特許第6109299号(P6109299)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109299
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】金管楽器用の弁システム
(51)【国際特許分類】
   G10D 9/04 20060101AFI20170327BHJP
   G10D 7/10 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   G10D9/04
   G10D7/10
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-510646(P2015-510646)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2015-519603(P2015-519603A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】DE2013200007
(87)【国際公開番号】WO2013167125
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2015年11月19日
(31)【優先権主張番号】202012004570.9
(32)【優先日】2012年5月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514284914
【氏名又は名称】ヴィルヘルムス カロルス ザンダース
【氏名又は名称原語表記】Wilhelmus Karolus Sanders
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヘルムス カロルス ザンダース
【審査官】 安田 勇太
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第00530781(US,A)
【文献】 特開2007−047548(JP,A)
【文献】 特開平10−097240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 9/04
G10D 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金管楽器用の弁システムであって、機械的に操作される回転弁を備え、該回転弁が弁ブシュ(8)内に回転可能に支持されており、さらに、空気流を供給しかつ導出する管ならびに弁管ループ(11)のための管取付け部(1,2,3,4)を備えた、金管楽器用の弁システムにおいて、
当該弁システムが、フライス削りされた弁ブロック(9)を有しており、
該弁ブロック(9)内に、当該弁システムを直線状にかつ一定の横断面を持って前記弁ブシュ(8)を通って貫通している孔(10)が設けられており、
該孔(10)に、該孔(10)に対してほぼ直角に延びる、前記弁管ループ(11)に通じた、同じ横断面の複数の孔(13)が開口しており、
当該システムを貫通した前記孔(10)と、弁管ループ(11)に通じた前記孔(13)とが、回転可能な弁シリンダ(12)と、該弁シリンダ(12)内に配置された孔(6)とによって、弁操作時に互いに接続されており、
前記孔(6)が、前記弁シリンダ(12)をほぼ直線状に貫通して延びており、該孔(6)の横断面が、前記別の孔(10,13)の横断面に相当しており、
前記第1および第2の孔(10,13)並びに前記弁ブシュ(8)が、直接に前記弁ブロック(9)内でフライス削りされていることを特徴とする、金管楽器用の弁システム。
【請求項2】
前記弁ブシュ(8)内に回転可能に支持された前記弁シリンダ(12)に設けられた前記孔(6)が、少なくとも端部領域(5)において、僅かに湾曲されて形成されており、
前記端部領域(5)が、弁の操作時に、変向領域内で前記孔(10)内へ進入するように回転させられて、該変向領域で空気流をより穏やかに導き、横断面変化なしに均一に前記弁管ループ(11)に供給する、請求項1記載の金管楽器用の弁システム。
【請求項3】
前記弁シリンダ(12)が、上側および下側でボールベアリング内に案内されており、前記弁ブシュ(8)に対して、摩擦なく該弁ブシュ(8)内で回転可能である、請求項1または2記載の金管楽器用の弁システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載された、金管楽器用の弁システムに関する。
【0002】
トランペットやホルン、トロンボーン、チューバのような金管楽器による演奏時の音の高さおよび音程(イントネーション)は、楽器を吹くテクニックや唇の使い方に加え、楽器に設けられた機械的な弁によって変えられる。これらの弁は通常、ばね付勢されたレバーと、機械的なジョイントまたは紐機構とを介して操作可能である。弁が操作されると、楽器に取り入れられた空気は、所定の長さの択一的な管ループ(迂回管)によって案内され、これにより、自然音を管路長の延長によって半音ないし3半音だけ下げることができる。この場合、負荷された弁管ループは、一般に、円筒状の孔が、弁管ループの微調整のための弁抜差管の形成を可能にするように形成されている。
【0003】
本発明はこの場合、回転弁(ロータリバルブ)を備えた弁システムに関する。該回転弁は、2つの通路を備えた1つの弁体を有しており、この弁体は、弁が1回操作されると、弁体の垂直軸の90°回転を行い、こうして弁管ループ内への空気の迂回を実施する。金管楽器用のこのような回転弁は、たとえば独国特許出願公開第3013646号明細書に記載されており、同独国特許出願公開明細書に記載の発明の目的は、空気案内における不連続性を改善することに向けられている。
【0004】
独国特許出願公開第3013646号明細書の記載によれば、回転弁における根本的な問題は、空気流の変向が行われなければならず、しかも、それぞれ90°の4回の変向が行われなければならないことである。同独国特許出願公開明細書に記載の改善のための手段は、弁内の孔を変え、かつ弁における管端の耳部の取付けを変えることによって、空気流の全体の方向変化量を減少させ、こうしてエッジ部を巡る流過による抵抗を減少させることである。
【0005】
このことは、弁管ループに通じた管が、弁体中心点には向けられておらず、かつなだらかに形成されていることにより達成される。弁に通じた主管抜差管の入口および出口のための穿孔は、この場合、まだクラシカルな形式で、弁の中心点の方向に行われ、この場合、相応する管端の耳部は、弁管と、弁管に通じた管との間の結合エレメントとして設けられている。したがって、これらの耳部は、弁内への入口では、相変わらず標準的に折り曲げられているが、弁管ループへの移行部の範囲では真っ直ぐに形成されている。これによって、変向にかかる手間が減じられる。
【0006】
本発明の目的は、弁構造をさらに改善することであり、この場合、まったく新規の基本構造が提案される。回転弁の構造の第1の相違点は、自然音の吹奏時に生ぜしめられ、この自然音は、本発明によれば、回転弁による変向なしに、楽器を通じて奏でられることが望ましい。従来の回転弁では、弁が操作されてない状態でも、空気流の狭窄または変向が、常に与えられている。なぜならば、弁通過部はすでに、純粋に製造に起因して横断面の不正確性、段部および狭窄部を有しているからである。このことは、楽器の演奏および音出しを困難にしている。
【0007】
したがって、たとえば独国特許出願公開第3013646号明細書に記載の前で説明した構造におけるように、慣用の弁ハウジングでは、弁が操作されていない状態でも、空気流を妨げる要因が与えられている。なぜならば、空気流は、弁が操作されていない状態でも、常に、取り付けられた耳部を介して回転弁内に向かう変向により、弁体を有する第1の弁ハウジングを通って案内され、そして再び次の耳部と、次の弁ハウジングへの移行管区分とへ変向され、こうして、空気流は変向および、場合によっては狭窄を受ける。
【0008】
欧州特許出願公開第0135643号明細書に開示されている発明は、たしかに回転弁の構造における改善を目的としているが、しかしやはりこのような欠点を有している。同欧州特許出願公開明細書においても、前で述べた変向部や狭窄部が、不都合であることが言及されており、それゆえに、管取付け部、結合管および弁切換部の通過部の横断面を一定に形成し、これらの構成要素の間のすべての移行部を滑らかでかつ段部なしに形成することが提案されている。このようにしてある程度の改善が達成され得るということを前提とすることができる。
【0009】
このような背景のもとでの本発明の課題は、弁が開いた状態で、楽器の弁システムを通る、可能な限り真っ直ぐでかつ均一な空気流を可能にするような、金管楽器用の弁システムを提供することである。これによって楽器の吹始めやレスポンスが改善されるとともに、すべての音域で、補償された響きが達成される。
【0010】
本発明による弁システムでは、開いた状態の弁システムにおける空気流の狭窄や変向の上記問題は生じない。なぜならば、弁が操作されていない状態では、空気は、相前後して結合されて配置された複数の弁ブシュから成る弁システムを通って、真っ直ぐに通流案内されるからである。本発明によれば、このことは、1つの一貫した真っ直ぐな孔を有する、弁ブロックおよび弁ハウジングとして形成された弁システムによって達成され、この場合、使用される回転弁は、これらの回転弁が、非操作時では、直線状に一貫して延びる孔の横断面の延長部もしくは継続部を形成するように構成されている。
【0011】
すなわち、この構造では、弁ブロックが1つの基体から加工成形されており、従来技術においてそうであるように、弁ブシュや取付けられた耳部、管片のような個々の構成部分の複雑な結合を有するものではない。したがって、弁ブロックは楽器の吹付け管の主管を収容していて、この主管を、直線状にかつ一定の横断面を持って、一貫した孔として、この主管に対して直角を成して配置された弁ブシュに通して案内している。したがって、耳部と管区分とによる弁ブシュの相互の結合は不要となる。弁ブロックは、相応して孔と弁ブシュとともに、1つの部分から加工成形されている。
【0012】
すなわち、吹奏楽器の管の取付け部に通じた孔を、完全に真っ直ぐに弁ブシュに通して貫通案内する、有利な手段が得られる。したがって、弁ブシュと管との間の変向を行う結合体として耳部を取付けることは不要となる。このことにより、実際には、特に吹始めにおいて、理想的な自然の音生成が生ぜしめられる。なぜならば、空気流が、狭窄や変向なしに、楽器を通じて振動し得るからである。
【0013】
この場合、たとえばホルンの弁管ループ内への変向は、たとえば欧州特許出願公開第0135643号明細書に記載の従来技術において弁ブシュにおける、取り付けられた耳部の案内により行われるよりも強力な変向によって行われるが、しかし、このことは意想外にも不都合とならず、それどころか、弁の操作時における、音の、より明瞭なアクセント付けや分離を可能にしている。すなわち、本発明による弁システムによる、弁管ループ内への空気流の、より強力な変向は、好ましくは、これらの音の、より強力なレスポンスを生ぜしめ、したがってむしろ、汎用の構造に対する利点を成している。コンピュータ制御されたフライス切削機械によって1つのワークブロックから行われ得る、弁ブロックの孔の正確な加工により、弁シリンダ内の円筒状の孔に対する移行部におけるこれらの孔の円筒状の接続部は、より正確にかつ十分に形成されており、この場合、このことも、音の、より強力でかつよりアクセント付けされたレスポンスを生ぜしめる。
【0014】
本発明の有利な実施態様では、弁ブシュ内に回転可能に支持された弁シリンダの孔において、これらの孔が、弁の操作時に弁シリンダ内への入口領域において、僅かにS字形に湾曲されて形成されている。弁管ループへの移行部もしくは操作位置における出口区分では、この孔は直線状に形成されている。変向部は、たしかに引き続き、ほぼ直角であって、前で挙げた好都合な効果を有しているが、しかしこれによって、特に弁が操作された状態での空気案内における改善が得られる。なぜならば、弁ブロック内への入口における僅かに湾曲された形状が、空気抵抗を減少させるからである。空気流は、より穏やかに受け止められて、横断面変化なしに均一に弁管ループに供給される。さらに、この構造においては、空気流は、弁操作時および90°の弁回転時に、加速を受け、これによって、音は一層良好に中心音(Klangzentrum)に集中され得る。このようにして、演奏者はより滑らかなレガートを達成することができる。
【0015】
別の有利でかつ新しい要素は、ボールベアリングである。このボールベアリング内では、空気流を変向させるために弁ブシュ内で90°だけ回転される弁シリンダが、上側および下側で案内されている。このようにして、弁ブシュ内で弁シリンダが摩擦なく動かされること、すなわち、弁シリンダが、回転時に弁ブシュの壁に沿ってスリップしながら回転ないことが達成される。このことは、操作の簡単化も、演奏中のノイズ発生の減少をも可能にする。特に、このことは楽器の共振に関する改善でもある。なぜならば、弁ブシュ内での弁シリンダの摩擦による不都合な共振が、楽器本体にもはや伝達されないからである。こうして楽器は、妨げられずに、共振体として振動することができる。
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】弁システムの弁が操作されていない状態で、開いた弁ブシュ内の弁シリンダを断面して示す弁システムの平面図である。
図2】弁システムの弁が操作されている状態で、開いた弁ブシュ内の弁シリンダを断面して示す弁システムの平面図である。
【0018】
弁システム9の開口1を通して、息を吹き込む吹付け管の空気流が弁システム9に供給される。空気流は、矢印によって概略的に図示されている。図中では、この空気流は、弁システムを直線状に通流し、この場合、空気流は横断面の狭窄部によっても、変向部によっても妨げられない。
【0019】
このことは、従来汎用の弁システムに対する基本的な変更であることは明らかである。弁シリンダ12に設けられた孔6の出口においてのみ、軽度の湾曲部が存在しており、この湾曲部はこの範囲における弁切換部の内壁の肉厚のくびれとして形成されている。孔6の前側の区分7は、弁システム内への管導入部1の横断面と正確に一致している。
【0020】
基本的には、一定の横断面の一貫した孔10が、弁システムもしくは弁ブロック9を貫通している。したがって、弁ブロック9は1つのブロックからフライス削りにより加工されている。この場合、外側輪郭も、主管用の取付け部1,2ならびに弁管ループ11(迂回管)用の取付け部3,4も1つのブロックからフライス削りされており、さらに、円筒状の弁ブシュ8および孔10、ならびにこの孔10に直角に接続された、弁管ループ11に通じる孔もフライス削りされている。
【0021】
図2には、この弁システムが、弁シリンダ12の操作された状態で図示されている。すなわち、これらの弁シリンダ12は、弁ブシュ8内で90°だけ回転させられている。矢印により、空気流が、入口1から弁システム内へ流入し、弁シリンダ12に設けられた孔6によって直角に変向されることが判る。図示した実施形態では、孔6が前側の範囲5で、僅かに湾曲させられて延びていることにより、前記変向部が穏やかに延びている。弁シリンダ12の回転された位置で見て、弁管ループ11に向かう後側の範囲7は、孔6の横断面が、この孔6に続いた弁管ループ11に正確に相応するように延びている。
図1
図2