(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の実施の形態を図面を用いて説明する。
[第1の実施の形態]
図1乃至
図3は本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態を示すもので、
図1は本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態を示す概略縦断面図、
図2は本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態の一部を拡大して示す
図1とは異なる切断面の縦断面図、
図3は本発明の溶融炉心保持装置の第1の実施の形態を構成する冷却板を示す平面図である。
【0011】
本実施の形態は、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の原子炉格納容器を対象としたものである。
図1において、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の原子炉格納容器1は、鋼製ライナ2を内張りした鉄筋コンクリート製で構成されている。
【0012】
原子炉格納容器1内には、原子炉の燃料を保有する炉心3を内蔵した原子炉圧力容器4が格納されている。原子炉圧力容器4は、原子炉格納容器1の基礎部1a上に立設した略円筒状のペデスタル5によって支持されている。原子炉格納容器1の側壁1bとペデスタル5の間には、ダイヤフラムフロア6が架け渡されている。
【0013】
原子炉格納容器1の内部は、原子炉圧力容器4を取り囲む上部ドライウェル7と、ペデスタル5の内側で原子炉圧力容器4の下方に形成されたペデスタル空間8(下部ドライウェル)と、ペデスタル5の外周面を取り囲むサプレッションチェンバ9等とで構成されている。サプレッションチェンバ9はプール水10を有している。上部ドライウェル7、ペデスタル空間8とサプレッションチェンバ9とはダイヤフラムフロア6により区画されている。上部ドライウェル7とサプレッションチェンバ9は、ベント管11を介して相互に連通されている。
【0014】
ベント管11は、何らかの原因で原子炉圧力容器4や冷却系配管類(図示せず)の一部が損傷し、上部ドライウェル7内に蒸気が放出された場合に、蒸気を上部ドライウェル7からサプレッションチェンバ9へ導くものである。サプレッションチェンバ9へ導かれた蒸気はサプレッションチェンバ9のプール水10で凝縮され、原子炉格納容器1内の圧力上昇が抑制される。
【0015】
原子炉格納容器1には、図示しない原子炉緊急時冷却系(ECCS)及び原子炉隔離時冷却系(RCIC)が設けられている。原子炉緊急時冷却系、原子炉隔離時冷却系は、冷却材喪失事故(LOCA)や原子炉隔離事象が発生した場合に、その自動起動によって原子炉圧力容器4内の燃料を冷却するものである。
【0016】
原子炉圧力容器4の下方のペデスタル空間8の下部には、溶融炉心保持装置20が設置されている。溶融炉心保持装置20は、炉心3が溶融する過酷事故が発生し、炉心溶融物D(溶融炉心)が原子炉圧力容器4からペデスタル空間8内へ落下した場合に、炉心溶融物Dを受け止めるものである。
【0017】
次に、上述した本発明の溶融炉心保持装置の第1の実施の形態の詳細を
図2及び
図3を用いて説明する。なお、
図2及び
図3において、
図1に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0018】
図2において、溶融炉心保持装置20は、原子炉格納容器1の基礎部1aから上方に離間した状態でペデスタル5の内側に設置されている。溶融炉心保持装置20は、冷却板21と、冷却板21の上面を覆う犠牲層22とを備えている。
【0019】
冷却板21は、例えば、
図2及び
図3に示すように、平面視で略円盤状に形成され、下面が凸形状となる窪みを複数有している。すなわち、冷却板21は断面視凹凸状に形成され、冷却板21の上面、下面には、それぞれ複数の凹部21a、複数の凸部21bが設けられている。冷却板21は、SUS等の熱伝導率が高い金属材料により形成されている。
【0020】
犠牲層22は、コンクリートや金属酸化物等の冷却板21より高融点の材料により形成されている。犠牲層22は、炉心溶融物Dが原子炉圧力容器4から溶融炉心保持装置20上に落下した場合に、炉心溶融物Dの熱による冷却板21の損傷を防止するためのものである。
【0021】
溶融炉心保持装置20の冷却板21の下側には、冷却水を貯留可能な冷却水貯留空間30が設けられている。冷却水貯留空間30に貯留された冷却水は、冷却板21の下面に接触して冷却板21を冷却し、溶融炉心保持装置20上に落下した炉心溶融物Dを冷却板21を介して冷却する。
【0022】
冷却水貯留空間30には、サプレッションチェンバ9から下側注水ライン31が延びている。下側注水ライン31には、爆破弁32が設けられている。下側注水ライン31は、原子炉圧力容器4の破損の兆候を察知した場合に、爆破弁32を開放することにより、サプレッションチェンバ9のプール水10(冷却水)を冷却水貯留空間30に供給するものである。
【0023】
溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8には、サプレッションチェンバ9から上側注水ライン33が延びている。上側注水ライン33には、溶融弁34が設けられている。上側注水ライン33は、炉心溶融物Dが原子炉圧力容器4からペデスタル空間8内へ落下した場合に、炉心溶融物Dの熱により溶融弁34が開放されることにより、サプレッションチェンバ9のプール水10(冷却水)を溶融炉心保持装置20上に供給するものである。
【0024】
ペデスタル5には、冷却板21の下面側の冷却水貯留空間30と冷却板21の上面側のペデスタル空間8とを相互に連通する連通孔35が設けられている。連通孔35のペデスタル空間8側の開口部35aは、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20上に堆積したと想定した場合の堆積高さに対して余裕を持った高い位置に設けられている。
【0025】
連通孔35は、下側注水ライン31から冷却水貯留空間30に供給された冷却水を溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8に供給可能とし、上側注水ライン33から溶融物保持装置20上に供給された冷却水を冷却水貯留空間30に供給可能とするものである。
【0026】
ペデスタル5には、冷却水貯留空間30と上部ドライウェル7とを相互に連通する蒸気排出孔36が設けられている。蒸気排出孔36は、溶融炉心保持装置20上に堆積した炉心溶融物Dを冷却水貯留空間30に貯留された冷却水により冷却した際に、冷却水貯留空間30内に発生した蒸気を上部ドライウェル7へ排出するものである。
【0027】
次に、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態における過酷事故時の作用を
図2、
図4乃至
図7を用いて説明する。
図4は本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態における爆破弁を作動させた時の冷却板の冷却状態を示す説明図、
図5は本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態における炉心溶融物の冷却状態を示す説明図、
図6は本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態におけるペデスタル空間内に冷却水が貯留されていない場合の炉心溶融物の冷却状態を示す説明図、
図7は本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態における爆破弁が作動しない場合の炉心溶融物の冷却状態を示す説明図である。なお、
図4乃至
図7において、
図1乃至
図3に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0028】
配管破断等による冷却材喪失事故(LOCA)や原子炉隔離事象が発生した場合、
図2に示す原子炉格納容器1に設けた原子炉緊急時冷却系(図示せず)及び原子炉隔離時冷却系(図示せず)により原子炉圧力容器4に内蔵された炉心3を冷却する。しかし、極めて低い確率であるが、これらの冷却系の冷却機能が同時に失われた場合、原子炉圧力容器4内の水位が低下し、炉心3内の燃料が崩壊熱で過熱、溶融し、炉心溶融物Dとなって原子炉圧力容器4の底部を貫通することが想定され得る。
【0029】
このような原子炉圧力容器4の破損の兆候を原子炉圧力容器4内の水位、注水中断の時間等から察知した場合、下側注水ライン31に設けた爆破弁32を開放し、サプレッションチェンバ9のプール水10(冷却水)を溶融炉心保持装置20の下側に設けた冷却水貯留空間30に供給する。
【0030】
冷却水貯留空間30に供給された冷却水は、
図4に示すように、冷却水貯留空間30を冠水し、溶融炉心保持装置20の冷却板21を冷却する。その後、この冷却水は、連通孔35の開口部35aから溢れ出て、溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8内に流れ込み、溶融炉心保持装置20の上側に貯留された状態となる。
【0031】
この下側注水ライン31から冷却水貯留空間30に供給する冷却水の流量を、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20に落下すると想定される時間内に冷却水貯留空間30を冠水可能となるように定めておく。このことにより、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20上に落下する前に、溶融炉心保持装置20の冷却板21がこの冷却水により確実に冷却される。
【0032】
事故事象の進展に伴い、炉心溶融物Dが原子炉圧力容器4の底を貫通すると、炉心溶融物Dは、溶融炉心保持装置20の犠牲層22の上に落下し、堆積する。
【0033】
この炉心溶融物Dは、
図5に示すように、溶融炉心保持装置20の犠牲層22を溶融して、溶融炉心保持装置20の冷却板21に達する。炉心溶融物Dの底部は、冷却板21の上面の各凹部21a内に分散するように冷却板21上に拡がる。このように、炉心溶融物Dは、その底部の一部が冷却板21の各凹部21aに分散して拡がるため、大きな山状に堆積することがなく、炉心溶融物Dの再臨界の可能性が低減する。
【0034】
溶融炉心保持装置20上に堆積した炉心溶融物Dは、溶融炉心保持装置20の上側に貯留されている冷却水により、上面から冷却される。また、冷却水貯留空間30に貯留されている冷却水により、冷却板21を介して下面から冷却される。冷却板21は断面視凹凸状に形成されているので、冷却板21の伝熱面積が平板状のものより増加し、その冷却能力が向上している。
【0035】
このように、冷却板21の伝熱面積を増加させ、炉心溶融物Dを上下両面から冷却することにより、炉心溶融物Dが効果的に冷却される。このため、溶融炉心保持装置20の損傷が防止される。
【0036】
冷却水貯留空間30に貯留された冷却水により炉心溶融物Dが冷却されると、この冷却水は沸騰し、冷却水貯留空間30内に蒸気が発生する。この蒸気は、蒸気排出孔36を介して上部ドライウェル7へ又は連通孔35を介してペデスタル空間8へ排出される。
【0037】
上述したように、原子炉圧力容器4の破損の兆候を察知した場合には、爆破弁32を開放して冷却水を冷却水貯留空間30に供給するが、
図6に示すように、この冷却水が連通孔35の開口部35aから溢れ出る前に炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20に落下する場合も想定され得る。
【0038】
この場合、溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8内に冷却水が貯留されていないため、溶融炉心保持装置20上に堆積した炉心溶融物Dは、上面から冷却されず、冷却水貯留空間30に貯留された冷却水により、その下面のみ冷却される。
【0039】
このため、炉心溶融物Dの熱によりペデスタル空間8内の温度が上昇し、上側注水ライン33に設けた溶融弁34が開放される。溶融弁34が開放されると、上側注水ライン33を介してサプレッションチェンバ9のプール水10(冷却水)が溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8に供給され、この冷却水により炉心溶融物Dは上面から冷却される。
【0040】
このように、溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8内に冷却水が貯留されていない状態において、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20に落下した場合でも、炉心溶融物Dが確実に上下両面から冷却され、溶融炉心保持装置20の損傷が防止される。
【0041】
また、
図7に示すように、下側注水ライン31に設けた爆破弁32が何らかの原因により作動せずに、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20に落下する場合も想定され得る。
【0042】
この場合、炉心溶融物Dの熱により上側注水ライン33に設けた溶融弁34が開放され、冷却水が上側注水ライン33を介して溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8に供給される。この冷却水により炉心溶融物Dは上面から冷却される。
【0043】
その後、この冷却水は、連通孔35の開口部35aにまで達し、連通孔35を介して冷却水貯留空間30に流れ込む。この冷却水により溶融炉心保持装置20の冷却板21が冷却され、炉心溶融物Dは冷却板21を介して下面からも冷却される。
【0044】
冷却水がペデスタル空間8から冷却水貯留空間30に流れ込み冷却板21を冷却するまでの間、犠牲層22により冷却板21は炉心溶融物Dの熱から防護される。このため、冷却板21の損傷が防止される。
【0045】
このように、下側注水ライン31に設けた爆破弁32が作動せず、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20に落下した場合でも、炉心溶融物Dが確実に上下両面から冷却され、溶融炉心保持装置20の損傷が防止される。
【0046】
上述したように、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第1の実施の形態によれば、冷却板21を断面視凹凸状に形成したので、炉心溶融物Dが原子炉圧力容器4から落下するような過酷事故が万一発生した場合に、冷却板21の伝熱面積を増加させて炉心溶融物Dを効果的に冷却することができる。この結果、炉心溶融物Dから発生する放射性物質の外部への拡散を防止できる。
【0047】
また、冷却板21を断面視凹凸状に形成したので、冷却板21上に落下した炉心溶融物Dの底部は冷却板21の上面の各凹部21a内に分散して拡がり、炉心溶融物Dの再臨界の可能性を低減することができる。
【0048】
さらに、本実施の形態によれば、冷却板21の下側の冷却水貯留空間30と冷却板21の上側のペデスタル空間8とを相互に連通する連通孔35を設けたので、冷却水が連通孔35を介して冷却水貯留空間30及び冷却板21の上側のペデスタル空間8に流入でき、炉心溶融物Dを確実に上下両面から冷却することができる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、連通孔35のペデスタル空間8側の開口部35aを、炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20上に堆積したと想定した場合の堆積高さより高い位置に設けたので、炉心溶融物Dを水没させた状態で冷却することが可能となる。このため、炉心溶融物Dを確実に上面から冷却することができる。
【0050】
さらに、本実施の形態によれば、爆破弁32を設けた下側注水ライン31を冷却水貯留空間30に設けたので、原子炉圧力容器4の破損の兆候を察知した場合に、冷却水貯留空間30に冷却水を供給して、予め冷却板21を冷却することができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、溶融弁34を設けた上側注水ライン33を溶融炉心保持装置20の上側のペデスタル空間8に設けたので、下側注水ライン31からの冷却水を冷却水貯留空間30に供給できない場合でも、冷却水を冷却水貯留空間30に供給することができる。
【0052】
さらに、本実施の形態によれば、冷却板21の上面に犠牲層22を設けたので、冷却板21が冷却水貯留空間30の冷却水により冷却される前に炉心溶融物Dが溶融炉心保持装置20上に落下した場合でも、冷却板21は犠牲層22により炉心溶融物Dの熱から防護され、冷却板21の損傷を防止することができる。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第2の実施の形態を
図8を用いて説明する。
図8は本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第2の実施の形態の一部を拡大して示す縦断面図である。なお、
図8において、
図1乃至
図7に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0054】
図8に示す本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第2の実施の形態は、第1の実施の形態と大略同様に構成されるが、冷却水貯留空間30に冷却水を予め貯留しておくことにより、爆破弁32を設けた下側注水ライン31及び冷却板21を覆う犠牲層22を不要とした点が異なる。
【0055】
溶融炉心保持装置40の下側の冷却水貯留空間30は、冷却水で予め冠水された状態にある。このため、溶融炉心保持装置40の冷却板21は、冷却水により予め冷却されている。
【0056】
次に、上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第2の実施の形態における過酷事故時の作用を
図8を用いて説明する。
図8に示す原子炉圧力容器4の底を貫通した炉心溶融物Dは、溶融炉心保持装置40の冷却板21の上に落下し、堆積する。この炉心溶融物Dの底部は、第1の実施の形態と同様に、冷却板21の上面の各凹部21a内に分散するように冷却板21上に拡がる。
【0057】
このとき、冷却板21の下面は冷却水貯留空間30に予め貯留された冷却水により冷却されているので、炉心溶融物Dの下面は冷却板21を介して冷却水との熱伝達により直ちに冷却される。このため、炉心溶融物Dの下面の温度が低下し、冷却板21の損傷が防止される。また、冷却板21は冷却水により予め冷却されているので、冷却水貯留空間30の冷却水により冷却板21が冷却されるまでの間炉心溶融物Dの熱から冷却板21を防護するための犠牲層も不要となる。
【0058】
溶融炉心保持装置40上に堆積した炉心溶融物Dは、上面側から冷却されていないため、炉心溶融物Dの熱により上側注水ライン33に設けた溶融弁34が開放され、上側注水ライン33を介して冷却水が溶融炉心保持装置40の上側のペデスタル空間8に供給される。この冷却水により炉心溶融物Dは上面から冷却される。
【0059】
その後、この冷却水は、連通孔35の開口部35aにまで達し、連通孔35を介して冷却水貯留空間30に流れ込む。このため、冷却水貯留空間30内の冷却水が一部沸騰しても、冷却水貯留空間30の冠水状態が維持され、炉心溶融物Dは確実に下面から冷却される。
【0060】
このように、冷却板21の伝熱面積を増加させ炉心溶融物Dを上下両面から冷却することにより、炉心溶融物Dが効果的に冷却される。
【0061】
上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第2の実施の形態によれば、冷却水貯留空間30に冷却水を予め貯留しておくので、爆破弁32を設けた下側注水ライン31及び冷却板21を覆う犠牲層22が不要となり、少ない構成で上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第3の実施の形態を
図9を用いて説明する。
図9は本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第3の実施の形態を示す概略縦断面図である。なお、
図9において、
図1乃至
図8に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0063】
本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第3の実施の形態は、第2の実施の形態が改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の原子炉格納容器を対象としたものであるのに対して、MARK−II型の原子炉格納容器を対象としたものである点が異なる。また、本発明の溶融炉心保持装置の第3の実施の形態は、第2の実施の形態を構成する冷却板21が複数の窪みを有する平板状のものであるのに対して、冷却板71を、複数の窪みを有する平板を中央で折り曲げて断面視V字状に形成した点が主に異なる。
【0064】
図9に示すMARK−II型の原子炉格納容器51は、鋼製である。原子炉格納容器51は、コンクリート製の遮蔽壁52により全体が取り囲まれている。
【0065】
原子炉格納容器51内には、炉心53を内蔵した原子炉圧力容器54が格納されている。原子炉圧力容器54は、原子炉格納容器51の底部上に立設した略円筒状のペデスタル55によって支持されている。原子炉格納容器51の側壁とペデスタル55の間には、ダイヤフラムフロア56が架け渡されている。ペデスタル55の内側における上下方向略中央には、コンクリート製のペデスタル床62が設けられている。
【0066】
原子炉格納容器51の内部は、ダイヤフラムフロア56の上側で原子炉圧力容器54を取り囲むドライウェル57と、原子炉圧力容器54の下方でペデスタル55及びペデスタル床62により囲まれたペデスタル空間58と、ダイヤフラムフロア56及びペデスタル床62の下側に形成されたサプレッションチェンバ59等で構成されている。サプレッションチェンバ59はプール水60を有している。
【0067】
ダイヤフラムフロア56の下側に形成されたサプレッションチェンバ59とペデスタル床62の下側に形成されたサプレッションチェンバ59とは、ペデスタル55に設けた貫通孔55aを介して相互に連通されている。貫通孔55aは、ダイヤフラムフロア56の下側のサプレッションチェンバ59とペデスタル床62の下側のサプレッションチェンバ59のプール水を相互に流入可能にするものである。
【0068】
ドライウェル57とサプレッションチェンバ59は、ダイヤフラムフロア56に支持されたベント管61を介して相互に連通されている。
【0069】
原子炉圧力容器54の下方でペデスタル床62の下側のサプレッションチェンバ59のプール水60中に、溶融炉心保持装置70が設置されている。溶融炉心保持装置70は、原子炉圧力容器54から落下した炉心溶融物Dを溶融炉心保持装置70が受け止めた際に、炉心溶融物Dがプール水60の水面上に出ないような低い位置に設置されている。
【0070】
溶融炉心保持装置70は、断面視略V字状で、下面が凸形状となる窪みを複数有する冷却板71を備えている。すなわち、冷却板71は、断面視略V字状かつ凹凸状に形成され、冷却板71の上面、下面には、それぞれ複数の凹部71a、複数の凸部71bが設けられている。冷却板71は、その上下両面がプール水60に接触し冷却されている。
【0071】
冷却板71の外周部には、冷却水貯留空間80としての冷却板71の下面側の空間と冷却板71の上面側の空間とを連通する連通孔73が設けられている。連通孔73は、サプレッションチェンバ59のプール水60が冷却板71の上下両側の空間へ流入可能にするものである。
【0072】
次に、上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第3の実施の形態における過酷事故時の作用を
図10を用いて説明する。
図10は、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第3の実施の形態における炉心溶融物の冷却状態を示す説明図である。なお、
図10において、
図1乃至
図9に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0073】
図10において、原子炉圧力容器54の底を貫通した炉心溶融物Dは、ペデスタル床62上に落下、堆積する。この炉心溶融物Dは、その熱によりペデスタル床62を侵食して貫通し、溶融炉心保持装置70上に落下、堆積する。
【0074】
この炉心溶融物Dの底部は、第2の実施の形態と同様に、冷却板71の上面の各凹部71a内に分散するように冷却板71上に堆積する。また、炉心溶融物Dは、冷却板71を断面視略V字状に形成しているので、冷却板71の中央方向にやや偏って堆積する。このため、炉心溶融物Dによる冷却板71の外周部に設けた連通孔73の閉塞が抑制される。
【0075】
炉心溶融物Dの上面はサプレッションチェンバ59のプール水60(冷却水)により直接冷却され、その下面はプール水60により冷却板71を介して冷却される。
【0076】
溶融炉心保持装置70の上側のプール水60により炉心溶融物Dが冷却されると、このプール水60は沸騰してその水量が減少するが、溶融炉心保持装置70の下側のプール水60が冷却板71の連通孔73を介して溶融炉心保持装置70の上側に供給される。このため、炉心溶融物Dは、サプレッションチェンバ59のプール水60により確実に上下両面から冷却され、溶融炉心保持装置70の損傷が防止される。
【0077】
上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第3の実施の形態によれば、MARK−II型の原子炉格納容器を対象とした場合においても、上述した第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、本実施の形態によれば、冷却水貯留空間80としての冷却板71の下面側の空間と冷却板71の上面側の空間とを連通する連通孔73を設けたので、冷却水が連通孔35を介して冷却板71の上下両側の空間に流入でき、炉心溶融物Dを確実に上下両面から冷却することができる。
【0079】
さらに、本実施の形態によれば、溶融炉心保持装置70が炉心溶融物Dを受け止めた際に、炉心溶融物Dがプール水60の水面上に出ない低い位置に溶融炉心保持装置70を設置したので、炉心溶融物Dを水没させた状態で冷却することが可能となる。このため、炉心溶融物Dを確実に上面から冷却することができる。
【0080】
また、本実施の形態によれば、冷却板71を断面視略V字状に形成したので、炉心溶融物Dは冷却板71の外周部に堆積し難く、炉心溶融物Dが冷却板71の外周部に設けた連通孔73を閉塞することを抑制できる。
【0081】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第4の実施の形態を
図11を用いて説明する。
図11は本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第4の実施の形態の一部を拡大して示す縦断面図である。なお、
図11において、
図1乃至
図10に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0082】
本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第4の実施の形態は、第3の実施の形態と大略同様に構成されるが、ペデスタル床62上にペデスタル55の内周面を覆う防護部材63を設けた点が異なる。
【0083】
図11において、防護部材63は、上面が外周側から中央に向かって下方に傾斜し、中央部に開口部64aを設けた底部64と、底部64の外周部から上方に延びる円筒状の壁部65とで構成されている。防護部材63は、耐熱材により形成されている。防護部材63は、炉心溶融物Dからペデスタル55を防護するものである。
【0084】
次に、上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第4の実施の形態における過酷事故時における作用を
図12を用いて説明する。
図12は本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第4の実施の形態における炉心溶融物によるペデスタル床の侵食状態を示す説明図である。なお、
図12において、
図1乃至
図11に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0085】
図12において、炉心溶融物Dがペデスタル床62へ落下すると、炉心溶融物Dは、防護部材63内に保持される。このため、炉心溶融物Dがペデスタル55まで拡がるように堆積することがなく、ペデスタル55は炉心溶融物Dから防護される。
【0086】
防護部材63内に保持された炉心溶融物Dは、防護部材63の底部64の傾斜面64bを伝い、底部64の開口部64aからペデスタル床へ流動する。この炉心溶融物Dは、防護部材63を侵食する前にペデスタル床62を侵食貫通し、溶融炉心保持装置70上へ落下する。
【0087】
これは、防護部材63が耐熱材で形成されているのに対して、ペデスタル床62がコンクリートで形成されているためである。
【0088】
溶融炉心保持装置70上へ落下した炉心溶融物Dは、第3の実施の形態と同様に、サプレッションチェンバ59のプール水60により確実に上下両面から冷却され、溶融炉心保持装置70の損傷が防止される。
【0089】
上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第4の実施の形態によれば、上述した第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
また、本実施の形態によれば、耐熱材により形成した防護部材63をペデスタル床62上にペデスタル55の内周面を覆うように設けたので、炉心溶融物Dによりペデスタル55が侵食されることなく、炉心溶融物Dを溶融炉心保持装置70上へ落下させることができる。このため、ペデスタル55の構造強度が維持される。
【0091】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第5の実施の形態を
図13を用いて説明する。
図13は本発明の溶融炉心保持装置を備えた原子炉格納容器の第5の実施の形態の一部を拡大して示す縦断面図である。なお、
図13において、
図1乃至
図12に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0092】
図13に示す本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第5の実施の形態は、第4の実施の形態におけるペデスタル床62の全体がコンクリートで形成されているのに対して、ペデスタル床62の中央部をコンクリートより溶融し易い材料で形成した溶融栓62aに置換した点が異なる。
【0093】
炉心溶融物Dがペデスタル床62へ落下すると、その熱により溶融栓62aがペデスタル床62より先に溶融して貫通する。このため、炉心溶融物Dは速やかにペデスタル床62から溶融炉心保持装置70上へ落下する。
【0094】
上述した本発明の溶融炉心保持装置及びそれを備えた原子炉格納容器の第5の実施の形態によれば、上述した第4の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0095】
また、本実施の形態によれば、ペデスタル床62の中央部をコンクリートより溶融し易い材料で形成した溶融栓62aに置換したので、炉心溶融物Dをペデスタル床62から溶融炉心保持装置70上へ速やかに落下させることができる。このため、溶融栓62a以外のペデスタル床62の部分は炉心溶融物Dによる侵食の影響を受け難く、ペデスタル55の構造強度が確実に維持される。
【0096】
[その他]
なお、上述した第1の実施の形態乃至第5の実施の形態においては、下面が凸形状となる窪みを複数有する冷却板21、71を備えた溶融炉心保持装置を例に示したが、冷却板21、71を、断面視凹凸状に形成すればよい。例えば、溶融炉心保持装置は、
図14に示す冷却板91を備えることもできる。
【0097】
図14は本発明の溶融炉心保持装置の第1乃至第5の実施の形態を構成する冷却板の別の一例を示す断面図である。なお、
図14において、
図1乃至
図13に示す符号と同符合のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0098】
図14において、冷却板91は、断面視波状に形成されている。すなわち、冷却板71の上面、下面には、それぞれ複数の凹部91a、複数の凸部91bが設けられている。このことにより、冷却板91の伝熱面積は、上述した冷却板21、71と同様に、平板状のものより増加し、その冷却能力が向上している。また、炉心溶融物Dが原子炉圧力容器4、54から冷却板91上に落下した際に、炉心溶融物Dの底部が冷却板91の上面の各凹部91a内に分散するように拡がり、炉心溶融物Dは大きな山状に堆積することがない。
【0099】
このように、冷却板91を断面視波状に形成することにより、冷却板91の伝熱面積を増加させ、炉心溶融物Dの再臨界の可能性を低減することができる。
【0100】
また、上述した第1の実施の形態においては、爆破弁32を設けた下側注水ライン31と、溶融弁34を設けた上側注水ライン33とを備えた構成の例を示したが、爆破弁32を設けた下側注水ライン31のみを備えた構成、溶融弁34を設けた上側注水ライン33のみを備えた構成とすることもできる。
【0101】
なお、本発明は上述した第1乃至第5の実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。