【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カラムパイプ及びエンドフィッティングを有し、充填剤粒子を充填して用いられる液体クロマトグラフィー用カラムであって、上記カラムパイプ及び上記エンドフィッティングは、ポリエチレン又はポリメチルメタクリレートからなり、カラム内に充填される充填剤粒子の平均粒径が2〜20μmである液体クロマトグラフィー用カラム
を用いるヘモグロビン類の分析方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
カラム内面への生体由来成分の非特異吸着を抑制し、正確な測定を行うためには、カラムを構成する材料を、疎水性の高いもの(具体的には、水の接触角が90°以上)にすることが考えられる。しかしながら、実際に疎水性の高い材料からなるカラムを作製してヘモグロビン類等の試料の測定を行った際、材料によっては分離性能が悪化することがある。また、比較的疎水性の低い材料を用いて作製したカラムの中にも、ヘモグロビン類等の試料の測定に用いた場合に良好に測定対象を分離検出できるものがある。そのため、カラムを構成する材料の疎水性の程度は、ヘモグロビン類等の分離性能には必ずしも影響しないと考えられる。
そこで本発明者は、疎水性の程度に関連付けることなく、種々の材料について鋭意検討した結果、カラムパイプ及びエンドフィッティングの材料として、ポリエチレン又はポリメチルメタクリレートを用いた場合に、生体由来成分の非特異吸着を抑制し、正確な測定を行うことができる液体クロマトグラフィー用カラムを安価に作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラム(以下、「本発明のカラム」ともいう)は、ポリエチレン又はポリメチルメタクリレートからなるカラムパイプ及びエンドフィッティングを有する。疎水性の高いポリエチレンだけでなく、比較的疎水性の低いポリメチルメタクリレートを用いた場合にも、生体由来成分の非特異吸着が抑制され、正確な測定を行うことができる。また、ポリエチレン及びポリメチルメタクリレートは汎用樹脂であるため、本発明のカラムは安価に作製でき、焼却処分が可能なため、廃棄も容易である。
【0010】
ポリエチレン又はポリメチルメタクリレートからなるカラムを用いる場合の生体由来成分の非特異吸着を抑制する効果は、特にヘモグロビン類の測定において顕著に発揮される。即ち、本発明の液体クロマトグラフィー用カラムを用い、特定の圧力条件下で測定することによって、カラムの破損や液漏れ等の不具合を生じさせることなく、高い分離性能でヘモグロビン類を分析できる。
【0011】
本発明のカラムの製造方法としては、例えば、射出成型、押出成型、切削加工等が挙げられる。
また、カラムパイプ及びエンドフィッティングの形状は特に限定されない。カラムパイプとエンドフィッティングとを接続する方式としては、例えば、フェラル式、ねじ込み式等が挙げられる。
【0012】
本発明のカラムに充填剤粒子を充填した後、カラムに所定の条件で溶離液及び測定試料を送液することにより、試料が測定される。特に、ヘモグロビン類を測定する際、カラムパイプ及びエンドフィッティングが、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等からなるカラムを用いた場合は、カラム内面への非特異吸着が起こりやすいが、本発明のカラムを用いた場合はカラム内面への非特異吸着を抑制できるため、高い分離性能でヘモグロビン類を分析できる。
本発明のカラムを用いるヘモグロビン類の分析方法もまた、本発明の一つである。
【0013】
本発明のヘモグロビン類の分析方法に用いる液体クロマトグラフは、溶離液送液用のポンプ、検出器等を備えた公知の液体クロマトグラフに、充填剤粒子を充填した本発明のカラムを接続することにより構成することができる。
本発明のヘモグロビン類の分析方法において、分析時のカラムの通液圧力は、充填剤粒子の粒径や粒度分布、カラム内径、カラム長さ、溶離液の流速等によって決定される。従って、その圧力を一義的に決定することはできないため、所望の分離性能が得られる範囲内で適宜調整すればよいが、カラムの破損や液漏れ等の不具合を生じさせることなく、高い分離性能でヘモグロビン類を分析できるように、分析時のカラムの通液圧力を4.0MPa以下にすることが好ましく、3.0MPa以下にすることがより好ましい。
なお、カラムの通液圧力は、送液ポンプとカラムとの間に接続した圧力計から圧力値を読み取ることにより測定される。
【0014】
分離性能にも大きく影響する充填剤粒子の平均粒径、カラムの内径、カラムの長さ、及び、溶離液の送液速度については、以下の範囲内で調整することが好ましい。
【0015】
充填剤粒子の平均粒径の好ましい下限は2μm、好ましい上限は20μmである。充填剤粒子の平均粒径が2μm未満であると、カラムの通液圧力が高くなり、カラムの破損や液漏れ等の不具合が生じることがある。充填剤粒子の平均粒径が20μmを超えると、分離性能が低下し、ヘモグロビンA1cの測定に用いた場合にはヘモグロビン類の分離が不充分となることがある。上記充填剤粒子の平均粒径のより好ましい下限は5μm、より好ましい上限は15μmである。
なお、充填剤粒子の平均粒径は、粒度分布測定装置(Particle Sizing Systems社製、「Accusizer780」)で測定された値である。
【0016】
本発明のカラムの内径の好ましい下限は2.0mm、好ましい上限は6.0mmである。カラムの内径が2.0mm未満であると、カラム内を流れる移動相の線速度が高くなりすぎて、カラムの通液圧力が高くなり、カラムの破損や液漏れ等の不具合が生じることがある。カラムの内径が6.0mmを超えると、カラム内における検体や移動相の拡散が起こりすぎて、分離性能が低下することがある。カラムの内径のより好ましい下限は3.0mm、より好ましい上限は5.0mmである。
【0017】
本発明のカラムの長さの好ましい下限は10mm、好ましい上限は50mmである。カラムの長さが10mm未満であると、理論段数の低下に伴って分離性能が低下することがある。カラムの長さが50mmを超えると、カラムの通液圧力が高くなり、カラムの破損や液漏れ等の不具合が生じることがある。カラムの長さのより好ましい下限は15mm、より好ましい上限は40mmである。
【0018】
送液用ポンプによる溶離液の送液速度の好ましい下限は0.5mL/分、好ましい上限は2.5mL/分である。溶離液の送液速度が0.5mL/分未満であると、流速が遅いために測定時間が長くなる。溶離液の送液速度が2.5mL/分を超えると、カラムの通液圧力が大きくなり、カラムの破損や液漏れ等の不具合を生じことがある。上記溶離液の送液速度のより好ましい下限は1.0mL/分、より好ましい上限は2.0mL/分である。
【0019】
本発明のカラムに充填する充填剤粒子としては、従来公知のイオン交換液体クロマトグラフィー用の充填剤粒子が用いられる。なかでも、特許第3990713号に開示されているような、イオン交換基を有し、かつ、最表面がオゾン水により親水化処理された充填剤粒子が好適である。このような充填剤粒子を用いることにより、カラムの通液圧力を低くしても高い分離性能でヘモグロビン類等の試料を測定できる。
【0020】
本発明のカラムの上流側及び下流側には、カラム内の充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止するためのフィルタが配置されていることが好ましい。該フィルタは、異物を捕捉するためのものではなく、充填剤粒子が筒状容器から漏れ出るのを防止することができればよい。
フィルタとしては、例えば、紙、樹脂、金属等からなるものが挙げられる。なかでも、特開2006−189427号公報に記載されたような、孔径の異なる3層からなる構造を有するステンレス製のフィルタが好適である。
フィルタの濾過面の形状は、円状でもよいし、その他の形状でもよい。
【0021】
繰り返して同一のカラムを用いて測定する場合には、カラムの上流側には、異物を捕捉するためのプレフィルタが設置されていることが好ましい。プレフィルタは、本発明のカラムと別々に配置されていてもよく、1つの筒状容器内に一体化されて配置されていてもよい。いずれの場合も、プレフィルタがカラムの上流となるように装置の配管に結合される。
【0022】
本発明のヘモグロビン類の分析方法において、液体クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、有機酸、無機酸、及び、これらの塩類、アミノ酸類、グッドの緩衝液等が挙げられる。
有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、タウリン、アルギニン等が挙げられる。
また、緩衝液には、他に一般に添加される物質、例えば、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物、カオトロピックイオン類等を適宜添加してもよい。
【0023】
ヘモグロビン類の測定を行う際の緩衝液の塩濃度の好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は1000mmol/Lである。緩衝液の塩濃度が10mmol/L未満であると、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビン類を分離することができなくなることがある。緩衝液の塩濃度が1000mmol/Lを超えると、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。
【0024】
本発明のヘモグロビン類の分析方法により、ヘモグロビンA0、ヘモグロビンA1c、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)、ヘモグロビンA2等を測定することができる。また、異常ヘモグロビン類、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD、ヘモグロビンE等を測定することができる。