(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109504
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】タービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置及び三次元超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/06 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
G01N29/06
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-161361(P2012-161361)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-20987(P2014-20987A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000242644
【氏名又は名称】北陸電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230940
【氏名又は名称】日本原子力発電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】北澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豐
(72)【発明者】
【氏名】桜井 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】柴下 直昭
(72)【発明者】
【氏名】工藤 健
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 高
(72)【発明者】
【氏名】安達 裕二
(72)【発明者】
【氏名】釘本 三男
(72)【発明者】
【氏名】長松 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】舘 研一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸郎
【審査官】
比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−027423(JP,A)
【文献】
特開2011−053040(JP,A)
【文献】
特開平06−102258(JP,A)
【文献】
特開平04−314437(JP,A)
【文献】
特開平05−076532(JP,A)
【文献】
特開2003−325512(JP,A)
【文献】
特開2009−293980(JP,A)
【文献】
特開2009−022415(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0126007(US,A1)
【文献】
特開2003−337120(JP,A)
【文献】
特開2000−214136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01B 17/00−17/08
G21C 17/00−17/14
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元的に配列された複数の圧電振動子を備えたアレイ型超音波センサと、前記アレイ型超音波センサを用いフェーズドアレイ方式で超音波を送受信して超音波ビームを三次元的にスキャンし波形データを収録する超音波送受信装置と、前記波形データを用いて三次元探傷データを生成する計算機と、前記三次元探傷データと検査対象物の三次元形状データとを重ねて表示させる表示部を備え、
前記アレイ型超音波センサは、複数本のタービン動翼に対して共通の設置位置であるタービン翼フォーク部の最外部の所定位置に設置され、かつ、前記複数本のタービン動翼に対して共通のスキャンを実施し、
前記表示部は、前記三次元探傷データの鳥瞰図を表示する鳥瞰画面と、前記タービン翼フォーク部のピン穴付近を前記複数本のタービン動翼に対して毎回同じ視線で拡大して二次元表示する拡大画面を同時または選択的に表示するとともに、前記拡大画面に、前記アレイ型超音波センサが前記所定位置に設置された場合に、前記ピン穴などの形状特徴部の形状エコーが表示されるべき位置に所定の形状と色を有するマーカを表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置において、
前記表示部は、前記拡大画面を、前記タービン翼フォーク部のピン穴付近を前記複数本のタービン動翼に対して毎回同じ視線で同じ寸法で表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置において、
前記表示部は、前記拡大画面を、前記アレイ型超音波センサを設置した面を正面から見た画像、および/または、前記アレイ型超音波センサを設置した面とは反対の裏面から見た画像となるように表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置において、
前記表示部は、前記ピン穴の軸方向に切断した切断面を表示する切断画面を、前記鳥瞰画面および前記拡大画面と同時または選択的に表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項5】
請求項4に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置において、
前記表示部は、前記切断面の切断位置を前記拡大画面に表示し、前記拡大画面に表示された前記切断位置の切断面を前記切断画面に表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項6】
請求項5に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置において、
前記表示部は、前記拡大画面に、前記アレイ型超音波センサの中央位置を表示し、前記アレイ型超音波センサの中央位置を起点に前記切断位置を表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項7】
請求項4に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置において、
前記表示部は、前記切断画面に、前記切断面の切断位置で前記三次元形状データを切断した輪郭線を表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置。
【請求項8】
二次元的に配列された複数の圧電振動子を備えたアレイ型超音波センサを用いてフェーズドアレイ方式で超音波を送受信して超音波ビームを三次元的にスキャンしタービン翼フォーク部のピン穴付近を探傷するタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷方法において、
前記アレイ型超音波センサを、複数本のタービン動翼に対して共通の設置位置である前記タービン翼フォーク部の最外部の所定位置に設置し、
前記複数本のタービン動翼に対して共通のスキャンを実施し、
前記スキャンで得られた三次元探傷データと前記タービン翼フォーク部の三次元形状データとを重ねてディスプレイに表示するとともに、前記三次元探傷データの鳥瞰図を表示する鳥瞰画面と、前記タービン翼フォーク部のピン穴付近を前記複数本のタービン動翼に対して毎回同じ視線で拡大して二次元表示する拡大画面を同時又は選択的に表示し、
前記アレイ型超音波センサが前記所定位置に設置された場合に、前記拡大画面に、前記ピン穴などの形状特徴部の形状エコーが表示されるべき位置に所定の形状と色を有するマーカを表示することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷方法。
【請求項9】
請求項8に記載のタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷方法において、
前記拡大画面を、前記アレイ型超音波センサを設置した面を正面から見た画像、および/または、前記アレイ型超音波センサを設置した面とは反対の裏面から見た画像となるように表示するとともに、前記タービン翼フォーク部のピン穴付近を前記複数本のタービン動翼に対して毎回同じ寸法で表示し、
前記拡大画面の表示を用いて、前記ピン穴の形状エコーが前記タービン翼フォーク部の三次元形状データのピン穴に一致するように前記アレイ型超音波センサの位置を調整することを特徴とするタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置及び三次元超音波探傷方法に係り、特に探傷精度を高く保ちつつ探傷時間を短縮できるタービン翼フォーク部の三次元超音波探傷装置及び三次元超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントのタービンにおいては作業性と整備性の観点から、
図11に示すように、回転軸901と動翼902を別々に製作し、回転軸901上のディスク903に動翼902を固定する方式が一般的である。動翼902をディスク903に固定する方式は幾つかあるが、本発明で対象としているのは動翼902をディスク903に植え込む部分がフォーク形状をしている方式である。以下、この部分をフォーク部と呼ぶ。ディスク903側に加工されている溝1005にフォーク部1004を差込み、ピン穴1006にピン1007をディスク903の外側から挿入することで、ディスク903とフォーク部1004を固定している。
【0003】
これらのピン穴の内、
図11および
図12に示すようなフォーク部最外部1008に付与されたピン穴1109a、1109b、1109cには、タービンの回転に伴い
図12の拡大図に示す位置1101に高い応力が発生することが分かっているため、定期検査時等にこの部分の健全性を非破壊検査により確認している。尚、フォーク最外部1008に付与されたピン穴1109a、1109b、1109cは、隣り合うフォーク部で円形になるように設計されており、それぞれのピン穴1109a、1109b、1109cは半円形をしている。
【0004】
現在主に用いられている磁粉探傷法や浸透探傷法は動翼902を回転軸901から分解する必要がある。しかし、プラントの稼働率向上の観点から検査時間の短縮が求められており、多大な時間と労力を要するタービン動翼の分解や検査後の組立を必要としない超音波探傷(UT:Ultrasonic Testing)が有望視されている。UTとは検査対象内に超音波を送信し、その反射波から内部の欠陥に関する情報を得る検査方法である。
【0005】
フォーク部のUTに関しては、例えば特許文献1や特許文献2に詳しく記載されている。特許文献1では欠陥からの反射超音波信号(以下、欠陥エコー)を波形としてグラフ化して検査している。特許文献2ではフェーズドアレイ法と呼ばれる方法により画像化して検査している。
【0006】
フェーズドアレイ法は、圧電振動素子を複数個配列した、いわゆるアレイ型超音波センサを使用し、各圧電振動素子から送信される超音波の波面が干渉して合成波面を形成しつつ伝播していくという原理に基づいたものである。従って、各圧電振動素子の超音波送信タイミングの遅延時間を制御することで、合成波面の入射角度や集束位置を制御することができる。
【0007】
また、超音波の受信に際しても、各圧電振動素子で受信した反射超音波を適当な遅延時間を与えて加算することで、送信時と同様、超音波の受信入射角度を制御したり、焦点を合わせて超音波を受信したりすることができる。このフェーズドアレイ法としては、一次元アレイセンサの圧電振動子を直線的にスキャンするリニアスキャン方式や、超音波の送信と受信方向を扇状に変化させるセクタスキャン方式が一般的に知られており、特にセクタスキャン方式によって得られた探傷画像をセクタ画像と呼ぶ。
【0008】
さらに、近年は格子状に圧電素子が配列したマトリクスアレイセンサ(二次元アレイセンサとも呼ばれる)を用い、三次元的に任意の位置に焦点を合わせ、三次元的にスキャンをする三次元フェーズドアレイ法(以下、3D−PA法)と呼ばれる方法も開発されている(例えば、非特許文献1〜5参照)。3D−PA法では、スキャンによって得られた生データに内挿処理などを施して三次元格子状データ(以下、三次元探傷データ)を作成し、これをボリュームレンダリングやサーフェスレンダリングといった方法で三次元画像表示する。
【0009】
しかし、3D−PA法においても、反射超音波信号が検査対象の内面での反射によるものか、欠陥での反射によるものかを、三次元探傷データから判断するのは難しい。特にフォーク部のような複雑な形状の場合には、内面での反射超音波信号(内面形状に依存するため、以下、形状エコーと呼ぶ)が多数現れるため、熟練者でも判別は困難である。このため、検査対象の三次元形状データを三次元探傷データと一緒に表示するソフトウェアが開発されている(例えば、特許文献3〜6、非特許文献2、5参照)。この二つのデータを重ね合わせて比較することにより、形状エコーと欠陥エコーの判別が容易となる。三次元形状データとしては別途汎用のCAD(Computer Aided Design)で作成したデータを読込んで用いる場合が多い。以降、三次元探傷データを形状データと融合して表示させることをCAD融合三次元表示と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4474395号号公報
【特許文献2】特開2009-293980号公報
【特許文献3】特開2009-288129号公報
【特許文献4】特開2010-197268号公報
【特許文献5】特開2011-141123号公報
【特許文献6】特開2011-141124号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日立評論2010年4月号:エネルギーインフラを支える高度検査技術
【非特許文献2】S. Kitazawa, N. Kono, A. Baba, Y. Adachi, M. Odakura, and O. Kikuchi, “Three-dimensional visualization and evaluation techniques for volumetrically scanned data of ultrasonic phased arrays” Insight, pp 201-206, Vol 52 No 4 (2010).
【非特許文献3】北澤聡, 河野尚幸, 馬場淳史, 安達裕二, 小田倉満,“三次元フェーズドアレイ法による超音波探傷技術”, 日本保全学会 第7回学術講演会 要旨集, p55 (2010).
【非特許文献4】北澤聡, 河野尚幸, 馬場淳史, 安達裕二, 小田倉満,“三次元フェーズドアレイ超音波探傷技術”, 日本非破壊検査協会 第17 回 超音波による非破壊評価シンポジウム 講演論文集, pp.1-4 (2010).
【非特許文献5】北澤聡, 河野尚幸, 馬場淳史, 安達裕二, 小田倉満, 菊池修, “三次元フェーズドアレイ超音波探傷システム”, 日本工業出版社 検査技術, 23 Vol.14, No.2 (2009).
【非特許文献6】Berke M ; Ballenger, T, “Phased array technology for standard ultrasonic testing”, Insight: Volume 48, pp. 218-220 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
3D−PA法の探傷データの画像表示は、超音波入射点での屈折角と路程を用い、超音波は直線的に伝播するという仮定の元に通常は描画される。従来のフェーズドアレイ法でもこれは同様であり、セクタスキャンによるセクタ画像がその代表例である。しかし、一般的に超音波は物質中で反射や屈折を幾度も繰り返しながら伝播していくため、形状データと探傷データを重ねて表示させる場合には、探傷データに伝播経路の屈曲を反映させる必要がある。そうしないと、探傷データ中の各反射信号は、最初の反射(直接反射)の信号以外は形状データとは無関係な位置に表示されてしまう。通常、伝播経路補正はレイトレース(音線追跡)法などで事前に計算した結果を用いて行う。例えば、3D−PA法ではないが、伝播経路の屈曲を考慮したセクタ画像については、非特許文献6で述べられている。3D−PA法においても同様の屈曲補正処理をすることで、三次元探傷データに含まれる形状エコーや欠陥エコーが、形状データ上の反射位置に表示されるようになる。
【0013】
よって、フォーク部の検査に3D−PA法を適用することにより、三次元探傷データに含まれる欠陥エコーや形状エコーがフォーク部の形状データ上での反射位置、例えばピン穴付近に表示されるようになる。フォーク部の3D−PA法では、この画像を用いて探傷結果を詳細に評価する。具体的には、注目するピン穴付近を拡大表示したり、ピン穴を含む適切な断面で切断表示したりといった表示調整作業を行った後、欠陥エコーがピン穴付近に現れていないかを画面で確認する。
【0014】
しかしながら、検査するフォーク部はタービン一基当たり数百本に及ぶ膨大な数であり、その一つ一つに対して毎回同様の表示調整作業を行う検査方法では、多大な労力と時間を要し、検査を短時間で効率的に行うことができない。
【0015】
本発明は、タービン翼フォーク部のピン穴に発生する欠陥の有無と位置を短時間で効率的に検査することが可能な三次元超音波探傷装置及び三次元超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、フェーズドアレイ方式の三次元超音波探傷装置及び三次元超音波探傷方法において、アレイ型超音波センサは、複数本のタービン動翼に対して共通の設置位置であるタービン翼フォーク部の最外部の所定位置に設置して、複数本のタービン動翼に対して同じスキャンを実施するようにし、表示部は、三次元探傷データとタービン翼フォーク部の三次元形状データとを重ねて表示し、三次元探傷データの鳥瞰図を表示する鳥瞰画面と、タービン翼フォーク部のピン穴付近を同じ視線で同じ寸法で拡大して表示する拡大画面を同時又は選択的に表示するようにしたことを特徴とする。
【0017】
また、アレイ型超音波センサが所定位置に設置された場合に、拡大画面には、ピン穴等の形状特徴部の形状エコーが表示されるべき位置に所定のマーカを表示することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多数本のタービン翼フォーク部の検査を同じ条件で行うことができるので、タービン翼フォーク部のピン穴に発生する欠陥の有無と位置を短時間で効率的に検査することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】タービン動翼フォーク部の超音波探傷システムの一例を示す構成図。
【
図3】三次元超音波探傷での屈曲補正を説明する図であり、伝播経路の屈曲補正前のCAD融合三次元表示の様子を表す図。
【
図4】三次元超音波探傷での屈曲補正を説明する図であり、伝播経路の屈曲補正後のCAD融合三次元表示の様子を表す図。
【
図5】本発明の一実施例における三次元表示画面の構成図。
【
図6】本発明の一実施例においてセンサが適切な位置に設置されている場合の切断画面と拡大画面を説明する図。
【
図7】本発明の一実施例においてセンサが適切な位置に設置されていない場合の切断画面と拡大画面を説明する図。
【
図8】本発明の一実施例においてセンサが適切な位置に設置されている場合の切断画面と拡大画面を説明する図。
【
図9】鋼材中の縦波および横波の反射率を説明する図。
【
図10(a)】入射角が33°未満の場合において、入射した横波が反射面で横波と縦波の二つの伝播経路に分岐する様子を説明する図。
【
図10(b)】本発明の実施例において入射角を33°以上として、入射した横波がモード変換を起こさずに全反射を繰り返す様子を説明する図。
【
図11】タービン翼フォーク部の構成を説明する図。
【
図12】タービン翼フォーク部のピン穴と応力部を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施例において用いられるタービン動翼フォーク部の超音波探傷システムの一例を示す構成図である。本実施例では、フォーク部の内で最も応力がかかるフォーク部最外部1008に付与されたピン穴1109a、1109b、1109cの検査を想定している。本実施例の装置は、フォーク部最外部1008に超音波を入射するアレイ型超音波センサ101、送・受信部102、受信信号及び探傷画像を表示する表示部(ディスプレイ)103で構成されている。
【0022】
ここで、まず、アレイ型超音波センサ101は、基本的には超音波を発生したり受信したりする複数個の圧電振動素子104で構成される。複数個の圧電振動素子104は二次元的に配列されている。アレイ型超音波センサ101は、フォーク部最外部1008の側面にあるセンサ設置位置1102に設置される。アレイ型超音波センサ101は、アレイ型超音波センサ101で発生した縦波超音波がモード変換により横波超音波に変換されてフォーク部最外部1008に入射されるよう、超音波が透過する適当な材質、たとえばポリスチレン等で作製されたくさび108を介しフォーク部最外部1008に接触させている。
【0023】
アレイ型超音波センサ101は、センサ設置位置1102に設置された後、送・受信部102から供給される駆動信号により超音波ビーム105を発生し、これをフォーク部最外部1008内に伝播させ、これにより現れる反射波を検知して受信信号を送・受信部102に入力する働きをする。
【0024】
アレイ型超音波センサ101のフォーク部最外部1008の所定位置への設置は、検査員が目視で位置を確認しながら手作業で行う。くさび108の接触面の形状の一部もしくは全部がフォーク部最外部1008の形状と一致しており、フォーク部最外部1008の所定位置への設置は、ある程度までは容易にできるようになっている。
【0025】
送・受信部102はアレイ型超音波センサ101により超音波の送信と受信を行うもので、このため、計算機102Aと遅延時間制御部102B、パルサー102C、レシーバ102D、それにデータ収録部102Eを備え、パルサー102Cが駆動信号をアレイ型超音波センサ101に供給し、また、アレイ型超音波センサ101から入力される受信信号をレシーバ102Dが処理するようになっている。
【0026】
計算機102Aは、基本的にはCPU102A1、RAM102A2、ROM102A3より構成されている。ROM102A3にはCPU102A1を制御するプログラムが書き込まれており、CPU102A1はこのプログラムに従ってデータ収録部102Eから必要とされる外部データを読込んだり、あるいは又RAM102A2との間でデータの授受を行ったりしながら演算処理し、必要に応じて処理したデータをデータ収録部102Eへ出力する。
【0027】
また、CPU102A1は、遅延時間制御部102Bとパルサー102C、レシーバ102Dを制御し必要な動作が得られるようにするもので、まず遅延時間制御部102Bは、パルサー102Cから出力される駆動信号のタイミングとレシーバ102Dによる受信信号の入力タイミングの双方を制御し、これにより3D−PA方式によるアレイ型超音波センサ101の動作が得られるようにする。
【0028】
ここにいう3D−PA方式によるアレイ型超音波センサ101の動作とは、超音波ビーム105の焦点深さと入射角度106を制御して超音波を送信し受信する動作のことであり、これによりレシーバ102Dからデータ収録部102Eに受信信号が供給されることになる。超音波ビーム105によるスキャンは三次元的に行われ、超音波ビーム105の路程とスキャン範囲107は、伝播経路の屈曲補正を施した状態でも検査するピン穴近傍の領域を含むように余裕を持って設定される。
【0029】
データ収録部102Eに送られた受信信号は収録データとして収録されると同時に計算機102Aに送られる。これにより、計算機102Aは各圧電振動素子で得られた波形を遅延時間に応じて合成処理し、各超音波の入射角度ごとの波形に適当な内挿処理を施し、ボクセルと呼ばれる三次元立方格子を単位としたボクセル形式の三次元探傷データを作成し、それを画像化し表示部103に表示させる動作を実行する。
【0030】
さらに、計算機102Aは探傷結果の評価を容易にするために、三次元形状データとしてフォーク部最外部1008のCADデータを計算機102Aの外部から読込み、三次元表示画面103AにCAD融合三次元表示させる。CADデータのフォーマットは、市販のCADソフトウェアで入出力可能なデータ形式となっている。例えば多くのCADソフトウエアで読込み・出力可能なSTL(STereoLithographyあるいはStandard Triangulated Language の略)形式を使用する。STL形式は物体の表面を多数の三角形の集合で表現したものであり、STLファイル内にはこれらの三角形の面法線ベクトルと3つの頂点の座標値が書き込まれている。グラフィックスAPIを用いてSTL形式のファイルから三次元形状データを表示させることは、複数の三角形を描画することで容易に実現できる。
【0031】
ここで計算機102Aは、CAD融合三次元表示に際し、ボクセル形式の三次元探傷データを生成する時に、収録データの各サンプリング点に対してフォーク部最外部1008の内部反射による超音波伝播経路の屈曲補正を行う。屈曲補正の概念について
図2を用いて説明する。
【0032】
図2はフォーク部最外部1008の三次元形状データ205に対し、代表的な超音波ビーム105の補正を行う際の概念図である。ただし、説明を分かりやすくするために
図2の三次元形状データ205はフォーク部最外部1008の断面形状を単純化したものを描いてある。
【0033】
前述のように、通常のフェーズドアレイ法の場合は、超音波入射点204での屈折角と路程を用い、超音波は直線的に伝播するという仮定の元に描画される。よって例えば
図2のセクタ206のような扇として画像化される。しかし、このままでは内部反射による超音波伝播経路の屈曲が考慮されていないため、例えば、欠陥201による反射はセクタ206中の信号202として、三次元形状データ205の外部に表示されてしまう。しかしながら、収録データの各サンプリング点を伝播経路203のように配置してやることにより、信号202は欠陥201の近傍に表示されるようになる。
【0034】
スキャンに用いた全ての超音波ビームにこの処理を施すことにより、三次元形状データ205と反射信号の位置が対応した三次元探傷データを得ることができる。例えば
図3は伝播経路補正前のCAD融合三次元表示の様子を表している。三次元探傷データに含まれる内部反射信号302a、302b、302c、および302dは、直接反射に起因する302a以外は三次元形状データ205の外部に表示される。しかし、
図4に示した伝播経路補正後のCAD融合三次元表示では、302b、302c、および302dは、402b、402c、および402dとして、三次元形状データ205の対応する位置にそれぞれ表示されている。
【0035】
尚、これらの三次元描画アルゴリズムは、例えばグラフィックス・アプリケーション向けの業界標準のグラフィックス・アプリケーション・プログラミング・インタフェース(グラフィックスAPI)であるOpenGL(登録商標)やDirectX(登録商標)というライブラリの中で実現されており、これらのグラフィックスAPIをプログラム中で用いて、表示する物体の形状や視点、表示位置などの必要な情報を与えれば三次元表示画面103A上の任意の位置に、任意の色、透明度、大きさで三次元形状を描画することが容易に出来る。
【0036】
フォーク部最外部1008の三次元超音波探傷の場合には、ピン穴1109a、1109b、1109c付近を探傷する。従って、事前の最適化作業によりピン穴1109a、1109b、1109c付近を探傷するためのアレイ型超音波センサ101の設置位置やスキャン方法が決定される。そして、多数本の動翼のフォーク部に対して全て同じセンサ設置位置1102にアレイ型超音波センサ101を設置し、同じスキャンを実施する。
【0037】
このようにして得られた三次元探傷データは表示部103にCAD融合三次元表示される。
図1の三次元表示画面103Aはフォーク部最外部1008のCAD融合三次元表示による鳥瞰図である。このとき、計算機102Aに接続されたマウス102Fやキーボード102Gを用いた入力により、任意の視線方向から、任意の寸法で表示させることができる。
【0038】
鳥瞰図は形状エコーや欠陥エコーの全体的な分布状況を把握する際には有効な表示方法である。しかし、フォーク部最外部1008の検査の場合には、検査箇所がピン穴1109a、1109b、1109c付近に限定されているため、ピン穴付近を拡大表示してエコーを観察する場合が多い。
【0039】
そこで、本発明の実施例では、
図5に示すように、表示部103に、鳥瞰図を表示する鳥瞰画面501と、ピン穴付近を拡大して表示する拡大画面503aおよび503bと、切断画面502aおよび502bとを備えている。
【0040】
拡大画面503aおよび503bは、常に同じ視線方向で、同じ寸法でCAD融合三次元表示されるようになっている。拡大画面503aはフォーク部最外部1008のセンサ設置位置1102の正面方向であり、拡大画面503bはその裏面から見た三次元画像である。但し、本実施例では正面図及び裏面図であり、結果的に、二次元表示となっている。即ち、本実施例では、形状エコーや欠陥エコーの全体的な分布状況を把握するのは鳥瞰図とし、ピン穴付近のエコー観察には作業者が観察しやすいように常に同じ視線方向で、同じ寸法での表示とし、更に作業者が観察しやすいように、二次元表示である正面図、裏面図、切断面を組み合わせた表示としている。
【0041】
これにより、異なるフォーク部最外部1008に対してCAD融合三次元表示する場合でも、表示調整作業をその都度行う必要がなく検査を短時間で効率的に行うことができる。そして、毎回同じ視線方向で、同じ寸法で探傷結果を確認できるため、作業者はピン穴付近の探傷結果を確認しやすくなると同時に、異なるフォーク部最外部1008間での探傷結果の比較が容易になる。つまり、欠陥エコーの有無がより明確に確認できるため、欠陥の有無の判定が確実に行える。なお、
図5の拡大画面503aおよび503bには図を見易くするためフォーク部最外部1008の一部のみを描いている。
【0042】
また、本実施例では、ピン穴をフォーク部最外部1008のピン穴軸方向に切断した面を表示する切断画面502aおよび502bを用いている。切断画面502aおよび502bを用いると、より探傷結果の評価を正確に行うことができる。この時、切断画面502aおよび502bの切断位置は、拡大画面503aおよび503bに504aおよび504bのように識別しやすい色の破線などで示される。この時、フォーク部最外部1008の正面から見て左右両側に半円状のピン穴があるため、それぞれに対応した切断画面を設けている。切断画面502aは切断位置504aに、切断画面502bは切断位置504bにそれぞれ対応している。
【0043】
また、画面に表示されたボタン等をマウス102Fで操作することで切断位置504aおよび504bを移動させることができる。その際、切断位置504aおよび504bの指定には自由度が多いため、本実施例の装置では、センサ設置位置1102の正面からみたセンサ中央位置505aあるいは505bを中心として、切断位置504aおよび504bを回転させるようになっている。この場合、画面上で指定するのは回転角度となる。尚、
図5には理解を容易にするため、センサ中央位置505aあるいは505bに対応したアレイ型超音波センサ101の外形506を描いてある。
【0044】
また、切断画面502aおよび502bには、三次元探傷データの切断面と共に、その切断位置におけるCADデータの外形線507aおよび507bが、識別し易いように色や太さを変えて表示される。これにより、ピン穴に対する欠陥エコーの位置がより明確に分かる。
【0045】
鳥瞰画面501、切断画面502aおよび502b、拡大画面503aおよび503bは同時に表示部103に表示されても良いし、切り替え操作によって必要な画面のみ表示部103に表示されるのでも良い。重要なのは、多数本の翼のフォーク部に対して、拡大画面503aおよび503bが、常に同じ視線方向で、同じ寸法でCAD融合三次元表示(結果的に二次元表示になる場合を含む)されるようになっていることであり、また、その拡大図面に基づき切断画面の切断位置を決めていることである。
【0046】
鳥瞰画面501、切断画面502aおよび502b、拡大画面503aおよび503bは、以下に述べるようにアレイ型超音波センサ101をセンサ設置位置1102に正確に設置させる際にも有効である。
【0047】
フォーク部の3D−PA法では、アレイ型超音波センサ101がフォーク部最外部1008のセンサ設置位置1102に正確に設置されており、超音波が所定の方向に入射されているという前提の元で伝播経路を計算してCAD融合三次元表示を行う。よって、アレイ型超音波センサ101が所定の位置からずれて設置されると、三次元形状データ205の正しい位置に形状エコーや欠陥エコーが表示されなくなり、精度の良い検査ができなくなるという問題点がある。前述のように、アレイ型超音波センサ101の設置作業は検査者が行うため、多少の設置位置のずれは避けられない。
【0048】
本実施例の鳥瞰画面501、切断画面502aおよび502b、拡大画面503aおよび503b、特に切断画面502aおよび502b、拡大画面503aおよび503bは、ピン穴1109a、1109b、1109cからの反射信号による形状エコーと、三次元形状データ205上でのピン穴1109a、1109b、1109c位置が一致していることを確認するのに好適である。例えば、アレイ型超音波センサ101が正確に所定の位置に設置されている場合は、
図6に示したように形状エコー601a、601b、601cおよび601dがピン穴1109a付近の正しい位置に表示されるが、アレイ型超音波センサ101の位置がずれている場合は、
図7に示すように、形状エコー701a、701b、701cおよび701dの表示位置も正しい位置からずれてしまう。
【0049】
本実施例では、これを利用して、アレイ型超音波センサ101を所定の位置に設置させるようにしている。切断画面502aおよび502b、拡大画面503aおよび503bでピン穴1109a、1109b、1109cの形状エコーが形状データのピン穴に一致するようにアレイ型超音波センサ101の位置を調整すればよいのである。
【0050】
特に、拡大画面は、常に同じ視線方向で、同じ寸法で表示されるので、位置の確認・調整が極めて容易となり、また、本実施例の拡大画面はフォーク部最外部1008のセンサ設置位置1102の正面又は裏面から見た正面図及び裏面図であり、二次元表示となっているので、位置の確認が極めて容易となる。
【0051】
このようにしてアレイ型超音波センサ101をセンサ設置位置1102に正確に設置すると、
図8に示すように、形状エコー801a、801b、801cおよび801dはもちろんのこと、欠陥エコー802も正確な位置に表示され、ピン穴近傍に発生している欠陥の有無と位置が容易に確認できる。
【0052】
また、本実施例の装置は、所定の位置にアレイ型超音波センサ101が設置された場合に、ピン穴の形状エコーが表示されるべき位置にマーカ803が表示されるようになっている。マーカは切断画面502aおよび502b、拡大画面503aおよび503bに識別し易いような形状と色で表示される。
図8では、拡大画面にマーカ803を表示させているが、切断画面に、又は、拡大画面と切断画面の両方に表示させるようにしても良い。データの収録と表示とアレイ型超音波センサ101の設置位置の調整を繰り返すことで、検査者は容易にアレイ型超音波センサ101をセンサ設置位置1102に正確に設置することができる。
【0053】
ここで、マーカ803の表示位置は、事前に各超音波ビーム105の伝播経路解析を行い、求めた伝播経路が特徴形状部と交差した部分を表示位置とする。特徴形状部とは、超音波が反射する面やコーナー部を指す。特徴形状部は任意に選択して良いが、フォーク部最外部1008においては
図1に示したピン穴コーナー部1010aや、階段形状に伴うコーナー部1010bを選択する。
【0054】
一つの入射超音波ビームに対して伝播経路が一つに定まらない場合がある。この場合は以下のようにする。先に述べたように、本実施例ではアレイ型超音波センサ101から、くさび108を介して横波超音波をフォーク部最外部1008に入射させる。一般に縦波や横波は検査対象の内部で反射する度に、エネルギーの一部を互いに交換しあいながら伝播していく。これをモード変換と呼ぶ。
図9に鋼材中の縦波および横波の反射率を示す。フォーク部最外部1008に入射した横波は、反射面に対する入射角が0°から33°未満の場合には、
図10(a)に示すように、そのエネルギーの一部が縦波に変換され、横波と縦波の二つの伝播経路に分岐する。更に次の反射でも同様に、
図10(a)に示すように、分岐した伝播経路が各々二つに分岐する。このように、一般に反射を繰り返すほど伝播経路は複雑に枝分かれしていく。このような場合には伝播経路が一つに定まらないため、本実施例では横波の伝播経路だけを用いる。フォーク部最外部1008に入射された横波からモード変換により派生した縦波の伝播経路は無視する。縦波から二次的に派生した横波の伝播経路も無視する。これにより、伝播経路解析が簡略化され、容易にマーカ位置を決定することができる。また、通常、探傷計画を立てる際には特定のモードの超音波たけに着目することが多く、実用上も横波の伝播経路だけを用いることで問題はない。
【0055】
図10(b)に示すように、反射の際の入射角が33°以上の横波は、モード変換を起こさずに全反射を繰り返すため、伝播経路が分岐しない。この場合は伝播経路解析が簡略化されるだけでなく、エネルギー損失が少ないため信号強度が劣化しないという利点もあるため、33°以上の入射角の横波を用いるのが最も好ましい。
【0056】
本実施例によれば、多数のタービン動翼フォーク部に対する超音波検査であっても、フォーク部の超音波探傷の精度を向上させ、さらに、フォーク部のピン穴に発生する欠陥の有無と位置を短時間で効率的に検査することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
101:アレイ型超音波センサ
102:送・受信部
102A:計算機
102A1:CPU
102A2:RAM
102A3:ROM
102B:遅延時間制御部
102C:パルサー
102D:レシーバ
102E:データ収録部
102F:マウス
102G:キーボード
103:表示部
103A:三次元表示画面
104:圧電振動素子
105:超音波ビーム
106:入射角度
107:スキャン範囲
108:くさび
201:き裂
202:信号
203:伝播経路
204:入射点
205:3次元形状データ
206:セクタ
301:3次元探傷データ
302a:内部反射信号
302b:内部反射信号
302c:内部反射信号
302d:内部反射信号
402b:内部反射信号
402c:内部反射信号
402d:内部反射信号
501:鳥瞰画面
502a、502b:切断画面
503a、503b:拡大画面
504a、504b:切断位置
505a、505b:センサ中央位置
506:センサ外形
507a、507b:CADデータの外形線
601a、601b、601c、601d:形状エコー
701a、701b、701c、701d:形状エコー
801a、801b、801c、801d:形状エコー
802:欠陥エコー
803:マーカ
901:回転軸
902:動翼
903:ディスク
1004:フォーク部
1005:溝
1006:ピン穴
1007:ピン
1008:フォーク部最外部
1101:応力部
1102:センサ設置位置
1109a、1109b、1109c:ピン穴