(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109780
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/06 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
G01N29/06
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-70694(P2014-70694)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-190968(P2015-190968A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391006430
【氏名又は名称】中央精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】湯藤 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 正和
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕之
(72)【発明者】
【氏名】市古 和義
【審査官】
横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−230630(JP,A)
【文献】
特開昭57−122853(JP,A)
【文献】
米国特許第06532820(US,B1)
【文献】
特開2006−308566(JP,A)
【文献】
特開2002−177275(JP,A)
【文献】
特開2009−204327(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/113509(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波発振器から被検物の表面に対して所定の入射角を維持して一定方向へ発振超音波を走査し、前記入射角を変更した前記各走査において超音波受振器で受振された反射超音波より得られた各走査位置における画像を重ね合わせることによって、前記被検物中の欠陥を含む画像を得る超音波探傷方法において、前記反射超音波より前記各走査位置における前記超音波発振器から前記被検物の表面までの距離を算出して、算出された距離が予め定められた設定距離に対して誤差を生じている場合に、当該誤差を相殺するように前記各入射角で得られた前記各画像を変位させて重ね合わせるようにしたことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項2】
前記誤差は、原位置にある被検物の表面に垂直な方向とこれに直交する水平な方向で測定され、前記各画像は前記垂直方向と前記水平方向を座標軸とする二次元平面内で変位させられる請求項1に記載の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探傷方法に関し、特に被検物中の欠陥を正確に検出できる超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には探査対象領域たる溶接部等の断面画像を正確に得られる超音波探査方法が示されておいる。ここでは、異なる複数の入射角で探査対象領域を走査して超音波の受発振を行い、各入射角毎の反射波から非線形画像を得てこれを上記探査対象領域の断面形状に合わせたフレーム変換画像とし、これらフレーム変換画像を重ね合わせて非線形探査画像を生成することによって、探査対象領域の正確な断面画像を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−230630
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の超音波探査方法で被検物中の欠陥を検出する場合に、超音波受発振器の位置がずれたり、あるいは被検物が板材である場合にその板面が反り等によって傾斜すると、発振超音波の板面への入射点が変動して反射波(受振超音波)から得られる被検物中の欠陥位置に誤差を生じる。このため、フレーム変換画像を重ね合わせて非線形探査画像としても正確な欠陥断面画像にならないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、超音波受発振器の位置がずれ、あるいは被検物の表面が原位置から傾斜しても被検物内の欠陥の正確な断面画像を得ることが可能な超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明では、超音波発振器(2)から被検物(1)の表面に対して所定の入射角(θ)を維持して一定方向へ発振超音波を走査し、前記入射角(θ)を変更した前記各走査において超音波受振器(2)で受振された反射超音波より得られた各走査位置における画像を重ね合わせることによって、前記被検物(1)中の欠陥を含む画像を得る超音波探傷方法において、前記反射超音波より前記各走査位置における前記超音波発振器(2)から前記被検物(1)の表面までの距離(L)を算出して、算出された距離が予め定められた設定距離(Ls)に対して誤差を(ΔZ,ΔX)生じている場合に、当該誤差(ΔZ,ΔX)を相殺するように前記各入射角で得られた前記各画像を変位させて重ね合わせるようにしたことを特徴とする。
【0007】
本第1発明において、超音波受発振器の位置がずれ、あるいは被検物が板材である場合にその板面が反り等によって傾斜すると、超音波発振器から被検物表面までの距離が設定距離からずれて誤差を生じる。そこで、この誤差を解消するように各画像を変位させた後にこれらを重ね合わせることによって、被検物表面までの距離変動の影響を受けることなく被検物内の欠陥の正確な断面画像を得ることができる。
【0008】
本第2発明では、前記誤差(ΔZ,ΔX)は、原位置にある被検物の表面に垂直な方向とこれに直交する水平な方向で測定され、前記各画像は前記垂直方向と前記水平方向を座標軸とする二次元平面内で変位させられる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明の超音波探傷方法によれば、超音波受発振器の位置がずれ、あるいは被検物の表面が傾斜しても被検物内の欠陥の正確な断面画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】板面が水平状態にある板状被検物の内部欠陥を探傷する場合の概略断面図である。
【
図2】板面が傾斜状態にある板状被検物の内部欠陥を探傷する場合の概略断面図である。
【
図3】板面が傾斜状態にある板状被検物の内部欠陥を探傷する場合の概略断面図である。
【
図4】板面が傾斜状態にある板状被検物の内部欠陥を探傷する場合の拡大説明図である。
【
図5】傾斜させた板状被検物の全体横断面図である。
【
図6】本発明方法により得られた板状被検物の欠陥断面画像である。
【
図7】従来方法により得られた板状被検物の欠陥断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には板面が水平状態の原位置にある一定厚の板状被検物1についてその内部欠陥を探傷する場合の概略断面図を示す。
図1において、水中において、被検物1の板面に対し超音波受発振器2が垂直に対向させて(後述する入射角θが0°)配設されている。図略の装置によって超音波受発振器2は板幅Wの範囲内で板面に沿った水平方向へ走査させられ、超音波受発振器2に接続された画像生成装置3は、板幅方向で所定間隔ごとに超音波受発振器2より超音波の受発振を行って板内の探傷画像を得る。
【0012】
続いて超音波受発振器2からの発振超音波の入射点(設定入射点)Aを中心とする円弧C上で、超音波受発振器2を被検物1の板面に対して垂直方向から角度θだけ傾斜させ、この状態で上記と同様に板幅Wの範囲内で超音波受発振器2を板面に沿った水平方向へ走査する。画像生成装置3は板幅方向で所定間隔ごとに超音波受発振器2を介して超音波の受発振を行って各走査位置で板内の探傷画像を得る。
【0013】
入射角θを順次変更して(例えば−24°〜+24°の範囲で1°毎)上記走査を繰り返し、画像生成装置3は、各走査位置において、異なる入射角θ毎に得られた複数の探傷画像を重ね合わせることによって板内の正確な欠陥断面画像を得る。以上の行程において、超音波受発振器2から入射点Aまでの水距離(設定水距離)Lsは常に一定に保たれている。
【0014】
超音波受発振器の上記入射角θが0°の時に被検物の板面が
図2に示すように傾斜すると発振超音波の実際の入射点は設定入射点Aから、板幅W方向の位置によって異なる入射点A´に移動する。この結果、反射超音波に基づいて算出される実際の水距離Lは板幅W方向の位置によって変化し、設定水距離Lsとの間に板幅W方向の位置によって変化する垂直方向の誤差ΔZ=(Ls−L)が生じる。
【0015】
さらに、超音波受発振器の上記入射角θが0°以外の時に被検物の板面が
図3に示すように傾斜すると、発振超音波の実際の入射点A´が設定入射点Aから入射点A´に移動し、これに伴って、実際の水距離Lが板幅W方向の位置によって変化する。これにより、設定水距離Lsとの間に板幅W方向の位置によって変化する垂直方向の誤差ΔZが生じるとともに、板幅W方向の位置によって変化する水平方向の誤差ΔXも生じる。誤差ΔZ,ΔXは
図4から明らかなように下式(1)、(2)で算出できる。
ΔZ=(Ls−L)cosθ…(1)
ΔX=(Ls−L)sinθ…(2)
【0016】
画像生成装置は、上式(1)、(2)によって誤差ΔZ,ΔXを算出して、上記垂直方向と水平方向を座標軸とする二次元平面内でこれら誤差を解消するように、板幅W方向の各位置で得られる探傷画像の画像中心位置を補正して探傷画像を変位させる。このようにして画像中心位置を補正し変位させた探傷画像を重ね合わせることによって板内の正確な欠陥断面画像を得ることができる。
【0017】
(実施例と比較例)
図5に示すように、被検物として板厚9mmのSS400の鋼板を使用し、その幅方向中央の底面に近い位置に模擬的欠陥として0.6φの横穴を形成した。そして、後半の幅方向の一側縁下面をシム板で持ち上げて鋼板全体を傾斜させた。シム板は厚みTが3mmと5mmの二種を使用した。鋼板の上方に超音波受発振器を配設し、既述のように、垂直方向からの入射角を−24°〜+24°の範囲で1°づつ異ならせた状態で鋼板の幅方向へ走査し、各走査位置で超音波の受発振を行って各走査位置で複数(本実施形態では49枚)の探傷画像を得た。
【0018】
最初に3mmのシム板で鋼板を傾斜させて超音波受発振器を走査し、画像生成装置で、得られた探傷画像の画像中心位置を上式(1)、(2)で補正した後にこれら探傷画像を重ね合わせて欠陥断面画像を得る。これを
図6(1)に示す。これによると、模擬的欠陥である横穴の画像が図の白破線で囲んだ範囲に一個だけ正確に現れる。
【0019】
これに対して同一条件で、画像生成装置で上式(1)、(2)による補正を行わない場合には
図7(1)に示すように、欠陥断面画像には図の白破線で囲んだ範囲に二つの欠陥像が現れてしまう。
【0020】
次に5mmのシム板で鋼板をさらに傾斜させて超音波受発振器を走査し、画像生成装置で、得られた探傷画像の画像中心位置を上式(1)、(2)で補正した後にこれら探傷画像を重ね合わせて欠陥断面画像を得る。これを
図6(2)に示す。これの場合も、模擬的欠陥である横穴の画像が図の白破線で囲んだ範囲に一個だけ正確に現れる。
【0021】
これに対して同一条件で、画像生成装置で上式(1)、(2)による補正を行わない場合には
図7(2)に示すように、欠陥断面画像には図の白破線で囲んだ範囲に二つの欠陥像が現れる。なお、上記
図6、
図7におけるSは鋼板表面の反射像である。
【0022】
なお、上記実施形態においては被検物の板面が傾斜した場合について説明したが、超音波受発振器の位置が被検物に対して相対的にずれた場合にも本発明を適用することができる。また、被検物は板状である必要は無い。さらに、超音波受発振器に代えて別体の超音波発振器と超音波受振器を使用しても良い。
【符号の説明】
【0023】
1…被検物、2…超音波受発振器(超音波発振器、超音波受振器)、3…画像生成装置、L…水距離(算出距離)、Ls…設定水距離(設定距離9、ΔX…水平方向誤差、ΔZ…垂直方向誤差、θ…入射角。