(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)の概略構成を示している。本装置は、トルクコンバータを備えない変速機T/Mと、クラッチC/Dとを備え、アクチュエータACT1〜ACT5を用いてC/Dのクラッチトルク及びT/Mの変速段を制御する、所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)である。本装置を搭載した車両は、動力源としてエンジンE/Gとモータジェネレータ(電動モータ)M/Gとを備えた、所謂AMT付ハイブリッド車両である。
【0017】
E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、T/Mの入力軸A2と同軸的に接続されている。
【0018】
変速機T/Mは、後述するように、複数のE/G側の変速段(以下、「EGギヤ」と呼ぶ)と、複数のM/G側の変速段(以下、「MGギヤ」と呼ぶ)と、を備える。T/Mは、入力軸A2と、中間軸A3と、第1出力軸A4と、第2出力軸A5とを備える。軸A2〜A5は全て互いに平行に配置されている。中間軸A3は中空円筒状を呈しており、中間軸A3の内部空間に入力軸A2が挿入されることによって、中間軸A3と入力軸A2とが同軸的且つ相対回転可能に配置されている。第1出力軸A4は、軸A4に固定された第1最終駆動ギヤGf1、及び、最終被動ギヤGfoを介して、車両の駆動輪(図示せず)と動力伝達可能に接続されている。第2出力軸A5は、軸A5に固定された第2最終駆動ギヤGf2、及び、最終被動ギヤGfoを介して、車両の駆動輪と動力伝達可能に接続されている。
【0019】
変速機T/Mは、複数の固定ギヤG1i、G2i、G35i、G4iと、複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5o、GRoと、複数のスリーブS1、S2、S3、S4と、を備える。固定ギヤG1i、G35iはそれぞれ、入力軸A2に相対回転不能に設けられている。固定ギヤG2i、G4iはそれぞれ、中間軸A3に相対回転不能に設けられている。遊転ギヤG1o、G2o、G4o、G5oはそれぞれ、第1出力軸A4に相対回転可能に設けられており、固定ギヤG1i、G2i、G4i、G35iとそれぞれ常時歯合する。遊転ギヤG3o、GRoはそれぞれ、第2出力軸A5に相対回転可能に設けられており、固定ギヤG35i、遊転ギヤG1oとそれぞれ常時歯合する。「固定ギヤG1i及び遊転ギヤG1o」、「固定ギヤG2i及び遊転ギヤG2o」、「固定ギヤG35i及び遊転ギヤG3o」、「固定ギヤG4i及び遊転ギヤG4o」、「固定ギヤG35i及び遊転ギヤG5o」はそれぞれ、前進用のEGギヤとしての1速〜5速に対応している。即ち、固定ギヤG35iは、3速用の固定ギヤと5速用の固定ギヤとを兼用している。「固定ギヤG1i、遊転ギヤG1o、及び遊転ギヤGRo」は、後進用のEGギヤ(1速のみ)に対応している。
【0020】
スリーブS1、S2は第1出力軸A4に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられている。S1は、軸方向の位置に応じて、G1oのピースP1及びG5oのピースP5と選択的に係合(スプライン嵌合)可能となっている。S2は、軸方向の位置に応じて、G2oのピースP2及びG4oのピースP4と選択的に係合(スプライン嵌合)可能となっている。スリーブS3は、中間軸A3に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられている。S3は、軸方向の位置に応じて、固定ギヤG2iのピースPPと係合(スプライン嵌合)可能となっている。スリーブS4は第2出力軸A5に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられている。S4は、軸方向の位置に応じて、G3oのピースP3及びGRoのピースPRと選択的に係合(スプライン嵌合)可能となっている。以下、後進用のEGギヤについての説明は省略する。
【0021】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、ギヤGm1、Gm2を介して、固定ギヤG4i(従って、中間軸A3)と動力伝達可能に接続されている。従って、「固定ギヤG2i及び遊転ギヤG2o」、「固定ギヤG4i及び遊転ギヤG4o」はそれぞれ、MGギヤとしての「Low(1速)」、「High(2速)」にも対応している。
【0022】
以上のように、T/Mは、EGギヤとして5つの変速段(1速〜5速)を備え、MGギヤとして2つの変速段(Low、High)を備える。T/Mでは、「固定ギヤG2i及び遊転ギヤG2o」が「EGギヤの2速」及び「MGギヤのLow」で共用され、「固定ギヤG4i及び遊転ギヤG4o」が「EGギヤの4速」及び「MGギヤのHigh」で共用されている。これにより、変速機の全長(軸方向の長さ)が短縮され得る。
【0023】
変速機T/MのEGギヤ及びMGギヤの変更・設定は、アクチュエータACT1〜ACT4によってスリーブS1〜S4の軸方向の位置を制御することで実行される。EGギヤを変更することで、EG側の減速比(最終被動ギヤGfoの回転速度に対する入力軸A2の回転速度の割合)が変更される。「1速」から「5速」に向けて、EG側減速比は次第に小さくなっていく。同様に、MGギヤを変更することで、MG側の減速比(最終被動ギヤGfoの回転速度に対するM/Gの入力軸の回転速度の割合)が調整される。「Low」より「High」の方が、MG側減速比が小さい。
【0024】
図2〜
図7はそれぞれ、EGギヤが、N(EG側ニュートラル)、1速、2速、3速、4速、5速の場合に対応する動力伝達経路を示す。以下、E/Gの出力軸A1の駆動トルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。各図において、太い実線は、実現されたEGトルクの動力伝達経路を示し、太い破線は、実現され得るMGトルクの動力伝達経路を示す。また、「ギヤが実現された」とは、「T/M内でそのギヤに対応する動力伝達経路が形成された」ことを意味する。
【0025】
図2に示すように、EGギヤが「N」の場合、スリーブS1、S3、S4のそれぞれが中立位置にあり、スリーブS1、S3、S4の何れも、対応するピースに係合しない。この結果、EGギヤの動力伝達経路が形成されない。この場合において、MGギヤが「N(MG側ニュートラル)」のとき、スリーブS2が中立位置にあり、スリーブS2が対応するピースに係合しない。この結果、MGギヤの動力伝達経路が形成されない。MGギヤが「Low」のとき、スリーブS2がピースP2と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG2oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。この結果、MGギヤの「Low」の動力伝達経路が形成される。MGギヤが「High」のとき、スリーブS2がピースP4と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG4oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。この結果、MGギヤの「High」の動力伝達経路が形成される。以上、EGギヤが「N(EG側ニュートラル)」の場合、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0026】
図3に示すように、EGギヤが「1速」の場合、スリーブS1のみが(中立位置からずれて)ピースP1と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG1oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。スリーブS3、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「1速」の動力伝達経路が形成される。EGギヤが「1速」の場合も、EGギヤが「N」の場合と同様、スリーブS2の軸方向位置に応じて、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0027】
図4に示すように、EGギヤが「2速」の場合、スリーブS2が(中立位置からずれた)ピースP2と係合する位置にあり、且つ、スリーブS3が(中立位置からずれた)ピースPPと係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG2oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となり、且つ、中間軸A3が入力軸A2に対して相対回転不能となる。スリーブS1、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「2速」の動力伝達経路が形成される。この場合、スリーブS2がピースP2と係合する位置に固定されるため、MGギヤが「Low」に自動的に固定される。
【0028】
図5に示すように、EGギヤが「3速」の場合、スリーブS4のみが(中立位置からずれて)ピースP3と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG3oが第2出力軸A5に対して相対回転不能となる。スリーブS1、S3は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「3速」の動力伝達経路が形成される。EGギヤが「3速」の場合も、EGギヤが「N」の場合と同様、スリーブS2の軸方向位置に応じて、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0029】
図6に示すように、EGギヤが「4速」の場合、スリーブS2が(中立位置からずれた)ピースP4と係合する位置にあり、且つ、スリーブS3が(中立位置からずれた)ピースPPと係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG4oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となり、且つ、中間軸A3が入力軸A2に対して相対回転不能となる。スリーブS1、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「4速」の動力伝達経路が形成される。この場合、スリーブS2がピースP4と係合する位置に固定されるため、MGギヤが「High」に自動的に固定される。
【0030】
図7に示すように、EGギヤが「5速」の場合、スリーブS1のみが(中立位置からずれて)ピースP5と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG5oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。スリーブS3、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「5速」の動力伝達経路が形成される。EGギヤが「5速」の場合も、EGギヤが「N」の場合と同様、スリーブS2の軸方向位置に応じて、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0031】
以上、T/Mにおいて、各EGギヤに対して実現可能なMGギヤ(Low、Highのみ、N(MG側ニュートラル)を除く)について表1にまとめた。表1において「○」は「実現可能」を示し、「×」は「実現不可能」を示す。表1で注目すべきことは、T/Mの構成では、「EGギヤの2速」と「MGギヤのHigh」の組み合わせ、並びに、「EGギヤの4速」と「MGギヤのLow」の組み合わせ、が実現できないことである。
【0033】
本装置では、スリーブS1〜S4、及び、アクチュエータACT1〜4が、複数のEGギヤ及びEG側ニュートラルのうち何れか1つを選択的に実現する「EGギヤ切替機構」に相当し、スリーブS2、及び、アクチュエータACT2が、複数のMGギヤ及びMG側ニュートラルのうち何れか1つを選択的に実現する「MGギヤ切替機構」に相当する。
【0034】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT5により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0035】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。
図8に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0036】
再び、
図1を参照すると、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSE1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサSE2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサSE3と、車両の速度(車速)を検出する車速センサSE4と、を備えている。
【0037】
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサSE1〜SE4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1〜ACT5を制御することで、C/DのクラッチストロークCSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/MのEGギヤ及びMGギヤを制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでM/Gの出力軸の駆動トルクを制御する。
【0038】
以上、本装置は、複数のEGギヤ(1速〜5速)と複数のMGギヤ(Low、High)とを備えるとともに、ハイブリッド車両に適用されるAMTであり、「複数対のギヤトレイン(G2i及びG2o、G4i及びG4o)が、複数のEGギヤのうちの一部(2速及び4速)と、複数のMGギヤ(Low、High)と、で共用される構成」を備えている。
【0039】
本装置では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとが選択的に実現される。EV走行モード、EG走行モード、及びHV走行モードのうち何れが実現されるかは、例えば、車速、アクセル開度等の車両の走行状態に基づいて決定される。
【0040】
EV走行モードでは、E/Gが停止し、MGトルクのみ(MGギヤ:Low又はHigh)を利用して車両が走行する。クラッチC/Dは分断状態(Tc=0)に調整される。或いは、EGギヤがN(EG側ニュートラル)に設定される。EG走行モードでは、MGトルクがゼロに維持され、且つ、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクのみ(EGギヤ:1速〜5速の何れか)を利用して車両が走行する。HV走行モードでは、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルク(EGギヤ:1速〜5速の何れか)及びMGトルク(MGギヤ:Low又はHigh)の両方を利用して車両が走行する。
【0041】
EV走行モード及びHV走行モードでは、MGトルクはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。EG走行モード及びHV走行モードでは、EGトルクはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。
【0042】
本装置では、車両の運転者によりシフトレバーSLが操作されることによって、EGギヤ及びMGギヤの変更・設定が実行されるようになっている。
図9に示すように、シフトレバーSLの位置としては、例えば、「D(ドライブ)レンジ」、「M(マニュアル)レンジ」、「N(ニュートラル)レンジ」、及び「R(リバース)レンジ」が規定される。「Dレンジ」、及び「Mレンジ」は、両方とも前進用EGギヤ(1速〜5速)に対応し、それぞれ「自動モード」、及び「手動モード」に対応する。「Nレンジ」はニュートラル(N)に対応し、「Rレンジ」は後進用EGギヤに対応する。
【0043】
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(
図10を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいて、目標EGギヤ(1速〜5速)が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、Mレンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置移動に応じて、目標EGギヤ(1速〜5速)がシーケンシャルに選択される。他方、目標MGギヤ(Low、High)も、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて選択される。T/Mでは、以上のように設定された目標EGギヤ及び目標MGギヤが実現されるようにACT1〜ACT5(従って、スリーブS1〜S4の位置、及び、クラッチトルク)が逐次制御されていく。
【0044】
加えて、
図10に示す微細なドットで示した領域は、EV走行領域を示す。車速及びアクセル開度の組み合わせがこの領域内に対応する場合、目標MGギヤが「Low」又は「High」に固定され、且つ、目標EGギヤが「N」に固定される。「Low」は、車速が低い場合に選択され、「High」は、車速が高い場合に選択される。従って、本装置では、アクセル開度が比較的小さい範囲内で車両が発進される場合、先ず、MGギヤの「Low」を用いたEV走行による発進が行われ、その後の車速の増大に応じて、「High」を用いたEV走行が実行される。
【0045】
(EGギヤの変速作動)
目標EGギヤが現在実現されているEGギヤ(以下、「現在EGギヤ」と呼ぶ)から変更された場合(EGギヤの変速要求)、EGギヤの変速作動が実行される。EGギヤの変速作動には、クラッチC/Dの作動、スリーブS1〜S4の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整が含まれる。典型的には、EGギヤの変速作動では、先ず、現在EGギヤが実現されている状態にてクラッチトルクがゼロに向けて(且つ、EGトルクがアイドリングに相当する微小値に向けて)減少される。次いで、クラッチトルクがゼロ(且つ、EGトルクが微小)の状態にてスリーブS1〜S4の係合状態が「現在EGギヤの係合状態」から「目標EGギヤの係合状態」へと変更されて(EGギヤの切り替え)、目標EGギヤが実現される。そして、目標EGギヤが実現された状態にてクラッチトルク(及びEGトルク)が増大される。EGギヤの変速作動の開始とは、EGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS1〜S4の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も早く開始されたものの開始に対応し、EGギヤの変速作動の終了とは、EGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS1〜S4の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も遅く終了したものの終了に対応する。EGギヤの変速作動中とは、EGギヤの変速作動の開始から終了までの間の期間を指す。
【0046】
(MGギヤの変速作動)
目標MGギヤが現在実現されているMGギヤ(以下、「現在MGギヤ」と呼ぶ)から変更された場合(MGギヤの変速要求)、MGギヤの変速作動が実行される。MGギヤの変速作動には、クラッチC/Dの作動、スリーブS2、S3の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整が含まれる。典型的には、MGギヤの変速作動では、先ず、現在MGギヤが実現されている状態にてMGトルクがゼロに向けて減少される。次いで、MGトルクがゼロの状態にてスリーブS2の係合状態が「現在MGギヤの係合状態」から「目標MGギヤの係合状態」へと変更されて(MGギヤの切り替え)、目標MGギヤが実現される。そして、目標MGギヤが実現された状態にてMGトルクが増大される。MGギヤの変速作動の開始とは、MGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS2、S3の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も早く開始されたものの開始に対応し、MGギヤの変速作動の終了とは、MGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS2、S3の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も遅く終了したものの終了に対応する。MGギヤの変速作動中とは、MGギヤの変速作動の開始から終了までの間の期間を指す。
【0047】
(MGアシスト及びEGアシスト)
本装置では、EGギヤの変速要求があった場合、現在MGギヤ(Low又はHigh)でMGトルクをT/Mの出力軸(具体的には、第1出力軸A4)に伝達しながら(以下、「MGアシスト」と呼ぶ)EGギヤの変速作動が実行される。これにより、EGギヤの変速作動中に亘ってMGトルクを利用して途切れのないトルクアシストを行うことができる。
【0048】
同様に、MGギヤの変速要求があった場合、現在EGギヤ(1速〜5速の何れか)でEGトルクをT/Mの出力軸(具体的には、第1出力軸A4又は第2出力軸A5)に伝達しながら(以下、「EGアシスト」と呼ぶ)MGギヤの変速作動が実行され得る。これにより、MGギヤの変速作動中に亘ってEGトルクを利用して途切れのないトルクアシストを行うことができる。以下、説明の便宜上、EGギヤとMGギヤの組み合わせを「(EGギヤ、MGギヤ)」で示す。例えば、EGギヤが1速でMGギヤがLowの場合、(1速、Low)と示す。
【0049】
(EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合の通常制御)
本装置では、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合、原則的には、
図11にフローチャートによって示す通常制御が実行される。通常制御では、「先ず、現在MGギヤでMGアシストしながらEGギヤが現在EGギヤから目標EGギヤへ変更され(ステップ1105)、その後、実現された目標EGギヤでEGアシストしながらMGギヤが現在MGギヤから目標MGギヤへ変更される(ステップ1110)」第1パターン、或いは、「先ず、現在EGギヤでEGアシストしながらMGギヤが現在MGギヤから目標MGギヤへ変更され(ステップ1105)、その後、実現された目標MGギヤでMGアシストしながらEGギヤが現在EGギヤから目標EGギヤへ変更される(ステップ1110)」第2パターン、が実行される。第1パターン(EGギヤの変速作動→MGギヤの変速作動)、或いは、第2パターン(MGギヤの変速作動→EGギヤの変速作動)を経ることによって、EGギヤ及びMGギヤの両方に係る変速作動中に亘って、(車両の加速中において)途切れのないトルクアシストを行うことが可能となる。
【0050】
具体的には、例えば、(N、Low)→(3速、High)、並びに、(4速、High)→(1速、Low)の場合、第1パターンが採用される。これにより、途切れのないトルクアシストが可能となる。これらの例に対して第2パターンが採用されたとすると、MGギヤの変速作動(Low→High)の際にEGアシストを行うことができない。
【0051】
他方、例えば、(1速、Low)→(4速、High)、並びに、(3速、High)→(N、Low)の場合、第2パターンが採用される。これにより、途切れのないトルクアシストが可能となる。(1速、Low)→(4速、High)の場合に対して第1パターンが採用されたとすると、EGギヤの変速作動(1速→4速)の際にMGアシストを行うことができない。(3速、High)→(N、Low)の場合に対して第1パターンが採用されたとすると、MGギヤの変速作動(High→Low)の際にEGアシストを行うことができない。
【0052】
(MGギヤ切替機構が故障した場合の対処)
以下、MGギヤ切替機構の故障に着目する。具体的には、MGギヤ切替機構は、スリーブS2、及びアクチュエータACT2に加えて、スリーブS2とスプライン嵌合するハブ(図示せず)、スリーブS2とピースP2、P4とのそれぞれの間に設けられたシンクロナイザリング(図示せず)、スリーブS2を把持するフォーク(図示せず)、及び、フォークを軸方向に駆動するフォークシャフト等から構成される。
【0053】
典型的には、MGギヤ切替機構の故障としては、MGギヤが「Low」で固着する事態、MGギヤが「High」で固着する事態、並びに、MGギヤが「N(MG側ニュートラル)」で固着する事態が考えられる。これらの3種類の「固着」は、上述した「MGギヤ切替機構を構成する部材」の異常に起因して発生し得る。
【0054】
本装置は、発生した「固着」の種類に応じて異なる対処方を採る。以下、この点に関して本装置が実行する処理の流れについて、
図12に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0055】
図12に示すように、先ず、MGギヤ切替機構に故障が発生したか否かが判定され(ステップ1205)、故障が発生していない場合(ステップ1205にて「No」)、この処理が終了される。以下、故障が発生している場合(ステップ1205にて「Yes」)について説明する。なお、係る判定は、例えば、上述した「MGギヤ切替機構を構成する部材」の作動に関連する各種センサの検出値等に基づいてなされ得る。
【0056】
MGギヤがLowで固着する事態が発生している場合(ステップ1210にて「Yes」)、車速制限制御が実行される(ステップ1215)。車速制限制御とは、車両の車速を所定値以下に制限する制御である。この所定値は、例えば、MGギヤのLowで車両が走行する場合において、M/Gの回転速度が許容される上限値(又は、上限値より若干小さい値)に一致する場合に対応する車速に設定され得る。
【0057】
車速制限制御では、具体的には、車速が前記所定値を超えた場合に、EGトルクを減少する、MGトルクを減少する、M/Gの回生による回生制動力を発生する、制動装置によって車輪に制動力を付与する等の処理がなされることによって、車速が前記所定値以下に制限される。
【0058】
MGギヤがLowで固着した場合、Highが選択されるべき車両の走行状態(典型的には、高い車速で走行中)においても、Lowで車両が走行することになる。従って、高い車速で車両が走行すると、M/Gの回転速度が過剰に高くなる恐れがある。これに対し、本装置では、上記の車速制限制御が実行されることによって、車速の上昇が制限される。この結果、M/Gの回転速度が過剰に高くなる事態の発生が抑制され得る。
【0059】
MGギヤがHighで固着する事態が発生している場合(ステップ1210にて「No」、ステップ1220にて「Yes」)、EV走行が禁止される(ステップ1225)。具体的には、EV走行モードが選択されるべき状況でも、EV走行モードに代えて、EG走行モード、或いは、HV走行モードが選択される。
【0060】
MGギヤがHighで固着した場合、MG走行モード選択中において、Lowが選択されるべき車両の走行状態(典型的には、低い車速で走行中)においても、Highで車両が走行することになる。MGギヤのHighを利用して駆動輪に伝達されるMGトルクは、MGギヤのLowを利用して駆動輪に伝達されるMGトルクより小さい。従って、この場合においてMG走行モードが継続されると、車両の駆動力が不足する恐れがある。これに対し、本装置では、MG走行モードに代えて、EG走行モード、或いは、HV走行モードが選択される。そして、MGトルクの不足分がEGトルク(>0)によって補償される。この結果、車両の駆動力が不足する事態の発生が抑制され得る。
【0061】
MGギヤがN(MG側ニュートラル)で固着する事態が発生している場合(ステップ1210、1220にて「No」、ステップ1230にて「Yes」)、EG走行のみが実行される(ステップ1235)。具体的には、MG走行モード又はHV走行モードが選択されるべき状況でも、EG走行モードが選択される。そして、MG走行モード又はHV走行モードにおいて発生すべきであったMGトルク分がEGトルクによって補償される。この処理、この状況ではMGトルクが駆動輪に伝達され得ないことに基づく。
【0062】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、中空円筒状の中間軸A3の内部空間に入力軸A2が挿入されることによって、中間軸A3と入力軸A2とが同軸的且つ相対回転可能に配置されている。これにより、T/Mの全長(軸方向の長さ)を短くできることに加え、T/Mを小型化できる。これに対し、中間軸が、入力軸に対して偏心して平行に且つ相対回転可能に配置されてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、M/Gの出力軸が(ギヤGm1、Gm2を介して)中間軸A3に固定された固定ギヤG4iと接続されているが、M/Gの出力軸が(ギヤGm1、Gm2を介して)中間軸A3に固定されたその他のギヤに接続されてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、T/Mの出力軸として、第1出力軸A4と、第2出力軸A5とが備えられている。これにより、ギヤトレイン(固定ギヤ及び遊転ギヤ)がMGギヤと共用されていない複数のEGギヤ(具体的には、1速、3速、5速)の遊転ギヤが設けられる対象となる出力軸を2つに分けることができる。この結果、T/Mの全長(軸方向の長さ)を短くできる。これに対し、T/Mの出力軸として単一の出力軸を備え、ギヤトレイン(固定ギヤ及び遊転ギヤ)がMGギヤと共用されていない複数のEGギヤ(具体的には、1速、3速、5速)の遊転ギヤの全てがその単一の出力軸に設けられてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、入力軸A2に設けられた単一の固定ギヤG35iが、3速用の固定ギヤと5速用の固定ギヤとを兼用している。これにより、T/Mの全長(軸方向の長さ)を短くできる。これに対して、入力軸A2に、3速用の固定ギヤと5速用の固定ギヤとが個別に設けられてもよい。
【0066】
加えて、上記実施形態では、MGギヤと共用される複数のEGギヤとして2つのEGギヤ(具体的には、2速、4速)が設けられているが、MGギヤと共用される複数のEGギヤとして3つ以上のEGギヤが設けられていてもよい。