(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109487
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】落下物防護装置及びその補強方法
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】22
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-85855(P2012-85855)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-217020(P2013-217020A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(72)【発明者】
【氏名】小関 和廣
(72)【発明者】
【氏名】白石 幸吉
(72)【発明者】
【氏名】高森 潔
【審査官】
石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4630792(JP,B2)
【文献】
特許第2916633(JP,B2)
【文献】
特開2000−273828(JP,A)
【文献】
特開2001−348818(JP,A)
【文献】
特開2011−080225(JP,A)
【文献】
特開2006−322321(JP,A)
【文献】
特開2010−168833(JP,A)
【文献】
特開2012−002014(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3143816(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/00− 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面からの落下物を収容すべく、斜面に立設された支柱と、両端部が前記斜面の側方に固定されると共に前記支柱を経由して斜面幅方向に懸架される主横ロープと、前記支柱の頭部から斜面下方に吊り下ろされる縦主ロープと、前記主横ロープに取り付けられる防護網と、を備えた落下物防護装置であって、
前記防護網の外側または/及び内側に、前記落下物との衝突によって生じる衝撃エネルギーを吸収するための衝撃吸収部材であって、両端部分のみが前記主横ロープ又は縦主ロープに固定され、前記主横ロープの破断荷重に比べて小さい破断荷重を有する衝撃吸収部材を設けたことを特徴とする落下物防護装置。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材が、その中間部において、前記防護網に対して取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の落下物防護装置。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材として弾性係数の小さいロープ材が用いられ、且つその弾性係数は、前記主横ロープまたは横ロープの弾性係数に比べて小さい値に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の落下物防護装置。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材が、ロープ材と、このロープ材に接続された緩衝装置とで構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の落下物防護装置。
【請求項5】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材が、前記防護網の上部最寄りに配置されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の落下物防護装置。
【請求項6】
前記縦主ロープに交差させつつ前記横ロープを上下多段に設け、
前記衝撃吸収部材としてのロープ材は、前記主横ロープと横ロープの段間に又は横ロープと横ロープの段間に配置されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の落下物防護装置。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材が、前記主横ロープまたは横ロープに対して斜めに配置されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の落下物防護装置。
【請求項8】
前記衝撃吸収部材が、前記防護網の外側にて設けられ、
前記主横ロープ、横ロープ及び縦主ロープで囲まれた区画または横ロープ及び縦主ロープで囲まれた区画のうち、少なくとも一つの区画において、その対角線上に配置されていることを特徴とする請求項7に記載の落下物防護装置。
【請求項9】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材が複数本設けられると共に、これらのロープ材が交差して配置されていることを特徴とする請求項8に記載の落下物防護装置。
【請求項10】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材が、前記主横ロープまたは横ロープに対して平行に配置されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の落下物防護装置。
【請求項11】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材が、落下物防護装置における主横ロープ、横ロープ、縦主ロープ、補助縦ロープに添って設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の落下物防護装置。
【請求項12】
斜面からの落下物を収容すべくこの斜面に立設された支柱と、両端部が前記斜面の側方に固定されると共に前記支柱を経由して斜面幅方向に懸架される主横ロープと、前記支柱の頭部から斜面下方に吊り下ろされる縦主ロープと、前記主横ロープに取り付けられる防護網と、を備えた落下物防護装置の補強方法であって、
前記防護網の外側または/及び内側に、前記落下物との衝突によって生じる衝撃エネルギーを吸収するための衝撃吸収部材であって、両端部分のみが前記主横ロープ又は縦主ロープに固定され、前記主横ロープの破断荷重に比べて小さい破断荷重を有する衝撃吸収部材を設けることを特徴とする落下物防護装置の補強方法。
【請求項13】
前記衝撃吸収部材を、その中間部において、前記防護網に対して取り付けることを特徴とする請求項12に記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項14】
前記衝撃吸収部材として弾性係数の小さいロープ材を用い、且つその弾性係数を前記主横ロープまたは横ロープの弾性係数に比べて小さい値に設定したことを特徴とする請求項12又は13に記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項15】
前記衝撃吸収部材を、ロープ材と、このロープ材に接続した緩衝装置とで構成したことを特徴とする請求項12〜14の何れかに記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項16】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材を前記防護網の上部最寄りに配置したことを特徴とする請求項12〜15の何れかに記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項17】
前記縦主ロープに交差させつつ前記横ロープを上下多段に設け、
前記衝撃吸収部材としてのロープ材は、前記主横ロープと横ロープの段間に又は横ロープと横ロープの段間に配置したことを特徴とする請求項12〜16の何れかに記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項18】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材を前記主横ロープまたは横ロープに対して斜めに配置することを特徴とする請求項12〜17の何れかに記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項19】
前記衝撃吸収部材を前記防護網の斜面側でない前記防護網の外側面に沿わせて設け、前記主横ロープ、横ロープ及び縦主ロープで囲まれた区画または前記横ロープ及び縦主ロープで囲まれた区画のうち、少なくとも一つの区画において、その対角線上に配置することを特徴とする請求項18に記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項20】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材を複数本設けると共に、それらロープ材を交差させて配置することを特徴とする請求項19に記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項21】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材を前記主横ロープまたは横ロープに対して平行に配置することを特徴とする請求項12〜17の何れかに記載の落下物防護装置の補強方法。
【請求項22】
前記衝撃吸収部材としてのロープ材を落下物防護装置における主横ロープ、横ロープ、縦主ロープ、補助縦ロープに添わせて設けることを特徴とする請求項12〜16の何れかに記載の落下物防護装置の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面からの落下物を収容すべく、この斜面の正面側に設けられたポケット式の防護網を備える落下物防護装置およびその補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、山間を走る道路を落石や雪崩から防ぐポケット式の落石防護網が知られている。
この落石防護網は、斜面の中腹に複数の支柱を立設すると共に、これら支柱の頭部を経由して斜面幅方向に横ロープを複数段張り渡し、さらに、斜面上方からの落石を収容すべく、最上段の横ロープから金網と縦ロープを吊り下ろして斜面正面側にポケット状の落石収容部を形成して構成されている。
【0003】
また、上記した落石防護網の改良例として、特許文献1に示す落石防護ネット構造が知られている。
この構造では、
図12に示すように各箇所に使用するロープ100の端部に衝撃吸収用の緩衝金具101を組み入れ、この緩衝金具101を介してロープ100を斜面上のアンカー体102に固定し、落石に伴いロープや金網に過度の荷重が掛かったときには、この緩衝金具101によって落石の衝撃を和らげ、ロープ及び金網の破損を防止している。
【0004】
また、本出願人の過去の出願によれば、弾性係数の小さいエネルギー吸収型の緩衝ロープを横ロープの両端に連結し、この緩衝ロープを介して横ロープをアンカー体に固定することで、横ロープ及び防護網に加わる落石時の衝撃エネルギーを緩衝ロープによって吸収する構造が開示されている(特許文献2)。
【0005】
ここでエネルギー吸収型の緩衝ロープとしては、本出願人等が過去に出願したオーステナイトを含有するロープ等を例示できる(特許文献2)。
このロープは、たとえば、成分比(C:0.001%〜0.15%、Si:0.01%〜1.5%、Mn:0.3%〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Cr:14.0%〜26.0%、Ni:86.0%〜22.0%、N:0.02%以下、残部実質上Fe)等の軟質ステンレス線からなる鋼素線を伸線して撚り加工した後、このロープをオーステナイト生成熱処理して得たロープであり、十分な強度を保有するとともに、非常に大きなエネルギー吸収能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録3143816号公報
【特許文献2】特開2011−080225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した衝撃吸収能力を有する各種の落石防護装置によれば、アンカー体とロープとの間に緩衝金具若しくは緩衝ロープを組み入れ、防護網に作用する衝撃エネルギーを、ロープを介してこれら緩衝金具及び緩衝ロープに逃がして吸収させている。すなわち、衝撃エネルギーをロープで一旦全て受け止めた後、その受け止めた衝撃エネルギーを、ロープを介して緩衝金具及び緩衝ロープに逃がし吸収している。
【0008】
このため過度の衝撃がロープに加わると、ロープは衝撃エネルギーを緩衝金具等に伝達する間もなく損傷してしまい、被災の程度によっては防護網及びロープ一式を含む落石防護装置全体の総交換が必要になる。
また、防護網から離れた箇所に緩衝材を設置すると、落下物の衝突エネルギーが緩衝材まで伝達される間もなく防護網が破損してしまう場合もある。
【0009】
本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたもので、衝撃エネルギーの吸収率を高め、被災時にも必要最小限の部材交換のみで対応可能な落下物防護装置及びその補強方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、本発明は次のように構成される。
斜面からの落下物を収容すべくこの斜面に立設された支柱と、両端部が前記斜面の側方に固定されると共に前記支柱を経由して斜面幅方向に懸架される主横ロープと、前記主横ロープに取り付けられる防護網と、を備えた落下物防護装置であって、
前記防護網の外側または/及び内側に、前記落下物との衝突によって生じる衝撃エネルギーを吸収するための衝撃吸収部材を設けたことを特徴とする。
【0011】
このように構成された本発明では、防護網に接するように衝撃吸収部材を設けたので、落下物との衝突に伴って生じる衝撃エネルギーを、前記防護網と衝撃吸収部材との両方が、ほぼ同時に吸収する。すなわち、本発明は防護網が設置された範囲内において、その衝撃エネルギーを吸収し、この作用によって横ロープや縦ロープ等の各構成部材に対する衝撃エネルギーの伝播を抑制する。ここで「防護網に接するように衝撃吸収部材を設けた」とは、防護網と衝撃吸収部材が接触している状態と、わずかな間隙をもって配される場合とを含む。
【0012】
また、自身の剛性に依存して防護網を支える主横ロープまたは横ロープと、衝撃吸収能力を有する衝撃吸収部材とを併用することで、主横ロープまたは横ロープに加わる負荷が減少するので、この点においても落下物防護装置の強度を高めることができる。すなわち、衝撃吸収部材が衝撃エネルギーを吸収するため、主横ロープまたは横ロープの実質的な許容荷重を大きく確保できる。
【0013】
なお、衝撃吸収部材は、新設の落下物防護装置のみならず、既設の落下物防護装置に対してもその補強として有用である。すなわち、本発明に係る落下物防護装置の衝撃吸収構造及びその補強方法は、新設及び既設問わず適用可能である。
【0014】
また、前記衝撃吸収部材として弾性係数の小さいロープ材が用いられ、且つその弾性係数は、前記主横ロープまたは横ロープの弾性係数に比べて小さい値に設定されている構成でもよい。
【0015】
この構成では、主横ロープまたは横ロープに比べて弾性係数の小さいロープ材を衝撃吸収部材として使用することができる。つまり、伸び易くエネルギーを吸収し易いエネルギー吸収型のロープ材を採用することが可能である。よって、衝撃作用時には、この衝撃吸収部材としてのロープ材が主横ロープまたは横ロープに優先して衝撃エネルギーを吸収する。
【0016】
また、前記衝撃吸収部材の破断荷重は、前記主横ロープまたは横ロープの破断荷重に比べて小さい値に設定されている構成でもよい。
【0017】
また、前記衝撃吸収部材が、ロープ材と、このロープ材に接続された緩衝装置とで構成されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、衝撃エネルギーを吸収するための緩衝装置をロープ材に接続し、この緩衝装置によってロープ材に作用する衝撃エネルギーを吸収する。なお、緩衝装置はアンカー体に固定されておらず、緩衝装置による衝撃エネルギーの吸収はポケット状の落石収容部内において行われる。
【0019】
なお、前記ロープ材における単位メートルあたりのエネルギー吸収量は、例えば、8kJ以上に設定するとよい。このような設定にすれば、通常、想定し得る規模の落石等に対して概ね対応できる。
【0020】
また、前記衝撃吸収部材としてのロープ材は、前記防護網の上部最寄りに配置されていることが望ましい。ここで防護網の上部とは、ポケット状をなす収容部の入り口に相当し、この入り口において落下物のエネルギーを早期に消費させる。
【0021】
また、前記支柱を経由して斜面幅方向に主横ロープを懸架し、前記支柱から斜面下方に縦主ロープを吊り下ろすと共に、これら縦主ロープに交差させつつ前記横ロープを上下多段に設け、
前記衝撃吸収部材としてのロープ材は、前記主横ロープと横ロープの段間に又は横ロープと横ロープの段間に配置してもよい。
【0022】
すなわち、主横ロープと横ロープの段間または横ロープと横ロープの段間は防護網が撓み易く、この段間に衝撃吸収部材としてのロープ材を設けることで、ロープ材のエネルギー吸収時における伸びや揺れを妨げることなくその衝撃吸収能力を発揮させることができる。また、衝撃吸収部材を配置することで衝撃エネルギーが吸収されるため、他の部分に比べて面強度の弱い段間の損傷も抑制される。
【0023】
また、前記衝撃吸収部材としてのロープ材が前記主横ロープまたは横ロープに対して斜めに配置された構成でもよい。
この構成では、衝撃吸収部材としてのロープ材を斜めに配置している。このため、ロープ材の実長を防護網の全幅に比べて長く確保でき、よって、このロープ材におけるエネルギーの吸収量を増やすことができる。
【0024】
また、前記衝撃吸収部材としてのロープ材が、前記主横ロープ、横ロープ及び縦主ロープで囲まれた区画または横ロープ及び縦主ロープで囲まれた区画のうち、少なくとも一つの区画において、その対角線上に配置された構成でもよい。
なお、ここで区画とは、主横ロープ、横ロープ及び縦主ロープで四方が囲まれた1区画または横ロープ及び縦主ロープで四方が囲まれた1区画のみならず、隣接した幾つかの区画を組み合わせた複数区画からなる区画でもよいことをいう。
【0025】
さらに、落下物の衝突位置を、最上段の横ロープとこれに隣接する横ロープ、これらの間の縦ロープにより形成される一区画のみに限定し、衝撃吸収部材としてのロープ材を、この範囲内において、落下物が衝突する内側ではなく外側に、交差させるようして設置することが好適である。
【0026】
このようにすれば、金網の吸収エネルギーを超える落下物の衝突エネルギーが発生したときに、顕著な衝撃吸収効果が発揮される。すなわち、金網の吸収エネルギーを越える落下物の衝突エネルギーが生じると、先ず、金網が外側に撓み、これがエネルギー吸収が可能なロープ材に伝達される。このとき、ロープ材の破断荷重付近での伸びにより、金網の吸収エネルギーを超える落下物のエネルギーを吸収することができる。
また、落下物が衝突する可能性が最も高い部分にのみ、衝撃吸収部材を設置するので効率的である。
【0027】
また、前記衝撃吸収部材としてのロープ材が複数本設けられると共に、それらロープ材が交差して配置されている構成であってもよい。
この構成では、衝撃吸収部材としてのロープ材が交差して設けられているため、その交点における衝撃エネルギーの吸収量を他の部分に比べて増やすことができる。
【0028】
また、前記衝撃吸収部材としてのロープ材が前記主横ロープまたは横ロープに対して平行に配置された構成であってもよい。
この構成では、斜面幅方向に設けられる主横ロープまたは横ロープに対して衝撃吸収部材としてのロープ材を平行に配置する。すなわち、斜面幅方向、言い換えれば防護網の幅方向において衝撃エネルギーの吸収率を均等に割り当てることができる。
【0029】
また、前記衝撃吸収部材としてのロープ材が、落下物防護装置における主横ロープ、横ロープ、縦主ロープ、補助縦ロープに添って設けられている構成でもよい。すなわち、落下物防護装置に設けられた縦主ロープや横ロープ等の各部ロープに対して衝撃吸収部材としてのロープ材を添わせることで、各部ロープに落下物が衝突した際に、これら各部ロープに先立って衝撃エネルギーを吸収させる。
【0030】
また、本発明は、斜面からの落下物を収容すべくこの斜面に立設された支柱と、両端部が前記斜面の側方に固定されると共に前記支柱を経由して斜面幅方向に懸架される横ロープと、前記横ロープに取り付けられる防護網と、を備えた落下物防護装置の補強方法であって、
前記防護網の外側または/及び内側に、前記落下物との衝突によって生じる衝撃エネルギーを吸収するための衝撃吸収部材を設けたことを特徴とする補強方法である。
【0031】
すなわち、本発明に係る衝撃吸収部材を既存若しくは新設の落下物防護装置に適用した補強方法である。なお、具体的な補強方法については上記に準ずる。
また、本課題を解決するための手段に記載した各種事項は本発明の課題を逸脱しない範囲において組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上、本発明によれば、防護網において衝撃エネルギーの吸収をして、この作用によって主横ロープ、横ロープや防護網等の各構成部材に対する衝撃エネルギーの伝播を抑制することが可能である。また、被災時にも各部の損傷が少なく、必要最小限の部材交換のみで落下物防護装置を復旧できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施の形態1に示す衝撃吸収装置の全体斜視図。
【
図2】実施の形態1に示す衝撃吸収装置において、落下物が防護網に衝突する状態を示す側面図。
【
図3】実施の形態1に示す衝撃吸収装置において、エネルギー吸収ロープが伸びた状態を示す側面図。
【
図4】実施の形態1に示す衝撃吸収装置において、落下物が落石収容部(収納ポケット)内に落下する状態を示す側面図。
【
図12】従来のポケット式落石防護装置を示す斜視図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に係る落下物防護装置1は、
図1及び
図2等に示すように、斜面Sの幅方向に間隔を空けて立設した複数本の支柱2と、各支柱2を斜面Sに対して所望の角度で立設させる吊りロープ3と、斜面Sの下方に配置された押さえ横ロープ7とを備える。さらに、各支柱2の頭部から押さえ横ロープ7にかけて吊り下ろされた左右の縦主ロープ5、5と、これら縦主ロープ5,5間に設けられた補助縦ロープ6と、縦主ロープ5に交差して設けられると共に両端部が斜面側方のアンカー体11に固定される上下複数段の横ロープとを備えている。
【0035】
横ロープのうち、例えば最上段の主横ロープ40は各支柱2,2の頭部を経由して斜面上方に懸架され、この最上段横ロープ40には、斜面を覆うメッシュ状の面材である防護網8、たとえば金網が取り付けられており、斜面Sと防護網8との間には、落石等を収容するポケット状の落石収容部9が形成されている。
また、斜面Sの幅方向には、例えば最上段の横ロープ40の下方であって、それと平行に一定の間隔をあけながら、横ロープ4が配されており、その端部はアンカー体11に固定されている。
そして、本発明の落下物防護装置1では、落石収容部9は、防護網8またはこれら各種主横ロープ40、横ロープ4,縦主ロープ5、補助縦ロープ、押さえ横ロープ及び防護網8等の各部材によって構成されている。
【0036】
支柱2は、防食処理の施されたH形鋼からなり、斜面中腹に間隔をおいて設けられた基礎に対してピンヒンジを介して連結されている。
支柱2の頭部には、吊りロープ3および縦主ロープ5を支柱2に連結するためのブラケット、並びに横ロープ4を斜面幅方向に案内するためのガイドが形成されている。そして、吊りロープ3を用いて支柱2を斜面に対してほぼ直角に支持し、また、各支柱2の頭部から斜面下方に掛けて縦主ロープ5が吊り下ろされている。
【0037】
縦主ロープ5は、上記した支柱2によって斜面の上方から斜面下方へと垂下されている。また、その下端は、地表に沿って横ばいに設けられた押さえ横ロープ7に連結されている。
【0038】
また、縦補助ロープ6は、防護網8の面剛性を高めるべく、主横ロープ、例えば最上段の横ロープ40と最下段の押さえ横ロープ7との間に、必要に応じてターンバックル等の緊縮具を用いて、十分なテンションで張り渡されている。
そして、防護網8を支えるための主横ロープ40または横ロープ4がこの縦主ロープ5に交差して上下に複数段張り渡されている。
【0039】
横ロープ4は、斜面上下方向において平行且つ等間隔で多段に設けられると共に、その両端部が、必要に応じてターンバックル等を介して、斜面両側方のアンカー体11に連結されている。
また、横ロープ4のうち、主横ロープ、例えば最上段の横ロープ40は各支柱2の頭部に設けられたガイドを経由して斜面上方を横切るように懸架されている。
【0040】
そして、前記防護網8を、主横ロープ、たとえば最上段の横ロープ40に結合コイルを用いて吊り下げ、また、その下端を押さえ横ロープ7に結合して、斜面正面側にポケット状の落石収容部9を形成している。
なお、上記した各ロープの交点並びに防護網8とロープとの接点にはクロスクリップや結合コイル等の各種結束金具が組み付けられており、各ロープと防護網8とは一体の構造物としてその剛性が得られるようになっている。
【0041】
続いて、エネルギー吸収ロープ10について説明する。
エネルギー吸収ロープ10の特性は、ロープの特殊な組成比率によって得られ、本出願人が過去に出願した例では、成分比率C:0.001%〜0.15%、Si:0.01%〜1.5%、Mn:0.3%〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Cr:14.0%〜26.0%、Ni:86.0%〜22.0%、N:0.02%以下、残部実質上Fe等の軟質ステンレス線からなる鋼素線を伸線して撚り加工した後、このロープをオーステナイト生成熱処理して得ることができる。
【0042】
表1にエネルギー吸収ロープ1本あたりのロープ長とエネルギー吸収量との関係を示す。
なお、試験体のロープ仕様は、φ18(3×7 SS/O)、断面積A:134m
2、破断荷重RBS:80kN、弾性伸びEL1:5%、塑性伸びEL2:15%(衝撃エネルギーを受けた後の伸び EL1<EL2)、ロープ長L:1〜20mである。
【0043】
【表1】
【0044】
また、エネルギー吸収量の算出式は下記式によって導かれる。
【0045】
【数1】
【0046】
上記数式によれば、弾性伸びEL1、及び塑性伸びEL2の値が共に大きい程、ロープ1本あたりのエネルギー吸収量が増える。すなわち、伸びやすいロープ材ほど、エネルギー吸収率が高いといえ、本実施の形態では、少なくとも主横ロープ40または横ロープ4に対してその弾性係数が小さいロープ材を衝撃吸収部材として用いることで落石衝突時の衝突エネルギーを、防護網8または落石収容部9内にて吸収する。
【0047】
なお、各種試験によれば、主横ロープ40または横ロープ4に適用される一般的な鋼製ワイヤロープの破断荷重付近における伸びは3〜5%に留まり、一方、エネルギー吸収ロープ10の破断荷重付近における伸びは50%以上の伸びを示す。つまり、落石との衝突によってエネルギー吸収ロープ10が塑性変形することで一般的な鋼製ロープに対して数倍の衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0048】
なお、
図5は汎用の鋼製ロープとエネルギー吸収ロープとの比較結果を示す荷重−伸び線図である。また、本実施の形態では、エネルギー吸収ロープとして、単位メートルあたり、例えば8kJ以上のエネルギー吸収量を有するロープ材を使用している。
【0049】
このように本実施の形態に示す落下物防護装置1では、防護網8に衝撃吸収部材としてのエネルギー吸収ロープ10を設け、落下物との衝突に伴って生じる衝撃エネルギーを吸収する。
【0050】
すなわち、主横ロープ40、横ロープ4を介してアンカー体11側に多くの落下物の衝撃エネルギーを逃がして吸収させるのではなく、防護網8または落石収容部9において多くの衝撃エネルギーを吸収する。この作用によって主横ロープ40、横ロープ4、防護網8、及びアンカー体11等の各構成部材に対する衝撃エネルギーの伝播を抑制することが可能となる。よって、エネルギー吸収ロープが変形する程の衝撃を受けたときであっても、エネルギー吸収ロープ10と、必要に応じて防護網8とを交換するのみで落下物防護装置1を早期に復旧できるという優れた利点がある。
【0051】
続いて、上記したエネルギー吸収ロープ10による落下物防護装置1の補強構造並びにその補強方法について、下記の実施の形態において詳細に説明する。
【0052】
〔実施の形態1〕
図1は、実施の形態1に係る落下物防護装置の全体斜視図である。ここでは、周囲の状況から判断して、落下物防護装置1における落石等の落下物の衝突位置は、最上段の横ロープ40とこれに隣接する横ロープ4、これらの間の縦ロープ10により形成される区画50のみに限定されている。
なお、ここで区画とは、主横ロープ、横ロープ及び縦主ロープで四方が囲まれた1区画または横ロープ及び縦主ロープで四方が囲まれた1区画のみならず、隣接した幾つかの区画を組み合わせた複数区画からなる区画でもよいことをいう。
したがって、2本のエネルギー吸収ロープ10を、この矩形状の区画50の範囲内で、落下物が衝突する側ではなく防護網8の外側に、対角線に沿って交差させるように設置している。図に示す2本のエネルギー吸収ロープ10は、互いに接触していてもよく、または間隙を設けるように設置してもよい。
【0053】
このようにすれば、顕著な衝撃吸収効果を発揮することができる。特に、金網の吸収エネルギーを超える落下物の衝突エネルギーが発生したときに有効である。このような場合について、
図2〜
図4に基づいて説明する。
【0054】
図2は、落下物が防護網8の内側に衝突する際の状態を示し、
図3は、落下物が防護網8に衝突した後、これを変形させ、さらに、防護網8の外側に設置したエネルギー吸収ロープ10を、これが伸びるように変形させた状態を示している。この場合、エネルギー吸収ロープ10が存在しなければ、落下物Dが防護網8を突き破るおそれがある。
図4は、落下物Dが防護網8及びエネルギー吸収ロープ10により受け止められ、落石収容部(収納ポケット)9内に落下するように、落下方向を変更された状態を示す。
【0055】
防護網8の吸収エネルギーを超える落下物の衝突エネルギーが生じると、防護網8が外側に撓み、エネルギー吸収が可能なエネルギー吸収ロープ10にこれが伝達される。このとき、エネルギー吸収ロープ10の破断荷重付近での伸びにより、防護網8の吸収エネルギーを超える落下物Dのエネルギーを吸収することができる。
【0056】
また、落下物Dが衝突する可能性が最も高い部分にのみ、衝撃吸収部材であるエネルギー吸収ロープ10を設置すれば、作業やコスト面できわめて効率的である。なお、落石等の落下物の衝突位置は、現場状況により変動するもので、周囲の状況により適宜その範囲を決定し、予想される衝突位置にエネルギー吸収ロープ10を設置する。
【0057】
(実施の形態2)
次に、
図6に示す実施の形態2では、防護網8において、その上部最寄りにエネルギー吸収ロープ10を設けている。このエネルギー吸収ロープ10は、落下物が衝突する側ではなく、防護網8の外側に設けられている。
エネルギー吸収ロープ10の特性は、例えば、縦主ロープ5や横ロープ4、並びに縦補助ロープ6等に適用される鋼製ワイヤロープ(例えば、JIS G 3525に規定される硬鋼線の撚りロープ)と異なり、弾性係数が小さく、破断荷重付近での伸びが大きい特性を有する。
【0058】
具体的には、主横ロープ、例えば最上段の横ロープ40と次段の横ロープ4との段間中央部分に、これら主横ロープ40または横ロープ4と平行に、エネルギー吸収ロープ10を配置する。また、エネルギー吸収ロープ10の全長は防護網8の全幅に等しく、その各端部は防護網8の両側縁にそれぞれ固定されている。
【0059】
なお、エネルギー吸収ロープ10が設けられる防護網8の上部最寄りは、防護網の入り口に相当し、斜面Sを転がり墜ちる落石Dは、この領域に高い確率で衝突する。したがって、この領域にエネルギー吸収ロープ10を設けることで、防護網8における衝撃エネルギーの吸収量を増やすことができる。また、防護網の入り口付近では、落石Dの速度がそれほど高まっておらず、早い段階で落石の衝撃エネルギーを吸収することで他の部分に与える落石の影響を抑え込むことができる。
【0060】
〔実施の形態3〕
図7に示す実施の形態3では、実施の形態2と同様の方法で、主横ロープ40と横ロープ4の段間中央または横ロープ4と横ロープ4の段間中央に、エネルギー吸収ロープ10を配置している。実施の形態2と異なる点は、主横ロープ40と横ロープ4の段間または横ロープ4と横ロープ4の段間に、それぞれエネルギー吸収ロープ10を配置していることである。したがって、防護網8の全域において落石の衝撃エネルギーを均等に吸収することができる。
【0061】
〔実施の形態4〕
図8に示す実施の形態4では、エネルギー吸収ロープ10を、主横ロープ40、横ロープ4及び縦ロープ5からなる区画または横ロープ4及び縦主ロープ5において、その2つの対角線上に交差するように、防護網の外側に配置している。
具体的には、防護網8の両側縁に沿って設けられる縦主ロープ5,5と主横ロープとその下段の横ロープとの間で囲まれた区画に対して、また、防護網8の両側縁に沿って設けられる縦主ロープ5,5と上下方向で隣り合う横ロープ4,4とで囲まれた区画に対して、さらに、防護網8の両側縁に沿って設けられる縦主ロープ5,5と押さえ横ロープ7とその上段の横ロープ4との間で囲まれた区画に対して、その対角線上にクロスしてエネルギー吸収ロープ10を設けている。
【0062】
この実施の形態によれば、エネルギー吸収ロープ10の全長を防護網8の全幅に比べて長く確保できるため、主横ロープ40または横ロープ4に対して平行にエネルギー吸収ロープ10を設けた場合に比べてエネルギー吸収ロープ1本あたりのエネルギー吸収量を大きく確保できる。また、区画の中央でエネルギー吸収ロープ10が交差するため、区画の中央部分における衝撃エネルギーの吸収量が増える。
【0063】
〔実施の形態5〕
図9に示す実施の形態5では、防護網8の幅方向で隣合う縦ロープ5,5と、防護網8の主横ロープ40とその下段の横ロープ4で囲まれた複数の区画に対して、また、防護網8の幅方向で隣合う縦ロープ5,5と、防護網8の上下方向で隣り合う横ロープ4と横ロープ4で囲まれた複数の区画に対して、さらに、防護網8の幅方向で隣合う縦ロープ5,5と、防護網8の横ロープ4とその下段の押さえ横ロープ7で囲まれた複数の区画に対して、それぞれにエネルギー吸収ロープをクロスした状態で設けている。すなわち、対角線上にエネルギー吸収ロープ10を設けた実施の形態4の変形例である。この配置によれば、防護網8の全域においてエネルギー吸収ロープ10を密に配置できるため、さらなるエネルギー吸収効率の向上が図られる。
【0064】
〔実施の形態6〕
図10に示す実施の形態6では、エネルギー吸収ロープ10を、防護網の外側において、主横ロープ40、縦ロープ5、横ロープ4、縦補助ロープ6等の既存のロープに添わせて設けている。この取り付け方法では、既設のロープに落石が衝突した際、エネルギー吸収ロープ10が各部ロープに先立って伸び、結果として既存のロープにかかる負荷が減少する。
【0065】
〔実施の形態7〕
図11には、実施の形態7が示されている。この実施の形態では、実施の形態2と同様に、最上段の横ロープ40と次段の横ロープ4との段間中央部分に、これら主横ロープ40または横ロープ4と平行に、エネルギー吸収ロープ10を配置した。実施の形態2と異なるのは、このエネルギー吸収ロープ10は、防護網8の外側ではなく、落下物が衝突する側、すなわち内側に設けられている点である。防護網8に対して、エネルギー吸収ロープ10はその内側又は外側に設けることができ、例えば、既設の落下物防護装置を補強する場合は、通常、外側にこれを設置することが作業上やコスト上から有利であると考えられる。しかし、状況に応じて、これを内側に設置することも選択可能である。
【0066】
このように本実施の形態では、エネルギー吸収ロープ10の様々な取り付け方法を例示できる。
【0067】
なお、上記した各実施の形態では、エネルギー吸収ロープ10を防護網8に接するように取り付ける際、エネルギー吸収ロープ10の両端部分のみを各部ロープに固定したり、或いは必要に応じてエネルギー吸収ロープ10の長手方向数カ所を防護網8に括りつけるなど、その伸びや揺れを妨げない程度に固定している。
【0068】
その理由は、エネルギー吸収ロープ10の伸びや揺れを妨げないことによって落石のエネルギーを効率よく消費できるためである。
【0069】
また、エネルギー吸収ロープ10は、防護網8の外側または/及び内側の何れに設けた場合であっても、その伸びを伴うエネルギーの吸収能力は発揮される。このようにエネルギー吸収ロープ10を取り付けると、エネルギー吸収ロープ10と共に防護網8もその慣性に反して強く揺さぶられるため、エネルギー吸収ロープ10と防護網8の双方で落石のエネルギーを消費できる。
【0070】
また、上記の実施の形態では、衝撃吸収部材としてエネルギー吸収ロープを例に挙げたが、例えば、ロープ材に緩衝装置を接続して衝撃エネルギーを吸収させることもできる。ここでロープ材としては、上記したエネルギー吸収ロープの他、汎用の鋼製ロープなどであってもよい。すなわち、防護網8にこれらロープ材および緩衝装置からなる衝撃吸収部材を組み付けることで、エネルギー吸収ロープ10を設けた場合と同様に、防護網8または落石収容部9内で衝撃エネルギーの吸収を完結させることができる。なお、緩衝装置としては、バネ材や各種圧力緩衝用のダンパー等を例示できる
【0071】
また、衝撃吸収部材として、好ましくは、主横ロープ40や横ロープ4や縦主ロープ5、並びに縦補助ロープ6よりも破断荷重の小さいロープ材を選択するとよい。
【0072】
また、エネルギー吸収ロープ10を防護網に対してネット状に編み込んで、防護網8と共に付設するなどの補強方法も考えら得る。
【0073】
また、これら衝撃吸収部材は、落下物防護装置1の新設時のみならず、既に設置されている落下物防護装置にも補強として組み付けることができる。このように衝撃吸収部材の取り付け方法は様々例示できる。
【0074】
〔試験例〕
以下、本願発明に係る落下物防護装置の補強効果の試験例を示す。
1.試験の概要および目的
従来のポケット式の落石防護網の面材に、2本のエネルギー吸収ロープ(SS)を追加した補強構造について、その補強効果を確認する。
2.実験内容
A 防護網全体
実際の防護網と同様に、横ロープとこれに隣接する横ロープ、これらの間の縦ロープにより囲まれる矩形状の防護網を作製し、これにエネルギー吸収ロープを、落下物が衝突する側の反対側において、対角線上に交差させるように設置した。
B 金網
3.2Gと4.0Gのものを用いた。
なお、3.2Gとは素線径が3.2mmであって、表面にメッキが施されているものをいう。4.0Gとは素線径が4.0mmであって、表面にメッキが施されているものをいう。
C 補強用ロープ材
エネルギー吸収ロープ(SS)は、18φのものを用いた。比較例として、通常の12φの鋼製ロープ(G)を用いた。
D 落下物
架台に設置した面材に動的荷重を与える球状コンクリート塊(11kN)をクレーンで吊り上げ、所定の高さから落下させた。
3.試験結果
結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
A 試験No.1(比較例)
補強用ロープとして、通常の12φの鋼製ロープを使用した。鋼製ロープは伸びが少ないため2本とも切断された。そのため、球状コンクリート塊を受けとめたものの、落下エネルギーがこれ以上大きければ、防護網が大きく破損する可能性が高い。
B 試験No.2
18φのエネルギー吸収ロープの2本を補強用に使用し、落下E(kJ)を50kJとした。ロープは2本ともに切断せず、金網も撓みが大幅に改善され損傷が少ない状態で、球状コンクリート塊を受けとめることができた。エネルギー吸収ロープの伸びが大きく、吸収されるエネルギーが大きいので、防護網の損傷の可能性を大幅に改善できる。
C 試験No.3
金網を4.0G、落下E(kJ)を75kJとした。エネルギー吸収ロープと金網に対し破損や切断を生じることなく、球状コンクリート塊を受けとめることができた。
以上の試験例から、エネルギー吸収ロープによる補強が有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
1 落下物防護装置
2 支柱
3 吊りロープ
4 横ロープ
5 縦主ロープ
6 補助縦ロープ
7 押さえ横ロープ
8 防護網
9 落石収容部
10 エネルギー吸収ロープ
11 アンカー体
40 主横ロープ
50 区画
D 落下物
P 空間
S 斜面
100 ロープ
101 緩衝金具
102 アンカー体