(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6109999
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20060101AFI20170327BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20170327BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20170327BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/28 B
C02F1/58 H
C02F1/56 J
C02F1/56 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-169984(P2016-169984)
(22)【出願日】2016年8月31日
【審査請求日】2016年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229509(P2015-229509)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】394017480
【氏名又は名称】株式会社武部鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢一
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 淳一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕泰
【審査官】
高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−050841(JP,A)
【文献】
特開2014−147934(JP,A)
【文献】
特開2012−106226(JP,A)
【文献】
特開2015−20132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58− 1/64、
1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除去対象となる、マンガン、ニッケル、及び亜鉛からなる群より選択される金属イオン並びにふっ素イオンの少なくともいずれかを含有する被処理水から前記イオンの少なくとも一部を除去する水処理方法であって、
前記イオンを吸着するイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で前記被処理水に接触させた後、前記被処理水に高分子凝集剤を添加する工程を有し、
前記アルミニウム化合物の使用量は、前記被処理水に対して0.0025質量%以上であるとともに、前記高分子凝集剤の使用量は、前記被処理水に対して0.00025質量%以上であり、
前記イオン吸着材料が、炭酸塩と、酸化物と、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットであり、
前記炭酸塩が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムカルシウムの少なくとも一種であるとともに、前記酸化物が、酸化カルシウムであり、
前記イオン吸着材料中の前記酸化物の含有割合が、イオン吸着材料の全体を基準として、0.01〜0.15質量%である水処理方法。
【請求項2】
前記イオン吸着材料が、貝殻の焼成物及び石灰石の焼成物の少なくともいずれかである請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記アルミニウム化合物が、水溶性塩化物、水溶性硫酸化物、及び水溶性リン酸化物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
除去対象となる、マンガン、ニッケル、及び亜鉛からなる群より選択される金属イオン並びにふっ素イオンの少なくともいずれかを含有する被処理水から前記イオンの少なくとも一部を除去するために用いる水処理システムであって、
前記イオンを吸着するイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で前記被処理水に接触させた後、高分子凝集剤が投入される処理ユニットを備え、
前記アルミニウム化合物の使用量は、前記被処理水に対して0.0025質量%以上であるとともに、前記高分子凝集剤の使用量は、前記被処理水に対して0.00025質量%以上であり、
前記イオン吸着材料が、炭酸塩と、酸化物と、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットであり、
前記炭酸塩が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムカルシウムの少なくとも一種であるとともに、前記酸化物が、酸化カルシウムであり、
前記イオン吸着材料中の前記酸化物の含有割合が、イオン吸着材料の全体を基準として、0.01〜0.15質量%である水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水中のマンガン、ニッケル、及び亜鉛などの金属イオン成分を吸着して除去することが可能な水処理方法、及びそれに用いる水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業生産に伴って発生する工場排水には、生産工程で使用された各種化学物質が含まれており、多くの場合、これらの化学物質は水中で電離してイオン化している。また、これらの化学物質を構成する各種の元素については、健康に対する影響及び生態系への影響などが懸念されている。このため、いくつかの元素については、廃棄可能な最低濃度などが法律によって規定されている。
【0003】
産業排水に含まれる金属の除去方法としては、水酸化物共沈法の他、吸着法、イオン交換法などが知られている。これらの方法のなかでも、鉄塩を用いて鉄水酸化物を生成させて分離する共沈分離法が最もよく知られている。
【0004】
排水中の金属イオンの除去に関連する技術としては、例えば、キレート剤を含浸させたフィルタに吸着させる方法(特許文献1)や、カルシウム塩及び鉄塩を用いる二段階の水酸化物共沈法(特許文献2)などが知られている。また、水に難溶解性の有機溶媒を用いる溶媒抽出法(特許文献3)、膜分離法により被処理水中のマンガンを除去する方法(特許文献4)、酸化・還元反応を利用した排水中のマンガンの除去方法(特許文献5)なども知られている。さらに、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムを所定の含有量に制御した半焼成ドロマイトを有効成分とする重金属イオンの除去剤、並びにこの除去剤を用いる排水処理方法が提案されている(特許文献6)。なお、排水中のハロゲンイオンの除去に関連する技術としては、例えば、イオン交換法や沈殿分離法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−082093号公報
【特許文献2】特開平9−192677号公報
【特許文献3】特開平11−99301号公報
【特許文献4】特開平9−057263号公報
【特許文献5】特開2007−313479号公報
【特許文献6】特開2011−240325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1〜5で提案された方法では、複数種の金属イオンを同時に除去することは困難であった。なお、膜分離法によれば複数種の金属イオンを同時に除去することは可能ではあるが、コスト高であるなど理由により、規模の小さい排水処理に採用することは困難であった。また、溶媒抽出法では大量の有機溶媒を使用する必要があるため、抽出に用いた有機溶媒の処理に手間が掛かるといった課題があった。さらに、環境への影響に十分に配慮する必要があるため、処理済の排水をそのまま排出することは困難であった。
【0007】
なお、特許文献6で提案された重金属イオンの除去剤を用いれば、被処理水中の複数種の金属イオンを同時に除去することは可能ではあった。しかしながら、被処理水中の金属イオンを一定の濃度以下となるまで除去するには多量の除去剤を被処理水に投入する必要があった。このため、処理後に多量の汚泥が発生してしまうこととなり、後処理の手間や環境に対する負荷が過大となっていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、被処理水中の複数種の金属イオンを同時に吸着して高効率かつ容易に除去することができるとともに、処理後に発生する汚泥量を低減することが可能な水処理方法、及びそれに用いる水処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す水処理方法が提供される。
[1]除去対象となる
、マンガン、ニッケル、及び亜鉛からなる群より選択される金属イオン並びにふっ素イオン
の少なくともいずれかを含有する被処理水から前記イオンの少なくとも一部を除去する水処理方法であって、前記イオンを吸着するイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で前記被処理水に接触させた後、前記被処理水に高分子凝集剤を添加する工程を有し、
前記アルミニウム化合物の使用量は、前記被処理水に対して0.0025質量%以上であるとともに、前記高分子凝集剤の使用量は、前記被処理水に対して0.00025質量%以上であり、前記イオン吸着材料が、炭酸塩と、酸化
物と、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットであ
り、前記炭酸塩が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムカルシウムの少なくとも一種であるとともに、前記酸化物が、酸化カルシウムであり、前記イオン吸着材料中の前記酸化物の含有割合が、イオン吸着材料の全体を基準として、0.01〜0.15質量%である水処理方法
。
[2]前記イオン吸着材料が、貝殻の焼成物及び石灰石の焼成物の少なくともいずれかである前記[1]に記載の水処理方法。
[
3]前記アルミニウム化合物が、水溶性塩化物、水溶性硫酸化物、及び水溶性リン酸化物からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]
又は[2]に記載の水処理方法。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す水処理システムが提供される。
[
4]除去対象となる
、マンガン、ニッケル、及び亜鉛からなる群より選択される金属イオン並びにふっ素イオン
の少なくともいずれかを含有する被処理水から前記イオンの少なくとも一部を除去するために用いる水処理システムであって、前記イオンを吸着するイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で前記被処理水に接触させた後、高分子凝集剤が投入される処理ユニットを備え、
前記アルミニウム化合物の使用量は、前記被処理水に対して0.0025質量%以上であるとともに、前記高分子凝集剤の使用量は、前記被処理水に対して0.00025質量%以上であり、前記イオン吸着材料が、炭酸塩と、酸化
物と、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットであ
り、前記炭酸塩が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムカルシウムの少なくとも一種であるとともに、前記酸化物が、酸化カルシウムであり、前記イオン吸着材料中の前記酸化物の含有割合が、イオン吸着材料の全体を基準として、0.01〜0.15質量%である水処理システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被処理水中の複数種の金属イオンを同時に吸着して高効率かつ容易に除去することができるとともに、処理後に発生する汚泥量を低減することが可能な水処理方法、及びそれに用いる水処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1において、高分子凝集剤を添加した後の固液分離の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
<水処理方法>
本発明の水処理方法は、除去対象となるイオンを含有する被処理水からイオンの少なくとも一部を除去する方法であり、イオンを吸着するイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で被処理水に接触させた後、被処理水に高分子凝集剤を添加する工程を有する。そして、イオン吸着材料(以下、単に「吸着材料」とも記す)は、炭酸塩と、酸化物及び水酸化物の少なくともいずれかと、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットである。以下、その詳細について説明する。
【0015】
(処理工程)
本発明の水処理方法は、イオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で被処理水に接触させた後、被処理水に高分子凝集剤を添加する工程(処理工程)を有する。イオン吸着材料は、炭酸塩と、酸化物及び水酸化物の少なくともいずれかと、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットである。
【0016】
イオン吸着材料は、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、及び鉄(Fe)等の金属イオンなどを吸着しうる材料であるため、このイオン吸着材料のみを被処理水に単に投入等して接触させることで、除去対象である被処理水中のイオンをある程度吸着して除去することは可能ではある。しかし、例えば、法律などによって規定される廃棄可能なイオン濃度となるまで重金属等のイオンを除去しようとする場合には、被処理水に対して相対的に多量のイオン吸着材料を投入する必要がある。このため、処理後には使用済みのイオン吸着材料が汚泥として多量に発生することになるので、処理後の固液分離の手間がかかるとともに、分離した汚泥の廃棄処理等に過度の負担が生じてしまう。
【0017】
これに対して、本発明の水処理方法の処理工程においては、上述の通り、イオン吸着材料だけでなくアルミニウム化合物を被処理水に接触させる。また、イオン吸着材料及びアルミニウム化合物を接触させる際の被処理水のpHを8.0以上の条件下に制御する。さらに、イオン吸着材料及びアルミニウム化合物を被処理水に接触させた後には、高分子凝集剤を被処理水に添加する。このようにして被処理水を処理することで、イオン吸着材料のみを被処理水に単に投入等して処理する場合に比して、イオン吸着材料の使用量を大幅に低減することができる。このため、本発明の水処理方法によれば、被処理水の処理によって発生する汚泥量を大幅に低減することができるとともに、処理後の固液分離が容易であり、処理に要するランニングコストの削減も可能である。
【0018】
(イオン吸着材料)
本発明の水処理方法で用いる吸着材料は、金属イオン等のイオンから生じた水酸化物の吸着を利用し、被処理水中の金属イオン等のイオンを吸着して除去する成分である。金属の水酸化物の溶解度積(Ksp値)から算出される、水酸化物が生成する水素イオン濃度(pH)を表1に示す。
【0020】
例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)の溶解度積から水酸化物生成pHを算出した根拠は以下に示す通りである。Al(OH)
3の解離平衡は下記式(1)式で表される。
【0022】
また、上記式(1)と溶解度積(Ksp値)の関係は、下記式(2)で表される。
【0024】
Al(OH)
3は下記式(3)の関係を満たす場合に生成するので、上記式(2)は下記式(4)及び(5)のように表されることになる。
【0026】
一方、H
2Oの解離平衡は下記式(6)で表されるので、上記式(5)及び下記式(6)から、下記式(7)が導かれる。
【0028】
被処理水のpHは下記式(8)で表されるので、上記式(7)より、アルミニウム(Al)の水酸化物生成pHを下記式(9)のように算出することができる。
【0030】
本発明の水処理方法で用いる吸着材料は、炭酸塩と、酸化物及び水酸化物の少なくともいずれかと、を含有する。炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムカルシウム、炭酸マンガン等を用いることができる。なかでも、炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムカルシウム(いわゆるドロマイト)が好ましく、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムの少なくともいずれかがさらに好ましい。酸化物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を用いることができる。なかでも、酸化物としては、酸化カルシウムが好ましい。水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を用いることができる。なかでも、水酸化物としては、水酸化カルシウムが好ましい。
【0031】
炭酸カルシウムや酸化カルシウムなどで吸着材料を構成する場合、入手が容易な天然物である貝殻、石灰石、魚骨等によって吸着材料を構成することが好ましい。なお、貝殻、石灰石、及び魚骨等の天然物を用いて吸着材料を構成する場合、熱処理等することによってこれらの天然物に含まれる有機物を分解させておくことが好ましい。また、吸着材料の形状は粉末状物、粒子状物、又はペレットであるために表面積が広く、イオンの吸着効率に優れている。
【0032】
吸着材料は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩と、酸化カルシウム等の酸化物とを含有することが好ましい。また、吸着材料は、炭酸塩と酸化物から実質的に構成されていることが好ましい。吸着材料が、炭酸塩と酸化物を含有する場合、酸化物の含有割合は、吸着材料の全体を基準として、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。酸化カルシウム等の酸化物の含有割合が0.01質量%未満であると、被処理水のpHを十分に高めることが困難になるので、金属イオン等の水酸化物が形成されにくくなり、吸着効率が不足する傾向にある。なお、酸化物の含有割合の上限については特に限定されないが、吸着材料の全体を基準として、0.15質量%以下とすることが好ましく、0.12質量%以下とすることがさらに好ましく、0.1質量%以下とすることが特に好ましい。酸化カルシウム等の酸化物の含有割合が0.15質量%超であると、被処理水のpHが高くなりすぎることがあり、処理後の排水をそのまま排出することが困難になる場合がある。
【0033】
吸着材料の形状は、その粒径が0.01〜2.0mmの範囲内にある粉末状物又は粒子状物であることが好ましい。粒径が上記の範囲内にある粉末状又は粒子状の吸着材料を用いることで、イオンの吸着効率等をさらに高めることができる。
【0034】
(アルミニウム化合物)
本発明の水処理方法では、イオン吸着材料とともに、アルミニウム化合物を被処理水に接触させる。アルミニウム化合物を被処理水に接触させることで、微細な吸着材料を沈降させて除去効率を向上させることができる。さらに、アルミニウム化合物を用いることで、ハロゲンイオンのうち、特にふっ素イオンを有効に吸着して除去することが可能となる。アルミニウム化合物としては、水溶性塩化物、水溶性硫酸化物、及び水溶性リン酸化物からなる群より選択される少なくとも一種の水溶性のアルミニウム化合物を用いることが好ましい。水溶性のアルミニウム化合物としては、塩化アルミニウムや硫酸アルミニウムなどの水に溶解した際にイオン化しやすい化合物が好ましい。
【0035】
アルミニウム化合物の使用量は、被処理水に対して、0.0025質量%以上とすることが好ましく、0.0025〜0.0715質量%とすることがさらに好ましい。アルミニウム化合物の使用量が少なすぎると、除去効率を向上させることが困難になる場合があるとともに、ふっ素イオンを除去する効果が不足することがある。
【0036】
(pH)
本発明の水処理方法の処理工程においては、イオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下、好ましくはpH8.0〜9.0の条件下で被処理水に接触させる。pH8.0以上の条件下で、イオン吸着材料及びアルミニウム化合物を被処理水に接触させることで、被処理水中の金属イオンの吸着効率を高めることができるとともに、吸着材料の使用量を減らして、処理後に発生する汚泥量を低減することが可能となる。pHが8.0未満であると、イオンの吸着効率を高めることができない。一方、pHが高すぎると、処理後の排水をそのまま排出することが困難になる場合がある。なお、被処理水のpHは、例えば、イオン吸着材料とアルミニウム化合物の使用量(使用比)を設定すること等によって適宜調整することができる。
【0037】
(高分子凝集剤)
本発明の水処理方法では、イオン吸着材料及びアルミニウム化合物を被処理水に接触させた後、被処理水に高分子凝集剤を添加する。高分子凝集剤を被処理水に添加することで、微細な吸着材料を凝集させて除去効率を向上させることができる。また、高分子凝集剤を被処理水に添加することで、被処理水のイオンを所望とするレベルにまで吸着して除去するのに要する吸着材料の量を大幅に低減することができる。
【0038】
高分子凝集剤の使用量は、被処理水に対して、0.00025質量%以上とすることが好ましく、0.00025〜0.001質量%とすることがさらに好ましい。高分子凝集剤の使用量が少なすぎると、除去効率を向上させることが困難になる場合があるとともに、被処理水のイオンを所望とするレベルにまで吸着して除去するのに要する吸着材料の量を低減することが困難になることがある。
【0039】
高分子凝集剤としては、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤などを用いることができる。なかでも、アニオン性高分子凝集剤を用いることが好ましい。アニオン性高分子凝集剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドとの共重合物、ポリメタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物などを挙げることができる。カチオン性高分子凝集剤としては、アクリレート系高分子凝集剤、メタクリレート系高分子凝集剤、アミド基、ニトリル基、アミン塩酸塩、ホルムアミド基などを含むポリビニルアミジン、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などを挙げることができる。また、ノニオン性高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。
【0040】
<水処理システム>
本発明の水処理システムは、除去対象となるイオンを含有する被処理水からイオンの少なくとも一部を除去するために用いるシステムであり、前述のイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0
以上の条件下で被処理水に接触させた後、高分子凝集剤が投入される処理ユニットを備える。以下、水処理システムの詳細について説明する。
【0041】
吸着材料及びアルミニウムを被処理水に接触させる方法としては、一般的なイオン交換樹脂を用いて水を浄化させる方法と同様の方法を挙げることができ、例えば、カラム式やバッチ式の処理方法がある。すなわち、吸着材料及びアルミニウムと、被処理水とを接触させる処理ユニットとしては、吸着材料を充填したカラムや、吸着材料を投入したバッチ槽などがある。
【0042】
カラム式の処理方法では、例えば、吸着材料を充填したカラムに、被処理水にアルミニウム化合物を添加したものを通液させる。これにより、吸着材料との反応(金属イオンはpH、ハロゲンイオンは配位結合反応)で各種のイオンが固体物質に変換され、イオンの少なくとも一部(好ましくはほとんど)が吸着して除去された処理水をカラムから流出させることができる。カラムへの通液速度は、被処理水中のイオンの量によって適宜設定すればよい。具体的には、SV比(単位体積当たりの通液量の比)が4〜10程度となるように通液することが好ましい。
【0043】
バッチ式の処理方法では、例えば、被処理水を入れたバッチ槽などの容器に吸着材料及びアルミニウム化合物を直接投入し、被処理水と吸着材料を接触させる。また、プロペラ撹拌機などの撹拌機を用いて被処理水と吸着材料を混合撹拌すれば、吸着効率を向上させることができるために好ましい。一定時間経過後に高分子凝集剤を添加し、さらに撹拌等してから、ろ過やフィルタープレスなどによって固液分離すれば、各種イオンの少なくとも一部(好ましくはほとんど)が除去された処理水を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
(実施例1)
500℃で焼成したホタテ貝殻(低温焼成ホタテ貝殻)の粉砕物99.9部、850℃以上の温度で焼成したホタテ貝殻(高温焼成ホタテ貝殻)の粉砕物0.05部、及びドロマイト0.05部を混合して、粒径0.2〜0.4mmの吸着材料を調製した。また、マンガン、ニッケル、亜鉛、及びふっ素の各イオンを含有する試験溶液200mLを調製した。試験溶液に対して、吸着材料を0.05%、0.10%、0.15%、0.20%、0.25%、及び0.30%となるようにそれぞれ添加した。次いで、20%硫酸アルミニウム水溶液2mLを添加し、スターラーを使用して20分間撹拌した。その後、高分子凝集剤(商品名「ナカフロック」、三井化学アクアポリマー社製)約0.00075%となるように添加して撹拌した。10分間放置した後、ろ過してろ液を得た。ICP−OES法及び吸光光度法により、得られたろ液中の各元素の残存濃度を定量した。また、ろ液のpHを測定した。結果を表2に示す。また、高分子凝集剤を添加した後の固液分離の状態を
図1に示す。
【0046】
【0047】
表2に示すように、低温焼成ホタテ貝殻、高温焼成ホタテ貝殻、及びドロマイトを含有する吸着材料だけでなく、水溶性アルミニウム化合物である硫酸アルミニウムを用いることで、金属イオンだけでなく、ふっ素イオンをも同時かつ効率的に除去可能であることが分かる。
【0048】
(実施例2)
上記の実施例1で用いた吸着材料及び試験溶液を使用し、試験溶液に対して、吸着材料を0.15%となるように添加した。次いで、試験溶液のpHが8.0、8.2、及び8.4となる量の20%硫酸アルミニウム水溶液をそれぞれ添加した。スターラーを使用して20分間撹拌した後、試験溶液に対して、高分子凝集剤(商品名「ナカフロック」、三井化学アクアポリマー社製)を0.00075%となるように添加して撹拌した。10分間放置した後、ろ過してろ液を得た。ICP−OES法及び吸光光度法により、得られたろ液中の各元素の残存濃度を定量した。また、処理後のろ液のpHを測定した。結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
(吸着材料の使用量の比較)
マンガン、ニッケル、亜鉛、及びふっ素の各イオンを含有する試験溶液200mLを調製した。試験溶液に対して、実施例1で用いた吸着材料を0.5%、1.0%、及び2.0%となるようにそれぞれ添加した。次いで、硫酸アルミニウム水溶液を添加することなく、スターラーを使用して20分間撹拌した。その後、試験溶液に対して、高分子凝集剤(商品名「ナカフロック」、三井化学アクアポリマー社製)を約0.00075%となるように添加して撹拌した。10分間放置した後、ろ過してろ液を得た。ICP−OES法及び吸光光度法により、得られたろ液中の各元素の残存濃度を定量した。また、ろ液のpHを測定した。結果を表4に示す。
【0051】
【0052】
表4に示すように、硫酸アルミニウムを添加しなかった場合には、試験溶液中の各元素を十分吸着するのに0.5%の吸着材料を添加することが必要であった。これに対し、表3に示すように、硫酸アルミニウムを添加するとともに、水素イオン濃度(pH)を8.0〜9.0の範囲にした場合には、0.15%の吸着材料を添加するだけで試験溶液中の各元素を十分に吸着することができた。以上より、硫酸アルミニウムを添加し、被処理水のpHを所定の範囲に調整することで、必要となる吸着材料の量、すなわち発生する汚泥量を低減できることがわかる。
【0053】
(実施例3)
上記の実施例1で用いた吸着材料及び試験溶液を使用し、表5に示す添加率となるように吸着材料を試験溶液にそれぞれ添加した(但し、「例1」については吸着材料を添加していない)。次いで、例4、7、及び8の試験溶液に、表5に示す量の20%硫酸アルミニウム水溶液をそれぞれ添加した。スターラーを使用して20分間撹拌した後、例5〜8試験溶液に、高分子凝集剤(商品名「ナカフロック」、三井化学アクアポリマー社製)を表5に示す添加率となるようにそれぞれ添加して撹拌した。固液分離するまでそれぞれ放置した後、ろ過してろ液を得た。ICP−OES法及び吸光光度法により、得られたろ液中の各元素の残存濃度を定量した。また、処理後のろ液のpHを測定した。結果を表5に示す。
【0054】
【0055】
表5に示すように、吸着材料の添加率が同一であっても、高分子吸着剤を添加した場合(例7及び8)には、高分子吸着剤を添加しない場合(例4)に比して、試験溶液中の各元素をより吸着できることがわかる。また、高分子凝集剤及び硫酸アルミニウムを添加せずに、高分子凝集剤及び硫酸アルミニウムを添加した場合と同等のレベルにまで各元素を吸着するには、10倍量以上の吸着材料を使用する必要があることがわかる(例3と例8を比較)。さらに、高分子凝集剤を使用することで、分離時間(すなわち、作業工程時間)を大幅に短縮できることがわかる。
【0056】
(溶出試験)
実施例1において、吸着材料を0.25%添加して回収された沈殿物(高分子凝集剤で凝集させた後、固液分離して回収したもの)の全量を1000mLビーカーに入れた。純水500mLを添加し、マグネチックスターラーを使用して6時間撹拌した。上澄み液中の各元素の濃度をICP−OES法及び吸光光度法により定量した。結果を表6に示す。
【0057】
【0058】
表6に示すように、吸着材料に吸着されたいずれの元素(イオン)についても水中にほとんど溶出せず、環境基準内の溶出量であることが分かる。
【要約】
【課題】被処理水中の複数種の金属イオンを同時に吸着して高効率かつ容易に除去することができるとともに、処理後に発生する汚泥量を低減することが可能な水処理方法を提供する。
【解決手段】除去対象となるイオンを含有する被処理水から前記イオンの少なくとも一部を除去する水処理方法である。イオンを吸着するイオン吸着材料及びアルミニウム化合物を、pH8.0以上の条件下で被処理水に接触させた後、被処理水に高分子凝集剤を添加する工程を有し、イオン吸着材料が、炭酸塩と、酸化物及び水酸化物の少なくともいずれかと、を含有する粉末状物、粒子状物、又はペレットである。
【選択図】なし