特許第6110068号(P6110068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6110068
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】レンズアレイの作製方法の改良
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20170327BHJP
   G02B 27/18 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   G02B3/00 A
   G02B3/00 Z
   G02B27/18 A
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-552280(P2011-552280)
(86)(22)【出願日】2010年3月3日
(65)【公表番号】特表2012-519305(P2012-519305A)
(43)【公表日】2012年8月23日
(86)【国際出願番号】AU2010000243
(87)【国際公開番号】WO2010099571
(87)【国際公開日】20100910
【審査請求日】2012年12月14日
【審判番号】不服2015-6589(P2015-6589/J1)
【審判請求日】2015年4月8日
(31)【優先権主張番号】61/157,309
(32)【優先日】2009年3月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511214598
【氏名又は名称】イノヴィア セキュリティー プロプライアタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ムーン,ジョナサン,エー.
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ,デイヴィッド,イー.
【合議体】
【審判長】 中田 誠
【審判官】 清水 康司
【審判官】 樋口 信宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−221619(JP,A)
【文献】 実公昭39−18236(JP,Y1)
【文献】 特開2001−324949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B3/00-3/14,27/00-27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイであって、複数のレンズレットを含み、且つ各レンズレットの頂点から前記物体面までの距離に対応するゲージ厚を有するレンズアレイの設計方法であって、
前記物体面における前記画像要素のサイズを表すスケールパラメータを推定するステップと、
各レンズレットについて前記スケールパラメータを使用して前記ゲージ厚及び/又は前記レンズパラメータセットの少なくとも1つのレンズパラメータを選択するように前記レンズアレイを設計するステップであって、各レンズレットが、前記画像要素のサイズと等しい、又は前記画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを前記物体面に有する、ステップと、
を含み、
前記物体面の少なくとも一部における前記画像要素のサイズを計測するステップであって、前記画像要素の前記計測されたサイズから前記スケールパラメータが推定されるステップをさらに含む、方法。
【請求項2】
光学的可変デバイスの製造方法であって、
基材を提供するステップと、
前記基材に画像要素を設けるステップであって、前記画像要素が物体面に位置するステップと、
前記画像要素のサイズを表すスケールパラメータを決定するステップと、
前記基材上に複数のレンズレットを透明又は半透明材料で形成するステップと、
を含み、各レンズレットが、前記画像要素のサイズと等しい、又は前記画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを前記レンズレットが前記物体面に有するように前記スケールパラメータに基づいて決定されたレンズパラメータセットを有し、
前記スケールパラメータが、前記画像要素のサイズを計測することにより決定される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズアレイの改良された設計及び製造方法、並びにそれによって作製されるレンズアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
レンズアレイは、数多くの異なるタイプの光学効果の生成を可能にする。例えば、アレイの焦点面に置かれた下側の画像要素に焦点が合ったレンズのアレイは、立体的に見える全体画像であって、視角が変化するにつれて動き、拡大率若しくは形態が変化し、又はレンズアレイの平面外に見掛けの深さを有する画像を生成することができる。レンズの下に2つ以上の画像を、例えば複数のシリンドリカルレンズの下にストリップ状に交互配置することにより、視角が変化するにつれて観察者に異なる画像が見えるようにさらなる効果を実現することができる。かかる視覚効果は、展示、販促材料、蒐集品を含めた数多くの用途において、及びセキュリティ書類における光学的可変デバイスとして有用である。
【0003】
レンズアレイは、概して、本明細書でレンチキュラーシートと称される材料シートを作る透明なポリマー材料から製造される。アレイを形成するレンズレットのパターンがシートの片面にエンボス加工されるか、又はその他の方法で形成され、シートの反対面は、平らな、概して光沢タイプの表面として形成される。画像要素が平坦面に設けられるか、又はそこに置かれ、これは例えば印刷によるか、又はレーザマーキング法によって形成され得る。シート材料は、一般には単層として製造されるが、多層方法もまた用いられる。
【0004】
画像要素は、印刷されたドットを含み得る。一方法では、印刷前に、平坦面上の所望の最終プリントに相当する連続画像がハーフトーン画像に変換される。印刷後、ハーフトーン画像は、平坦面上の複数の印刷されたドットとして見えるようになる。
【0005】
レンチキュラーシートの厚さ(通常ゲージ厚と称される)は、従来、入射光線の焦点が実質的にシートの平坦面に合うように、レンズレットの焦点距離により決定されてきた。この設計は、いわゆるサンプリング効果を利用するために採られる。サンプリング効果により、レンズの焦点距離に印刷されたドットが特定の視角にいる観測者にシリンドリカルレンズにかかる線として見え、及び非シリンドリカルレンズについてはレンズの全域が塗りつぶされているように見えることが確実となる。従って観測者は、特定の視角においては、単一のレンズ内にある2つの隣接するドットを区別することができない。
【0006】
ある場合には、レンズレットの材料厚さ及びレンズ頻度(lens frequency)(又はレンズピッチ)が、最終製品のニーズ、並びにシート材料製造プロセスの限界ゲージによって予め選択され得る。次に使用されるポリマー材料の屈折率及びアッベ数などの追加のパラメータに基づき、入射光線の焦点が実質的にシートの平坦面に合うようなレンズ曲率半径が決定される。
【0007】
最近の当該技術分野では、製造コストを削減するためより薄いレンチキュラーシートを作製すると同時に、光学効果物品の潜在的な用途を広げようとする傾向がある。しかしながら、レンチキュラーシートが薄くなると、概して焦点が合った像を生成するためにより高いレンズ頻度が必要となる。例えば、ポリエステルにより85ミクロンのゲージ厚で作製される材料であれば、センチメートル当たりレンズレット約224個のレンズ頻度が必要となる。こうした高頻度マイクロレンズアレイへの光学効果画像の印刷は特に困難であり、実現することのできる効果のタイプ並びに使用することのできるプレス及びプリプレス方法のタイプが極めて限られる。さらに、極めて高いスクリーン線数を利用しなければならないため廃材率が高くなることが多く、及び極めて正確な色の位置合わせが決定的に重要となる。こうした問題は、極めて高頻度のレンチキュラーシート材料の使用がこれまで限られたものであったことを意味している。
【0008】
上記の問題を解消しようとする試みの一つが、米国特許第6,833,960号明細書に記載されている。印刷機においてレンズが半球として硬化性樹脂を使用して基材上に形成される。この方法では、レンズを、その焦点が基材上にあるように形成することは不可能である。従ってレンズは実質的に焦点が外れ、これによりサンプリング効果がなくなる。従ってこの方法により作製されたイメージは、実質的にぼけている。
【0009】
別の方法が米国特許第6,989,931号明細書に記載され、これは、第1の角度からレンチキュラースクリーンを通して見える印刷された縞から構成された合成像を含み、レンチキュラースクリーンの後ろ側に距離を置いて配置された物体又は画像が、第2の角度で透明な縞を通して見える。一実施形態では、その焦点距離より薄いレンチキュラー材料が企図される。しかしながら、この性質の任意に焦点外とする設計は、重度のぼけ及び画像コントラストの喪失をもたらし得るため、多重的なレンチキュラー画像又は複雑なモアレ効果には好適でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、実質的なぼけ又は他の好ましくない画像アーチファクトを発生させることなくレンズアレイのゲージ厚を低減する方法が必要とされている。
【0011】
状況によっては、レンチキュラーシートを特定のゲージ厚で製造することが望ましいこともある。その場合には、使用する印刷法(又は画像要素を形成するための他の方法)の制約を考慮して画像品質を維持するため、レンズ頻度を低減し、すなわち各レンズレットの幅を増加させることが望ましいこともある。従って、実質的なぼけ又は他の好ましくない画像アーチファクトを発生させることなく、使用されるレンズ頻度を低下させることが可能なレンズアレイ及び方法を提供することが望ましい。
【0012】
本明細書に含まれている文献、動作、材料、装置、物品などの考察はいずれも、単に本発明の文脈を提供するためのものである。これらの事項のいずれか又は全てが先行技術の基盤の一部をなすこと、又はそれらが本願における各クレームの優先日より前にオーストラリアに存在したことによって本発明に係る分野で共有される一般的知識であったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は、物体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイを提供し、レンズアレイは、反対面に画像要素が配置された透明又は半透明材料の片面内又は片面上に形成された複数のレンズレットを含み、レンズアレイは、各レンズレットの頂点から物体面までの距離に対応するゲージ厚を有し、ここで各レンズレットはレンズパラメータセットを有し、ゲージ厚及び/又は少なくとも1つのレンズパラメータは、物体面における画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを各レンズレットが物体面に有するように最適化される。
【0014】
本発明の別の態様において、物体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイの製造方法を提供し、レンズアレイは複数のレンズレットを含み、レンズアレイは各レンズレットの頂点から物体面までの距離に対応するゲージ厚を有し、この方法は、
物体面の少なくとも一部における画像要素のサイズを表すスケールパラメータを決定するステップと、
各レンズレットについてスケールパラメータを使用してゲージ厚及び/又はレンズパラメータセットの少なくとも1つのパラメータを最適化するステップと、
透明又は半透明材料の片面内又は片面上に前記ゲージ厚及び前記レンズパラメータを有するレンズアレイを形成するステップであって、画像要素が透明又は半透明材料の反対面に配置されている、ステップと、
を含み、これによりレンズレットは、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを物体面に有する。
【0015】
レンズパラメータセットは、レンズ幅、屈折率、サグ高さ、曲率半径、円錐パラメータ及びアッベ数を含み得る。これらの一部又は全てを、物体面において所望の特性を有する焦点サイズが得られるように変化させることができる。
【0016】
好ましくは、各レンズレットは円錐曲線の断面を有する。レンズレットは円柱状であってもよく、又は部分球面若しくは非球面の断面を有してもよい。各レンズレットは、好ましくはレンズアレイの平面において回転対称である。一実施形態において、各レンズレットは、その長さに沿って実質的に均一な断面を有する細長いレンチキュールであってもよい。
【0017】
定義
焦点サイズH
本明細書で使用されるとき、用語の焦点サイズは、レンズを通して屈折した光線が特定の視角で物体面と交差する点の幾何学的分布の寸法、通常は有効直径又は幅を指す。焦点サイズは、理論計算、レイトレーシングシミュレーションから、又は実測から示され得る。本発明者らは、ZEMAXなどのソフトウェアを使用したレイトレーシングシミュレーションが、本発明に記載される方法により設計されたレンズの直接計測と緊密に一致することを見出している。レイトレーシングシミュレーションは、入射光線が実際には正確に平行ではないという事実を考慮するよう調整することができる。
【0018】
焦点距離f
本明細書では、焦点距離は、レンズアレイにおけるマイクロレンズを参照して使用されるとき、マイクロレンズの頂点から、平行放射がアレイのレンズ側から入射するときのパワー密度分布の最大値を特定することにより与えられる焦点の位置までの距離を意味する(T. Miyashita、「Standardization for microlenses and microlens arrays」(2007年)Japanese Journal of Applied Physics 46、5391頁を参照)。
【0019】
ゲージ厚t
ゲージ厚は、透明又は半透明材料の片側にあるレンズレットの頂点から、物体面と実質的に一致する画像要素が提供される半透明材料の反対側の表面までの距離である。
【0020】
レンズ頻度及びピッチ
レンズアレイのレンズ頻度は、レンズアレイの表面にわたる所与の距離におけるレンズレットの数である。ピッチは、あるレンズレットの頂点から隣接するレンズレットの頂点までの距離である。均一なレンズアレイにおいて、ピッチはレンズ頻度と逆相関する。
【0021】
レンズ幅W
マイクロレンズアレイにおけるレンズレットの幅は、レンズレットの一方のエッジからレンズレットの反対側のエッジまでの距離である。半球又は半円柱レンズレットを有するレンズアレイでは、幅はレンズレットの直径に等しい。
【0022】
曲率半径R
レンズレットの曲率半径は、レンズの表面上のある点から、レンズ表面に対する法線がレンズレットの頂点を通って垂直に延在する線(レンズ軸)と交差する点までの距離である。
【0023】
サグ高さs
レンズレットのサグ高さ又は表面サグsは、頂点から、軸を通って垂直に延在するレンズレットのエッジからの最も短い線と交差する軸上の点までの距離である。
【0024】
屈折率n
媒質の屈折率nは、真空中での光の速度の媒質中での光の速度に対する比である。レンズの屈折率nは、レンズ表面に達した光線が屈折する大きさを、以下のスネルの法則に従い決定する:
*Sin(α)=n*Sin(θ)
式中、αは入射光線とレンズ表面の入射点における法線との間の角度であり、θは屈折光線と入射点における法線との間の角度であり、及びnは空気の屈折率である(近似としてnは1としてもよい)。
【0025】
円錐定数P
円錐定数Pは、円錐曲線を記述する数量であり、幾何光学では、球面(P=1)、楕円面(0<P<1、又はP>1)、放物面(P=0)、及び双曲面(P<0)レンズを特定するために使用される。文献によっては文字Kを使用して円錐定数を表すものもある。Kは、K=P−1によってPと関係付けられる。
【0026】
ローブ角度
レンズのローブ角度は、レンズによって形成される視角全体である。
【0027】
アッベ数
透明又は半透明材料のアッベ数は、材料の分散(波長による屈折率の変動)の尺度である。レンズに適切なアッベ数を選択することは、色収差を最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0028】
セキュリティ書類
本明細書で使用されるとき、用語のセキュリティ書類はあらゆる種類の書類及び前払式証票及び本人確認書類を含み、そのなかには、限定はされないが、以下のものが含まれる:銀行券及び硬貨などの貨幣類、クレジットカード、小切手、旅券、身分証明書、証券及び株券、運転免許証、権利証書、航空券及び鉄道乗車券などの旅行用券類、入場証及び入場券、出生、死亡及び結婚証明書、並びに学業成績証明書。
【0029】
透明ウィンドウ及びハーフウィンドウ
本明細書で使用されるとき、用語ウィンドウは、セキュリティ書類において、印刷が施される実質的に不透明な領域と対照される透明な又は半透明の範囲を指す。ウィンドウは、光が実質的に影響を受けることなく透過することが可能であるように完全に透明であってもよく、又は光が部分的には透過可能であるが、ウィンドウ範囲を通じて物体を明瞭に見ることはできないように、部分的に透明又は半透明であってもよい。
【0030】
ウィンドウ範囲は、少なくとも1つの透明ポリマー材料層と、透明ポリマー基材の少なくとも片面に設けられた1つ又は複数の不透明化層とを有するポリマー製セキュリティ書類において、ウィンドウ範囲を形成する領域において少なくとも1つの不透明化層を除くことにより形成されてもよい。不透明化層が透明基材の両面に設けられる場合、ウィンドウ範囲において透明基材の両面にある不透明化層を除くことにより、完全に透明なウィンドウが形成され得る。
【0031】
以下「ハーフウィンドウ」と称する部分的に透明な又は半透明の範囲は、両面に不透明化層を有するポリマー製セキュリティ書類において、「ハーフウィンドウ」が完全には透明でなく、しかしハーフウィンドウを通じて物体を明瞭に見ることはできないながらいくらかの光は通過させるように、ウィンドウ範囲においてセキュリティ書類の片面にある不透明化層のみを除くことにより形成され得る。
【0032】
或いは、基材が紙又は繊維材料などの実質的に不透明な材料から形成され、透明プラスチック材料のインサートを紙若しくは繊維性基材のカットアウト又は凹部に挿入して透明ウィンドウ又は半透明ハーフウィンドウ範囲を形成することが可能である。
【0033】
不透明化層
1つ又は複数の不透明化層を透明基材に設けてセキュリティ書類の不透明度を高めてもよい。不透明化層はL<Lである(式中、Lは書類に入射する光量であり、Lは書類を透過する光量である)。不透明化層は、各種不透明化コーティングのうちの任意の1つ又は複数を含み得る。例えば、不透明化コーティングは、加熱により活性化される架橋性ポリマー材料の結合剤又は担体中に分散した二酸化チタンなどの色素を含み得る。或いは、透明プラスチック材料の基材が、紙又は他の部分的若しくは実質的に不透明な材料の不透明化層の間に挟まれてもよく、その不透明化層の上には後に表示が印刷され、又はその他の形で施され得る。
【0034】
本発明の一実施形態において、レンズアレイのゲージ厚が、画像要素のサイズ及びレンズパラメータセットに関して最適化され得る。
【0035】
別の実施形態において、レンズパラメータが、画像要素のサイズ及びゲージ厚に関して最適化され得る。
【0036】
焦点サイズが画像要素のサイズと関係付けられるようにレンズパラメータを選択することにより、画像品質を実質的に犠牲にすることなくレンズアレイの厚さ、又はレンズ頻度を低減することができる。これは、レンズレットを通って屈折し、物体面に達する光線の大部分が、なお所望の1つ又は複数の視角で画像要素が及ぶ領域と交わり、それによりサンプリング効果の維持が可能となるためである。
【0037】
レンズアレイの厚さは、それでもなお高品質の画像効果を生じるさらに薄いレンチキュラーシートを提供するように低減することができる。或いは、厚さを維持する一方、レンズレットの幅を拡げることができ、それにより各レンズレットの下により多くの印刷を含めることが可能となり、従って画像品質が改善され、及び/又はより複雑な視覚効果を作り出すことが可能となる。
【0038】
好ましくは、レンズアレイの厚さは、いずれのレンズレットの焦点距離よりも小さい。
【0039】
特に好ましい実施形態では、焦点サイズが画像要素のサイズと異なる所定の大きさは、画像要素のサイズのばらつきの推定値より小さい。ばらつきの推定値は、画像要素のサイズの標準偏差、平均絶対偏差又は四分位範囲であり得る。焦点サイズが画像要素のサイズより大きい場合、一般に、そのスポットのエッジにあるのは屈折光線のパワー密度分布の比較的小さい部分に限られるため、それによってさらにより薄いレンチキュラーシートが、実質的に所望の画像品質を維持しながら可能となる。焦点サイズのほうが僅かに小さい場合、画像効果を生み出す画像成分間の移行がより滑らかに行われ得る。
【0040】
実際には、本発明者らは、最高20%までの違いに基づく所定の大きさであれば、ほとんどの状況下において印刷される画像要素サイズの変動をなお考慮しながら高品質のイメージを生成し得ることを見出している。しかしながら、より高い精度が求められる場合、このばらつきは、印刷される画像要素の実際のサイズ分布から前述の方法のいずれかにより推定されてもよい。
【0041】
画像要素は、ドット、ライン又は他の形状の形態をとり得る。画像要素は、透明又は半透明材料の反対面上の物体面における表面に対し、レーザマーキングを含む様々な方法で設けられ得る。好ましい一実施形態において、画像要素は物体面の前記表面に印刷される。本発明の方法は、表側表面にレンズレットが形成された透明又は半透明材料の裏側表面に複数の印刷されたドットを設けるステップであって、それにより光学的可変デバイス又は物品を形成するステップを含み得る。或いは、複数の印刷されたドットを基材(例えば、繊維又はポリマー材料のもの)に設け、その基材を透明又は半透明材料の裏側表面に取り付けてもよい。
【0042】
レンズレットは、基材に設けられた透明又は半透明の放射線硬化性材料をエンボス加工することによって形成され得る。透明又は半透明の放射線硬化性材料は、エンボス後に硬化させてもよいが、しかし好ましくはエンボス加工及び硬化が実質的に同時に行われる。基材は、好ましくは透明又は半透明ポリマー材料から形成され、基材と放射線硬化性材料との合計厚さがレンズアレイのゲージ厚に対応する。特に好ましい実施形態において、基材は柔軟性のあるシート状構造であり、基材及び放射線硬化性材料は、銀行券、クレジットカードなどのセキュリティ書類の一部を形成する。基材は好ましくはレンズレットと実質的に同じ屈折率を有する。
【0043】
好ましい一実施形態において、レンズパラメータセットは各レンズレットについて同じである。
【0044】
別の好ましい実施形態において、焦点サイズは、レンズレットのローブ角度内の少なくとも2つの方向に関して平均したとき、画像要素のサイズと実質的に等しいか、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる。
【0045】
焦点サイズを平均する方向は、好ましくは軸上の方向と、ローブ角度のエッジ近傍の軸外の方向とを含む。
【0046】
別の態様において、本発明は、物体面における複数の画像要素を結像させるためのレンズアレイの設計方法を提供し、レンズアレイは複数のレンズレットを含み、且つ各レンズレットの頂点から物体面までの距離に対応するゲージ厚を有し、この方法は、
物体面における画像要素のサイズを表すスケールパラメータを推定するステップと、
各レンズレットについてレンズパラメータセットを選択するステップと、
各レンズレットについてスケールパラメータを使用してゲージ厚及び/又はレンズパラメータセットの少なくとも1つのレンズパラメータを最適化するようにレンズアレイを設計するステップであって、各レンズレットが、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズを物体面に有する、ステップと、
を含む。
【0047】
好ましくは、レンズレットを含むレンズアレイの厚さは、いずれのレンズレットの焦点距離よりも小さい。
【0048】
レンズパラメータセットは各レンズレットについて同じであってもよい。或いは、レンズアレイの1つ又は複数の範囲にあるレンズレットが、レンズアレイの他の範囲にあるレンズレットと異なるレンズパラメータを有してもよい。
【0049】
好ましくは、本方法は、物体面の少なくとも一部における画像要素のサイズを計測するステップであって、画像要素の計測されたサイズからスケールパラメータが推定されるステップをさらに含む。計測は、デンシトメータを使用して実施されてもよく、或いは画像要素のサイズを直接計測することにより実施されてもよい。好ましくは、画像要素はキャリブレーションテンプレートの一部である。特に好ましい実施形態において、画像要素は印刷されたライン又はドットである。
【0050】
印刷されたライン又はドットのサイズを計測することにより、レンズ設計を、使用される印刷機、インク及び他の材料、並びにプリプレス機器のタイプに依存し得る印刷の実際の特性に合わせて調整することが可能となる。
【0051】
スケールパラメータは、画像要素のサイズの平均値又は最大値を計算することにより推定されてもよい。或いは、ロバスト推定量、好ましくはM推定量、又は画像要素のサイズの中央値、上位四分位数若しくは四分位範囲の平均値のうちの1つを使用して推定されてもよい。
【0052】
本発明のさらなる態様において、光学的可変デバイスの製造方法が提供され、これは、
基材を提供するステップと、
基材に画像要素を設けるステップであって、前記画像要素が物体面に位置するステップと、
画像要素のサイズを表すスケールパラメータを決定するステップと、
基材上に複数のレンズレットを透明又は半透明材料で形成するステップと、
を含み、各レンズレットは、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズをレンズレットが物体面に有するように決定されたレンズパラメータセットを有する。
【0053】
好ましい一実施形態において、スケールパラメータは、画像要素のサイズを計測することにより決定される。
【0054】
好ましくは、基材は透明又は半透明シート状材料から形成され、基材の片側における第1の表面内又は表面上にレンズレットが形成され、及び基材の反対側の第2の表面に画像要素が設けられる。レンズレットは、透明又は半透明シート状材料それ自体で形成されてもよい。或いは、レンズレットは、透明、半透明又は不透明であってよい基材に設けられた透明又は半透明層において、例えば放射線硬化性透明又は半透明樹脂をエンボス加工することにより形成されてもよい。
【0055】
画像要素は、印刷又はレーザマーキングを含め、任意の好都合な方法によって形成され得る。特に好ましい方法において、画像要素は印刷されたドットである。
【0056】
本発明の別の態様において、基材と、基材内又は基材上に形成された複数のレンズレットと、基材内又は基材上において物体面に位置する複数の画像要素とを含む光学的可変デバイスが提供され、各レンズレットは、画像要素のサイズと実質的に等しい、又は画像要素のサイズと所定の大きさだけ異なる焦点サイズをレンズレットが物体面に有するように決定されたレンズパラメータセットを有する。
【0057】
好ましくは、レンズレットは、レンズレットの各々の焦点距離より小さいゲージ厚を有するレンズアレイの一部である。
【0058】
さらなる態様において、本発明は、本発明の第1の態様に係るレンズアレイを含む光学的可変デバイスを提供する。
【0059】
上記の方法により製造される光学的可変デバイスは、広範囲にわたる物品に応用され得るが、本発明は特に、セキュリティ書類の分野、より詳細には柔軟性のあるシート状基材から形成されるセキュリティ書類及び物品、例えば銀行券などに適用性を有する。光学的可変デバイスは、セキュリティ書類のウィンドウ範囲又はハーフウィンドウ範囲に形成され得る。
【0060】
ここで添付の図面を参照しながら、あくまでも非限定的な例として本発明の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】先行技術の設計のレンズアレイの断面を示す。
図2】本発明のレンズアレイの一実施形態を示す。
図3】本発明のレンズアレイの代替的実施形態を示す。
図4-6】本発明の種々の実施形態に係る3つのレンズレットの軸上及び軸外の焦点サイズを表す。
図7】2つの異なる印刷プロセスの入力及び出力ドット形状を示す。
図8】先行技術のレンズレット及び本発明の一実施形態に係るレンズレットのそれぞれのパワー密度分布を示す。
図9】本発明の一実施形態に係るレンズレットを通って屈折する入射光線を示す。
図10】レンズレットの幾何形状を表す。
図11図11(a)〜図11(d)は、レンズアレイと画像要素とを組み込む物品の概略断面図、及び物品を形成する中間ステップを示す。
図12図12(a)〜図12(c)は、改良された方法によって作製される図11(d)と同様の物品の概略断面図を示す。
図13図13(a)〜図13(d)は、レンズアレイと画像要素とを組み込む代替的な物品の概略断面図、及び物品を形成する中間ステップを示す。
図14-15】図11図13の物品を作製するためのレンズアレイ製造プロセスの2つの異なる実施形態を示すブロック図である。
図16】例示的なレンチキュラーデバイスの一組の交互配置して印刷された画像要素である。
図17】(a)軸上で、及び(b)軸外においてローブ角度のエッジ又はその近傍の角度で見たときの、図16のデバイスの画像要素の幅に沿った点の(シミュレーションによる)相対照度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
初めに図1を参照すると、ゲージ厚tを有する先行技術の設計のレンズアレイ20が示され、ここでは幅Wと実質的に球状の外形とを有するレンズレット22が、入射光線28a及び28bをそれぞれ黒色のドット26a及び白色のドット26bに集光させる。ドットは下側表面24に印刷されている。厚さtは実質的にレンズレットの焦点距離と等しく、そのため焦点サイズ30は最小である。
【0063】
先行技術のレンズレットの焦点サイズ30は、下側表面24の印刷の解像度より小さい。例えば、従来のレンチキュラーオフセットリソグラフィ方法は、約25ミクロンの平均網点サイズを印刷する。幅254ミクロンの適切に設計されたレンチキュラーレンズは、光を軸上で約5ミクロンの焦点サイズにコリメートし、このサイズは印刷されたドット26a、26bのサイズより大幅に小さい。
【0064】
ここで図2を参照すると、本発明の好ましい一実施形態に係るレンズアレイ120が示される。入射光線128a、128bは、それぞれドット26a、26bに向かって屈折する。レンズアレイ120は、tより小さい厚さt’を有し、レンズレット122は幅Wを有する。レンズレット122は、焦点サイズ130a、130bがドット26a、26bと実質的に等しい延在範囲となるように設計される。本発明らは、焦点サイズが印刷された網点の平均幅を20%より大きく超えない限り、画像品質が損なわれないことを見出している。本発明らはまた、単に任意の焦点合わせを行わない設計を作り出すだけでは画像品質が著しく低下し、結果として不快なほどぼけた像となることも見出している。焦点サイズはまた、平均幅より僅かに小さい、好ましくは20%以下だけ小さいものであってもよい。
【0065】
図3は、代替的なレンズアレイ設計を表し、ここでレンズアレイ220は先行技術のレンズアレイ20と同じ厚さtであるが、レンズレット222の幅Wが大きくなっている。同時に、入射光線228a、228bが屈折して物体面224に到達し、焦点サイズ230a、230bがここでもドット26a、26bと実質的に等しい延在範囲となってドット26a、26bと交差するように、他のレンズパラメータが変えられている。例えば、図3に示されるとおり、レンズ曲率半径をより大きくしてもよく、最適な画像品質を実現するため、おそらくは同時に屈折率、円錐パラメータ又はアッベ数などの他のレンズパラメータも変更される。
【0066】
図4は、本発明の一実施形態により設計された広角レンズレット105のレイトレースの断面側面図を示す。表面101で屈折した光線102は物体面104に到達し、焦点サイズ103A、103Bをもたらす。この実施形態において、軸上点103A及び軸外点103Bの焦点サイズはレンズレットの全視角にわたり等しくかかっており、この角度はまた、ローブ角度としても知られる。
【0067】
図5は、代替的な広角レンズレット101のレイトレースの断面側面図を示し、ここではローブ角度にわたって焦点幅が印刷された網点109Aの平均幅と実質的に等しい。図6にはさらなる広角レンズレットのレイトレースの断面側面図が示され、ここでは印刷された網点109Aがさらにより大きく、材料厚さのさらなる低減、又はより粗いレンズ頻度、又はその双方が可能となる。
【0068】
図7において、ドットの最上行110は、印刷版に出力される印刷キャリブレーションフォーム上の既知の幅109Bのデジタル画素を表す。行111は、印刷行110の印刷結果を示し、ここで顕著なドットゲインにより平均ドット幅109Cがもたらされる。行112は、別の印刷方法を使用した印刷行110の印刷結果を示し、ここでドットゲインは行111よりさらに大きく、平均ドット幅109Dがもたらされる。この例示では、行111の印刷ドットに適用されるレンズ設計は行112の印刷ドットに対するものとは異なってもよく、ここで行111についての最適化されたレンズ設計は図5に類似し得るとともに、行112の最適化されたレンズ設計は図6により一層類似し得る。
【0069】
ここで図8を参照すると、本発明の一実施形態に係るレンズレットによって結像される印刷網点109Cの投影図が示される。図8(a)は、物体面がアレイの焦点面252に位置してスポット256を生成した場合(図9)に生じ得るパワー密度分布255の等高線250を示す。代わりに、物体面262におけるスポット266はドット109Cより大きく、しかしサンプリング効果を維持するよう入射放射線の大部分がなおドット109Cに達しているようなパワー密度分布260、265を有する。
【0070】
紙又はプラスチックなどの合成材料に連続階調画像を印刷するためには、それをハーフトーン画像に変換する必要がある。これを行うための数多くの方法が当該技術分野において公知である。かかる方法は、様々なサイズの2値ドットを使用する、いわゆる振幅変調(AM)法によるか、又は同じサイズのドットを様々な頻度で使用する、いわゆる周波数変調(FM)法によって連続階調を表す。ハイブリッドと呼ばれる2つの方法の様々な組み合わせもまた用いられる。本方法については、これらの方法のいずれが用いられてもよい。しかしながら、限定はされないが、ディザリング、誤差拡散法、又はランダム若しくは確率的スクリーニングを含め、その形態が多様なFM法は、ドットが概して一定のサイズのまま保たれるため好ましい方法である。
【0071】
印刷された網点の特徴の計測は、様々な公知の方法を用いて達成することができる。例えば、平均ドットサイズは、所与のサイズの、且つ様々な密度を有するドットのスワッチからなるプレスキャリブレーションテンプレートを印刷することにより決定することができ、ここで各スワッチは典型的には1%〜99%の密度値を表す。続いてテンプレートはフィルム又は版に像を形成し、光学効果基材の平滑面に印刷される。次に印刷結果がデンシトメータ又は同様のツールを用いて走査され、印刷されたドットサイズが決定される。
【0072】
或いは、平均ドットサイズは、例えば計測値の増分を表示するレチクルを備えた顕微鏡を用いて、直接計測することもできる。直接的な方法では、各階調値範囲においてドットのサンプルが計測され、記録され、それらのサイズが平均され得る。
【0073】
本発明者らは、約20%の階調値におけるドットの計測が最良の結果をもたらすことを見出している。
【0074】
ある場合には、様々な印刷条件などに起因して上記の計測値を得ることが可能でない、又は実行できないこともある。その場合、それまでの経験値又はその他から平均予想ドットサイズを推定することができる。
【0075】
図10を参照すると、ここでレンズレットの設計を本発明での使用に最適化する一つの方法が説明される。この非限定的な例の目的上、レンズレット300は回転対称の非球面レンズとする。この方法は、幾何光学を用いた比較的単純な理論計算に頼るもので、レンズの周縁部のエッジ効果は無視する。当業者は、より高度な物理モデルの使用、レイトレーシングシミュレーションなどを含め、他の多くの方法が可能であることを理解するであろう。
【0076】
図10(a)では、全幅H及び半幅hの印刷されたドット305の形態の画像要素が、(x,y)座標系の原点(レンズ300の頂点310に対応する)から未知の距離t(ゲージ厚)にある物体面に位置する。レンズ300はサグ高さs及び半幅w、並びに屈折率n(この図には図示せず)を有する。最適なレンズ設計は、x軸と平行に入射する入射光線320がレンズ300のエッジ315に到達し、角度βで屈折してドット305の上端と交わることをもたらし得る。従って、レンズパラメータと、ドット305のサイズを表すスケールパラメータである半幅hとに関するtの式を求めようとするものである。
【0077】
レンズプロファイル関数y(x)の式は、以下により与えられる
P*x−2*R*x+y(x)=0
式中、Rはレンズのエッジ305におけるレンズ径であり、及びPは円錐定数であって1−eに等しく、式中eは偏心率である。原理上は、より大きい指数のxを含むより一般的なレンズプロファイル関数y(x)が選択され得る。しかしながら、概してレンズ設計の目的上、上記のとおりの二次形式のy(x)を使用するほうがより好都合である。
【0078】
エッジ305(x=s、y=w)におけるレンズの表面に対する法線330は、以下の傾きを有する
【数1】
式中、y’(x)はy(x)の一次導関数である。この傾きはTan(α)に等しく(式中、αは入射光線320と法線330との間の角度である)、従って
Tan(α)=m(x)
より、
【数2】
となる。
【0079】
スネルの法則により
*Sin(α)=n*Sin(θ)
式中、θは屈折光線320’と法線330との間の角度であり、nは空気の屈折率である(以下では近似として1とする)。ゆえに
【数3】
【0080】
(s,w)と(t,h)とを結ぶ線の傾きAは、
A=−Tan(β)
であり、β=α−θを代入すると
【数4】
【0081】
tを以下のように記述できることは比較的簡単に示される
【数5】
ここでAは上記の式(1)のとおりであり、及び
【数6】
である。
【0082】
厚さtは、レンズパラメータR、n、P、w及びsの1つ又は複数に関して、通常の方法で、すなわちこれらのパラメータの1つ又は複数に関する式(2)の偏導関数を求め、その偏導関数をゼロとおくことにより最適化することができる。得られる連立方程式を解析的又は数値的に解くと、最適なレンズ厚さを与えるレンズパラメータセットを求めることができる。
【0083】
最適化は制約付き最適化であってもよい。例えば、tの範囲に関して実際的な製造上の制限があり得るため、従ってtをその値の範囲に制限することが望ましいことがある。制約付き最適化法は当該技術分野において公知である。
【0084】
上記の式は、x軸に平行な入射光線について導いた。この導出は軸外光線340、350及び軸外ドットに一般化することができ(図10(b))、それにより以下が得られる。
【数7】
式中、Dは軸外ドットサイズであり、Mはレンズレットの一方のエッジ345における屈折光線340’の傾きであり、及びmはレンズレットの反対側のエッジ355における屈折光線350’の傾きであり、前述と同様にtは求めるゲージ厚であり、sはサグ高さであり、及びwはレンズの半幅である。
【0085】
入射光線の偏差角δがゼロの場合、M=−m=Aであり、式は以下のように簡略化される
D=2M*(t−s)+2w
この場合、Dは全ドットサイズ2hに等しくなり、
【数8】
先に導かれた軸上光線についての式と一致する。
【0086】
上記に代えて、レンズ半幅wをR、n、P及びsの一部又は全ての関数として最適化することが可能であり、このときtは一定のままとされ得る。これは、式(2)をwに関して以下のように書き直すことによって行われ得る:
w=h−A*(t−s)
tを一定とする場合、制約付き最適化を実施することにより最適レンズ半幅wを求めることができる。
【0087】
さらなる代替例として、他のレンズパラメータR、n、P又はsが上記と同様の方法で最適化されてもよい。
【0088】
上記のモデルは色収差の処理を明確に含むものではない。当業者は、レンズの円錐定数P及び/又はアッベ数を選択することにより色収差を最小限に抑え得ることを理解するであろう。
【0089】
図11(d)には、透明又は半透明材料の基材410であって、基材410の片側の表側表面411上に形成されたレンズアレイ420と、基材410の反対側の裏側表面412上に形成された画像要素426a、426bとを有する基材410から形成される物品400が示される。物品400の好ましい製造方法では、初めに画像要素426a、426bが前記反対側にある基材410の裏側表面412に設けられる(図11(a))。画像要素426a、426bは、好ましくは前記裏側表面412上に印刷することによって設けられるが、レーザマーキングを含む他の方法によって前記裏側表面内又は表面上に形成されてもよい。
【0090】
図11(b)は、透明又は半透明基材401の表側表面411に設けられた透明又は半透明のエンボス加工可能な層415を示す。好ましくはエンボス加工可能な層は放射線硬化性の液体、樹脂又はインクであり、これは印刷プロセスによって設けられ得る。次に層415がエンボスシム416によりエンボス加工され(図11(c))、基材410の裏側表面412上の画像要素426a、426bと位置を合わせて層415にレンズアレイ420の複数のレンズレット422が形成される。エンボス加工された層415は、エンボス加工の最中に同時に、又はその後で、放射線、例えば紫外線、X線、電子ビーム又は熱(赤外線)によって硬化され、それによりレンズアレイ420におけるレンズレット422のエンボス加工された構造が固定化され得る。
【0091】
図12を参照すると、透明又は半透明材料の基材510であって、基材の表側表面511に設けられたエンボス加工可能な層515に形成されたレンズアレイ520と、基材の裏側表面512内又はその上に形成された画像要素526a、526bとを有する基材510から形成される点で図11(d)の物品と同様の物品500を作製するための代替的方法が示される。
【0092】
図12に示される方法では、エンボス加工可能な層515は、初めに基材510の片側の表側表面511に設けられ(図12(a))、次にエンボスシム516によってエンボス加工され(図12(b))、その後画像要素526a、526bが基材510の反対側の裏側表面512に設けられる。ここでも、エンボス加工可能な層515は、好ましくは印刷プロセスにより設けられる放射線硬化性の液体、樹脂又はインクから形成されてもよく、及び好ましくは、エンボス加工の最中に実質的に同時に、又はその後、放射線によって硬化される。画像要素526a、526bは基材510の裏側表面512上に印刷又はレーザマーキングによって形成され、最終的な図12(c)の物品500が形成される。
【0093】
図11(d)及び図12(c)の得られた物品400、500において、レンズアレイ420、520がゲージ厚t=p+qを有する(式中、pは透明又は半透明基材410、510の厚さであり、及びqは、基材410、510の表側表面411、511からエンボス加工後の各レンズレットの頂点422、522まで計測した透明又は半透明層415、515の厚さである)ことは理解されるであろう。
【0094】
多くの場合、基材410及び層415の厚さp及びqは予め決められた厚さであり、平均ドットサイズH=2hは印刷方法又は画像要素を形成するために使用される他のプロセスによって決定され、1つ又は複数のレンズパラメータ、例えば、レンズ幅W=2w、曲率半径R、サグs、屈折率n又は円錐定数Pは、後述する図14のプロセスに従いレンズアレイ420、520を形成するためのエンボスシムを作り出すようにt(=p+q)に関して最適化され得る。
【0095】
図13(a)〜図13(d)を参照すると、基材610の片側の表側表面611上に画像要素626a、626bを覆って設けられる透明又は半透明層615に形成されたレンズアレイ620を有する物品600の作製方法が示される。図13の基材610は、レンズアレイ620及び画像要素626a、626bが基材610の同じ側に形成されるため、透明であっても、半透明であっても、又は不透明であってもよい。図13に示される方法では、初めに画像要素626a、626bが、好ましくは印刷によって基材上の表側表面611に設けられ(図13(a))、その後、透明又は半透明層615が設けられ(図13(b))、エンボスシム616によってエンボス加工される。ここでもまた、エンボス加工可能な層615は、好ましくは印刷プロセスによって設けられる放射線硬化性の液体、樹脂又はインクから形成されてもよく、同時に、又は後に放射線によって硬化され、それによりレンズアレイ620のレンズレット622のレンズ構造が固定化される。
【0096】
図13(d)の得られた物品600は、透明又は半透明層615の厚さq(画像要素626a、626bの厚さを考慮している)と実質的に等しいレンズアレイ620のゲージ厚tに対して基材610の厚さpが何ら影響を有しない点で、図11(d)及び図12(c)の物品と異なる。物品600のレンズアレイ620のゲージ厚tは図11(a)及び図12(a)の物品400、500のレンズアレイ420、520のゲージ厚tより小さい可能性が高いため、エンボスシム616の形状の適切な変化量だけレンズ幅W、若しくは曲率半径Rを低減するか、又はレンズアレイ620のレンズレット622の他のパラメータを調整することにより、本発明の方法を用いてゲージ厚の低減を補償し得る。
【0097】
ここで図14を参照すると、本発明の特定の実施形態で使用されるエンボスシムについてのプロセスのフローチャートが示される。初めに、キャリブレーションテンプレートが印刷され(ステップ700)、上記に記載したとおりドットサイズが計測される(ステップ710)。次に初期レンズパラメータセットが選択され(ステップ720)、多変量最適化プロセスにおいてパラメータが変更される(ステップ730、740)。解が求まると、製造プロセスに使用されるエンボスシムを作成することができる(ステップ750)。
【0098】
図15(a)及び図15(b)には、光学効果物品を形成するための2つの代替的方法のフローチャートが示される。いずれの場合にも、基材が提供される(ステップ800)。図15(a)に示される方法は、図11及び図13の物品400及び600の形成に好適である。図15(a)の実施形態では、2つ以上の交互配置される画像が、好ましくは印刷によって基材の表側又は裏側表面に設けられる(ステップ810)。次に放射線硬化性インクが、例えば印刷プロセスによって基材の表側表面に設けられてもよく(ステップ820)、次にインクが、図14のステップ750から得られたエンボスシムによってエンボス加工される。次にインクを硬化させることにより、エンボス加工された表面に光学効果物品のレンズレットが形成される。硬化ステップは、エンボス加工ステップと実質的に同時に行われてもよい(ステップ830)。代わりに図15(b)では、初めに基材の片面に放射線硬化性インクが設けられる(ステップ840)。次に図14のステップ750から得られたエンボスシムによってインクがエンボス加工され、それを硬化させることによりレンズレットが形成される(ステップ850)。次にレンズレットと反対側の基材面に、レンズレットと位置を合わせて画像要素が設けられ、それにより光学効果物品が形成される。
【実施例】
【0099】
図16を参照すると、好適なレンズアレイと組み合わせたときに2画像による「パラパラ画像」効果を作り出すために使用される印刷された交互配置画像900の例が示される。示される例では、画像要素は、縞901の形態の黒色の画像要素が縞902の形態の白色の画像要素と交互に配置されたものである。この場合、黒色の縞は、透明な層又は白色インクの層上に印刷された黒色インクから形成され、従って白色の縞は、インクがない透明な範囲によって形成されるか、又は黒色のインクが付着していない白色のインクから形成される。レンチキュール930を有するレンチキュラーレンズアレイを通して見ると、レンチキュラーアレイと画像要素901、902との組み合わせを有するデバイスにより、デバイスが縞の方向と平行な軸を中心として観察者に対して傾けられるに従い、図16の左上に示される像910から、黒色の範囲と白色の範囲とが反転した像920への切り換えがもたらされる。
【0100】
黒色の縞及び白色の縞901、902は、グラビア印刷によって基材に設けた。顕微鏡のレチクルを使用して計測すると、黒色の縞は32ミクロンの平均幅を有し、一方、白色の縞は31.5ミクロンの平均幅を有することが分かった。黒色の縞についての平均値32ミクロンを、画像要素のサイズを表すスケールパラメータとして選んだ。レンチキュール930の幅W(印刷された画像要素901、902上に輪郭が重ねて示される)は63.5ミクロンで固定し、ゲージ厚tは式(2)を使用して最適化した。これにより、10ミクロンのサグ高さs及び55.4ミクロンの曲率半径Rにおいて90ミクロンの最適なゲージ厚tが得られ、画像要素がレンチキュールの公称焦点距離に位置した場合の約162ミクロンのゲージ厚とは対照的であった。
【0101】
上記の設計を有するレンチキュールの焦点サイズが、所望のパラパラ画像効果をもたらすのに十分に画像要素サイズに近いことを確認するため、Zemax Development Corporationにより製造され、且つ商標ZEMAXとして販売されている光学系設計ソフトウェアにおけるレイトレーシングシミュレーションに上記のパラメータを入力した。図17(a)及び図17(b)に示される相対照度プロットを焦点サイズの決定に使用することができ、焦点サイズは、相対照度がゼロまで低下するそれぞれ一対の点(960a、960b)及び点(961a、961b)の間の距離である。軸上の焦点スポットサイズ951は約30ミクロンであり、一方、ローブ角度のエッジにおける軸外の焦点スポットサイズ952は約23ミクロンであることが見て分かる。従って軸上に見える「平均」画像要素は、焦点スポットサイズの6%〜7%の範囲内であり得る。
【0102】
本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、上記に記載される本発明の実施形態に様々な変更を加え得ることは理解されるであろう。例えば、レンズアレイのレンズレット構造は、基材に設けられた透明又は半透明のエンボス加工可能な層ではなく、透明又は半透明基材の表面に直接エンボス加工され得る可能性がある。また、画像要素の形成には印刷が好ましい方法ではあるが、画像要素はレーザマーキングにより形成されてもよい。その場合、レーザは、レーザ光源から透明又は半透明基材又は層を通じて基材又は層の片面に送り込まれることで、基材又は層の反対側にあるレーザ感応性表面がマーキングされ、それによりレンズアレイが形成された後に画像要素を形成することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8(a)】
図8(b)】
図9
図10a
図10b
図11(a)】
図11(b)】
図11(c)】
図11(d)】
図12(a)】
図12(b)】
図12(c)】
図13(a)】
図13(b)】
図13(c)】
図13(d)】
図14
図15
図16
図17(a)】
図17(b)】