(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109323
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】光を吸収する層系及びその製造並びにそのために適したスパッタターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20170327BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20170327BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20170327BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20170327BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20170327BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20170327BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
C23C14/08 G
C23C14/08 N
C23C14/34 A
G02B1/113
G02B5/22
G02B5/00 B
B32B7/02 103
B32B9/00 A
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-538372(P2015-538372)
(86)(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公表番号】特表2016-502592(P2016-502592A)
(43)【公表日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】EP2013071501
(87)【国際公開番号】WO2014063954
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】102012110113.2
(32)【優先日】2012年10月23日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102012112739.5
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102012112742.5
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】315003088
【氏名又は名称】ヘレーウス ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Deutschland GmbH&Co.KG
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シュロット
(72)【発明者】
【氏名】アルベアト カストナー
(72)【発明者】
【氏名】マークス シュルトハイス
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ シュナイダー−ベッツ
(72)【発明者】
【氏名】ベアント シュシュカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルマ デヴァルト
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−509511(JP,A)
【文献】
特開2008−164660(JP,A)
【文献】
国際公開第97/08359(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第2116631(EP,A1)
【文献】
特開2005−256175(JP,A)
【文献】
特開平11−52117(JP,A)
【文献】
特開2011−179021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 1/00−43/00
G02B 1/113
G02B 5/00
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの層からなり、前記層の一方の層は、誘電性材料からなる反射防止層であり、かつ前記層の少なくとも1つの他方の層は、化学量論的に不足する酸素含有量を有する酸化物からなる吸収層である、光を吸収する層系において、前記層系は全体として、380〜780nmの波長領域において20%未満の視感透過率Tv、6%未満の視感反射率Rv及び10kΩより大きい層抵抗RΥを有し、
前記反射防止層は光透過性材料からなる基板上に施され、且つ前記吸収層は前記反射防止層上に施されており、
前記吸収層は、主成分として、Nbの金属の酸化物又はその混合物を有し、
前記反射防止層の厚さは36nm〜<50nmであり、且つ前記吸収層の厚さは110nm〜<250nmである、
前記層系。
【請求項2】
前記層系は全体として、380〜780nmの波長領域において、10%未満の視感透過率Tv、2%未満の視感反射率Rv及び20kΩより大きい層抵抗RΥを有することを特徴とする、請求項1に記載の層系。
【請求項3】
前記反射防止層は、主成分として、Nb2O5、TiO2、MoO3、WO3、V2O5、AlN、SnO2、ZnO、Si3N4、HfO2、Al2O3、酸窒化ケイ素又はこれらの混合物を有し、nS<nR<nAが当てはまる屈折率nRを有し、この場合、nSは、基板の屈折率であり、nAは吸収層の屈折率であり、かつ前記反射防止層の酸素含有量は、化学量論的な酸素含有量の少なくとも94%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の層系。
【請求項4】
吸収係数kappaは、550nmの波長で0.7〜0.8の範囲内にあることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の層系。
【請求項5】
前記吸収層の酸素含有量は、化学量論的な酸素含有量の65〜90%であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の層系。
【請求項6】
前記吸収層は、X線回折測定によって検知可能な結晶質構造を有しない、光学的に均質の構造を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の層系。
【請求項7】
前記反射防止層と吸収層との全体の厚さが、146〜300nmの範囲内にあることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の層系。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の層系を製造するためのスパッタターゲットにおいて、前記スパッタターゲットは酸素不足を有し、前記酸素不足は、Nb2O5-x(x>0)又はこれらの混合物を基礎とする化学量論的に不足でかつそれにより導電性の酸化物の還元された酸化物相によるだけで調節されるか、又は前記還元された酸化物相と共に金属混和物によって調節されることを特徴とする、スパッタターゲット。
【請求項9】
前記酸素不足は、酸素含有量が、化学量論的な酸素含有量の65〜90%である還元の程度によって定義されていることを特徴とする、請求項8に記載のスパッタターゲット。
【請求項10】
前記スパッタターゲットの電気抵抗が、10Ω・cm未満であることを特徴とする、請求項8又は9記載のスパッタターゲット。
【請求項11】
前記金属混和物は、Moを有することを特徴とする、請求項8から10までのいずれか1項に記載のスパッタターゲット。
【請求項12】
前記金属混和物は、酸素不足の少なくとも50%を構成することを特徴とする、請求項11に記載のスパッタターゲット。
【請求項13】
前記スパッタターゲットは、Nb及びMo並びにこれらの酸化物の少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項11又は12に記載のスパッタターゲット。
【請求項14】
前記スパッタターゲットは、Nb2O5-x及びMoからなり、x=0.01〜0.3であり、Mo含有量は、28〜60質量%であることを特徴とする、請求項13に記載のスパッタターゲット。
【請求項15】
前記スパッタターゲットは、Mo、並びにこれらの酸化物の少なくとも1つを有し、Mo含有量は、30〜65質量%であることを特徴とする、請求項11又は12に記載のスパッタターゲット。
【請求項16】
前記還元の程度は、前記スパッタターゲットの厚さにわたって少なくとも5箇所で測定して、平均値に対して±5%(相対的)より大きくばらつかないことを特徴とする、請求項9に記載のスパッタターゲット。
【請求項17】
前記金属混和物が金属含有量を定義し、前記金属含有量は、前記スパッタターゲットの厚さにわたって少なくとも5箇所で測定して、平均値に対して±5%より大きくばらつかないことを特徴とする、請求項8から16までのいずれか1項に記載のスパッタターゲット。
【請求項18】
希ガスを有するスパッタ雰囲気中でのスパッタターゲットのDCスパッタリング又はMFスパッタリングによる反射防止層の堆積及び吸収層の堆積を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の層系の製造方法において、請求項8から17までのいずれか1項に記載の酸素不足を有するスパッタターゲットを使用し、化学量論的に不足する酸素含有量を有する酸化物からなる吸収層の堆積のために、前記スパッタ雰囲気に反応性ガスを酸素の形で、前記スパッタ雰囲気中に最大10体積%の反応性ガス含有量が生じるように混入することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の層系の製造方法。
【請求項19】
それぞれ化学量論組成を基準として、スパッタターゲットの材料中の酸素の割合は、吸収層の酸化物中の酸素の割合とは異ならないか、又は最大±20%異なることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記反射防止層及び前記吸収層の堆積を、同じターゲット組成を使用して行い、前記反射防止層の堆積の際のスパッタ雰囲気は、前記吸収層の堆積の際のスパッタ雰囲気よりも高い反応性ガス含有量を有することを特徴とする、請求項18又は19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの層からなり、前記層の一方の層は、誘電性材料からなる観察者側の反射防止層でありかつ前記層の少なくとも1つの他方の層は、化学量論的に不足する酸素含有量を有する酸化物又は酸窒化物からなる観察者側とは反対側の吸収層である、光を吸収する層系に関する。
【0002】
更に、本発明は、希ガスを有するスパッタ雰囲気中でのスパッタターゲットのDCスパッタリング又はMFスパッタリングによる吸収層の堆積を有する、この種の層系の製造方法に関する。
【0003】
更に、本発明は、この方法を実施するために適したターゲットにも関する。
【0004】
先行技術
光を吸収する層系は、例えば、陰極スパッタリング(スパッタ)により層を互いに積み重ねて堆積させることにより作製される。この場合に、高エネルギーイオン(通常では希ガスイオン)の衝撃によって、固体、つまりスパッタターゲットから原子又は化合物が飛び出し、気相の形に移行する。この気相の形で存在する原子又は分子は、最終的に凝縮によって、スパッタターゲットの付近にある基板上に堆積し、そこで層を形成する。「直流電圧スパッタリング」又は「DCスパッタリング」(direct current sputtering)の場合には、カソードとして接続されたターゲットとアノード(頻繁に装置ハウジング)との間に直流電圧が印加される。不活性ガス原子の衝突電離によって、真空化されたガスチャンバ中で低圧プラズマが形成され、この低圧プラズマの正電荷の成分が印加された直流電圧によって持続的な粒子流としてターゲット方向に加速され、衝突の際にターゲットから粒子が打ち出され、この粒子が更に基板方向に進み、そこで層として析出する。
【0005】
このDCスパッタリングは、導電性のターゲット材料を必要とする、というのも導電性でないとターゲットは電気的に荷電された粒子の持続的な流れのために帯電し、それにより直流電圧場が相殺されてしまうためである。他方で、このスパッタリング法は、特に高品質の層を経済的に提供するために適していて、その使用が努められている。このことは、2つのスパッタターゲットが交互にkHz周期でカソード及びアノードとして切り替えられる工業的に使用されるMFスパッタリングにとっても当てはまる。
【0006】
光を吸収する層系は、例えば太陽熱利用又は液晶ディスプレーと組み合わせた、いわゆる「ブラック・マトリックス」層のような多様な用途に使用される。
【0007】
太陽光吸収層の場合、層構造は、一般的にサーメット層と、その下にある金属遮断層とを有し、この遮断層が選択的リフレクタとして使われる。サーメット層中に導入された導電性又は金属性の粒子は、一般に5〜30nmの直径を有する。この積層体は、太陽光スペクトル領域で高い吸収率を示すが、この吸収率は赤外線スペクトル領域では低い。その工業的な製造のために電着技術及び同様にPVD法が一般的に利用されている。このような積層体の例は、Ni/NiO+Al及びTiNx/TiO
2+Cuである。現在の概観は、「Kennedy, C.E.; - Review of Mid- to High-Temperature Solar Selective Absorber Materials; NREL Technical Report (July 2002)」に記載されている。
【0008】
選択的リフレクタとして利用される金属遮断層は、高い吸収を示す。しかしながら、この金属遮断層は、同時に高い導電性のために、その下に延在する、高周波電子工学回路の信号ラインについて著しく減衰させ、従って、高周波技術の領域又は層系中で更に層系中で信号を急速に切り替えなければならない領域での適用のために適していない。
【0009】
酸化物マトリックス中に金属相からなる領域が挿入されている「サーメット層系」も公知である。しかしながら、この種のサーメット層系はエッチングが困難である、というのも酸化物及び埋め込まれた金属粒子は多様なエッチング剤を必要とする。例えば酸化物と貴金属との組合せの場合に、フッ化物エッチングの場合又はKOH及びH
2O
2を用いて主に酸化物がエッチングされるため金属粒子は残留し、それによりスパッタ装置や後続の基板が汚染される。
【0010】
特に第5世代基板までで使用されるCrを基礎とする「ブラック・マトリックス層」は、更に、湿式化学エッチングの際に有毒のCr−VI化合物が生じることがあるという欠点を有する。
【0011】
技術的課題設定
上述の理由から、可視光スペクトル領域中での高い吸収及び低い反射及び電子工学部材及び信号ラインとの僅かな相互作用を示し、つまりできる限り僅かな導電性を有しかつ更に有毒物質の発生なしでかつ粒子残留物なしでエッチングすることができる層構造が望ましい。金属層又は金属下層はこの前提条件を満たしていない。
【0012】
他方で、これとは確かに矛盾しているが、これらの層は品質の検討から好ましくはDCスパッタリング又はMFスパッタリングにより製造でき、このことは導電性ターゲット材料が前提とされる。
【0013】
従って、本発明の基礎となる課題は、これらの要求を満たす層系及びこの製造のために適したスパッタターゲットを提供することである。
【0014】
更に、本発明の基礎となる課題は、本発明による層系を再現可能に製造することができる、高いプロセス安定性を有する方法を提供することである。
【0015】
本発明の一般的記載
本発明による層系
この層系に関して、上記課題は、冒頭の述べた種類の層系から出発して、本発明の場合に、吸収層は、それぞれ化学量論的に不足する酸素含有量を有する酸化物又は酸窒化物からなり、かつ前記層系は全体として、380〜780nmの波長領域において、20%未満の視感透過率Tv、6%未満の視感反射率Rv及び10kOhmより高い層抵抗RΥを有することにより解決される。
【0016】
この層系は、観察者にとって光学的に透明ではなく、つまり不透明に見える。これには380〜780nmの可視光スペクトル領域での強い吸収を必要とするが、しかしながら金属層によって達成可能なような1,500nmまでは必要としない。少なくとも、観察者から見て背後の層(吸収層)においては、380〜780nmの波長領域で20%未満の、好ましくは10%未満の低い視感透過率Tvを保証しなければならない。
【0017】
光を吸収する層は、透明な層マトリックス中でも粒子又は堆積物の光散乱性又は吸収性の導入によって得ることができる。この種の層は、更なる仕上げプロセスでエッチング工程にかけられる場合、粒子または堆積物は、層マトリックスとは異なるエッチング挙動を示し、この層系のエッチングの際に望ましくない粒子形成を引き起こすことがある。これは、特に、例えば貴金属粒子の場合のようなエッチングが困難な金属粒子の場合である。
【0018】
これを回避するために、本発明による層系の場合に、吸収層が化学量論的に不足する酸化物又は化学量論的に不足する酸窒化物からなることにより、この吸収層を光吸収性に作用させることが予定されている。これらの物質は占有されていないO原子価又はN原子価を有する。酸窒化物の場合には、これは窒素不足とも酸素不足とも解釈することができる。他に明確に言及がない限り、便宜上、以後の説明において、一般に「化学量論的に不足」又は「化学量論的に不足する酸素含有量」又は「酸素不足」とされている場合であっても、「化学量論的に不足する窒素含有量」と読み替えることができる。
【0019】
その化学量論的組成ではない物質は、多数の酸素不足型欠陥を示し、この酸素不足型欠陥は、分光学的に可視光波長領域において特異的又は不鮮明な吸収となって現れる。それにより、この吸収層は、このために結晶質の粒子又は堆積物を必要とすることなく、酸素不足によるだけで、380〜780nmの波長領域で光学的に不透明となる。
【0020】
しかしながら、高い吸収だけでなく、同時に低い反射を達成するために、この層系は少なくとも2つの層を有する。この吸収層は、反射防止層上に直接又は中間層を介して間接的に存在する。これは、主に、「反射適合層」として利用される。この反射防止層の屈折率は、好ましくは、この反射防止層に直接接する媒体、例えば基板又は空気の屈折率と吸収層又は場合による中間層の屈折率との間にある。この厚さは、層系の視感反射率Rvが6%未満、好ましくは2%未満のとなるように調節される。この反射防止層は、その層厚にわたって均一な屈折率又は屈折率勾配を有する。
【0021】
視感反射率Rvとは、この場合、視感度に標準化された反射率であると解釈され、これは層系の全体の反射から計算される。視感反射率Rvの計算のために、分光計の測定値を視感度の標準化された係数で折り畳み、かつ積分するか又は合計する。この視感度の係数は、DIN EN 410に規定されている。
【0022】
この層系が透明基板上に施されている場合、視感反射率の計算のために、さらに基板の被覆されていない表面での反射率値が差し引かれる。
【0023】
視感透過率Tvとは、従って、視感度に標準化された透過率であると解釈され、これは層系の全体の透過率から計算される。視感透過率Tvの計算も、同様に、DIN EN 410に規定されているように、分光器の測定値を用いて行う。
【0024】
更に、この層系は全体として、10kOhmより高い、好ましくは20kOhmより高い層抵抗RΥにより特徴付けられる低い導電性を有する。それにより、この付近の電子工学部材又は導体路との相互作用が回避される。この高い層抵抗は、この層系の層が酸化物又は酸窒化物の性質であることにより達成される。反射防止層及び吸収層の積層体の層抵抗は、吸収層の表面の四点法によって測定される。
【0025】
この層系は、例えば電子工学部材及びライン上に、これらを遮蔽しかつ観察者に見えなくするために施すことができる。この場合、電子工学部材及びライン又はその基板又はボードは、同時のこの層構造のための支持体として用いることができ、この場合、吸収層は、反射防止層よりも支持体の近くにある。
【0026】
他の実施態様の場合に、この場合に支持体として利用される光透過性材料からなる基板上に反射防止層が施されている。この場合、反射防止層は、吸収層よりも支持体の近くにある。通常では、この基板はガラス板、プラスチック支持体又はシートである。この反射防止層上に直接、又は1つ又はそれ以上の中間層を介して、吸収層が続き、この吸収層は他の機能層を備えていてもよい。
【0027】
この吸収層の本質的な機能は、反射防止層を介して入射される光学的放射のできる限り高い吸収を作り出すことである。この機能を満たすためのパラメータは、吸収層の材料の他に、その層の厚さ及び酸素不足の程度である。層の厚さが厚くなれば及び酸素不足が大きくなればそれだけ、吸収層の導電性は高くなりかつ吸収能力も高くなる。このパラメータは、一方では層系の高い吸収と、他方では低い導電性との間の最適な妥協となるように設計されている。この材料に関しては、吸収層が主成分としてNb、Ti、Mo、W、Vの金属の酸化物又はそれらの混合物として含まれる場合が好ましいことが判明した。
【0028】
これらの酸化物及びこれらの酸化物から誘導された窒素含有の酸窒化物は、酸素不足(酸窒化物の場合には窒素不足とも解釈される)の場合、可視光波長領域において優れた吸収を示す。この材料は、更に、化学量論的に不足の相が、結晶質の堆積物、偏析構造又は金属クラスターのようなエッチングが難しい構造を形成する傾向がないという利点を有する。
【0029】
この関連で、この吸収層は、X線回折測定によって検知できる結晶質構造を有しないという意味範囲で、光学的に均質な構造を有する場合が特に好ましい。
【0030】
これにより、例えばフッ化物イオンを用いたエッチング又はKOH+H
2O
2を基礎とするエッチングの場合のように、均質なエッチング挙動も生じる。このように特徴付けられた層は、透過型電子顕微鏡により観察する際にも、2nmの分解限度まででも構造を示さない。しかしながら、熱力学的にはこの非晶質構造は不安定であるため、熱処理又は加熱によって結晶質の析出物を形成することがある。
【0031】
この誘電性の反射防止層を形成するために、基本的に及び好ましくは、吸収層と同じであるが、完全な化学量論比を有するか又は場合により際立った酸素不足を有しない物質が挙げられる。それどころか、この反射防止層は、所定の酸素不足を有し、その際、この酸素含有量は、化学量論的な酸素含有量の少なくとも94%である場合が好ましいことが判明した。それにより、この吸収層だけでなく、反射防止層も所定の吸収を示すため、必要な全体吸収を保証するために層系の全体の厚さをより薄くすることができる。
【0032】
しかしながら、文献で反射防止被覆のために使用される他の誘電性層系、例えばAlN、SnO
2、Si
3N
4、HfO
2、ZnO、TiO
2、Al
2O
3、酸窒化ケイ素、Nb
2O
5、MoO
3、WO
3、V
2O
5又はこれらの混合物も適している。
【0033】
反射防止層の機能、つまり可視光波長領域の入射光の反射をできる限り低く保つことは、好ましくは、この反射防止層が基板上に施されていて、この反射防止層は、n
S<n
R<n
Aが当てはまる屈折率n
Rを有する(その際、n
Sは基板の屈折率であり、n
Aは吸収層の屈折率である)ことによって満たされる。
【0034】
反射防止層と吸収層とからなる二重層を構成することが技術的に簡単ではあるが、段階的な酸素の化学量論的不足量を有する複数の層からなる層系の構造又は観察者の視線方向で見て連続的に酸素が不足する勾配層も可能である。
【0035】
この本発明による層系は、好ましくは550nmの波長で、0.7〜0.8の範囲内の吸収係数kappaにより特徴付けられる。
【0036】
この吸収係数kappaについて、この場合、次のことが通用する:
n・kappa=k
k=消衰係数、この消衰係数は、複素屈折率
N=n+i・k
になり、かつこれによって、減衰寄与度が層系の層の屈折率における虚部によって配慮される。
【0037】
できる限り高い吸収を有する吸収層の観点では、基本的にkappaについて明確な上限はない。しかし、2.5を越える極めて高いkappa値の場合に、この吸収層の有効な反射防止はいっそう困難となる。
【0038】
一方でできる限り高い光吸収と、他方で吸収層の低い導電性(高抵抗性)との間の最適な妥協点は、吸収層の酸素含有量が、化学量論的な酸素含有量の65〜90%、好ましくは70〜85%である場合に生じる。
【0039】
この場合、吸収層は、完全に化学量論的な、誘電性の層の場合に生じる酸素原子の10〜35%、好ましくは15〜30%が不足する。背後の層の中で酸素不足が増加すると共に、この導電性は増大する。35%を越える高い酸素不足の場合、この抵抗は、望ましくない低い値に低下することがある。
【0040】
厚さが増加すると共に吸収層の電気抵抗は低下し、かつ吸収は増大する。できる限り高い電気抵抗及び十分に高い吸収能力の意味範囲で、この吸収層は、250nm未満の厚さ、好ましくは70〜160nmの範囲内の厚さを有する。
【0041】
入射光に対して反対方向へのできる限り低い反射及び吸収層への良好な反射適合の意味範囲で、この反射防止層は、50nm未満の厚さ、好ましくは30〜45nmの厚さを有する。
【0042】
製造コストの観点で、この層系の全体の厚さは、所定の最大透過率を維持するためにできる限り薄い。重要なパラメータは、この場合に、吸収層の酸素不足及び厚さである。この必要な最小の厚さは、試験によって簡単に測定することができる。一般的に、反射防止層と吸収層との全体の厚さは、80nm〜300nmの範囲内、好ましくは100〜200nmの範囲内にある。
【0043】
本発明によるスパッタターゲット
層系の望ましい低い導電性に対して、これらの層を、導電性ターゲット材料を前提とするDCスパッタリング又はMFスパッタリングにより製造できるという要求は、一定の矛盾を有する。この要件は、最も簡単には、金属ターゲットの使用により達成され、この場合、吸収層の酸素不足は、例えば多様な酸素供給下での金属ターゲットの部分反応性スパッタリングによって調節される。しかしながら、これは、ターゲット環境中での酸素含有量の正確でかつ均一な調節を必要とし、このことが、頻繁に低いプロセス安定性を伴い、特に大面積被覆の場合に工業的な実現限界に突き当たる。
【0044】
吸収層の特性及び製造に関する上述の2つの限界条件は、スパッタターゲットとして、酸素不足を有するスパッタターゲットを使用し、このスパッタターゲットは、Nb
2O
5-x、TiO
2-x、MoO
3-x、WO
3-x、V
2O
5-x(x>0)又はこれらの混合物を基礎とする、化学量論的に不足の、それにより導電性の酸化物又は酸窒化物の還元された酸化物相によるだけか、又は金属混和物と一緒でのこの還元された酸化物相によって調節される場合に満たすことができる。
【0045】
スパッタターゲットの酸化物又は窒化物は、化学量論的組成と比べて酸素又は窒素の不足を示す。従って、このスパッタターゲットは、導電性の相なしでも又は導電性の層の僅かな割合で既に十分に導電性であるため、DCスパッタリング又はMFスパッタリングによって作業することができる。この目的で、この比電気抵抗は、好ましくは10Ohm・cm未満、特に好ましくは1Ohm・cm未満である。
【0046】
本発明によるスパッタターゲットの場合に、本発明による層系の酸素不足は主に既に、スパッタターゲットの酸素不足が、それぞれスパッタされるべき層の酸素不足に正確に又はほぼ一致していることに基づいている。スパッタリングの場合に、上述の化学量論的に不足する酸化物又は窒化物は、酸素又は窒素を吸収することができる。従って、層の化学量論比の正確な調整は、反応性ガス(特に酸素)の僅かな添加によって達成することができるため、高反応性雰囲気下での金属ターゲットのスパッタリングの際の上述の技術的困難性は回避される。酸素の他に、窒素のような他の反応性ガスの添加も適している。
【0047】
化学量論的に不足する酸素含有量は、スパッタターゲット中では、化学量論的に不足の金属酸化物によるだけで調節されるか、又は化学量論的な又は化学量論的に僅かにだけ不足する、従って導電性の金属酸化物に付加的に金属材料を混和することにより調節することができる。後者の実施態様が一般に好ましい、というのも35%までの酸素不足を有する化学量論的に著しく不足する酸化物は製造することが困難であるためである。この金属混和物は、好ましくは、Nb、Ti、Mo、W、Ta及びVの元素の少なくとも1つを有する。
【0048】
スパッタターゲットの酸素不足は、この酸素含有量が、好ましくは、化学量論的な酸素含有量、又は化学量論的な酸素含有量及び窒素含有量の65〜90%、特に好ましくは70〜85%である還元の程度によって定義される。
【0049】
この種のスパッタターゲットは、低い電気抵抗により特徴付けられ、この電気抵抗は好ましくは10Ohm・cm未満、好ましくは1Ohm・cm未満である。
【0050】
この場合、金属混和物は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%が、吸収層の化学量論的な不足を調節するために寄与する場合が有効であることが実証されている。
【0051】
スパッタリングの際に、ターゲット材料の還元可能な酸化物又は窒化物の成分は、酸素又は窒素を金属混和物に引き渡す。最終的に、堆積された層中で予め設定された酸素不足が調節される。ターゲット材料中の金属混和物の割合は、この金属混和物がこの不足の50%以上になるように設計される。
【0052】
特に、吸収層にとって、良好な結果は、ターゲット材料が、Nb及びMo並びにそれらの酸化物の少なくとも1つ、好ましくは化学量論的に不足する酸素含有量を有する酸化ニオブを有する場合に得られる。
【0053】
本発明によるスパッタターゲットの特に良好な実施態様は、Nb
2O
5-x及びMoからなり、x=0.01〜0.3であり、その際、Mo含有量は、好ましくは28〜60質量%、特に好ましくは36〜50質量%である。
【0054】
スパッタターゲットの、同様に適した別の実施態様の場合には、このスパッタターゲットは、Ti及びMo及びこれらの酸化物の少なくとも1つを有し、その際、Mo含有量は、好ましくは30〜65質量%、特に40〜55質量%である。
【0055】
スパッタターゲットの厚さにわたる還元の程度ができる限り不変である場合が好ましいことが判明している。従って、この化学量論的に不足の酸化物又は酸窒化物は、好ましくは、スパッタターゲットの厚さにわたり少なくとも5箇所で測定して、平均値に対して±5%(相対的)より大きくはばらつかない還元の程度を有する。
【0056】
この還元の程度は、ターゲット層の異なる厚さ領域から1gの質量の少なくとも5つの試料を取り出し、この試料に関して空気中で1000℃での再酸化の際の質量の増加を計測することにより測定される。この平均値は、測定された質量増加の算術平均として生じる。
【0057】
この均一な還元の程度は、スパッタリングプロセスの際の高いプロセス安定性及び再現可能な特性を有するスパッタ層の製造に寄与する。
【0058】
これに関して、金属混和物が金属含有量を定義し、この金属含有量は、スパッタターゲットの厚さにわたって少なくとも5箇所で測定して、平均値に対して±5%(相対的)より大きくはばらつかない場合に有効であることが実証された。
【0059】
本発明による層系の製造方法に関して、上述の課題は、冒頭に述べた種類の方法から出発して、本発明の場合に、本発明による酸素不足を有するスパッタターゲットを使用し、その際、化学量論的に不足する酸素含有量を有する酸化物又は酸窒化物からなる吸収層の堆積のために、スパッタ雰囲気に反応性ガスを酸素及び/又は窒素の形で、このスパッタ雰囲気中で最大10体積%、好ましくは最大5体積%の反応性ガス含有率が生じるように混和する方法により解決される。
【0060】
本発明による方法は、一方で僅かな反応性のスパッタ雰囲気と、他方で化学量論的に不足する酸化物又は酸窒化物からなるターゲットの使用の相互作用により特徴付けられる。堆積された層は、その化学組成において、使用されたターゲット材料の化学組成と本質的には異ならない。これは、スパッタプロセスの安定な実施及び堆積された層の特性の再現可能な調節を可能にする。
【0061】
このために、それぞれ理想的な化学量論比を基準として、スパッタターゲットの材料中の酸素及び窒素の割合が、吸収層の酸化物又は酸窒化物中の酸素及び窒素の割合と同じであるか
若しくは最大±20%異なる、又はそれよりも僅かに小さく、その際、スパッタターゲットの材料中のこの割合は、吸収層中の割合の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%である方法様式の特に好ましい実施態様も寄与する。
【0062】
全体としてのスパッタターゲットの材料、つまり金属混和物の若干の寄与を配慮した酸化物又は酸窒化物の相も、製造されるべき吸収層も、完全な化学量論的な材料と比較して、酸素又は窒素の不足を示す。本発明による方法の場合に、ターゲット材料中の酸素の不足は、吸収層中の酸素の不足よりも大きいか又は僅かに際立つだけであることが予定される。より正確に言うと、スパッタターゲットの材料中の酸素及び窒素の割合は、吸収層中の酸素/窒素の割合の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%である。
【0063】
これにより、ターゲット材料は、変化させずに又は僅かな酸化を伴うだけで、吸収層の化学量論的に不足の酸化物/酸窒化物に移行可能である。この場合、スパッタプロセスの際の所定の酸素損失が、吸収層の所望の化学量論的な不足の調節のための僅かな寄与を提供することができることに留意しなければならない。
【0064】
特に簡単な方法様式の場合には、反射防止層及び吸収層の堆積を、同じターゲット組成を使用して行い、この場合、反射防止層の堆積の際のスパッタ雰囲気が、吸収層の堆積の際のスパッタ雰囲気よりも高い反応性ガス含有量を有する。
【0065】
反射防止層の堆積の際の反応性ガスの添加は、この場合、反射防止層が誘電性となる程度に十分に高い。
【0066】
実施例
次に、本発明を図面及び実施例に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図2】この層構造の研磨断面の電子顕微鏡写真を示す。
【
図3】研磨断面の、最大に拡大したTEM写真を示す。
【
図5】この層系の、基板側から測定した、スペクトル透過率及び反射率のグラフを示す。
【
図6】金属スパッタターゲットを使用した、スパッタ装置中でのNbO
xスパッタ層の製造のための作業曲線を示す。
【0068】
図1は、本発明による、2つの層S1、S2からなる層系1を図式的に示す。この第1の層は、透明なガラスプレート3上に施された反射防止層S1であり、第2の層は、この反射防止層S1上に作製された吸収層S2である。
【0069】
これらの層S1及びS2は、それぞれ、異なる酸素不足を有する酸化物層からなる。この酸化物は、元素Nb、Ti、V、Mo、Wの少なくとも1つを有する。
【0070】
反射防止層S1の酸素含有量は、化学量論的な酸素含有量の少なくとも94%である。吸収層S2の酸素含有量はそれより少なく、かつ化学量論的な酸素含有量の65〜90%の範囲内にある。これらの層の酸素含有量は、EPMA測定(Electron Probe Microprobe Analysis)によって測定される。この場合、電子線を試料に向け、この場合に生じるX線を分析する。これは、標準に対して校正することができるため、相対的な測定誤差は約3〜4%であり、化学量論的に不足する層の酸素含有量は、約±1原子%で決定することができる。基板による測定誤差を受けないために、このため最も好ましくは>1μmの厚さを有する層を製造しなければならない。
【0071】
この層系は、観察者にとって、ガラスプレート3の観察方向でほぼ不透明であり、かつ同時にほとんど黒色である。
図2は、対応する層構造1を、表1の試料3の電子顕微鏡写真として示す。反射防止層S1の層厚は40nmであり、吸収層S2の層厚は90nmである。実施例の場合には、層S1は、Nb
2O
4.99の他にMoを5体積%(10.7質量%に相当)有するターゲットからスパッタリングし、S2は、Nb
2O
4.99の他にMoを20体積%(36.2質量%に相当)有するターゲットからスパッタリングした。
図3の、最大分解能でのTEM写真でも、金属堆積物は認識されない。
【0072】
この結果は、
図4において、層材料のX線回折図により確認される。具体的な回折線は認識されず、この材料はX線非晶質である。
【0073】
表1からは、使用されたスパッタターゲットのそれぞれの金属含有量及びMoを有するNb
2O
5からなる層系についての層S1及びS2の層厚d、並びに透過率Tv及び反射率Rv(被覆されていないガラス基板の前面側の反射率について4%を差し引く)についての測定値が明らかとなる。
【0074】
表1
【表1】
【0075】
Mo(質量%)についての注釈:ターゲット材料中のMo金属の含有量を基準とする。層S2中では、化学量論的に不足する酸化物Nb−Mo−O
xからなるが、Nb及びMoに関して正確には測定できない酸素の分配を有する非晶質構造が形成される。
【0076】
この層系の品質は、そのスペクトル反射率Rv、スペクトル透過率Tv及び電気的層抵抗RΥに関して評価した。
【0077】
この結果は「Q」の欄に示されている。この場合、品質評価の記号は次のように置き換えられる:
*) 層は、課せられた要求を満たしていない。
**) 層は、限界値特性を有する。
【0078】
この要求は、視感透過率Tv<20%(380〜780nmの波長領域で)、視感反射率Rv<6%、層抵抗RΥ<10kOhmである。
【0079】
次に、本発明による層構造の製造方法を、実施例を用いて詳細に説明する:
実施例1
25μmの平均粒度を有する、Nb
2O
4.99 89.3質量%及びMo 10.7質量%の粉末混合物を、偏心ドラムミキサー中で1時間強力に混合して、Nb
2O
4.99中のMo粒子の微細でかつ単分散性の分配が生じる。引き続きこの混合物を、75mmの直径及び15mmの高さの黒鉛型中に充填する。この円形板を、1200℃及び30MPaで還元条件下でのホットプレスにより理論密度の85%より高く緻密化した。こうして得られた構造は、Nb
2O
4.99マトリックスを有し、このマトリックス中に25μmの平均粒度を有するMo粒子が埋め込まれている。
【0080】
同様に、Nb
2O
4.99 64質量%及びMo 36質量%を有する第2のスパッタターゲットを製造する。この場合に、特に均一なMo分配を製造するために<10μmの粒度を有するMo粉末を選択した。
【0081】
これらのスパッタターゲットは、1Ohm・cm未満の比電気抵抗を有する。
【0082】
このスパッタターゲットの使用下で、二層の層構造S1、S2を、2cm×2cmのサイズ及び1.0mmの厚さを有するガラス基板3上にDCスパッタリングにより施す。ガラス基板3上に、まずモリブデンを10.7質量%含有する40nmの厚さの第1の層S1を施し、引き続きその上に、モリブデンを36質量%含有する110nmの厚さの第2の層S2を施す。
【0083】
この場合、スパッタリングパラメータを次に示す:
残留ガス圧力:2・10
-6mbar
プロセス圧力:アルゴン200sccmで、3・10
-3mbar
比カソード出力:5W/cm
2
層S1:ターゲット:Nb
2O
5+Mo 10.7質量%;d=40nm、付加的酸素フロー:10sccm
他の層S1:ターゲット:Nb
2O
5+Mo 36質量%;d=36nm、付加的酸素フロー:30sccm
層S2:ターゲット:Nb
2O
5+Mo 36質量%;d=110nm、付加的酸素フロー:10sccm
【0084】
「他の層S1」と「層S2」とを有する層系の場合には、2つの層の堆積のために、一つのスパッタターゲット組成が必要なだけである。異なる酸素の化学量論比は、この場合にスパッタリングの際の酸素フローによるだけで調節する。この場合、30sccm(これは、実施例中ではスパッタ雰囲気中での酸素13体積%である)の酸素フローは、工業的に問題なく運転できる酸素フローに相当する。
【0085】
この層S1は、この条件下でほぼ完全な酸化物であるが、S2は、ほぼターゲットの酸素不足を有する。完全に酸化物のターゲットから完全に誘電性の層を得るために、所定の条件下で、装置特異的な酸素フローが必要とされ、酸素の損失はポンプ供給によって補償する。必要な酸素フローは、第一次近似で、この層について使用されるターゲットの金属含有量(酸素不足)から生じる。使用された実験室装置及びNb
2O
4.99+Moにとって、近似的に次のことが当てはまる:
酸素フロー(sccm)=ターゲットのMo含有量(質量%)
【0086】
他のスパッタリング装置及びターゲット混合物については、まず僅かな試験により相応する値を測定し、酸素フローをそれに応じて適合させる。こうして製造された層構造は、特に次の特性によって特徴付けられる:
・ 層抵抗:RΥ=33kΩ/スクエアー
・ 視感反射率(被覆されていない基板側の測定による約4%の反射を差し引く):2.6%
・ 視感透過率:9.1%
【0087】
この層系の好ましい実施態様は、得られた層特性の品質評価と共に表1に挙げられている。
【0088】
製造された層構造1の吸収係数kappaは、波長550nmについて0.75である。
【0089】
従って、Nb
2O
5−Mo−層構造の全体の吸収率は、90%より高い。製造された層系の色を、CIELab色空間モデルを基礎として測定する。「CIELab色空間」の場合、測定されたスペクトル曲線を3つの座標に換算する。座標軸L*、a*、b*は、互いに直角である:
L*は、0(純黒)〜100(純白)の明度を表す。
a*は、赤緑軸である。負の値は緑であり、正の値は赤である。
b*は、黄青軸である。負の値は青であり、正の値は黄である。
【0090】
CIELab色空間において、a*は、−1.8〜+4の範囲内であり、b*は0〜−4の範囲内である。従って、この層系を用いて、被覆されていない基板側でのニュートラルな反射色が調節可能である。
【0091】
全体の層構造1について、約380〜780nmの波長でのスペクトル反射率及びスペクトル透過率を、JASCOのUV−VIS−NIR分光光度計V-570DSを使用して測定する。
【0092】
図5では、ガラス/Mo−NbOx/NbOxの層系についての、透過率T[%]及び反射率R[%]が測定波長λ[nm]に対してプロットされている。ガラス基板の反射防止されていない前面側での反射は、ここでは差し引かれていない。従って、透過率Tは、380nm〜780nmの広い波長領域にわたって20%未満である。この場合、測定された反射率は9%未満であるので、反射防止していないガラスプレートの前面側での反射に起因する4%の反射率値を差し引いた後で、実際にこの層系に帰する反射率は5%未満である。
【0093】
この層構造の、18〜24℃でかつ50〜60%の相対湿度で5日間にわたる貯蔵の際に、この光学特性は本質的には変化しなかった。Rv及びTvの変化は、それぞれ1%を下回っていた。
【0094】
こうして作製された層は、障害となる金属粒子を形成することなく、例えばKOH+H
2O
2からなる溶液中でのエッチングによって構造化することがでる。例えばスパッタエッチングのような他のエッチング法の場合であっても、障害となる粒子形成は示されない。
【0095】
実施例2
酸素化学量論比の光学特性及び電気特性への影響を調査するために、更なる試験において、金属ニオブからなるスパッタターゲットを、Leybold社のインラインスパッタリング装置(標示:A700V)中に取り付け、反応性DCスパッタリングにより、酸化ニオブ層を無アルカリガラス(AF32、サイズ50×50mm
2)上に約100nmの層厚で多様な酸素分圧で製造した。
【0096】
図6のグラフ中には、スパッタチャンバ内での、酸素供給量q
O2[sccm]に依存して、左側の縦軸に関して、発生器電圧U[V](上側の曲線U)の推移が、及び右側の縦軸に関して、酸素分圧p
O2[mPa](下側の曲線p
O2)の推移がプロットされている。従って、18〜20sccmの範囲内の酸素供給量が、60〜70mPaの酸素分圧に対応して、飽和(完全な酸化物のモード)及び発生器電圧の最大値を生じさせる。従って、堆積のために使用される金属ターゲットはこの酸素分圧で完全に反応して酸化ニオブになる。従って、化学量論的な酸素含有量を有する完全な酸化物のNb
2O
5層が得られる。20mPaを下回る酸素分圧に対応する15sccm未満の酸素供給量では、従って、本発明のために重要である、明らかに化学量論的に不足する酸素含有量を有する層を期待することができる。
【0097】
上述の測定に所属する測定点は、
図6のグラフ中に記入されていて、かつこの測定点は両方の書き込まれた測定曲線上にある。更に、比較のためだけに、この測定に分類される測定点が書き込まれていて、この場合に、供給された酸素の僅かな部分(<50体積%)が窒素に置き換えられている。この場合に測定された測定値は、N2で表されていて;この測定値は、例外なく、純粋な酸素の供給の際に得られた測定値の上方にある。反応性スパッタリング雰囲気中での窒素割合では、堆積された層の原子構造において酸素の一部が窒素原子又は分子に置き換えられているため、化学量論的に不足するターゲット材料の完全な反応を引き起こすために、いくらか少ない酸素供給量が必要である。スパッタリングプロセスのための作業点は、確かに所定の酸素フローの場合により高いカソード電圧方向にシフトする。
【0098】
Nbを基礎とする層を有する、
図6のいくつかの特徴的な試料について、表2中では、堆積された層に関する処置パラメータ(Dispositionsparamater)及びそれに属する測定結果がまとめられている。
【0099】
表2(Nbを基礎とする層)
【表2】
この場合、P=出力及びU=スパッタリング装置の発生器電圧、d=堆積された層厚を意味し;RΥは、測定された層抵抗を表す。
【0100】
この結果は、スパッタ雰囲気に窒素を添加することにより層抵抗が高められることを示している。しかしながら、この場合、窒素についての体積割合は、酸素の体積割合よりも低いのが好ましく、かつ窒素と酸素の体積割合は合計で10体積%未満であるのが好ましいことが明らかとなった。他方で、この層は透明になる。従って、層抵抗を向上するためにスパッタ雰囲気への窒素の添加は所定の範囲内でのみ合理的である。
【0101】
このことは、表3の選択された試料についての透過率曲線を示す
図7のグラフも証明している。Y軸に透過率T[%]が、250〜1250nmの範囲内の波長λ[nm]に対してプロットされている。
【0102】
従って、全ての層は、波長が増大すると共に透過率の増大を示す。120814_9の表示を有する試料は、ほぼ完全に透明である。この試料では、スパッタプロセスでの窒素添加が明らかに高すぎた。
【0103】
120814_7の表示を有する試料は、特に高い層抵抗(表3から明らか)の他に、全体の可視光は長領域にわたり30%未満の十分に低い視感透過率も示す。
【0104】
同様に、金属タングステンターゲット及び金属チタンターゲットから出発して層を製造した。これらの被覆パラメータは、チタンを基礎とする層については表3に、タングステンを基礎とする層については表4に記載されている。
【0105】
表3(Tiを基礎とする層)
【表3】
【0106】
表4(Wを基礎とする層)
【表4】
【0107】
この結果は、この材料系から、良好に吸収するが同時に高抵抗性である層を製造することが困難であることを示す。
【0108】
Nb、Ti及びWを基礎とするそれぞれの材料系において最適な測定試料が、表2、3及び4においてグレーで示されている。これらの吸収層に対して、Nb
2O
5:Mo10.7質量%からなる反射防止層を付け加えることにより反射防止加工した層系を製造した。この結果に対する測定結果は表5中にまとめられている。
【0109】
表5
【表5】
*) 層は、課せられた要求を満たしていない。
【0110】
この要求は、視感透過率Tv<20%(380〜780nmの波長領域で)、視感反射率Rv<6%、層抵抗RΥ<10kOhmである。
【0111】
表5は、低い反射率及び透過率並びに高い層抵抗に関する最良の特性が、系NbO
x:Mo10.7%+NbO
xで達成可能であることを示す。系NbO
x:Mo10.7質量%+WO
xN
y及びNbO
x:Mo10.7質量%+TiO
xN
yは、確かに十分に良好な光学特性を示すが、所定の条件において低すぎる層抵抗を示す。層厚d2の低下によりこれを高めることができるが、透過率は犠牲となり、明らかに高くかつそれにより大きすぎる透過率になる。