特許第6109774号(P6109774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6109774高次モード光ファイバ増幅器における誘導ブリユアン散乱の抑制
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109774
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】高次モード光ファイバ増幅器における誘導ブリユアン散乱の抑制
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   H01S3/067
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-51567(P2014-51567)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-183318(P2014-183318A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】61/799,796
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/205,596
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509094034
【氏名又は名称】オーエフエス ファイテル,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(72)【発明者】
【氏名】マーク マーメルシュタイン
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0140570(US,A1)
【文献】 特表2010−518631(JP,A)
【文献】 特開2009−116328(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0008664(US,A1)
【文献】 特表2010−518632(JP,A)
【文献】 S. Ramachandran, et al.,"Light propagation with ultralarge modal areas in optical fibers",OPTICS LETTERS,2006年 6月15日,Vol.31, No.12,p.1797-1799
【文献】 R. S. Quimby, et. al.,"Yb3+ ring doping in high-order-mode fiber for high-power 977-nm lasers and amplifiers",IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS,2009年 2月 4日,Vol.15, No.1,p.12-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
G02B 1/35−1/39
G02B 6/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された高次モード(HOM)信号の伝搬および増幅を支援する一方で、望ましくない低次モード(LOM)信号の利得を抑制する光ファイバ増幅器用の利得モジュールであって、
前記利得モジュールは、80μmより大きい直径であり、m=nの場合に選択されるn次の高次モードのための少なくとも1800μm理想的な有効面積0m0nであり、m≠nの場合であって、f0mはLP0mモードで前方へ向かう信号を伝播する光に対する電界分布であり、f0nはLP0nモードで後方へ向かうストークス光に対する電界分布である場合、クロスモード有効面積A0m0nが、
と定義されるコアを有するHOMファイバを備え、前記コアは、利得ドーパント濃度が前記選択されたn次のHOM信号が優勢な前記コアの領域ではより高くなり、m≠nのクロスモードLOM信号が優勢な前記コアの領域ではより低くなるように、利得ドーパントを用いて選択的にドープされている利得モジュール。
【請求項2】
伝搬する基本モードの光信号のモードを前記選択されたHOMに変換するように前記HOMファイバの第1の終端に結合された入力モード・コンバータと、
前記増幅されたHOM信号の前記モードを変換して前記最初の基本モードに戻すように、前記HOMファイバの第2の反対側の終端に結合された出力モード・コンバータとをさらに備える請求項1に記載の利得モジュール。
【請求項3】
前記HOMファイバの前記コアが内側領域および外側領域を含み、前記利得ドーパント濃度が、前記コアの前記外側領域ではより高く、前記内側領域ではより低いものである請求項1に記載の利得モジュール。
【請求項4】
前記HOMファイバの前記コアの前記選択的ドーピングが、前記コアの前記内側領域が非ドープのままであるように制御される請求項3に記載の利得モジュール。
【請求項5】
利得ドーパントが希土類材料を含む請求項1に記載の利得モジュール。
【請求項6】
前記利得ドーパントが、Er、Yb、CrおよびTmから成るグループから選択された材料を含む請求項5に記載の利得モジュール。
【請求項7】
前記利得ドーパントがYbのドーパント材料を含む請求項6に記載の利得モジュール。
【請求項8】
前記LOM信号が基本的LP01モード信号を含んでいる請求項1に記載の利得モジュール。
【請求項9】
前記選択された高次モードが、n≧8であるLP0nモードを含む請求項1に記載の利得モジュール。
【請求項10】
選択された高次モード(HOM)信号の伝搬および増幅を支援する一方で、望ましくない低次モード(LOM)信号の利得を抑制する光ファイバ増幅器用の利得モジュールであって、
前記利得モジュールは、80μmより大きい直径であり、m=nの場合に選択されるn次の高次モードのための少なくとも1800μm理想的な有効面積0m0nであり、m≠nの場合であって、f0mはLP0mモードで前方へ向かう信号を伝播する光に対する電界分布であり、f0nはLP0nモードで後方へ向かうストークス光に対する電界分布である場合、クロスモード有効面積A0m0nは、
と定義されるコアを含むHOMファイバを備え、前記コア、前記選択されたn次のHOM信号と利得ドーパントの重なりの積分が最大化され、前記望ましくないm≠nのクロスモードLOM信号と前記利得ドーパントの重なりの積分が前記HOMファイバの内部で最小化されるように、利得ドーパントを用いて、選択的にドープされている利得モジュール。
【請求項11】
選択された高次モード(HOM)信号の伝搬および増幅を支援する一方で望ましくない低次モード(LOM)信号の増幅を抑制し、利得ファイバ・モジュールを含む光ファイバ増幅器であって、
前記利得ファイバ・モジュールが、
基本モードで伝搬する入力信号を、前記選択された高次モードへ変換するための入力モード・コンバータと、
前記選択された高次モード信号を受け取り、増幅されたHOM信号を生成するように前記入力モード・コンバータの出力に結合された光学的利得ファイバであって、前記光学利得ファイバは80μmより大きい直径であり、m=nの場合に選択されるn次の高次モードのための少なくとも1800μm理想的な有効面積0m0nであり、m≠nの場合であって、f0mはLP0mモードで前方へ向かう信号を伝播する光に対する電界分布であり、f0nはLP0nモードで後方へ向かうストークス光に対する電界分布である場合、クロスモード有効面積A0m0nは、
と定義されるコアを含み、前記コア、利得ドーパント濃度が前記選択されたn次のHOM信号が優勢なコアの領域ではより高くなり、m≠nのクロスモードLOM信号が優勢なコアの領域ではより低くなるように、利得ドーパントを用いて選択的にドープされている、光学的利得ファイバと、
前記増幅されたHOM信号を、増幅された基本モード信号に変換するように、前記光学的利得ファイバの出力に結合されている出力モード・コンバータとを備える光ファイバ増幅器。
【請求項12】
前記光学的利得ファイバの前記コアが内側領域および外側領域を含み、前記利得ドーパント濃度が、前記光学的利得ファイバの前記コアの前記外側領域ではより高く、前記内側領域ではより低いものである請求項11に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項13】
前記光学的利得ファイバの前記コアの前記選択的ドーピングが、前記コアの前記内側領域を非ドープのままにしておくように制御される請求項12に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項14】
前記利得ドーパントが希土類材料を含む請求項12に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項15】
前記利得ドーパントが、Er、Yb、CrおよびTmから成るグループから選択された材料を含む請求項14に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項16】
前記利得ドーパントがYbのドーパント材料を含む請求項15に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項17】
前記LOM信号が基本的LP01モード信号を含んでいる請求項11に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項18】
前記選択された高次モードが、n≧8であるLP0nモードを含む請求項11に記載の光ファイバ増幅器。
【請求項19】
前記光学的利得ファイバの前記コアが、前記選択されたHOM信号と前記利得ドーパントの重なりの積分が最大化され、前記望ましくないLOM信号と前記利得ドーパントの重なりの積分が前記光学的利得ファイバの内部で最小化されるように、利得ドーパントを用いて選択的にドープされている請求項11に記載の光ファイバ増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年3月15日出願の米国仮出願第61/799,796号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、ファイバベースの光増幅器に関し、より具体的には伝搬する光信号の高次モード(HOM)を利用するファイバ増幅器利得モジュールに関するものであり、利得モジュール内のHOMファイバは、誘導ブリユアン散乱(SBS)を抑制し、かつファイバ増幅器の光パワー出力を増加するように適切にドープされている。
【背景技術】
【0003】
高出力ファイバ増幅器は、材料加工および防衛などの用途のための集中的な研究開発の対象である。パワー・スケーリングおよび重力波検出などの大規模な干渉測定法による測定技法のための複数の開口のコヒーレントな組合せなどの特定の用途に、単一の周波数放射(たとえば100MHz未満のレーザ線幅)の増幅が必要とされる。
【0004】
ファイバベースの光増幅器には、これらの用途で、より優れた変換効率、熱管理の容易さ、広帯域の利得および優れた横モードの安定性など、従来の固体レーザに対していくつかの利点がある。しかし、光ファイバ増幅器には比較的長い相互作用長Lが必要とされるため、最大の光パワーを達成するのに、顕著な非線形の制限がある。単一の周波数増幅器に関する最も厳しい非線形の制限は誘導ブリユアン散乱(SBS)である。
【0005】
SBSは、増幅器の前方伝搬するパワーが下方へのわずかな周波数偏移を伴って後方伝搬するパワーに変換される、ファイバ増幅器に生じる固有の効果であり、これによって増幅器によるパワー伝送が制限される。後方伝搬するストークス波により、基本的に光ファイバによって伝送することができる光信号のパワーを制限するように、所望の前方伝搬する信号からパワーが奪われる。したがって、量子物理学を参照して、SBSは、光子が、光波から、より低い周波数の新規のストークス光子へ移行すること、および音波に加わる新規の音子が生成されることによって説明され得る。ストークス・パワーが、光増幅器におけるストークス波の発生源では低いものであっても、後方伝搬するストークス光は、イオン・ゲイン(ionic gain)を受け、伝搬する信号の所望の「前方」利得と競合し、結果として増幅器の出力パワーがクランプされる。一般に、ファイバ・レーザおよび増幅器に生じる他の有害な光学雑音信号には、イオン・ゲインを経験する類似の効果があり得る(したがって、増幅器における可能な出力パワーがさらに制限される)。たとえば、望ましくないラマン散乱は、種々のタイプの利得媒体の広範な利得帯域幅とオーバラップする可能性があり、したがって、やはりイオン・ゲインを経験し得る。さらに、望ましくない光モードは、ファイバ・コアの利得ドープ領域と空間的にオーバラップするとき、イオン・ゲインを経験することがある。明らかに、イオン・ゲインは問題であり、対象となる所望の光モードに関して選択的イオン・ゲインを達成する一方で、望ましくないモードのイオン・ゲイン(この文脈では「雑音」と定義されている)を低減する(または除去する)技法は非常に望ましいものである。
【0006】
ファイバ増幅器におけるSBSの発現と関連したパワー閾値を増加するための最近の手法の1つには、高次モード(HOM)光ファイバを使用することが含まれる。受動的光ファイバにおけるSBSに関するパワー閾値は、しばしば次式のように引用され、
【数1】
ここで、Aeffは光コア領域の有効面積であり、gはブリユアン利得係数であり、Leffは光ファイバ増幅器の有効相互作用長である。有効相互作用長は次式で定義され、
【数2】
ここで、αは、m−1の単位の光学的減衰係数であり、Lはファイバの物理的長さである。さらに、半径方向に対称な光モードに関する光学的有効面積Aeffは、次式のように定義され得て、
【数3】
ここで、f(r)は伝搬する光モードの電界分布であり、<...>は、定義されたファイバ断面にわたる積分を表す。
【0007】
高次モード(たとえばLP08モードなど)の伝搬を支援するように設計された光ファイバが、基本モード(LP01)信号の伝搬用に使用されるファイバより大きな光学的有効面積Aeffを示すことは周知である。Aeffのこのより大きな値が、SBSパワー閾値の増加をもたらす(式(1)を参照されたい)。実際、LP08モードを伝搬するように設計されたHOMファイバは、約300μmの有効面積を有する基本的LP01モードの伝搬を支援する従来のより大きなモード区域(LMA)のファイバと比較して、約1800μmの有効面積を有し得る。誘導ラマン散乱、自己位相変調、相互位相変調、変調不安定性のような非線形メカニズムなどの高い光強度のために制限を与える他の光学的作用は、同様に、HOMファイバのより大きなAeffの利益を受ける。
【0008】
一方、高次モード(および関連する、より大きな有効面積)を利用すると、理論上は、ファイバ増幅器における低次モード(LOM)信号の使用に関して顕著な改善をもたらすはずであるが、HOMの使用と関連した実際のパワー閾値は、予期されたほど高くないことが判明している。
【発明の概要】
【0009】
HOMベースのファイバ増幅器のこれらおよび他の制限は、伝搬する光信号の高次モード(HOM)を利用するファイバ増幅器の利得モジュールに関連する本発明によって対処され、利得モジュール内のHOMファイバは、誘導ブリユアン散乱(SBS)を抑制し、かつファイバ増幅器の光パワー出力を増加するように適切にドープされている。使用に当たって、ファイバ増幅器の利得モジュールは、一般に、基本的LP01モード信号を、増幅器で用いるように選択された特定の高次モード(たとえばLP08モード)に変換するための入力モード・コンバータを含み、増幅されたHOM信号を再変換して最終的に元の基本モードに戻すための出力モード・コンバータも含む。
【0010】
HOM光ファイバのSBSパワー閾値がクロスモードSBSの発生によって複雑になること、すなわち、伝搬する高次モード(たとえばLP08など)だけでなく、基本モードを含む他のLOMのすべてにおいても生成された後方へ伝搬するストークス信号が存在することが発見されている。さらに、これらのLOMは、希土類ドープ光ファイバでは顕著なイオン・ゲインを達成し得る。結果として、クロスモードで誘導された光散乱に関するSBSの閾値は、ポンプ光とストークス光が同一の光モードで伝搬する有効面積よりかなり小さいクロスモードの光学的有効面積によって管理される。同様に、LOMで光を生成するいかなるメカニズム(たとえば不完全な接続、不完全なモード変換、誘導ラマン散乱など)も、クロスモードの光学的有効面積に影響を及ぼすことになる。
【0011】
本発明によれば、HOMベースのファイバ増幅器のHOM利得ファイバは、ストークス信号などのメカニズムのこれらのLOM(特に基本モード)が主に存在するコアの領域内のドーパントの存在を最小化するように選択的にドープされる。したがって、コアのこれらの特定領域内の利得媒体を低減すると、LOM光に印加されるイオン増幅(ionic amplification)のレベルが最小化され、「低減」という用語は、この意味では、クロスモードの成分が存在する領域の中に感知できるほどの量の利得媒体が意図的に導入されることのない(すなわち、これらの領域は非ドープのままである)場合も含むように用いられている。イオン・ゲインを最小化すると、ストークス波がHOM利得ファイバに沿って後方に伝搬し続けるので、ストークス・パワーのSBSの増大(growth)がさらに抑制されることになる。結果として、SBSの増大のこの抑制が、増幅信号の全般的な出力パワーの増加をもたらす。
【0012】
本発明の一実施形態では、YbでドープされたHOMファイバ増幅器が利用され、後方へ伝搬するストークス波の基本モードが存在するコア領域の部分(この場合、コアの中央の内側領域)からYbドーパントが排除されている。コアのこの内側領域からYbドーパントを排除しても、HOM信号は、コア区域の十分な範囲にわたって存在し、ドープされたコアの「外側の」領域内の利得を経験するはずなので、前方へ伝搬するHOM光信号の増幅器利得に著しい影響はないものと予期される。
【0013】
本発明の他の実施形態および態様ならびにさらなる実施形態および態様が、以下の議論の過程において、添付図面を参照することによって明らかになるであろう。
【0014】
次に図面を参照すると、いくつかの図における同じ数字は同じ部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ファイバ増幅器の利得モジュールの内部で使用され得る従来のHOMファイバの例示的部分の断面図である。
図2図1のHOMファイバに関連した屈折率プロファイルの図である。
図3図2の屈折率プロファイルのコア領域の拡大図であり、網掛けで示されるように、所望のLP08の前方へ伝搬する信号とコア領域全体の範囲内の一様なYbドーパントの存在とのオーバラップ、ならびに望ましくないLP01の後方へ伝搬するストークス波とコア領域全体の範囲内の一様なYbドーパントの存在とのオーバラップの両方のオーバラップを示すものである。
図4】本発明により、(LP01モードが存在する)コア領域の内側部分からYbドーパントを排除してクロスモードのSBSの発生の存在を低減するように形成された、YbでドープされたHOMファイバ増幅器のドーパント・プロファイルの図であり、内側部分の網掛けされていないところはYbドーパントがないことを示す。
図5】従来技術のHOMファイバを、本発明によって形成されたHOMファイバ増幅器と比較したSBSパワー閾値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のパラメータを説明するのに先立って、本発明の機構によって与えられる改善の理解を支援するために、従来のHOMベースのファイバ増幅器の作用を簡単に復習する。
【0017】
図1は、ファイバ増幅器の利得モジュールで使用されるHOMファイバ10の例示的部分の断面図である。具体的には示されていないが、実際の利得モジュールは、システムを通って伝搬する従来の基本モード信号と利得モジュールによって用いられる選択されたHOMの間を移行させるための入力コンバータおよびモード・コンバータも含むことになることを理解されたい。図1に具体的に示されているように、HOMファイバ10は、中央の(または内側の)コア領域12と外側のコア領域14から成るコア11を含んでおり、コア11は、より低い屈折率(index)の(ダウンドープされた)クラッド領域16によって取り囲まれている。図2には図1のHOMファイバ10の屈折率プロファイルが含まれ、各領域の相対的屈折率値を示している。基本的LP01モードの伝搬にしか対応しないように構成されている従来のシングル・モード・ファイバと比較して、HOMファイバ(この場合、内側領域12と外側領域14の組合せがコア11を形成している)の直径は比較的大きく、ほぼ80μm以上である。
【0018】
HOMファイバの中に従来技術のファイバ増幅器を生成するために、利得媒体ドーパント(たとえばイッテルビウム(Yb)など)が、全体のコアに(したがって、この場合は、コア11を形成する領域12および14の両方に)追加される。利得ドーパントを追加すると、コアに沿って進む伝搬する高次モード信号に存在する光パワーが増加する。以下の議論は、利得をもたらすように選択されたドーパントがYbである特定の実施形態を説明しているが、種々の他の希土類材料(たとえばエルビウム、ネオジム、Cr、Tmなど)が用いられてよく、やはり光学利得をもたらすことを理解されたい。
【0019】
高次モード(および関連する増加した光学的有効面積)を利用すると、SBSパワー閾値が増加し、基本モード信号を用いることに基づく以前の設計に対して顕著な改善をもたらすように見えるかもしれないが、これは、この場合に当てはまるものと判明しているわけではない。実際、HOMファイバ増幅器が基本モード・ファイバ増幅器に対して示すSBSパワー閾値の改善の量を制限する少なくとも2つの他の理由があると判断されている。第1に、SBSパワー閾値は、HOMの「理想的な」増加した光学的有効面積によって決定されるのではなく、以下で詳細に説明されるように、比較的小さな「クロスモードの」光学的有効面積によって決定されると判明している。さらに、このクロスモード・カップリングによって占められたLOMは、利得ドーパントとHOMおよびLOMの別々のモードのオーバラップの結果として、希土類ドープ光ファイバ増幅器において顕著なイオン・ゲインが達成される可能性がある。
【0020】
これらの発見の結果として、現在では、それぞれの伝搬モードに、ストークス放射に対応するいくつかの関連した光学的有効面積があると判断されている。したがって、上記の式(3)で示されたような有効面積に関する理想化された式は、HOMファイバにおけるSBSの閾値を求めるのに関連した光学的有効面積の多様性を示す次式の表現によって、より正確に反映され、
【数4】
ここで、f0mは、LP0mモードで前方へ向かって伝搬する光に対する電界分布であり、f0nは、LP0nモードで後方へ向かうストークス光に対する電界分布である。したがって、式(4)で定義される選択された有効面積A0m0nは、LP08モードで前方および後方へ伝搬する光だけを説明して、あらゆるクロスモードの成分の可能性を無視しており、元のHOMファイバ増幅器モデルに関して推定された理想的なA0808値より著しく小さくなり得る。
【0021】
一例では、増幅すべき前方に伝搬する信号に対してLP08モードを用いることが望まれていると想定する。この場合、A0801(すなわちLP08モードと基本的LP01モードの間のクロスモードの有効面積)は700μmであると推定され、A0808は1800μmであると推定される。したがって、実際の設計では、HOMベースのファイバ増幅器の最大のパワー出力は、単一のHOMモードの光学的有効面積A0808ではなくクロスモードの有効面積A0801によって制限される。
【0022】
本発明によれば、クロスモードの影響のこの問題は、ファイバ・コアの領域を、クロスモードの信号が大きい領域(理想的にはクロスモードの信号が最も大きいところ)でドーパント(すなわち利得媒体)を排除するように選択的にドープすることによって対処される。この選択的ドーピング機構により、LOM信号に存在する雑音信号の増幅が回避される。言い方を換えれば、ファイバ・コアは、利得ドーパントと所望のHOMモードの間の重なりの積分が最大になる一方で、利得ドーパントと望ましくないLOMの重なりの積分が最小になるように選択的にドープされる。
【0023】
図3は、図2の屈折率プロファイルのコア11の拡大図であり、この場合、利得媒体としてYbドーパントの存在を示している。図3は、利得媒体が、コア11の全体の広がりの内部に、すなわち内側領域12および外側のコア領域14の両方の内部に含まれている従来技術の機構を示す。内側のコア領域12と外側のコア領域14の両方のこの従来のドーピングは、図3の網掛け部分によって示されている。この場合、ドープされた区域に対するLP08信号の重なりの積分Γsigは、基本的に単位量(unity)に等しい(すなわちドーパントおよびLP08信号の存在がコア11の内部で基本的に同一の広がりを持つので、最大値に等しい)。示されるように、ドープされた区域と(望ましくない)LP01モード(Γ01で示される)の重なりの積分も、単位量に近いものである(この重なりの積分が最小限であるべきなので、これは望ましくない結果である)。実際、この、望ましくないLP01モードの望ましくない大きなオーバラップにより、後方へ伝搬するストークス光に対してイオン・ゲインがもたらされ、後方へ伝搬するストークス・パワーが増加してファイバ増幅器のSBSパワー閾値が減少する。大部分のLP08モードは内側のコア領域12を越えて伝搬し、大部分のLP01モードが内側のコア領域12の内部に存在することに注意されたい。さらに、LOMを励起する他のメカニズム(不完全な接続、SRSなど)も、同様に増幅器の性能を損なう可能性がある。
【0024】
したがって、本発明によれば、HOM信号(たとえばLP08)が主に存在するコア領域に利得ドーパント(この場合Yb)を導入して、基本モード(または他の望ましくないLOM)信号の大きな部分が見いだされるコア領域からこの利得ドーパントを排除するのに選択的ドーピングが用いられる。
【0025】
図4は、ファイバ増幅器として形成されたHOMファイバの部分の屈折率プロファイルであり、ファイバのコア領域は、望ましくないLOM信号が見いだされる領域からドーパントを排除するために選択的にドープされている。図4を参照すると、所望のHOMモード(LP08)信号と望ましくないLOM(基本的LP01モード)の両方が示されている。図4の図は、増幅器の内部で使用するように「選択された」HOMとしてLP08モードの使用を示しているが、ファイバ増幅器の内部で前方に伝搬する信号モードとして、任意の他の適切なHOM信号も選択されて用いられ得ることを理解されたい。図4を精密に調べると、この実施形態では、望ましくない基本モードが主に内側のコア領域12の内部に存在することが明らかである。したがって、この特定の例では、選択的ドーピング処理は、利得ドーパント(この場合Yb)が内側のコア領域12から排除されるように制御される。このように利得ドーパントのドーパント・プロファイルを再構成することにより、望ましくない基本的信号LP01と利得媒体の間の重なりの積分Γ01が実質的に低減される。結果として、後方へ伝搬するストークス光(または他のメカニズム)のイオン増幅が最小化され、後方へ伝搬するストークス・パワーおよび非直線の利得が著しく低減され、それに応じてSBS閾値パワーが増加する。
【0026】
したがって、所望の伝搬モード信号が見いだされる領域に対応するようにドープされるHOMファイバ・コアの特定領域を注意深く制御する(したがって、LOMが最も大きい領域を非ドープのままにしておく)ことにより、HOMファイバ増幅器の最大の出力パワーは、もはや利得媒体によって増幅される基本モード(および/または他のLOM)信号の存在によって制限されることがないので、著しく増加する。図4では、非ドープ領域が内側のコア領域12と同一の広がりを持つように示されているが、非ドープ領域は、外側のコア領域14の中に拡張することができ、あるいは内側のコア領域12の一部分しか含まないこともあり得ることに注意されたい。ドーピングの範囲を決定するのに考えるべき少なくとも1つの要素は、所望のHOM信号と利得ドーパントの重なりの積分を最大化し、望ましくないLOMと利得ドーパントの重なりの積分を最小化するように、重なりの積分の比(すなわちΓ08とΓ01の比)を大きな値に保つことである。
【0027】
実際、ストークス強度I(r、z)の増大は、ブリユアンとイオン・ゲインを組み合わせた増幅器によってモデル化され得て、次式で数学的に記述することができ、
【数5】
ここで、Iはブリユアン・ポンプ強度(この場合、増幅器の信号強度)として定義され、Iは後方へ伝搬するストークス強度であり、σはイオンの放射断面積であり、σはイオンの吸収断面積である。ストークス・パワーの発生は、ファイバの断面にわたる空間的積分によって求められて次式で与えられ、
【数6】
ここで、Aは式(4)で与えられたクロスモードの有効面積として定義され、Γはストークス信号とYbドーパントの重なりの積分を定義する。ブリユアンとYbドーパントを組み合わせた増幅器の後方へ伝搬するストークス波の増大は次式で表され、
【数7】
ここで、<...>はファイバ長に沿った平均を示す。したがって、GYbは後方へ伝搬するストークス光の利得の合計である。したがって、本発明によれば、Ybドーパントとストークス光のオーバラップが最小であれば、2番目の指数項は単位量の値になり(すなわちGYbの値が1に設定され)、ストークス・パワーの増幅の全体が著しく低減され(すなわち、イオンの寄与GYbのない非線形のSBS利得Gのみによって決定され)、それによってファイバ増幅器のSBS閾値パワーおよび最大出力パワーが増加する。
【0028】
図5は、後方へ伝搬する大量のストークス信号が存在する区域におけるドーパントの存在を除去するように、ファイバ増幅器を選択的にドーピングすることによる、HOMファイバ増幅器の動作の改善を示すグラフである。具体的には、望ましくない基本モード信号が伝搬している領域からドーパントが除去される。グラフAは、基本的に一様な利得ドーパント・プロファイルを有する従来技術の機構の図であり、コア区域の全体にわたってストークス・パワーをファイバ長の関数として示すものである。この場合、Ybドーパントが内側のコア領域12の内部に存在する、この従来技術の機構については、コア内にストークス・パワーの大きな値が存在している。グラフBは、本発明の例示的ファイバ増幅器に関連したものであり、この内側のコア領域12は非ドープのままであって、Ybドーパントは外側のコア領域14の内部にのみ導入されている。示されるように、この内側のコア領域を非ドープにしておく結果として、ストークス・パワーが著しく低減されている。特定のこの機構には、−7.4dBの低減が関連付けられる。
【0029】
例示的実施形態が示され、かつ説明されてきたが、提示された本開示に対する複数の変更形態、修正形態、または改変形態が製作され得ることが当業者には明らかであろう。たとえば、LP08モードが、伝搬する高次モードとして説明されているが、他の高次モードがファイバ増幅器の設計で用いられ得ることを理解されたい。同様に、望ましくないストークス信号が、基本的LP01モードとは別のモードで出現する可能性がある。他の利得ドーパント材料が、Ybの代わりに、またはYbと組み合わせて用いられてもよく、また、ドーパントが含まれる区域およびドーパントが排除される区域は、対応することが望まれるモードおよび除去することが望まれるモードの関数として変化されてよい。同様に、屈折率プロファイルは、より複雑な、高い屈折率および低い屈折率の複数の領域から成るものであってもよい。実際、すべてのそのような変更形態、修正形態および改変形態は本開示の範囲内と理解されるべきであり、本明細書に添付された特許請求の範囲によって定義されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5