特許第6109945号(P6109945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鍛バルブ株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特許6109945エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法
<>
  • 特許6109945-エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法 図000002
  • 特許6109945-エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法 図000003
  • 特許6109945-エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法 図000004
  • 特許6109945-エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法 図000005
  • 特許6109945-エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109945
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】エンジンバルブ及びエンジンバルブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/20 20060101AFI20170327BHJP
   F01L 3/02 20060101ALI20170327BHJP
   F01L 3/06 20060101ALI20170327BHJP
   B21D 39/00 20060101ALI20170327BHJP
   B21D 53/84 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   F01L3/20 B
   F01L3/02 J
   F01L3/06 B
   B21D39/00 D
   B21D53/84 Z
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-536348(P2015-536348)
(86)(22)【出願日】2013年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2013074509
(87)【国際公開番号】WO2015037075
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】日鍛バルブ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(72)【発明者】
【氏名】塚田 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 靖人
(72)【発明者】
【氏名】勝間田 正司
(72)【発明者】
【氏名】原田 健一
【審査官】 田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−119422(JP,A)
【文献】 特開2003−305524(JP,A)
【文献】 実公昭62−040082(JP,Y2)
【文献】 実開平03−073603(JP,U)
【文献】 実開昭52−073306(JP,U)
【文献】 実開昭57−036305(JP,U)
【文献】 実開昭54−172112(JP,U)
【文献】 特開2003−307105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/20
B21D 39/00
B21D 53/84
F01L 3/02
F01L 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐々に増径する傘部を軸部の先端に一体形成してなるバルブ本体と、前記傘部との間に隙間を形成しつつ前記傘部の外周側面を覆うように前記バルブ本体に取り付けられた傘カバーと、を備え、前記傘カバーがカシメ加工によって前記バルブ本体に取り付けられたエンジンバルブにおいて、
バルブ本体の外周には、少なくとも一以上の凹部が周方向に設けられ、
カシメ加工によって傘カバーに形成されるカシメ部と、バルブ本体の凹部との間に隙間が形成されるように、前記カシメ部をバルブ本体の凹部にカシメ加工することによって、傘カバーをバルブ本体に取り付けたことを特徴とするエンジンバルブ。
【請求項2】
前記隙間は、前記傘カバーのカシメ部の先端と、前記バルブ本体の凹部の底部との間に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンバルブ。
【請求項3】
前記傘カバーのカシメ部が、軸方向の両端部を前記凹部に保持されることによって前記バルブ本体に固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンバルブ。
【請求項4】
前記傘カバーのカシメ部を前記凹部に付勢して前記傘部を前記バルブ本体に固定する弾性部材を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のエンジンバルブ。
【請求項5】
すすの付着を防止する撥油処理が、傘カバーの外周表面に施されたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンバルブ。
【請求項6】
前記カシメ部の外周端部が、前記凹部の開口端部と面一であることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンバルブ。
【請求項7】
徐々に増径する傘部を軸部の先端に一体形成してなるバルブ本体に、カシメ加工により、前記傘部との間に隙間を形成しつつ傘部の外周側面を覆うように傘カバーを取り付けるエンジンバルブの製造方法において、
バルブ本体の外周の周方向に少なくとも一以上の凹部を設け、
カシメ加工によって傘カバーに形成されるカシメ部と、バルブ本体の凹部との間に隙間を形成しつつ、前記カシメ部をバルブ本体の凹部にカシメ加工することを特徴とするエンジンバルブの製造方法。
【請求項8】
前記隙間を前記傘カバーのカシメ部の先端と、前記バルブ本体の凹部の底部との間に形成することを特徴とする請求項7に記載のエンジンバルブの製造方法。
【請求項9】
前記傘カバーのカシメ部を軸方向の両端部を前記凹部に保持させて前記バルブ本体に傘カバーを固定することを特徴とする請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法。
【請求項10】
前記傘カバーのカシメ部を弾性部材で前記凹部に付勢することによって、前記傘カバーをバルブ本体に固定することを特徴とする、請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法。
【請求項11】
すすの付着を防止する撥油処理を傘カバーの外周表面に施すことを特徴とする請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法。
【請求項12】
前記傘カバーのカシメ部の外周端部が前記凹部の開口端部と面一になるように前記カシメ部を凹部にカシメ加工したことを特徴とする請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傘部を傘カバーによって覆われたエンジンバルブと、その製造方法の技術である。
【背景技術】
【0002】
傘部を傘カバーによって覆われたエンジンバルブには、下記特許文献1に示すものがある。前記特許文献1においては、前記特許文献1の段落番号0020と図2(a)に記載されている通り、傘部20bを覆うキャップ38を首部20dにカシメ固定することによって、キャップ38を有する吸気弁20を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−119422号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の吸気弁20においては、キャップ38を首部20dに密着させて、首部20dを凹ませながらキャップ38をカシメ固定するため、首部20dは、カシメ加工によって吸気弁20の中心軸線に向かって塑性変形する。首部の塑性変形は、バルブの開閉時にクラックの原因になるために望ましくない。また、キャップ38の熱膨張率が首部20dよりも大きい場合、キャップ38は、首部20dよりも大きく熱膨張する。その場合、キャップ38の熱膨張が、首部20dを更に塑性変形させてバルブへのクラックの発生率を高めるため、更に望ましく無い。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みて、バルブ本体に傘カバーをカシメによって取り付けてもバルブ本体に塑性変形によるクラックが発生しないエンジンバルブとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のエンジンバルブは、徐々に増径する傘部を軸部の先端に一体形成してなるバルブ本体と、前記傘部との間に隙間を形成しつつ前記傘部の外周側面を覆うように前記バルブ本体に取り付けられた傘カバーと、を備え、前記傘カバーがカシメ加工によって前記バルブ本体に取り付けられたエンジンバルブにおいて、バルブ本体の外周には、少なくとも一以上の凹部が周方向に設けられ、カシメ加工によって傘カバーに形成されるカシメ部と、バルブ本体の凹部との間に隙間が形成されるように、前記カシメ部をバルブ本体の凹部にカシメ加工することによって、傘カバーをバルブ本体に取り付けるようにした。
【0007】
(作用)バルブ本体に予め設けた凹部に向けて傘カバーをカシメ加工するため、カシメ加工する際に凹部の内部に形成された傘カバーのカシメ部と凹部との間に隙間を設けることが出来る。傘カバーのカシメ部は、バルブ本体の凹部との設けられた隙間によって凹部に強く押し当られないため、バルブ本体を塑性変形させない。また、傘カバーの熱膨張率がバルブ本体よりも高くても、傘カバーのカシメ部は、バルブ本体の凹部との設けられた隙間を埋めるように熱膨張するため、バルブ本体を塑性変形させない。
【0008】
また、傘カバーとバルブ本体とのカシメ加工による接合部分は、特許文献1のエンジンバルブのように密着せず、傘カバーのカシメ部とバルブ本体の凹部との接触面積は、カシメ部と凹部との間に形成される隙間によって特許文献1のエンジンバルブよりも小さくなるため、燃焼室からバルブ本体に伝達された熱が傘カバーに伝達されにくくなる。
【0009】
また、請求項2は、請求項1に記載のエンジンバルブであって、前記隙間は、前記傘カバーのカシメ部の先端と、前記バルブ本体の凹部の底部との間に形成されるようにした。
【0010】
(作用)傘カバーをバルブ本体の凹部にカシメ加工する方向、即ちカシメ加工によって形成される傘カバーのカシメ部の前方に位置する凹部の底部との間に隙間があるため、カシメ加工時にカシメ部を形成しても、カシメ部の先端がバルブ本体の凹部の底部に接触しない。その結果、カシメ加工時に傘カバーのカシメ部に作用する力が、バルブ本体の凹部に伝達されないため、傘カバーをバルブ本体にカシメ加工によって取り付けても、バルブ本体は、塑性変形しない。
【0011】
請求項3は、請求項1または2に記載のエンジンバルブであって、前記傘カバーのカシメ部が、軸方向の両端部を前記凹部に保持されることによって前記バルブ本体に固定されるようにした。
【0012】
(作用)傘カバーがバルブ本体に対して軸方向に位置決めされる。また、カシメ部の軸方向の両端部を凹部に保持されることによって傘カバーが、バルブ本体に支持されるため、傘カバーとバルブ本体の接触面積が特許文献1のエンジンバルブより小さくなる。
【0013】
請求項4は、請求項1または2に記載のエンジンバルブであって、前記傘カバーのカシメ部を前記凹部に付勢して前記傘部を前記バルブ本体に固定する弾性部材を有するようにした。
【0014】
(作用)傘カバーが弾性部材により、バルブ本体に対して軸方向に位置決めされる。また、傘カバーのカシメ部と接触したバルブ本体の凹部が塑性変形をしないような付勢力を傘カバーに付与する弾性部材を選択することにより、バルブ本体は、弾性部材によって傘カバーを付勢されたとしても、塑性変形しない。
【0015】
請求項5は、請求項1または2に記載のエンジンバルブであって、すすの付着を防止する撥油処理(油を弾く表面処理)が、傘カバーの外周表面に施されるようにした。
【0016】
傘カバーの温度が所定の温度範囲になった場合、傘カバーの外周表面には、燃焼室内のカーボンまたはオイルによるデポジットとよばれるすすが付着する。このすすは、燃焼室へ流通する気体に対して抵抗となって燃焼効率を低下させるため、すすの付着を防止する表面処理を傘カバーの外周表面に施すことがのぞましい。傘カバーには、すすの付着を防止する撥油処理を施すことが考えられるが、撥油処理には、傘カバーの温度が所定の温度範囲の上限を越えることによって破損するものがある。
【0017】
(作用)請求項5における傘カバーは、温度上昇が抑制されているため、すすの付着を防止する撥油処理を施しても、傘カバーの温度を所定の温度範囲の上限以下に抑制できる。従って、傘カバーの撥油処理を破損させずに保持出来るため、傘カバーの外周側面にすすが付着しない。
【0018】
請求項6は、請求項1または2に記載のエンジンバルブであって、前記カシメ部の外周端部を前記凹部の開口端部と面一にした。
【0019】
(作用)バルブ本体の外周面とカシメ部の外周面との間に段差が形成されず、両外周面が面一となるため、バルブ本体の外周面とカシメ部の外周面との間を流れる気体が、滑らかに流れる。
【0020】
請求項7のエンジンバルブの製造方法は、徐々に増径する傘部を軸部の先端に一体形成してなるバルブ本体に、カシメ加工により、前記傘部との間に隙間を形成しつつ傘部の外周側面を覆うように傘カバーを取り付けるエンジンバルブの製造方法において、バルブ本体の外周の周方向に少なくとも一以上の凹部を設け、
カシメ加工によって傘カバーに形成されるカシメ部と、バルブ本体の凹部との間に隙間を形成しつつ、傘カバーの一部をバルブ本体の凹部にカシメ加工するようにした。
【0021】
(作用)バルブ本体に予め設けた凹部に向けて傘カバーをカシメ加工するため、カシメ加工する際に凹部の内部に形成された傘カバーのカシメ部と凹部との間に隙間を設けることが出来る。傘カバーのカシメ部は、バルブ本体の凹部との設けられた隙間によって凹部に強く押し当られないため、バルブ本体を塑性変形させない。また、傘カバーの熱膨張率がバルブ本体よりも高くても、傘カバーのカシメ部は、バルブ本体の凹部との設けられた隙間を埋めるように熱膨張するため、バルブ本体を塑性変形させない。
【0022】
また、傘カバーとバルブ本体とのカシメ加工による接合部分は、特許文献1のエンジンバルブのように密着せず、傘カバーのカシメ部とバルブ本体の凹部との接触面積は、カシメ部と凹部との間に形成される隙間によって特許文献1のエンジンバルブよりも小さくなるため、燃焼室からバルブ本体に伝達された熱が傘カバーに伝達されにくくなる。
【0023】
また、請求項8は、請求項7に記載のエンジンバルブの製造方法であって、前記隙間を前記傘カバーのカシメ部の先端と、前記バルブ本体の凹部の底部との間に形成するようにした。
【0024】
(作用)傘カバーをバルブ本体の凹部にカシメ加工する方向、即ちカシメ加工によって形成される傘カバーのカシメ部の前方に位置する凹部の底部との間に隙間があるため、カシメ加工時にカシメ部を形成しても、カシメ部の先端がバルブ本体の凹部の底部に接触しない。その結果、カシメ加工時に傘カバーのカシメ部に作用する力が、バルブ本体の凹部に伝達されないため、傘カバーをバルブ本体にカシメ加工によって取り付けても、バルブ本体は、塑性変形しない。
【0025】
請求項9は、請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法であって、前記傘カバーのカシメ部を軸方向の両端部を前記凹部に保持させて前記バルブ本体に傘カバーを固定するようにした。
【0026】
(作用)傘カバーがバルブ本体に対して軸方向に位置決めされる。また、カシメ部の軸方向の両端部を凹部に保持されることによって傘カバーが、バルブ本体に支持されるため、傘カバーとバルブ本体の接触面積が特許文献1のエンジンバルブより小さくなる。
【0027】
請求項10は、7または8に記載のエンジンバルブの製造方法であって、前記傘カバーのカシメ部を弾性部材で前記凹部に付勢することによって、前記傘カバーをバルブ本体に固定するようにした。
【0028】
(作用)傘カバーが弾性部材により、バルブ本体に対して軸方向に位置決めされる。また、傘カバーのカシメ部と接触したバルブ本体の凹部が塑性変形をしないような付勢力を傘カバーに付与する弾性部材を選択することにより、バルブ本体は、弾性部材によって傘カバーを付勢されたとしても、塑性変形しない。
【0029】
請求項11は、請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法であって、すすの付着を防止する撥油処理を傘カバーの外周表面に施すようにした。
【0030】
傘カバーの温度が所定の温度範囲になった場合、傘カバーの外周表面には、燃焼室内のカーボンまたはオイルによるデポジットとよばれるすすが付着する。このすすは、燃焼室へ流通する気体に対して抵抗となって燃焼効率を低下させるため、すすの付着を防止する表面処理を傘カバーの外周表面に施すことがのぞましい。傘カバーには、すすの付着を防止する撥油処理を施すことが考えられるが、撥油処理には、傘カバーの温度が所定の温度範囲の上限を越えることによって破損するものがある。
【0031】
(作用)請求項11における傘カバーは、温度上昇が抑制されているため、すすの付着を防止する撥油処理を施しても、傘カバーの温度を所定の温度範囲の上限以下に抑制できる。従って、傘カバーの撥油処理を破損させずに保持出来るため、傘カバーの外周側面にすすが付着しない。
【0032】
請求項12は、請求項7または8に記載のエンジンバルブの製造方法であって、前記傘カバーのカシメ部の外周端部が前記凹部の開口端部と面一になるように前記カシメ部を凹部にカシメ加工した。
【0033】
(作用)バルブ本体の外周面とカシメ部の外周面との間に段差が形成されず、両外周面が面一となるため、バルブ本体の外周面とカシメ部の外周面との間を流れる気体が、滑らかに流れるエンジンバルブを製造できる。
【発明の効果】
【0034】
請求項1のエンジンバルブによれば、傘カバーをバルブ本体に取り付けるためのカシメ加工を行ってもバルブ本体の塑性変形が発生しないため、クラックが発生しない。また傘カバーの温度上昇が抑制される。
【0035】
請求項2のエンジンバルブによれば、傘カバーをカシメ加工によって取り付けてもバルブ本体に塑性変形が発生しないため、クラックが発生せず、傘カバーの温度上昇も抑制される。
【0036】
請求項3のエンジンバルブによれば、カシメ加工によるバルブ本体の塑性変形とクラックが発生せず、また傘カバーの温度上昇が抑制される。
【0037】
請求項4のエンジンバルブによれば、傘カバーへのカシメ加工と、バルブ本体への傘カバーの位置決めを行ってもバルブ本体の塑性変形とクラックが発生しない。また、弾性部材が傘カバーをバルブ本体に押し付けるため、傘カバーとバルブ本体との間に寸法誤差があっても、傘カバーは、バルブ本体に容易に取り付けられる。
【0038】
請求項5のエンジンバルブによれば、燃焼室へ流通する流体の抵抗となるデポジットが傘カバーに付着しないため、エンジンバルブの燃焼効率が低下することなく維持される。
【0039】
請求項6のエンジンバルブによれば、バルブ本体及び傘部を介して燃焼室へ流入する流体の抵抗が少ないため、エンジンバルブの燃焼効率が低下することなく維持される。
【0040】
請求項7のエンジンバルブの製造方法によれば、傘カバーをバルブ本体に取り付けるためのカシメ加工を行ってもバルブ本体の塑性変形が発生しないため、クラックが発生せず、傘カバーの温度上昇が抑制されたエンジンバルブを製造できる。
【0041】
請求項8のエンジンバルブの製造方法によれば、傘カバーをカシメ加工によって取り付けてもバルブ本体に塑性変形が発生しないため、クラックが発生せず、傘カバーの温度上昇も抑制されたエンジンバルブを製造できる。
【0042】
請求項9のエンジンバルブの製造方法によれば、カシメ加工によるバルブ本体の塑性変形とクラックが発生せず、また傘カバーの温度上昇が抑制されたエンジンバルブを製造できる。
【0043】
請求項10のエンジンバルブの製造方法によれば、傘カバーへのカシメ加工と、バルブ本体への傘カバーの位置決めを行ってもバルブ本体の塑性変形とクラックが発生しない。また、傘カバーとバルブ本体との間に寸法誤差があっても、傘カバーは、弾性部材でバルブ本体に押し付けられることにより、バルブ本体に容易に取り付けられる。
【0044】
請求項11のエンジンバルブの製造方法によれば、燃焼室へ流通する流体の抵抗となるデポジットが傘カバーに付着しないため、エンジンバルブの燃焼効率が低下することなく維持されたエンジンバルブを製造できる。
【0045】
請求項12のエンジンバルブの製造方法によれば、バルブ本体及び傘部を介して燃焼室へ流通する流体の抵抗が少ないため、エンジンバルブの燃焼効率が低下することなく維持されたエンジンバルブを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】エンジンバルブの第1実施例を示す正面図である。
図2】第1実施例のエンジンバルブを図1のI−Iで切断した傘部の拡大断面図である。
図3図2の傘部のカシメ加工部分の拡大断面図である。
図4】第2実施例のエンジンバルブの傘部の断面図である。
図5図4の傘部のカシメ加工部分と弾性部材の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
エンジンバルブの第1実施例を図1から図3によって説明する。尚、図1から図5の説明においては、エンジンバルブの傘部側を上方(Up方向)、軸部側を下方(Lo方向)として説明する。
【0048】
第1実施例のエンジンバルブ1は、図1及び図2に示す通り、バルブ本体2と、傘カバー3によって形成された吸気用のエンジンバルブである。バルブ本体2は、金属で鍛造成形され、傘カバー3は、バルブ本体2よりも熱膨張率の高い、ステンレス鋼(SUS304等)等の金属で成形される。図2に示すバルブ本体2は、軸部4と、軸部4の先端4aに同軸(中心軸線L0)に一体形成された傘部5によって構成される。傘部5は、首部6と、首部6の先端部近傍の外周に一体に形成されたフェース部7によって構成される。軸部4及び傘部5は、共に外周が円形となる垂直断面(中心軸線L0に直交する断面)を有する。首部6は、軸部の先端4aから上方に向かって半径方向外側に徐々に増径し、かつ首部の半径方向内側に凹む湾曲面6b(請求項1の傘部の外周側面)を外周に有する。フェース部7は、湾曲面6bの先端6aから上方に向かって半径方向外側に徐々に増径する傾斜面として形成される。
【0049】
バルブ本体2の軸部4の外周面4b(請求項1のバルブ本体の外周)には、図2及び図3に示すように、凹部8が全周に設けられている。凹部8は、中心軸線L0に平行で、外周面4bから軸部4の半径方向内側に凹む底面8a(請求項1の底部)と、軸部の外周面4b及び底面8aにそれぞれ連続する下面8b及び上面8cによって構成される。下面8bは、中心軸線L0に直交し、上面8cは、底面8aから外周面4bに向かって上方に傾斜する。
【0050】
傘カバー3は、図2に示す通り、上方に向かって半径方向外側に徐々に増径し、かつ首部の半径方向内側に凹む湾曲部10と、湾曲部10の下端部をカシメ加工することによって形成されるカシメ部11を有する。図3に示す通り、カシメ部11の厚さW1は、凹部8の下面の奥行きW2と同じかそれよりも薄く形成される。傘カバー3の内側は、中空状に形成され、傘カバー3は、カシメ部11を凹部8に保持させることによって、首部6のほぼバルブ本体2と同軸(中心軸線L0)に配置される。傘カバー3の湾曲部10の内周面10aとバルブ本体2の首部6の湾曲面6bとの間には、隙間12が設けられ、傘カバー3は、首部6のほぼ全体を外側から覆う。
【0051】
図2に示す、傘カバー3の湾曲部10の外周表面10b(請求項5の傘カバーの外周表面)には、フッ素コート等により、油を弾く表面処理(以降は、撥油処理という)が施される。撥油処理を施していない傘カバー3の温度がおよそ200℃〜300℃の温度範囲になった場合、湾曲部10の外周表面10bには、燃焼室内のカーボンまたはオイルによるデポジットとよばれるすすが付着する。しかし、湾曲部10の外周表面10bには、撥油処理が施されているため、本実施例の傘カバー3がおよそ200℃〜300℃の温度範囲になったとしても、外周表面にすすが付着しない。その結果、エンジンの燃焼効率が低下すること無く維持される。
【0052】
次に図3によって傘カバー3をバルブ本体2の凹部に取り付けるためのカシメ加工を説明する。まず、傘カバー3の湾曲部10の下端部10c(二重鎖線部分を参照)を凹部8の外側に隣接するよう配置する。次に、ローラー式カシメ加工機(図示せず)に複数設けられたカシメ加工用のローラー13を下端部10cの外側10dに接触させる。複数設けられ、バルブ本体2の軸部4の中心軸線L0と平行な中心軸線L1周りに駆動回転しながら中心軸線L0周りの円軌道上を周回する。ローラー13は、中心軸線L0周りを複数回周回しつつ、同時に半径方向内側(符号D1方向。以下同じ)に変位し、下端部10cを凹部8の内側に凹ませることによって、湾曲部10の下端にカシメ部11を形成する。
【0053】
カシメ加工機(図示せず)は、図3に示す、カシメ部11の下端面11aの外周端部11c(請求項1のカシメ部の外周端部)が凹部8の下面8bの開口端部8d(請求項1の凹部の開口端部)に接触し、かつカシメ部11の内周面11b(請求項1のカシメ部の先端)が凹部8の上面8cに接触した時点で停止される。また、カシメ加工機(図示せず)は、カシメ部11の内周面11bが凹部8の底面8aに接触する前に停止され、カシメ部11の内周面11bと、凹部8の底面8aとの間には、隙間14が形成される。
【0054】
図1から図3に示す通り、カシメ部11の下端面11aの外周端部11cと、内周面11bは、それぞれ凹部8の下面8bの開口端部8dと、上面8cによって保持され、傘カバー3は、凹部8によってバルブ本体2に取り付けられ、エンジンバルブ1が形成される。カシメ部11は、凹部8の下面8bの開口端部8d及び上面8cに接触した時点でカシメ加工を停止されるため、カシメ部11は、下面8b及び上面8cに接触しても凹部8を塑性変形させない。従って、軸部4は、凹部8の内側にカシメ部11を形成して傘カバー3を取り付けるカシメ加工を施されても、中心軸線L0の軸線に沿った方向(図1から3の上下方向)に塑性変形しない。また、カシメ部11の内周面11bは、底面8aに接触しないため、カシメ加工時にローラー13からカシメ部11に伝達されるD1方向の力は、軸部4に伝達されない。従って、軸部4は、カシメ部11を凹部8の内側に形成して傘カバー3を取り付けるカシメ加工を施されても、中心軸線L0に向かってD1方向にも塑性変形しない。その結果、バルブ本体2、つまりエンジンバルブ1には、傘カバー3をカシメ加工で取り付けたことを原因とするクラックが生じにくくなる。
【0055】
またバルブ本体2を形成する軸部4の外周面4bと、カシメ部11の外周面11dとの間には、段差が形成されず、外周面(4b、11d)は、互いに面一となる。その結果、傘カバー3の湾曲部10の外周表面10bから軸部4の近傍を通過して燃焼室(図示せず)に流入する気体は、凹部8の下面8bによって阻害されることなく燃焼室に流入できるため、エンジンの燃焼効率が低下しない。
【0056】
また傘カバー3の熱膨張率がバルブ本体2より大きいことにより、熱を受けた傘カバー3がバルブ本体2より大きく熱膨張しても、カシメ部11は、隙間14を埋めるように熱膨張する。従って、軸部4は、カシメ加工によって、カシメ部11を凹部8に隙間無く取り付けた場合に比べ、熱膨張による力を傘カバー3から受けにくくなる。従って、傘カバー3がバルブ本体2より大きく熱膨張しても、バルブ本体2、つまりエンジンバルブ1には、クラックが生じにくくなる。
【0057】
尚、傘カバー3の湾曲部10の外周表面10bに施した撥油処理による被膜は、傘カバー3の温度がおよそ300℃を越えると破壊され、皮膜が破壊された外周表面10bには、傘カバー3の温度が300℃以下になった場合に燃焼室内のすすがつきやすくなる。しかし、図2図3に示す通り、傘カバー3は、カシメ部11のみが軸部4の凹部8に接触していること、カシメ部11が凹部8の下面8bの開口端部8d及び上面8cに対して、面ではなく線で接触していること、並びに湾曲部10が隙間12によってバルブ本体2に接触しないように保持されていることため、傘カバー3とバルブ本体2の接触面積は、極めて少ない。その結果、傘カバー3は、燃焼室内の熱を傘カバー3から伝達されにくいため、傘部5が300℃以上になっても、傘カバー3の温度は、300℃以下の温度に抑制されやすくなる。その結果、傘カバ−3の撥油処理による皮膜は、破壊されずに維持されて、傘カバー3の外周表面には、すすが付着しないため、エンジンの燃焼効率が低下すること無く維持される。
【0058】
次に図4,5により第2実施例のエンジンバルブ19を説明する。エンジンバルブ19は、バルブ本体の軸部に形成される凹部の形状が第1実施例の凹部8と異なる他、第1実施例のエンジンバルブ1と共通の構成を有する。
【0059】
第2実施例のエンジンバルブ19は、図4及び図5に示す通り、第1実施例と同様に金属で鍛造成形されたバルブ本体21に第1実施例と同じ傘カバー3を取り付けることによって形成された吸気用のエンジンバルブである。バルブ本体21は、軸部22と、その先端22aに同軸(中心軸線L0)に一体形成された傘部23によって構成され、傘部23は、首部24と、首部24の先端部近傍の外周に設けられたフェース部25によって構成される。
【0060】
バルブ本体21の軸部22の外周面22bには、図4及び図5に示すように、凹部26が全周に設けられている。凹部26は、軸部22の外周面22bに連続する下面26aと、外周面22bから軸部22の半径方向内側に凹む底面26b(請求項1を引用する請求項4の底部)によって構成される。下面26aは、中心軸線L0に直交し、底面26bは、中心軸線L0に平行に形成される。凹部26の下面26aの奥行きW3は、傘カバー3のカシメ部11の厚さW1と同じかそれよりも厚く形成される。
【0061】
図4図5に示す通り、首部24は、凹部26の底面26bの先端22a(軸部の先端)から上方に向かって半径方向外側に徐々に増径し、かつ首部の半径方向内側に凹む湾曲面24b(請求項1を引用する請求項4の傘部の外周側面)を外周に有する。フェース部7は、湾曲面24bの先端24aから上方に傾斜する傾斜面として形成される。
【0062】
図4及び図5に示すように傘カバー3の湾曲部10の内周面10aと、バルブ本体21の首部24の湾曲面24bとの間には、円環形状の弾性部材27が挟持される。弾性部材27は、高温にさらされても破損しないように、耐熱性を有する金属や樹脂等の素材、またはエラストマーのような断熱性を有する素材を用いることが望ましい。傘カバー3は、弾性部材27から下向きの弾性力F1を受けた状態で湾曲部10の下端部10cをカシメ加工されることにより、軸部22の凹部26に保持される。傘カバー3は、傘カバー3とバルブ本体21との間に寸法誤差があっても、弾性部材27で凹部26の下面26aに押し付けられることにより、バルブ本体21に容易に取り付けられる。
【0063】
具体的には、図5に示すように、第1実施例と同様にローラー式カシメ加工機(図示せず)の複数のローラー13をバルブ本体21の軸部22の中心軸線L0周りに周回させながら、傘カバー3の湾曲部10の下端部10c(2点鎖線部分)を凹部26の底面26bに向けて符号D1方向にカシメ加工する。湾曲部10の下端には、カシメ部11が形成される。カシメ加工機(図示せず)は、カシメ部11の下端面11aの外周端部11cが凹部26の下面26aの開口端部26cに接触した時点で停止される。また、カシメ加工機(図示せず)は、カシメ部11の内周面11bが凹部26の底面26bに接触する前に停止され、カシメ部11の内周面11bと、凹部26の底面26bとの間には、隙間28が形成される。
【0064】
図5に示す通り、カシメ部11の下端面11aの外周端部11cは、弾性部材27の弾性力F1によって軸部22の凹部26の下面26aの開口端部26cに付勢される。その結果、第2実施例の傘カバー3は、カシメ部11を介して、弾性部材27と、軸部22の凹部26の開口端部26cとの間に保持される。傘カバー3の湾曲部10の内周面10aと、首部24の湾曲面24bとの間には、隙間29が設けられ、傘カバー3は、首部24のほぼ全体を外側から覆う。
【0065】
カシメ部11は、凹部26の下面26aの開口端部26cに接触した時点でカシメ加工を停止されるため、カシメ部11は、開口端部26cに接触しても凹部26を塑性変形させない。従って、軸部4は、凹部26の内側にカシメ部11を形成するカシメ加工を施されても、中心軸線L0の軸線に沿った方向に塑性変形しない。また、カシメ部11の内周面11bは、カシメ部11を形成しても底面26bに接触しないため、軸部22は、中心軸線L0に向かってD1方向にも塑性変形しない。その結果、バルブ本体21、つまりエンジンバルブ19には、傘カバー3をカシメ加工で取り付けたことを原因とするクラックが生じにくい。
【0066】
また、熱を受けた傘カバー3がバルブ本体21より大きく熱膨張しても、カシメ部11は、図5の隙間28を埋めるように熱膨張する。従って、傘カバー3がバルブ本体21より大きく熱膨張しても、エンジンバルブ19には、クラックが生じにくくなる。尚、傘カバー3が軸部22の凹部26の開口端部26cと、弾性部材27によって保持される結果、傘カバー3とバルブ本体21との接触面積は、極めて少ないため、傘カバー3の温度は、300℃以下の温度に抑制されやすくなる。従って、傘カバ−3の撥油処理による皮膜は、破壊されずに維持され、すすの付着によるエンジンの燃焼効率の低下が防止される。
【0067】
更に、またバルブ本体21を形成する軸部22の外周面22bと、カシメ部11の外周面11dは、互いに面一になるため、傘カバー3の湾曲部10の外周表面10bから軸部22の近傍を通過して燃焼室(図示せず)に流入する気体は、なめらかに燃焼室に流入し、エンジンの燃焼効率を低下させない。
【0068】
尚、第1実施例の凹部8と、第2実施例の凹部26は、中心軸線L0を中心とした軸部2及び軸部22の全周にそれぞれ形成されているが、傘カバー3の取付用の凹部を軸部の外周に断続的に複数形成し、傘カバー3の湾曲部10の下端部を複数形成された凹部の対応箇所において、中心軸線L0に向かって半径方向内向きにカシメ加工することにより、傘カバー3をバルブ本体の軸部に取り付けても良い。また、第1及び第2実施例のエンジンバルブ(1,19)は、吸気用のエンジンバルブであるが、排気用エンジンバルブとして使用しても良い。また、傘カバー3の取付用の凹部(8,26)を形成する場所は、バルブ本体(2,21)の軸部(4,22)に限らず、少なくとも一部を首部(6,24)に形成しても良い。
【符号の説明】
【0069】
1 エンジンバルブ
2 バルブ本体
3 傘カバー
4 軸部
4a 軸部の先端
4b 軸部の外周面(請求項1のバルブ本体の外周)
5 傘部
8 凹部
8d 下面8bの開口端部(請求項1の凹部の開口端部)
10b 湾曲部10の外周表面(請求項5の傘カバーの外周表面)
11 カシメ部
11a 下端面(請求項3の軸方向の両端部の一端)
11b 内周面(請求項1のカシメ部の先端及び請求項3の軸方向の両端部の一端)
11c 下端面の外周端部(請求項1のカシメ部の外周端部)
12 隙間
14 隙間
19 エンジンバルブ
21 バルブ本体
22 軸部
22a 軸部の先端
22b 軸部の外周面(請求項4のバルブ本体の外周)
23 傘部
26 凹部
26c 下面26aの開口端部(請求項4の凹部の開口端部)
27 弾性部材
29 隙間
図1
図2
図3
図4
図5