(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109711
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】タイヤ成型装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/32 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
B29D30/32
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-227195(P2013-227195)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-85630(P2015-85630A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】岩田 正樹
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−081139(JP,A)
【文献】
特開2011−062779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のビードコアの外周側にビードフィラが設けられたビード部材を円筒状のカーカスの幅方向端部で巻き込んだグリーンケースを保持するタイヤ成型装置において、
前記ビード部材の径方向内方において拡縮径可能に設けられ、前記ビード部材の径方向内側に当接して前記グリーンケースを保持するビードロックシューと、前記ビードロックシューにおける前記グリーンケースに当接する面から径方向外方へ突出する針部材とを備え、
前記ビードロックシューの拡径にしたがって前記針部材が前記グリーンケースの前記ビード部材の径方向内側に差し込まれ前記ビード部材の周囲に残留する空気を外部へ排気する排気穴を穿設することを特徴とするタイヤ成型装置。
【請求項2】
前記針部材が、前記カーカスを貫通することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ成型装置。
【請求項3】
前記針部材の先端が、前記ビード部材の前記ビードコアに到達することを特徴とする請求項2に記載のタイヤ成型装置。
【請求項4】
前記針部材は、前記ビードロックシュー側に設けられた付け根部と、前記付け根部より先端側に設けられた針先部とを備え、径方向外方に対する前記針先部の稜線の角度が、径方向外方に対する前記付け根部の稜線の角度より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ成型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のビードコアの外周側にビードフィラが設けられたビード部材を円筒状のカーカスの幅方向端部で巻き込んだグリーンケースを保持するタイヤ成型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、一次成型機の成型ドラムの外周にインナライナー、カーカスを巻き付けて円筒状に設けた後、環状のビードコアの外周側にビードフィラが設けられたビード部材が、円筒状のカーカスの幅方向端部に外挿される。そして、ビード部材をカーカスの幅方向端部で巻き込むように折り返された後、サイドウォールゴムが積層されてグリーンケースを成型する。
【0003】
一次成型機で成型されたグリーンケースは、ビード部材の径方向内側からビードロックシューが当接することで保持され、一次成型機から二次成型機へ搬送される。そして、グリーンケースは、ビードロックシューに保持された状態で、カーカスの幅方向中央部を膨らませてタイヤ形状に合わせたトロイダル状に変形させた後、ベルト及びトレッドゴムを積層しグリーンタイヤを成型する。そして、得られたグリーンタイヤをモールド内で加硫成型されることで空気入りタイヤが得られる。
【0004】
このようなタイヤの成型工程において、ビード部材を包み込むようにカーカスを折り返す際にビード部材の周囲に、特に、カーカスが大きく屈曲するビードコアの径方向内側とカーカスとの間に空気が残留しやすい。カーカスとビード部材との間に空気が残留した状態で加硫成型すると、残留空気による膨らみが加硫後のタイヤ外表面に現れてタイヤの外観品質が損なわれる。
【0005】
なお、下記特許文献1には、一対のビードロックドラムにカーカス部材の両端に装着されたビード部を固定し、このカーカス部材をトロイダル状にシェーピングさせた後、カーカス部材外周面の部材積層体を合体させ、前記カーカス材料を回転させながら積層体をカーカス材料の外周面に沿ってステッチングする際、カーカス材料の両サイド部に突き刺さる針状部材を備えた圧着保持部材によりカーカス材料の両サイド部を圧着保持することが提案されている。下記特許文献2には、リムフランジと接触しないビード部またはサイド部に、タイヤ外部からカーカスの内部に至る空気抜き用のベンディング穴を形成することが提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ステッチング時に生じるカーカスの変形歪みの低減を目的としていることに加え、針状部材はカーカスのサイド部を突き刺すものであるため、カーカスを折り返す際にビード部材の周囲に残留する空気を外部へ排気できず、また、特許文献2では、空気抜き用のベンディング穴を加硫成型後に形成しているため、残留空気による膨らみを修正することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−277376号公報
【特許文献2】特開2003−191721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題を考慮してなされたものであり、ビード部材の周囲に残留する空気による膨らみを抑えて外観品質に優れるタイヤを成型することができるタイヤ成型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るタイヤ成型装置は、環状のビードコアの外周側にビードフィラが設けられたビード部材を円筒状のカーカスの幅方向端部で巻き込んだグリーンケースを保持するタイヤ成型装置において、前記ビード部材の径方向内方において拡縮径可能に設けられ、前記ビード部材の径方向内側に当接して前記グリーンケースを保持するビードロックシューと、前記ビードロックシューにおける前記グリーンケースに当接する面から径方向外方へ突出する針部材とを備え、前記ビードロックシューの拡径にしたがって前記針部材が前記グリーンケースの前記ビード部材の径方向内側に差し込まれ前記ビード部材の周囲に残留する空気を外部へ排気する排気穴を穿設することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るタイヤ成型装置の好ましい態様として、前記針部材が、前記カーカスを貫通することが好ましく、更に、前記針部材の先端が、前記ビード部材の前記ビードコアに到達することが好ましい。また、本発明に係るタイヤ成型装置において、前記針部材は、前記ビードロックシュー側に設けられた付け根部と、前記付け根部より先端側に設けられた針先部とを備え、径方向外方に対する前記針先部の稜線の角度が、径方向外方に対する前記付け根部の稜線の角度より小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビードロックシューの拡径にしたがって針部材が部グリーンケースのビード部材の径方向内側に差し込まれ、ビード部材の周囲に残留する空気を外部へ排気する排気穴を穿設するため、ビード部材とカーカスとの間に残留する空気による膨らみを抑えて外観品質に優れるタイヤを成型することができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤ成型装置の半断面図である。
【
図2】
図1に示すタイヤ成型装置の針部材の側面図である。
【
図4】本発明の変更例を示す針部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態のタイヤ成型装置により成型されるタイヤは、図示を省略したが、左右一対のビード部と、ビード部からタイヤ径方向外方に延びる一対のサイドウォール部と、左右のサイドウォール部間に設けられたトレッド部とを備える。ビード部には、環状のビードコアと、その外周側に設けられた硬質ゴム製のビードフィラーからなるビード部材が埋設されている。
【0015】
タイヤ内部には、一対のビード部間にまたがって延びるカーカスが埋設され、カーカスは、トレッド部からサイドウォール部を通りビード部において両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなる。カーカスプライは、平行配列された複数本のカーカスコードをゴム被覆してなるものであり、カーカスプライの両端部は、ビード部においてビード部材の内側から外側に巻き上げられる(折り返す)ことにより係止される。かかるカーカスの巻き上げ部分を保護するため、本実施形態では、ナイロン等の有機繊維材やスチールコード等をゴムで被覆してなるチェーファーがビード部に設けられている。
【0016】
トレッド部におけるカーカスの外周側には、ベルトプライからなるベルトが設けられており、カーカスの外周でトレッド部を補強する。カーカスの内周には、空気圧保持のためのインナーライナー層がタイヤ内面の全体にわたって設けられる。
【0017】
このタイヤを製造するには、まず、不図示の一次成型機の成型ドラムの外周にインナーライナー、チェーファー、カーカスの順にこれらの部材を巻き付けて円筒状に設け、チェーファーが設けられたカーカスの幅方向両端部の外周面に環状のビード部材を装着する。そして、ビード部材を巻き込むようにカーカスの幅方向端部が折り返された後、サイドウォール部となるサイドウォール部材が所定位置に配設される。これにより、
図1に示すような、環状のビードコア2aの外周側にビードフィラ2bが設けられたビード部材2と、インナーライナー3と、チェーファー4と、カーカス5と、サイドウォール部6とを備えたグリーンケース1が成型される。
【0018】
一次成型機において成型されたグリーンケース1は、二次成型機に相当するタイヤ成型装置10によって保持される。
【0019】
詳細には、タイヤ成型装置10は、
図1に示すように、複数のセグメント16と、ビードロックシュー18と、針部材20とを備え、グリーンケース1の軸方向Lに沿って延びる主軸14に取り付けられ主軸14の軸周りに回転可能に設けられている。
【0020】
複数のセグメント16は、主軸14の周りに配置され、軸方向Lに移動可能で、かつ、径方向Rに拡縮移動可能に設けられており、グリーンケース1におけるビード部材2の径方向内方において拡縮径する。セグメント16の径方向外側には、ビードロックシュー18がボルトなどにより固定され、セグメント16とともにビードロックシュー18も軸方向L及び径方向Rに移動する。
【0021】
ビードロックシュー18は、グリーンケース1のビード部材2に対向する径方向外側面に径方向内方へ陥没する凹部19が設けられており、この凹部19にグリーンケース1のビード部材2が嵌り込む。ビードロックシュー18に設けられた凹部19の底面には、径方向外方へ突出する針部材20が、タイヤ成型装置10の全周にわたって周方向に間隔をあけて、かつ、軸方向(幅方向)Lに複数本(本実施形態では3本)並べて設けられている。
【0022】
針部材20は、
図2及び
図3に示すように、ビードロックシュー18側に設けられた付け根部22と、付け根部22より先端側に設けられた針先部24とを備え、径方向(つまり、針部材20の突出方向)Rに対する針先部24の稜線24aの角度θ1が、付け根部22の稜線22aに対する角度θ2より小さく設定されている。言い換えれば、針部材20は、付け根部22において針部材20の直径(太さ)が急激に細くなり、針先部24が付け根部22に比べて鋭角に尖った形状を成している。
【0023】
このような針部材20は、付け根部22に設けられたネジ部27が、ビードロックシュー18の凹部19の底面に設けられたネジ穴28に螺合することで凹部19の底面に固定されている。
【0024】
図2を参照して針部材20の寸法の一例を挙げると、ビードロックシュー18の凹部19の底面から先端までの突出量H、凹部19の底面における直径φとすると、付け根部22は、凹部19の底面の位置P0から突出量Hの25%の位置P1までの範囲に配置され、この範囲内で凹部19の底面における直径φの25%まで直線的に縮径し、針先部24は、凹部19の底面から突出量Hの50%の位置P2から針部材20の先端の位置P3までの範囲に配置され、この範囲内で凹部19の底面における直径φの25%から0%まで直線的に縮径し、具体例を挙げると、上記の突出量Hを3.0mm、直径φを2.0mmに設定することができる。
【0025】
なお、
図2に示す例では、付け根部22と針先部24との間、つまり、凹部19の底面から突出量Hの25%の位置P1から凹部19の底面から突出量Hの50%の位置P2までの範囲に、直径が一定な中間部26を設けているが、付け根部22の先端側に針先部24を連続して設けてもよい。また、針部材20は、
図4に示すように、付け根部22の稜線22aと針先部24の稜線24aが滑らかな曲線で繋がった形状であってもよい。
【0026】
このようなタイヤ成型装置10は、ビードロックシュー18に設けられた凹部19をグリーンケース1におけるビード部材2の径方向内方に配置した状態から、複数のセグメント16を径方向外方へ移動させてビードロックシュー18を拡径移動させる。このようなビードロックシュー18の拡径移動にしたがって、グリーンケース1のビード部材2がビードロックシュー18の凹部19に嵌め込まれ、グリーンケース1がビードロックシュー18に保持される。
【0027】
その際、
図3に示すように、ビードロックシュー18の凹部19の底面から突出する針部材20が、凹部19に嵌め込まれたビード部材2の径方向内側に差し込まれ、ビード部材2のビードコア2aの周囲に残留する空気を外部へ排気する排気穴7を穿設する。
【0028】
本実施形態では、針部材20は、グリーンケース1のカーカス5を貫通し、針先部24の先端がビードコア2aに到達しており、より具体的には、付け根部22及び中間部26がチェーファー4を貫通し、針先部24がカーカス5を貫通している。
【0029】
そして、タイヤ成型装置10は、ビードロックシュー18で保持したグリーンケース1をタイヤ形状に合わせたトロイダル状に変形させた後、カーカス5の外周にベルト及びトレッドゴムを積層しグリーンタイヤを成型する。得られたグリーンタイヤは、モールド内で加硫成型されることで空気入りタイヤが得られる。なお、タイヤ成型装置10により成型されたグリーンタイヤには、ビード部材2の径方向内側に排気穴7が穿設されているが、加硫成型内において未加硫ゴムが流動することで排気穴7は塞がれ、得られた加硫後の空気入りタイヤには排気穴7に対応する穴は存在しない。
【0030】
以上のような本実施形態のタイヤ成型装置10では、ビードロックシュー18が拡径してグリーンケース1を保持すると、針部材20がグリーンケース1のビード部材2の径方向内側に差し込まれて排気穴7を穿設することができるため、グリーンケース1の保持と、ビード部材2の周囲に残留する空気の排気とを同時に完了することができる。そのため、作業工数を増やすことなく、ビード部材とカーカスとの間に残留する空気による膨らみを抑えて外観品質に優れるタイヤを成型することができる。
【0031】
また、本実施形態では、針部材20の針先部24がカーカスを貫通しているため、カーカスとビードコア2aとの間に残留する空気を排気穴7を介して外部へ排出することができる。しかも、本実施形態では、針先部24の先端がビードコア2aに到達しており、カーカスとビードコア2aとの間に残留する空気を効率的に外部へ排出することができ、外観品質に優れるタイヤを成型することができる。
【0032】
また、本実施形態では、インナーライナー3が存在しないビード部材2の径方向内側に針部材20を差し込むため、空気入りタイヤの耐空気透過性を低下させることがない。
【0033】
また、本実施形態のタイヤ成型装置10では、針部材20が、ビードロックシュー18側に設けられた付け根部22と、付け根部22より先端側に設けられた針先部24とを備え、径方向Rに対する針先部24の稜線24aの角度θ1が、付け根部22の稜線22aに対する角度θ2より小さく設定され、付け根部22における直径が、針先部24における直径に比べて大幅に大きく設定されている。そのため、付け根部22の直径を大きく設けて針部材20の強度を確保できるとともに、針部材20を抜いた後に穿設された排気穴7が閉塞するのを防ぐことができ、さらに、針先部24は、鋭角に尖った形状に設けてカーカスコードを切断することなくカーカス5を貫通することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、針部材20を軸方向Lに複数本並べて凹部19に設ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、軸方向Lに1本設け、タイヤ成型装置10の周方向に間隔をあけて複数本設けてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…グリーンケース、2…ビード部材、2a…ビードコア、2b…ビードフィラ、3…インナーライナー、4…チェーファー、5…カーカス、6…サイドウォール部、7…排気穴、10…タイヤ成型装置、14…主軸、16…セグメント、18…ビードロックシュー、19…凹部、20…針部材、22…付け根部、24…針先部、26…中間部、27…ネジ部、28…ネジ穴