【実施例】
【0020】
図1〜
図15に実施例を示し、
図1は実施例のニットデザインシステム2を示し、4はバス、6はカラーモニタ、8はスタイラス、マウス、キーボード等のマニュアル入力装置である。10はLANインターフェース、ディスクドライブ、外部メモリ等のファイル入出力装置で、指示サイズ、ニットデザインデータ、ニットデータ等のファイルを入出力する。12はカラープリンタ、14はメモリで、適宜のデータ、データベース、プログラム等を記憶し、これ以外に図示しないCPUが有る。
【0021】
ニットファブリックのデザインは、指示サイズ等を基に、編地の各パーツの形状を定めることから始まる。この形状をコース方向とウェール方向の編目の数に変換したものが、パターンデータである。ニットデザインデータは、コース方向とウェール方向の編目の目数、個々の編目の種類、編目間の接続関係等を示すデザインデータで、パターンデータに基づくデザインデータである。パターンデータ、ニットデザインデータ等で指定されるデザインを、ニットデザインという。ニットデータは、横編機、丸編機等の編機を駆動し、ニットデザインデータに従った編地を編成するためのデータで、ニットデザインデータを編機の駆動用に変換したものである。
【0022】
ニットデザイン部16は、ファイル入出力装置10からの入力ファイル、マニュアル入力装置8からのマニュアル入力等に基づき、ニットファブリックをデザインする。そしてデザインしたニットファブリックに対するニットデザインデータを出力すると共に、ニットデザインデータをニットデータに変換して出力する。
【0023】
ピッチ記憶部17は、編目のゲージとピッチとを記憶する。ゲージは所定長さ当たりの編目数で、コース方向のゲージとウェール方向のゲージとがあり、例えば最適な風合いサンプルから測定できる。なおゲージは、表目のみの組織、あるいは裏目のみの組織での編目サイズを表す。表目と裏目とが接続されている場合、編目間のピッチが問題である。ピッチには表目−表目間のピッチと、裏目−裏目間のピッチ、及び表目−裏目間等のピッチがあり、表目−表目間のピッチと裏目−裏目間のピッチは同じである。また表目−裏目間のピッチと裏目−表目間のピッチは同じである。ピッチには、コース方向(
図6等でのx方向)のピッチと、ウェール方向(
図6等でのy方向)とがある。表目−裏目間等のピッチが問題になるのは、リブ、ガータ、組織柄等の編組織があるためで、表目のみあるいは裏目のみから成る組織のみの場合、ゲージで充分である。これ以外に、寄せの有る編目に対するピッチを、ピッチ記憶部17で記憶しても良い。
【0024】
外形算出部18は、ピッチ記憶部17での、編目のゲージとピッチとに基づき、ニットデータに基づく編地の外形サイズを演算する。外形算出部18は、編目をコース方向のラインとウェール方向のライン(これらをグリッドラインという)上に配列し、編目のピッチ、寄せに基づいて、グリッドラインを変形させる、グリッドライン変形部19を備えている。また外形算出部18は、変形後のグリッドラインから、編地の外形形状、特に外形サイズを求める外形抽出部20を備えている。なお編目の位置は、変形後のグリッドラインから判明する。
【0025】
グリッドラインの変形では、コース方向に接続されている編目を互いに揃えて移動させ、同様にウェール方向に接続されている編目を互いに揃えて移動させる。このため、個々の編目の移動ではなく、グリッドラインの変形を演算する。そして編目を揃えて移動させる程度を、移動平均か、あるいはコース及びウェールの等全長に渡る平均かにより定め、特に移動平均で平均化する長さにより定める。この発明では、グリッドラインを変形させるため、個々の編目が不揃いに移動することなく、外形の演算に繰り返し計算を要しない。また個々の編目の位置が分かれば、編地の外形も分かる。従って短時間で編地の外形、あるいは編地のパーツの外形を演算できる。従って短時間で、外形サイズを演算できる。
【0026】
グリッドライン変形部19は、グリッドラインを変形させることにより、編目の位置を求める。しかし編地あるいはパーツの端部では、編目の位置に乱れが生じることがある。そこでスムージング部24により、端部の編目、あるいは端部から所定コース内(例えば5コース内、3コース内等)の編目に対し、編目の位置をスムージングすることが好ましい。
【0027】
ループ配置部26は、外形算出部18で求めた編目の位置、あるいはこれをスムージング部24でスムージングした編目の位置を元に、編目をループで表現した画像を生成する。ループ配置部26への入力データから、編目の基準位置(例えば始点位置)と終端位置等が判明し、また編目間の接続関係、及び編目の種類も判明している。ループ配置部26は、これらのデータに従い、編目を糸のループで表す。
【0028】
表示制御部28は、カラーモニタ6の表示を制御し、またマニュアル入力装置8からの入力を解釈する。例えばカラーモニタ6の画面を2画面等に分割し、一方の画面に指示サイズに基づくデザインと、外形抽出部20で求めた外形とを重ね合わせて表示し、誤差をユーザが確認できるようにする。そして他の画面で、パターンデータの修正、組織柄のデザイン修正、編目の追加、削除等を受け付ける。
【0029】
図2は実施例の各プロセスを示し、プロセスp1では、編地のサイズを指示するサイズデータ(指示サイズ)と風合いデータ(ゲージ等)及び、編目の種類と接続関係を指定することにより、ニットデザインデータとニットデータを作成する。プロセスp2では、コース方向とウェール方向のゲージ、表目−裏目間のコース方向とウェール方向のピッチ、及び寄せのある編目のコース方向とウェール方向のピッチに基づき、グリッドラインを変形する。編目は、コース方向のグリッドラインとウェール方向のグリッドラインの交点に有り、グリッドラインが定まると、編目の位置が定まる。
【0030】
プロセスp3〜p5は省略可能で、プロセスp3では端部付近の編目配置をスムージングし、プロセスp4では各編目をループの画像で置き換える。プロセスp5では、1個の画面に、指示サイズに基づく編地の形状と、外形算出部18等で求めた編地の外形とを重ね合わせて表示する。また他の画面から、マニュアル入力等に基づき、パターンデータ、ニットデザインデータ等の修正を受け付ける。
【0031】
図3は編地の外形サイズの演算を模式的に示し、ボックス30はニットデータを表し、実際にはボックス30は編目の種類と寄せ等をカラーで色分けして表す。ボックス31は編目の外形データを表し、ボックス32はボックス31での編目の配置を拡大して示している。編目は、コース方向とウェール方向とにグリッド状に配置されている。編目は、特に表示が無い場合は、上下左右の編目と接続され、寄せ等により接続関係が変化すると、編目の接続関係が示されている。ボックス32の表示は、表目と裏目との接続、編目の寄せ、等によるピッチの変化を反映していないので、サイズは実際的なものではない。
【0032】
図4は、ゲージとピッチとの取得アルゴリズムを示す。風合いサンプル自体は特許文献1により公知で、ステップS1で、表目のみあるいは裏目のみから成る組織の他に、リブ(コース方向に沿って表目と裏目とが交互に現れる組織)及びガータ(ウェール方向に沿って表目と裏目とが交互に現れる組織)を含むように、風合いサンプルをデザインする。これ以外に寄せ等を含めても良い。
【0033】
風合いサンプルのニットデザインデータをニットデータに変換し、横編機等でニットし、仕上げ加工を施す(ステップS2)。この時、編目当たりのループ長を変えて、複数の風合いサンプルを編成し、風合いが最適なサンプルを選択し(ステップS3)、最適なものがなければ、ループ長等を変更して再度風合いサンプルを編成する。
【0034】
最適風合いサンプルに対し、表目と表目が隣接している場合、及び裏目と裏目が隣接している場合の、編目のコース方向ピッチxpとウェール方向ピッチypを求める(ステップS4)。これらをゲージとして表すと最適風合いサンプルに対するゲージが得られ、このゲージを用いる。
【0035】
表目と裏目とが隣接している場合の、編目のコース方向ピッチxpと、ウェール方向ピッチypを、表−裏間ピッチとして求める(ステップS5)。これらのピッチには、リブの場合のピッチと、ガータの場合のピッチとがあり、いずれを適用するかは、ニットデータでの編目の種類から求まる。周囲を表目に囲まれた裏目等の場合、コース方向のピッチxpはリブの編目のピッチで定まり、ウェール方向のピッチypはガータの編目のピッチで定まる等のモデル(ルール)に従うか、あるいは風合いサンプルにこのような編目を含ませておくことが好ましい。また風合いサンプルが寄せ等を含んでいる場合、ステップS6で、寄せのコース方向ピッチとウェール方向ピッチとを求める。以上の手続により、編目のサイズの基礎となるゲージとピッチが求まる。
【0036】
編地では、編目はコース方向とウェール方向とに接続されているので、編目の形状は周囲の編目の影響を受けて変化する。周囲の編目の影響を盛り込み、かつ短時間で、繰り返し演算無しに、編地の外形サイズを求めるため、
図5〜
図15の処理を行う。
【0037】
図5のステップS11で、指示サイズ等を基に編地の形状を定め、ステップS12でゲージを基に指示サイズ等を目数に変換してパターンデータとし、ステップS13で編組織、編目の種類等を追加し、ニットデザインデータとする。そしてステップS14でニットデザインデータをニットデータに変換する。ここでの目数には、表目と裏目とが接続されること、編目が寄せられること等が反映されていないので、ニットデータ通りに編成すると、一般に指示サイズと異なる編地となる。
【0038】
ステップS15で、表−裏間ピッチ及び寄せピッチに基づき、コース方向のグリッドラインとウェール方向のグリッドラインを変形させ、より現実的な編目の位置を求める。ステップS16では、求めた編目の位置に基づき、編地の外形サイズを演算する。
【0039】
グリッドラインのモデルを、
図6に破線で示す。コースc1〜c4とウェールw1〜w5が表示され、ウェールw1〜w3は表目、ウェールw4,w5は裏目で、コース番号をjで、ウェール番号をiで示す。各コースc1〜c4及び各ウェールw1〜w5での、編目が配置されている直線あるいは曲線が、グリッドラインである。また編地の起点を、例えば
図6の左下に置く。ウェールw2−w1間のピッチは、ウェールw2の4個の編目(j=1〜4)のx方向ピッチxpjの平均とする。コースc1−c2間のピッチは、コースc2の5個の編目(i=1〜5)のy方向ピッチypiの平均とする。即ち、編目を単独で移動させずに、編目が属するコース方向とウェール方向とのグリッドラインを変形し、変形には各編目のピッチの平均値あるいは移動平均を用いる。なおウェールw1−w2,w4−w5等のピッチは、ゲージで定まるピッチに等しい。またコースc1−c2のピッチは、表目−表目のピッチ×3と、裏目−裏目のピッチ×2の、重み付きの平均で、重みはそのピッチとなる編目の数である。さらにコースc1−c2〜c3−c4のピッチは共通である。グリッドラインを定めるデータは、例えばグリッドラインの交点(編目)の座標の配列であり、グリッドラインの変形とは編目の座標を移動させることである。
【0040】
短いグリッドラインは直線に近く、長いグリッドラインは直線から外れるのが自然である。言い換えると、1個の編目のピッチは、遠く離れた編目の配置に僅かしか影響しないはずである。そこで編目の位置が直線上に揃う程度の編目数で平均する、移動平均が好ましい。
【0041】
図7に寄せのピッチの演算を示し、風合いサンプルに寄せの編目が含まれている場合は、測定値を用いる。編目のサイズ自体は寄せで変化しないものとし、表目−表目のピッチあるいは表目−裏目のピッチに対応する標準的なピッチをxp、yp(以下同様)として、サイズ(xp
2+yp
2)
1/2 は変化しないものとする。そして編目の基端等の基準位置を中心に円73に沿って、編目71を編目72へと回転させる。なお寄せピッチを求めるためのモデルは他にも考えられ、モデルとピッチの近似方法は任意である。
【0042】
図8,
図9に、寄せの編目に対するピッチの演算方法を補足して示す。寄せられた編目に対して、ピッチが縮む方向のみを対象とし、
図8の●は編目の起点を、○は先端を示し、ウェール3-4におけるこの編目のピッチを考える。aを寄って来る前の編目の先端位置、a’を寄って来た後の位置とする。位置a'がウェール3上にある時、この編目のウェール3-4でのピッチを0とする。位置a'に対し、x,yを
図8のように定義すると、この編目のウェール3-4におけるピッチは-xp+x(xpは標準ピッチ)となり、コース2-3におけるピッチはyとなる。次に位置a’は基端と位置aとを結ぶ線上に有り、位置a'と基端との距離はypに等しいとすると、x,yが定まる。
図9は、他の編目に対する同様の演算例を示す。
【0043】
図10は、引き伸ばされた編目のピッチの考え方を示し、この編目の先端は位置bから位置b'へ収束するとする。コース3-4におけるこの編目のピッチを考えると、先端の位置b'がJ=3のグリッドライン上にあるときピッチを0とする。先端の位置b'はj=2のグリッドライン上に収束するので、コース3-4におけるピッチは−ypとする。
【0044】
図8,
図9のモデルを用いると、
図11におけるコース間のピッチとウェール間のピッチを演算できる。図のコース1等は、コース1-2間等のピッチを表す。またa-dは編目の記号である。なおウェール2-3におけるピッチ(xp+xp−(xp−xpa)+xp)/4 は、ピッチxpの編目が2個有り、編目aはピッチが−(xp−xpa)となり、編目cの基端がピッチxp分の寄与をしていると考えて求めた。ただし演算方法の詳細は適宜に変更できる。
【0045】
図10のモデルと
図8等のモデルとを用いると、
図12におけるピッチを演算できる。コース3-4におけるピッチを (2ypa+0)/3 とするのは、編目a、及びこれと同じ形状の編目の寄与が2ypaで、編目eは、先端がj=3のグリッドライン上に収束しようとするのでピッチへの寄与は0である。同様にしてコース4-5等におけるピッチも演算できる。ウェール1-2におけるピッチは、通常の編目が2目で寄与が2xp、編目aの寄与がxpaで、平均すると (2xp+xpa)/3 となる。
【0046】
このようにして各編目のコース方向とウェール方向のピッチを求め、破線で示すグリッドライン毎に平均すると、変形後のグリッドラインの位置が定まる。なお
図11,
図12では単純平均を示しているが、グリッドラインが長い場合、移動平均が好ましい。
【0047】
以上のように、寄せを伴う場合のピッチは、
・ 風合いサンプルから測定する
・
図8,
図9,
図10のモデルをそのままあるいは修正して用いる、ことにより求めることができる。これらのピッチは、ピッチ記憶部17に記憶するか、その都度、グリッドライン変形部19で演算して求める。またミス及びタックは、グリッドラインの変形に関係しないとするが、適当なモデルを別に定めても良い。そしてグリッドラインがどのように変形するかが判明すると、編目の位置が求まる。この処理は繰り返し演算無しで、短時間で実行できるので、編地の外形サイズを短時間で求めることができる。
【0048】
グリッドライン単位で編目を移動させるので、パーツの端部で編目の位置が乱れることがある。これを解消する場合、
図13の処理を実行する。ステップS21で、パーツ端部の編目、あるいは端部から5コース内、3コース内、等の所定コース内の編目を抽出する。パーツが身頃で、端部の位置がアームホールの場合、袖と接合されることにより、袖の編目に引かれて、端部の編目の位置が変化することがある。そこで端部が他のパーツの端部と接合される場合、他のパーツの編目との接続データを仮想的に追加する(ステップS22)。端部の編目数が他のパーツと一致する場合、編目を1:1に接続する。編目数が一致しない場合、例えば2重目による接続を追加する。
【0049】
ステップS23,S24で、特許文献2に記載の処理等を、端部付近の編目に対してのみ実行し、スムージングする。処理の詳細は任意であるが、例えば編目毎に、編目間の距離に基づくテンション、コース方向とウェール方向とが直交しないことによる歪み、編地が端部でカールしようとすることに基づくコース方向の曲げとウェール方向との曲げを評価し(ステップS23)、これらに基づいて編目を移動させる(ステップS24)。
図13の処理は端部付近に対してのみ実行するので、処理時間が短く、かつ端部付近での編目の配置をより実際に近いものにできる。
【0050】
編目の配置を求め、所望により端部付近の編目配置をスムージングすると、個々の編目を糸のループで表すことにより、編地を簡易にループで表示できる。この処理を
図14に示し、ステップS31で、各編目に対し、基準点と先端等の位置を抽出する。また各編目に対し、周囲の編目との接続関係、及び表裏の編目の種類を抽出する(ステップS32)。これらのデータは、ニットデータ及び外形サイズの演算等で既に求まっている。これによって、編目の位置と形状、周囲の編目との接続関係、等が判明するので、これらに従って糸の画像を配置し、糸の端部が編目間の境界で互いに接続されるようにすると、編目のループ表示ができる(ステップS33)。
【0051】
図15に、2画面表示によるニットデザインの修正を示す。編地の外形サイズが判明すると、指示サイズとの一致/不一致が分かる。そこで求めた編地の外形形状を、指示サイズに基づく形状データ等と比較する。そして1個の画面に、編地の外形画像と形状データの画像とを重ねて表示し(ステップS41)、他の画面からデザインの修正入力を受け付ける(ステップS42)。例えばパターンデータを修正して編目を追加あるいは削除し、編組織のデザインを変更する。編地の一部に編目を追加するには、例えば特許文献3のようにすると良い。そして所望により、修正後のデザインに対する編地の外形を求めて(ステップS43)、ステップS41に戻り、指示サイズとの一致を確認する。
【0052】
実施例では以下の効果が得られる。
1) 編地の外形を短時間で求めることができる。
2) パーツの端部付近の編目に対しスムージングを施すと、より実際に近い編目配置が得られる。
3) 編目をループの画像で置き換えると、簡易なループシミュレーションができる。
4) 指示サイズとの誤差を視認し、パターンデータ等を修正することにより、指示サイズ通りの編地を編成できる。
【0053】
なお編地の外形サイズを指示サイズと一致させることを目的にせずに、編地形状の簡易なシミュレーションのために、本発明を用いても良い。複数種類の糸を用いる場合は、各糸を含む風合いサンプルを編成し、最適ループ長と、ゲージ、ピッチ等を取得することが好ましい。また編幅あるいは編丈によって、編目サイズが変化する場合、風合いサンプルを編幅あるいは編丈を変えて、複数種類編成することが好ましい。