(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン太陽電池の分野において、シリコン使用量の低減およびシリコン基板における変換効率の向上を目的とし、シリコン基板の薄型化が進められている。しかしながら、シリコン基板の薄型化が進むにつれ、変換効率の低下が顕著になる。これは、たとえば、導電性を有するシリコン基板表面に多く存在する欠陥が主たる要因となり、光照射により発生した少数キャリア(p型の場合は電子)の寿命(ライフタイム)が減少するからである。つまり、この少数キャリアの消失を低減させることが、太陽電池の変換効率を向上させる事につながる。
【0003】
キャリアのライフタイム低減を抑制するために、一般的に、当該シリコン基板裏面に対して、パッシベーション膜が成膜される。種種有るパッシベーション膜の中でも、当該パッシベーション膜として、p型シリコン基板に対して高いパッシベーション効果(ライフタイム低減の抑制機能)を有する、酸化アルミニウム膜が注目されている。
【0004】
酸化アルミニウム膜は膜中に負の固定電荷を有し、当該固定電化によって生じる電界効果により、パッシベーション効果を発生させることが知られている。つまり、p型シリコン表面に負の固定電荷を有する酸化アルミニウム膜を形成することで、少数キャリアである電子の基板表面への拡散を抑制し、結果としてキャリアの消失を防ぐことができる。
【0005】
また、p型シリコン基板に対して、パッシベーション膜である酸化アルミニウム膜を成膜する方法として、CVD法が採用されている(たとえば、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CVD法による酸化アルミニウム膜の成膜では、TMA(Tri−Methyl−Aluminium)といった、取り扱いが困難でコストの高い原料を使用する必要がある。また、CVD法では、成膜領域の真空処理が必要となり、成膜コスト上昇の要因となっている。また、プラズマCVD法による酸化アルミニウム膜の成膜では、シリコン基板がプラズマによりダメージを受けることも問題である。
【0008】
また、シリコン基板に対して酸化アルミニウム膜を成膜する方法として、ALD法も採用することも考えられる。しかしながら、当該ALD法においても、TMAが必要であり真空処理も必要であることから、製造コストが上昇するという問題を有する。さらに、ALD法では、成膜速度が非常に遅く、生産効率の低下を招く。成膜速度向上のためにプラズマを用いたALD法を適用することも想定され得る。しかし、当該プラズマを用いたALD法においても、シリコン基板がダメージを受けるという問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、低い製造コストで、シリコン基板にダメージを与えることなく、高い生産効率で、パッシベーション膜である酸化アルミニウム膜を成膜することができる、太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明に係る太陽電池の製造方法は、(A)p型の導電型を有するシリコン基板を用意する工程と、(B)前記シリコン基板の主面に対してパッシベーション膜を成膜する工程と、(C)前記パッシベーション膜が形成された前記シリコン基板を用いて太陽電池を作製する工程とを、備えており、前記工程(B)は、(B−1)アルミニウム元素を含む溶液をミスト化する工程と、(B−2)大気中において、前記ミスト化された前記溶液を、前記シリコン基板の前記主面に対して噴霧することにより、酸化アルミニウム膜である前記パッシベーション膜を成膜する工程とを、有
し、前記工程(B−2)は、オゾンを前記シリコン基板に対して供給し、前記パッシベーション膜を成膜する工程である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る太陽電池の製造方法は、(A)p型の導電型を有するシリコン基板を用意する工程と、(B)前記シリコン基板の主面に対してパッシベーション膜を成膜する工程と、(C)前記パッシベーション膜が形成された前記シリコン基板を用いて太陽電池を作製する工程とを、備えており、前記工程(B)は、(B−1)アルミニウム元素を含む溶液をミスト化する工程と、(B−2)大気中において、前記ミスト化された前記溶液を、前記シリコン基板の前記主面に対して噴霧することにより、酸化アルミニウム膜である前記パッシベーション膜を成膜する工程とを、有
し、前記工程(B−2)は、オゾンを前記シリコン基板に対して供給し、前記パッシベーション膜を成膜する工程である。
【0012】
したがって、安価で取扱い容易な材料により、p型シリコン基板に酸化アルミニウム膜から成る裏面パッシベーション膜を成膜することができる。さらに、真空処理などが不要となり、製造コストの低減を図ることもできる。さらに、成膜処理において、p型シリコン基板に対してダメージを与えることもない。さらに、生産効率の向上も図ることができる。
【0013】
この発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、太陽電池の基本構成を示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、p型の導電型を有するシリコン基板4(以下、p型シリコン基板4と称する)の上面(表面)内に、n型の導電型を有するシリコン層3(以下、n型シリコン層3と称する)が形成されている。また、n型シリコン層3の上面(表面)には、透明性を有する表面パッシベーション膜(たとえば、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜)2が形成されている。そして、当該表面パッシベーション膜2には、n型シリコン層3と接続する表面電極1が形成されている。
【0017】
さらに、p型シリコン基板4の下面(裏面)には、裏面パッシベーション膜5が形成されている。当該裏面パッシベーション膜5として、酸化アルミニウム膜(AlOx)を採用する。そして、当該裏面パッシベーション膜5には、p型シリコン基板4と接続する裏面電極6が形成されている。
【0018】
図1に示す太陽電池において、表面パッシベーション膜2側から入射し、シリコン基板3,4におけるpn接合部に到達した光によりキャリアが発生し、発電し、当該発電した電気が電極1,6から取り出される。
【0019】
上記の通り、キャリアのライフタイムの低減を抑制するために、パッシベーション膜2,5が形成される。つまり、シリコン基板3,4の主面において欠陥(格子欠陥など)が多く発生しており、当該欠陥を介して光照射により発生した少数キャリアが再結合される。そこで、シリコン基板3,4の主面に、パッシベーション膜2,5を形成することにより、キャリアの再結合を抑制し、結果としてキャリアのライフタイムを向上させることができる。
【0020】
本発明は、p型シリコン基板4に、裏面パッシベーション膜5として酸化アルミニウム膜5を成膜する方法に関するものであり、以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0021】
<実施の形態1>
図2は、本実施の形態に係る酸化アルミニウム膜5の成膜方法を実現することが可能な成膜装置の概略構成を示す図である。
【0022】
図2に示すように、当該成膜装置は、反応容器11、加熱器13、溶液容器15、ミスト化器16から構成されている。
【0023】
当該成膜装置では、p型シリコン基板4の裏面上にミスト化した所定の溶液14を噴霧することにより、当該p型シリコン基板4の裏面上に酸化アルミニウム膜5を成膜することができる。
【0024】
加熱器13上にp型シリコン基板4が載置されている状態で、大気中である反応容器11内に、ミスト(粒径の小さい液状溶液14)が供給され、所定の反応により、p型シリコン基板4の裏面上には酸化アルミニウム膜5が成膜される。なお、p型シリコン基板4の表面が加熱器13に載置される。
【0025】
加熱器13は、ヒータ等であり、当該加熱器13に載置されたp型シリコン基板4を加熱することができる。外部制御部により、成膜時には、酸化アルミニウム膜5の成膜に必要な温度まで加熱器13は加熱される。
【0026】
溶液容器15内には、酸化アルミニウム膜5を成膜するための原料溶液(以下、溶液と称する)14が充填されている。当該溶液14には、金属源として、アルミニウム(Al)元素が、含まれている。
【0027】
ミスト化器16として、たとえば超音波霧化装置を採用できる。当該超音波霧化装置であるミスト化器16は、溶液容器15内の溶液14に対して超音波を印加することにより、溶液容器15内の溶液14をミスト化させる。ミスト化された溶液14は、経路L1を通って、反応容器11内のp型シリコン基板4の裏面に向けて供給される。
【0028】
反応容器11内にミスト状の溶液14が供給されると、加熱中である大気中のp型シリコン基板4上において、溶液14が反応し、p型シリコン基板4の裏面上に酸化アルミニウム膜5が成膜される。また、反応容器11で未反応となった溶液14は、経路L3を通して、反応容器11外に常時(連続的に)排出される。
【0029】
次に、本実施の形態に係る裏面パッシベーション膜5(酸化アルミニウム膜5)の成膜方法について説明する。
【0030】
まず、シリコン基板に対して所定の不純物を導入することにより、p型の導電型を有するシリコン基板(p型シリコン基板4)を作製する。そして、当該p型シリコン基板4を、反応容器11内の加熱器13の上に載置する。このとき、載置面は、p型シリコン基板4の表面であり、反応容器11内は大気圧である。
【0031】
そして、加熱器13により、当該加熱器13上に載置されているp型シリコン基板4は、酸化アルミニウム膜5の成膜温度まで加熱され、当該成膜温度でp型シリコン基板4の温度は保持されている。
【0032】
一方、溶液容器15内において、ミスト化器16により、溶液14はミスト化される。ミスト化された溶液14(粒径の小さい液状の溶液14)は、経路L1を通って、整流され、反応容器11内へ供給される。ここで、溶液14には、アルミニウムが金属源として含有されている。
【0033】
大気中において加熱状態にあるp型シリコン基板4の裏面に、整流されたミスト状の溶液14が供給される。加熱状態のp型シリコン基板4にミスト状の溶液14が噴霧されると、p型シリコン基板4の裏面上には、酸化アルミニウム膜5が成膜する。
【0034】
その後、裏面パッシベーション膜5(酸化アルミニウム膜5)が成膜されたp型シリコン基板4を用いて、
図1に示した構成の太陽電池を作製する。ここで、一般的には、裏面パッシベーション膜5は、n型シリコン層3形成後に行われる。
【0035】
以上のように、本実施の形態に係る裏面パッシベーション膜5(酸化アルミニウム膜5)の成膜方法では、ミスト法(つまり、大気中において、液状の溶液15を噴霧する成膜方法)により、p型シリコン基板4の裏面上に酸化アルミニウム膜5を成膜している。
【0036】
このように、本発明では、CVD法やALD法などのように、気化した原料をp型シリコン基板4に供給して、酸化アルミニウム膜5を成膜しているのでなく、ミスト化された液状の溶液14を、p型シリコン基板4に噴霧し、酸化アルミニウム膜5を成膜している。ここで、上述したように、溶液14にはアルミニウム元素が含まれている。よって、TMAなどの高価で取り扱いが困難材料を用いることなく、安価で取扱い容易な材料により、p型シリコン基板4に酸化アルミニウム膜から成る裏面パッシベーション膜5を成膜することができる。
【0037】
さらに、本発明では、大気中での成膜処理であるので、真空処理などが不要となり、製造コストの低減を図ることもできる。さらに、本発明では、p型シリコン基板4にミスト状の溶液14を噴霧することにより、成膜処理が実施されている。よって、成膜処理において、p型シリコン基板4に対してプラズマなどの照射によるダメージを与えることもない。
【0038】
さらに、ミスト法による酸化アルミニウム膜5の成膜速度10〜15nm/minであり、ALD法などによる酸化アルミニウム膜の成膜速度と比較して、5倍以上速い。したがって、本発明に係る成膜方法を採用することにより、生産効率の向上も図ることができる。
【0039】
<実施の形態2>
発明者らは、精力的に、多くの様々な実験・解析等を踏まえた結果、キャリアのライフタイムを大幅に向上させる、酸化アルミニウム膜5の成膜方法を見出すことに成功した。つまり、酸化アルミニウム膜5のパッシベーション効果を増大させる成膜条件を見出すことに成功した。以下、当該成膜方法について説明する。
【0040】
図3は、本実施の形態に係る酸化アルミニウム膜5の成膜方法を実現することが可能な成膜装置の概略構成を示す図である。
【0041】
図2と
図3との比較から分かるように、本実施の形態に係る成膜装置では、
図2の構成に、オゾン発生器17が加わっている。以下、
図2の構成と相違する部分について、説明を行う。
【0042】
オゾン発生器17は、オゾンを発生させることができる。オゾン発生器17では、たとえば、平行に配置した平行電極間に高電圧を印加し、その電極間に酸素を通すことで酸素分子が分解し、他の酸素分子と結合することによって、オゾンを発生させることができる。
【0043】
図3に示すように、オゾン発生器17と反応容器11とは、経路L1と異なる経路L2によって接続されている。したがって、オゾン発生器17で生成されたオゾンは、経路L2を通って、反応容器11内のp型シリコン基板4の裏面に向けて供給される。
【0044】
上記で説明した内容以外の構成は、実施の形態1で説明した構成と同じであるので、当該同じ構成の説明は、ここでは省略する。
【0045】
また、本実施の形態に係る裏面パッシベーション膜5(酸化アルミニウム膜5)の成膜方法は、下記の通りである。
【0046】
大気圧である反応容器11内において、p型シリコン基板4は加熱器13上に載置されている。当該加熱器13上に載置されているp型シリコン基板4は、酸化アルミニウム膜5の成膜温度(たとえば、360℃程度)まで加熱され、当該成膜温度でp型シリコン基板4の温度は保持されている。
【0047】
一方、溶液容器15内において、ミスト化器16により、溶液14はミスト化される。ミスト化された溶液14(粒径の小さい液状の溶液14)は、経路L1を通って、整流され、反応容器11内へ供給される。ここで、溶液14には、アルミニウム元素が金属源として含有されている。たとえば、溶液14として、メタノール溶液中にアルミニウムアセチルアセトナートを溶解させた溶液を採用することができる。さらに、本実施の形態では、オゾン発生器17でオゾンは生成され、当該生成されたオゾンは、経路L2を通って、反応容器11内へ供給される。
【0048】
大気中において加熱状態にあるp型シリコン基板4の裏面に、整流されたミスト状の溶液14が噴霧され、さらにオゾンが供給されると、p型シリコン基板4の裏面上には、酸化アルミニウム膜5が成膜される。また、反応容器11で未反応となった溶液14およびオゾンは、経路L3を通して、反応容器11外に常時(連続的に)排出される。
【0049】
その後、裏面パッシベーション膜5(酸化アルミニウム膜5)が成膜されたp型シリコン基板4を用いて、
図1に示した構成の太陽電池を作製する。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係る裏面パッシベーション膜5(酸化アルミニウム膜5)の成膜方法では、反応容器11内にミスト法により溶液14を噴霧し、さらに反応容器11内にオゾンを供給し、p型シリコン基板4の裏面上に酸化アルミニウム膜5を成膜している。
【0051】
これにより、実施の形態1で説明した成膜方法を採用して作製された太陽電池よりも、本実施の形態で説明した成膜方法を採用して作製された太陽電池の方が、キャリアのライフタイムの向上を図ることができる。つまり、酸化アルミニウム膜5の成膜時に、オゾンガスの添加を行うことで、酸化アルミニウム膜5のパッシベーション効果を増大させることができる。
【0052】
FZ法(Float Zone technology)を利用して、p型シリコン基板4を作製した。ここで、当該p型シリコン基板4の抵抗率は3Ω・cmであり、p型シリコン基板4の厚さは280μmである。
【0053】
そして、一方のp型シリコン基板4に対して、実施の形態1に係る成膜方法を実施し、当該一方のp型シリコン基板4上に、膜厚が60nmである酸化アルミニウム膜(Al
2O
3)を成膜した。さらに、他方のp型シリコン基板4に対して、実施の形態2に係る成膜方法を実施し、当該他方のp型シリコン基板4上に、膜厚が60nmである酸化アルミニウム膜(Al
2O
3)を成膜した。ここで、オゾン供給の有無以外の成膜条件は、両成膜方法において同じである。
【0054】
そして、Al
2O
3が成膜された一方のp型シリコン基板4およびAl
2O
3が成膜された他方のp型シリコン基板4に対して、μ―PCD(Microwave Photo Conductivity Decay)法を用いて、キャリアのライフタイムを測定した。
【0055】
結果、他方のp型シリコン基板4におけるキャリアのライフタイムは、一方のp型シリコン基板4におけるキャリアのライフタイムの5倍以上という結果が得られた。つまり、酸化アルミニウム膜5の成膜時にオゾンを供給した方が、大幅にキャリアのライフタイムが向上することが実験により確認された。
【0056】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。