特許第6109172号(P6109172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6109172暫定的締結手段を有する多軸椎弓根スクリュー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109172
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】暫定的締結手段を有する多軸椎弓根スクリュー
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/70 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   A61B17/70
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-527549(P2014-527549)
(86)(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公表番号】特表2014-529450(P2014-529450A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】EP2012064207
(87)【国際公開番号】WO2013034351
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年6月24日
(31)【優先権主張番号】102011053295.1
(32)【優先日】2011年9月6日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502154016
【氏名又は名称】アエスキュラップ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリューガー スベン
【審査官】 中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−514830(JP,A)
【文献】 特表2007−513744(JP,A)
【文献】 特表2007−514512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎骨内に椎弓根スクリュー(1)を固定するねじ付きシャフト部分(2)を有する多軸椎弓根スクリューであって、前記シャフト部分(2)の軸端にシャフト頭部(4)が構成され、前記シャフト頭部(4)が、長手方向支持体(24)用の受入スリーブ(8)に回動可能かつ/または回転式に結合され、前記受入スリーブ(8)が、前記シャフト部分(2)に対して前記受入スリーブ(8)の位置を選択的に締結する締結手段を備え、前記締結手段が、前記受入スリーブ(8)内に装着され、前記シャフト頭部(4)に作用する嵌入具(16)と、前記長手方向支持体(24)を介して前記嵌入具(16)に作用し、前記受入スリーブ(8)に直接ねじ込まれるロッキング要素(22)とを少なくとも備える、多軸椎弓根スクリューにおいて、嵌入具(16)が、前記ロッキング要素(22)に対して並列的に暫定的な押圧力を前記嵌入具(16)に導入するために、前記ロッキング要素(22)によって隠されたり覆われたりしない、形状ロッキング嵌合を有する嵌入具係合要素(20)を有するように構成されていることを特徴とする多軸椎弓根スクリュー。
【請求項2】
前記嵌入具(16)が、少なくとも部分的に、前記ロッキング要素(22)を半径方向に越えて張り出しまたは露出するように形成され、それによって、前記嵌入具係合要素(20)が、前記ロッキング要素(22)によって隠されたり覆われたりしないこれら半径部分に現れることを特徴とする、請求項1に記載の多軸椎弓根スクリュー。
【請求項3】
前記嵌入具(16)が、少なくともある軸方向部分で、円形から外れた輪郭を有し、それによって、直径の大きい輪郭部分が、前記ロッキング要素(22)を半径方向に越えて張り出し、前記嵌入具係合要素(20)を包含することを特徴とする、請求項2に記載の多軸椎弓根スクリュー。
【請求項4】
前記嵌入具係合要素(20)が、前記嵌入具(16)に押圧力を暫定的に加える外部補助手段(30)を受け入れ配置する役割を果たす軸方向センタリング穴が付されていることを特徴とする、請求項2または3に記載の多軸椎弓根スクリュー。
【請求項5】
前記受入スリーブ(8)が、前記ロッキング要素(22)に対して並列的に外部からの暫定的な引張力を前記受入スリーブ(8)にそれを介して加えることができる少なくとも1つの受入スリーブ係合要素(11)を有するように構成または形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多軸椎弓根スクリュー。
【請求項6】
前記受入スリーブ係合要素(11)、前記受入スリーブ(8)の外側スリーブ面にアンダカットを形成することを特徴とする、請求項に記載の多軸椎弓根スクリュー。
【請求項7】
求項1〜6のいずれか一項に記載の椎弓根スクリュー(1)の多軸性を暫定的に締結する補助手段であって、前記椎弓根スクリュー(1)が、受入スリーブ(8)によって囲まれたシャフト頭部(4)を有するねじ付きシャフト(2)から構成され、前記受入スリーブ(8)内に、ロッキング要素(22)によって前記シャフト頭部(4)に抗して偏移可能な嵌入具(16)が装着される、補助手段において、前記嵌入具(16)に設けられた、形状ロッキング嵌合を有する前記嵌入具係合要素(20)と直接押圧係合する第1の部材(32)と、前記第1の部材(32)に対して対方向に移動可能であり、そ受入スリーブ係合要素(11)において、前記受入スリーブ(8)と引張係合させることができるラッチ手段を有する第2の部材(34)を特徴とする補助手段。
【請求項8】
前記第1の部材(32)がプランジャ(32)の形態であり、前記第2の部材(34)が引張部材(34)の形態であることを特徴とする、請求項7に記載の補助手段。
【請求項9】
前記引張部材(34)が、前記プランジャ(32)を囲むスリーブ(34)であり、前記スリーブ(34)の軸端に、半径方向内側に突出するラッチ突起部が形成され、前記スリーブ(34)が結合を介して前記プランジャ(32)と作動的に連結されていることを特徴とする、請求項に記載の補助手段。
【請求項10】
前記結合具が、前記プランジャ(32)および前記スリーブ(34)のうちの一方の部材に取り付けられたヒンジ・レバーから構成されたレバー機構であって、前記レバーが継手を介してその他方の前記部材に結合されていることを特徴とする、請求項9に記載の補助手段。
【請求項11】
前記結合具が、前記スリーブ(34)に対して回転可能であるが、軸方向には固定されて保持されたシャフト・ナットであり、前記プランジャ(32)とねじ係合状態にあることを特徴とする、あるいは、前記結合具が、前記プランジャ(32)上のねじ(34a)とねじ係合状態にあり、前記スリーブ(34)に対して軸方向に移動可能で回転方向に固定されたキャリア(32b)に結合されたシャフト・ナット(35)であり、前記キャリア(32b)が前記プランジャ(32)に固定されていることを特徴とする、請求項に記載の補助手段。
【請求項12】
少なくとも前記プランジャ(32)が、前記嵌入具(16)との接触面を始点とするU字形の長手方向スロットを備え、それによって、前記嵌入具(16)の端面上に前記プランジャ(32)が載置される2つの側面部が現れていることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項に記載の補助手段。
【請求項13】
以下の構成要素、すなわち、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多軸椎弓根スクリュー(1)であって、受入スリーブ(8)によって囲まれたシャフト頭部(4)を有するねじ付きシャフト(2)から構成され、前記受入スリーブ(8)内に、ロッキング要素(22)によって前記シャフト頭部(4)に抗して偏移可能な嵌入具(16)が装着される、多軸椎弓根スクリュー(1)と
求項7〜12に記載の手動で操作可能な補助手段(30)であって、前記ロッキング要素(22)によって隠されたり覆われたりしない、前記形状ロッキング嵌合を有する嵌入具係合要素(20)と共に、前記嵌入具(16)に直接押圧力を選択的、暫定的に加える第1の部材(32)、および前記受入スリーブ(8)に選択的、暫定的に引張力を加える第2の部材(34)を有し、それら部材がいずれの場合にも前記ロッキング要素(22)に対して並列的である、補助手段(30)とを有する安定化システム。
【請求項14】
前記受入スリーブ(8)の横断スロット(12)に挿入可能である長手方向支持体(24)であって、前記補助手段(30)の少なくとも前記第1の部材(32)、前記第2の部材(34)もが、長手方向部材(24)の周りで係合するように設計されている長手方向支持体(24)を特徴とする、請求項13に記載の安定化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、請求項1のプリアンブルによる暫定的/一時的締結手段を有する多軸椎弓根スクリューと、多軸椎弓根スクリューを暫定的に締結する補助手段/工具と、さらに、本発明による椎弓根スクリュー、本発明による補助手段、およびさらに好ましくは長手方向部材から構成される安定化システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
椎弓根スクリューは、主として、骨折、腫瘍、感染症、奇形、および変形不安定症の場合に、経椎弓根スクリュー固定による脊柱の背面安定化に使用される。それによって、椎弓根スクリューが、隣接する各椎骨の椎弓根内に配置され、その結果、角度的に安定な連結が、軸方向に互いに上下に配置された椎弓根スクリューと軸方向に延在する長手方向部材またはバーとの間で形成される。したがって、椎弓根スクリューおよび長手方向部材が、椎骨安定化システムを形成する。
【0003】
そのために、椎弓根スクリューは、一般に、軸状シャフト形状で外ねじ付きの部分を有し、その部分のねじ頭部側にいわゆるチューリップが連結される。これは、構造的に、内ねじを有するU字形の長手方向スロット付き/トンネル付き受入スリーブを形成し、その場合、2つの長手方向スロットが径方向に対向して存在し、それぞれが所定の空隙幅のスロット空隙を形成する。長手方向部材が、互いに平行に走る長手方向スロットに横断して挿入され、内ねじにねじ込まれる、たとえばグラブ・スクリューやねじナットなどのロッキング要素を用いて固定される。
【0004】
原則として、椎弓根スクリューは2つのタイプに区分される。すなわち、単軸椎弓根スクリューおよび多軸椎弓根スクリューである。単軸椎弓根スクリューの場合、外ねじ部分またはシャフトとチューリップとは互いに一体に形成され、それらは、基本的に固定的に連結され、たとえば溶接またはろう付けされている。対照的に、多軸椎弓根スクリューは、独立したシャフト部材として、主として球形または(準)球形のスクリュー頭部を有する機械加工された外ねじ部分を有し、その頭部は、スリーブ形状のチューリップによって、相対的に回動可能に包み込まれ、同時に、頭部とシャフトとの間の移行領域で背後から把持される。このようにして、外ねじ部分を椎骨の椎弓根チャネルに埋め込んだ後、チューリップをシャフトに対して回動させかつ/または回転させることができ、それによって、チューリップに、シャフトの配向とは本質的に独立な所望の位置および配向を取らせることができる。このようにして、チューリップがシャフト頭部から抜け出す可能性がアンダカット部によって防止される。その後、チューリップが、一時固定式バーの場合グラブ・スクリューを用いて(1スクリュー方式)、またはさらに別のスクリュー/ナットを介して(複スクリュー方式)、スクリュー頭部に位置を固定される。
【0005】
椎弓根スクリューは、執刀医によって、椎骨の椎弓根チャネルの所定位置に配置され、またはねじ締めによって固定される。その際、執刀医は、椎弓根チャネルの方向に基づいてスクリューを整列させる。スクリューが設置されると、妥当な長さの上記の長手方向部材またはバーが選択され、必要に応じて、その長手方向曲率が椎弓根スクリューに合せられ、そのそれ自身の位置も調節される。長手方向部材は、さらに、椎弓根スクリューのチューリップ内に配置されることになる。
【0006】
多軸椎弓根スクリューは、チューリップ/受入スリーブが、最初はスクリュー・シャフトに対して可動的に配置され、それによって、受入スリーブが、シャフトとは異なる方向を取ることができるという点で、ここからはその特徴が出る。これによって、執刀医が、長手方向部材を受入スリーブに側方から挿入/導入することが容易になる。執刀医は、長手方向部材および受入スリーブの座りに満足すると、ロッキング要素、好ましくはグラブ・スクリュー(原理的には、セット・スクリューと呼ばれる任意の構成でもよい)を用いて椎弓根スクリューをロックする。
【0007】
多軸ロッキング(シャフトに対する受入スリーブの位置固定)ならびに長手方向部材の固締は、上記の1スクリュー方式の場合、単一の組み立てステップにおいてセット・スクリューを締めることによってロックされる。
【0008】
多軸スクリューの場合、たとえばそれらを動かすために、インプラント処置中に受入スリーブから椎骨に力を掛けることは、スクリュー・シャフトと受入スリーブとの間の可動性(リンク)によって、一般に不可能である。しかし、これは、特に、骨折または脊椎すべり症の場合、および部分的に圧縮または伸延がある場合の再配置処置にとって必要になる。したがって、このために、単軸椎弓根スクリューが使用され、受入スリーブはスクリュー・シャフトに対して動かない。しかし、これら単軸椎弓根スクリューは、長手方向部材を、複数の単軸椎弓根スクリューのチューリップ/受入スリーブへ側方から導入することが、極めて困難であるという欠点を有する。
【0009】
上記の1スクリュー方式による多軸椎弓根スクリューは、たとえば欧州特許出願公開第2,301,458A1号によるなど、従来技術において既知であり、外ねじおよび球形頭部を有するシャフト部材と、長手方向支持体/バー用のU字形長手方向スロット付き受入スリーブ(チューリップ)とから構成される。受入スリーブは、長手方向スロットの開口に向かう軸方向領域に内ねじを有し、それにグラブ・スクリューをねじ込むことができ、さらに、それぞれのスロット基底に至る軸方向領域に、半径方向内側に向かう円周状の突出または隆起部を有する。さらに、一種のピストンまたは嵌入具が、スナップ・リングを用いて受入スリーブに挿入され、このようにして、決して脱落しないようにする。
【0010】
欧州特許出願公開第2,301,458A1号から既知の多軸椎弓根スクリューの組立では、受入スリーブは、先ず、シャフト部材の遠位端(シャフト頭部の反対側にある端部)から、このシャフト部材上を、受入スリーブの半径方向内側隆起部がシャフト頭部(その下側)に当接するまで通される。続いて、嵌入具が、受入スリーブに(すなわち、シャフト頭部の上側に)押し込まれ、それによって、受入スリーブと嵌入具との間で円周上に配置されたスプリング・リングが、嵌入具および受入スリーブ上の対応する円周溝に嵌りこみ、両構成要素を軸方向に一体にして保持する。その結果、シャフト頭部が、受入スリーブの隆起部と嵌入具との間(すなわち嵌入具の下側)に配置される。
【0011】
椎弓根スクリューが、椎骨にねじ込まれ、椎骨に堅く固定され次第、長手方向部材が、(嵌入具の上方の)受入スリーブのU字形の(対になった)スロットに導入される。その際に、受入スリーブは、固定されたシャフト部材に対して回転し、回動することができる。このようにして、執刀医が、長手方向部材の向きに対応するように受入スリーブを調節することが可能になる。受入スリーブが適切な位置にセットされ次第、グラブ・スクリューが、長手方向部材を嵌入具に抗して位置決めし、嵌入具を受入スリーブの軸方向にシャフト頭部に抗してさらに押すまで、受入スリーブにねじ込まれる。このようにして、単一のグラブ・スクリュー(ロッキング要素)を締め付けることによって、椎弓根スクリュー/長手方向部材システム(椎骨安定化システム)全体を設置位置に固定/ロックすることができる。
【0012】
米国特許出願公開第2008/02155100A1号は、たとえば、上記の複スクリュー方式による多軸椎弓根スクリューを開示する。この椎弓根スクリューもまた、シャフト形状の外ねじ部分を有し、その近位端に一体のシャフト頭部を有する。シャフト頭部は、受入スリーブによって回転可能かつ回動的に囲まれ、その受入スリーブにはやはり内ねじが構成され、その受入スリーブは、長手方向部材用の、互いに対向する2つのU字形長手方向スロットを備える。
【0013】
ピストン/嵌入具が、受入スリーブに軸方向に移動可能に挿入され、そのピストン/嵌入具が、受入スリーブの長手方向スロットとほぼ同じスロット幅寸法を有するU字形長手方向スロットを同様に備える。この場合、嵌入具のU字形長手方向スロットに現れる側面部が、そのスロットを横切って挿入されるバー/長手方向部材を越えて突出するように、軸方向に延出する。言い換えれば、嵌入具の側面部の長さが、横断して挿入されるバー/長手方向部材の直径より大きい。
【0014】
米国特許出願公開第2008/02155100A1号によって知られる椎弓根スクリューを組み立てるために、受入スリーブ/チューリップは、それが回動的かつ回転可能にシャフト頭部に(下側から)軸方向に押し付けられるまで、既知の方式でシャフト上を通される。続いて、(シャフト頭部の上方の)嵌入具が、受入スリーブに導入され、そのU字形スロットが、受入スリーブのU字形スロットに一致するように位置合わせされる。長手方向部材/バーが嵌入具のU字形スロットに(必然的にこの場合受入スリーブのスロットにも)導入された後、第1のスクリュー(スクリュー・スリーブ)、好ましくは、受入スリーブの内ねじに前もってねじ込まれたグラブ・スクリューが、嵌入具を直接シャフト頭部に押し付け、それによって受入スリーブのシャフトに対する位置を固定するために、さらに締め付けられる。ただし、長手方向部材は、最初は第1のスクリューによる影響を受けないままであり、すなわち固定されない。この組立状態では、受入スリーブを介して椎骨に調節力を加えることが可能である。
【0015】
第1のスクリューは、同様にスリーブ形状であり、第2のスクリュー(グラブ・スクリュー)がねじ込まれる内ねじを有する。次いで、長手方向部材がこの第2のスクリューを用いて嵌入具内に固定され、その場合、第2のスクリューが第1のスクリューに対して回転し、バーを嵌入具内に固締するためにそのバーを直接押さえ付ける。このようにして、椎弓根スクリューの多軸性がロックされ、その結果、長手方向部材も締結される。
【0016】
上記の構造による多くの椎弓根スクリューの場合、締結手段/ロッキング要素(スクリュー)は、インプラントの後、椎弓根スクリューから長手方向部材が不要に緩む危険を冒さないように、基本的にセルフ・ロックになっている。さらに、椎弓根スクリューと長手方向部材との間の固定力は、シャフト、スリーブ、および長手方向部材の間の設置された位置関係が変化することを許すことなしに、システム全体が大きな荷重に耐えなければならないので、かなりなものになる。したがって、シャフト頭部と受入スリーブとの間の固締力は同様に極めて高く、それによって、それらの間に生じる摩擦嵌合は、締結手段が解放されても、緩まないことが多い。しかし、これらの要件はまた、インプラント処置の中で問題も生じる。
受入スリーブが、シャフト頭部と固定的に(摩擦嵌合によって)連結されていない限り、調節力を、この受入スリーブを介して椎骨に伝達することはできない。言い換えれば、たとえば1スクリュー方式による多軸椎弓根スクリューの場合、長手方向部材を先ず挿入する必要があり、次いで、ロッキング要素、好ましくはグラブ・スクリューを、椎骨に調節力を最終的に加えることができるように、締め付ける必要がある。しかし、これは、技術的に賢明ではない。
執刀医が、最初にロッキング要素(たとえばグラブ・スクリュー)を力を込めて締め付け、その後、事後調節の必要が生じることがあった場合、このように固定された位置関係は再び修正できず、または修正に非常な困難を極める。言い換えれば、そのために、執刀医は、既に椎骨内に固締された外ねじ部分を緩め、またはさらには破壊することなしに、大きな力で締め付けた1つまたは複数のグラブ・スクリューを、それらのセルフ・ロック作用に抗して、再び緩める必要がある。たとえグラブ・スクリューを問題なく緩めることができたとしても、シャフト頭部と受入スリーブとの間にセルフ・ロック摩擦嵌合が構成されている可能性がある。これは、グラブ・スクリューが緩められた場合でも、かなりの力を作用させること(受入スリーブへの衝撃など)によってのみ解除することができる。さらに、ロッキング要素のセルフ・ロック作用が、それを続けて緩めることによって劣化する可能性があり、その結果、椎弓根スクリューの運用性がもはや確保できなくなる。
【0017】
この点で、特に1スクリュー方式の場合に、多軸性およびバー/長手方向部材を少なくとも一時的かつ独立にロックすることを可能にするために、多軸性が単に暫定的に固定できれば原則的に有利である。言い換えれば、多軸椎弓根スクリューで、さらに1スクリュー方式によるものの場合、一時的に使用される特別な補助手段を用いて、バーを固定することなく多軸性のみを固定することが有効である。これは、その場合、多軸椎弓根スクリューも、その内部構造を著しくより複雑にすることなく、長手方向部材を締結する前にインプラント処置に際し椎骨を操作するために、それに対応する強い力を椎骨に伝達するのに適するようになるという利点を有する。
【0018】
この点で、用語「暫定的」は、特に以下に説明される本発明に鑑みて、シャフト頭部の単に軽い係合/拘束を必ずしも意味するべきではなく、むしろ、暫定的に使用され、かつシャフト頭部上の固締力などのその達成可能なロッキング特性が、恒久的ロッキング手段に完全に対応し、恒久的ロッキング手段に少なくとも近付きまたは超えることさえもできるようなロッキング処置を特に意味すると理解されることに留意すべきである。言い換えれば、「暫定的」ロッキング手段は、シャフト頭部での受入スリーブのロッキングを恒久的なロッキング要素に対応させるように図られるべきである。従来技術に従って摩擦嵌合を任意選択でその後緩める場合には、摩擦嵌合の弛緩はかなりの力を加えることによって初めて可能になるが、長手方向部材を締結する前に少なくとも椎骨の再調節の可能性がある。あるいは、十分な調節力が、多軸椎弓根スクリューを用いて椎骨に伝達可能であり、この場合シャフト頭部と受入スリーブとの間で達成される摩擦嵌合が再解放可能であるように、「暫定的」ロッキング手段を図ることもまた望ましい。
【0019】
しかし、既述の従来技術による多軸椎弓根スクリューは、好ましくないことが分かっている。したがって、特に1スクリュー方式の場合、多軸性は、長手方向部材がその最終的位置に着座した(未だ固定されていない)ときにのみ、ロックすることができる。多軸性をロックした後に長手方向部材を挿入することは、実際には不可能であり、または非常な困難の極みであり、また、明白により複雑な構造の椎弓根スクリューを有することが必須になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上記の問題に照らして、特に単軸椎弓根スクリューの利点を多軸椎弓根スクリューの利点と組み合わせることによって、多軸椎弓根スクリューの機能を増強することである。長手方向部材をチューリップに挿入することが過度に困難になることなく、(あらゆる実施方式に従う)多軸椎弓根スクリューを介する椎骨の操作を可能にすることが目的である。さらに、多軸椎弓根スクリューが、従来技術より(実質的に)より複雑な構造を有さないこととする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
提示された目的は、請求項1に記載の暫定的/一時的締結手段(上記の定義による意味で)を有する多軸椎弓根スクリュー、多軸椎弓根スクリューを暫定的に締結する(上記の定義による意味で)ための補助手段/工具、ならびに本発明による椎弓根スクリューおよび本発明による補助手段から構成される安定化システムによって解決される。本発明のさらに一層の有利な成果が、実質的に、従属請求項の目的である。
【0022】
本発明の基本思想は、本質的に、外部の補助手段を用いて、多軸性の暫定的/一時的固定(ロッキング)を生じさせることに基づき、その補助手段は、嵌入具と受入スリーブを互いに対抗させて偏移させ、それによって(実際のロッキング要素に従って)嵌入具と受入スリーブとの間に配置されたシャフト頭部を固締するために、多軸椎弓根スクリューの実際の(恒久的)ロッキング要素に対して並列的に、それらに作用(好ましくは同等な力によって)する。したがって、嵌入具および受入スリーブは、補助手段用の係合要素を備え/装備し、それによって、補助手段は、対応する偏移力を関連する要素(嵌入具および受入スリーブ)に加えるために、(力ロッキング嵌合によって)それぞれ係合する。さらに、嵌入具の係合要素は、押圧力を加えるために設けられ、受入スリーブの係合要素は、引張力を加えるために設けられる。
【0023】
言い換えれば、本発明による(外部)補助手段は、上記の一時的用法では、多軸性の締結に関して実際のロッキング要素を時には置き換え、またはシミュレートし、また、シャフト頭部と受入スリーブとの間に、所望の設定に応じて、恒久的ロッキング要素による摩擦嵌合より大きい、または僅かに小さい摩擦嵌合を生じるように設計することができる。したがって、これは、用語「暫定的」が、補助手段によって達成される摩擦嵌合が、必ず再解除可能であるという主旨に理解されるべきではなくて、(解除可能またはもはや解除可能でない)摩擦嵌合を暫定的に生じる補助手段が恒久的ロッキング要素に対して並列的に一時的に使用されるという主旨に理解されるべきであることを意味する。
【0024】
構造上、上述の基本思想は、配置されるロッキング要素を少なくとも部分的に半径方向に越えて張り出しまたは露出するように嵌入具を形成し、それによって、ロッキング要素によって覆われず/隠されないそれら半係方向部分に連結点が現れて、実際のロッキング要素に対して並列的に嵌入具に押圧力を導入することによって、原則的に実現される。それに対して、受入スリーブは、引張力を外部から導入するように形成/適合されたアンダカットを有するように構成/形成される。
【0025】
より具体的には、本発明による多軸椎弓根スクリューは、椎骨内に椎弓根スクリューを固定するねじ付きシャフト部分を有し、そのシャフト部分の一方の軸端に(球形または準球形の)シャフト頭部が構成されている。シャフト頭部は、長手方向支持体用の受入スリーブに回転および/または回動するように結合され、受入スリーブは、シャフト部分に対して受入スリーブの位置を選択的に締結する締結手段を備える。締結手段が、受入スリーブ内に装着され、シャフト頭部に作用する嵌入具と、嵌入具に作用するロッキング要素とを有し、それによって、嵌入具が、シャフト頭部に抗して偏移可能であり、その結果、シャフト頭部が、嵌入具と、シャフト頭部の背後に(形状ロッキング嵌合によって)係合する受入スリーブとの間に、(摩擦嵌合によって)固締される。本発明の第1の態様によれば、好ましくは独立の工具状の補助手段を使用して、ロッキング要素に対して並列的に(暫定的/一時的)押圧力を導入するために、嵌入具は、連結点または係合要素を有するように構成/形成され、その連結点または係合要素は、ロッキング要素によって覆われたり隠されたりしない。
【0026】
本発明の別の態様は、嵌入具が、少なくとも部分的に、ロッキング要素を半径方向に越えて張り出しまたは露出するように形成され、それによって、連結点が、(独立補助手段のために、)ロッキング要素によって隠されたり覆われたりしないこれら半径部分に現れるようにする。
【0027】
嵌入具が、少なくとも(嵌入具の)ある軸方向部分で、円形から外れた輪郭、好ましくは楕円形の輪郭を有し、それによって、直径の大きいそれら輪郭部分が、ロッキング要素を半径方向に越えて張り出し、連結点を包含すると有利であり得る。あるいは、この場合、半径方向に突出するラグを嵌入具に形成し、さらには、多数の角部付き外形を嵌入具にもたせ、それによって、好ましくはスクリュー/グラブ・スクリューであるロッキング要素を半径方向に越えて突出する輪郭領域とすることも可能である。このようにして、少なくとも多軸性を暫定的/一時的に締結する独立補助手段/工具を、(未だロックされていない)ロッキング要素に沿って案内し、嵌入具と軸方向に押圧係合させることができる。
【0028】
好ましくは、連結点は、嵌入具に押圧力を加えるために、外部補助手段を受け入れ配置する役割を果たす軸方向センタリング穴が付されている。したがって、補助手段が嵌入具から滑って外れることはなく、嵌入具の突出する輪郭部分は、比較的小さく設計することができる。
【0029】
十分に大きい(実際のロッキング要素と同等な)暫定的/一時的固定力を嵌入具に加えることができるようにするために、独立した補助手段によって、嵌入具と受入スリーブとが互いに抗して偏移可能であれば有利である。このために、受入スリーブは、ロッキング要素に対して並列的な外部からの暫定的引張力を受入スリーブにそれを介して加えることができる少なくとも1つの係合要素を有するように構成し、または形成することができる。好ましくは係合要素はアンダカットであり、さらに好ましくはアンダカットは受入スリーブの外側スリーブ面に形成されている。これは、嵌入具に押圧力を加えるべき補助手段の部材を、(反対向きの)引張力を受入スリーブに掛ける部材から半径方向にずらすという利点を有する。その結果、補助手段の両部材は、ほぼ一方を他方の内側に配置することができ、それによって、この配置が極めてコンパクトかつまた安定的になる。
【0030】
本発明の別の態様は、上記のもののような椎弓根スクリューの多軸性を暫定的/一時的に締結する補助手段に関する。補助手段は、独立した工具として設けられ、好ましくは、嵌入具に設けられた連結点と押圧係合するプランジャの形態の第1の部材と、第1の部材に対して、好ましくはそれとは反対方向に移動可能であり、好ましくはその係合要素位置で受入スリーブと引張係合させることができるラッチまたは係止手段を有する第2の部材、好ましくは引張部材とを有する。好ましくは、引張部材は、プランジャを囲むスリーブであり、スリーブの軸端に、半径方向内側に突出するラッチ突起部、フック、または段差が形成され、それによって、好ましくは受入スリーブの係合要素において、受入スリーブと解除可能なラッチ係合を行う。さらに、スリーブは、ラッチ突起部とは反対側の軸端部分で、結合具を介してプランジャと好ましくは作動的に連結されている。この結合具は、プランジャによる押圧力を取り囲むスリーブによる引張力に変換させ、それによって、嵌入具、受入スリーブ、および独立した補助手段の間に力の暫定的/一時的な閉じた流れが生じる。椎骨内への椎弓根スクリューの固定は、これにより影響を受けることはない。
【0031】
本発明の別の態様は、以下の構成要素を有する安定化システムに関する。すなわち、それらは、
受入スリーブによって囲まれ背後から把持されるシャフト頭部を有するねじ付きシャフトから少なくとも構成される多軸椎弓根スクリューであって、その受入スリーブ内に、受入スリーブに好ましくはねじ込めるロッキング要素によってシャフトに抗して偏移可能な嵌入具が装着される、多軸椎弓根スクリューと、
手動で操作可能な、好ましくは工具形式の補助手段であって、嵌入具に押圧力を選択的に(暫定的/一時的に)に加える第1の部材、および(押圧力を暫定的に加えることに対する反作用として)受入スリーブに選択的に(暫定的/一時的に)に引張力を負荷する第2の部材を有し、それら部材がいずれの場合にもロッキング要素に対して並列的である、補助手段とである。
【0032】
好ましくは、本発明の安定化システムは、
受入スリーブの横断スロットに挿入可能である長手方向部材をさらに有しており、補助手段の少なくとも第1の部材および好ましくは第2の部材もが、長手方向部材の周りで係合するように(好ましくはU字形長手方向スロットを有するように)設計されており、その結果、補助手段が既に設置され作動しているときでもなお長手方向部材を導入することができる。
【0033】
本発明が、添付図面を参照して、好ましい例示的実施形態に基づいて、より詳細に以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の好ましい例示的実施形態による多軸椎弓根スクリューの透視図である。
図2図1の椎弓根スクリューの上面図である。
図3図1の椎弓根スクリューの部分破線図である。
図4図1〜3による椎弓根スクリュー、および工具状の外部補助手段から構成された、本発明の好ましい例示的実施形態による安定化システムの透視図である。
図5】補助手段が作動位置にある本発明による安定化システムのさらに別の透視図である。
図6】補助手段が作動位置にあり、長手方向部材が挿入されている本発明による安定化システムのさらに別の透視図である。
図7】さらにロッキング要素が所定位置にある、図6による本発明による安定化システムの透視図である。
図8】組立終了状態で、補助手段が取り外された安定化システムの図である。
図9a】結合具を除いた、本発明による補助手段の透視図である。
図9b】結合具を除いた、本発明による補助手段の透視図である。
図10】シャフト・ナットの形態の結合具を有する、図9による補助手段の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の好ましい例示的実施形態による、図1〜3に示された多軸椎弓根スクリュー1は、外ねじを備えるシャフトまたはアンカ2を有し、シャフトまたはアンカ2の近位端に、好ましくは球形または少なくとも準球形のシャフト頭部4が形成または成型されている。たとえば六角レンチまたはプラスドライバなどのための工具係合部6が、シャフト2を椎骨の椎弓根チャネル(図示せず)にねじ込むことができるように、シャフト頭部4に組み込まれている。
【0036】
図3から分かるように、シャフト頭部4は、ねじ付きシャフト/シャフト部分2への移行領域に、軸方向に作用するアンダカットを形成する。これは、本事例では、シャフト頭部の直径をシャフトの直径より大きく選択することによって生じる。あるいは、シャフト2の近位端部分の周状溝(図示せず)によって、シャフト頭部4を残りのねじ付きシャフト部分2から離して設けることを考えることもできる。
【0037】
図3によれば、シャフト頭部4は、受入スリーブ8によって把持され、その受入スリーブ8は、シャフト頭部4によって(最初は)回転可能かつ回動可能に保持される。
【0038】
具体的には、受入スリーブ8は、両側に開口した円筒形スリーブ本体10を有し、そのスリーブ壁は、近位端面上でU字形にスロットを切られ、それによって、スリーブ軸に実質的に垂直に延在する横断溝(スロット)12が現れる。受入スリーブ8は、U字形スロット12の開口側へ向かう軸方向領域に内ねじを有するように構成され、その内ねじは、図2によれば、スリーブ8の軸方向ほぼ中央部分まで延在する。スリーブ8の反対側の軸方向領域(たとえば軸方向遠位端)、すなわちU字形スロット12のスロット基底の背後では、受入スリーブ8は、円周状内径側突起部/隆起部14を有するように構成され、その突起部が、スリーブの内径を前端で狭め、したがってアンダカットに対応する。そのために、内径側突起部14の直径は、ねじ付きシャフト部分2の直径より僅かに大きいが、シャフト頭部4の直径より小さくなるように寸法設定されている。さらに、スリーブ8またはスリーブ本体10の内径は、シャフト頭部4の直径より僅かに大きい。U字形長手方向スロット12によって、スリーブ本体10に半径方向に対向して存在する2つの側面部が生じ、その側面部において、スリーブ本体のそれぞれの外殻面に係合要素11が成型または形成される。ここで、その事は、各側面部について、軸方向に作用するアンダカットを形成する2つの軸方向に離隔配置されたノッチ/ポケットに関連する。これの代替形態は、同様に可能であるが、側面部の外側スリーブ面に、係合要素11を形成するストリップ形状の突起部を形成することである。したがって、基本的に、シャフト頭部4から離れて受入スリーブ8へ向かう方向に、このように軸方向(暫定的)の引張力を加えることができる限り、あらゆる形態の係合要素が考えられる。
【0039】
スタンプ形状の力伝達部材(嵌入具)16が、受入スリーブ8内に配置され/挿入される。この嵌入具16は、本質的に、その両端面の一方でシャフト頭部4の上端に載る嵌入スリーブによって形成される。嵌入スリーブ(または単に嵌入具)16の他方の端面は、広がってフランジ形状のカラー18になっており、そのカラー18は、図2による上面図では楕円形または矩形であり、側面図(図1参照)では凹型チャネル/受鉢の形になっている。(盲)穴20が、矩形の隅に軸方向に組み込まれており、穴20は、工具状の外部/独立補助手段用の力導入箇所または連結点に対応する。
【0040】
受入スリーブ8と嵌入具16とは、嵌入具16が受入スリーブ6内で少なくとも所定の距離を越えて変位可能になるように、構造的に互いに適合されている。さらに、嵌入具/ピン16が受入スリーブ8に挿入され、その結果、嵌入具16の端面に形成され/盛り上がった受鉢が、カラー18において、両方の平行なU字形スロット12を互いに直径上で連結し、それによって、以下に説明するように、挿入される長手方向部材のための支持部を形成する。
【0041】
本発明の好ましい例示的実施形態による多軸椎弓根スクリューの働きが、特に図8を参照して以下に説明される。
【0042】
そこで、本発明による椎弓根スクリュー1が、ねじ付きシャフト2で椎骨の椎弓根チャネル内に堅く固定される。好ましくはグラブ・スクリュー22の形態のロッキング要素が、受入スリーブ8の内ねじにねじ込まれ、それによってU字形スロット(複数可)12が、受入スリーブ8の、シャフトとは反対側に向いた端面で閉鎖される。このように形成された側方通路開口内に、長手方向部材24が挿入され、その長手方向部材24が、異なる(軸方向に隣接した)椎骨の椎弓根スクリューを長手方向に連結する。グラブ・スクリュー22を締め上げ、それによって、椎弓根スクリュー1の多軸性、すなわちシャフト2と受入スリーブ8との相対位置を所望通りに堅くロックし、同時に長手方向部材24を、嵌入具16とグラブ・スクリュー22との間で堅く固締する。このロック状態では、その結果、グラブ・スクリュー22の締付力が、長手方向部材24および嵌入具16を介してシャフト頭部4まで伝達され、シャフト頭部4を(摩擦嵌合によって)嵌入具16と受入スリーブ8の内径側突起部14との間に固締する。
【0043】
スリーブ本体10の内ねじは、セルフ・ロックを生じるように寸法設定されている。これは、グラブ・スクリュー22は、かなりの力をもって初めて再び緩めることができることを意味する。さらに、受入スリーブ8は、グラブ・スクリュー22を締め上げる前は、シャフト2に対して運動可能であり、その結果、たとえば関連する椎骨の位置を変えるために、受入スリーブ8を介して調節力をシャフト2に手動で加えることができない。
【0044】
この問題を解決するために、図4〜7による追加補助手段30が用意される。
【0045】
この補助手段30は、基本的に、嵌入具16に(形状ロッキング)係合させることができる第1の部材(プランジャ)32と、受入スリーブ8に(形状ロッキング)係合させることができる第2の部材(引張スリーブ)34とから構成される。
【0046】
具体的には、図4による補助手段30の第1の部材32は、プランジャまたはピストンであり、その一方(遠位)の端面には、嵌入具16の(盲)穴20にその寸法および配置が対応する複数の円錐/スパイクが形成されている。これら穴20は、好ましくは円形のロッキング要素22が占める面積の外側の、カラー18の円形の外形輪郭線に基づいて配置され、それによって、ロッキング要素22が、受入スリーブ8に既にねじ込まれ、挿入された長手方向部材24を介して嵌入具16に僅かに支持されているときでもなお、プランジャ32を(盲)穴20に接触させて暫定的/一時的な押圧力を嵌入具16に加えることができる。
【0047】
最も単純な場合、プランジャ32は、スリーブ形状で、受入スリーブ8を完全に取り囲む。図4によるもう少し複雑な設計では、プランジャ32が、2つの直径上の軸方向溝32aをその遠位端部分に有し、その溝32aが、受入スリーブ8の両方の側面部が実質的に正確な嵌合でその中に軸方向に導入されるように寸法設定されている。したがって、この場合、プランジャ32の平均直径が、受入スリーブ8の平均直径にほぼ一致し得る。さらに、プランジャ32は、受入スリーブ8のスロット12に従って、U字形のスロットを長手方向に追加して切られ、それによって、それらスロット12は、セットした状態のときプランジャ32によって閉鎖されることがなく、したがって、補助手段が取り付けられたときにも、長手方向部材を長手方向スロットに導入することができる。
【0048】
図5によれば、引張スリーブ34が、プランジャ32を囲んでそれに対して移動可能に配置され、任意選択で、プランジャ32と引張スリーブ34との間に別の中央/中間スリーブ(さらに図示はしない)を配置することができる。引張スリーブ34は、その遠位端部分に複数のラッチ要素(さらに図示はしない)を有し、そのラッチ要素は、ノッチ/陥凹11によって、スリーブ本体10の側面部と解除可能にラッチ係合させることができる。最終的に、引張スリーブ34は反対側の(近位)端部分でプランジャ32と結合され、そこでは、例として図9および10に示されるように、両部材が移動可能であり、それによって結合具を介して偏移可能なようにされる。
【0049】
たとえば、その結合具は、引張スリーブ34に、回転可能だが軸方向に固定的に配置され、プランジャ32にねじ式に係合することができるシャフト・ナットでもよい。その結果、シャフト・ナットが手動で回されると、プランジャ32と引張スリーブ34とが反対方向に相対的に回転する。このようにして、プランジャ32は、シャフト・ナットを手動で適切に回転させることによって、嵌入具16に向かう方向に移動させることができ、同時に、引張スリーブ34を、嵌入具16から離れる方向に移動させることができる。この場合、受入スリーブ8を、説明済みの補助手段30を介して嵌入具16に対して暫定的/一時的に締め付けることができ、中間に配置されたシャフト頭部4が、同様に、暫定的/一時的に固締される。
【0050】
あるいは、このために、図9による引張スリーブ34を、椎弓根スクリューから離れる向きのその近位端部分に外ねじ34aを有するように形成することができ、そのとき、引張スリーブ34は、この近位端部分に少なくとも1つの長手方向スロット34b(好ましくは直径上の2つの長手方向スロット)を備える。この場合、プランジャ32は、その近位端に、半径方向に突出する駆動ピン32bを有し、その駆動ピン32bは、長手方向スロット34bを通って、引張スリーブ34の方へ半径方向外側に突出する。図10によれば、シャフト・ナット35が、引張スリーブ34の外ねじ34a上にねじ込まれ、そのシャフト・ナット35が、プランジャ32の駆動ピン32bと係合状態にある。ここで、シャフト・ナット35を引張スリーブ34上で回転させれば、プランジャ32と引張スリーブ34との相対運動がそれによって生じる。
【0051】
最後に、梃子作用や歯車減速手段を使用してプランジャ32と引張スリーブ34との相対運動を生じさせる他の結合形態がやはり考えられることが、ここで指摘されるべきである。
【0052】
本発明による補助手段30の働きが、図4〜7を参照して、より詳細に以下に説明される。
【0053】
そこで、図4によれば、プランジャ32が、先ず、嵌入具/ピン16の(盲)穴20に導き入れられ、スリーブ本体10の側壁部が、プランジャ32の軸方向溝32a内に長手方向に導入される。この相対位置において、受入スリーブ8のスロット12が、プランジャ32のU字形スロットと重なり、それによって、一種の側方窓が形成される。
【0054】
続いて、引張スリーブ34が、プランジャ32上に導かれ、そのラッチ突起部によって受入スリーブ8のノッチ11にラッチ止めされる。引張スリーブ34は、図5に明瞭に認められるように、プランジャ32のスロットに対応するU字形スロットをやはり備え、それによって、引張スリーブ34が引き被せられても、側方窓は、そのまま開いたままになる。
【0055】
補助手段30が、嵌入具16上に装着され、たとえば図9および10に示される結合具(シャフト・ナット)35とともに受入スリーブ8にラッチ止めされると、それを用いてシャフト頭部4に、暫定的/一時的に引張力が掛けられる。結合具のタイプに従って、暫定的予負荷力がこのように達成可能であり、その予負荷力は、椎弓根スクリューの実際のロッキング要素の予負荷力と同じである。
【0056】
この状態において、受入スリーブ8を介する補助手段30からの力を、シャフト2へ、たとえば椎骨を調節するために伝達することができる。続いて、長手方向部材24を、図6に従って側方窓に挿入し、予め挿入済みのロッキング要素、好ましくはグラブ・スクリュー22を、補助手段30を事前に取り外すことなく、締め上げることができる。グラブ・スクリュー22を締めることによって、多軸性が最終的にロックされ、その結果、補助手段30を続いて取り外すことができる。このようにして、組立処置が完成する。
【0057】
最後に、本発明が、以下のように再び要約される。
【0058】
椎骨内に多軸椎弓根スクリュー1を固定するねじ付きシャフト部分2を有する多軸椎弓根スクリュー1であって、そのシャフト部分2の一方の軸端にシャフト頭部4が構成され、そのシャフト頭部4が、回転かつ/または回動するように、ならびに引張力を伝達するように長手方向部材24用の受入スリーブ8に結合された、多軸椎弓根スクリュー1が開示される。受入スリーブ8は、シャフト部分2に対して受入スリーブ8の位置を選択的に固定する締結手段を有し、前記締結手段が、少なくとも、受入スリーブ8内に装着され、シャフト頭部4に作用する嵌入具/ボルト16と、嵌入具16に作用するロッキング要素22とから構成される。嵌入具16は、ロッキング要素22に対して並列的に嵌入具16に押圧力を暫定的/一時的に導入するために、隠されたり覆われたりしない連結点または係合要素22を有するように設計されている。
【0059】
さらに、工具状の補助手段30が開示され、その補助手段30は、押圧力を暫定的/一時的に加えるために嵌入具/ピン16とその連結点20で、かつ、引張力を暫定的/一時的に加えるために受入スリーブ8と好ましくはその係合要素11で、(ロッキング要素22に対して並列的に)取り付けることができる。好ましくは補助手段30は2つの部材を有し、すなわち、一体に結合された押圧部材32と引張部材34とであり、それにより、それら部材の一方を介して嵌入具16に押圧力を暫定的に加えると、力のバランスを取るために他方の部材を介して受入スリーブ8に引張力負荷が必然的に生じる。任意選択で、工具状の補助手段30は、少なくとも部分的に使い捨て製品として用いられる。特に押圧部材32は、患者の椎骨の比較的近くに至り、したがって体液によって汚染され得るので、好ましくは使い捨て部材として構成されるべきである。原則として、補助手段30全体が1度だけ使用した後捨てられるのが便利である。
【0060】
最終的に、本発明による安定化システムは、多軸椎弓根スクリュー1と、補助手段30と、好ましくは、受入スリーブ8に挿入され、それに堅く固締される長手方向部材24とから構成される。
以下の項目は、国際出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
[項目1]
椎骨内に椎弓根スクリュー(1)を固定するねじ付きシャフト部分(2)を有する多軸椎弓根スクリューであって、前記シャフト部分(2)の軸端にシャフト頭部(4)が構成され、前記シャフト頭部(4)が、長手方向支持体(24)用の受入スリーブ(8)に回動可能かつ/または回転式に結合され、前記受入スリーブ(8)が、前記シャフト部分(2)に対して前記受入スリーブ(8)の位置を選択的に締結する締結手段を備え、前記締結手段が、前記受入スリーブ(8)内に装着され、前記シャフト頭部(4)に作用する嵌入具(16)と、前記長手方向本体(24)を介して前記嵌入具(16)に作用し、前記受入スリーブ(8)に直接ねじ込まれるロッキング要素(22)とを少なくとも備える、多軸椎弓根スクリューにおいて、嵌入具(16)が、前記ロッキング要素(22)に対して並列的に暫定的な押圧力を前記嵌入具(16)に導入するために、前記ロッキング要素(22)によって隠されたり覆われたりしない連結点または係合要素(20)を有するように構成されていることを特徴とする多軸椎弓根スクリュー。
[項目2]
前記嵌入具(16)が、少なくとも部分的に、前記ロッキング要素(22)を半径方向に越えて張り出しまたは露出するように形成され、それによって、前記連結点(20)が、前記ロッキング要素(22)によって隠されたり覆われたりしないこれら半径部分に現れることを特徴とする、項目1に記載の多軸椎弓根スクリュー。
[項目3]
前記嵌入具(16)が、少なくともある軸方向部分で、円形から外れた輪郭、好ましくは楕円形の輪郭を有し、それによって、直径の大きい輪郭部分が、前記ロッキング要素(22)を半径方向に越えて張り出し、前記連結点(20)を包含することを特徴とする、項目2に記載の多軸椎弓根スクリュー。
[項目4]
前記連結点(20)が、前記嵌入具(16)に押圧力を暫定的に加える外部補助手段(30)を受け入れ配置する役割を果たす軸方向センタリング穴が付されていることを特徴とする、項目2または3に記載の多軸椎弓根スクリュー。
[項目5]
前記受入スリーブ(8)が、前記ロッキング要素(22)に対して並列的に外部からの暫定的な引張力を前記受入スリーブ(8)にそれを介して加えることができる少なくとも1つの係合要素(11)を有するように構成または形成されていることを特徴とする、項目1〜4のいずれか一項に記載の多軸椎弓根スクリュー。
[項目6]
前記係合要素(11)が、好ましくは前記受入スリーブ(8)の外側スリーブ面にアンダカットを形成することを特徴とする、項目1に記載の多軸椎弓根スクリュー。
[項目7]
好ましくは項目1〜7のいずれか一項に記載の椎弓根スクリュー(1)の多軸性を暫定的に締結する補助手段であって、前記椎弓根スクリュー(1)が、受入スリーブ(8)によって囲まれたシャフト頭部(4)を有するねじ付きシャフト(2)から構成され、前記受入スリーブ(8)内に、ロッキング要素(22)によって前記シャフト頭部(4)に抗して偏移可能な嵌入具(16)が装着される、補助手段において、好ましくは、前記嵌入具(16)に設けられた前記連結点(20)と直接押圧係合するプランジャ(32)の形態の第1の部材と、前記第1の部材(32)に対して、好ましくはそれとは反対方向に移動可能であり、好ましくはその係合要素(11)において、前記受入スリーブ(8)と引張係合させることができるラッチまたは係止手段を有する第2の部材、好ましくは引張部材(34)とを特徴とする補助手段。
[項目8]
前記引張部材(34)が、前記プランジャ(32)を囲むスリーブであり、前記スリーブの軸端に、半径方向内側に突出するラッチ突起部が形成され、前記スリーブが結合部を介して前記プランジャ(32)と作動的に連結されていることを特徴とする、項目7に記載の補助手段。
[項目9]
前記結合具が、前記プランジャ(32)および前記スリーブ(34)のうちの一方の部材に取り付けられたヒンジ・レバーから好ましくは構成されたレバー機構であって、前記レバーが継手を介してその他方の前記部材に結合されていることを特徴とする、項目8に記載の補助手段。
[項目10]
前記結合具が、前記スリーブ(34)に対して回転可能であるが、軸方向には固定されて保持されたシャフト・ナットであり、前記プランジャ(32)とねじ係合状態にあることを特徴とする、あるいは、前記結合具が、前記プランジャ(32)上のねじ(34a)とねじ係合状態にあり、前記スリーブ(34)に対して軸方向に移動可能で回転方向に固定されたキャリア(32b)に結合されたシャフト・ナット(35)であり、前記キャリア(32b)が前記プランジャ(32)に固定されていることを特徴とする、項目8に記載の補助手段。
[項目11]
少なくとも前記プランジャ(32)が、前記嵌入具(16)との接触面を始点とする好ましくはU字形の長手方向スロットを備え、それによって、前記嵌入具(16)の端面上に前記プランジャ(32)が載置される2つの側面部が現れていることを特徴とする、項目7〜10のいずれか一項に記載の補助手段。
[項目12]
以下の構成要素、すなわち、好ましくは項目1〜6のいずれか一項に記載の多軸椎弓根スクリュー(1)であって、受入スリーブ(8)によって囲まれたシャフト頭部(4)を有するねじ付きシャフト(2)から構成され、前記受入スリーブ(8)内に、ロッキング要素(22)によって前記シャフト頭部(4)に抗して偏移可能な嵌入具(16)が装着される、多軸椎弓根スクリュー(1)と、好ましくは項目7〜11に記載の手動で操作可能な補助手段(30)であって、前記嵌入具(16)に直接押圧力を選択的、暫定的に加える第1の部材(32)、および前記受入スリーブ(8)に選択的、暫定的に引張力を加える第2の部材を有し、それら部材がいずれの場合にも前記ロッキング要素に対して並列的である、補助手段(30)とを有する安定化システム。
[項目13]
前記受入スリーブ(8)の横断スロット(12)に挿入可能である長手方向部材(24)であって、前記補助手段(30)の少なくとも前記第1の部材(32)、好ましくは前記第2の部材(34)もが、長手方向部材(24)の周りで係合するように設計されている長手方向部材(24)を特徴とする、項目12に記載の安定化システム。
[項目14]
前記連結点または係合要素(20)が、好ましくは軸方向穴の形態で、形状ロッキング嵌合を有する連結点または形状ロッキング嵌合を有する係合要素(20)として構成されていることを特徴とする、項目1〜6のいずれか一項に記載の多軸椎弓根スクリュー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10