特許第6109085号(P6109085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109085
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】偏心揺動型の減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20170327BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20170327BHJP
【FI】
   F16H1/32 A
   F16H57/04 D
   F16H57/04 J
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-1271(P2014-1271)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-129553(P2015-129553A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−194869(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/083698(WO,A1)
【文献】 特開2009−204156(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/081793(WO,A1)
【文献】 特開2011−089542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向負荷側に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向反負荷側に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記カバー部材に潤滑剤の供給口が設けられ、
該カバー部材と前記ローラ部材との間に、スペーサ部材が配置され、
該スペーサ部材と前記外歯歯車との間には軸方向に隙間があり、
前記カバー部材に、前記外歯歯車の軸方向移動を規制する突出部が設けられ、
該突出部は、周方向に間欠的に設けられる
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記スペーサ部材と前記カバー部材とが、径方向で当接している
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記外歯歯車は、前記突出部と当接する規制部と、該規制部と径方向に隣接している隣接部と、を備え、
前記規制部の軸方向幅が、前記隣接部の軸方向幅よりも大きい
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、を備える。外歯歯車の軸方向負荷側には、フランジ部材が配置されている。フランジ部材には、外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通しているピン部材が連結されている。ピン部材には、外歯歯車との摺動促進部材としてローラ部材が外嵌されている。
【0004】
外歯歯車の軸方向反負荷側には、当該減速装置のケーシングの一部を構成するカバー部材が設けられている。カバー部材とローラ部材との間にはスペーサ部材が配置されている。スペーサ部材は、ローラ部材の軸方向端面に当接すると共に、外歯歯車の軸方向端面にも当接し、ローラ部材および外歯歯車の軸方向位置を規制している。
【0005】
この減速装置では、組み込みの段階でケーシング内の減速機構部の各部に、潤滑剤として予めグリースを塗布するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−89542号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような減速装置において、潤滑剤の供給口をカバー部材に設けた場合、スペーサ部材の存在により、潤滑剤の流れが阻害され、潤滑剤の供給に時間が掛かるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、カバー部材に潤滑剤の供給口を設けた場合に、該供給口から減速機構部内への潤滑剤の流れをより円滑化し、潤滑剤の供給時間をより短縮することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向負荷側に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向反負荷側に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記カバー部材に潤滑剤の供給口が設けられ、該カバー部材と前記ローラ部材との間に、スペーサ部材が配置され、該スペーサ部材と前記外歯歯車との間には軸方向に隙間があり、前記カバー部材に、前記外歯歯車の軸方向移動を規制する突出部が設けられ、該突出部は、周方向に間欠的に設けられる構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明においては、スペーサ部材と外歯歯車との間には、軸方向に隙間が確保されている。一方、カバー部材には、外歯歯車の軸方向移動を規制する突出部が設けられる。この突出部は、周方向に間欠的に設けられる。
【0011】
この結果、カバー部材の供給口から供給された潤滑剤は、前記スペーサ部材と外歯歯車との間の隙間を介して、外歯歯車の径方向に沿って移動することができる。さらに、突出部は、周方向に間欠的に設けられているため、潤滑剤は該突出部を超えて径方向に移動してゆくこともできる。そのため、供給口から供給された潤滑剤を円滑に減速機構部内に行き渡らせることができ、潤滑剤の供給時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カバー部材に潤滑剤の供給口を設けた場合に、該供給口から減速機構部内への潤滑剤の流れをより円滑化し、潤滑剤の供給時間をより短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体構成を示す断面図
図2図1の要部拡大断面図
図3図1の減速装置のカバー部材の正面図
図4図3の矢視IV−IV線に沿う断面図
図5】同カバー部材を、減速機構部側をやや上向きにして見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の構成を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体構成を示す断面図である。
【0016】
この偏心揺動型の減速装置10は、2個の偏心体12によって2枚の外歯歯車14を揺動させながら内歯歯車16に内接噛合させ、内歯歯車16と外歯歯車14との間に生じる相対回転を出力として取り出している。
【0017】
減速装置10の入力軸11は、モータ18のモータ軸18Aと一体化されている。入力軸11には、キー22を介して偏心体軸24が連結されている。偏心体軸24には、前記2個の偏心体12が一体に形成されている。偏心体12の外周には偏心体軸受26を介して外歯歯車14が偏心揺動回転可能に組み込まれている。外歯歯車14は、揺動しながら内歯歯車16に内接噛合している。
【0018】
すなわち、減速装置10は、偏心体軸24が内歯歯車16の径方向中央に1本のみ存在する中央クランクタイプと称される偏心揺動型の減速装置である。外歯歯車14を2枚並列に備えているのは、必要な伝達容量の確保および偏心位相をずらすことで回転バランス性の確保を意図したためである。
【0019】
外歯歯車14の歯形は、トロコイド歯形、内歯歯車16の歯形は、円弧歯形である。内歯歯車16は、この実施形態では、ケーシング50のケーシング本体51と一体化された内歯歯車本体17と、該内歯歯車本体17の外ピン支持部17Aに配置された複数の円柱状の外ピン19と、摺動促進部材として外ピン19に外嵌された外ローラ20とによって構成されている。外ローラ20は、内歯歯車16の内歯を構成している。内歯歯車16の内歯の数(外ピン19、あるいは外ローラ20の数)は、外歯歯車14の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0020】
外歯歯車14は、該外歯歯車14を貫通する貫通孔14Aを、該外歯歯車14の中心からオフセットした位置に複数備える。各貫通孔14Aには、内ピン32(ピン部材)が貫通している。内ピン32の外周には、摺動促進部材として内ローラ38が外嵌されている。内ローラ38と各貫通孔14Aとの間には偏心体12の偏心量の2倍相当の隙間が確保されている。外歯歯車14の軸方向反負荷側にはフランジ部材34が配置されている。内ピン32は、該フランジ部材34の内ピン保持穴34Aに圧入・連結されている(始めから一部材としてフランジ部材34と一体化されていてもよい)。フランジ部材34は、出力軸36と一体化されている。出力軸36は、一対のテーパローラ軸受37に支持されている。
【0021】
なお、この減速装置10のケーシング50は、前記内歯歯車本体17の機能を兼ねる前記ケーシング本体51、ケーシング本体51の負荷側に配置された出力部ケーシング体52、ケーシング本体51の反負荷側に配置された第1カバー(カバー部材)53、および出力部ケーシング体52の負荷側に配置された第2カバー54によって主に構成されている。
【0022】
本発明は、潤滑剤として、グリースを使用することも、潤滑油(オイル)を使用することも可能であるが、本実施形態では、潤滑油を使用している(オイル潤滑)。ここで、本実施形態に係る偏心揺動型の減速装置10の潤滑油の供給に関係する構成について詳細に説明する。
【0023】
図2は、本実施形態に係る偏心揺動型の減速装置10の要部拡大断面図、図3は、第1カバー53単体の正面図、図4は、図3の矢視IV−IV線に沿う断面図である。また、図5は、第1カバー53単体を、その軸方向減速機構部56側をやや上側に向けて、描写した斜視図である。
【0024】
概略から説明すると、既に述べたように、本実施形態に係る偏心揺動型の減速装置10は、内歯歯車16と、該内歯歯車16に内接噛合する外歯歯車14と、該外歯歯車14を偏心揺動回転させる偏心体軸24と、を備える。外歯歯車14の軸方向負荷側には、フランジ部材34(図1)が配置されている。フランジ部材34には、外歯歯車14に設けられた貫通孔14Aを貫通している内ピン(ピン部材)32が連結されている。これにより、フランジ部材34は、外歯歯車14の自転成分と同期した動きをする。内ピン32には、外歯歯車14との摺動促進部材として内ローラ(ローラ部材)38が外嵌されている。
【0025】
外歯歯車14の軸方向反負荷側には、当該減速装置10のケーシング50の一部を構成する第1カバー(カバー部材)53が設けられている。第1カバー53と内ローラ38との間にはスペーサ(スペーサ部材)80が配置されている。
【0026】
以下、より具体的な構成を詳細に説明する。
【0027】
第1カバー(カバー部材)53は、この実施形態では、モータカバーと兼用とされている。第1カバー53の径方向中央には、入力側オイルシール60が設けられ、減速機構部56側の潤滑油がモータ18側に漏れるのを防止している。また、第1カバー53の径方向中央には、入力側オイルシール60と並んで玉軸受62が設けられ、モータ軸兼用の入力軸11を支持している。この玉軸受62は、いわゆるシール軸受であり、転動体62Aが内輪62B、外輪62Cおよびシール部材62Dで密封された潤滑空間内に配置されている。そのため、入力側オイルシール60の軸方向外側に配置されていても、単独で自己潤滑可能である。
【0028】
また、この第1カバー53は、図3に示されるように、外周の1ヶ所から径方向内側に向けて給油口64が開口されている。また、外周の他の1ヶ所から同様に径方向内側に向けて空気抜き口66が開口されている。なお、この実施形態では、図3の左側に描写されている方を給油口64として使用しているが、給油口64と空気抜き口66は、基本的に同一の形状をしており、給油管68、69の径d68、d69も同一であるため、いずれを給油口とし、いずれを空気抜き口として使用してもよい。つまり、給油管68の一端は給油口64で減速機構部56に開口し、給油管68の他端は潤滑油(潤滑剤)の供給口70Cで減速機構部56側の空間に開口している。
【0029】
なお、本発明における「潤滑剤の供給口」は、「減速機構部に開口している部分」、すなわち、本実施形態で言うならば、給油口64ではなく、符号70Cを付した部分に相当している。つまり、本発明における「潤滑剤の供給口」は、減速機構部に開口している部分がカバー部材(この例では第1カバー53)内にあることに意義を有するものであり、例えば別のケーシング体(例えばケーシング本体51や、第1カバー53とは別体のモータカバー等)において外部に開口し、配管によってケーシング体を跨いで減速装置のカバー部材内に入って減速機構部に開口する構成であってもよい。逆に言うならば、本発明に係る潤滑剤の供給口は、減速機構部のいずれの位置でカバー部材に開口していてもよい。
【0030】
なお、給油口64および空気抜き口66には、閉塞栓63、65が装着可能とされ、給油完了後に、ケーシング50内を密閉可能である。
【0031】
潤滑油(潤滑剤)の供給口70Cは、第1カバー53の軸方向減速機構部56側の面に周方向に形成された円弧油路70と連通している。円弧油路70の径方向幅はRである。円弧油路70の径方向内側で、かつ軸方向負荷側には、リング状の第1円周油路71が、該円弧油路70に連続して周方向に1周して形成されている。
【0032】
第1カバー53の第1円周油路71の径方向外側には、突出部74(図1図3図5参照。図2には表れていない。)が形成されている。突出部74は、図1に示されるように、外歯歯車14の前記貫通孔14Aよりも径方向外側に設けられた規制部14Bの反負荷側端面14Cと当接し、該外歯歯車14の軸方向移動を規制している。規制部14Bの反負荷側端面14Cは、突出部74と滑り接触するため、平面研削盤によって仕上げ加工されている。
【0033】
第1カバー53の突出部74は、図3および図5に示されるように、周方向において間欠的に設けられている。つまり、結果として突出部74が形成されていない部分は、突出部74に対して相対的に凹部76が形成されている。突出部74と凹部76は、周方向において交互に配置されており、この実施形態では、一周において突出部74が4ヶ所、凹部76が4ヶ所、それぞれ形成されている。突出部74の周方向長さと凹部76の周方向長さは、同一ではない。この実施形態では、突出部74の周方向長さの方が、凹部76の周方向長さよりも長く形成され、突出部74と外歯歯車14の規制部14Bとの間の接触面圧の低減を図っている。また、各凹部76については、それぞれの周方向長さも同一ではない(給油管68、69に近い方が長い)。
【0034】
第1カバー53の第1円周油路71の径方向外側で、突出部74の径方向内側には、軸方向と直角のスペーサ組み込み面78が、周方向にリング状に形成されている。スペーサ(スペーサ部材)80が、該スペーサ80の外周80Aと第1カバー53に設けられた段部の内周74Aとが当接する態様で、第1カバー53に嵌め込まれ、当該スペーサ組み込み面78と当接している。
【0035】
スペーサ80は、この実施形態では、鉄(鋼)系のリング状のプレート部材で構成されている。スペーサ80は、内ピン32の軸方向端面32Aと、隙間δ1を有して対向すると共に、内ローラ38の軸方向端面38Aとも隙間δ3を有して対向している。スペーサ80の径方向幅W(外周80Aの外径d80および内周80Bの内径D80)は、本実施形態では、内ローラ38の軸方向端面38Aの全体が、スペーサ80の負荷側端面(減速機構部56側の軸方向側面)80Cと当接する寸法に設定されている。なお、必ずしも内ローラ38の軸方向端面38Aの全体が、スペーサ80の負荷側端面80Cと当接している必要はない。
【0036】
しかし、スペーサ80の負荷側端面80Cは、突出部74の負荷側端面74B(図1図4参照)よりも軸方向反負荷側に位置している。つまり、スペーサ80の負荷側端面80Cと外歯歯車14の規制部14Bの反負荷側端面14Cとの間には軸方向に隙間δ5があり、スペーサ80と外歯歯車14は、接触していない(スペーサ80は、外歯歯車14の軸方向の位置規制には、関与していない)。外歯歯車14は、第1カバー53の当該突出部74、差し輪15、およびフランジ部材34によって全体の軸方向の移動規制が行われている。
【0037】
なお、この実施形態では、外歯歯車14は、規制部14Bに隣接して該規制部14Bの径方向内側に隣接部14Eを備えている。規制部14Bの軸方向幅はW14B、隣接部14Eの軸方向幅はW14Eである。規制部14Bの軸方向幅W14Bは、隣接部14Eの軸方向幅W14Eよりも大きい(W14B>W14E)。このため、この実施形態では、スペーサ80と外歯歯車14との間には、規制部14Bにおいて隙間δ5、隣接部14Eにおいて(該隙間δ5よりも大きい)隙間δ11が形成されている。
【0038】
スペーサ80は、本実施形態では、第1カバー53の前記円弧油路70の軸方向負荷側の開口部70Aを閉塞している(図1図2参照)。すなわち、供給口70Cから流入された潤滑油は、円弧油路70から直接減速機構部56側には流入せず、スペーサ80の径方向内側を横切って減速機構部56側に流入するように構成されている。換言するならば、円弧油路70に流入してきた潤滑油は、該円弧油路70の径方向内側に連続している第1円周油路71を介して(最も潤滑の必要な)偏心体軸受26の近傍から減速機構部56側に流入してゆく構成とされている。
【0039】
第1カバー53の突出部74の径方向外側には、内歯歯車本体17の外ピン支持部17Aに対向している内歯歯車対向部82が設けられている。内歯歯車対向部82の外径d82は、外ピン19の最内径(外ピン19の最内部の入力軸11の軸心O1からの寸法の2倍)D19よりも大きい。すなわち、該内歯歯車対向部82によって、内歯歯車本体17の外ピン支持部17Aから、外ピン19が軸方向に抜けるのが防止されている。内歯歯車本体17の外ピン支持部17Aの軸方向第1カバー側の端面17A1と、第1カバー53の内歯歯車対向部82との間には隙間δ7が形成されており、外ピン19の軸方向端部19Aと内歯歯車対向部82との間には隙間δ9が形成されている。
【0040】
第1カバー53の内歯歯車対向部82の更に径方向外側には、第2円周油路84が円周方向に一周する態様で形成されている。第2円周油路84は、内歯歯車対向部82よりも、軸方向反負荷側にまで深く穿設されており、該第2円周油路84に入り込んだ潤滑油が円滑に周方向に流れることができるように構成されている。
【0041】
なお、図1において、符号86、87はOリング、また、符号88は、出力軸36と第2カバー54との間にリング部材55を介して配置された出力側オイルシールである。これらのOリング86、87や出力側オイルシール88、および前記入力側オイルシール60によって減速装置10のケーシング50内は封止されている。
【0042】
次に、この偏心揺動型の減速装置10の作用を説明する。
【0043】
再び図1を参照して、モータ18のモータ軸18Aの回転によって、該モータ軸18Aと一体化されている減速装置10の入力軸11が回転すると、キー22を介して入力軸11と連結されている偏心体軸24が回転する。偏心体軸24が回転すると、該偏心体軸24と一体的に形成されている偏心体12が回転し、入力軸11が1回回転する毎に偏心体軸受26を介して外歯歯車14が1回偏心揺動回転する。この結果、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が、順次ずれていく現象が発生し、外歯歯車14は、内歯歯車16との歯数差分、すなわち「1歯分」だけ、固定状態にある内歯歯車16に対して相対回転する(自転する)。この自転成分が、内ピン32を介して外歯歯車14の軸方向負荷側に配置されたフランジ部材34に伝達され、フランジ部材34と一体化されている出力軸36が回転する。この結果、(内歯歯車16と外歯歯車14の歯数差)/(外歯歯車14の歯数)に相当する減速比の減速を実現することができる。
【0044】
このような構成に係る偏心揺動型の減速装置10の各部の潤滑を行うための手法としては、前述した特許文献1のように、減速機構部56の組み付けの段階で、各構成要素に予めグリース等の潤滑剤を塗っておく手法がある。しかし、この手法は、ケーシング50内に確保し得る潤滑剤の量に限界があり、用途によっては、十分な潤滑性能が得られないことがある。
【0045】
これに対し、本実施形態のように、給油口64から供給口70Cを介して潤滑油(前述したようにグリースでも可)を減速装置10の減速機構部56に送り込む手法を採用した場合には、十分な量の潤滑油の封入が可能である。しかし、この手法を、本実施形態のような「偏心揺動型」の減速装置10に採用する場合、当該供給口70Cの配置場所が問題となる。例えば、ケーシング本体51に供給口(70C)を設けて、該ケーシング本体51から減速機構部56に潤滑油を供給する構成を採用した場合、差し輪15等の外歯歯車14の位置決め部材が、潤滑油の径方向の移動を阻害するため、該外歯歯車14の径方向内側に位置している(最も潤滑したい)偏心体軸受26の近傍に潤滑油を供給するのが、現実には非常に困難となってしまう。
【0046】
そこで、本実施形態では、第1カバー(カバー部材)53に供給口70Cを設けるようにしている。これにより、以下の作用により、偏心体軸受26の近傍に潤滑油を良好に供給することができる。すなわち、潤滑油を、給油口64から給油管68を通って第1カバー53に設けられた供給口70Cを介して供給すると、潤滑油は、該供給口70Cから先ず円弧油路70に至る(矢印A1)。円弧油路70は、その軸方向減速機構部56側が、スペーサ80によって閉塞されている。このため、該円弧油路70に到達した潤滑油は、その全量が、円弧油路70の径方向内側に連続して形成された第1円周油路71に入り込み、全周に行き渡りつつ、スペーサ80の径方向内側を通って、偏心体軸受26の近傍から減速機構部56側へと拡散していくようになる(矢印A2、A3)。したがって、最も潤滑したい偏心体軸受26の近傍に、先ず潤滑油を行き渡らせることができる。
【0047】
この実施形態では、スペーサ80と外歯歯車14との間には、規制部14Bにおいて隙間δ5、規制部14Bの径方向内側の隣接部14Eにおいて(該隙間δ5よりも大きい)隙間δ11が軸方向に形成されている。一方、複数ある各内ローラ38は、周方向に離れて存在している。そのため、第1円周油路71に至った潤滑油は、周方向における内ローラ38同士の間であって、外歯歯車14とスペーサ80との間に軸方向に形成された当該隙間δ5、隙間δ11を通って、径方向外側に移動することができる(矢印A5)。この場合、特に、隣接部14Eでは、スペーサ80や第1カバー53に対して(規制部14Bでの隙間δ5よりも)大きな隙間δ11を確保することができていることから、潤滑油の移動をより促進できる。
【0048】
また、スペーサ80と内ピン32の軸方向端面32Aとの間に隙間δ1、スペーサ80と内ローラ38の軸方向端面38Aとの間に隙間δ3が形成されていることから、当該隙間δ1、隙間δ3を介しても、潤滑油は、径方向外側に移動することができる(矢印A4)。この結果、内ピン32と内ローラ38との間、および外歯歯車14の貫通孔14Aと内ローラ38との間に、潤滑油を十分に供給することができる。
【0049】
このようにしてスペーサ80の径方向外側にまで到達した潤滑油は、第1カバー53の突出部74が、周方向に間欠的に設けられていることから、(該突出部74が設けられていない)凹部76を介して、更に径方向外側に移動することができる(矢印A6)。
【0050】
内歯歯車本体17の外ピン支持部17Aの軸方向第1カバー側の端面17A1と、第1カバー53の内歯歯車対向部82との間には、隙間δ7が形成されており、外ピン19の軸方向端部19Aと内歯歯車対向部82との間には隙間δ9が形成されている。このため、潤滑油は、この隙間δ7、隙間δ9を介して内歯歯車対向部82の径方向外側に形成されている第2円周油路84に至ることができる(矢印A7、A8)。第2円周油路84は、周方向に一周する態様で形成されているため、これにより、外ピン19と外ピン支持部17Aとの間、外ピン19と外ローラ20との間、および外ローラ20と外歯歯車14との間に潤滑油を良好に供給することができる。
【0051】
また、本実施形態では、スペーサ80の外周80Aと第1カバー53に設けられた段部の内周74Aとが径方向で当接しているため、スペーサ80の第1カバー53に対する位置決めを簡易に行うことができ、スペーサ80と内ローラ38の軸方向端面38Aとの間の隙間δ3を、常に良好に確保することができる。
【0052】
これにより、潤滑油の供給・移動は、例えば、従来の、スペーサ部材が内ローラや外歯歯車の軸方向端面と当接している構造と比較して、より円滑に行え、より短時間で給油(潤滑剤の供給)を完了することができる。この潤滑構造は、モータを鉛直上側、出力軸を鉛直下側に配置する縦置きの場合には、スペーサ部材が減速機構部に蓋をするような形態になるので特に有効である。
【0053】
そして、外歯歯車14は、規制部14Bにおいて第1カバー53の突出部74と当接し、該突出部74との当接により、外歯歯車14の軸方向移動が確実に規制される。規制部14Bの反負荷側端面14Cは、平面研削盤によって仕上げ加工されているため、突出部74との摺動抵抗は小さい。そして、規制部14Bの軸方向幅W14Bは、該規制部14Bの隣接部14Eの軸方向幅W14Eよりも大きく形成されているため(隣接部14Eの軸方向幅W14Eが、規制部14Bの軸方向幅W14Bより小さいため)、隣接部14Eは、突出部74ともスペーサ80とも当接しない。そのため、この隣接部14Eについては、平面研削盤による仕上げ加工を省略することができ、外歯歯車14の加工時間の短縮および加工コストの低減を図ることができる。
【0054】
なお、上記実施形態においては、第1カバー53の突出部74および該突出部74が当接する外歯歯車14の規制部14Bは、スペーサ(スペーサ部材)80の径方向外側に設けられていたが、本発明においては、カバー部材の突出部および外歯歯車の規制部を、スペーサ部材の径方向内側に位置させるようにしてもよい。すなわち、この場合には、外歯歯車は、偏心体軸受に近い径方向位置で、軸方向に位置規制され、規制部の径方向外側に隣接部が位置することになる。この構成では、突出部が周方向に間欠的に設けられていることから、潤滑油は、該突出部の間の凹部を介して偏心体軸受の近傍に移動できる。また、第1円周油路71から、貫通孔14Aと内ローラ38との隙間を介して、外歯歯車14と外歯歯車14との軸方向の隙間を通り、差し輪15の径方向内側からも、潤滑油は偏心体軸受26に供給され得る。
【0055】
また、スペーサ部材は、該スペーサ部材の内周とカバー部材の外周とが径方向で当接するような態様でカバー部材に組み込むように構成してもよい。これにより、上記実施形態と同様に、スペーサ部材のカバー部材に対する位置決めを簡易に行うことができ、スペーサ部材とローラ部材の軸方向端面との間の隙間(上記例での隙間δ3)を、常に良好に確保することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、突出部74の周方向長さの方が、凹部76の周方向長さよりも長く形成されていたが、突出部74と凹部76の周方向長さは、同一でもよい。また、例えば、潤滑油の移動を優先する場合には、凹部76の周方向長さの方が長くてもよい。各突出部74および各凹部76の各々の周方向長さも、同一であってもよいし、上記実施形態のように、異なっていてもよい。また、突出部74および凹部76の形成数は、4ヶ所ずつでなくてもよい(4ヶ所より多くても少なくてもよい)。
【0057】
なお、上記実施形態においては、内歯歯車16の外ピン19の外周に、摺動促進部材として外ローラ20が外嵌される構成例が示されていたが、本発明においては、このような内歯歯車側の摺動促進部材の組み込みは、必ずしも必須ではない。
【符号の説明】
【0058】
10…減速装置
11…入力軸
14…外歯歯車
14A…貫通孔
14B…規制部
14C…負荷側端面
14E…隣接部
16…内歯歯車
24…偏心体軸
32…内ピン(ピン部材)
32A…軸方向端面
34…フランジ部材
36…出力軸
38…内ローラ(ローラ部材)
50…ケーシング
53…第1カバー(カバー部材)
56…減速機構部
70C…供給口(潤滑油の供給口)
74…突出部
80…スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5