(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記稼働状態検出部によって検出された稼働状態のデータに基づいて生産設備の稼働状態を示す表示又は記録する稼働状態情報信号を出力する稼働状態情報信号出力部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生産管理装置。
【背景技術】
【0002】
通常、製品を生産する際には複数の工程を経る必要があり、工程毎に当該工程に必要な生産設備が設けられる。仮に、それら複数の工程のうちの一部において生産設備の故障や調整不良等によって進捗の遅れが生じると、それ以前の工程で製造された仕掛品が滞留したり、それ以降の工程に仕掛品が届くのが遅れたりするため、生産作業の全体に遅れが発生し、生産量が低下してしまう。また、低下した生産量を補うために時間外労働を増加させると、生産コストが上昇してしまう。そのため、それら複数の工程の各々における作業の状況を一元的に管理し、各工程において高い生産性を維持することは、製造業者が共通に有する希望である。もっとも、多くの人手を掛けたり高価な装置を使用したりすると、生産コストが上昇してしまうため、できるだけ人手を掛けずに安価な装置を用いて作業の管理を行うことが求められている。
【0003】
特許文献1には、生産工程毎に設けられたシグナルタワーを用いた生産管理装置(稼働状態確認装置)が記載されている。シグナルタワーは、個々の生産工程で用いられる生産設備に一般的に設けられているものであり、その生産設備の稼働状況を、光の色の相違や光の点滅の有無等で表示する。例えば、従業員がワークを生産設備にセットして加工開始ボタンを押し、生産設備が自動運転により加工を行い、その後従業員がワークを生産設備から出して次のワークをセットする、という一連の操作を繰り返す場合において、シグナルタワーは、生産設備が正常に自動運転をしている時には緑色(あるいは青色)の光を、従業員によるワークのセットや交換により生産設備が一時的に停止している時には黄色の光を、生産設備の異常により停止している場合には赤色の光を表示する。生産設備の休止時にはシグナルタワーは消灯する。また、生産設備が故障により停止した場合には赤色の光を常時点灯させる。
【0004】
特許文献1の生産管理装置では、一連の生産工程の各生産設備に設けられたシグナルタワーにおいて点灯あるいは点滅する光をビデオカメラや光センサ等の検出器により検出し、得られた検出信号を1つのサーバに取り込んで、それら検出信号から各生産設備の稼働状態を分析する処理を行う。例えば、生産管理装置は、検出信号に基づいて各生産設備の稼働率を算出し、管理者が有する携帯情報端末の画面に表示する。これにより、管理者は、複数の生産設備のうち稼働率の低いものを特定することができ、稼働率の低い生産設備に対して不具合の点検、消耗部品の交換、処理速度の調整等の対応を取ることができる。この生産管理装置は、個々の製造装置に一般的に設けられている既存のシグナルタワーをそのまま用いて、検出器及びサーバを追加するだけで構築することができるため、既存の装置に容易に取り付けることができると共に、コストを抑えることができるという特長を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際の製造現場では、生産設備自体には不具合が無いにも関わらず、特定の工程における稼働率が低下するという問題が生じる。このような問題は、生産工程に関与する従業員が未熟であることや、当該従業員の体調が悪いことにより生じることが多い。個々の従業員の熟練度や体調を把握して、そうした従業員への指導や援助を手厚く行えば、当該従業員の作業性を高め、それにより全体の生産性を高めることができる。しかし、特許文献1の装置では、管理者が生産性に不具合が生じていることを当該装置によって把握しても、それだけでは、生産設備の不具合に依るのか、従業員が未熟であることに依るのかを把握することができない。複数の工程によって生産が完結する場合には、従来はその生産成果の評価査定は全ての工程を終了して完成した製品の品質や数量を見て判断するしかなかった。また、作業速度が速い、あるいはトラブル対応能力が高い、という優秀な(熟練した)従業員を見出せば、人員配置の適正化に資するだけでなく、当該従業員の待遇を良くすることによって、本人や、それを成功事例として見た他の従業員の士気を向上させることもできる。しかし、従来の装置では、優秀な従業員を見出すことはできない。
【0007】
近年、多くの生産拠点が日本国外に移転されたことに伴って、現地において熟練労働者を必要な数だけ確保することが難しくなっているため、上記の各問題は日本国外の生産現場において顕著になっている。日本国外においてはその国における社会的常識、教育基盤、文化や価値観が日本と異なる場合も多く、指導教育のためには客観的で正確かつ理解しやすい情報が必要となる。日本国内においても、高度成長期に大量採用された労働者が退職しつつあるため、今後、日本国外と同様に、未熟な労働者を使用することによる問題や、外国人労働者を受け入れることによる問題が生じるおそれがある。
【0008】
ここまでは、製品が複数の工程を流れてゆくいわゆるライン生産方式の場合について述べたが、近年は、1人又は複数の従業員が、部品から製品を完成させるまでの全ての生産工程を1つの場所で行う「セル生産方式」あるいは「1人屋台生産方式」と呼ばれる方法も取られている。この場合にも、生産数量を増やすためには、複数のセルにおいて同じ作業を同時に行う必要がある。そうすると、セル毎に、従事する従業員の熟練度に起因して生産性の高低が生じてしまう。そのため、複数のセルを同時に管理する必要が生じる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、生産工程の能率を高めるために、従業員が関与する作業の状態を分析して生産性向上の妨げとなっている問題を管理者が解決する手助けとしたり、優秀な(熟練した)従業員を見出すことで人員配置の適正化や待遇改善に繋げることができる生産管理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る生産管理装置は、生産設備を複数有する生産システムにおいて生産管理を行う装置であって、
a) 前記複数の生産設備の各々につき、該生産設備の稼働状態を示す稼働状態信号を検出する稼働状態検出部と、
b) 前記複数の生産設備の各々につき、稼働状態を確認すべきことを示す稼働状態信号のデータを記録した要確認状態データ記録部と、
c) 前記複数の生産設備の各々につき、前記稼働状態検出部によって検出された稼働状態信号と、前記要確認状態データ記録部に記録された稼働状態信号のデータが合致する生産設備を特定する要確認生産設備特定部と、
d) 前記要確認生産設備特定部により特定された生産設備に関する情報を出力する要確認生産設備情報出力部と
を備えることを特徴とする。
【0011】
前記稼働状態信号には、生産設備が有するシグナルタワーの点灯状態を示す信号が挙げられる。すなわち、シグナルタワーの点灯や点滅の光、あるいはそれら点灯や点滅を制御する電気信号を前記稼働状態信号として用いることができる。あるいは、生産設備が有するセンサーや測定機器等からの出力信号、スイッチやシーケンサ等からの機器制御信号、ポンプ、モーター、ヒーター等の駆動電流や電圧を前記稼働状態信号として用いてもよい。
【0012】
前記稼働状態信号としてシグナルタワーの点灯状態を示す信号を用いる場合には、本発明に係る生産管理装置は、
a) 前記複数の生産設備の各々につき、シグナルタワーの点灯状態を検出する点灯状態検出部と、
b) 前記複数の生産設備の各々につき、稼働状態を確認すべきことを示す、一定時間内におけるシグナルタワーの点灯パターンのデータを記録した要確認状態データ記録部と、
c) 前記複数の生産設備の各々につき、前記点灯状態検出部によって検出された点灯状態に基づいて点灯パターンを求め、該点灯パターンと、前記要確認状態データ記録部に記録された点灯パターンのデータが合致する生産設備を特定する要確認生産設備特定部と、
d) 前記要確認生産設備特定部により特定された生産設備に関する情報を出力する要確認生産設備情報出力部と
を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで点灯状態検出部は、前記稼働状態検出部に該当する。要確認状態データ記録部は、一定時間内におけるシグナルタワーの点灯パターンのデータを、稼働状態を確認すべきことを示す稼働状態信号のデータとして記録する。要確認生産設備特定部は、点灯状態検出部で検出された点灯状態に基づいて点灯パターンを稼働状態信号として求め、この検出された稼働状態信号(点灯パターン)と、要確認状態データ記録部に記録された稼働状態信号(点灯パターン)のデータを対比する。
【0014】
本発明に係る生産管理装置によれば、要確認生産設備特定部が、稼働状態検出部で検出された稼働状態信号を、要確認状態データ記録部に記録された、稼働状態を確認すべきことを示す稼働状態信号のデータと対比することにより、稼働状態を確認すべき生産設備を特定することができる。
【0015】
要確認状態データ記録部には、生産設備からどのような稼働状態信号が出力されている(シグナルタワーの例では、シグナルタワーがどのような点灯パターンにある)ときに、生産設備の稼働状態を確認すべきか、ということを要確認生産設備特定部が特定するために必要なデータが記録されている。ここで、シグナルタワーの点灯パターン等の稼働状態信号が示す情報は、直接的には、生産設備の稼働状態を示しているのであって、従業員の作業能力を示すものではない。しかしながら、稼働状態信号が示す生産設備の稼働状態は、従業員の作業能力にも依存する。例えば、従業員が材料や半完成品(ワーク)を生産設備に取り付けその後の処理を設備が自動で行う場合、1個のワークに対してその生産設備が自動で処理を行うのに要する時間は、同じ作業を行っている限りほぼ一定であるため、従業員が問題なく作業を行うと、シグナルタワーは、自動処理による運転を示す緑色の光と、ワークの交換のための一時停止を示す黄色の光を交代でほぼ一定の時間間隔で交互に繰り返し点灯する。それに対して、未熟な従業員が作業を行うと、作業に時間を要する分だけ、シグナルタワーは黄色の点灯時間が熟練者による場合と比べて長くなったり、緑色と黄色の点灯のタイミングが不規則に変化したりする。従って、黄色の点灯時間が所定の長さを超えたり、緑色と黄色の点灯のタイミングが不規則に変化するという点灯パターンのデータを、稼働状態を確認すべきことを示すデータとして要確認状態データ記録部に記録しておけばよい。
【0016】
一方、例えば消耗品や工具の交換のための一時停止、あるいは休憩時間における停止など、生産設備の稼働状態が正常であって且つ熟練度や体調等の従業員に関する要因とは無関係に生産設備を一時的に停止させることもある。これら適正な行為や事象による停止は、予測可能な交換周期や就業規則に規定された休憩時間に従ったものであるため、従業員に関する要因による稼働状態と区別することが可能である。そこで、本発明に係る生産管理装置において、従業員に関する要因以外によって生じるシグナルタワーの点灯パターン等の稼働状態信号のデータを記録した従業員要因外稼働状態信号データ記録部(従業員要因外点灯パターンデータ記録部)を備え、前記要確認生産設備特定部において、前記稼働状態検出部(点灯状態検出部)によって検出された稼働状態信号(点灯状態に基づいて得られる点灯パターン)が従業員要因外稼働状態信号データ記録部(従業員要因外点灯パターンデータ記録部)に記録された稼働状態信号(点灯パターンのデータ)と一致する生産設備を、従業員に関する要因以外により所定の稼働状態にあると特定するようにしてもよい。この場合には、要確認生産設備情報出力部は、当該生産設備が従業員に関する要因以外で所定の稼働状態にあることを示す情報を出力するようにしてもよいし、従業員に関する要因に焦点を当てるために情報を出力しないようにしてもよい。
【0017】
稼働状態信号としてシグナルタワーの点灯状態を示す信号を用いる場合において、点灯状態検出部には、特許文献1と同様の、シグナルタワーにおいて点灯あるいは点滅する光をビデオカメラや光センサ等の検出器により検出するものを用いることができる。あるいは、シグナルタワーの点灯や点滅を制御する電気信号の電圧や電流を検出するものを用いてもよい。
【0018】
要確認生産設備情報出力部から出力する情報は、ディスプレイに表示してもよいし、音声その他の音や光等で管理者に通知するようにしてもよい。
【0019】
本発明に係る生産管理装置はさらに、前記複数の生産設備の各々に従業する従業員を特定する情報である従業員情報を記録した従業員情報記録部を備え、前記要確認生産設備情報出力部が、前記要確認生産設備特定部により特定された生産設備に関する従業員情報を前記従業員情報記録部から取得したうえで、該生産設備に関する情報と合わせて出力するようにしてもよい。これにより、確認を要する生産設備の情報と従業員情報を一緒に取得することができ、一元管理に資する。従業員情報には、従業員の氏名や従業員番号等が挙げられる。これら従業員を特定するために必要な情報に加えて、当該従業員の勤続年数、年齢、勤務履歴その他の経歴等の情報を付加してもよい。
【0020】
本発明に係る生産管理装置はさらに、前記稼働状態検出部によって検出された稼働状態(シグナルタワーの点灯状態を示す信号を用いる場合には、ここでは点灯パターンである必要はない)のデータに基づいて(生産設備の確認の要否を問わず)生産設備の稼働状態を示す表示又は記録する稼働状態情報信号を出力する稼働状態情報信号出力部を備えていてもよい。これにより、従業員情報と稼働状態の情報を一緒に取得することができ、一元管理に資する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る生産管理装置により、未熟な従業員が従事している可能性がある生産設備を管理者が把握することができ、当該従業員に対する指導を強化して生産性を高めることができる。また、管理者の主観ではなく生産管理装置による客観的な指標に基づいた指導を行うことができるため、従業員が指導に納得し易くなるうえに、給与や賞与等の待遇の査定に活かすことにより従業員の士気の向上につながる。さらに、要確認生産設備特定部よって確認が必要であると特定されることが少ない生産設備に従事する従業員を、能力の高い従業員と判定し、組織上指導的役割や管理者とすることにより、適正で効果的な組織改編を行うことも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明に係る生産管理装置の実施例として、稼働状態信号としてシグナルタワーの点灯状態を示す信号を用いる場合について説明する。その説明の前提として、生産設備に設けられたシグナルタワーの信号に基づいて得ることができる、生産設備の稼働状態に関する情報について詳述すると共に、それら情報に基づいて設定される要確認状態データについて説明する。ここでは、シグナルタワーの点灯状態が、以下のように生産設備の稼働状態を示している場合を例に説明する。
・緑色点灯:正常な自動運転中
・黄色点灯:自動運転終了後、次の自動運転開始までのワーク交換等のための一時停止中
・赤色点灯:異常停止中
・無点灯 :設備休止中
【0024】
(1) 1個の製品の各生産設備における処理時間
各生産設備では、多数の製品に対して1個ずつ順に処理を行っていくと、シグナルタワーは黄色と緑色が交互に点灯するという点灯パターンを示す。すなわち、黄色と緑色が1回ずつ点灯するのを1サイクルとして、1サイクル毎に1個の製品に対する処理が行われる。すなわち、各生産設備において、この1サイクルの時間を求めることにより、当該生産設備における処理に要する時間が求められる。
上記1サイクルの点灯のうち、緑色点灯は自動運転によるものであるため従業員に依らずに一定の時間となるのに対して、黄色点灯はその際に行われるワーク交換が従業員の手作業に委ねられる場合が多い。そのため、例えば標準的な熟練度である従業員が作業した場合に要する1サイクルの時間の上限値を予め定めておき、この上限値を超える時間範囲を要確認状態データとすることができる。
【0025】
(2) 手作業時間
(1)では黄色点灯と緑色点灯から成る点灯パターンを要確認状態データとして用いたが、黄色点灯の時間だけを要確認状態データとして用いてもよい。黄色点灯の時間は、自動運転の時間以外の、従業員が手作業で処理を行っている時間である。
【0026】
(3) ダウンタイム
生産設備が異常停止したことによりシグナルタワーが赤色点灯している場合や、黄色点灯であってもワーク交換に要する標準的な時間を超えて停止している場合には、生産設備が本来停止すべきではないにも関わらず停止していることを意味する。このような停止をしている時間を本明細書では「ダウンタイム」という。ダウンタイムTDは、赤色点灯の時間tr全てと、黄色点灯tyの時間からワーク交換や段取り換えに要する標準的な停止時間ty
aveを差し引いた時間の和、すなわちTD=tr+(ty-ty
ave)で表される。
ダウンタイムのうち赤色点灯の時間trは、多くの場合は従業員の熟練度には依存しないが、他の従業員と比較して長い場合には、従業員の未熟さによって、生産設備が異常停止したり、異常停止からの復帰に時間を要している可能性がある。また、時間(ty-ty
ave)は熟練度に依存している蓋然性が高い。従って、所定の値を超えた時間(ty-ty
ave)を要確認状態データとすることができる。また、ダウンタイムの合計時間や発生回数や総稼働時間に対する割合を算出し、設備間で比較することにより、保守改修のための優先順位や予算を適切に策定することができる。
【0027】
(4) 不良品発生の検知とカウント
前述のように、緑色点灯の時間が本来の自動運転に要する時間よりも短い場合には、自動運転が途中で停止してしまい、ワークが不良品となった可能性が高い。従って、点灯状態検出部で検出される緑色点灯の時間に基づいて、不良品が発生したことを検知することができる。また、不良品発生を検知した回数をカウントしておき、実際に不良品としてラインから外されたワークの数を照合することにより、誤って不良品が製品に混入するという事象が発生していないことの検証が可能になる。また、ラインから外した不良品をセンサで検知できるようにしておいた場合に、緑色点灯の時間に基づいて不良品発生の可能性が検出されてから、所定時間を経過しても当該センサによる検知がされなかったときには、従業員が不良品の発生に気付いていないか、又は処理の手順を間違えているおそれがある。この場合には、まず、緑色点灯が所定の時間以下である場合を要確認状態データとすることによって、要確認生産設備特定部において上記センサによる検知の有無を確認すべき生産設備であると特定したうえで、その特定の時から所定時間経過しても上記センサによる検知がされなかったときに、警告表示等を表示するとよい。
【0028】
不良品は、生産設備の故障やトラブルといった不具合、あるいは、材料の不具合等、従業員の熟練度とは無関係に発生することもある。ある従業員が従事する生産設備において、他の従業員が従事する生産設備よりも不良品の発生頻度が高い場合には、これら生産設備や材料の問題に起因している可能性もあるが、従業員による作業が不適切である可能性もある。これまでは設備の故障やトラブルしか記録に残されていないことも多く、人的原因による問題を検出することが困難であった。そこで、この発生頻度が所定値以上である場合を要確認状態データと設定し、要確認生産設備情報出力部から要確認生産設備情報が出力されたときに管理者が原因を確認することにより、人的原因であるか否かを特定することができる。
【0029】
(5) 生産数量のカウント
黄色と緑色が交互に点灯するサイクルの回数から、緑色点灯の時間に基づいて不良品の発生が検出された回数を差し引いた数を、当該生産設備において正常な処理を経た生産数量(を示す要確認状態データ)としてカウントする。この生産数量はそれ自体が生産管理上意味を持つが、以下に述べる各情報を得るために利用することができる。
【0030】
(6) 製品の生産に用いられた材料数の管理
各生産設備において、当該生産設備でカウントされた生産数量と不良品数の和と、直前の工程を行った生産設備においてカウントされた生産数量を対比する。本来ならば両者は一致するはずであるが、一致しない場合には不良品処理の手順を間違えていたり、不良品を紛失した可能性がある。従って、それら両者が一致しなかった場合を要確認状態とすることができる。要確認状態データは、生産数量のカウントに用いられる黄色と緑色が交互に点灯するサイクルの回数と、不良品の発生を検出する緑色点灯の時間に基づいて定められる。経営管理上、材料の入庫と製品の出庫は正確に管理記録される必要があるが、上記の2つの数量が全ての生産設備において一致していれば、工程間在庫も含めて常時適切な管理状態であることを把握することができる。
【0031】
(7) 生産数量の予測
上記(1)〜(5)で得られるデータに基づいて、不良品発生を加味した各生産設備における平均生産所要時間を従業員毎に求めることができる。そして、実際に従事する従業員の組み合わせに応じて、各従業員の平均生産所要時間から、生産ライン全体における生産数量を予測することができる。単に設定上の生産所要時間をもとに割り出していた従来の方法と比較して、従業員による手作業時間の違いや設備の故障やトラブルなども加味するため正確な予測が可能である。
【0032】
(8) 工具や消耗部品の寿命の計測や予測
シグナルタワーが示す情報に、工具や消耗部品の交換、及び/又は工具や消耗部品のトラブルに関する説明を付加し、当該情報を示すシグナルが点灯する間隔から、工具や消耗部品の寿命を計測することができる。この計測結果に基づいて、工具や消耗部品の交換を要する時期を予測することができ、事前に計画的にそれらの交換を行うことができるようになる。交換を生産負荷の低い時、例えば休憩時間や夜間や休日に実施すれば、生産稼働率に与える影響を少なくすることができる。
【0033】
(9) ボトルネック工程の検出
各生産設備における平均生産所要時間を対比し、他よりも長時間を要している生産設備があれば、その生産設備がボトルネックになっていることがわかる。このようなボトルネックが生じると、それ以降の生産設備に円滑にワークが流れて来なくなり、全体の生産効率が低下してしまう。そこで、当該生産設備に熟練度の高い従業員を配置する、という対策を取ることができる。
【0034】
(10) バッファ(工程間在庫)管理
各生産設備における前工程からのワークの待ち時間を、当該生産設備と前工程の生産設備における平均生産所要時間の差から解析することができる。ここで、工程間のワークの在庫が十分にあれば、前工程の生産設備において未熟な従業員に交代したとしても、すぐには在庫切れにはならずに待ち時間を無くすることができる。また、慢性的にワークが不足しておりボトルネックとなっている前工程の完了を待たなくてはならない工程を検出することで、前工程に生産設備の増設あるいは従業員の増員を行うことで供給能力を高めたり、前工程だけ残業延長したりすることによる対応が可能となる。
【0035】
(11) 作業実績の記録
生産設備を撮影するビデオカメラ等、附属の撮影機器を追加したうえで、要確認生産設備特定部において熟練度に問題がある可能性がある従業員が従事する生産設備を特定した場合に、当該撮影機器を用いて当該生産設備の稼働状態を映像で記録してもよい。管理者は、この映像を、従業員の熟練度に問題があるのか、あるいはそれ以外の問題があるのかを判断する材料として用いることができる。映像による工程の記録はこれまでも可能であったが、要確認生産設備を特定して当該生産設備の映像だけを記録することにより、管理者が映像を確認するのに要する時間を短縮し、問題の検出・確認をより迅速に行うことができる。
【0036】
ここまでに述べた生産設備の稼働状態に関する情報から、従業員の勤務状態に関する以下の(a)〜(e)の分析を行うことができる。管理者は、確認を要すると特定された生産設備と、当該生産設備を担当する従業員の情報を照合することにより、当該従業員について熟練度が低い可能性があり確認を要すると特定することができる。ここで上述の従業員情報記録部を備える構成を用いれば、この特定も自動で行うことができる。このように特定された従業員について下記の分析を行うことにより、当該従業員の熟練度に問題があるのか、装置の不具合や従業員の体調不良等の熟練度以外の要因で問題が生じているのかを確認することができる。
【0037】
(a) 当該従業員の現在の勤務状況からの判断
シグナルタワーの点灯/消灯に基づいて、従業員が実際に現場で作業に当たっているか、あるいは体調不良等により一時的に現場を離れたりしていないか、確認することができる。また、処理時間や手作業時間が、他の従業員を含めた平均値と比較して長い場合には熟練度に問題があり、当該従業員自身の平均値と比較して長い場合には体調不良等が考えられる。また、ダウンタイムは、異常状態の発生頻度や、異常状態からの復帰に要する時間を反映しているため、熟練度の判断に用いることができる。
【0038】
(b) 過去の一定期間内の勤務履歴からの判断
シグナルタワーの点灯/消灯に基づいて、作業開始・終了・休憩入りの時刻を判定し、記録しておく。これら過去の記録と比較して乖離が見られれば、従業員の体調不良等の可能性があることを知ることができる。
【0039】
(c) 本発明に係る生産管理装置以外からの情報の加味
(a), (b)の情報に加えて、勤務規定で定められた勤務時間やタイムカードの記録等、生産管理装置以外からの情報を加味することにより、熟練度の判断の確度を高めることができる。
【0040】
(d) 過去の一定期間内の労働成果の記録
各従業員の処理時間、生産数量、及びダウンタイムのうち異常時からの復帰や段取り換えに要する時間を平均値と比較した結果を、作業実績として記録する。管理者がこの記録を確認することにより、熟練度の判断の材料とすることができる。
【0041】
(e) 異常時やワークの交換作業時の所要時間の確認
異常時やワークの交換作業時の停止時間を計測し、設定した標準時間や平均時間と比較することにより、復旧までの従業員のスキルや手順の正しさを確認する。
【0042】
また、本発明に係る生産管理装置により得られる従業員情報と、下記の(f)の情報を組み合わせることにより、より適切な従業員の管理を行うことができる。
【0043】
(f) 将来の一定期間内の労働成果の予測
(b)〜(d)で述べた各従業員の過去の実績に関するデータに基づいて、将来の生産数量や所要時間を予測することができる。また、受注した数量と時間内労働により生産可能な数量を比較することにより、必要となる残業時間及び残業代を予測することができる。さらには、過去のデータに基づいて、人員の配置や工程間在庫を見直すことにより、ライン全体の生産能力を高め、生産コストを低下させることができる。
【0044】
以上のように、本発明に係る生産管理装置を用いて、客観的な根拠に基づいて従業員の熟練度を推測することができるため、従業員の給与や賞与の査定を正確、且つ従業員の納得性が高く行うことができる。また、このように客観的な評価が行われることにより、従業員が管理者の指導や指示を待たずとも適切な対策を自主的に取り、自律的に自己管理を行うことが期待できる。さらには、従業員の作業能力や得意分野に応じて、従業員の配置を適正化することができる。これらの効果によって、高い生産性を維持しながらも管理職を減らすことができ、工場の生産コストを抑制することもできる。海外進出の一般的となっている現代において、少ない管理者での効率的な工場運営が海外進出での製造現場には求められており、本発明に係る生産管理装置はそうした需要に応えるものである。
【実施例】
【0045】
次に、
図1〜
図5を用いて、本発明に係る生産管理装置の具体的な構成の例を説明する。以下ではまず、
図1を用いて、本実施例の基本的な構成として、生産設備の稼働状態に関する情報を示すシグナルタワーの信号に基づいて、確認を要する生産設備を特定するために必要な構成及び動作を説明する。次に、
図3を用いて、確認を要する生産設備の情報と、従業員情報や生産設備の稼働状態の情報を合わせて得るための構成を説明する。
【0046】
図1は、本実施例の生産管理装置10の要部の概略構成を示す図である。生産管理装置10は、既存の(すなわち、生産管理装置10が設けられていない)生産システム20に追設されるものである。生産システム20は、複数の生産設備21を有しており、各生産設備21には1個ずつ、シグナルタワー22が設けられている。生産設備21間にはベルトコンベアによる輸送部23が設けられており、1つの生産設備21において製品に所定の工程による作業が施されると、輸送部23によって、次の工程を行う生産設備21に当該製品が輸送されるようになっている。
【0047】
各シグナルタワー22には、
図2に示すように緑色灯22G、黄色灯22Y及び赤色灯22Rの3色の色灯が設けられている。各シグナルタワー22は、対応する生産設備21が正常な自動運転中であるときには緑色灯22Gが点灯し、自動運転終了後であって次の自動運転開始までのワーク交換等のために一時停止中には黄色灯22Yが点灯し、不具合によって生産設備21が停止している場合には赤色灯22Rが点灯する。生産設備21が休止中の場合には、3色の色灯はいずれも消灯している。
【0048】
生産管理装置10は、点灯状態検出部12、要確認状態データ記録部13、要確認生産設備特定部14、要確認生産設備情報出力部15、表示装置(ディスプレイ)16、及び情報記録部17を有する。以下、各部の詳細を説明する。
【0049】
点灯状態検出部12は、光センサ群121及び光センサ信号解析部122から構成される。光センサ群121は、複数のシグナルタワー22にそれぞれ1組ずつ設けられている。1組の光センサ群121は、シグナルタワー22の緑色灯22G、黄色灯22Y及び赤色灯22Rに対向して1個ずつ設けられた、3個の光センサ121G、121Y及び121Rから成る(
図2)。各光センサ121G、121Y及び121Rは、対向する色灯が点灯したときに、光を感知し、電気信号を光センサ信号解析部122に送信する。光センサ信号解析部122は、各光センサ群121の光センサ121G、121Y及び121Rからの電気信号に基づいて、複数の生産設備21の各々について、その時点においてシグナルタワー22の緑色灯22G、黄色灯22Y及び赤色灯22Rのうちのいずれが点灯しているかを解析し、当該解析結果を随時、要確認生産設備特定部14に送信する。点灯状態検出部12と要確認生産設備特定部14は有線で接続してもよいし、無線で接続してもよい。なお、点灯状態検出部12には、光センサ以外に、ビデオカメラを用いてもよい。ビデオカメラを用いる場合には、シグナルタワー22を撮影したうえで、画像解析により点灯状態を検出する。また、点灯状態検出部12には、シグナルタワー22の各色灯を点灯させるための電気信号を検知するものを用いてもよい。
【0050】
要確認状態データ記録部13は、生産設備21毎に、要確認状態データを記録したものである。不正常状態データ範囲としては、上記(1)〜(6)で説明したものが挙げられる。
【0051】
要確認生産設備特定部14は、点灯状態検出部12から電気信号として送信される各生産設備21におけるシグナルタワー22の点灯状態を示すデータから点灯パターンを求め、前記要確認状態データ記録部13に記録されている要確認状態データの範囲内にあるか否かを判定する。そして、要確認状態データの範囲内にある点灯パターンのデータがあれば、当該データに対応する生産設備を特定する。
【0052】
要確認生産設備情報出力部15は、要確認生産設備特定部14により特定された生産設備を示す情報を表示するための電気信号を表示装置16に、無線信号を管理者が所持する携帯情報端末Mに、それぞれ送信する。表示装置16や携帯情報端末Mに表示する情報は、特定された生産設備を示す情報情報だけであってもよいが、通常は、後述のように、それ以外の管理情報と一緒に表示する。さらに、要確認生産設備情報出力部15は、特定された生産設備を記録するよう、情報記録部17に信号を送信する。
【0053】
なお、ここまでに述べた各部のうち、光センサ信号解析部122及び要確認生産設備特定部14はコンピュータの中央演算装置により実現され、要確認状態データ記録部13及び情報記録部17は、ハードディスク等の記録装置により実現される。
【0054】
ここまでは、要確認生産設備を特定するための構成を説明したが、これらの構成に加えて、各生産設備に従事する従業員に関する情報や、それ以外の生産設備に関する種々の管理情報を得ることができる。以下、
図3を用いて、従業員情報やその他の管理情報を得ることができる生産管理装置10Aについて説明する。
【0055】
生産管理装置10Aは、これまでに述べてきた構成の他に、
図3に示すように、稼働状態解析部34、稼働状態情報信号出力部351及び従業員情報記録部371を有してもよい。稼働状態解析部34は前述の要確認生産設備特定部14を、稼働状態情報信号出力部351は前述の要確認生産設備情報出力部15を、それぞれ含む。また、従業員情報記録部371は、前述の情報記録部17の一部に含まれる。
【0056】
従業員情報記録部371は、生産設備21毎に、担当する従業員を特定する情報である氏名及び習熟度指数が記録されている。習熟度指数は、管理者が従業員毎に入力する数値であり、本実施例では習熟度が低い方から1〜5の5段階の数値で表されている。これら氏名及び習熟度指数の他に、従業員の従業員番号、勤続年数、年齢等を従業員情報記録部371に記録してもよい。なお、従業員情報記録部371は最低限、従業員を特定するのに必須な情報(上の例では従業員の氏名又は従業員番号のうち、いずれか一方)が記録されていればよく、勤続年数、年齢、習熟度指数は必須ではない。なお、習熟度指数は稼働状態解析部で解析された結果に基づいて変更され得る値であるため、本実施例では従業員情報記録部371を情報記録部17の一部としたが、このような変更を行わない場合には、従業員情報記録部371を情報記録部17から独立して設けてもよい。
【0057】
情報記録部17には装置の稼働状態のログ、予想生産数量、工具や消耗部品の寿命の予測、ボトルネック工程や工程間在庫に関する情報等が記録される。さらに情報記録部17には、不良品発生の検知の基準や、生産数量あるいは工具等の寿命を判定するための基準等が記録されている。稼働状態解析部34では、要確認生産設備特定部14で行われる解析の他に、生産設備の稼働状態に関する各種の解析が行われる。信号出力部35では、要確認生産設備に関する情報と共に、それ以外の従業員情報や生産設備に関する情報を示す信号が出力される。これらの構成により、要確認生産設備に関する情報と共に、熟練度等の従業員に関する情報や生産設備の稼働状態に関する全般的な情報を管理者に提供することができる。
【0058】
図4に、表示装置16の画面161に表示される情報の一例を示す。この例では、左端に各生産設備21の名前である生産設備名41が複数、縦方向に並んで表示される。各生産設備21について、名前の右に後述のステータス情報42が表示され、ステータス情報42の右に、当該生産設備21に従事する従業員の氏名及び習熟度指数から成る従業員情報43が表示される。そして、熟練度等の確認を要する従業員情報43の右に、「要確認!」の文字を点滅させる(要確認従業員情報44)。
【0059】
図5に、生産管理装置10Aにさらに従業員要因外点灯パターンデータ記録部53を追加した生産管理装置10Bの構成を示す。従業員要因外点灯パターンデータ記録部53には、消耗品や工具の交換のための一時停止を示す所定の黄色の灯火が所定時間連続的に点灯した状態や、休憩時間においてシグナルタワーが所定時間消灯した状態を示すデータが収容されている。要確認生産設備特定部14では、点灯状態検出部12で検出された点灯状態から求められるシグナルタワーの点灯パターンが従業員要因外点灯パターンデータ記録部53に記録されているデータに一致するときは、その旨を信号出力部35から出力させるようにしてもよいし、従業員の行為が要因ではないため要確認生産設備情報を出力しないようにしてもよい。
【0060】
ここまで、稼働状態信号としてシグナルタワーの点灯状態を示す信号を用いて生産管理を行う場合を例として説明したが、それ以外にも、例えば、生産設備が有するセンサーや測定機器等からの稼働状態の測定データを示す出力信号を稼働状態信号として用いる場合にも、同様の方法で生産管理を行うことができる。あるいは、それ自体は稼働状態の測定を目的とした信号ではない、スイッチやシーケンサ等からの機器制御信号や、ポンプ、モーター、ヒーター等の駆動電流又は電圧を稼働状態信号として用いても、上記同様の方法で生産管理を行うことができる。