(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板を収納する容器本体と、この容器本体の正面を開閉する蓋体とを備え、容器本体の内部両側に、基板を略水平に支持する支持片を対向させて設け、基板を収納した容器本体の開口した正面に蓋体を嵌め入れた場合に、支持片から基板を浮上させて容器本体の内面に接触支持させる基板収納容器であって、
容器本体の内面と蓋体のうち、少なくとも容器本体の内面に、支持片から浮上した基板を支持する溝を設け、この溝を区画する斜面を、支持片を移動した基板の周縁部に最初に接触する第一のツヤ領域と、この第一のツヤ領域を通過して来た基板の周縁部に接触するツヤ消し領域と、このツヤ消し領域を通過して来た基板の周縁部に接触して溝の谷に誘導する第二のツヤ領域とに区画し、第一、第二のツヤ領域の静摩擦係数をツヤ消し領域の静摩擦係数よりも低くし、ツヤ消し領域の動摩擦係数を第一、第二のツヤ領域の動摩擦係数よりも低くしたことを特徴とする基板収納容器。
蓋体の基板に対向する対向面に、基板の周縁前部に弾性片の溝を圧接して保持するフロントリテーナを取り付け、このフロントリテーナの溝を区画する斜面を、基板の周縁前部に最初に接触する第一のツヤ領域と、この第一のツヤ領域を通過して来た基板の周縁前部に接触するツヤ消し領域と、このツヤ消し領域を通過して来た基板の周縁前部に接触して溝の谷に誘導する第二のツヤ領域とから形成し、第一、第二のツヤ領域の静摩擦係数をツヤ消し領域の静摩擦係数よりも低くし、ツヤ消し領域の動摩擦係数を第一、第二のツヤ領域の動摩擦係数よりも低くした請求項1記載の基板収納容器。
【背景技術】
【0002】
従来における基板収納容器は、図示しないが、複数枚の半導体ウェーハを収納する容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する蓋体とを備え、半導体ウェーハを収納した容器本体の正面に蓋体が嵌合された場合に、容器本体の支持片から半導体ウェーハを浮上させて容器本体の内面に圧接支持させるようにしている(特許文献1、2、3、4参照)。
【0003】
容器本体は、例えば強度に優れるポリカーボネート樹脂等からなる所定の成形材料で正面の開口したフロントオープンボックスに成形され、両側壁の内面に、半導体ウェーハを水平に支持する左右一対の支持片が対設されており、この一対の支持片が所定の間隔で上下方向に複数配列されている。容器本体の両側壁における内面後方には、一対の支持片から浮上した半導体ウェーハを支持する左右一対の支持溝が対設され、この一対の支持溝が所定の間隔で上下方向に複数配列されている。各支持溝は、容器本体の成形時に断面V字形に一体形成され、溝の谷に半導体ウェーハを斜面により誘導するよう機能する。
【0004】
蓋体は、容器本体の正面に対応する正面略矩形に形成され、収納された半導体ウェーハに対向する対向面に、半導体ウェーハを保持するフロントリテーナが装着されている。このフロントリテーナは、例えば蓋体の対向面に装着される枠体を備え、この枠体の左右両側部に、バネ性を有する複数の弾性片がそれぞれ並べて配設されており、各弾性片の先端部に、半導体ウェーハの周縁前部を保持する保持溝が一体形成されている。
【0005】
このような基板収納容器は、容器本体に複数枚の半導体ウェーハが支持片を介して水平状態に整列収納され、容器本体の開口した正面に蓋体が圧入して嵌合されると、半導体ウェーハの周縁前部にフロントリテーナの弾性片が撓みながら保持溝を圧接し、この弾性片の保持溝に半導体ウェーハの周縁前部が弾発的に保持されるとともに、半導体ウェーハが容器本体の後方に押される。
【0006】
容器本体に蓋体が圧入され、半導体ウェーハが容器本体の後方に押されると、容器本体の支持片から半導体ウェーハが僅かに浮上してその周縁側部が容器本体の支持溝の斜面に接触し、この支持溝の斜面から谷に半導体ウェーハが摺接してせり上がり、支持溝の谷に半導体ウェーハが位置決めされることとなる。
【0007】
これに対し、容器本体の正面から蓋体が取り外されると、半導体ウェーハは、容器本体の支持溝の谷から斜面に摺接しながら下降し、この支持溝の斜面から元の支持片の表面に復帰し、その後、専用のロボットハンドにより容器本体から取り出されて半導体用の加工装置等にセットされることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来における基板収納容器は、以上のように構成され、容器本体の支持溝には、半導体ウェーハを滑らか、かつ確実にせり上がらせたり、半導体ウェーハを円滑、かつ確実に下降させる機能が求められる。
しかしながら、従来における容器本体の支持溝は、容器本体の成形時に単に凹み形成されるに止まり、材質や表面の状態がさほど考慮されていないので、半導体ウェーハの滑らかなせり上がりや円滑な下降が期待できない場合がある。
【0010】
これをそのまま放置すると、支持溝に半導体ウェーハを安定した姿勢で支持させることが困難になるおそれがある。また、支持片の元の位置に半導体ウェーハが不用意に復帰したり、適切に復帰せずに位置ずれし、ロボットハンドによる半導体ウェーハの取り出しに支障を来たすという問題が生じる。
【0011】
係る事態に対処するため、(1)支持溝の角度を変更する方法や(2)蓋体の圧入荷重を増大させ、支持溝の斜面に半導体ウェーハの周縁側部を強く圧接する方法が提案されている。
しかし、(1)の方法の場合には、容器本体用の金型に大規模な改良を施したり、コストの増大を招くという問題が新たに生じる。また、支持溝の角度によっては、半導体ウェーハの円滑な下降が期待できるものの、半導体ウェーハの滑らかなせり上がりが実現できないことがあり、この逆の事態も予想される。
【0012】
また、(2)の方法の場合には、容器本体用の金型に大きな改良等を施す必要はないが、支持溝の斜面に半導体ウェーハの周縁側部を特に強く圧接する必要がある。この結果、支持溝の斜面が傷付き、汚染の原因となるパーティクルが発生するという問題が生じることとなる。
【0013】
本発明は上記に鑑みなされたもので、基板を滑らかにせり上がらせたり、適切に下降させることができ、しかも、蓋体に作用する荷重の増大を抑制することのできる基板収納容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては上記課題を解決するため、基板を収納する容器本体と、この容器本体の正面を開閉する蓋体とを備え、容器本体の内部両側に、基板を略水平に支持する支持片を対向させて設け、基板を収納した容器本体の開口した正面に蓋体を嵌め入れた場合に、支持片から基板を浮上させて容器本体の内面に接触支持させるものであって、
容器本体の内面と蓋体のうち、少なくとも容器本体の内面に、支持片から浮上した基板を支持する溝を設け、この溝を区画する斜面を、
支持片を移動した基板の周縁部に最初に接触する第一のツヤ領域と、この第一のツヤ領域を通過して来た基板の周縁部に接触するツヤ消し領域と、このツヤ消し領域を通過して来た基板の周縁部に接触して溝の谷に誘導する第二のツヤ領域とに区画し、第一、第二のツヤ領域の静摩擦係数をツヤ消し領域の静摩擦係数よりも低くし、ツヤ消し領域の動摩擦係数を第一、第二のツヤ領域の動摩擦係数よりも低くしたことを特徴としている。
【0016】
なお、蓋体の基板に対向する対向面に、基板の周縁前部に弾性片の溝を圧接して保持するフロントリテーナを取り付け、このフロントリテーナの溝を区画する斜面を、基板の周縁前部に最初に接触する第一のツヤ領域と、この第一のツヤ領域を通過して来た基板の周縁前部に接触するツヤ消し領域と、このツヤ消し領域を通過して来た基板の周縁前部に接触して溝の谷に誘導する第二のツヤ領域とから形成し、
第一、第二のツヤ領域の静摩擦係数をツヤ消し領域の静摩擦係数よりも低くし、ツヤ消し領域の動摩擦係数を第一、第二のツヤ領域の動摩擦係数よりも低くすることができる。
【0017】
また、容器本体の溝とフロントリテーナの溝とのうち、少なくとも容器本体の溝を、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、あるいはシクロオレフィンポリマー樹脂により成形することができる。
また、斜面の第一、第二のツヤ領域をポリブチレンテレフタレート樹脂により成形し、斜面のツヤ消し領域をポリカーボネート樹脂により成形することもできる。
【0018】
ここで、特許請求の範囲における基板には、少なくともφ200、300、450mmの半導体ウェーハ、ガラスウェーハ、マスクガラス等が必要数含まれる。容器本体は、透明、不透明、半透明のいずれでも良い。この容器本体の内部両側には、支持片を一体形成したり、別体の支持片を着脱自在に装着することもできる。また、蓋体を、容器本体の正面内に嵌め合わされる蓋本体と、この蓋本体の開口した表面を被覆する表面プレートとから形成し、これら蓋本体と表面プレートとの間に蓋体用の施錠機構を介在することができる。また、溝のツヤ消し領域は、シボ加工等することができる。
【0019】
本発明によれば、基板収納容器の容器本体に基板が支持片を介して収納され、容器本体の開口した正面に蓋体がきつく嵌合されると、容器本体の支持片上を基板が移動してその周縁部が支持溝の第一のツヤ領域に接触し、この第一のツヤ領域からツヤ消し領域と第二のツヤ領域とを順次接触してせり上がり、支持片から浮き上がって支持溝の谷に基板が支持される。この際、基板の周縁部は、フロントリテーナの溝に押される形で支持片上を水平移動し、支持溝の傾斜面の下端部に接触して一旦停止した後に、移動方向を上方に変更して傾斜面をせり上がり始める。
【0020】
このように傾斜面をせり上がるときには、静摩擦係数の低い第一のツヤ領域に最初に接触し、傾斜面の移動が開始され、動き始めた後は動摩擦係数の小さいツヤ消し領域に接触するので、円滑な上昇が期待できる。
【0021】
これに対し、容器本体の正面から蓋体が取り外されると、基板は、支持溝の谷から斜面の第二のツヤ領域、ツヤ消し領域、第一のツヤ領域に順次接触しながら下降し、第一のツヤ領域から元の支持片に復帰する。この際、
静摩擦係数の小さい第二のツヤ領域から引っ掛かりがなく、スムーズに動き出し、動摩擦係数が低いツヤ消し領域が第一、第二のツヤ領域の間に位置するので、基板が途中で引っ掛かることなく落下し、下端部の第一のツヤ領域で僅かに減速して定位置に停止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溝を区画する斜面を、
支持片を移動した基板の周縁部に最初に接触する第一のツヤ領域と、この第一のツヤ領域を通過して来た基板の周縁部に接触するツヤ消し領域と、このツヤ消し領域を通過して来た基板の周縁部に接触して溝の谷に誘導する第二のツヤ領域とに区画し、第一、第二のツヤ領域の静摩擦係数をツヤ消し領域の静摩擦係数よりも低くし、ツヤ消し領域の動摩擦係数を第一、第二のツヤ領域の動摩擦係数よりも低くするので、基板を滑らかにせり上がらせたり、適切に下降させることができ、しかも、蓋体に作用する荷重の増大を抑制することができるという効果がある。
【0023】
また、
請求項2記載の発明によれば、フロントリテーナの弾性片の溝の斜面を三区分してその摩擦係数を変更するので、フロントリテーナの溝に、基板を滑らかにせり上がらせたり、基板を円滑に下降させる機能を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器は、
図1ないし
図5に示すように、複数枚の半導体ウェーハWを収納する容器本体1と、この容器本体1の開口した正面2を開閉する着脱自在の蓋体10とを備え、容器本体1の両側壁に、容器本体1の支持片3から浮上した半導体ウェーハWを支持する一対の支持溝40を対向させて複数配設し、各支持溝40の少なくとも下方の斜面43を、第一のツヤ領域44、ツヤ消し領域45、及び第二のツヤ領域46に区分して形成するようにしている。
【0026】
半導体ウェーハWは、例えばφ300や450mmの薄く脆いシリコンウェーハ等からなり、
図1ないし
図3に示すように、容器本体1内に水平に支持され、かつ複数枚(例えば25枚)が上下方向に整列収納される。
【0027】
容器本体1と蓋体10とは、所要の樹脂を含有する成形材料により複数の部品がそれぞれ射出成形され、この複数の部品の組み合わせで構成される。この成形材料の所要の樹脂としては、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、液晶ポリマーといった熱可塑性樹脂やこれらのアロイ等があげられる。
【0028】
これらの樹脂には、カーボン繊維、カーボンパウダー、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー等からなる導電物質やアニオン、カチオン、非イオン系等の各種帯電防止剤が必要に応じて添加される。また、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤が添加されたり、剛性を向上させるガラス繊維や炭素繊維等も選択的に添加される。
【0029】
容器本体1は、
図1ないし
図3に示すように、正面2が開口したフロントオープンボックスタイプに形成され、開口した正面2を水平横方向に向けた状態で半導体製造工場の天井搬送機構に把持して工程間を搬送されたり、半導体加工装置に付属の蓋体開閉装置上に位置決めして搭載される。この容器本体1は、その内部両側、換言すれば、左右両側壁の内面に、半導体ウェーハWを水平に支持する一対の支持片3がそれぞれ対設される。
【0030】
一対の支持片3は、
図1や
図2に示すように、上下方向に所定の間隔で配列され、各支持片3が半導体ウェーハWの周縁側部を下方から支持する細長い板に形成されており、各支持片3の前部表面には、半導体ウェーハWの飛び出しを規制する段差部が一体形成される。また、容器本体1の底板における前後部の両側には取付孔4がそれぞれ貫通して穿孔され、各取付孔4に気体置換用のフィルタバルブ5が嵌着される。この複数のフィルタバルブ5は、エアやパージガス等の気体を内外に流通させることにより、基板収納容器の内外圧力差を解消するよう機能する。
【0031】
容器本体1の底板裏面における前部両側と後部中央とには、容器本体1を位置決めする位置決め具がそれぞれ配設される。各位置決め具は、基本的には平面略楕円形を呈する断面略V字形状に形成されてその一対の斜面を備えた凹部を下方に指向させ、蓋体開閉装置の位置決めピンに上方から凹部を嵌合・摺接させることにより、容器本体1を高精度に位置決めするよう機能する。また、容器本体1の底板裏面には、別体のボトムプレートが螺子具を介して水平に螺着され、このボトムプレートが複数の位置決め具をそれぞれ露出させる。
【0032】
容器本体1の天井中央部には、半導体製造工場の天井搬送機構に把持される搬送用のトップフランジ6が着脱自在に装着され、容器本体1の正面2内周における上部両側と下部両側とには、施錠用の施錠穴7がそれぞれ穿孔される。また、容器本体1の両側壁中央部には、握持操作用のグリップ具8がそれぞれ着脱自在に装着され、両側壁の下部には、搬送用のサイドレール9がそれぞれ選択的に水平に装着される。
【0033】
蓋体10は、
図1ないし
図3に示すように、容器本体1の開口した正面2内に圧入して嵌合される蓋本体11と、この蓋本体11の開口した正面を被覆する表面プレート17と、容器本体1の正面2内周と蓋本体11との間に介在される密封封止用のシールガスケット19とを備え、蓋本体11と表面プレート17との間に、施錠用の施錠機構30が介在して設置される。
【0034】
蓋本体11は、基本的には底の浅い断面略皿形状に形成され、内部に補強用や取付用のリブが複数配設されており、半導体ウェーハWに対向する対向面、すなわち裏面に、半導体ウェーハWを弾発的に保持するフロントリテーナ12が装着される。このフロントリテーナ12は、蓋本体11の対向面中央部に装着される縦長の枠体13を備え、この枠体13の左右両側部に、内方向に伸びる複数の弾性片14がそれぞれ上下に並べて配列形成される。各弾性片14は、例えば可撓性や弾性を有する細長い線条に形成され、先端部に、半導体ウェーハWの周縁前部を保持する断面略V字形状の保持溝15が一体形成される。
【0035】
蓋本体11の裏面周縁部には枠形状の嵌合溝が凹み形成され、この嵌合溝内に、容器本体1の正面2内周に圧接するシールガスケット19が密嵌されており、蓋本体11の周壁における上部両側と下部両側とには、容器本体1の施錠穴7に対向する施錠機構30用の出没孔16が貫通して穿孔される。
【0036】
表面プレート17は、横長の正面矩形状に形成され、補強用や取付用のリブ、螺子孔等が複数配設される。この表面プレート17の両側部には、施錠機構30用の操作孔18がそれぞれ穿孔される。
【0037】
施錠機構30は、蓋体10の蓋本体11における左右両側部にそれぞれ軸支されて外部から回転操作される左右一対の回転プレート31と、各回転プレート31の回転に伴い蓋体10の上下方向にスライドする複数の進退動プレート32と、各進退動プレート32のスライドに伴い蓋本体11の出没孔16から出没して容器本体1の施錠穴7に接離する複数の施錠爪33とを備えて構成される。
【0038】
各回転プレート31は、蓋体10の表面プレート17の操作孔18に対向し、この操作孔18を貫通した蓋体開閉装置の操作キーにより回転操作される。また、各施錠爪33は、基本的には断面略L字形状に屈曲形成されてその先端部には回転可能なローラを備え、蓋本体11内の出没孔16付近に揺動可能に軸支されて進退動プレート32の先端部にピンを介し連結されており、容器本体1の施錠穴7にローラを接離する。
【0039】
一対の支持溝40は、
図2、
図4、
図5に示すように、容器本体1の両側壁における内面後方に配設されて上下方向に並ぶとともに、支持片3の後方に位置し、各支持溝40が容器本体1の前後方向に水平に伸びる断面V字形状に凹み形成されており、半導体ウェーハWの過剰な挿入を規制し、かつ深い谷41に半導体ウェーハWの周縁側部を斜面42・43により誘導するよう機能する。この支持溝40は、所要の成形材料、例えばポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂を使用する多色成形法等により成形される。
【0040】
支持溝40は、相対向する上下一対の斜面42・43に区画され、各斜面42・43が50°〜70°、好ましくは55°〜65°、より好ましくは60°の角度で傾斜する。この上下一対の斜面42・43のうち、少なくとも下方の斜面43は、
図5に示すように、支持片3の表面を移動した半導体ウェーハWの周縁側部に最初に接触する第一のツヤ領域44となる下端部に位置する第一の領域と、第一のツヤ領域44を通過して来た半導体ウェーハWの周縁側部に摺接し、中間部に位置する第二の領域となるツヤ消し領域45と、このツヤ消し領域45を通過して来た半導体ウェーハWの周縁側部に摺接して支持溝40の谷41に誘導する第二のツヤ領域46となる第三の領域に区分されるように形成される。
【0041】
第一のツヤ領域44、ツヤ消し領域45、第二のツヤ領域46は、必要に応じ、同じ長さ・幅に形成されたり、異なる長さ・幅に形成される。例えば、ツヤ消し領域45を最も長い長さ・幅に形成し、第一のツヤ領域44をその次に長い長さ・幅に形成し、第二のツヤ領域46を最も短い長さ・幅に形成することができる。
【0042】
第一、第二のツヤ領域44・46は、例えば金型のキャビティ面の鏡面加工等により転写形成され、ツヤ消し領域45よりも
静摩擦係数が低く、斜面を動き始めるときの滑性に優れるという特徴を有する。第一、第二のツヤ領域44・46の
静摩擦係数は、同一の値でも良いし、多少異なる値でも良い。この第一、第二のツヤ領域44・46は、ポリブチレンテレフタレート樹脂により成形された場合に最も優れた滑性効果を発揮する。
【0043】
ツヤ消し領域45は、例えば充填材の使用、金型によるシボ加工、成形後の機械的加工等により第一、第二のツヤ領域44・46よりも動摩擦係数が低く形成され、半導体ウェーハWの周縁側部が第一、第二のツヤ領域44・46との間で引っ掛かってしまうことを防止する。ツヤ消し領域45は、先程と同様、ポリブチレンテレフタレート樹脂により成形された場合に優れた滑性効果を発揮する。
【0044】
上記構成において、基板収納容器の容器本体1に複数枚の半導体ウェーハWが支持片3を介して水平状態に整列収納され、容器本体1の開口した正面2に蓋体10が蓋体開閉装置により圧入して嵌合されると、半導体ウェーハWの周縁前部にフロントリテーナ12の弾性片14が撓みながら保持溝15を圧接し、この弾性片14の保持溝15に半導体ウェーハWの周縁前部が弾発的に保持されるとともに、半導体ウェーハWがやや撓みながら容器本体1の後方に押される。
【0045】
容器本体1に蓋体10が圧入され、半導体ウェーハWが容器本体1の後方に押されると、容器本体1の支持片3から半導体ウェーハWが水平に移動してその周縁側部が支持溝40の第一のツヤ領域44に接触し、この第一のツヤ領域44からツヤ消し領域45と第二のツヤ領域46とを順次摺接してせり上がり、支持溝40の谷41に半導体ウェーハWが位置決めされることとなる(
図5参照)。この際、半導体ウェーハWの周縁側部が第一のツヤ領域44に最初に接触するので、その後の円滑な上昇が期待できる。
【0046】
これに対し、容器本体1の正面2から蓋体10が蓋体開閉装置により取り外されると、半導体ウェーハWは、支持溝40の谷41から斜面43の第二のツヤ領域46、ツヤ消し領域45、第一のツヤ領域44に順次摺接しながら下降し、この第一のツヤ領域44から元の支持片3の表面に復帰し、その後、専用のロボットハンドにより容器本体1から外部に取り出されて半導体用の加工装置等にセットされる。この際、ツヤ消し領域45が第一、第二のツヤ領域44・46の間に位置するので、半導体ウェーハWが移動中に引っ掛かることがない。
【0047】
このような第一のツヤ領域44、ツヤ消し領域45、及び第二のツヤ領域46の効果は、容器本体1と蓋体10とをそれぞれ透明に成形すれば、確認することができるが、
図6に示す半導体ウェーハW用の支持構造検討装置50を用い、この支持構造検討装置50を基板収納容器と看做せば、容易に確認することができる(この点については、特開2012−043985号公報参照)。
【0048】
この支持構造検討装置50は、例えばφ450mmの半導体ウェーハWよりも大きいベース板51と、このベース板51の表面に取り付けられて基板収納容器の蓋体10として進退動するスライダ52とを備え、これらベース板51とスライダ52とに、半導体ウェーハWの周縁部を支持する複数のサポート具53がそれぞれ配設される。
【0049】
ベース板51の複数のサポート具53は、ベース板51の略馬蹄形状に湾曲したガイド溝にスライド可能に嵌入支持され、容器本体1の支持溝40と看做される。このベース板51の各サポート具53には、断面V字形状の支持溝40が所要の樹脂等により凹み成形され、この支持溝40の下方の斜面43が例えば60°の角度で傾斜する。
【0050】
支持溝40の下方の斜面43は、支持片3の表面から浮上した半導体ウェーハWの周縁側部に最初に接触する第一のツヤ領域44と、この第一のツヤ領域44を通過して来た半導体ウェーハWの周縁側部に摺接するツヤ消し領域45と、このツヤ消し領域45を通過して来た半導体ウェーハWの周縁側部に摺接して支持溝40の谷41に誘導する第二のツヤ領域46とから形成され、ツヤ消し領域45がシボ加工される。
【0051】
スライダ52には、スライド量を検出するスライド検出器、及び複数のサポート具53に支持された半導体ウェーハW用の荷重検出器が配設される。このスライダ52の複数のサポート具53は、蓋体10のフロントリテーナ12と看做される。
【0052】
上記構成によれば、支持溝40の下方の斜面43を三区分してその摩擦係数を変更するので、容器本体1の支持溝40に、半導体ウェーハWを滑らか、かつ確実にせり上がらせたり、半導体ウェーハWを円滑、かつ確実に下降させる機能を付与することができる。したがって、支持溝40に半導体ウェーハWを安定した姿勢で支持させることができ、半導体ウェーハWの破損を招くことが全くない。
【0053】
また、支持片3の元の位置に半導体ウェーハWを適切に復帰させることができるので、ロボットハンドによる半導体ウェーハWの取り出しに支障を来たすおそれを有効に排除することができる。また、支持溝40の角度を変更するため、容器本体1用の金型に大規模な改良を施す必要がないので、成形作業の遅延化や煩雑化を抑制したり、コストの増大防止も期待できる。さらに、支持溝40の斜面43に半導体ウェーハWの周縁側部を特に強く圧接する必要がないので、支持溝40の斜面43が傷付いたり、パーティクルが発生するのを防止することが可能になる。
【0054】
次に、
図7は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、容器本体1の支持溝40の他、フロントリテーナ12の各保持溝15を区画する上下一対の斜面20・21のうち、少なくとも下方の斜面21を、半導体ウェーハWの周縁前部に最初に接触する第一のツヤ領域23と、この第一のツヤ領域23を通過して来た半導体ウェーハWの周縁前部に接触するツヤ消し領域24と、このツヤ消し領域24を通過して来た半導体ウェーハWの周縁前部に接触して保持溝15の谷22に誘導する第二のツヤ領域25とに区分して形成するようにしている。
【0055】
保持溝15を区画する上下一対の斜面20・21は、それぞれ50°〜70°、好ましくは55°〜65°、より好ましくは60°の角度で傾斜する。また、第一、第二のツヤ領域23・25は、例えば金型のキャビティ面の鏡面加工等により転写形成され、ツヤ消し領域24よりも
静摩擦係数が低く、ツヤ消し領域24よりも移動開始の滑性に優れる。第一、第二のツヤ領域23・25の動摩擦係数は、同一の値でも良いし、多少異なる値でも良い。この第一、第二のツヤ領域23・25は、ポリブチレンテレフタレート樹脂により成形された場合に最も優れた滑性を発揮する。
【0056】
ツヤ消し領域24は、例えば充填材の使用、金型によるシボ加工、成形後の機械的加工等により、第一、第二のツヤ領域23・25よりも動摩擦係数が低く形成され、半導体ウェーハWの周縁前部が第二のツヤ領域25から第一のツヤ領域23に移動する際に途中で引っ掛かってしまうことを防止する。このツヤ消し領域24は、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリカーボネート樹脂により成形することができる。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0057】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、保持溝15の下方の斜面21を三区分してその摩擦係数を変更するので、フロントリテーナ12の保持溝15に、半導体ウェーハWを滑らか、かつ確実にせり上がらせたり、半導体ウェーハWを円滑、かつ確実に下降させる機能を付与することができるのは明らかである。
【0058】
なお、上記実施形態ではフロントリテーナ12の枠体13の両側部に複数の弾性片14をそれぞれ上下に並べて配列形成したが、左右の弾性片14を連結片を介して連結し、この連結片に保持溝15を形成しても良い。また、枠体13の上下部間に連結柱を縦に架設し、この連結柱の左右両側部に複数の弾性片14をそれぞれ上下に並べて配列形成しても良い。
【0059】
また、支持溝40の一対の斜面42・43に、第一のツヤ領域44、ツヤ消し領域45、第二のツヤ領域46をそれぞれ形成しても良いし、上方の斜面42に、第一のツヤ領域44、ツヤ消し領域45、第二のツヤ領域46を形成しても良い。さらに、フロントリテーナ12の保持溝15の一対の斜面20・21に、第一のツヤ領域23、ツヤ消し領域24、第二のツヤ領域25をそれぞれ形成しても良いし、上方の斜面20に、第一のツヤ領域23、ツヤ消し領域24、第二のツヤ領域25を形成することも可能である。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
実施例1
先ず、
図6に示す半導体ウェーハ用の支持構造検討装置を用意し、この支持構造検討装置を基板収納容器と看做すこととした。この支持構造検討装置のベース板のサポート具には、断面V字形状の支持溝をポリカーボネート樹脂により凹み成形し、この支持溝の下方の斜面の傾斜角度を60°に設定した。
【0061】
支持溝の下方の斜面は、支持片の表面から浮上した半導体ウェーハの周縁側部に最初に接触する第一のツヤ領域と、この第一のツヤ領域を通過して来た半導体ウェーハの周縁側部に摺接するツヤ消し領域と、このツヤ消し領域を通過して来た半導体ウェーハの周縁側部に摺接して支持溝の谷に誘導する第二のツヤ領域とを備え、ツヤ消し領域がシボ加工により成形されている。
【0062】
支持構造検討装置を用意したら、この支持構造検討装置にφ450mmの半導体ウェーハをセットし、スライダをスライドさせて複数のサポート具に半導体ウェーハの周縁部を支持させるとともに、複数の支持溝の谷に半導体ウェーハの周縁側部をせり上がらせて支持させ、その後、スライダを元の位置に後退復帰させて各支持溝の谷から半導体ウェーハの周縁側部を下降させるようにした。複数の支持溝の谷に半導体ウェーハの周縁側部を支持させたら、その時のスライド検出器と荷重検出器の検出値をそれぞれ表1にまとめた。
【0063】
以上の作業を3回繰り返して支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が滑らか、かつ確実に上下動する場合には◎、支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が確実に上下動する場合には○、支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が引っかかるが、上下動する場合には△、支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が上下動しない場合には×とし、結果を表1にまとめた。これらは、スライド検出器や荷重検出器の検出値、及び目視により判断した。
【0064】
実施例2
基本的には実施例1と同様であるが、ベース板のサポート具に、断面V字形状の支持溝をポリブチレンテレフタレート樹脂により凹み成形し、この支持溝の下方の斜面に、第一のツヤ領域、ツヤ消し領域、第二のツヤ領域を形成した。この支持溝を用いて上記作業を3回繰り返し、結果を表1にまとめた。
【0065】
実施例3
基本的には実施例1と同様であるが、ベース板のサポート具に、断面V字形状の支持溝をシクロオレフィンポリマー樹脂により凹み成形し、この支持溝の下方の斜面に、第一のツヤ領域、ツヤ消し領域、第二のツヤ領域を形成した。この支持溝を用いて上記作業を3回繰り返し、結果を表1に記載した。
【0066】
実施例4
基本的には実施例1と同様だが、支持溝の下方の斜面の第一、第二のツヤ領域をポリブチレンテレフタレート樹脂により成形し、ツヤ消し領域をポリカーボネート樹脂により成形した。この支持溝を用いて上記作業を3回繰り返し、結果を表1に記載した。
【0067】
比較例
基本的には実施例と同様だが、支持溝をポリカーボネート樹脂により単に凹み成形し、この支持溝を、第一のツヤ領域、ツヤ消し領域、第二のツヤ領域を有しない従来タイプとした。この支持溝を用いて上記作業を3回繰り返し、結果を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から明らかなように、実施例1、2、3、4の場合には、支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が3回共確実に上下動し、良好な結果を得ることができた。特に、実施例2、4の場合には、支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が滑らか、かつ確実に上下動し、極めて良好な結果を得た。
【0070】
これに対し、比較例の場合には、支持溝の斜面を半導体ウェーハの周縁側部が引っかかりながら上下動したり、半導体ウェーハの周縁側部が上下動しないことがあり、良好な結果を得ることができなかった。このため、スライダのスライド量や半導体ウェーハに加わる荷重を増大せざるを得なかった。
【0071】
なお、以上の結果からフロントリテーナの保持溝の少なくとも下方の斜面に、第一のツヤ領域、ツヤ消し領域、第二のツヤ領域を形成しても、略同様の好結果が得られると推測される。