならびにそのような技術および他の技術の組み合わせが含まれる。
【0148】
IV. rPrP-res
(Sc)増幅アッセイ法のためのサンプルの供給源
本明細書において記述される方法を用いて分析されるサンプルは、プリオンで汚染されうる任意の組成物を含むことができる。そのような組成物は、血漿、血液、リンパ節、脳、脊髄、扁桃、脾臓、皮膚、筋肉、虫垂、嗅上皮、脳脊髄液、尿、糞便、乳、腸、涙および/または唾液を含むが、これらに限定されない、組織サンプル、生検サンプルまたは体液を含むことができる。サンプルは、ヒトサンプルまたはウシ、ヒツジもしくはシカ由来のサンプル等であるがそれらに限定されない、動物サンプルであることができる。本開示の方法はまた、ウシ、ヒツジおよびシカにおけるような、プリオンを含まない群れ/集団の認証のために用いることもできる。
【0149】
例えば、分析のためにサンプルを採取できる他の組成物には食料品、医薬剤(動物に由来する生物剤のような)、飲料水、法医学的な証拠、手術用具、および/または機械装置が含まれる。したがって、試験されうるサンプルには、プリオンによる汚染がないことを確実とするように生物工学製品ならびに環境サンプル(水、土壌、植物、埋め立てごみ、下水のような)および農業サンプル(動物に基づく食品、動物に基づく飼料および栄養補助食品、動物の老廃物、副産物、死骸、食肉処理場からの廃棄物、特定危険部位のような)が含まれる。
【0150】
V. ThTなしで増幅混合物中のrPrP-res
(Sc)を検出するための方法
rPrP
C増幅を用いて、例えばrPrP-PMCA (QUICアッセイ法のような)を用いて、rPrP-res
(Sc)が作出されたら、rPrP-res
(Sc)を反応混合物中で検出することができる。反応混合物中のrPrP-res
(Sc)の検出のために、直接的および間接的方法を用いることができる。ThTを用いた検出は前述されている。rPrP-res
(Sc)が直接検出される方法では、新たに形成されたrPrP-res
(Sc)を、残っているrPrP
Cから分離することが通常必要とされる。これは、典型的には、rPrP
Cに対して異なるrPrP-res
(Sc)の性質に基づいて達成される。例えば、rPrP-res
(Sc)は、典型的には、高度に不溶性であり、プロテアーゼ処理に対して耐性である。それゆえ、rPrP-res
(Sc)およびrPrP
Cの場合、分離は、例えばプロテアーゼ処理によるものであることができる。側方流動アッセイ法またはSOPHIAを用いることもできる。
【0151】
A. プロテアーゼ処理
rPrP-res
(Sc)およびrPrP
Cをプロテアーゼ処理により分離する場合、反応混合物を、例えば、プロテイナーゼK (PK)とともにインキュベートする。例示的なプロテアーゼ処理は、1〜20 μg/mlのPKを含む反応混合物中での、タンパク質、例えばrPrP
Cの37℃およそ1時間の消化を含む。PMSFまたは電気泳動サンプル緩衝液の添加によってプリオンレベルの評価の前にPKとの反応を停止することができる。サンプルの性質に依るが、1〜50 μg/mlのPKとの37℃でのインキュベーションは一般に、rPrP
Cを除去するのに十分である。
【0152】
立体構造形成抗体、ある種の核酸、プラスミノゲン、PTAおよび/またはさまざまなペプチド断片を含め、タンパク質のミスフォールド形態を特異的に結合し、沈降させるリガンドの使用により、rPrP-res
(Sc)をrPrP
Cから分離することもできる。
【0153】
B. ウエスタンブロット
ある例では、分画してまたはプロテアーゼで処理してrPrP
Cを除去した反応混合物は次に、rPrP-res
(Sc)の検出およびrPrP-res
(Sc)とrPrP-res
(spon)との識別のためにウエスタンブロットに供される。典型的なウエスタンブロット手順は、還元条件下のドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によりタンパク質を分画することで始められる。タンパク質を次いで、ニトロセルロースまたはPVDFのような、メンブレン上に電気ブロットし、抗プリオンタンパク質抗体との、免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能とするのに有効な条件の下で、プローブする。プリオンタンパク質の検出のための例示的な抗体には、3F4モノクローナル抗体、モノクローナル抗体D13 (残基番号96〜106に対して作製された(Peretz et al. (2001) Nature 412, 739-743))、ポリクローナル抗体R18 (残基番号142〜154に対して作製された)、およびR20 (C末端の残基番号218〜232に対して作製された) (Caughey et al. (1991) J. Virol. 65, 6597-6603)が含まれる。
【0154】
複合体形成に続き、メンブレンを洗浄して、複合化していない材料を除去する。例示的な洗浄手順には、PBS/Tweenまたはホウ酸塩緩衝液のような溶液での洗浄が含まれる。免疫反応性のバンドは、当業者に公知の種々のアッセイ法により視覚化される。例えば、高感度化学発光アッセイ法(Amersham, Piscataway, N.J.)を用いることができる。
【0155】
必要に応じて、プリオンタンパク質濃度は、ウエスタンブロット、引き続き濃度分析、およびプリオンタンパク質の濃度が知られているサンプルのウエスタンブロットとの比較により推定することができる。例えば、これは、コンピュータ中でのデータのスキャニング、引き続き定量化ソフトウェアでの分析により達成することができる。信頼性のある確固たる定量を得るために、いくつかの異なるサンプル希釈物が一般に、同じゲル中で分析される。
【0156】
C. ELISA、免疫クロマトグラフィーストリップアッセイ法、および立体構造依存免疫アッセイ法
前述のように、免疫アッセイ法はその最も単純で直接的な意味において、結合アッセイ法である。使用される特定の非限定的な免疫アッセイ法には、さまざまなタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、免疫クロマトグラフィーストリップアッセイ法、放射免疫アッセイ法(RIA)、および特に立体構造依存免疫アッセイ法が含まれる。
【0157】
1つの例示的なELISAにおいて、抗PrP抗体は、ポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェルのような、タンパク質親和性を示す選択された表面上に固定化される。次いで、プリオンタンパク質抗原を含有するのではないかと疑われる反応混合物を、ウェルに加える。結合させてから、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後に、結合したプリオンタンパク質を検出することができる。検出は一般に、検出可能な標識に連結されているもう1つの抗PrP抗体の添加によって達成される。このタイプのELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出は、第2の抗PrP抗体の添加、引き続き、第2の抗体に対する結合親和性を有する第3の抗体であって、検出可能な標識に連結されている該第3の抗体の添加によっても達成することができる。
【0158】
もう1つの例示的なELISAにおいて、プリオンタンパク質抗原を含有するのではないかと疑われる反応混合物を、ウェル表面上に固定化し、その後、抗PrP抗体と接触させる。結合させてから、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後に、結合した抗プリオン抗体を検出する。最初の抗PrP抗体が検出可能な標識に連結される場合、免疫複合体を直接検出することができる。ここでも、第1の抗PrP抗体に対する結合親和性を有する第2の抗体であって、検出可能な標識に連結されている該第2の抗体を用いて免疫複合体を検出することができる。
【0159】
反応混合物のタンパク質が固定化される別のELISAでは、検出における抗体の競合の使用を伴う。このELISAにおいては、プリオンタンパク質に対する標識抗体をウェルに加え、結合させ、その標識によって検出する。所与の反応混合物中のプリオンタンパク質抗原の量を次いで、コーティングされたウェルとのインキュベーションの前または間に、プリオンに対する標識抗体と混合することによって判定する。サンプル中のプリオンタンパク質の存在は、ウェルに結合するのに利用されうるプリオンに対する抗体の量を低減させるように作用し、これにより、最終シグナルを低減させる。かくして、サンプル中のプリオンの量を定量化することができる。
【0160】
利用される形式に関わらず、ELISAは、コーティング、インキュベーティングまたは結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、および結合した免疫複合体の検出のような、共通してある種の特徴を有する。これらを以下に記述する。
【0161】
プレートを抗原または抗体のどちらかでコーティングする際に、通常、プレートのウェルを抗原または抗体の溶液とともに、終夜または特定の時間の間インキュベートする。プレートのウェルを次に、洗浄して不完全に吸着した材料を除去する。ウェルの残りの利用可能な表面を次に、試験抗体に対して抗原的に中性の非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらは、ウシ血清アルブミン、カゼイン、および粉乳の溶液を含む。コーティングは、固定化表面上の非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、それによって、表面への抗体の非特異的結合により引き起こされるバックグラウンドを低減させる。
【0162】
ELISAでは直接的手順よりもむしろ2次的または3次的検出手段を用いることが常であるが、これはいつでも当てはまるというわけではない。したがって、タンパク質または抗体をウェルに結合させ、非反応性材料でコーティングしてバックグラウンドを低減させ、洗浄して非結合材料を除去した後に、免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能とするのに効果的な条件の下で、固定化表面を、試験される生体サンプルと接触させる。その結果、免疫複合体の検出には、標識された2次結合性リガンドもしくは抗体、または、標識された3次抗体もしくは3次結合性リガンドとの組み合わせで2次結合性リガンドもしくは抗体が必要とされる。
【0163】
「免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能とするのに効果的な条件の下で」は、条件に、好ましくは、BSA、ウシγグロブリン、乳タンパク質、およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenのような溶液での抗原および抗体の希釈が含まれることを意味する。添加されるこれらの作用物質は、非特異的バックグラウンドの低減を補助する傾向もある。「適当な」条件は、効果的な結合を可能とするのに十分な温度および時間でインキュベーションが行われることも意味する。インキュベーション段階は、典型的には、好ましくは約25℃〜27℃の温度で、およそ1〜2〜4時間であり、またはおよそ4℃くらいで終夜であってもよい。
【0164】
ELISAにおける全てのインキュベーション段階に続いて、接触された表面を、非複合化材料を除去するように洗浄する。例示的な洗浄手順には、PBS/Tweenまたはホウ酸塩緩衝液のような溶液での洗浄が含まれる。試験サンプルと、もともと結合されている材料との間での特異的免疫複合体の形成、およびその後の洗浄に続いて、ごく微量の免疫複合体の存在を判定することができる。
【0165】
検出手段を提供するために、第2または第3の抗体は一般に、検出を可能とするように結合された標識を有する。ある例では、これは、適切な発色性基質とインキュベートすることによって発色をもたらす酵素である。したがって、例えば、第1または第2の免疫複合体を、さらなる免疫複合体の形成の進行に有利に働く時間および条件の下で、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたは水素ペルオキシダーゼ結合抗体と接触およびインキュベートする(例えば、PBS-TweenのようなPBS含有溶液中で室温にて2時間のインキュベーション)。
【0166】
標識抗体とのインキュベーションと、それに続き洗浄して未結合の材料を除去した後に、標識の量を、例えば、酵素標識としてのペルオキシダーゼの場合、尿素およびブロモクレゾールパープルまたは2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホン酸)およびH
2O
2のような発色性基質とのインキュベーションによって定量化する。定量化は次に、発色の程度を、例えば、可視スペクトル分光光度計を用いて測定することにより達成される。
【0167】
D. rPrP
C標識化
ある種の態様において、rPrP-res
(Sc)に変換されるタンパク質の高感度の検出を可能とするように組み換えrPrP
C基質タンパク質を標識することができる。例えば、rPrP
Cを放射性標識し、エピトープタグを付し、または蛍光標識してもよい。標識は、直接的または間接的に検出することができる。放射性標識は
125I、
32P、
33Pおよび
35Sを含むが、これらに限定されることはない。
【0168】
標識タンパク質を含有する混合物を、QuICのような、増幅アッセイ法に供し、未変換タンパク質を例えばタンパク質分解によって除去した後に標識タンパク質の変換を追跡することにより、産物を高感度で検出する。あるいは、変換中に誘発される立体構造変化の際にシグナルを検出できるようにタンパク質を標識することができる。この例は、再び折り畳まれたときに蛍光エネルギーを交換するのに十分な程に近づく2つの適切なフルオロフォアによりタンパク質を標識する、FRET技術の使用である(例えば米国特許第6,855,503号を参照のこと)。
【0169】
ある種の態様において、システイン残基がハムスタープリオンタンパク質配列の位置番号94および95に、それらの部位でrPrP
Cを、マレイミドに基づく官能基に連結されたピレンおよびフルオレセインのような、スルフヒドリル反応性標識により選択的に標識できるように配置する。ある種の態様において、これらのタグは変換を妨げないが、しかし反応産物の、はるかに迅速な、蛍光に基づく検出を可能にする。1つの例では、rPrP-res
(Sc)の隣接分子中のピレンが、エキシマー形成を可能とするのに十分にごく接近した状態で保持され、これが蛍光放射スペクトルを異なるかつ検出可能な形でシフトさせる。未変換のrPrP
C分子から、または未変換のrPrP
C分子上に放出された遊離ピレンは、エキシマー対を形成する可能性が低い。したがって、rPrP-res
(Sc)増幅反応をマルチウェルプレート中で行い、これをプロテイナーゼKで消化することができ、その後、エキシマー蛍光を測定して、rPrP-res
(Sc)の存在について素早く調べることができる。位置番号94および95の部位を標識のために選んだが、これは、構成成分PrP分子のこの領域におけるPK耐性がrPrP-res
(Sc)とrPrP-res
(spon)とを区別し、17 kDaのrPrP-res
(Sc)のバンドを生じるからである。17 kDaのrPrP-res
(Sc)断片を全てのrPrP-res
(spon)断片から区別するPK耐性領域における他の位置も、この目的に役立ちうる。
【0170】
ある種の他の態様において、反応のため蛍光的にタグ付けされたrPrP
C基質の使用を、固定化rPrP-res
(Sc)特異抗体(例えば、Prionics AG, Schlieren-Zurich, Switzerlandからの)での免疫クロマトグラフィーストリップ試験の使用と組み合わせる。rPrP-res
(Sc)の抗体への結合を次に、蛍光検出器で検出する。
【0171】
本開示を以下の非限定的な実施例によって例示する。
【実施例】
【0172】
TSEは、概して、治療できず、不可逆性の臨床的減退または臨床的死の前に確定診断することが難しい。種内および種間でのTSEの伝播性は、ごく少量の感染性に対しての実用的検査の必要性を強調するものである。現在、大部分のインビトロでの方法には、日常的な診断またはスクリーニングの用途においてそれらを用いることを除外しうる大きな制約がある。
【0173】
医学、農学、および野生動物学において伝染性海綿状脳症(TSE)またはプリオン病を管理するうえで鍵となる課題は、感染レベルにある、または感染レベル未満にあるプリオンの実用的検査の開発である。特に関心があるのは、血漿のような血液成分中のプリオンを検出できる検査であるが、しかし血液は、典型的には、極端に低いプリオン濃度を有し、最も感度の高いプリオン検査の阻害剤を含有する。本明細書において開示されるように、免疫沈降および改良リアルタイムQuIC反応のカップリングにより、ヒト血漿中に希釈された変種クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の検出が劇的に増強された。およそ2 ag/mlのプロテイナーゼK耐性プリオンタンパク質を含有する、10
14倍の希釈物が容易に検出されたことから、以前に報告されていたよりもおよそ10,000倍高い、vCJD脳に対する感度が示唆された。スクレイピー感染ハムスターおよび非感染ハムスター由来の血漿および血清サンプルは、早期の発症前段階においてさえも、識別された。増強QuIC (
enhanced
QuIC; eQuIC)と名付けられた、この組み合わせアッセイ法は、組織、体液または環境サンプル中の低レベルのプリオンの日常的な検出に使用できる著しく高感度なアッセイ法を提供する。
【0174】
実施例1
例示的な方法
以下に提供されるのは、免疫沈降および増幅を含むプリオンタンパク質を検出するための例示的な方法である。提供されるプロトコルは、限定するものであると解釈されるべきではない。
【0175】
A)
DYNABEADS(登録商標)の15B3コーティング
1. ラット抗マウスIgM DYNABEADS(登録商標) (Invitrogen, カタログ番号110.39D)を30秒間ボルテックスする。
2. 15B3抗体コーティング手順のため新しい試験管にビーズのアリコート(例えば250 μl)を移す。
3. 試験管を磁石の上に2分間置き、ビーズ貯蔵緩衝液を除去する。
4. 新鮮なコーティング緩衝液(ろ過し、-4℃で保管しておいた1×PBS中0.1%のBSA): もとのビーズ容量の5倍(例えば1250 μl)を加える。
5. ボルテックスする。
6. 試験管を磁石の上に2分間置き、コーティング緩衝液を除去する(上記参照)。
7. 段階4および5を繰り返す。
8. もとのビーズ容量の5倍(例えば1250 μl)のコーティング緩衝液を加える。
9. 15B3抗体を加え、360 μg/mlの終濃度にてビーズを再懸濁する。
10. 「転倒」回転させながら室温で2時間インキュベートする。
11. もとのビーズ容量の5倍のコーティング緩衝液で3回洗浄する。
12. コーティング緩衝液を用いてもとの容量(例えば250 μl)にてビーズを再懸濁し、-4℃で貯蔵する。
【0176】
B)
ヒト血漿500 μl中での263K/vCJD PrP-resの15B3による免疫沈降
1. 15B3コーティングビーズを30秒間ボルテックスする。
2. 1つの試験管/サンプルあたり、ボルテックスした15B3コーティングビーズ40 μlを分注する。
3. 15B3コーティングビーズを含有する試験管を磁石の上に2分間置き、コーティング緩衝液を除去する。
4. 免疫沈降緩衝液(1×TBS中0.4%のサルコシル) 500 μlをビーズに加える。
1. 免疫沈降緩衝液中のビーズに血漿500 μlを加える(試験管中の全容量は1 mlになる)。
2. 「転倒」回転させながら37℃で24時間インキュベートする。
3. 試験管を磁石の上に2分間置き、緩衝液を取り除く。
4. 1つの試験管あたり、1×TBS (トリス緩衝生理食塩水)緩衝液中0.2%のサルコシル500 μlで2回洗浄する。
5. 洗浄したビーズを1×PBS (ろ過し、室温で保管しておいたリン酸緩衝生理食塩水) 10 μl中に再懸濁し、2 μlを用いて、標準的QuICまたはリアルタイムQuICのシードにする。
【0177】
C)
標準的QuIC (SQ)反応
材料:
a. 反応試験管: スクリューキャップ付きの0.5 mlコニカル微量遠心管(Fisher 02-681-334)
b. 血漿中のプリオンシーディング活性を免疫沈降させるために使用し、4℃で保管しておいた1×PBS中の15B3コーティングビーズ。
c. 10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.8)中のハムスター23-231 rPrP
C
d. 4×QUIC緩衝液(最終組成: 0.4% SDS、0.4% TritonX-100および4×PBS):
10% SDSストック(40 μl/ml)
10% TritonX-100ストック(40 μl/ml)
10×PBSストック(400 μl/ml), pH 6.9:
Na
2HPO
47H
2O 26.8 g/L
NaH
2PO
4H
2O 13.8 g/L
NaCl 75.9 g/L
MilliQ H
2O (520 μl/ml)
【0178】
プロトコル:
1) ハムスター(23-231) rPrP
Cを融解し、タンパク質500 μlを5分間4000×gでスピンさせることにより100 kDのマイクロチューブフィルタ(PALL)でろ過する。
2) 0.1% SDS/PBS中でrPrP
Cを10分の1希釈し、280 nmでUV吸光度を測定する:
[タンパク質mg/mL] = [280 nm吸光度/2.6 (すなわち、PrP吸光係数)×希釈係数 = X mg/mL、ここでX = rPrP
Cストック濃度; 理想的なタンパク質濃度は0.4〜0.3 mg/mlであろう。
注記:
必要なのは100 μLの反応中0.1 mg/mLのrPrP
C = 10 μg/X = Y μl rPrP
C/反応(ここでY= 1反応あたり0.1 mg/mlの終濃度を達成するために加えられるrPrP
Cの容量)
XおよびYは変数である: Xは特定の調製物に依って変化しうるrPrP
Cの濃度であり、およびYは0.1 mg/mlの終濃度を有するように反応に加えられるタンパク質の容量である
反応中の水の量 = 100 - Y - 2 - 25 = Z μlの水/反応(ここでZ= 100 μlの最終反応容量を達成するために加えられる水の容量)。最終反応容量は100 μlであり、そのため、他の全ての構成成分(例えばNaCl、PBS)とともに加えられる必要があるrPrPCの容量が定まれば、100 μlにするための残りの容量は水となる。
3) 上記のように試験管中で反応混合物を調製する(指定された順番で加える)。
第1ラウンドの反応混合物:
rPrP
Cを加える前に、最初の3つの構成成分を5秒間ボルテックスする。気泡の生成を避けるため、rPrP
Cを穏やかに加える。反応試験管に蓋をかぶせるが、ボルテックスはしない。
4) 24×0.5 mlの試験管ブロックを有するエッペンドルフTHERMOMIXER(登録商標)の中に試験管を置く。
5) 1500 rpmで振盪60秒と60秒間振盪なしとを交互に行いながら、試験管をTHERMOMIXER(登録商標) R中で50℃にて8〜10時間インキュベートする。
6) 試験管を短時間スピンさせて、すべての溶液を蓋から下方へ落とす。
7) 第2のQuICラウンドのためにアリコートを取り出す、ならびに/またはPK消化および免疫ブロットアッセイ法の準備をする(下記参照)。
【0179】
第2の標準的QuICラウンド:
1) 上記の第1ラウンドと同じく新鮮な反応試験管中で反応混合物を調製する。注記: 容量を移して第2ラウンドの反応試験管のシードにする直前に、サンプル試験管を穏やかにボルテックスしてすべてのペレットを均等に懸濁する。
2) 上記の段階1および2で述べたように、ろ過し、rPrP
CのA280を測定する。
3) 前のパラグラフで記述したように反応混合物を調製する(指定された順番で加える):
第2ラウンドの反応混合物:
注記: rPrP
Cを加える前に、最初の3つの構成成分を5秒間ボルテックスする。気泡の生成を避けるため、rPrP
Cを穏やかに加える。反応試験管に蓋をかぶせるが、ボルテックスはしない。第1のQuICラウンドの段階4〜7と同じように進める。
4. サンプル10 μlを1%サルコシル/PBS中にて37℃で1時間3 μg/mlのプロテイナーゼKで消化する
5. 各サンプルに4 M尿素を含有する2×サンプル緩衝液15 μlを加える
6. サンプルを1分間ボルテックスする
7. 沸騰水浴中に10分間置く
8. ビーズを取り除くため、サンプルを磁石の上に2分間置き、上清を新鮮な試験管に移す
9. SDS-PAGEゲル上にサンプルを負荷し(15 μl/ウェル)、ウエスタンブロットによって分析する(Orru et al., 2009を参照のこと)。
【0180】
D)
リアルタイム(RT)-QuIC反応
材料:
a. 反応プレート: 96ウェル・オプティカルボトムプレート
b. 10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.8)中のハムスター(90-231) rPrP
CまたはHa-S全長rPrP
C
c. リアルタイムQuIC緩衝液(RTQB), [10 mMリン酸緩衝液(pH 7.4)、300〜400 mM NaCl、0.1 mg/mL rPrP
C、10 μMチオフラビンT (ThT)、および10 mMエチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム塩(EDTA)]
d. 15B3ビーズ前処理用の0.05% SDS/PBS
e. 新鮮に作出: ThT 0.032 g /MilliQ H
2O 10 ml中(10 mM)。
【0181】
プロトコル 第1ラウンドの反応:
1. セクションBに記述した通りの免疫沈降の後、1×PBS中で貯蔵した15B3ビーズを0.05% SDS/PBSと1:1の比率で混合し、ボルテックスする
2. 15B3ビーズを少なくとも15分間室温でインキュベートし、およそ5分ごとにボルテックスする
3. RTQBカクテルを調製する(1ウェルあたりカクテル96 μl×シードされるウェル + 2つの余剰ウェルの数を考慮する)
4.
RT-QuIC混合物/ウェル:
MilliQ水 X μl
5×PBS緩衝液: 20 μl
2 M NaCl: 8.5または13.5 μl
100 mM EDTA: 1 μl
10 mM ThT 1 μl
rPrP
C Y μl
シード(15B3ビーズ + 0.05% SDS/PBS) 4 μl
各ウェル中の各反応には100 μlの最終容量が含まれる。「Y」は、0.1 mg/mlの終濃度を有するように各反応に加えられるrPrPCの容量である。この容量は、加えられるタンパク質の濃度に依って変化する。したがって、1反応あたりに加えられるMilliQ水の容量(「X」)は、その特定の反応に加えられるrPrP
Cの容量に依って変化する。
rPrP
Cを加える前に、最初の5つの構成成分を5秒間ボルテックスし、rPrP
Cを加えた後に穏やかに反転する
5. 1ウェルあたりRTQカクテル96 μlを分注する
6. ウェル中にて直接15B3ビーズ + 0.05% SDS/PBS 4 μlを用いRT-QuIC反応のシードにする
7. プレートシーラー(Nalge Nunc International 265301)でプレートをシールする
8. 42〜46℃にてBMG Polarstarプレートリーダー中でプレートをインキュベートし、振盪による動力学的サイクルとともにおよそ15分ごとにThT蛍光を測定する。
9. 振盪プログラム: 蛍光測定のための最後の1分を除き、700 rpmの二重軌道で1分の振盪、その後、1分の休止。
10. 蛍光測定の設定:
- 励起: 450 nm、放出: 480 nm
- 下方測定、フラッシュ数: 20
- 手動ゲイン: 1000、積分時間: 20 μs
基質補充段階:
11. MilliQ H
2O中10 mMのThTストックを作出する(0.032 g ThT/10 ml MilliQ H2Oを秤量し、ろ過し、氷上に保持する)
12. 以下のようにRT-QuICカクテルを調製する:
13.
RT-QuIC混合物/ウェル:
MilliQ水 X μl
5×PBS緩衝液: 20 μl
2 M NaCl: 8.5または13.5 μl
100 mM EDTA: 1 μl
10 mM ThT 1 μl
rPrP
C Y μl
シード(15B3ビーズ + 0.05% SDS/PBS) 0 μl
14. プレートを10分間3000×gでスピンさせる
15. プレートシーラーをはがし、捨てる
16. ピペットチップでウェルの底面に触れないように注意しながら各ウェルから90 μlをピペットで取り去る
17. 100 μl/ウェルの新鮮な基質を同じウェルに
穏やかに加える
18. プレートを再びシールし(新しいシーラー)、段階8〜10に詳述したようにRT-QuICを行う。
【0182】
実施例2
さらなる材料および方法
組み換えプリオンタンパク質精製:
シリアンゴールデンハムスター(残基番号23〜231; アクセッション番号K02234)、ヒト(残基番号23〜231; アクセッション番号M13899.1) rPrP
Cおよびハムスター・ヒツジキメラrPrP
C [シリアンハムスター残基番号23〜137、その後にR
154、Q
171多型のヒツジ残基番号141〜234 (アクセッション番号AY907689)]を増幅させ、pET41ベクター(EMD Biosciences)に核酸連結し、配列を検証した。タンパク質発現および精製を既述のように行った(例えばWilham et al., PLoS.Pathog. 6:e1001217, 2010; Atarashi et al., Nat.Methods 4:645-650, 2007を参照のこと)。rPrP
Cタンパク質の純度は、SDS-PAGE、免疫ブロッティングおよび質量分析によって推定した場合に、99%以上であった(データ不掲載)。
【0183】
血漿サンプル収集および組織ホモジネート調製:
シリアンゴールデンハムスターの大脳内に1%脳ホモジネート(BH) 50 μlを接種し(
図5)、または263Kスクレイピー株に臨床的に感染したハムスター由来の10
8倍希釈BHを接種し(
図2および3)、脳組織または血液収集前の指定の時間、保持した。低用量のスクレイピーを接種したハムスターは、発病するのにいっそう長い時間がかかったので、組織を、
図5の場合の80 dpiと比べて
図2および3の場合の103〜116 dpiの時点で「ほぼ末期の」ハムスターから収集した。血漿収集のため、ハムスターをイソフルラン深麻酔により安楽死させ、心臓スティックにより放血させた。血液をBD Vacutainer (クエン酸ナトリウム, Becton-Dickinson)試験管にすぐさま移し、穏やかに混合した。サンプルをBeckman J6-HC遠心分離機中にて15分間3000 rpmで遠心分離した。血漿を新しい試験管に移し、-80℃で貯蔵した。ハムスター血清サンプルを同じ方法で、しかしクエン酸ナトリウムなしで収集した。指定時(すなわち、
図2B)、血漿サンプルを、融解後および免疫沈降段階(血漿上清を用いる)の直前に30秒間16kの相対遠心力(rcf)で遠心分離した。プールしたヒト血漿(Innovative Research)を-20℃で貯蔵した。ヒトBH希釈物スパイク実験のため、ヒト血漿アリコートを終夜4℃で融解し、10分2000×gのスピンに供して、沈降した画分を取り除いた。
【0184】
ハムスターおよびヒト10% (w/v) BHを既報(Saa et al., J.Biol.Chem. 281 :35245-35252, 2006)のように作出し、分注し、-80℃で貯蔵した。スパイク実験のため、BHを、それぞれ、S-QuICまたはRT-QuICアッセイ法の場合、130 mM NaClおよびN
2培地添加物(Gibco) (20,21,24)を有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1%または0.1%のSDSのどちらかで連続希釈した。指定したBH希釈物2マイクロリットルを用いて、ヒト血漿0.5 mlにスパイクした。
【0185】
磁気ビーズの15B3コーティング:
ラット抗マウスIgM Dynabeads (Invitrogen)を30秒間ボルテックスし、ビーズ250 μl (ビーズ合計1×10
8個)をコーティング手順のために新しい試験管に移した。磁石上で2分間のインキュベーションの後、ビーズ貯蔵緩衝液を捨て、コーティング緩衝液(PBS中0.1%のBSA; 新鮮作成し、ろ過し、4℃で保持した)を用いもとのビーズ懸濁液の5容量での2回の洗浄を行った。15B3抗体(Prionics) 1 μgあたりビーズ1×10
6個の比率を用いた。試験管を室温で2時間「転倒」回転させながらインキュベートした。次に、コーティング緩衝液でさらに3回の洗浄を行い、ビーズをコーティング緩衝液(最初のビーズ容量)中で再懸濁し、4℃で貯蔵した。モック対照ビーズを15B3について記述したように、しかし15B3抗体の添加なしで調製した。
【0186】
MAGNABIND(商標)ビーズの調製:
MAGNABIND(商標)ビーズ(Pierce, Rockford, IL)を30秒間ボルテックスし、ビーズ合計1.6×10
7個を新しい試験管に移した。ビーズをPBS中0.5%のTriton X-100 500 μlで2回リンスし、アッセイ緩衝液(TBS, 1% Triton X-100, 1% Tween 20)を用いてその最初の容量に再懸濁した。
【0187】
血漿における263KおよびvCJD PrP-resの免疫沈降:
15B3コーティングビーズ、モックビーズまたはMAGNABIND(商標)ビーズを短時間ボルテックスし、ビーズ合計1.6×10
7個を新しい試験管に移した。磁石上で2分間のインキュベーションの後、貯蔵(コーティング)緩衝液を捨て、免疫沈降緩衝液(Prionics) 500 μlを加えた。次に、BHスパイクヒト血漿500 μlまたは非感染動物もしくはスクレーピー陽性動物由来のハムスター血漿500 μlをビーズに加えた。サンプルを室温または37℃で終夜(ON)「転倒」回転させながらインキュベートした。その後、サンプルを磁石上で2分間インキュベートし、血漿・緩衝液の混合液を捨て、ビーズを洗浄緩衝液(Prionics) 500 μlで2回洗浄した。全てのビーズをPBS 10 μlに再懸濁し、新鮮使用した。
【0188】
S-QuICおよびRT-QuIC:
S-QuICアッセイ法は既述(Atarashi et al., Nat.Methods 5:211-212, 2008; Orru et al., Protein Eng Des Sel 22:515-521, 2009)のように行った。15B3コーティングビーズまたはモックビーズS-QuIC反応物にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のビーズ2 μlをそれぞれシードした。RT-QuICは数点の修正を除き既述(Wilham et al., PLoS.Pathog. 6:e1001217, 2010)のように行った。手短に言えば、免疫沈降段階からの15B3コーティングビーズ、モックビーズまたはMagnaBindビーズ(PBS 10 μlに再懸濁した)を0.05% SDS/PBS (1:1の比率)と混ぜ合わせ、室温で20分間インキュベートし、反応物に0.05% SDS/PBS-ビーズ混合物4 μlをシードした。図の説明において別段の指示がない限り、RT-QuIC反応物を46℃でインキュベートした。24時間後にRT-QuIC反応を中断し、プレートを4℃にて10分間3000×gでスピンさせることにより、基質補充を行った。次に、ビーズをかき乱さないように注意しながら、各ウェルから上清90 μlを取り除き、新鮮なrPrP
Cを含有する新しい反応緩衝液100 μlを各ウェルに穏やかに加えた。RT-QuICをさらに36〜60時間続けた。
【0189】
実施例3
SQアッセイ法のための血漿由来プリオンの免疫親和性捕捉
SQおよびRTQアッセイに血漿アリコートを直接加えることにより、ヒトおよびヒツジ血漿サンプルにスパイクしたプリオンを検出しようと試みた。しかし、血漿成分は、別の関連アッセイの阻害が既に報告されていること(Trieschmann et al., 2005)に一致して、両方のアッセイを強力に阻害した。これらの阻害因子は、プリオンを結合することが知られている血清リポタンパク質でありうる(Safar et al., 2006)。したがって、血漿から検出可能な形態でプリオンを捕捉かつ濃縮するように方法を考え出した。
【0190】
モノクローナル抗体15B3を磁気ビーズにカップリングさせることにより、プリオン免疫親和性ビーズを調製した。この抗体は、PrP
Cと比べてPrP-resおよび他のPrPオリゴマーの結合に対する強力な選好性を有する(Korth et al. Nature 390:74-77, 1997; Biasini et al., J.Neurochem. 105:2190-2204, 2008; Biasini et al., PLoS.ONE. 4:e7816, 2009)。15B3をカップリングさせたビーズがヒト血漿0.5 mlから263Kハムスター脳PrP
Scを捕捉する能力を初めに、SQアッセイ法を用いて試験した。既述のように(Atarashi et al., Nat.Methods 5:211-212, 2007; Atarashi et al., Nat.Methods 4:645-650, 2008)、免疫ブロットにおける17 kD、13 kD、12 kDおよび11 kDのプロテアーゼ耐性rPrP-res
(Sc)バンドの特徴的パターンによって陽性反応が示唆された。初期実験から、0.1% SDS前処理とともにHa-S基質を用いたヒツジPrP-resのさらに高感度の検出が示唆された。
【0191】
第1ラウンドの反応産物のアリコートを新鮮なrPrP
C基質にシードすることにより、第2ラウンドの反応を行った。抗IgM抗体でのみ(15B3なしで)コーティングされた対照(モック)ビーズは、例えば、PrP-resおよそ100 fgを含有するスクレイピー脳ホモジネートの4×10
-9希釈物をスパイクした血漿とともにインキュベートされたビーズをシードした、2つの複製された単一ラウンドの反応物の1つにおいて作出された陽性rPrP-res
(Sc)産物によって示されるように、プリオンに対していくらかの親和性を有していた(
図7、星印を付けたレーン)。しかしながら、15B3コーティングビーズは、血漿からのさらに低いレベルのプリオンの捕捉でおよそ100倍効率的であり、PrP-res 1 fg以上を含有する希釈物の検出を可能にした(
図7aおよび7b)。このIP-S-QuICプロトコルでは、ヒトPrP-resおよそ10 fgを含有するvCJD脳ホモジネートの4×10
-10希釈物からさえも(
図1)およびPrP-resおよそ1 fgを含有するスクレイピーハムスター脳の2×10
-11希釈物からさえも(
図7)陽性反応が得られた。対照的に、非TSEヒトまたはハムスター脳ホモジネートをシードした反応においては、陽性のrPrP-res
(Sc)反応産物は得られなかった。さらに、15B3 IP-S-QuICは、ほぼ末期のスクレイピー感染ハムスター9匹由来の血漿0.5 ml中に天然に存在していたプリオン活性を検出したが、2ラウンドの反応において陰性対照ハムスター由来の血漿は陽性のS-QuIC反応のシードにはならなかった(
図2)。
【0192】
実施例4
RT-QuIC (eQuIC)による検出のための血漿中プリオンの15B3 IP
15B3 IPをRT-QuICによる検出に適合させた(IP-RT-QuICと指定した)。RT-QuICアッセイ法では、96ウェルプレート中での反応物の断続的な振盪、基質としてのrPrP
C、実質的に界面活性剤を含まない(例えば0.002%以下のSDS)およびカオトロープを含まない条件、ならびにThTに基づくプリオンシードアミロイド原線維の検出を用いる(Wilham et al., 前記, 2010; Atarashi et al., Nat.Med. 17: 175-178, 2011)。陽性反応はrPrPアミロイド原線維の存在下でのThT蛍光の増強によって示されるが、これは複製ウェルからの平均蛍光としてプロットすることができる。RT-QuICアッセイ法により血漿から15B3ビーズ上に捕捉されたプリオンの検出を可能にする条件をスクリーニングした際に、室温でおよそ20分間の0.05% SDSとのプリオン結合ビーズのプレインキュベーションは、サルコシルによるビーズ洗浄に加えて、それ以外には界面活性剤を含まないRT-QuICにおけるプリオンの増幅を加速することが分かった(
図8)。
【0193】
IP-RT-QuICプロトコルは、ヒト血漿中およそ10
-10希釈のスクレイピー脳を検出したが、しかしvCJD脳に対して感度が低かった(
図9C)。スクレイピーを検出するために、ハムスターrPrP
C 90〜231を基質として用いた。vCJDの場合、シリアンハムスター残基番号23〜137に続いてヒツジ残基番号141〜234 (R
154,Q
171 多型)から構成されるキメラrPrP
C分子は、相同ヒトPrP
C 23〜231構築体で観察されたよりも高い感度かつThT陽性産物への低い自発的(プリオン非依存的)変換をもたらすことが分かった(
図9)。
【0194】
ハムスターrPrP
C 90〜231基質を用い、スクレイピー罹患ハムスター由来の血漿または血清0.5 mlに内在するPrP
Scの15B3 IPから、一部の、しかし通常全部ではない、陽性複製反応が得られ、これらのサンプル中のPrP
Scレベルが検出限界、またはほぼ検出限界にあることが示唆された(
図3)。まとめると、これらの初期の結果から、15B3ビーズはS-QuICまたはRT-QuICによる検出の両方に適合するように血漿または血清由来の高度希釈プリオンを捕捉したが、しかしIP-RT-QuICの感度は、スクレイピーハムスターの血漿に内在するプリオンを検出するにはギリギリであることが示された。
【0195】
実施例5
基質補充による15B3捕捉プリオンの増強QuIC (eQuIC)検出
IP-RT-QuICの感度を改善するため、基質補充段階をRT-QuIC反応のおよそ24時間後に導入した。IP-RT-QuIC反応においては、ビーズおよび結合したプリオンまたはプリオン誘導性のRT-QuIC変換産物は、反応ウェルの底面に接着する傾向があった。したがって、ウェル中のビーズまたはビーズに結合した反応産物の大部分を維持しながら、反応物を除去し、新鮮なrPrP
Cを添加することが可能であった。本発明者らが増強QuIC (
enhanced QuIC; eQuIC)と呼ぶ、IPおよびRT-QuICと基質補充とのこの組み合わせにより、異なる4ロットのヒト血漿を用いて行った3回の独立実験での全複製反応(n=4)においておよそ28時間以内に4×10
-14希釈のvCJD脳組織(vCJD PrP-resおよそ1 ag)の検出が可能とされた(例えば、
図4Aを参照のこと)。さらに4×10
-15希釈では、4つのうち3つの複製反応が単一の実験において陽性であった(データ不掲載)。比較して、アルツハイマー脳および腫瘍脳の陰性対照希釈物は、これらのeQuIC実験の各々において一様に陰性反応をもたらした。15B3を欠くモックビーズは、感度および一貫性のかなりの低減をもたらした(
図4bおよび
図10)。さらに、15B3カップリングビーズは、プリオン結合能を有することが最近になって報告された超常磁性ナノ粒子(Miller et al., J.Virol. 85:2813-2817, 2011)よりも10
6倍以上、高い感度のeQuIC検出をもたらした(
図10)。これらの結果から、15B3に基づくeQuICが、ヒト血漿にスパイクされた極端に低い濃度のプリオンを検出する能力が示された。
【0196】
実施例6
ハムスター血漿サンプル中の内在性プリオンの、eQuICによる検出
eQuICが、スクレイピー感染ハムスター由来の血漿に内在するプリオンの検出を改善するかどうかも試験した。非増強RT-QuICによる先の結果(
図3)とは対照的に、スクレイピーハムスター計13匹の複製eQuIC反応は全て陽性であったが、非感染ハムスター11匹のもののどれも65時間以内に陽性ではなかった(
図5)。スクレイピー感染ハムスターのうち、9匹が臨床的に罹患しており(感染後日数80 (80 dpi))、4匹が(3匹が30 dpiの時点で; 1匹が10 dpiの時点で)無症状であった。したがって、eQuICでは、このモデルにおいて、およそ60 dpiの時点で始まる、スクレイピーの臨床兆候のかなり前に血漿中のプリオンが検出された。一部のスクレイピーサンプルで、複製ウェルは、全て個別に陽性ではあったが、最大下の平均蛍光値を与えた(
図5a)。このバラツキ、および誘導期のバラツキは、凝集した血漿成分によるものであると思われた。というのは、免疫沈降の直前に短時間の遠心分離によって予め清澄化されたサンプルでは、これらのバラツキが認められなかったからである(
図5b)。
【0197】
まとめて、これらの結果から、インビトロでのプリオン増幅アッセイ法による超高感度検出に適合する形で複合体阻害因子を含んだ体液からプリオンを捕捉できることが示された。eQuICアッセイ法は、特に、動物への脳内接種によりプリオン病を引き起こすのに通常必要とされるものよりも数桁下であったPrP-resの量(1 ag)について試験する実践的な、高速大量処理かつ即座の手段を提供した。eQuICが血漿サンプル中のプリオンを検出する能力から、このアッセイ法を用いて、ヒトおよび動物でのプリオン病の診断を改善できること、およびプリオン汚染がないか輸血用血液をスクリーニングできることが示唆される。スクレイピー感染ハムスターおよび非感染ハムスターの、その血漿サンプルのeQuIC分析に基づく識別が実証された。5〜10倍高いCJD感染性が血液の白血球画分において認められたので(Brown et al., Haemophilia. 13 Suppl 5:33-40, 2007)、白血球のeQuIC分析は非常に高感度であろう。
【0198】
eQuICに関して本明細書において開示される2段の基質添加は、タンパク質ミスフォールディングサイクル増幅(PMCA) (Saa et al., Science 313:92-94, 2006; Saa et al., J.Biol.Chem. 281:35245-35252, 2006)、rPrP-PMCA (Atarashi et al., Nat.Methods 4:645-650, 2008)およびQuIC (Atarashi et al., Nat.Methods 5:211-212, 2008; Atarashi et al, Nat.Methods 4:645-650, 2007)の反応において用いられた連続(複数ラウンド)増幅段階とは異なる。というのは、ビーズに結合したプリオンおよびプリオンシード産物の大部分が反応容器に保持され、その結果、シード粒子の大部分を除去せずに基質を補充できるからである。対照的に、連続のPMCAおよびS-QuIC反応では、全反応のごく一部(典型的には10%以下)しか、新鮮な基質を含有する新しい容器に移されず、その結果、第1ラウンドからのシード活性の多くが失われる。
【0199】
理論によって束縛されるわけではないが、これらの結果から、eQuIC反応の初期誘導期の間に、具体的にはシードの添加と基質補充との間に少なくとも2つの過程が行われていることが示唆される(
図6)。第1に、rPrP
Cは、経路を外れたオリゴマー(OO)のような、プリオンシード原線維アセンブリにあまり迅速にはアクセスできないプールへ移動している可能性がある; さもなくば、20時間後に、しかし初期の基質が検出可能なThT陽性の線維状産物に変換される前に、新鮮なrPrP
Cを加えても反応は加速されないであろう。したがって、アクセスできないプールではなく「あまり迅速にはアクセスできない」プールというものが示唆される。というのは、基質補充なしでさえも、十分な時間が与えられれば基質の大部分が依然として、変換されうるからである。第2に、初期のシードは、新鮮な基質の添加によってさらに迅速な原線維アセンブリのシードとなるように何らかの形で改変され、プライミングされているにちがいない; さもなくば、同じ濃度の新鮮な基質があった場合、反応の開始時に迅速なThT陽性のrPrP-res
(Sc)アセンブリのシードとなることはできなかったであろう。かさねて、理論によって束縛されるわけではないが、このプライミング効果は
図6中の赤い星印を付けたものなどの、二次核形成機構(Ferrone et al., J.Mol.Biol. 183:611-631, 1985; Padrick and Miranker, Biochemistry 41:4694-4703, 2002)によって説明されるかもしれない。例えば誘導期の間に、プリオンシードは、一つにはシード粒子の濃度によって決定される、比較的遅いかつ主として検出されない速度でrPrP
Cを取り込むことによって伸長しうる。継続的な伸長により、シードrPrP原線維は、攪拌によって剪断されるのに十分長くなって、シード粒子濃度を増大し、全体的な原線維アセンブリを加速しうる。さらに、他のタイプの原線維依存的な二次核形成が原線維アセンブリの加速に寄与するかもしれない。例えば、原線維アセンブリは、同じようにアラインメントされたシードの必要性にかかわらず、既存の原線維の側面に沿ったrPrP
C基質またはアミロイド形成性中間体(AI)のプレアラインメントまたは足場形成によって速められるかもしれない。ともかく、2相基質添加の効果に関する機構的基盤を規定するには、さらなる研究が必要とされよう。
【0200】
RT-QuICに対するいっそう効果的なrPrP
C基質が、必ずしも、アッセイされているプリオン/PrP-resのタイプに最も相応するものであるとは限らない。驚いたことに、ヒトvCJDの検出のために最も機能した基質は、ヒトrPrP
C分子ではなく、キメラハムスター・ヒツジ構築体(Ha-S rPrP
C)であった。
【0201】
IP-RT-QuICアッセイ法は、他の超高感度プリオン/PrP
Scアッセイ法と比べた場合に、かなりの利点を供与する。第一世代RT-QuICアッセイ法と比べて、eQuICは、血漿のような阻害因子を含んだサンプルにおけるプリオンの検出を可能にするだけでなく、ヒト血漿中でのvCJD脳ホモジネート希釈物に対する感度を少なくとも10,000倍増強もする。記述されているPMCA反応と比べて、IP-RT-QuICは所与の感度レベルに向けてさらに迅速であり、PrP
C基質の供給源として脳よりもむしろ細菌を用いることによってさらに実用的であり、超音波処理よりもむしろ振盪を用いることによってさらに容易に反復され、かつマルチウェルプレートに基づく反応および蛍光検出によって高速大量処理をさらに受け入れやすい。
【0202】
Edgeworth (Lancet 377:487-493, 2011)は、ステンレス鋼ビーズ上でのプリオンの捕捉およびELISA検出法を含むvCJD PrP-res検出アッセイ法を生み出した。この捕捉-ELISAアッセイ法では全血中10
10希釈のvCJD脳ホモジネートが検出されたが、本明細書において開示されるeQuICアッセイ法では血漿中10
14倍希釈のものが検出された。Edgeworthのアッセイ法では、症状のある患者15名由来の血液においておよそ70%の感度および100%の特異性でPrP
vCJDが検出されたが、これはCSFサンプルを用いた孤発性CJDの診断でのRT-QuICとほぼ同じくらい効果的である(Atarashi et al., Nat.Med. 17: 175-178, 2011)。脳由来vCJDシーディング活性の検出での、本明細書において開示されるeQuICアッセイ法のおよそ10,000倍高い感度は、血液、血漿、CSFまたは他のサンプルを用いたvCJDおよびsCJD診断の感度の改善をもたらす。本明細書において開示されるアッセイ法にはまた、食品、飼料、移植組織、医療機器、農業廃棄物および副産物、土壌、水源、ならびに他の環境サンプルのような多種多様の材料において用途がある。
【0203】
実施例7
RT-QuICによる検出のための15B3によるプリオン捕捉
RTQアッセイ法で、血漿から15B3ビーズ上に捕捉されたプリオンの検出を可能にする条件を探し求めた。RTQによる検出の速度および感度を改善するさらなる要因が存在していた。具体的には、1) ビーズへの15B3抗体の12倍高い濃度のカップリング(
図11): ビーズ上のさらに高い抗体密度は血漿中の潜在的なPrP-res結合阻害因子を相殺する助けとなり、および/またはさらに高い濃度の結合部位を提供することによって結合を加速しうる; RTQ前のサルコシルによる洗浄に加えて、RTで、15〜20分間の0.05% SDSによるプリオン結合ビーズの処理。ある例では、反応にDynabeads 4×10
5個あたり15B3 0.360 μgを利用する。
【0204】
最初に、SDS処理の前におよびRTQ反応に加えて1 M NaClでビーズからプリオンシーディング活性が溶出されうることが分かった。上記のように、RTQにおいてプリオン特異的シーディング活性の増強を得るには、溶出された材料は室温で、15〜20分間の0.05% SDSとのプレインキュベーションを要した。
【0205】
さらなる試験において、IPおよびSDS処理段階から得られたプリオン結合ビーズの一部分(すなわち、1×PBS 10 μlに再懸濁された全ビーズの1/5)をRTQ反応プレートウェル中のrPrP
C基質と直接さらに簡単に混合して、実施例1のプロトコルに詳細に記述されている反応を開始させることができると分かった。
【0206】
ビーズ上に負荷される15B3抗体の量を倍(「20×」)にして、ビーズ上の抗体の濃度増加が、ヒツジ血漿0.5 ml中にスパイクされたヒツジARQ脳ホモジネート(PrP-res 100 fgまたは10 pgを含有する)に対するアッセイ法の感度を増大させるか判定した。これらの研究において、「20×」は、15B3 200 μgが全ビーズ1×10
8個とインキュベートされたことを示し、「10×」は、15B3 100 μgが全ビーズ1×10
8個とインキュベートされたことを示す。Ha-S rPrP
Cを基質として用いた。より高い15B3負荷で、感度の改善(PrP-res 100 fgを含有する希釈物を参照のこと)が達成された。
【0207】
「20×」eQuIC条件を用いて、血漿0.5 ml中にスパイクされたヒツジARQスクレイピー脳ホモジネート(PrP-res 100 agまでを含有する)を検出した(
図13、4つの複製反応を参照のこと)。同じeQuIC条件を用いて、血漿中にスパイクされた脳ホモジネートとは対照的に、このアッセイ法が、スクレイピーに感染したヒツジ(ARQ|VRQ, VRQ|VRQ)由来の血漿サンプル0.5 mlに
内在するプリオンシーディング活性を検出できるかどうか試験した。これらの結果(
図14参照)から、スクレイピー陽性のヒツジ3頭と正常のヒツジ4頭との間の明らかな識別が示された。全ての複製反応(n=4)は、プリオン含有サンプルの各々で陽性、プリオンを含有しないサンプルの場合には陰性であった。
【0208】
実施例8
さらなるeQuICアッセイ法
また、eQuICを用いて、正常ヒト血漿0.5 ml中にスパイクされた孤発性CJD脳ホモジネートを検出した。PrP-res 1 fgを含有するものまでのsCJD脳ホモジネートの希釈物が300 mM NaClと400 mM NaClの両方で全ての複製反応(n=4)において検出された。ヒトrPrP
Cに代えてHa-S rPrP
C基質を用いることで、具体的にはPrP-res 1 fgを含有する希釈物までの、sCJDに対して類似の感度が得られた。これらの反応では、全長ヒトrPrP-senを基質として用いた。PrP-resをわずか10 agしか含有しない希釈物が全ての複製反応(n=4)において検出されたが、10
-4希釈の対照をスパイクしたもの(National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC, UK) NHBZ0/0001正常脳組織)は応答を示さなかった(
図15参照)。
【0209】
類似の実験を行ったが、ここでは、sCJD脳ホモジネートの希釈物を正常ヒト脳脊髄液0.5 ml中にスパイクした。PrP-resをわずか10 agしか含有しない希釈物が全ての複製反応(n=4)において検出されたが、10
-4希釈の対照をスパイクしたもの((National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC, UK) NHBZ0/0001正常脳組織)は応答を示さなかった(
図16参照)。
【0210】
マウス血漿0.5 ml中のマウスRMLスクレイピー脳ホモジネート希釈物のeQuICによる検出も行った。これらの反応条件は、マウスrPrP
C 90-231を基質として用いたことを除き、上記のもの(46℃、全ビーズ1×10
8個とともに15B3 300 μg)と同様であった。全ての複製反応(n=4)が10
-13までの希釈物(PrP-res 100 agを含有する)の場合に陽性であったが、10
-6希釈の正常マウス脳をシードしたものは100時間以内に陽性反応を生じなかった(
図17)。
【0211】
また、eQuIC検出を用いて、22Lスクレイピー感染マウスの血漿200 μlに内在するプリオンシーディング活性を特定した。1つは野生型マウス由来の、およびもう1つはグリコホスファチジルイノシトールアンカーを欠くPrP-senだけを発現する遺伝子導入マウス由来の、単一サンプルを試験した。どちらの場合も、全ての複製反応(n=4)が陽性応答を生じたが、非感染野生型マウス由来の血漿サンプルからは陽性応答が観察されなかった(
図18)。
【0212】
本発明者らの発明の原理が適用されうる多くの可能な態様に照らして、例示された態様は本発明の単なる例でしかないと認識されるべきであり、本発明の範囲に対する限定と見なされるべきではない。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。本発明者らは、それゆえ、これらの特許請求の範囲の趣旨および範囲に入る全てを本発明者らの発明と主張する。