特許第6109173号(P6109173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109173
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】耐酸性フルオロエラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20170327BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20170327BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K5/14
   C08K5/098
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-528390(P2014-528390)
(86)(22)【出願日】2012年6月26日
(65)【公表番号】特表2014-525494(P2014-525494A)
(43)【公表日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】US2012044108
(87)【国際公開番号】WO2013032572
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年6月23日
(31)【優先権主張番号】13/222,126
(32)【優先日】2011年8月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド エフ.ライオンズ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エー.モーケン
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−030041(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128363(WO,A1)
【文献】 特開2007−031713(JP,A)
【文献】 特開2002−167503(JP,A)
【文献】 特表2013−534271(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/111751(WO,A1)
【文献】 特開2002−249657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)過酸化物硬化性フルオロエラストマー;
B)有機過酸化物;
C)多官能性助剤;ならびに
D)ビスマスのカルボン酸塩およびオキシカルボン酸ビスマスからなる群から選択される、フルオロエラストマー100重量部当たり1〜60重量部の酸受容体
を含む硬化性フルオロエラストマー組成物であって、前記硬化性フルオロエラストマー組成物から作成される硬化フルオロエラストマー組成物は、70時間にわたる70℃の70%硝酸への浸漬後に32体積%未満の体積膨潤度を示す、硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物から製造された硬化フルオロエラストマー物品。
【請求項3】
請求項2に記載の硬化フルオロエラストマー物品を含む燃料管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、i)過酸化物硬化性フルオロエラストマー、ii)有機過酸化物、iii)多官能性助剤、ならびにiv)ビスマスのカルボン酸塩およびオキシカルボン酸ビスマスからなる群から選択される酸受容体を含む、硬化性フルオロエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた耐熱性、耐油性、および耐薬品性を有するフルオロエラストマーは、シーリング材料、容器およびホースに広く用いられている。フルオロエラストマーの例には、フッ化ビニリデン(VF)の単位と、少なくとも1種の他の共重合性フッ素含有モノマー、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル(VF)、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などのフルオロビニルエーテルの単位とを含むコポリマーが含まれる。他のフルオロエラストマーには、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)とを含むコポリマーが含まれる。
【0003】
引張強度、伸び、および圧縮永久歪みなどの物理的特性を完全に発現させるために、エラストマーは、硬化、すなわち、加硫または架橋されなければならない。フルオロエラストマーの場合、これは一般に、未硬化ポリマー(すなわち、フルオロエラストマーゴム)を多官能性硬化剤と混合し、得られた混合物を加熱し、それにより、硬化剤と、ポリマー骨格または側鎖に沿った活性部位との化学反応を促進することによって行われる。これらの化学反応の結果として生じた鎖間結合により、三次元網状構造を有する架橋ポリマー組成物が形成される。フルオロエラストマー用に一般に用いられる硬化剤は、有機過酸化物と多官能性助剤の組合せを含む。金属酸化物が、通常は高温(>200℃)でのエラストマーの物理的特性(例えば、伸びおよび引張強度)の保持を向上させるために組成物に添加される。
【0004】
しかしながら、硬化フルオロエラストマー物品は、シールが長期間または高温で酸またはバイオディーゼルなどのある種の化学薬品に曝露される場合、シール不良をもたらし得る許容し難いほど高い体積膨潤度、例えば、50〜200体積%を示し得る。この膨潤は、組成物からの金属酸化物をなくすことによって最小化することができるが、高温でのエラストマーの物理的特性は損なわれる。酸中での低い体積膨潤度と、高温での物理的特性の保持とを合わせもつ過酸化物硬化フルオロエラストマーを有することが望ましい。
【0005】
米国特許第6,319,972B1号明細書には、熱安定剤としてある種のカルボン酸ビスマスを含有する熱可塑性フッ化ビニリデンのホモポリマーおよびコポリマーが開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、
A)過酸化物硬化性フルオロエラストマー;
B)有機過酸化物;
C)多官能性助剤;ならびに
D)ビスマスのカルボン酸塩およびオキシカルボン酸ビスマスからなる群から選択される、フルオロエラストマー100重量部当たり1〜60重量部の酸受容体
を含む、硬化性フルオロエラストマー組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、有機過酸化物で硬化される場合、酸中での体積膨潤度の低下を示した硬化性フルオロエラストマー組成物に関する。硝酸への曝露は、特に、その酸の酸化性および水溶液中でのその塩の高い溶解性のために、耐酸性について厳しい試験に相当する。硝酸への曝露後の過度な膨潤は、架橋フルオロエラストマー網状組織の劣化を示す。さらに、硝酸溶液は、貯蔵中に変化せず、その中で耐酸性を評価するために再現性のある媒体を与える。硬化フルオロエラストマー組成物は、ターボチャージャー用ホースを含めて、および燃料管理システムではバイオディーゼル燃料と接触する少なくとも1つのフッ素ゴム物品を有して、様々な最終用途を有する。バイオディーゼル燃料は、意図的に加えられたか、または貯蔵もしくは水への曝露の間に劣化により生成するかのいずれかで酸性成分を含有するので、耐酸性は、バイオ燃料と接触するすべてのエラストマーの要件である。
【0008】
「燃料管理システム」という用語は、バイオディーゼル燃料の製造、貯蔵、輸送および供給、計量および制御で用いられる装置を意味する。燃料管理システムには、バイオディーゼル製造プラント、モータービークル(例えば、トラック、乗用車、ボート)、定置式ディーゼル動力機器(例えば、発電機、携帯用ポンプステーション)に収容されたもの、ならびにバイオディーゼル燃料の輸送、貯蔵および分配に関連するものが含まれる。燃料管理システムの具体的な要素には、限定されるものではないが、燃料タンク、給油口ホース、燃料タンクキャップシール、燃料ラインホースおよび管類、バルブ、ダイヤフラム、燃料センダーシールならびに燃料噴射装置構成部品、o−リング、シールおよびガスケットが含まれる。これらの要素のいずれかまたはすべては、バイオディーゼル燃料と接触する1つまたは複数のフッ素ゴム物品を含み得る。硬化フッ素ゴム物品には、限定されるものではないが、シール、ガスケット、o−リング、管類、多層ホースの燃料接触層、バルブパッキング、ダイヤフラム、およびタンクライナーが含まれる。
【0009】
「バイオディーゼル燃料」は、生物起源(すなわち、動物または植物由来)の1種以上の脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を妥協処理する(compromising)圧縮点火(ディーゼル)エンジンにおける使用に好適な燃料を意味する。これらのFAAEは、典型的には植物油または動物脂肪由来の脂肪酸のメチルまたはエチルエステルである。具体的な例には、菜種油メチルエステル(RME)、大豆油メチルエステル(SME)、パーム核油メチルエステル(PME)などが含まれる。これらのFAAE系物質と従来の石油系ディーゼル燃料とのブレンドも含まれる。石油ディーゼル/バイオディーゼルブレンドは、Bxx燃料(ここで、「xx」は、ブレンド中のFAAE系バイオディーゼルの容量パーセントである)として慣例的に示される。例えば、B100は、意図的に加えられた石油成分を含まないバイオディーゼル燃料を示す。B20は、20容量%のB100燃料および80容量%の石油ディーゼル燃料を含むバイオディーゼル燃料を示す。
【0010】
本発明における使用に適しているフルオロエラストマーは、有機過酸化物および多官能性助剤によって硬化可能なものである。
【0011】
「過酸化物硬化性」は、ポリマー鎖に沿って、鎖末端でまたは両方の位置でBrまたはI硬化部位を含むフルオロエラストマーを意味する。
【0012】
フルオロエラストマー鎖に沿った硬化部位は、典型的には臭素またはヨウ素原子を含む共重合硬化部位モノマーによっている。好適な硬化部位モノマーの例には、限定されるものではないが、i)臭素含有オレフィン;ii)ヨウ素含有オレフィン;iii)臭素含有ビニルエーテル;およびiv)ヨウ素含有ビニルエーテルが含まれる。
【0013】
臭素化硬化部位モノマーは、他のハロゲン、好ましくはフッ素を含んでもよい。臭素化オレフィン硬化部位モノマーの例は、CF=CFOCFCFCFOCFCFBr;ブロモトリフルオロエチレン;4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1(BTFB);ならびにその他のもの、例えば、臭化ビニル、1−ブロモ−2,2−ジフルオロエチレン;パーフルオロアリルブロミド;4−ブロモ−1,1,2−トリフルオロブテン−1;4−ブロモ−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロブテン;4−ブロモ−3−クロロ−1,1,3,4,4−ペンタフルオロブテン;6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキセン;4−ブロモパーフルオロブテン−1および3,3−ジフルオロアリルブロミドである。本発明で有用な臭素化ビニルエーテル硬化部位モノマーには、2−ブロモ−パーフルオロエチルパーフルオロビニルエーテル、およびCFBr−R−O−CF=CF(Rは、パーフルオロアルキレン基である)のクラスのフッ素化化合物、例えば、CFBrCFO−CF=CF、およびROCF=CFBrまたはROCBr=CF(ここで、Rは、低級アルキル基またはフルオロアルキル基である)のクラスのフルオロビニルエーテル、例えば、CHOCF=CFBrまたはCFCHOCF=CFBrが含まれる。
【0014】
好適なヨウ素化硬化部位モノマーには、式:CHR=CH−Z−CHCHR−I(式中、Rは−Hまたは−CHであり;Zは、1個以上のエーテル酸素原子を場合によって含有する、直鎖もしくは分岐のC〜C18(パー)フルオロアルキレン基、または米国特許第5,674,959号明細書に開示されている(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)のヨウ素化オレフィンを含む。有用なヨウ素化硬化部位モノマーの他の例は、例えば米国特許第5,717,036号明細書に開示されている、式:I(CHCFCFOCF=CFおよびICHCFO[CF(CF)CFO]CF=CFなど(式中、n=1〜3である)の不飽和エーテルである。さらに、ヨードエチレン、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1(ITFB);3−クロロ−4−ヨード−3,4,4−トリフルオロブテン;2−ヨード−1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(ビニルオキシ)エタン;2−ヨード−1−(パーフルオロビニルオキシ)−1,1,−2,2−テトラフルオロエチレン;1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヨード−1−(パーフルオロビニルオキシ)プロパン;2−ヨードエチルビニルエーテル;3,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−4−ヨードペンテン;およびヨードトリフルオロエチレンを含む好適なヨウ素化硬化部位モノマーが、米国特許第4,694,045明細書に開示されている。ヨウ化アリルおよび2−ヨード−パーフルオロエチルパーフルオロビニルエーテルも、有用な硬化部位モノマーである。
【0015】
ヨウ素含有末端基、臭素含有末端基またはこれらの混合物は、フルオロエラストマーの調製の間の連鎖移動剤または分子量調節剤の使用の結果として、フルオロエラストマーポリマー鎖末端の片方または両方に場合によって存在していてもよい。連鎖移動剤の量は、用いられる場合、0.005〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%の範囲でフルオロエラストマー中ヨウ素または臭素のレベルをもたらすように計算される。
【0016】
連鎖移動剤の例には、ポリマー分子の片末端または両末端で結合ヨウ素原子の取込みをもたらすヨウ素含有化合物が含まれる。ヨウ化メチレン;1,4−ジヨードパーフルオロ−n−ブタン;および1,6−ジヨード−3,3,4,4,テトラフルオロヘキサンは、このような剤の代表的なものである。他のヨウ素化連鎖移動剤には、1,3−ジヨードパーフルオロプロパン;1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン;1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン;1,2−ジ(ヨードジフルオロメチル)−パーフルオロシクロブタン;モノヨードパーフルオロエタン;モノヨードパーフルオロブタン;2−ヨード−1−ヒドロパーフルオロエタンなどが含まれる。欧州特許出願公開第0868447A1号明細書に開示されているシアノ−ヨウ素連鎖移動剤も含まれる。ジヨウ素化連鎖移動剤が特に好ましい。
【0017】
臭素化連鎖移動剤の例には、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン;1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン;1−ヨード−2−ブロモ−1,1−ジフルオロエタン、および例えば米国特許第5,151,492号明細書に開示されているその他のものが含まれる。
【0018】
本発明に用いられてもよいフルオロエラストマーの具体的な例には、限定されるものではないが、i)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよび任意選択的にテトラフルオロエチレン、ii)フッ化ビニリデン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)および任意選択的にテトラフルオロエチレン、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよびプロピレンを含むコポリマーが含まれる。ポリマー鎖に沿って、その末端で、または両方で、ヨウ素または臭素原子を有する後者のポリマーのすべて。
【0019】
本発明の組成物における使用に好適な有機過酸化物には、限定されるものではないが、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン;n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート;2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン;2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロキシパーオキサイド;ジ−t−ブチルパーオキサイド;t−ブチルクミルパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド;アルファ,アルファ’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン;t−ブチルパーオキシマレイン酸;およびt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが含まれる。有機過酸化物の好ましい例には、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、およびアルファ,アルファ’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンが含まれる。配合される量は、一般にフルオロエラストマー100重量部当たり0.05〜5重量部の範囲、好ましくは0.1〜3重量部の範囲である。過酸化物が0.05重量部未満の量で存在する場合、加硫速度が不十分であり、離型不良をもたらすので、この特定の範囲が選択される。他方で、過酸化物が5重量部を超える量で存在する場合、硬化ポリマーの圧縮永久歪みは許容し難いほどに高くなる。さらに、有機過酸化物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0020】
本発明の硬化性組成物中に用いられる多機能助剤は、多官能性不飽和化合物、例えば、トリアリルシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、トリ(ジアリルアミン)−s−トリアジン、トリアリルホスファイト、ビス−オレフィンおよびN,N−ジアリルアクリルアミドである。配合される量は、一般にフルオロエラストマー100重量部当たり0.1〜10重量部の範囲である。助剤が0.1重量部未満の量で存在する場合、硬化ポリマーの架橋密度が許容できないので、この特定の濃度範囲が選択される。他方で、助剤が10重量部を超える量で存在する場合、成形中に表面にブルーミングし、離型特性の不良をもたらす。助剤の好ましい範囲は、フルオロエラストマー100部当たり0.2〜6重量部である。これらの不飽和化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0021】
本発明の硬化性組成物はまた、ビスマスのカルボン酸塩およびオキシカルボン酸ビスマスからなる群から選択される、フルオロエラストマー100重量部当たり1〜60重量部(好ましくは4〜40重量部)の少なくとも1種の酸受容体を含有する。ビスマス化合物は、硬化(架橋)反応を促進するために酸受容体として、およびHFまたはカルボン酸などの任意の酸性物質を捕捉するためのアニオン交換化合物としての両方で作用する。ビスマス塩が可変の化学量論を有すること、ならびに厳密な調製および単離条件に応じて、様々な量の水または水酸化物イオンがビスマス化合物中に取り込まれることは周知である。接頭辞「次(sub)」が、ビスムチル(BiO+)イオンの形成が形式的に存在する場合に使用される。(Chemical Reviews,1999,2601)。好適なカルボン酸ビスマス化合物には、酢酸ビスマス、安息香酸ビスマス、炭酸ビスマス、クエン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ネオデコン酸ビスマスおよびシュウ酸ビスマスが含まれる。好適なオキシカルボン酸ビスマス化合物には、次没食子酸ビスマス(塩基性没食子酸ビスマス)、次炭酸ビスマス(オキシ炭酸ビスマス)、および次サリチル酸ビスマス(サリチル酸ビスマス(塩基性塩))が含まれる。
【0022】
カルボン酸ビスマス塩またはオキシカルボン酸ビスマスに加えて、任意選択的に他の酸受容体(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム)が、本発明の硬化性組成物中に存在してもよい。存在する場合、他の酸受容体のレベルは、フルオロエラストマー100重量部当たり1〜30重量部である。
【0023】
フルオロエラストマー、硬化剤、酸受容体および任意の他の成分は、一般に内部ミキサーまたはゴムミルによって硬化性組成物中に取り込まれる。次いで、得られた組成物は、フッ素ゴム物品を形成するために成形(例えば、塑造または押出し)および硬化され得る。硬化は、典型的には約150℃〜200℃で1〜60分間行われる。適切な加熱および硬化手段を備えた従来のゴム硬化プレス、型、押出機などが使用され得る。また、最適物理的特性および寸法安定性のために、塑造または押出しされたフッ素ゴム物品が、オーブンまたは同様のものの中で、典型的には約180℃〜275℃で約1〜48時間のさらなる期間加熱される、後硬化操作を行うことが好ましい。
以下に、本発明の好ましい態様を示す。
[1] A)過酸化物硬化性フルオロエラストマー;
B)有機過酸化物;
C)多官能性助剤;ならびに
D)ビスマスのカルボン酸塩およびオキシカルボン酸ビスマスからなる群から選択される、フルオロエラストマー100重量部当たり1〜60重量部の酸受容体
を含む、硬化性フルオロエラストマー組成物。
[2] 前記酸受容体が、酢酸ビスマス、安息香酸ビスマス、炭酸ビスマス、クエン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマスおよびシュウ酸ビスマスからなる群から選択される、ビスマスのカルボン酸塩である、[1]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
[3] 前記酸受容体が、次没食子酸ビスマス、次炭酸ビスマス、および次サリチル酸ビスマスからなる群から選択されるオキシカルボン酸ビスマスである、[1]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
[4] 前記酸受容体が、次炭酸ビスマスである、[3]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
[5] 前記酸受容体が、次サリチル酸ビスマスである、[3]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
[6] 前記過酸化物硬化性フルオロエラストマーが、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの共重合単位を含む、[1]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
[7] 前記過酸化物硬化性フルオロエラストマーが、フッ化ビニリデン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)およびテトラフルオロエチレンの共重合単位を含む、[1]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
「8」 前記過酸化物硬化性フルオロエラストマーが、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含む、[1]に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
[9] [1]に記載の組成物から製造された硬化フルオロエラストマー物品。
[10] [9]に記載の硬化フルオロエラストマー物品を含む燃料管理システム。
【実施例】
【0024】
試験方法
酸性媒体中に浸漬後の体積膨潤度(%)は、標準ASTM D471クーポンでASTM D471−96により決定した。このクーポンは、硬化フッ素ゴムスラブから調製し、実施例に記述した条件下で酸性媒体中に浸漬させた。
【0025】
引張特性は、ASTM D412により決定した。
【0026】
耐圧縮永久歪みは、ASTM D395により測定した。
【0027】
本発明は、以下の実施例によってさらに例証されるが、そられに限定されるものではない。
【0028】
実施例で用いたフルオロエラストマーFKM1は、本件特許出願人から入手できる、Viton(登録商標)GF−600S(ヨウ素硬化部位を有する、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの、フッ素含有量70重量パーセントのコポリマー)であった。
【0029】
実施例で用いたフルオロエラストマーFKM2は、本件特許出願人から入手できる、Viton(登録商標)GBL−600S(ヨウ素硬化部位を有する、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの、フッ素含有量68重量パーセントのコポリマー)であった。
【0030】
実施例で用いたフルオロエラストマーFKM3は、本件特許出願人から入手できる、Viton(登録商標)GF(臭素硬化部位を有する、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの、フッ素含有量69.5重量パーセントのコポリマー)であった。
【0031】
実施例で用いたフルオロエラストマーFKM4は、本件特許出願人から入手できる、Viton(登録商標)GLT−600S(ヨウ素硬化部位を有する、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の、フッ素含有量64重量パーセントのコポリマー)であった。
【0032】
実施例で用いたフルオロエラストマーFFKM1は、ヨウ素硬化部位を有し、半バッチエマルション重合により調製した、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)のコポリマーであった。
【0033】
実施例で用いたビスマス化合物のすべては、Alfa Aesarからであった。
【0034】
実施例1ならびに比較例A、B、およびC
実施例1ならびに比較例A、B、およびCのための硬化性組成物は、2ロールミル上で成分を配合(compound)することによって作製した。配合は、表Iに示す。
【0035】
組成物をスラブに塑造し、177℃で10分間プレス硬化させた。次いで、硬化スラブを232℃で4時間、後硬化(post−cure)させた。
【0036】
硬化スラブから作製したクーポンを、70%硝酸に70℃で70時間、曝露した。
【0037】
この実施例は、次サリチル酸ビスマスを含有する組成物が、十分な耐酸性および許容できる耐熱性の両方を示すことを実証する。酸化亜鉛を含有する組成物は、十分な耐熱性を示すが、他方、不十分な耐酸性を示す。金属酸化物を含まない組成物は、十分な耐酸性を示すが、他方、不十分な耐熱性を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例2ならびに比較例D、E、およびF
実施例2ならびに比較例D、E、およびFのための硬化性組成物は、2ロールミル上で成分を配合することによって作製した。配合は、表IIに示す。
【0040】
組成物をスラブに塑造し、177℃で10分間プレス硬化させた。次いで、硬化スラブを232℃で4時間、後硬化させた。
【0041】
硬化スラブから作製したクーポンを、70%硝酸に70℃で70時間および100%酢酸に100℃で168時間、曝露した。
【0042】
この実施例は、フッ素含有量68重量パーセントのポリマーをベースとしたコンパウンドにおいて、次サリチル酸ビスマスを含有するフッ素ゴムが、酸化亜鉛または酸化マグネシウムのいずれかを含有するフッ素ゴムに比べてより良い耐酸性を示すことを実証する。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例3ならびに比較例G、H、およびI
実施例3ならびに比較例G、H、およびIのための硬化性組成物は、2ロールミル上で成分を配合することによって作製した。配合は、表IIIに示す。
【0045】
組成物をスラブに塑造し、177℃で10分間プレス硬化させた。次いで、硬化スラブを232℃で4時間、後硬化させた。
【0046】
この実施例は、次サリチル酸ビスマスが、臭素含有フルオロエラストマーの硬化を生じさせ得ることを実証する。金属酸化物を含まない組成物は、硬化しない。それはまた、次サリチル酸ビスマスが、臭素含有フルオロエラストマーの硬化を生じさせない酸化ビスマスと異なって挙動することを実証する。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例4および5、ならびに比較例J
実施例4および5、ならびに比較例Jのための硬化性組成物は、2ロールミル上で成分を配合することによって作製した。配合は、表IVに示す。
【0049】
組成物をスラブおよびO−リング(圧縮永久歪み試験用)に塑造し、177℃で10分間プレス硬化させた。次いで、硬化スラブおよびO−リングを232℃で4時間、後硬化させた。
【0050】
硬化スラブから作製したクーポンを、70%硝酸に70℃で70時間、曝露した。
【0051】
この実施例は、次サリチル酸ビスマスを含有する組成物が、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)含有フルオロエラストマーにおいて十分な耐酸性および許容できる耐熱性を示すことを実証する。金属酸化物を含まない組成物は、十分な耐酸性を示すが、他方、不十分な耐熱性を示す。
【0052】
【表4】
【0053】
実施例6
実施例6のための硬化性組成物は、2ロールミル上で成分を配合することによって作製した。配合は、表Vに示す。
【0054】
組成物をスラブおよびO−リング(圧縮永久歪み試験用)に塑造し、165℃で10分間プレス硬化させた。次いで、硬化スラブおよびO−リングを232℃で4時間、後硬化させた。
【0055】
硬化スラブから作製したクーポンを、70%硝酸に70℃で70時間、曝露した。
【0056】
この実施例は、次サリチル酸ビスマスを含有する組成物が、パーフルオロエラストマーにおいて十分な耐酸性および許容できる耐熱性の両方を示すことを実証する。
【0057】
【表5】
【0058】
実施例7〜9
実施例7、8、および9のための硬化性組成物は、2ロールミル上で成分を配合することによって作製した。配合は、表VIに示す。
【0059】
組成物をスラブに塑造し、177℃で10分間プレス硬化させた。次いで、硬化スラブを232℃で4時間、後硬化させた。
【0060】
硬化スラブから作製したクーポンを、70%硝酸に70℃で70時間、曝露した。
【0061】
これらの実施例は、ビスマスのカルボン酸塩も、十分な耐熱性を維持しながら、フルオロエラストマー組成物の耐酸性を改善することに有効であることを実証する。
【0062】
【表6】