【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は、物体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイを提供し、レンズアレイは、反対面に画像要素が配置された透明又は半透明材料の片面内又は片面上に形成された複数のレンズレットを含み、レンズアレイは、各レンズレットの頂点から物体面までの距離に対応するゲージ厚を有し、ここで各レンズレットはレンズパラメータセットを有し、ゲージ厚及び/又は少なくとも1つのレンズパラメータは、物体面における画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを各レンズレットが物体面に有するように最適化される。
【0014】
本発明の別の態様において、物体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイの製造方法を提供し、レンズアレイは複数のレンズレットを含み、レンズアレイは各レンズレットの頂点から物体面までの距離に対応するゲージ厚を有し、この方法は、
物体面の少なくとも一部における画像要素のサイズを表すスケールパラメータを決定するステップと、
各レンズレットについてスケールパラメータを使用してゲージ厚及び/又はレンズパラメータセットの少なくとも1つのパラメータを最適化するステップと、
透明又は半透明材料の片面内又は片面上に前記ゲージ厚及び前記レンズパラメータを有するレンズアレイを形成するステップであって、画像要素が透明又は半透明材料の反対面に配置されている、ステップと、
を含み、これによりレンズレットは、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを物体面に有する。
【0015】
レンズパラメータセットは、レンズ幅、屈折率、サグ高さ、曲率半径、円錐パラメータ及びアッベ数を含み得る。これらの一部又は全てを、物体面において所望の特性を有する焦点サイズが得られるように変化させることができる。
【0016】
好ましくは、各レンズレットは円錐曲線の断面を有する。レンズレットは円柱状であってもよく、又は部分球面若しくは非球面の断面を有してもよい。各レンズレットは、好ましくはレンズアレイの平面において回転対称である。一実施形態において、各レンズレットは、その長さに沿って実質的に均一な断面を有する細長いレンチキュールであってもよい。
【0017】
定義
焦点サイズH
本明細書で使用されるとき、用語の焦点サイズは、レンズを通して屈折した光線が特定の視角で物体面と交差する点の幾何学的分布の寸法、通常は有効直径又は幅を指す。焦点サイズは、理論計算、レイトレーシングシミュレーションから、又は実測から示され得る。本発明者らは、ZEMAXなどのソフトウェアを使用したレイトレーシングシミュレーションが、本発明に記載される方法により設計されたレンズの直接計測と緊密に一致することを見出している。レイトレーシングシミュレーションは、入射光線が実際には正確に平行ではないという事実を考慮するよう調整することができる。
【0018】
焦点距離f
本明細書では、焦点距離は、レンズアレイにおけるマイクロレンズを参照して使用されるとき、マイクロレンズの頂点から、平行放射がアレイのレンズ側から入射するときのパワー密度分布の最大値を特定することにより与えられる焦点の位置までの距離を意味する(T. Miyashita、「Standardization for microlenses and microlens arrays」(2007年)Japanese Journal of Applied Physics 46、5391頁を参照)。
【0019】
ゲージ厚t
ゲージ厚は、透明又は半透明材料の片側にあるレンズレットの頂点から、物体面と実質的に一致する画像要素が提供される半透明材料の反対側の表面までの距離である。
【0020】
レンズ頻度及びピッチ
レンズアレイのレンズ頻度は、レンズアレイの表面にわたる所与の距離におけるレンズレットの数である。ピッチは、あるレンズレットの頂点から隣接するレンズレットの頂点までの距離である。均一なレンズアレイにおいて、ピッチはレンズ頻度と逆相関する。
【0021】
レンズ幅W
マイクロレンズアレイにおけるレンズレットの幅は、レンズレットの一方のエッジからレンズレットの反対側のエッジまでの距離である。半球又は半円柱レンズレットを有するレンズアレイでは、幅はレンズレットの直径に等しい。
【0022】
曲率半径R
レンズレットの曲率半径は、レンズの表面上のある点から、レンズ表面に対する法線がレンズレットの頂点を通って垂直に延在する線(レンズ軸)と交差する点までの距離である。
【0023】
サグ高さs
レンズレットのサグ高さ又は表面サグsは、頂点から、軸を通って垂直に延在するレンズレットのエッジからの最も短い線と交差する軸上の点までの距離である。
【0024】
屈折率n
媒質の屈折率nは、真空中での光の速度の媒質中での光の速度に対する比である。レンズの屈折率nは、レンズ表面に達した光線が屈折する大きさを、以下のスネルの法則に従い決定する:
n
1*Sin(α)=n*Sin(θ)
式中、αは入射光線とレンズ表面の入射点における法線との間の角度であり、θは屈折光線と入射点における法線との間の角度であり、及びn
1は空気の屈折率である(近似としてn
1は1としてもよい)。
【0025】
円錐定数P
円錐定数Pは、円錐曲線を記述する数量であり、幾何光学では、球面(P=1)、楕円面(0<P<1、又はP>1)、放物面(P=0)、及び双曲面(P<0)レンズを特定するために使用される。文献によっては文字Kを使用して円錐定数を表すものもある。Kは、K=P−1によってPと関係付けられる。
【0026】
ローブ角度
レンズのローブ角度は、レンズによって形成される視角全体である。
【0027】
アッベ数
透明又は半透明材料のアッベ数は、材料の分散(波長による屈折率の変動)の尺度である。レンズに適切なアッベ数を選択することは、色収差を最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0028】
セキュリティ書類
本明細書で使用されるとき、用語のセキュリティ書類はあらゆる種類の書類及び前払式証票及び本人確認書類を含み、そのなかには、限定はされないが、以下のものが含まれる:銀行券及び硬貨などの貨幣類、クレジットカード、小切手、旅券、身分証明書、証券及び株券、運転免許証、権利証書、航空券及び鉄道乗車券などの旅行用券類、入場証及び入場券、出生、死亡及び結婚証明書、並びに学業成績証明書。
【0029】
透明ウィンドウ及びハーフウィンドウ
本明細書で使用されるとき、用語ウィンドウは、セキュリティ書類において、印刷が施される実質的に不透明な領域と対照される透明な又は半透明の範囲を指す。ウィンドウは、光が実質的に影響を受けることなく透過することが可能であるように完全に透明であってもよく、又は光が部分的には透過可能であるが、ウィンドウ範囲を通じて物体を明瞭に見ることはできないように、部分的に透明又は半透明であってもよい。
【0030】
ウィンドウ範囲は、少なくとも1つの透明ポリマー材料層と、透明ポリマー基材の少なくとも片面に設けられた1つ又は複数の不透明化層とを有するポリマー製セキュリティ書類において、ウィンドウ範囲を形成する領域において少なくとも1つの不透明化層を除くことにより形成されてもよい。不透明化層が透明基材の両面に設けられる場合、ウィンドウ範囲において透明基材の両面にある不透明化層を除くことにより、完全に透明なウィンドウが形成され得る。
【0031】
以下「ハーフウィンドウ」と称する部分的に透明な又は半透明の範囲は、両面に不透明化層を有するポリマー製セキュリティ書類において、「ハーフウィンドウ」が完全には透明でなく、しかしハーフウィンドウを通じて物体を明瞭に見ることはできないながらいくらかの光は通過させるように、ウィンドウ範囲においてセキュリティ書類の片面にある不透明化層のみを除くことにより形成され得る。
【0032】
或いは、基材が紙又は繊維材料などの実質的に不透明な材料から形成され、透明プラスチック材料のインサートを紙若しくは繊維性基材のカットアウト又は凹部に挿入して透明ウィンドウ又は半透明ハーフウィンドウ範囲を形成することが可能である。
【0033】
不透明化層
1つ又は複数の不透明化層を透明基材に設けてセキュリティ書類の不透明度を高めてもよい。不透明化層はL
T<L
0である(式中、L
0は書類に入射する光量であり、L
Tは書類を透過する光量である)。不透明化層は、各種不透明化コーティングのうちの任意の1つ又は複数を含み得る。例えば、不透明化コーティングは、加熱により活性化される架橋性ポリマー材料の結合剤又は担体中に分散した二酸化チタンなどの色素を含み得る。或いは、透明プラスチック材料の基材が、紙又は他の部分的若しくは実質的に不透明な材料の不透明化層の間に挟まれてもよく、その不透明化層の上には後に表示が印刷され、又はその他の形で施され得る。
【0034】
本発明の一実施形態において、レンズアレイのゲージ厚が、画像要素のサイズ及びレンズパラメータセットに関して最適化され得る。
【0035】
別の実施形態において、レンズパラメータが、画像要素のサイズ及びゲージ厚に関して最適化され得る。
【0036】
焦点サイズが画像要素のサイズと関係付けられるようにレンズパラメータを選択することにより、画像品質を実質的に犠牲にすることなくレンズアレイの厚さ、又はレンズ頻度を低減することができる。これは、レンズレットを通って屈折し、物体面に達する光線の大部分が、なお所望の1つ又は複数の視角で画像要素が及ぶ領域と交わり、それによりサンプリング効果の維持が可能となるためである。
【0037】
レンズアレイの厚さは、それでもなお高品質の画像効果を生じるさらに薄いレンチキュラーシートを提供するように低減することができる。或いは、厚さを維持する一方、レンズレットの幅を拡げることができ、それにより各レンズレットの下により多くの印刷を含めることが可能となり、従って画像品質が改善され、及び/又はより複雑な視覚効果を作り出すことが可能となる。
【0038】
好ましくは、レンズアレイの厚さは、いずれのレンズレットの焦点距離よりも小さい。
【0039】
特に好ましい実施形態では、焦点サイズが画像要素のサイズと異なる所定の大きさは、画像要素のサイズのばらつきの推定値より小さい。ばらつきの推定値は、画像要素のサイズの標準偏差、平均絶対偏差又は四分位範囲であり得る。焦点サイズが画像要素のサイズより大きい場合、一般に、そのスポットのエッジにあるのは屈折光線のパワー密度分布の比較的小さい部分に限られるため、それによってさらにより薄いレンチキュラーシートが、実質的に所望の画像品質を維持しながら可能となる。焦点サイズのほうが僅かに小さい場合、画像効果を生み出す画像成分間の移行がより滑らかに行われ得る。
【0040】
実際には、本発明者らは、最高20%までの違いに基づく所定の大きさであれば、ほとんどの状況下において印刷される画像要素サイズの変動をなお考慮しながら高品質のイメージを生成し得ることを見出している。しかしながら、より高い精度が求められる場合、このばらつきは、印刷される画像要素の実際のサイズ分布から前述の方法のいずれかにより推定されてもよい。
【0041】
画像要素は、ドット、ライン又は他の形状の形態をとり得る。画像要素は、透明又は半透明材料の反対面上の物体面における表面に対し、レーザマーキングを含む様々な方法で設けられ得る。好ましい一実施形態において、画像要素は物体面の前記表面に印刷される。本発明の方法は、表側表面にレンズレットが形成された透明又は半透明材料の裏側表面に複数の印刷されたドットを設けるステップであって、それにより光学的可変デバイス又は物品を形成するステップを含み得る。或いは、複数の印刷されたドットを基材(例えば、繊維又はポリマー材料のもの)に設け、その基材を透明又は半透明材料の裏側表面に取り付けてもよい。
【0042】
レンズレットは、基材に設けられた透明又は半透明の放射線硬化性材料をエンボス加工することによって形成され得る。透明又は半透明の放射線硬化性材料は、エンボス後に硬化させてもよいが、しかし好ましくはエンボス加工及び硬化が実質的に同時に行われる。基材は、好ましくは透明又は半透明ポリマー材料から形成され、基材と放射線硬化性材料との合計厚さがレンズアレイのゲージ厚に対応する。特に好ましい実施形態において、基材は柔軟性のあるシート状構造であり、基材及び放射線硬化性材料は、銀行券、クレジットカードなどのセキュリティ書類の一部を形成する。基材は好ましくはレンズレットと実質的に同じ屈折率を有する。
【0043】
好ましい一実施形態において、レンズパラメータセットは各レンズレットについて同じである。
【0044】
別の好ましい実施形態において、焦点サイズは、レンズレットのローブ角度内の少なくとも2つの方向に関して平均したとき、画像要素のサイズと実質的に等しいか、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる。
【0045】
焦点サイズを平均する方向は、好ましくは軸上の方向と、ローブ角度のエッジ近傍の軸外の方向とを含む。
【0046】
別の態様において、本発明は、物体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイの設計方法を提供し、レンズアレイは複数のレンズレットを含み、且つ各レンズレットの頂点から物体面までの距離に対応するゲージ厚を有し、この方法は、
物体面における画像要素のサイズを表すスケールパラメータを推定するステップと、
各レンズレットについてレンズパラメータセットを選択するステップと、
各レンズレットについてスケールパラメータを使用してゲージ厚及び/又はレンズパラメータセットの少なくとも1つのレンズパラメータを最適化するようにレンズアレイを設計するステップであって、各レンズレットが、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを物体面に有する、ステップと、
を含む。
【0047】
好ましくは、レンズレットを含むレンズアレイの厚さは、いずれのレンズレットの焦点距離よりも小さい。
【0048】
レンズパラメータセットは各レンズレットについて同じであってもよい。或いは、レンズアレイの1つ又は複数の範囲にあるレンズレットが、レンズアレイの他の範囲にあるレンズレットと異なるレンズパラメータを有してもよい。
【0049】
好ましくは、本方法は、物体面の少なくとも一部における画像要素のサイズを計測するステップであって、画像要素の計測されたサイズからスケールパラメータが推定されるステップをさらに含む。計測は、デンシトメータを使用して実施されてもよく、或いは画像要素のサイズを直接計測することにより実施されてもよい。好ましくは、画像要素はキャリブレーションテンプレートの一部である。特に好ましい実施形態において、画像要素は印刷されたライン又はドットである。
【0050】
印刷されたライン又はドットのサイズを計測することにより、レンズ設計を、使用される印刷機、インク及び他の材料、並びにプリプレス機器のタイプに依存し得る印刷の実際の特性に合わせて調整することが可能となる。
【0051】
スケールパラメータは、画像要素のサイズの平均値又は最大値を計算することにより推定されてもよい。或いは、ロバスト推定量、好ましくはM推定量、又は画像要素のサイズの中央値、上位四分位数若しくは四分位範囲の平均値のうちの1つを使用して推定されてもよい。
【0052】
本発明のさらなる態様において、光学的可変デバイスの製造方法が提供され、これは、
基材を提供するステップと、
基材に画像要素を設けるステップであって、前記画像要素が物体面に位置するステップと、
画像要素のサイズを表すスケールパラメータを決定するステップと、
基材上に複数のレンズレットを透明又は半透明材料で形成するステップと、
を含み、各レンズレットは、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズをレンズレットが物体面に有するように決定されたレンズパラメータセットを有する。
【0053】
好ましい一実施形態において、スケールパラメータは、画像要素のサイズを計測することにより決定される。
【0054】
好ましくは、基材は透明又は半透明シート状材料から形成され、基材の片側における第1の表面内又は表面上にレンズレットが形成され、及び基材の反対側の第2の表面に画像要素が設けられる。レンズレットは、透明又は半透明シート状材料それ自体で形成されてもよい。或いは、レンズレットは、透明、半透明又は不透明であってよい基材に設けられた透明又は半透明層において、例えば放射線硬化性透明又は半透明樹脂をエンボス加工することにより形成されてもよい。
【0055】
画像要素は、印刷又はレーザマーキングを含め、任意の好都合な方法によって形成され得る。特に好ましい方法において、画像要素は印刷されたドットである。
【0056】
本発明の別の態様において、基材と、基材内又は基材上に形成された複数のレンズレットと、基材内又は基材上において物体面に位置する複数の画像要素とを含む光学的可変デバイスが提供され、各レンズレットは、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズをレンズレットが物体面に有するように決定されたレンズパラメータセットを有する。
【0057】
好ましくは、レンズレットは、レンズレットの各々の焦点距離より小さいゲージ厚を有するレンズアレイの一部である。
【0058】
さらなる態様において、本発明は、本発明の第1の態様に係るレンズアレイを含む光学的可変デバイスを提供する。
【0059】
上記の方法により製造される光学的可変デバイスは、広範囲にわたる物品に応用され得るが、本発明は特に、セキュリティ書類の分野、より詳細には柔軟性のあるシート状基材から形成されるセキュリティ書類及び物品、例えば銀行券などに適用性を有する。光学的可変デバイスは、セキュリティ書類のウィンドウ範囲又はハーフウィンドウ範囲に形成され得る。
【0060】
ここで添付の図面を参照しながら、あくまでも非限定的な例として本発明の好ましい実施形態を説明する。