特許第6109281号(P6109281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6109281
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   C23C24/04
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-231123(P2015-231123)
(22)【出願日】2015年11月26日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 良仁
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−018455(JP,A)
【文献】 特開2012−219304(JP,A)
【文献】 特開2013−067825(JP,A)
【文献】 特開2013−091832(JP,A)
【文献】 特開2014−156634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビッカース硬さが120HV以上の金属または合金からなる基材表面に金属または合金からなる皮膜を形成した積層体の製造方法であって、
非金属粉末を該非金属の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、前記基材表面に固相状態のままで吹き付け、前記基材表面をブラストするブラスト工程と、
金属または合金の粉末を該金属または合金の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、前記ブラスト工程でブラストされた前記基材表面に固相状態のままで吹き付け、堆積させて皮膜を形成する皮膜形成工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記非金属は、セラミックス、ダイヤモンドまたはガラスであることを特徴とする請求項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶射法の1種として、材料粉末を高温、高速にして基材に吹き付けることにより、該材料粉末を基材に堆積・コーティングするコールドスプレー法が注目されている。コールドスプレー法では、材料粉末の融点または軟化点以下に加熱した不活性ガスとともに先細末広(ラバル)ノズルから噴射して、皮膜となる材料を固相状態のまま基材に衝突させることによって基材の表面に皮膜を形成させるため、相変態がなく酸化も抑制された金属皮膜を得ることができる。
【0003】
コールドスプレー法により金属からなる基材に金属皮膜を形成する際、金属皮膜の材料粉末が基材に衝突した際に粉末と基材との間で塑性変形が生じて、両社が互いに入り込んで密着するアンカー効果が得られると共に、互いの酸化皮膜が破壊されて新生面同士による金属結合が生じるので、密着強度の高い皮膜を形成することができる。しかしながら、硬度の高い金属材料を基材として使用する場合、塑性変形によるアンカー効果が不十分なためか、金属皮膜が成膜できなかったり、成膜されても基材と金属皮膜との間の界面強度が低い積層体しか得られていない。
【0004】
これに対し、コールドスプレー法による皮膜形成の前工程において、皮膜形成条件より粉末速度を低く、たとえば、ガス圧力を低くして粉末を基材に噴射して基材表面を活性化する技術(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、粒径5〜50μmの皮膜原料粉末と粒径100〜1000μmのピーニング粉末とを混合した粉末材料を1つのノズルから噴射、または皮膜原料粉末とピーニング粉末とを別々のノズルから噴射して皮膜を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−215574号公報
【特許文献2】特開2006−52449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、皮膜を形成する粉末材料と同じ材料の粉末材料を使用して、コールドスプレー法による皮膜形成条件より粉末速度を低くして基材表面を活性化するものであるため、基材の硬度が大きいものでは基材表面の粗面化によるアンカー効果を十分に得ることはできなかった。
【0007】
一方、特許文献2は、皮膜原料粉末とピーニング粉末とを同時に基材表面に噴射することにより緻密な皮膜を得ることを目的とするものであって、ピーニング粉末による基材表面の粗面化や、粗面化による基材への皮膜の密着性については記載も示唆もされていない。また、ピーニング粉末が皮膜内に残存するため、皮膜原料のみから皮膜を成膜することは困難である。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、硬度が高い基材に密着性の高い皮膜を成膜した積層体および積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる積層体は、ビッカース硬さが120HV以上の金属または合金からなり、表面に凹凸を有する基材と、前記基材表面に形成された金属または合金からなる皮膜と、を備え、前記皮膜は前記基材と金属結合を形成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる積層体の製造方法は、ビッカース硬さが120HV以上の金属または合金からなる基材の表面に金属または合金からなる皮膜を形成した積層体の製造方法であって、非金属粉末を該非金属の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、前記基材表面に固相状態のままで吹き付け、前記基材表面をブラストするブラスト工程と、金属または合金の粉末を該金属または合金の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、前記ブラスト工程でブラストされた前記基材表面に固相状態のままで吹き付け、堆積させて皮膜を形成する皮膜形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる積層体の製造方法は、上記発明において、前記非金属は、セラミックスまたはガラスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬度が大きい基材に、非金属粉末をコールドスプレー法により吹き付けて基材表面をブラストすることにより、皮膜が基材にアンカリングされ易く、また、基材表面から酸化被膜が除去されるため、基材と皮膜間で金属結合が生じて基材と皮膜との密着性に優れる積層体を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態にかかる積層体の構造を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態にかかる積層体の金属皮膜の形成に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施の形態にかかる積層体の金属皮膜の形成を説明する模式図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の変形例にかかる積層体の金属皮膜の形成を説明する模式図である。
図5図5は、本発明の実施の形態にかかる積層体の金属皮膜の形成に使用される他のコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
図6図6は、実施例1の積層体の断面のSEM画像である。
図7図7は、比較例1の積層体の断面のSEM画像である。
図8図8は、実施例5の積層体の断面のSEM画像である。
図9図9は、比較例9の積層体の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態にかかる積層体の構造を示す断面図である。図1に示す積層体1は、ビッカース硬さが120HV以上の金属または合金からなる基材10と、基材10の表面に形成され、後述するコールドスプレー法によって積層され、金属または合金からなる皮膜11と、からなる。積層体1は、図1のような矩形平板状に限定されるものではなく、円柱状、多角柱状などであってもよい。
【0016】
基材10は、ビッカース硬さが120HV以上の金属または合金からなるものであれば、材料は限定されるものではないが、例えば、SS400等の圧延鋼材、S45C等の炭素鋼、SCr435等のクロム鋼材、SMn443等のマンガン鋼、SMnC等のマンガンクロム鋼、SCM882等のクロムモリブデン鋼、SNC815等のニッケルクロムモリブデン鋼、SUS304等のステンレス、チタンまたはチタン合金、インコネル600等のニッケル基の超合金、鋳鉄、超々ジュラルミン(7000系)等のアルミ合金等が例示される。なお、ビッカース硬さが120HVより小さい金属または合金からなる基材10に皮膜11をコールドスプレー法により製膜する場合にも、コールドスプレー法による非金属のブラスト工程を行うことにより、酸化被膜が除去されて金属結合が形成されやすくなるとともに、基材10の表面に凹凸が形成され、この凹凸に皮膜11が入り込むことによるアンカー効果により基材10と皮膜11との密着性を向上できる。
【0017】
皮膜11を構成する金属または合金の材料は、限定されるものではない。本実施の形態で使用する皮膜11の材料である金属または合金粉末は、平均粒径が20μm〜150μmである。平均粒径が20μm〜150μmの場合、流動性がよく、入手も容易となる。
【0018】
つづいて、本実施の形態にかかる積層体1の製造方法について説明する。積層体1は、非金属粉末を該非金属の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、基材10の表面に固相状態のままで吹き付け、基材10の表面をブラストするブラスト工程を行った後、金属または合金粉末を該金属または合金の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、ブラスト工程でブラストされた基材10の表面に固相状態のままで吹き付け、堆積させて皮膜11を形成する。
【0019】
ブラスト工程で使用する非金属粉末は、平均粒径(D50)が15500μmであることが好ましい。非金属粉末の平均粒径(D50)が15μmより小さい場合、基材10のブラスト効果が小さくなる。一方、非金属粉末の平均粒径(D50)が500μmより大きい場合、後述するコールドスプレー装置のガスノズルが目詰まりしやすくなる。非金属粉末の平均粒径(D50)は、100〜200μmであることが特に好ましい。また、ブラスト工程での、基材10表面への非金属の残存量を低減するためには、非金属粉末は球状をなすものが好ましい。
【0020】
本実施の形態で使用する非金属粉末は、基材10の表面をブラストし、凹凸を形成し、新生面を露出させる観点から、所定の硬度を有するものであることが好ましい。たとえば、非金属粉末の硬度は、500Hv以上であることが好ましい。
【0021】
基材10に対して凹凸を形成し、新生面を露出する観点では、非金属粉末に代えて所定の硬度を有する金属または合金粉末を使用しても同様の効果を得ることができるが、ブラスト材として金属または合金粉末を使用した場合、コールドスプレー条件によっては基材10とブラスト材とが金属結合を生じる可能性が高くなるため、非金属粉末を使用する。
【0022】
本実施の形態で使用する非金属粉末としては、上記の平均粒径、および硬度を有する物であれば限定されるものではないが、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス等のガラス、ジルコン、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム等のセラミックス、ダイヤモンド等を使用することができる。
【0023】
基材10の表面に対する非金属粉末によるブラスト工程は、コールドスプレー法により行なう。ブラスト工程について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態にかかる積層体1のブラスト工程に使用されるコールドスプレー装置20の概要を示す模式図である。
【0024】
コールドスプレー装置20は、作動ガスを加熱するガス加熱器21と、基材10に噴射する非金属の粉末材料を収容し、スプレーガン22に供給する粉末供給装置23と、スプレーガン22で加熱された作動ガスと混合された非金属粉末材料を基材10に噴射するガスノズル24とを備えている。
【0025】
作動ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。供給された作動ガスは、バルブ25および26により、ガス加熱器21と粉末供給装置23にそれぞれ供給される。ガス加熱器21に供給された作動ガスは、例えば100℃以上であって、非金属材料の融点以下の温度に加熱された後、スプレーガン22に供給される。
【0026】
粉末供給装置23に供給された作動ガスは、粉末供給装置23内の、非金属粉末材料をスプレーガン22に所定の吐出量となるように供給する。加熱された作動ガスは先細末広形状をなすガスノズル24により超音速流(約340m/s以上)にされる。また、作動ガスのガス圧力は、1MPa〜5MPa程度とすることが好ましく、2MPa〜5MPa程度とすることがさらに好ましい。作動ガスの圧力を2MPa〜5MPa程度とすることにより、基材10の表面をブラストし、凹凸を形成することができる。スプレーガン22に供給された非金属粉末材料は、この作動ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま基材10に高速で衝突して基材10の表面をブラストする。金属等のブラスト法としては、エアブラストやショットブラスト等の方法も考えられるが、硬度が高い金属等からなる基材10の表面に短時間で確実に凹凸を形成するためには、コールドスプレー法でブラスト処理することが好ましい。
【0027】
上記のようにして基材10の表面を非金属粉末でブラストした後、ブラスト工程で使用したものと同様の構成を備えるコールドスプレー装置20を使用して、皮膜11を形成する。皮膜11は、材料となる金属または合金粉末を、金属または合金の融点より低い温度に加熱されたガスとともに加速し、基材10のブラストされた表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させて形成する。
【0028】
作動ガスとしては、ブラスト工程で使用するヘリウム、窒素、空気などが使用される。作動ガスは、例えば100℃以上であって、皮膜11を形成するための粉末材料である金属または合金の融点以下の温度に加熱された後、スプレーガン22に供給される。
【0029】
粉末供給装置23に供給された作動ガスは、粉末供給装置23内の、粉末材料をスプレーガン22に所定の吐出量となるように供給され、加熱された作動ガスは先細末広形状をなすガスノズル24により超音速流(約340m/s以上)にされる。また、作動ガスのガス圧力は、1MPa〜5MPa程度とすることが好ましく、2MPa〜5MPa程度とすることがさらに好ましい。作動ガスの圧力を2MPa〜5MPa程度とすることにより、基材10と皮膜11との間の密着強度の向上を図ることができる。スプレーガン22に供給された粉末材料は、この作動ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま基材10に高速で衝突して皮膜11を形成する。皮膜11の材料粉末のコールドスプレー装置20による吹付けのみでは、硬度が大きい基材10の表面に凹凸を形成し、新生面を露出させることはできない。しかしながら、本実施の形態では、ブラスト工程で基材10表面はブラストされて凹凸が生じるとともに新生面が露出しているため、金属結合が生じやすく、またアンカー効果により密着性の高い積層体1を得ることができる。
【0030】
なお、新生面同士による金属結合を促進させるために、ブラスト工程後、速やかに皮膜形成を行うことが好ましい。ブラスト工程後、例えば、3時間以内、好ましくは1時間以内に皮膜形成工程を行うことにより密着性の高い積層体1を得ることができる。
【0031】
2台のコールドスプレー装置20を用いて成膜する場合、図に示すように、コールドスプレー装置20−1において、粉末供給装置23−1内に収容される非金属粉末材料をスプレーガン22−1に供給し、ガス加熱器21−1から供給される作動ガスによりガスノズル24−1で超音速流とされて、基材10の表面に吹き付けてブラストを行った後、コールドスプレー装置20−2において、粉末供給装置23−2内に収容される粉末材料をスプレーガン22−2に供給し、ガス加熱器21−2から供給される作動ガスによりガスノズル24−2で超音速流とされて、ブラストされた基材10の表面に吹き付けて皮膜11を形成することが好ましい。
【0032】
また、円柱状をなす基材10’の側面に皮膜11を形成する場合、図4に示すように、コールドスプレー装置20−1において、粉末供給装置23−1内に収容される非金属粉末材料をスプレーガン22−1に供給し、ガス加熱器21−1から供給される作動ガスによりガスノズル24−1で超音速流とされて、回転する基材10’の側面に吹き付けてブラストを行った後、コールドスプレー装置20−2において、粉末供給装置23−2内に収容される粉末材料をスプレーガン22−2に供給し、ガス加熱器21−2から供給される作動ガスによりガスノズル24−2で超音速流とされて、回転する基材10’の側面(ブラスト面)に吹き付けて皮膜11を形成することもできる。
【0033】
また、上記の製造方法では、2台のコールドスプレー装置20を用いて、ブラスト工程、皮膜形成工程を行っているが、例えば、粉末供給ラインを2系統有するコールドスプレー装置を使用して製造することもできる。
【0034】
図5は、本発明の実施の形態にかかる積層体の金属皮膜の形成に使用されるコールドスプレー装置20Aの概要を示す模式図である。コールドスプレー装置20Aは、粉末供給装置23、スプレーガン22およびガスノズル24からなる粉末供給ラインを2系統有する。粉末供給装置23Aには、非金属の粉末が収容され、バルブ26Aを介して供給された作動ガスにより、非金属の粉末材料がスプレーガン22Aに所定の吐出量となるように供給される。また、ガス加熱器21から加熱された作動ガスがバルブ27Aを介してスプレーガン22Aに供給され、ガスノズル24Aで超音速流にされる。粉末供給装置23Bには、皮膜の材料である金属または合金の粉末が収容され、バルブ26Bを介して供給された作動ガスにより、金属または合金の粉末材料がスプレーガン22Bに所定の吐出量となるように供給され、ガス加熱器21から加熱された作動ガスがバルブ27Bを介してスプレーガン22Bに供給され、ガスノズル24Bで超音速流にされる。ブラスト工程時には、バルブ26Aおよび27Aが開とされ、バルブ26Bおよび27Bが閉とされる。皮膜形成工程時には、バルブ26Aおよび27Aが閉とされ、バルブ26Bおよび27Bが開とされるものであればよい。
【0035】
上述した実施の形態によれば、硬度が大きく、密着性に優れた皮膜を得ることが難しい金属または合金からなる基材10の表面を、非金属粉末によりブラストして凹凸を形成し、新生面を露出できるため、皮膜と基材との間に金属結合が生じるとともに、皮膜が基材表面の凹凸内に入り込んでアンカリングされるため、密着性に優れる積層体を得ることができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
基材10(SS400、ビッカース硬さ120HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ジルコン粉末(ZrSiO、粒径63μm未満)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作製した積層体1について、50mm×50mmで高さが16(全高)mm(高さ方向の6mmが皮膜11)の直方体の試験片を切り出し、基材10と皮膜11との界面の密着強度をせん断試験装置(積層体1の基材10部分を上下方向から把持した状態で、皮膜11に上方から下方に荷重をかけてせん断力を測定する)にて測定した。結果を表1に示す。また、図4に、実施例1で作製した積層体1の断面のSEM画像を示す。図6(a)は500倍、図6(b)は1500倍の倍率でのSEM画像である。
【0037】
(比較例1)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SS400、ビッカース硬さ120HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。また、図7に比較例1で作製した積層体1の断面のSEM画像を示す。図7(a)は500倍、図7(b)は1500倍の倍率でのSEM画像である。
【0038】
(比較例2)
基材10(SS400、ビッカース硬さ120HV)に、吸引式大気ブラスト装置により、ガス圧力:0.4MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例3)
フライス加工をした基材10(SS400、硬ビッカースさ120HV)に、実施例1と同様にして、コールドスプレー装置20により、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
(比較例4〜6)
基材10(SS400、ビッカース硬さ120HV)に、ブラスト工程を行わずに、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)とジルコン粉末(ZrSiO、粒径63μm未満)との混合粉末(比較例4、Cu:ZrSiO=7:3(体積)、比較例5、Cu:ZrSiO=5:5(体積)、比較例6、Cu:ZrSiO=2:8(体積))を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(比較例7)
基材10(SS400、ビッカース硬さ120HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:200℃、作動ガス圧力:0.5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ジルコン粉末(ZriSO、粒径63μm未満)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
ブラスト材をアルミナ粉末(Al、粒径73.5〜87.5μm)に変更した以外は実施例2と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例4)
ブラスト材をソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)に変更した以外は実施例2と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例8)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例2と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:250℃、作動ガス圧力:3MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:250℃、作動ガス圧力:3MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、アルミニウム粉末(D50=30μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。なお、実施例5の密着強度測定の際、皮膜11は基材10との界面で剥離されず、皮膜11が破壊された。
また、図8に、実施例5で作製した積層体1の断面のSEM画像を示す。図8(a)は200倍、図8(b)は500倍の倍率でのSEM画像である。
【0047】
(比較例9)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例5と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)にアルミニウム粉末(D50=30μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。また、図9に比較例9で作製した積層体1の断面のSEM画像を示す。図9(a)は500倍、図9(b)は1500倍の倍率でのSEM画像である。
【0048】
(比較例10)
基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:200℃、作動ガス圧力:0.5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、アルミニウム粉末(D50=30μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:250℃、作動ガス圧力:3MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、アルミニウム粉末(D50=30μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例6)
基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、チタン粉末(D50=25μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例11)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例6と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SUS304、硬さ150HV)にチタン粉末(D50=25μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様のせん断試験装置にて、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例7)
基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、SUS316L粉末(45μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例12)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例7と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(SUS304、ビッカース硬さ150HV)にSUS316L粉末(-45μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例8)
基材10(チタン、ビッカース硬さ120HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(比較例13)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例8と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(チタン、ビッカース硬さ120HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例9)
基材10(インコネル600、ビッカース硬さ130〜300HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(粒径53〜63μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例14)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例9と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(インコネル600、ビッカース硬さ130〜300HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例10)
基材10(銅:C1020、ビッカース硬さ75HV)に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/sで1パス、ソーダ石灰ガラス粉末(D50=40μm)を吹き付け、基材10表面をブラストした。ブラストした基材10表面に、コールドスプレー装置20により、作動ガス:窒素、作動ガス温度:650℃、作動ガス圧力:5MPa、ワーキングディスタンス(WD):25mm、トラバース速度:200mm/s、銅粉末(D50=40μm)を吹き付け皮膜11を形成し、積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例15)
ブラスト工程を行わない以外は、実施例10と同様にして、コールドスプレー装置20により、基材10(銅:C1020、ビッカース硬さ75HV)に銅粉末(D50=40μm)を吹き付け、皮膜11を形成し積層体1を作製した。作成した積層体1について、実施例1と同様にして、基材10と皮膜11との密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、ジルコン、アルミナ、またはソーダ石灰ガラスを用い、コールドスプレー装置20により基材10の表面をブラストし、皮膜11を形成した実施例1〜9は、ブラスト処理を行わずに皮膜11を形成した比較例1、8、9、11〜14に比べて、密着強度が向上した。ブラスト処理を行わずに皮膜11を形成した比較例1、8、9、11〜14は、皮膜11は基材10上に堆積されるものの、せん断試験装置で荷重を加えることなく皮膜11は剥離する。また、図6〜9に示すように、ブラスト処理を行った実施例1および実施例5は、ブラスト処理しない比較例1および比較例9に比べて、基材10の表面に凹凸が形成され、皮膜11が凹凸内に入り込んでいることがわかる。このアンカリングにより、基材10と皮膜11との間の密着強度が向上する。
【符号の説明】
【0061】
1 積層体
10 基材
11 皮膜
20、20−1、20−2、20A コールドスプレー装置
21、21−1、21−2 ガス加熱器
22、21−1、21−2、22A、22B スプレーガン
23、23−1、23−2、23A、23B 粉末供給装置
24、24−1、24−2、24A、24B ガスノズル
25、25−1、25−2、26、26−1、26−2、26A、26B、27A、27B バルブ
【要約】
【課題】硬度が高い基材表面に非金属粉末をコールドスプレー法により吹き付けて基材表面をブラストした後、コールドスプレー法により皮膜を形成することにより、基材と皮膜との密着性に優れる積層体および積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】積層体1は、ビッカース硬さが120HV以上の金属または合金からなり、表面に凹凸を有する基材10と、基材10表面に形成された金属または合金からなる皮膜11と、を備え、皮膜11は基材10と金属結合を形成することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9