(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリブチレンテレフタレート25質量%以上70質量%以下と、ポリカーボネート10質量%以上50質量%以下と、エラストマー5質量%以上20質量%以下と、難燃剤10質量%以上15質量%以下と、三酸化アンチモン2質量%以上10質量%以下とからなるか、又は、
ポリブチレンテレフタレート25質量%以上70質量%以下と、ポリカーボネート10質量%以上50質量%以下と、エラストマー5質量%以上20質量%以下と、難燃剤10質量%以上15質量%以下と、三酸化アンチモン2質量%以上10質量%以下と、前記三酸化アンチモン以外の難燃助剤、ドリッピング防止剤、リン系安定剤、酸化防止剤、離型剤、及び着色剤からなる群より選択される少なくとも1種の成分とからなり、
前記難燃剤が、臭素含有アクリル樹脂又は臭素含有エポキシ化合物である
熱可塑性樹脂組成物から構成され、
ISO179/1eAに準拠して測定した、23℃でのシャルピー衝撃値が、15kJ/m2以上であり、
厚みが1.0mmの条件で、UL94に準拠して測定した難燃性がV−0以上であり、屋外で使用される
樹脂成形体。
前記熱可塑性樹脂組成物は、IEC112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液及び白金電極を用いて測定される比較トラッキング指数が、0または1である請求項1から6のいずれかに記載の前記樹脂成形体。
前記熱可塑性樹脂組成物は、IEC112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液及び白金電極を用いて測定される比較トラッキング指数が、0である請求項1から6のいずれかに記載の前記樹脂成形体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハロゲン化合物やアンチモン化合物、あるいはリン系難燃剤と窒素含有化合物を配合した熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性等の機械物性の低下を招きやすい。熱可塑性樹脂組成物に対して要求される物性が多い場合、熱可塑性樹脂組成物の多数の物性を所望の範囲に調整することは困難である。ところが、屋外で使用される電気電子部品には、難燃性に加え、耐衝撃性が求められ、さらに、耐候性も求められる。また、電源装置など高電圧部品に使用される場合、耐トラッキング性も要求される。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、難燃性、耐候性、耐衝撃性、耐トラッキング性のいずれの点も優れた樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、熱可塑性樹脂と、ポリカーボネートと、エラストマーと、難燃剤とを組み合わせることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 熱可塑性樹脂と、ポリカーボネートと、エラストマーと、難燃剤とを含む熱可塑性樹脂組成物から構成され、ISO179/1eAに準拠して測定した、23℃でのシャルピー衝撃値が、15kJ/m
2以上であり、厚みが1.0mmの条件で、UL94に準拠して測定した難燃性がV−0以上であり、屋外で使用される樹脂成形体。
【0009】
(2) ISO179/1eAに準拠して測定した、−40℃でのシャルピー衝撃値が、5kJ/m
2以上ある(1)に記載の樹脂成形体。
【0010】
(3) 前記樹脂成形体は、電気電子部品用のコネクター、プラグ、又は電気電子部品を収納するための収納筺体である(1)又は(2)に記載の樹脂成形体。
【0011】
(4) 前記コネクターは、太陽電池の構成部品、ブレーカーの構成部品、スイッチの構成部品、又は電気自動車の構成部品である(3)に記載の樹脂成形体。
【0012】
(5) 前記熱可塑性樹脂はポリブチレンテレフタレートであり、前記熱可塑性樹脂組成物はポリブチレンテレフタレートを25質量%以上70質量%以下と、ポリカーボネートを10質量%以上50質量%以下と、エラストマーを5質量%以上20質量%以下と、難燃剤を10質量%以上15質量%以下と、を含む(1)から(4)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0013】
(6) 前記難燃剤は、臭素含有アクリル樹脂であり、前記熱可塑性樹脂組成物は、さらに三酸化アンチモンを2質量%以上10質量%以下含む(1)から(5)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0014】
(7) 前記エラストマーは、コアシェル系エラストマーである(1)から(6)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0015】
(8) 前記熱可塑性樹脂組成物は、温度260℃、せん断速度1000sec
−1での溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa・s以下である(1)から(7)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0016】
(9) 前記熱可塑性樹脂組成物は、IEC112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液及び白金電極を用いて測定される比較トラッキング指数が、0または1である(1)から(8)のいずれかに記載の前記樹脂成形体。
【0017】
(10) 前記熱可塑性樹脂組成物は、IEC112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液及び白金電極を用いて測定される比較トラッキング指数が、0である(1)から(8)のいずれかに記載の前記樹脂成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂成形体は、難燃性、耐衝撃性、耐候性のいずれの点においても優れている。このため、本発明の樹脂成形体は、屋外で使用される電気電子部品、又はその電気電子部品の構成部品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
本発明の樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、ポリカーボネートと、エラストマーと、難燃剤とを含む熱可塑性樹脂組成物から構成され、ISO179/1eAに準拠して測定した、23℃でのシャルピー衝撃値が、15kJ/m
2以上であり、厚みが1.0mmの条件で、UL94に準拠して測定した難燃性がV−0以上であり、屋外で使用される。
【0021】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、ポリカーボネートと、エラストマーと、難燃剤とを含む。
【0022】
ポリカーボネートとエラストマーとを併用することで耐衝撃性を樹脂成形体に付与することができ、さらに、難燃剤を最適化することで耐衝撃性の低下を抑制することができる。したがって、本発明の樹脂成形体は、難燃性、耐衝撃性のいずれにも優れる。そして、ポリカーボネートとエラストマーと難燃剤の組み合わせであれば、樹脂成形体に対して耐候性も付与することができる。
【0023】
熱可塑性樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレン、アクリロニトリル−(ブタジエン)−スチレン共重合体等が使用可能である。これらの中でも特にポリエステルの使用が好ましい。ここで、熱可塑性樹脂には、ポリカーボネート、熱可塑性樹脂から構成されるエラストマーは含まない。また、熱可塑性樹脂組成物に複数種の熱可塑性樹脂を含有させてもよい。
【0024】
熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、樹脂成形体の用途等に応じて、所望の性質を有するものを使用する。そして、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、上記所望の性質が樹脂成形体に反映されるように決定される。即ち、熱可塑性樹脂の好ましい含有量は、熱可塑性樹脂の種類等によって異なる。
【0025】
ポリカーボネートは、溶剤法、即ち、塩化メチレン等の溶剤中で公知の酸受容体、分子量調整剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応又は二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応によって製造することができる。ここで、二価フェノールとしてはビスフェノール類を例示することができる。より具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ちビスフェノールAを例示することができる。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他の二価フェノールで置換したものであってもよい。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルのような化合物又はビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノール類を例示することができる。これら二価フェノールは二価フェノールのホモポリマー又は2種以上のコポリマーであってもよい。さらに本発明で用いるポリカーボネートは多官能性芳香族化合物を二価フェノール及び/又はカーボネート前駆体と反応させた熱可塑性ランダム分岐ポリカーボネートであってもよい。なお、熱可塑性樹脂組成物には複数種のポリカーボネートを含有させてもよい。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物中のポリカーボネートの種類、含有量については特に限定されず、上記ポリカーボネートの種類、上記熱可塑性樹脂の種類、後述するエラストマーの種類やエラストマーの含有量等に応じて適宜決定される。特に、本発明の特徴の一つは、ポリカーボネートとエラストマーとを組み合わせることで、難燃剤により難燃性が付与された樹脂成形体であっても、耐衝撃性を付与できる点にある。したがって、この効果を奏するようにポリカーボネートの種類や含有量が決定される。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物に含まれるエラストマーは特に限定されず、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、コアシェルエラストマー等の一般的なエラストマーを使用することができる。
【0028】
オレフィン系エラストマーとは、エチレン及び/又はプロピレンを主成分とする共重合体である。オレフィン系エラストマーの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0029】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。
【0030】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えば、短鎖エステルからなるハードセグメントと、数平均分子量が約200以上6000以下のポリエーテル成分及び数平均分子量が約200以上10000以下のポリエステル成分からなるソフトセグメントとを含有する共重合体が挙げられる。ハードセグメントとソフトセグメントの比率は適宜調整される。ポリエステルハードセグメントを構成するジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。また、ポリエステルハードセグメントを構成するジオール成分としては、炭素数2以上12以下の脂肪族もしくは脂環族ジオール、即ちエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールや、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノール及びそれらの混合物が挙げられる。一方、ソフトセグメントを構成するポリエーテル成分としては、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールが例示できる。ソフトセグメントを構成するポリエステル成分としては、炭素数2以上12以下の脂肪族炭化水素が例示できる。
【0031】
コアシェルエラストマーは、コア層(コア部)と、このコア層の表面の少なくとも一部を被覆するシェル層とで構成される多層構造を有する。本発明においては、一般的なコアシェルエラストマーを使用することができる。
【0032】
上記エラストマーの種類や含有量は、熱可塑性樹脂の種類、ポリカーボネートの含有量等に応じて、本発明の効果を奏するように適宜決定される。
【0033】
難燃剤は、特に限定されず、例えば、ハロゲン含有難燃剤、リン含有難燃剤、窒素含有難燃剤、イオウ含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、アルコール系難燃剤、無機系難燃剤、芳香族樹脂難燃剤等を例示することができる。なお、難燃剤の種類は耐衝撃性に影響を与えるため、樹脂組成物の耐衝撃性を低下させにくい難燃剤を選択する必要がある。ここで、耐衝撃性にほとんど影響を与えない難燃剤とは、エラストマーの種類によって異なるため、エラストマーの種類を考慮しながら、好適な難燃剤の種類を決定する。
【0034】
熱可塑性樹脂組成物中の難燃剤の含有量についても特に限定されず、他の成分と同様に他の成分の種類、含有量等に応じて、本発明の効果を奏するように決定する。
【0035】
以上の必須成分である、熱可塑性樹脂、ポリカーボネート、エラストマー、難燃剤以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、難燃助剤、ドリッピング防止剤、安定剤、酸化防止剤、離型剤、着色剤等を挙げることができる。
【0036】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、上記の熱可塑性樹脂組成物を原料として製造されるが、熱可塑性樹脂組成物の中でも、以下に説明するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0037】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレートを25質量%以上70質量%以下と、ポリカーボネートを10質量%以上50質量%以下と、エラストマーを5質量%以上20質量%以下と、難燃剤を10質量%以上15質量%以下と、を含む。
【0038】
熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレートの場合には、ポリカーボネート、エラストマー、難燃剤を上記の含有量で含有することが好ましい。以下、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の各成分について説明する。
【0039】
ポリブチレンテレフタレートは、上記の熱可塑性樹脂の中のポリエステルの一種にあたる。ポリエステルの中でも特にポリブチレンテレフタレートは、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性及び耐薬品性を有し、電気電子部品として好適に用いられる。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレートの含有量は25質量%以上70質量%以下である。ポリブチレンテレフタレートの含有量が上記範囲内であれば、ポリブチレンテレフタレートの上記好ましい性質が樹脂成形体に付与される傾向にある。より好ましい含有量は45質量%以上55質量%以下である。
【0040】
また、ポリブチレンテレフタレートとは、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1〜C6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレートである。ポリブチレンテレフタレートはホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0041】
ポリブチレンテレフタレートにおいて、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8〜C14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4〜C16のアルキルジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5〜C10のシクロアルキルジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1〜C6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0042】
ポリブチレンテレフタレートにおいて、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2〜C10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2〜C4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコー成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0043】
以上説明したコモノマー成分を共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体は、何れもポリブチレンテレフタレートとして好適に使用できる。また、ポリブチレンテレフタレートとして、ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体とを組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ポリカーボネートの種類は特に限定されないが、樹脂組成物中のポリカーボネートの含有量は10質量%以上50質量%以下である。10質量%以上であると衝撃性が付与されるという理由で好ましく、50質量%以下であると流動性、耐乾熱性の低下を抑えるという理由で好ましい。より好ましい含有量は20質量%以上25質量%以下である。
【0045】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、エラストマーの種類は特に限定されないが、オレフィン系エラストマー、コアシェルエラストマーの使用が好ましく、コアシェルエラストマーの使用が最も好ましい。
【0046】
オレフィン系エラストマーの中でもエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体の使用が好ましい。
【0047】
また、上記の通りコアシェルエラストマーの使用が好ましい。コアシェルエラストマーを使用することで、樹脂組成物の流動性が高まり、成形性に非常に優れた樹脂組成物になる。より具体的には、コアシェルエラストマーのコア層は、ゴム成分(軟質成分)で構成されるのが好ましく、ゴム成分としてはアクリル系ゴムが好適に用いられる。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば−10℃以下)であるのが好ましく、−20℃以下(例えば−180℃以上−25℃以下)であるのがより好ましく、−30℃以下(例えば−150℃以上−40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0048】
ゴム成分として用いるアクリル系ゴムは、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1〜C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC2〜C6のアルキルエステルがより好ましい。
【0049】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0050】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマーのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0051】
樹脂組成物中のエラストマーの含有量は5質量%以上20質量%以下である。5質量%以上であると耐衝撃性が付与されるという理由で好ましく、20質量%以下であると難燃性が維持されるという理由で好ましい。より好ましい含有量は10質量%以上20質量%以下、特に好ましい含有量は12質量%以上18質量%以下である。最も好ましい含有量は13質量%以上16質量%以下である。
【0052】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、難燃剤の種類は特に限定されないが、ハロゲン系難燃剤であることが好ましい。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ハロゲン含有アクリル系樹脂、ハロゲン含有スチレン系樹脂、ハロゲン含有ポリカーボネート系樹脂、ハロゲン含有エポキシ化合物、ハロゲン化ポリアリールエーテル化合物、ハロゲン化芳香族イミド化合物、ハロゲン化ビスアリール化合物、ハロゲン化脂環族炭化水素、ハロゲン化トリ(アリールオキシ)トリアジン化合物等が挙げられる。
【0053】
ハロゲン系難燃剤の中でも、臭素原子を含有する有機臭素化物が好ましい。具体的には、臭素含有アクリル系樹脂、臭素含有スチレン系樹脂、臭素含有ポリカーボネート系樹脂、臭素含有エポキシ化合物、臭素化ポリアリールエーテル化合物、臭素化芳香族イミド化合物、臭素化ビスアリール化合物、臭素化トリ(アリールオキシ)トリアジン化合物等が挙げられる。
【0054】
難燃剤としてハロゲン系難燃剤(特に有機臭素化物)を用いれば、エラストマーと組み合わせやすく、耐衝撃性を低下させにくい傾向にあるため好ましい。そして、中でも臭素含有アクリル系樹脂の使用が好ましい。
【0055】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃助剤を含むことが好ましい。難燃助剤としては、芳香族樹脂(フェノール系樹脂、アニリン系樹脂等)、アンチモン含有化合物、モリブデン含有化合物(酸化モリブデン等)、タングステン含有化合物(酸化タングステン等)、ビスマス含有化合物(酸化ビスマス等)、スズ含有化合物(酸化スズ等)、鉄含有化合物(酸化鉄等)、銅含有化合物(酸化銅等)が例示できる。これらの難燃助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0056】
難燃助剤の中でもアンチモン化合物の使用が好ましい。アンチモン化合物を使用することで樹脂組成物の難燃性をさらに向上させることができる。特に、臭素含有アクリル樹脂とアンチモン化合物との組み合わせが好ましい。
【0057】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の難燃助剤の含有量は、特に限定されず、難燃剤の種類や含有量に応じて適宜決定される。
【0058】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においても、上記の熱可塑性樹脂組成物と同様に、その他の成分を含有することができる。
【0059】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、ISO179/1eAに準拠して測定した、23℃でのシャルピー衝撃値が、15kJ/m
2以上であり、厚みが1.0mmの条件で、UL94に準拠して測定した難燃性がV−0以上である。
【0060】
上述の通り、ポリカーボネートとエラストマーとを組み合わせることで、難燃剤を用いて樹脂成形体に難燃性を付与しても樹脂成形体の耐衝撃性の低下を抑制できる。したがって、本発明の樹脂成形体は、優れた耐衝撃性を有するとともに難燃性も有する。
【0061】
また、難燃剤を含有することによる樹脂成形体の耐衝撃性の低下が生じ難いことから、本発明の樹脂成形体は、ISO179/1eAに準拠して測定した、−40℃でのシャルピー衝撃値が、5kJ/m
2以上に調整することもできる。
【0062】
以上の通り、本発明の樹脂成形体は、耐衝撃性、低温環境下での耐衝撃性、難燃性に優れることから、屋外で使用されてもほとんど問題が生じない。
【0063】
屋外で使用されるとは、本発明の樹脂成形体が耐候性に優れることを意味する。耐候性に優れるとは、耐熱性、耐湿性等の全てにおいて、屋外に曝されても問題が無い程度に優れることを意味する。
【0064】
本発明の樹脂成形体の具体的な好ましい用途例としては、電気電子部品用のコネクター、プラグ、又は電気電子部品を収納するための収納筺体を挙げることができる。
【0065】
本発明の樹脂成形体は、電気電子部品用のコネクターの中でも、太陽電池の構成部品、ブレーカーの構成部品、スイッチの構成部品、又は電気自動車の構成部品であるコネクターとして好適である。
【実施例】
【0066】
<材料>
熱可塑性樹脂:ポリブチレンテレフタレート樹脂(ウィンテックポリマー社製、固有粘度:0.875dL/g)
ポリカーボネート:帝人化成社製、「パンライトL−1225W」
エラストマー1:メタクリレートブタジエンスチレン(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、「パラロイドEXL2602」)
エラストマー2:コア層がアクリル系ゴム、シェル層がビニル系重合体のコアシェルエラストマー(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、「パラロイドEXL2314」)
エラストマー3:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学工業社製、「BONDFAST 7M」)
エラストマー4:ポリエステルエラストマー(三井化学社製、「Nタフマー MP0620」)
難燃剤1:臭素含有アクリル樹脂(アイシーエル・アイピー・ジャパン社製、「FR1025」)
難燃剤2:臭素含有エポキシ化合物(アイシーエル・アイピー・ジャパン社製、「F3100」)
難燃助剤:三酸化アンチモン(日本精鉱社製、「PATOX−M」)
ドリッピング防止剤:
安定剤1:リン酸二水素ナトリウム(米山化学工業社製、「リン酸一ナトリウム」)
安定剤2:リン系安定剤(ADEKA社製、「アデカスタブPEP36」)
酸化防止剤1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・ジャパン社製、「Irganox1010」)
酸化防止剤2:ジグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製、「L7640」)
【0067】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
上記の材料を以下の表1に示す割合(単位は質量%)でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にホッパーから供給して260℃で溶融混練し、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。
【0068】
<評価>
実施例の試験片及び比較例の樹脂組成物を用いて、衝撃性、低温衝撃性、燃焼性、湿熱性、耐乾熱性、流動性の評価を以下の方法で行った。
【0069】
[衝撃性]
得られたペレット状の樹脂組成物を、成形温度260℃、金型温度80℃で、射出成形し、シャルピー衝撃試験片を作製し、ISO179/1eAに定められている評価基準に従い、23℃の条件で評価した。評価結果を表1に示した。
【0070】
[低温衝撃]
−40℃の条件で行う衝撃性の評価であり、−40℃で行う以外については、上記の衝撃性と同様の方法で行った。評価結果を表1に示した。
【0071】
[燃焼性]
得られたペレット状の樹脂組成物を、成形温度260℃、金型温度80℃で、射出成形して製造した試験片(0.75mm厚み)について、アンダーライターズ・ラボラトリーズのUL−94規格垂直燃焼試験により燃焼性の評価を実施した。結果を表1に示した。
【0072】
[湿熱性]
成形温度260℃、金型温度80℃で、実施例及び比較例の樹脂組成物を射出成形して、ISO3167に準じた引張り試験片を製造した。続いて、各引張り試験片を用いて、温度23℃、湿度50%の条件下で、ISO527に準じて引張り強度、引張り伸びを測定した。
【0073】
また、上記の方法で製造した引張り試験片を、温度121℃、湿度100%の条件下に50時間放置して(湿熱環境下で放置して)、ISO527に準じて引張り強度、引張り延びを測定した。成形後に測定された上記引張強度、引張り伸びを100%として、湿熱環境下で放置した後の引張強度、引張り伸びを評価した。評価結果を表1に示した。
【0074】
[耐乾熱性]
成形温度260℃、金型温度80℃で、実施例及び比較例の樹脂組成物を射出成形して、ISO3167に準じた引張り試験片を製造した。続いて、各引張り試験片を用いて、温度23℃、湿度50%の条件下で、ISO527に準じて引張り強度、引張り延びを測定した。
【0075】
また、上記の方法で製造した引張り試験片を、東洋精機製作所社製ギアオーブンを用いて、温度150℃の条件下に300時間放置して(乾熱環境下で放置して)、ISO527に準じて引張り強度、引張り延びを測定した。成形後に測定された上記引張強度、引張り伸びを100%として、環熱境下で放置した後の引張強度、引張り伸びを評価した。評価結果を表1に示した。
【0076】
[流動性]
ペレット状の樹脂組成物について、東洋精機製作所社製キャピログラフ1Bを用いて、ISO11443に準拠して、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmLにて、剪断速度1000sec
−1にて溶融粘度を測定した。測定結果を表1に示した。
【0077】
[耐トラッキング性]
IEC(International Electrotechnical Commission)112第3版に準拠して、0.1%塩化アンモニウム水溶液、白金電極を用いて、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。
また、下記の評価基準に基づき、比較トラッキング指数をランク付けした。
250V以上400V未満;2
400V以上600V未満;1
600V以上;0
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1〜6は、いずれも優れた難燃性を有するとともに、耐衝撃性にも優れ、低温での耐衝撃性、耐トラッキング性にも優れることが確認された。
【0080】
実施例1、2から、ポリカーボネートとエラストマーと難燃剤とを組み合わせて、樹脂成形体に耐衝撃性、難燃性等を付与しても、耐候性にも優れることが、湿熱性の評価、耐乾熱性の評価から確認された。
【0081】
また、コアシェルエラストマーを使用した実施例1〜3は、EGMAを使用した実施例4及び5と比較して、流動性に優れること、さらに耐トラッキング性も特に優れることが確認された。
【0082】
比較例1からは、ポリカーボネート、エラストマーのいずれも含有しない場合には、耐衝撃性が低くなることが確認され、比較例2からは、ポリカーボネートのみを含有しても耐衝撃性は改善されないことが確認された。
【0083】
実施例及び比較例3〜5から、エラストマーと難燃剤との組み合わせを適宜選択することで、樹脂成形体は優れた難燃性を有するとともに、耐衝撃性にも優れ、低温での耐衝撃性にも優れることが確認された。