特許第6109082号(P6109082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6109082-オレフィンの製造方法 図000005
  • 特許6109082-オレフィンの製造方法 図000006
  • 特許6109082-オレフィンの製造方法 図000007
  • 特許6109082-オレフィンの製造方法 図000008
  • 特許6109082-オレフィンの製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109082
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 6/04 20060101AFI20170327BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20170327BHJP
   B01J 21/10 20060101ALI20170327BHJP
   B01J 23/02 20060101ALI20170327BHJP
   B01J 23/04 20060101ALI20170327BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20170327BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20170327BHJP
   B01J 27/236 20060101ALI20170327BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20170327BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20170327BHJP
   C07C 11/10 20060101ALI20170327BHJP
   C07C 11/107 20060101ALI20170327BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170327BHJP
【FI】
   C07C6/04
   B01J21/06 Z
   B01J21/10 Z
   B01J23/02 Z
   B01J23/04 Z
   B01J23/10 Z
   B01J23/30 Z
   B01J27/236 Z
   C07C11/04
   C07C11/06
   C07C11/10
   C07C11/107
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-557572(P2013-557572)
(86)(22)【出願日】2013年2月7日
(86)【国際出願番号】JP2013052903
(87)【国際公開番号】WO2013118832
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-26198(P2012-26198)
(32)【優先日】2012年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-83687(P2012-83687)
(32)【優先日】2012年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】池永 裕一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】林 貴臣
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/136280(WO,A1)
【文献】 特開平07−069937(JP,A)
【文献】 特開2005−298394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 6/04
B01J 21/06
B01J 21/10
B01J 23/02
B01J 23/04
B01J 23/10
B01J 23/30
B01J 27/236
C07C 11/04
C07C 11/06
C07C 11/10
C07C 11/107
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンと4−メチル−2−ペンテンをメタセシス反応させて、プロピレンと3−メチル−1−ブテンを製造する方法において、水素の共存下で、下記シリカ担持タングステン触媒(B)を用いてメタセシス反応を行うことを特徴とするオレフィンの製造方法。
(B)シリカ担体上に実質的に結晶性の三酸化タングステン(WO3)を含まない三酸化タングステン(WO3)であり、且つ、Cu−Kα線を線源とするX線回折測定において、回折角(2θ)が22〜25°の範囲、および回折角(2θ)が32〜35°の範囲に観測される最大ピーク強度(IWO3)と、各々の回折角における非晶部に由来するピーク強度(I0)との比(IWO3/I0)を算出して、各々の比のうち、より高い方の値が1.4未満であることを特徴とするタングステン化合物が担持された触媒。
【請求項2】
エチレンと2−ブテンをメタセシス反応させて、プロピレンを製造する方法において、水素の共存下で、下記シリカ担持タングステン触媒(B)を用いてメタセシス反応を行うことを特徴とするオレフィンの製造方法。
(B)シリカ担体上に実質的に結晶性の三酸化タングステン(WO3)を含まない三酸化タングステン(WO3)であり、且つ、Cu−Kα線を線源とするX線回折測定において、回折角(2θ)が22〜25°の範囲、および回折角(2θ)が32〜35°の範囲に観測される最大ピーク強度(IWO3)と、各々の回折角における非晶部に由来するピーク強度(I0)との比(IWO3/I0)を算出して、各々の比のうち、より高い方の値が1.4未満であることを特徴とするタングステン化合物が担持された触媒。
【請求項3】
1−ブテン同士をメタセシス反応させて、エチレンと3−ヘキセンを製造する方法において、水素の共存下で、下記シリカ担持タングステン触媒(B)を用いてメタセシス反応を行うことを特徴とするオレフィンの製造方法。
(B)シリカ担体上に実質的に結晶性の三酸化タングステン(WO3)を含まない三酸化タングステン(WO3)であり、且つ、Cu−Kα線を線源とするX線回折測定において、回折角(2θ)が22〜25°の範囲、および回折角(2θ)が32〜35°の範囲に観測される最大ピーク強度(IWO3)と、各々の回折角における非晶部に由来するピーク強度(I0)との比(IWO3/I0)を算出して、各々の比のうち、より高い方の値が1.4未満であることを特徴とするタングステン化合物が担持された触媒。
【請求項4】
前記触媒(B)において、
リカ担体に対する該タングステン化合物の担持量が、酸化物(WO3)換算として、0.5重量%以上10重量%未満であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
4−メチル−2−ペンテンが、4−メチル−1−ペンテンと、Y23、MgO、La23、CeO2、Na2O、ZrO2、CaOおよびハイドロタルサイト焼成体から選ばれる酸化物触媒もしくはこれらの複合酸化物と接触することによる二重結合異性化反応によって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
2−ブテンが、1−ブテンと、Y23、MgO、La23、CeO2、Na2O、ZrO2、CaOおよびハイドロタルサイト焼成体から選ばれる酸化物触媒もしくはこれらの複合酸化物と接触することによる二重結合異性化反応によって得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
二重結合異性化反応およびメタセシス反応を、異なる反応器で実施することを特徴とする請求項またはに記載の製造方法。
【請求項8】
下記3工程を含むことを特徴とする請求項またはに記載の製造方法。
[工程1]4−メチル−1−ペンテンもしくは4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテンからなる混合物が二重結合異性化反応器(I)における二重結合異性化反応によって、4−メチル−2−ペンテン濃度が高められた混合物(a)に変換される工程;
[工程2]前記混合物(a)、エチレンおよび水素を混合した後、メタセシス反応器(II)においてメタセシス反応させることによってプロピレンと3−メチル−1−ブテンを製造する工程;
[工程3]前記メタセシス反応器から排出される粗製物から、プロピレン、3−メチル−1−ブテンを分離し、未反応の4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテン混合物を二重結合異性化反応器(I)にリサイクルする工程。
【請求項9】
下記3工程を含むことを特徴とする請求項またはに記載の製造方法。
[工程1]1−ブテンもしくは1−ブテンと2−ブテンからなる混合物が二重結合異性化反応器(I)における二重結合異性化反応によって、2−ブテン濃度が高められた混合物(b)に変換される工程;
[工程2]前記混合物(b)、エチレンおよび水素を混合した後、メタセシス反応器(II)においてメタセシス反応させることによってプロピレンを製造する工程;
[工程3]前記メタセシス反応器から排出される粗製物から、プロピレンを分離し、未反応の1−ブテンと2−ブテン混合物を二重結合異性化反応器(I)にリサイクルする工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のメタセシス触媒を用い、水素ガスの共存下で特定の原料オレフィンのメタセシス反応を行うことにより、生成オレフィン分子中の二重結合の異性化が効果的に抑制されたオレフィン製品の製造方法に関する。さらに本発明は、二重結合異性体をとりうる末端オレフィンを位置選択的に隣接位に二重結合移動した内部オレフィンに転換する二重結合異性化反応、および該二重結合異性化反応によって得られたオレフィンを前記メタセシス反応用の原料オレフィンとして用いるオレフィン製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最初に、メタセシス反応全般、並びにメタセシス反応によって得られるオレフィン製品分子内の二重結合の異性化抑制に係わる背景技術を説明したのち、次いでメタセシス反応原料として用いるための内部オレフィン調製のための二重結合異性化反応に係わる背景技術について述べる。なお、本明細書において、「メタセシス反応(metathesis reaction)」とは、1989年に東京化学同人から発行された『化学大辞典』に明定されるように、2分子のオレフィンから二重結合の切断、生成を経て新しい2分子のオレフィンを生成する反応として定義され、本発明においては同一の2分子オレフィンから異なったオレフィンを生成する反応、いわゆるオレフィンの不均化反応(disproportionation reaction)をも包含する。
【0003】
同種または異種のオレフィンやジオレフィンといった不飽和炭化水素同士が不均化し、異なる構造の不飽和炭化水素を与えるメタセシス反応は、オレフィンやジオレフィンの需要の変化に対応できるという特徴を持つ。メタセシス反応用の不均一系触媒として、例えば酸化タングステンをシリカ担体に担持した触媒、酸化モリブデンをアルミナ担体に担持した触媒、あるいは酸化レニウムをアルミナ担体に担持した触媒などが活性を示すことが知られている。特に、酸化タングステンをシリカ担体に担持した触媒(WO3/SiO2)は、他の触媒に比べて不純物被毒に対する耐性が高いため、工業的にも重要である(非特許文献1)。
【0004】
メタセシス反応活性を向上させる方法として、例えばメタセシス触媒としてのWO3/SiO2と二重結合異性化触媒としての酸化マグネシウムを混合してなる触媒を用いる方法(特許文献1)や、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムやハイドロタルサイト焼成体、さらにはそれらにアルカリ金属化合物を担持したものなどを共触媒として、WO3/SiO2メタセシス触媒と混合し、水素共存下でメタセシス反応を実施する方法(特許文献2)なども知られている。
【0005】
さて、オレフィンのメタセシス反応では、原料あるいは生成物中の炭素−炭素二重結合の異性化を伴う場合がある。この異性化反応は、生成オレフィン側では標的オレフィン分子を得るための反応設計を難しくするという点から通常は生起することは好ましい現象とは言えず、一方で原料オレフィン側での生起は好ましい場合と好ましくない二つのケースがありうる。原料オレフィン側の異性化について、より具体的に説明する。例えばエチレンとn−ブテンのメタセシス反応によりプロピレンを製造しようとする場合、n−ブテン中に不純物として含まれる1−ブテンは2−ブテンに異性化することが好ましく、前記したように通常は主触媒であるWO3/SiO2に加えて、二重結合異性化機能を有するとされている酸化マグネシウムなどの固体塩基からなる共触媒を積極的に混合してなる触媒が用いられる(特許文献1)。このような混合触媒を用いてn−ブテン中に含まれる1−ブテンをより効果的に2−ブテンに変換することは、プロピレン収率向上につながる。
【0006】
一方で、例えば1−ブテン同士のメタセシス反応により3−ヘキセンを製造しようとする場合では、1−ブテンの二重結合異性化によって副生する2−ブテンは、さらに1−ブテンとのメタセシス反応によってペンテンを副生してしまう、あるいは目的オレフィンである3−ヘキセンが二重結合異性化を起こして2−ヘキセンや1−ヘキセンに転換される可能性が生じるので、3−ヘキセン収率向上の観点から二重結合異性化を伴うことは好ましくない。
【0007】
このように、メタセシス反応を利用する場合はどのような標的オレフィンを得ようとするかによって、メタセシス反応と競争する原料オレフィンの二重結合異性化反応が生起して欲しい場合と生起が望ましくない場合がある。前者、すなわちメタセシス反応と原料オレフィンの二重結合異性化を共に起こさせる触媒や条件については前記の通り共触媒を併用するいくつかの先行技術が知られているが、一方で、原料オレフィンのみならず製品オレフィンの二重結合異性化を完全に抑制しつつ、高いメタセシス反応活性を示す触媒や反応方法は知られていなかった。なお、WO3/SiO2は単独であっても、メタセシス反応のみならず二重結合異性化活性を示すことが知られている。これは、シリカ担体上に担持された酸化タングステンおよび/またはシリカ担体それ自体が、二重結合異性化を促進する酸点を有することが原因であるとされている。
【0008】
オレフィンのメタセシス反応を効果的に進めつつ二重結合異性化を抑える方法として、例えばタングステン酸アンモニウムとタングステン酸ナトリウムを併用して調製したメタセシス触媒を用いる方法(特許文献3)、タングステン化合物とともにアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物を担持したメタセシス触媒を用いる方法(特許文献4)、高純度シリカ担体にタングステン化合物を担持したメタセシス触媒を用いる方法(特許文献5、6)などが知られている。これらの方法ではシリカ担体上に担持された酸化タングステンおよび/またはシリカ担体が有する酸点がアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素によって中和されているか、もしくは酸点を有さないシリカ担体を選択することによって二重結合異性化が抑制されていると考えられる。しかしながら、本発明者らが検討した結果、特許文献4の方法ではアルカリ金属化合物の担持に伴い二重結合異性化のみならずメタセシス反応活性、すなわち原料オレフィン転化率も大幅に抑制される場合があること、および特許文献5や6の方法では特殊なグレードの担体を用いる必要があることから実用的であるとは言い難く、またこれら公報の実施例から判断する限り異性化抑制能も十分とは言い難い。
【0009】
担体上に担持された酸化タングステンの結晶状態を考察することによってメタセシス反応活性や選択性を向上させる技術も開示されている。例えば、非特許文献2には空気中550℃焼成後のWO3/SiO2触媒において、WO3担持量が10重量%以上の場合に結晶性のWO3の存在がXRD測定によって確認されること、およびWO3担持量が約20重量%の場合にプロピレンのメタセシス反応活性が最大になることが報告されている。また、非特許文献3によれば、シリカ担体上に担持された酸化タングステンは、表面相(surface phase)と結晶性のWO3に区別され、このうちの表面相にメタセシスの活性点が存在することが示唆されている。さらに非特許文献4によれば、WO3担持量の増加とともに副反応である二重結合異性化が進行しており、結晶性のWO3が有する酸性質によって二重結合異性化が促進されることが示唆されている。以上から推測されるように、メタセシス活性を増加させるためにはWO3担持量を増加させる必要がある一方で、WO3担持量の増加に伴いシリカ担体上に存在する結晶性のWO3の濃度も増加するため、メタセシス反応のみならず副反応である二重結合異性化も促進されてしまう。それゆえ、WO3担持量を調節する手段のみによって、高いメタセシス活性を維持しながら二重結合異性化を効果的に抑制することは困難であると予想される。
【0010】
次に、メタセシス反応用の原料オレフィンとして重要な内部オレフィンを、対応する末端オレフィン中の二重結合を位置選択的に隣接位に移動させることによって調製する方法、あるいは該二重結合異性化工程とメタセシス工程を異なる反応器で実施することによって有用なオレフィン製品を取得する方法に係わる公知技術について述べる。末端オレフィン分子の二重結合を隣接位に移動させることによって、異性体である内部オレフィンを得る方法としていくつかの方法が開示されている。例えば、触媒としてアルカリ金属水素化物と炭酸アルカリ金属塩で前処理した焼成アルミナを用いる内部オレフィンの製造方法が開示されている(特許文献7)。同文献の実施例中では、4−メチル−1−ペンテンの異性化反応の結果も開示されているが、熱力学的により安定な2−メチル−2−ペンテンへの異性化量が多くなってしまい4−メチル−2−ペンテンへの選択率は工業生産の視点からは満足できる成績とは言えない。また、含水アルミナとナトリウム金属とを加熱分散処理した触媒を用いる、末端オレフィンから内部オレフィンへの変換方法も開示されている(特許文献8)。しかしながら、この方法は発火する危険性の高い触媒を用いている点で実用的な方法であるとは言い難かった。
【0011】
二重結合異性化反応とメタセシス反応を、異なる反応器で工程別に実施する方法も開示されている。しかし、これらの方法で開示された二重結合異性化工程は原料オレフィン中に微量含まれるアセチレン、ジエンの水添を主目的とするものであり、また内部オレフィンへの異性化効率が十分でなかった(特許文献9、10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US3660506号
【特許文献2】WO2006/093058
【特許文献3】US5162597号
【特許文献4】特公昭50−13762
【特許文献5】特表2004―528979
【特許文献6】特表2008−519033
【特許文献7】特開平7−69937
【特許文献8】特開平8−40944
【特許文献9】US6358482号
【特許文献10】US2005/0043754
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Applied Industrial Catalysis. Volume 3, Edited by Bruce E. Leach, Academic Press, 1984 Chapter 7, Olefin Metathesis: Technology and Application, Robert L. Banks.
【非特許文献2】Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization, K. J. Ivin, J. C. Mol, Academic Press. 1997, p 100
【非特許文献3】Handbook of Heterogeneous Catalysis Volume 5, G. Ertl, H. Knozinger, J. Weitkamp, VCH, 1997, p 2395
【非特許文献4】Applied Catalysis A: General. 250, 25 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
メタセシス反応において、高い活性を示しながら、なおかつ二重結合異性化を効果的に抑制して目的オレフィンを効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、同種または異種のオレフィン同士をメタセシス反応させて、異なる構造のオレフィンを製造する方法において、水素の共存下で、シリカ担持タングステン触媒(A)およびシリカ担持タングステン触媒(B)から選ばれる少なくとも1種のメタセシス反応触媒を用いてメタセシス反応を行うことによって、二重結合異性化が効果的に抑制されたオレフィン製品が得られることを見出した。
【0016】
本発明に係わるシリカ担持タングステン触媒(A)は、同一のシリカ担体上にタングステン化合物およびアルカリ金属化合物が共担持された固体触媒である。シリカ担持タングステン触媒(A)においては、タングステン化合物が三酸化タングステン(WO3)であり、シリカ担体に対するタングステン化合物の担持量が、酸化物(WO3)換算として、0.01〜50重量%の範囲にあることが好ましく、またシリカ担体に対するアルカリ金属化合物の担持量が、酸化物換算として、0.01〜20重量%の範囲にあることが好ましい。
【0017】
本発明に係わるシリカ担持タングステン触媒(B)は、シリカ担体上に実質的に結晶性の三酸化タングステン(WO3)を含まないタングステン化合物が担持された触媒である。なお、本発明において「実質的に結晶性の三酸化タングステンを含まない」とは、後述するように触媒(B)中における結晶性の三酸化タングステン濃度が1重量%未満であることとして定義される。より具体的には、タングステン化合物が三酸化タングステン(WO3)であり、Cu−Kα線を線源とするX線回折測定(XRD)において、回折角(2θ)が22〜25°の範囲、および回折角(2θ)が32〜35°の範囲に観測される最大ピーク強度(IWO3)と、各々の回折角における非晶部に由来するピーク強度(I0)との比(IWO3/I0)を算出して、各々の比のうち、より高い方の値が1.4未満であることが好ましく、またシリカ担体に対するタングステン化合物の担持量が、酸化物(WO3)換算で0.5重量%以上、10重量%未満のシリカ担持タングステン触媒(B)であることが好ましい。
【0018】
本発明のオレフィンの製造方法は、エチレンと4−メチル−2−ペンテンをメタセシス反応させることによってプロピレンと3−メチル−1−ブテンを製造する方法、エチレンと2−ブテンをメタセシス反応させることによってプロピレンを製造する方法、ならびに1−ブテン同士をメタセシス反応させることによってエチレンと3−ヘキセンを製造する方法に好適に用いられる。
【0019】
本発明のオレフィンの製造方法では、4−メチル−2−ペンテンおよび2−ブテンが、各々4−メチル−1−ペンテンおよび1−ブテンと、周期律表第1族、第2族、第3族、第4族、第13族、第14族およびランタノイドから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する固体塩基触媒と接触することによる二重結合異性化反応によって得られることが好ましい態様の一である。このような二重結合異性化反応を本発明のオレフィンの製造方法に組み込む場合は、二重結合異性化反応とメタセシス反応は、異なる反応器で各々の工程を実施することにより、同一反応器で二重結合異性化反応とメタセシス反応を同時に行う場合に比べて、原料オレフィンの濃度を二重結合異性化反応器で最大化できること、メタセシス反応で生成するオレフィン製品の逐次的な異性化によるロスを最小化できること、および副生物種・量の減少により分離工程への負荷が軽減できるので好ましい。
【0020】
また、本発明においては、下記3工程を含むことがより好ましい。例えば、3−メチル−1−ブテンおよびプロピレンは、以下に示す3工程を含むプロセスによってエチレンと4−メチルペンテンから効率よく製造され、またプロピレンは以下に示す3工程を含むプロセスによってエチレンとブテンから効率よく製造されるが、本発明はこれらの例に何ら限定されない。
【0021】
〔二重結合異性化反応を組み込んだ3−メチル−1−ブテンおよびプロピレンの製造方法〕
[工程1]4−メチル−1−ペンテンもしくは4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテンからなる混合物が二重結合異性化反応器(I)における二重結合異性化反応によって、4−メチル−2−ペンテン濃度が高められた混合物(a)に変換される工程;
[工程2]前記混合物(a)、エチレンおよび水素を混合した後、メタセシス反応器(II)においてメタセシス反応させることによってプロピレンと3−メチル−1−ブテンを製造する工程;
[工程3]前記メタセシス反応器から排出される粗製物から、プロピレン、3−メチル−1−ブテンを分離し、未反応の4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテン混合物を二重結合異性化反応器(I)にリサイクルする工程。
【0022】
〔二重結合異性化反応を組み込んだプロピレンの製造方法〕
[工程1]1−ブテンもしくは1−ブテンと2−ブテンからなる混合物が二重結合異性化反応器(I)における二重結合異性化反応によって、2−ブテン濃度が高められた混合物(b)に変換される工程;
[工程2]前記混合物(b)、エチレンおよび水素を混合した後、メタセシス反応器(II)においてメタセシス反応させることによってプロピレンを製造する工程;
[工程3]前記メタセシス反応器から排出される粗製物から、プロピレンを分離し、未反応の1−ブテンと2−ブテン混合物を二重結合異性化反応器(I)にリサイクルする工程。
【発明の効果】
【0023】
本発明のオレフィンの製造方法によって、メタセシス反応によって生成するオレフィン分子中の二重結合異性化を効果的に抑制して目的とするオレフィンのみを選択的に製造することが可能となった。すなわち、目的とするオレフィン製品が3−メチル−1−ブテンおよび3−ヘキセンのように分子中に異性化可能な二重結合が存在する場合であっても異性体の副生を伴うことなく標的分子である該オレフィンを選択的に製造することが可能となった。
【0024】
さらには、エチレンと4−メチル−2−ペンテンのメタセシス反応によって3−メチル−1−ブテンおよびプロピレンを製造する場合、エチレンと2−ブテンのメタセシス反応によってプロピレンを製造する場合のように、原料オレフィン中に各々不純物として共存する4−メチル−1−ペンテンや1−ブテンの、各々4−メチル−2−ペンテンや2−ブテンへの二重結合異性化が望ましい場合においては、メタセシス反応に先立って本願発明に係わる二重結合異性化反応を先行して実施する、ステップワイズなプロセスを採用することによって効果的に目的のオレフィン製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】シリカそのもの、および担持量が酸化物(WO3)換算で1重量%、3重量%、5重量%、7重量%及び10重量%のWO3/SiO2触媒のXRDパターンである。
図2】担持量が酸化物(WO3)換算で7重量%のWO3/SiO2触媒についてのピーク強度比(IWO3/I0)の求め方を示す図である。
図3】担持量が酸化物(WO3)換算で10重量%のWO3/SiO2触媒についてのピーク強度比(IWO3/I0)の求め方を示す図である。
図4】WO3結晶とシリカを、WO3結晶とシリカを物理混合した試料中のWO3濃度が0.5重量%、1重量%、3重量%になるように各々物理混合した試料をXRD測定し、2θ=22〜25°および2θ=32〜35°の範囲におけるIWO3/I0比とWO3濃度との関係をプロットした図面である。
図5】原料オレフィンの二重結合異性化反応を組み込んだ、エチレンと4−メチルペンテンのメタセシス反応によって3−メチル−1―ブテン製品を製造するプロセスの一例である。図中、4MP1は4−メチル−1−ペンテンを、4MP2は4−メチル−2−ペンテンを、3MB1は3−メチル−1−ブテンを、「<C5」は炭素数5未満の炭化水素の集合体を、「>C6」は炭素数6を超える炭化水素の集合体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るメタセシス反応用の触媒は、シリカ担持タングステン触媒(A)およびシリカ担持タングステン触媒(B)から選ばれる少なくとも1種である。以下、各々の触媒について説明し、次いで該触媒を用いるメタセシス反応について説明し、最後に隣接位選択的な二重結合異性化反応を利用する原料オレフィンの調製方法と該方法を組み入れたメタセシス反応について詳説する。
【0027】
(A)同一のシリカ担体上にタングステン化合物およびアルカリ金属化合物が共担持された触媒。
【0028】
(B)シリカ担体上に実質的に結晶性の三酸化タングステン(WO3)を含まないタングステン化合物が担持された触媒。
【0029】
(A)シリカ担持タングステン触媒
本発明に係るシリカ担持タングステン触媒(A)は、同一のシリカ担体上にタングステン化合物とアルカリ金属化合物が担持された固体触媒である。担持の際に用いるタングステン化合物の種類に制限はなく、例えば酸化物、硫化物、ハロゲン化物、アンモニウム塩、アルカリ塩、およびこれらの混合物などが使用できる。中でも、後述する担持後の焼成工程において三酸化タングステン等の酸化物に変化するものが好ましく、さらには三酸化タングステンに変化するものがより好ましい。
【0030】
担持の際に用いるアルカリ金属化合物の金属元素としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが用いられる。またアルカリ金属化合物の種類にも制限はなく、例えば酸化物、水酸化物、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩等を使用できる。これらアルカリ金属化合物は、後述する焼成処理によって種類によらず酸化物に転化されると推測される。
【0031】
担体であるシリカの種類についても制限はなく、市販のシリカゲル、ヒュームドシリカ等いずれも用いることができる。また、シリカ担体中のSiO2濃度は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上が特に好ましい。
【0032】
担持方法は、含浸法やイオン交換法など当業者の間で公知の方法を制限なく用いることができる。また、シリカ担体上にタングステン化合物とアルカリ金属化合物を担持する際には、担体上にタングステン化合物を担持した後にアルカリ金属化合物を担持しても良いし、担体上にアルカリ金属化合物を担持した後にタングステン化合物を担持しても良く、さらにはタングステン化合物とアルカリ金属化合物を担体上に同時に担持しても良い。担体に対するタングステン化合物の担持量は、特に限定されないが、たとえば、酸化物(WO3)換算で通常0.01重量%〜50重量%の範囲にあり、好ましくは0.1重量%〜20重量%、より好ましくは1.0〜15重量%の範囲である。また、アルカリ金属化合物の担持量は、副反応である二重結合異性化を効果的に抑制するのに十分な量であれば特に限定されないが、担体に対して、たとえば、酸化物換算で通常0.01重量%〜20重量%の範囲にあり、好ましくは0.05重量%〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。
【0033】
タングステン化合物およびアルカリ金属化合物を担持した後、空気雰囲気下で300℃以上の温度で焼成し、タングステン化合物を酸化物に変化させる。また、メタセシス反応触媒としてのシリカ担持タングステン触媒(A)の形状に制限はなく、またその大きさも反応器の大きさに応じて適宜選定すればよい。また、触媒を成型する方法も、当業者の間で公知の方法を制限なく用いることができる。
【0034】
(B)シリカ担持タングステン触媒
本発明に係るシリカ担持タングステン触媒(B)は、実質的に結晶性の三酸化タングステン(WO3)を含まないタングステン化合物がシリカ担体に担持された触媒である。
【0035】
このようなシリカ担持タングステン触媒(B)とは、シリカ担体上にタングステン化合物を担持した触媒前駆体を400℃以上の温度かつ酸素含有ガス雰囲気下で焼成することによって、酸化物であるWO3/SiO2に変換された焼成体のうち、実質的に結晶性の三酸化タングステンを含まないシリカ担持タングステン触媒である。担持の際に用いるタングステン化合物の種類に制限はなく、例えば酸化物、硫化物、ハロゲン化物、アンモニウム塩、アルカリ塩、およびこれらの混合物などが使用できる。
【0036】
担体であるシリカの種類や性状についても特段の制限はなく、市販のシリカゲル、ヒュームドシリカ等いずれも用いることができる。本発明においては、シリカ担体中のSiO2濃度は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上が特に好ましい。担持方法は、含浸法やイオン交換法など当業者の間で公知の方法を制限なく用いることができる。
【0037】
本発明に係わるシリカ担持タングステン触媒(B)は通常、シリカ担体上にタングステン化合物を担持した触媒前駆体を400℃以上の温度かつ酸素含有ガス雰囲気下で焼成することによって、WO3/SiO2触媒に変換させることによって調製される。酸素含有ガスとは、酸素ガスもしくは空気を窒素やヘリウムなどの不活性ガスで任意の割合に希釈した混合ガスを指す。酸素濃度は通常0.1〜50容量%(vol%)、好ましくは1〜25容量%(vol%)である。空気を希釈しないまま用いることが最も好ましい。焼成温度は、担持したタングステン化合物がタングステン酸化物に変換するのに十分な温度であれば良く、通常400℃以上、好ましくは400℃〜800℃、より好ましくは400℃〜700℃である。焼成温度が400℃に満たない場合は担持したタングステン化合物のタングステン酸化物への変換が十分でなく、一方で焼成温度が800℃を超える場合はタングステン酸化物の凝集を招き、結晶性の酸化タングステンの形成を促進する恐れがある。焼成時間は、担持したタングステン化合物がタングステン酸化物に変換するのに十分な時間であれば良く、焼成温度にもよるが通常30分以上、好ましくは1時間〜100時間である。焼成方法・装置は当業者の間で公知の方法・装置を制限無く用いることができ、例えば静置式電気炉を用いて焼成しても良いし、触媒前駆体を反応器に充填し、反応器内で焼成しても良い。シリカ担体上へのタングステン化合物の担持量は、メタセシス活性と選択性の観点から通常は酸化物(WO3)換算で0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.1重量%〜20重量%、より好ましくは0.5重量%以上10重量%未満、特に好ましくは1.0重量%〜5.0重量%、とりわけ好ましくは1.0重量%〜3.0重量%の範囲にある。
【0038】
上述の触媒調製方法によって得られたシリカ担持タングステン触媒が実質的に結晶性の酸化タングステンを含まないことは、後述するX線回折を利用した判定方法によって確認可能である。従って、本発明に係わる触媒(B)をメタセシス反応触媒として使用するに際しては、事前に該判定方法によって結晶性酸化タングステン量のチェックが行われる。この際に仮に結晶性酸化タングステンの存在が確認された場合は、前記調製条件を「好ましい範囲」に変更するなどの条件最適化を行うことによって実質的に結晶性の酸化タングステンを含まない触媒(B)を調製することが可能となる。
【0039】
本発明に係るシリカ担持タングステン触媒(B)が実質的に結晶性の酸化タングステンを含まないことは、粉末X線回折(XRD)測定により判定することができる。なお、本測定においては、株式会社リガク製のX線回折装置MultiFlexを用いて、以下の条件で、連続スキャン法にてXRD測定した。
【0040】
X線源: Cu−Kα
管電流: 40mA
管電圧: 40kV
走査軸: 2θ/θ
走査速度: 2.0°/分
サンプリング幅: 0.02°
測定範囲: (2θ)5〜40°
積算回数: 3回
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.30mm
また、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードNo.321395によれば、主なWO3結晶の回折ピーク出現位置と相対強度は以下の通りである。なお、回折ピーク出現位置はCuKα線を用いた場合の値である。
【0041】
(ピーク位置(2θ)/相対強度)
(23.14/85)、(23.64/100)、(24.37/100)、(26.62/13)、(28.63/13)、(28.84/18)、(28.93/20)、(33.00/20)、(33.57/35)、(33.68/25)、(33.91/25)、(34.10/35)、(34.49/25)
すなわち、シリカ担持タングステン触媒(B)が実質的に結晶性のWO3を含むかどうかの具体的な判定手順は次の通りである。まず、WO3/SiO2触媒のXRDパターンとタングステン化合物を担持する前のSiO2のXRDパターンを比較し、JCPDSカードNo.321395に記されたWO3結晶の回折ピーク出現位置のうち、最も相対強度の大きい3本の回折ピークが出現する2θ=22〜25°の範囲、およびWO3結晶の存在を判定しやすい2θ=32〜35°の範囲にXRDパターン形状の変化が見られるかどうか確認する。上記範囲においてXRDパターン形状の変化が認められない場合は、実質的に結晶性のWO3を含んでいないと判定する。一方、上記範囲においてXRDパターン形状の変化が認められる場合、変化が認められる範囲の前後2点を結んで直線を引く。次に上記範囲内で最も相対強度の大きい回折ピーク強度(IWO3)と、そのときの2θ角度において直線で切られるまでの回折強度(非晶部由来強度に相当:I0)との比(IWO3/I0)を取り、この比が1.4以上の場合には実質的に結晶性のWO3を含んでいると判定し、この比が1.4未満の場合には実質的に結晶性のWO3を含んでいないと判定する。2θ=22〜25°の範囲および2θ=32〜35°の範囲の両方でIWO3/I0の値を計算し、より高いIWO3/I0の値を判定に用いる。なお、前述のように本発明に係るシリカ担持タングステン触媒(B)中の結晶性のWO3濃度は1重量%未満である。閾値としての1重量%は、WO3結晶とSiO2を物理混合して得た試料3点のWO3濃度とIWO3/I0との検量線により求めたものである。
【0042】
本発明に係る触媒の形状に制限はなく、またその大きさも反応器の大きさに応じて適宜選定すればよい。また、触媒を成型する方法も、当業者の間で公知の方法を制限なく用いることができる。
【0043】
[メタセシス反応]
本発明におけるメタセシス反応の原料オレフィンとしては、炭素数が2〜10の鎖状あるいは環状のオレフィンやジオレフィンが挙げられる。原料オレフィンとメタセシス反応生成物である有価なオレフィン製品との組み合わせの例としては、プロピレン2分子からのエチレン(以下の説明では、Eと略称する場合がある)と2−ブテン(以下の説明では、B2と略称する場合がある)の製造、1−ブテン(以下の説明では、B1と略称する場合がある)2分子からのエチレンと3−ヘキセンの製造、1−ブテンと2−ブテンからのプロピレンと2−ペンテンの製造、エチレンと4−メチル−2−ペンテン(以下の説明では、4MP2と略称する場合がある)からのプロピレンと3−メチル−1−ブテン(以下の説明では、3MB1と略称する場合がある)の製造、エチレンと2−ブテンからのプロピレンの製造、エチレンとシクロペンテンからの1,6−ヘプタジエンの製造、エチレンと1−メチルシクロペンテンからの2−メチル−1,6−ヘプタジエンの製造、エチレンと2−ノルボルネンからの1,3−ジビニルシクロペンタンの製造、エチレンと1,5,9−シクロドデカトリエンからの1,5−ヘキサジエンの製造、イソブテンとシクロペンテンからの7−メチル−1,6−オクタジエンの製造、イソブテンと2−ノルボルネンからの1−(2−メチル−1−プロペニル)−3−ビニルシクロペンタンの製造、イソブテンと1,5−ヘキサジエンからの6−メチル−1,5−ヘプタジエンの製造、イソブテンと1,6−ヘプタジエンからの7−メチル−1,6−オクタジエンの製造、イソブテンと1,7−オクタジエンからの8−メチル−1,7−ノナジエンの製造などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、原料オレフィン中にはメタン、エタン、プロパン、ブタンおよびヘキサンといったパラフィンや窒素などの不活性ガスを含有していても構わない。
【0044】
メタセシス反応の温度および圧力は、各々通常25〜600℃および0〜20MPaGの範囲であり、好ましくは100〜500℃および0〜10MPaGの範囲である。共存させる水素の濃度は通常全ガスの0.1〜80vol%の範囲であり、好ましくは0.1〜50vol%、より好ましくは0.5〜30vol%、特に好ましくは1〜20vol%である。
【0045】
なお、背景技術において言及した特許文献2は水素共存であることを発明構成要件としているが、本発明に係わるシリカ担持タングステン触媒(B)をメタセシス反応用触媒として使用した場合の生成オレフィンの二重結合異性化抑制効果については何らの明示も示唆もされていないこと、並びに、特開昭59−1430号公報には水素共存下でのエチレンの変換反応においてWO2.62/TiO2やWO2.63/ZrO2、WO3/Al23触媒を用いた場合にプロピレンやブテンが生成するのに対し、WO3/SiO2触媒を用いた場合にはエチレンの水素化によるエタンの副生しか起こらないことが記載されていることを付記する。
【0046】
また、使用するメタセシス反応用の触媒(A)または触媒(B)の量についても特に制限されないが、例えば、固定床流通装置を用いて反応を行う場合、単位時間あたりの原料供給量(重量)を触媒重量で割った値、即ちWHSVで示すと、0.1〜500h-1の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜250h-1の範囲である。また、本発明においては、メタセシス反応用の触媒として、触媒(A)の機能と触媒(B)の機能を併せ持つ固体触媒を用いることも任意である。具体的には、固体状の触媒(A)と触媒(B)を物理混合して使用してもよいし、同一シリカ担体上に実質的に結晶性タングステンを含まないタングステン化合物とアルカリ金属化合物を共担持させた触媒であってもよい。
【0047】
メタセシス反応の反応形式についても制限されないが、特に気相流通式反応が好ましい。触媒の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施してもよい。
【0048】
メタセシス反応の前処理として、触媒を高温で焼成することにより触媒に付着した水分や炭酸ガス、有機物等を除去した後、一酸化炭素や水素といった還元性ガスを用いて還元処理を行い、触媒を活性化することが好ましい。前処理温度は、触媒が活性化される温度であればよく、通常300〜700℃である。その方法は当業者の間で採用されている公知の方法を用いることができ、いずれの方法も本発明を制限するものではない。
【0049】
使用後のメタセシス触媒を再生処理するためには、通常、酸素を含むガスを高温で流通させることにより、被毒物質もしくはコークを触媒から燃焼除去する方法が採用される。再生温度は、使用後のメタセシス触媒から被毒物質もしくはコークが除去される温度であればよく、通常300〜700℃である。その方法は当業者の間で公知の方法を任意に用いることができ、いずれの方法も本発明を制限するものではない。
【0050】
[二重結合異性化を利用する原料オレフィンの調製方法]
本発明に係わる二重結合異性化用の触媒とは、周期律表第1族、第2族、第3族、第4族、第13族、第14族およびランタノイドに属する金属元素から選ばれる少なくとも1種を含有する固体塩基触媒であり、該異性化反応に供する形態として酸化物、水酸化物、窒化物、リン酸塩、炭酸塩、水酸化物およびこれらの混合物などが使用できるが、これらの中でも酸化物が好ましい。また、二重結合異性化触媒は担体上に前記固体塩基成分を担持した構造であってもよい。
【0051】
二重結合異性化触媒は好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ランタン、セリウムのうち少なくともいずれか1種の金属元素を含む。さらに好ましくは、二重結合異性化触媒はLi2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO、Sc23、Y23、TiO2、ZrO2、La23、CeO2、ハイドロタルサイト焼成体から選ばれる酸化物触媒もしくはこれらの複合酸化物であり、又これらが担体に担持された担持触媒であってもよい。この際の好ましい担体は、Al23およびSiO2である。
【0052】
二重結合異性化触媒を調製する際に用いる原料化合物の種類に制限はなく、例えば酸化物、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、塩化物およびこれらの混合物などが使用できる。中でも、後述する焼成工程において酸化物に変化するものが好ましい。調製方法に関しても制限はなく、沈殿法、共沈法、ゾルゲル法、熱分解法など当業者の間で公知の方法を用いることができる。また、担持する際に用いるアルカリ金属化合物の種類にも制限はなく、例えば酸化物、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物およびこれらの混合物などが使用できる。これらアルカリ金属化合物は、後述する焼成処理によって種類によらず酸化物に転化されると推測される。担持方法に関しても制限はなく、含浸法やイオン交換法など当業者の間で公知の方法を用いることができる。
【0053】
担体を用いる場合は、担体に対するアルカリ金属化合物の担持量は、酸化物(M2O)換算で通常0.01重量%〜20重量%の範囲にあり、好ましくは0.1重量%〜10重量%の範囲である。
【0054】
上記調製法で得られた触媒前駆体は、最終的に空気もしくは窒素などの不活性ガス雰囲気下、または真空下において400℃以上の温度で焼成し、酸化物触媒もしくは担持触媒を得る。
【0055】
本発明における二重結合異性化反応とは末端オレフィン分子中の二重結合を隣接位に移動させることによってメタセシス反応用の原料オレフィンとして有用な内部オレフィンに変換する反応である。メタセシス反応用の原料を確保するために産業界で重要とされている二重結合異性化反応の例としては、4−メチル−1−ペンテン(以下の説明では、4MP1と略称する場合がある)の二重結合異性化により4−メチル−2−ペンテンを生成する反応、および1−ブテンの二重結合異性化により2−ブテンを生成する反応である。それぞれの反応において原料オレフィンは4−メチル−1−ペンテンもしくは1−ブテン単独であっても良いし、4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテンの混合物もしくは1−ブテンと2−ブテンの混合物であっても良い。また、これらの反応物中にメタン、エタン、プロパン、ブタンおよびヘキサンといったパラフィンや窒素(N2)などの不活性ガス、さらには水素を含有していても構わない。
【0056】
二重結合異性化反応の温度および圧力は、各々0〜500℃および0〜20MPaGの範囲であり、好ましくは0〜400℃および0〜10MPaGの範囲である。二重結合異性化において、特にY23、MgO、CaO、La23、ZrO2を触媒に用いる場合は、反応温度は0〜150℃の範囲が好ましい。使用する二重結合異性化触媒の量についても特に制限されないが、例えば、固定床流通装置を用いて反応を行う場合、単位時間当たりの原料供給量(重量)を触媒重量で割った値、即ちWHSVで示すと、0.1〜500h-1の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜250h-1の範囲である。
【0057】
二重結合異性化反応の反応形式についても制限されないが、特に気相流通式もしくは液相回分式が好ましい。触媒の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施してもよい。二重結合異性化触媒の前処理として、触媒を高温で加熱することにより触媒に付着した水分や炭酸ガス、有機物等を除去して触媒を活性化することが好ましい。その方法は当業者の間で公知の方法を用いることができ、いずれの方法も本発明を制限するものではない。また、使用後の二重結合異性化触媒を再生処理するためには、通常、酸素を含むガスを高温で流通させることにより、被毒物質もしくはコークを触媒から燃焼除去する方法が採用される。その方法は当業者の間で公知の方法を任意に用いることができ、いずれの方法も本発明を制限するものではない。
【0058】
本発明のオレフィンの製造方法では、オレフィン製品は該二重結合異性化反応による原料オレフィンの調製と、当該原料オレフィンを用いるメタセシス反応によるオレフィン製品の製造を組み合わせて行う方法が一つの態様である。この態様においては二重結合異性化反応とメタセシス反応は異なる反応器で実施されることが好ましい。態様の一つは、以下の通りである。
【0059】
3−メチル−1−ブテンを製造する場合、[工程1]において4−メチル−1−ペンテンもしくは4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテンからなる混合物が二重結合異性化反応器(I)に供給され、二重結合異性化反応によって4−メチル−2−ペンテン濃度が高められた混合物(a)に変換される。続く[工程2]において、前記混合物(a)とエチレンを、メタセシス反応器(II)において水素共存下でメタセシス反応させることによって3−メチル−1−ブテンに変換され、該3MB1を含む粗製物を得る。さらに[工程3]において前記メタセシス反応器(II)から排出される粗製物から、脱エチレン塔(III)、C5分離塔(IV)、3MB1分離塔(V)を通して、プロピレン、有価物である3−メチル−1−ブテンを分離する。一方、C5分離塔(IV)から脱4MP塔(VI)を通して、未反応の4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−2−ペンテン混合物を再び二重結合異性化反応器(I)にリサイクルする。なお、図5にプロセスのイメージ図を示した。
【0060】
プロピレンを製造する場合も同様に、[工程1]において1−ブテンもしくは1−ブテンと2−ブテンからなる混合物が二重結合異性化反応器(I)における二重結合異性化反応によって、2−ブテン濃度が高められた混合物(b)に変換される。続く[工程2]において前記混合物(b)とエチレンを、メタセシス反応器(II)において水素共存下でメタセシス反応させることによってプロピレンに変換され、該プロピレンを含む粗製物を得る。さらに[工程3]において前記メタセシス反応器から排出される粗製物からプロピレンを分離し、未反応の1−ブテンと2−ブテン混合物を二重結合異性化反応器(I)にリサイクルする。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明の実施例は、(I)シリカ担持タングステン触媒(A)を用いるメタセシス反応、(II)シリカ担持タングステン触媒(B)を用いるメタセシス反応、(III)末端オレフィンの二重結合異性化、及び(IV)該二重結合異性化によって調製された内部オレフィンを原料オレフィンとするメタセシス反応、の四つの項目に分けて実施例を説明する。なお、以下の実施例番号の末尾のa、b、sおよびpの符号は各々前記項目(I)、(II)、(III)および(IV)についての実験結果であることを示す。
【0062】
(I)シリカ担持タングステン触媒(A)を用いるメタセシス反応
[1]触媒調製
イオン交換水にメタタングステン酸アンモニウムを溶解させて水溶液を調製した。この水溶液に富士シリシア化学株式会社製のシリカCARiACT−G10を含浸させた後、エバポレーターで水分を蒸発させた。得られた粉末を電気炉で500℃、5時間空気焼成し、メタセシス触媒WO3/SiO2を調製した。このとき、WO3担持量は10重量%(酸化物換算)であった(以下の説明では触媒REFと呼ぶ場合がある)。
【0063】
メタセシス触媒にアルカリ金属化合物を担持する場合は、上記水溶液に所定量のアルカリ金属水酸化物(NaOH、KOH、CsOH)を加えた以外は上記と同じ方法でメタセシス触媒を調製した。アルカリ金属の担持量については後述する各実施例(比較例)の項に記載した。
【0064】
[2]エチレンと4−メチル−2−ペンテンのメタセシス反応
メタセシス触媒0.4gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、さらに500℃で30分水素還元した。反応温度まで降温した後、エチレンとトランス−4−メチル−2−ペンテン(t−4MP2)のモル比が3.5、かつt−4MP2流量とメタセシス触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが5h-1となるようにエチレンとt−4MP2を触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。水素を共存させる場合は、エチレンとt−4MP2に加えて所定流量の水素も触媒層に供給した。
【0065】
供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された4MP2の割合から4MP2転化率を計算した。なお、トランス−4−メチル−2−ペンテンとシス−4−メチル−2−ペンテンは区別していない。また3−メチル−1−ブテン(3MB1)選択率は、転化した4MP2から3MB1が生成した割合として計算した。炭素数が5であるオレフィン(C5オレフィン)中の3MB1の割合は、生成したC5オレフィン合計に対する3MB1の割合として計算した。
【0066】
なお、以下の実施例では、生成物としてプロピレンも確認された。
【0067】
〔実施例1a〕
アルカリ金属化合物として水酸化ナトリウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するナトリウムの担持量は酸化物換算で0.5重量%であった。反応温度300℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は59%、3MB1選択率は92mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は99%であった。結果の一部を表1に示す。
【0068】
〔実施例2a〕
アルカリ金属化合物として水酸化ナトリウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するナトリウムの担持量は酸化物換算で0.2重量%であった。反応温度340℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は93%、3MB1選択率は81mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は95%であった。結果の一部を表1に示す。
【0069】
〔実施例3a〕
アルカリ金属化合物として水酸化カリウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するカリウムの担持量は酸化物換算で0.7重量%であった。反応温度300℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は67%、3MB1選択率は91mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は99%であった。結果の一部を表1に示す。
【0070】
〔実施例4a〕
アルカリ金属化合物として水酸化セシウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するセシウムの担持量は酸化物換算で2.2重量%であった。反応温度300℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は90%、3MB1選択率は91mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は99%であった。結果の一部を表1に示す。
【0071】
〔比較例1a〕
アルカリ金属化合物を担持していないメタセシス触媒(触媒REF)を用いて、反応温度300℃、水素を共存させないで反応を実施した。4MP2転化率は42%、3MB1選択率は23mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は79%であった。結果の一部を表1に示す。実施例1a〜4aの結果と比較して4MP2転化率が低く、3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合も大きく下回った。
【0072】
〔比較例2a〕
アルカリ金属化合物を担持していないメタセシス触媒(触媒REF)を用いた。反応温度340℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は92%、3MB1選択率は63mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は86%であった。結果の一部を表1に示す。水素の共存により、比較例1aの結果と比較して4MP2転化率は増加したが、3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合は改善しなかった。
【0073】
〔比較例3a〕
水素を共存させない以外は実施例1aと同様に反応を実施したところ、4MP2転化率は2%、3MB1選択率は93mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は100%であった。結果の一部を表1に示す。水素を共存させないことにより、実施例1aの結果と比較して4MP2転化率は著しく減少した。
【0074】
〔比較例4a〕
水素を共存させない以外は実施例2aと同様に反応を実施したところ、4MP2転化率は23%、3MB1選択率は59mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は95%であった。結果の一部を表1に示す。水素を共存させないことにより、実施例2aの結果と比較して4MP2転化率は著しく減少した。
【0075】
〔比較例5a〕
イオン交換水に水酸化セシウムを溶解させて水溶液を調製した。この水溶液にシリカを含浸させた後、エバポレーターで水分を蒸発させた。得られた粉末を電気炉で500℃、5時間空気焼成し、CsOH/SiO2を調製した。このとき、セシウムの担持量は酸化物換算で0.9重量%であった。
【0076】
アルカリ金属化合物を担持していないメタセシス触媒(触媒REF)0.2gと、前記CsOH/SiO2 0.2gを物理混合して反応管に充填し、反応温度340℃、水素濃度9%にて反応を実施した。4MP2転化率は95%、3MB1選択率は52mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は82%であった。結果の一部を表1に示す。比較例2aの結果と比較して、WO3/SiO2メタセシス触媒とCsOH/SiO2との物理混合による3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合の改善はみられなかった。
【0077】
〔比較例6a〕
反応温度を390℃に変更した以外は比較例4aと同様に反応を実施したところ、4MP2転化率は89%、3MB1選択率は65mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は82%であった。結果の一部を表1に示す。反応温度を上げることにより、比較例4aの結果と比較して4MP2転化率は増加した一方、3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合は減少した。また、実施例2aと比較して4MP2転化率はほぼ同等であるのに対し、3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合は大きく下回った。
【0078】
[3]1−ブテン(B1)2分子のメタセシス反応
メタセシス触媒0.4gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、さらに500℃で30分水素還元した。反応温度である380℃まで降温した後、1−ブテン流量とメタセシス触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが10h-1となるように1−ブテンを触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。水素を共存させる場合は、1−ブテンに加えて所定流量の水素も触媒層に供給した。
【0079】
供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された1−ブテンの割合から1−ブテン転化率を計算した。また、エチレン選択率およびトランス体とシス体の合計としての3−ヘキセン選択率は、転化した1−ブテンからエチレン、3−ヘキセンが生成した割合として計算した。結果を表1に示した。
【0080】
〔実施例5a〕
アルカリ金属化合物として水酸化カリウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するカリウムの担持量は酸化物換算で0.7重量%であった。水素濃度9vol%における1−ブテン転化率は24%、エチレンと3−ヘキセンの選択率合計は90mol%であった。結果を表1に示す。
【0081】
〔実施例6a〕
アルカリ金属化合物として水酸化セシウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するセシウムの担持量は酸化物換算で2.2重量%であった。水素濃度9vol%における1−ブテン転化率は35%、エチレンと3−ヘキセンの選択率合計は88mol%であった。結果を表1に示す。
【0082】
〔比較例7a〕
アルカリ金属化合物を担持していないメタセシス触媒(触媒REF)を用いて、水素を共存させないで反応を実施したところ、1−ブテン転化率は71%、エチレンと3−ヘキセンの選択率合計は27mol%であった。結果を表1に示す。実施例5a、6aと比較して、エチレンと3−ヘキセンの合計選択率は大幅に減少した。
【0083】
[4]エチレンとシス−2−ブテンのメタセシス反応
メタセシス触媒0.4gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、さらに500℃で30分水素還元した。反応温度である370℃まで降温した後、エチレンとシス−2−ブテンのモル比が1、かつシス−2−ブテン流量とメタセシス触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが7h-1、および全ガス中の水素濃度が9vol%となるようにエチレンとシス−2−ブテン、水素を触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。
【0084】
供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された2−ブテンの割合から2−ブテン転化率を計算した。この場合の2−ブテンとは、シス−2−ブテンとトランス−2−ブテンの合計を指す。また、2−ブテン基準のプロピレン選択率は、転化した2−ブテンからプロピレンが生成した割合として計算した。
【0085】
〔実施例7a〕
アルカリ金属化合物として水酸化セシウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するセシウムの担持量は酸化物換算で0.4重量%であった。前記した方法によって、エチレンとシス−2−ブテンとのメタセシス反応を行った結果、2−ブテン転化率は35%、2−ブテン基準のプロピレン選択率は94%であった。結果を表1に示す。
【0086】
〔比較例8a〕
アルカリ金属化合物を担持していないメタセシス触媒(触媒REF)を用いて、実施例7aと同様にエチレンとシス−2−ブテンとのメタセシス反応を行った。その結果、2−ブテン転化率は41%、2−ブテン基準のプロピレン選択率は58%であった。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
(II)シリカ担持タングステン触媒(B)を用いるメタセシス反応
[1]触媒調製
イオン交換水にメタタングステン酸アンモニウムを溶解させて水溶液を調製した。この水溶液に富士シリシア化学株式会社製のシリカCARiACT−G10を含浸させた後、エバポレーターで水分を蒸発させた。得られた触媒前駆体粉末を電気炉で500℃、5時間空気焼成し、メタセシス触媒WO3/SiO2を調製した。イオン交換水に溶解させるメタタングステン酸アンモニウムの量を変え、WO3担持量が、酸化物(WO3)換算で、1重量%、3重量%、5重量%、7重量%、10重量%の5種類のWO3/SiO2触媒を得た。
【0088】
[2]粉末X線回折(XRD)測定とピーク強度比(IWO3/I0)の算出
WO3担持量の異なる5種類のWO3/SiO2触媒およびシリカ(CARiACT−G10)粉のXRD測定を実施した。株式会社リガク製のX線回折装置MultiFlexを用いて、本明細書中に記載の条件で、連続スキャン法にて測定した。
【0089】
測定結果を図1に示す。WO3担持量が1重量%および3重量%のWO3/SiO2触媒では、2θ=22〜25°および2θ=32〜35°の範囲にXRDパターン形状の変化がみられなかったことから、これらの触媒は実質的に結晶性のWO3を含んでいないと判定した。一方、WO3担持量が5重量%、7重量%および10重量%のWO3/SiO2触媒では、2θ=22〜25°および2θ=32〜35°の範囲にXRDパターン形状の変化が確認され、その変化はWO3担持量の増加とともに顕著になった。そこで、WO3担持量が7重量%および10重量%のWO3/SiO2触媒について、2θ=22〜25°の範囲においてXRDパターン形状の変化が認められる範囲の前後2点を結んで直線を引き、上記範囲内で最も相対強度の大きい回折ピーク強度(IWO3)と、そのときの2θ角度において、直線で切られるまでの回折強度(非晶部由来強度に相当:I0)との比(IWO3/I0)を計算したところ、WO3担持量が7重量%のWO3/SiO2触媒ではIWO3/I0=1.2、WO3担持量が10重量%のWO3/SiO2触媒ではIWO3/I0=1.4であった。さらに2θ=32〜35°の範囲でも同様の計算を行った結果、WO3担持量が7重量%のWO3/SiO2触媒ではIWO3/I0=1.1、WO3担持量が10重量%のWO3/SiO2ではIWO3/I0=1.5であった。計算結果を図2図3に示す。
【0090】
次に、日本無機化学工業株式会社製のWO3と富士シリシア化学株式会社製のシリカCARIACT-G10を、WO3濃度が0.5重量%、1重量%、3重量%になるように各々物理混合した試料をXRD測定した。2θ=22〜25°および2θ=32〜35°の範囲におけるIWO3/I0の比を計算し検量線を作成したところ、2θ=22〜25°および2θ=32〜35°の範囲ともWO3濃度が1重量%以下の場合に、IWO3/I0の比が1.4を下回った。この結果から、WO3担持量が1重量%、3重量%、5重量%および7重量%のWO3/SiO2触媒における結晶性のWO3濃度はいずれも1重量%未満であると判定した。検量線を図4に示す。
【0091】
[3]エチレンと4−メチル−2−ペンテンのメタセシス反応
メタセシス触媒0.4gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、さらに500℃で30分水素還元した。反応温度まで降温した後、エチレンとトランス−4−メチル−2−ペンテン(t−4MP2)のモル比が3.5、かつt−4MP2流量とメタセシス触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが5h-1となるようにエチレンとt−4MP2を触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。水素を共存させる場合は、エチレンとt−4MP2に加えて所定流量の水素も触媒層に供給した。
【0092】
供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された4MP2の割合から4MP2転化率を計算した。なお、t−4MP2とシス−4−メチル−2−ペンテン(c−4MP2)は区別していない。また3−メチル−1−ブテン(3MB1)選択率は、転化した4MP2から3MB1が生成した割合として計算した。C5オレフィン中の3MB1の割合は、生成したC5オレフィン合計に対する3MB1の割合として計算した。
【0093】
なお、以下の実施例では、生成物としてプロピレンも確認された。
【0094】
〔実施例1b〕
WO3が1重量%担持されたWO3/SiO2触媒を使用した。反応温度400℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は87%、3MB1選択率は93mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は98%であった。結果の一部を表2に示す。
【0095】
〔実施例2b〕
WO3が3重量%担持されたWO3/SiO2触媒を使用した。反応温度340℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は94%、3MB1選択率は91mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は99%であった。結果の一部を表2に示す。
【0096】
〔実施例3b〕
WO3が5重量%担持されたWO3/SiO2触媒を使用した。反応温度340℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は94%、3MB1選択率は87mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は97%であった。結果の一部を表2に示す。
【0097】
〔実施例4b〕
WO3が7重量%担持されたWO3/SiO2触媒を使用した。反応温度340℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は94%、3MB1選択率は85mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は97%であった。結果の一部を表2に示す。
【0098】
〔比較例1b〕
WO3が10重量%担持されたWO3/SiO2触媒を使用した。反応温度340℃、水素濃度9vol%における4MP2転化率は94%、3MB1選択率は65mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は87%であった。実施例1b〜4bと比較して、WO3/SiO2メタセシス触媒が実質的に結晶性のWO3を含むことにより、3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合は大きく減少した。結果の一部を表2に示す。なお本比較例1bは、前述した比較例2aの再現実験に相当する。
【0099】
〔比較例2b〕
水素を共存させない以外は実施例4bと同様に反応を実施したところ、4MP2転化率は52%、3MB1選択率は74mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は94%であった。水素を共存させないことにより、実施例4bの結果と比較して4MP2転化率は著しく減少した。結果の一部を表2に示す。
【0100】
〔比較例3b〕
反応温度360℃、水素を共存させない以外は実施例2bと同様に反応を実施したところ、4MP2転化率は91%、3MB1選択率は80mol%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は94%であった。反応温度を上げることにより、実施例2bと同等の4MP2転化率が得られた一方、3MB1選択率およびC5オレフィン中の3MB1の割合は大きく減少した。結果の一部を表2に示す。
【0101】
[3]エチレンとシス−2−ブテンのメタセシス反応
メタセシス触媒0.4gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、さらに500℃で30分水素還元した。反応温度である370℃まで降温した後、エチレンとシス−2−ブテンのモル比が1、かつシス−2−ブテン流量とメタセシス触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが7h-1、および全ガス中の水素濃度が9vol%となるようにエチレンとシス−2−ブテン、水素を触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。
【0102】
供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された2−ブテンの割合から2−ブテン転化率を計算した。この場合の2−ブテンとは、シス−2−ブテンとトランス−2−ブテンの合計を指す。また、2−ブテン基準のプロピレン選択率は、転化した2−ブテンからプロピレンが生成した割合として計算した。
【0103】
〔実施例5b〕
実施例3bで用いた、WO3が5重量%担持されたWO3/SiO2触媒を使用し、エチレンと2−ブテンのメタセシス反応を実施した。その結果、2−ブテン転化率は26%、2−ブテン基準のプロピレン選択率は89%であった。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
(III)末端オレフィンの二重結合異性化
[1]触媒調製
23、La23、CeO2、ZrO2は硝酸塩(ただし、ZrO2はオキシ硝酸塩)を原料とする沈殿法で得た沈殿物を洗浄、乾燥後、550℃で5h空気焼成することにより調製した。ハイドロタルサイト焼成体は協和化学のキョーワード500を550℃で5h空気焼成することにより調製した。MgOはMERCK製のMgO(GR for analysis)を80℃で一晩水中加熱した後、乾燥および550℃で5h空気焼成することにより調製した。Na2O/Al23(Na2O換算で7重量%)は活性アルミナに水酸化ナトリウムを含浸担持した後、乾燥および550℃で5h空気焼成することにより調製した。CaOは関東化学製の水酸化カルシウムを550℃で5h空気焼成することにより調製した。比較例で用いた酸触媒のうち、H−ZSM−5(SiO2/Al23=39)とシリカ・アルミナ(アルミナ換算で13重量%)については、市販品を使用した。H3PO4/Al23(H3PO4換算で13重量%)は活性アルミナにリン酸を担持後、500℃で5h空気焼成することにより調製した。
【0105】
[2]4−メチル−1−ペンテンの二重結合異性化(気相流通式)
二重結合異性化触媒 0.5gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、反応温度まで降温した。窒素と4−メチル−1−ペンテンのモル比が3.5、かつ4−メチル−1−ペンテン流量と二重結合異性化触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが4h-1となるように窒素と4−メチル−1−ペンテンを触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された4−メチル−1−ペンテンの割合から4−メチル−1−ペンテン転化率を計算した。4−メチル−2−ペンテン選択率は、転化した4−メチル−1−ペンテンから4−メチル−2−ペンテンが生成した割合として計算した。
【0106】
〔実施例1s〕
23を触媒に用い、130℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は81%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は96%であった。結果を表3にまとめた。
【0107】
〔実施例2s〕
MgOを触媒に用い、90℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は81%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は97%であった。結果を表3にまとめた。
【0108】
〔実施例3s〕
ハイドロタルサイト焼成体を触媒に用い、250℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は56%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は92%であった。結果を表3にまとめた。
【0109】
〔実施例4s〕
La23を触媒に用い、100℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は75%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は97%であった。結果を表3にまとめた。
【0110】
〔実施例5s〕
CeO2を触媒に用い、230℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は44%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は98%であった。結果を表3にまとめた。
【0111】
〔実施例6s〕
Na2O/Al23を触媒に用い、230℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は76%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は99%であった。結果を表3にまとめた。
【0112】
〔実施例7s〕
ZrO2を触媒に用い、110℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は59%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は95%であった。結果を表3にまとめた。
【0113】
〔比較例1s〕
H−ZSM−5(SiO2/Al23=39)を触媒に用い、120℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は18%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は55%であった。結果を表3にまとめた。
【0114】
〔比較例2s〕
シリカ・アルミナ(アルミナ 13wt%)を触媒に用い、120℃で反応した4−メチル−1−ペンテン転化率は35%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は40%であった。また、ガスクロマトグラム(GCチャート)には4MP1や4MP2よりも保持時間の長い高沸点成分の副生も確認された。結果を表3にまとめた。
【0115】
〔比較例3s〕
3PO4/Al23(H3PO4 13wt%)を触媒に用い、250℃で反応した。4−メチル−1−ペンテン転化率は48%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は78%であった。結果を表3にまとめた。
【0116】
[3]4−メチル−1−ペンテンの二重結合異性化(液相回分式)
〔実施例8s〕
0.015gのCaOを5mlの4−メチル−1−ペンテン中に加え、室温で2h攪拌した。このときの4−メチル−1−ペンテン転化率は81%で、4−メチル−2−ペンテン選択率は99.7%であった。結果を表3にまとめた。
【0117】
【表3】
(IV)二重結合異性化によって調製された内部オレフィンを原料オレフィンとするメタセシス反応
前記「(III)末端オレフィンの二重結合異性化」に係わる実施例によって、末端オレフィンが選択的に隣接位に二重結合した内部オレフィンが得られることが明らかになった。本実施例では、メタセシス反応における原料オレフィンが該内部オレフィン以外に末端オレフィンを含んだ混合オレフィンであっても、本発明に係わるメタセシス触媒(A)および/または触媒(B)を用いてメタセシス反応を行うことで、該内部オレフィンのみがメタセシス反応に関与し、該末端オレフィンはメタセシス反応に関与しないため、前記3工程からなる、各々プロピレンと3MB1の製造、又はプロピレンの製造が可能であることを示す。
【0118】
実施例として、末端オレフィンの二重結合異性化によって濃度が高められた内部オレフィン(4MP2)および末端オレフィン(4MP1)混合オレフィンと、エチレンを用い、本発明に係わるメタセシス触媒(A)を用いてメタセシス反応を行った場合に、4MP2のみが反応に関与し、4MP1は反応に関与することなく、3MB1が異性化を起こすことなく選択的に製造する方法を説明する。
【0119】
[1]エチレンと4−メチル−ペンテン(4MP1と4MP2混合物)のメタセシス反応
メタセシス触媒0.4gを反応管に充填し、前処理として500℃、30分窒素を流通させた後、さらに500℃で30分水素還元した。反応温度まで降温した後、エチレンと4−メチル−ペンテン(主に4MP1と4MP2からなる混合物)のモル比が7、かつ4−メチル−ペンテン流量とメタセシス触媒重量の比によって表される空間速度WHSVが5h-1、および全ガス中の水素濃度が9vol%となるようにエチレンと4−メチル−ペンテン、水素を触媒層に供給した。圧力は前処理時、反応時とも0MPaGであった。
【0120】
なお、4−メチル−ペンテンの原料をガスクロマトグラフィー(GC)により分析した結果、4MP2(トランス体とシス体の合計)の濃度は64.5重量%、4MP1の濃度は33.4重量%、2−メチル−2−ペンテンの濃度は1.6重量%、2−メチル−1−ペンテンの濃度は0.5重量%であった。
【0121】
供給開始後3時間目の組成を分析することにより、反応によって消費された4MP2の割合から4MP2転化率を計算した。なお、トランス−4−メチル−2−ペンテンとシス−4−メチル−2−ペンテンは区別していない。同様に4MP1転化率は、反応によって消費された4MP1の割合から計算した。また3MB1選択率は、転化した4MP2から3MB1が生成した割合として計算した。炭素数が5であるオレフィン(C5オレフィン)中の3MB1の割合は、生成したC5オレフィン合計に対する3MB1の割合として計算した。
【0122】
〔実施例1p〕
前記(I)の[1]「シリカ担持タングステン触媒(A)の調製」の項で述べた方法に準じて、アルカリ金属化合物として水酸化セシウムを担持させた触媒を使用した。担体に対するセシウムの担持量は、酸化物換算で1.0重量%であった。前記した方法によって、エチレンと4−メチル−ペンテンとのメタセシス反応を行った結果、反応温度380℃における4MP2転化率は90%、4MP1転化率は4%で、4MP2基準の3MB1選択率は95%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は99%であった。
【0123】
〔実施例2p〕
実施例3bにおいて用いた、WO3が5重量%(酸化物換算)担持されたシリカ担持タングステン触媒(B)を用いた。前記した方法によって、エチレンと4−メチル−ペンテンとのメタセシス反応を行った結果、反応温度350℃における4MP2転化率は92%、4MP1転化率は7%で、4MP2基準の3MB1選択率は95%、生成したC5オレフィン中の3MB1の割合は98%であった。
【0124】
以上の結果から、4MP1と4MP2からなる4−メチル−ペンテン原料を用いた場合でも、4MP2原料を用いた場合と同等に高い3MB1選択率が得られたことから、4MP1と4MP2を分離することなくメタセシス反応器に供給可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0125】
図5中の符号を説明する。
【0126】
(I)二重結合異性化反応器
(II)メタセシス反応器
(III)脱エチレン塔
(IV)C5分離塔
(V)3MB1分離塔
(VI)脱4MP塔
図1
図2
図3
図4
図5