特許第6110112号(P6110112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6110112
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20170327BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H03H9/19 F
   H03H9/19 C
   H03H9/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-253341(P2012-253341)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-103505(P2014-103505A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有路 巧
(72)【発明者】
【氏名】中武 裕允
(72)【発明者】
【氏名】高橋 岳寛
【審査官】 河合 弘明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−132187(JP,A)
【文献】 特開平09−102727(JP,A)
【文献】 特開2008−167166(JP,A)
【文献】 特開2006−101244(JP,A)
【文献】 特開2011−250390(JP,A)
【文献】 特開2012−205160(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0260585(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0316392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/007−3/06
H03H 9/00−9/135
H03H 9/15−9/24
H03H 9/30−9/40
H03H 9/46−9/62
H03H 9/66
H03H 9/70
H03H 9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動部を囲んだ枠部を有し、前記振動部に設けられた励振電極と電気的に接続された引出電極を前記枠部の表面に備える圧電振動片と、
前記圧電振動片の表面に前記枠部の領域で接合材を介して接合されるリッド部と、
前記圧電振動片の裏面に前記枠部の領域で接合材を介して接合され、前記引出電極と電気的に接続される外部電極を備えるベース部と、を備え、
前記引出電極を前記外部電極に接続するために、前記引出電極の前記枠部に設けた部分の一部が、前記接合材から外部に露出している構造の圧電デバイスにおいて、
前記励振電極及び前記引出電極は、不動態を形成可能な金属で形成された下地膜と、前記下地膜上にこの順に積層された第1金属膜及び第2金属膜とを有し、
前記下地膜はクロム膜でありその膜厚が1.0nm〜8.0nmに設定され、
前記第1金属膜はNiW膜又はNi膜である圧電デバイス。
【請求項2】
前記下地膜は、その膜厚が3.0nm〜7.5nmに設定される請求項1記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記励振電極及び前記引出電極は、前記下地膜、前記第1金属膜、前記第2金属膜の順で積層され、
前記第1金属膜は、前記下地膜の金属原子が前記第2金属膜へ拡散するのを抑制するバリア膜であり、その膜厚が0.5nm〜12.5nmに設定される請求項1または請求項2記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記第1金属膜は、その膜厚が2.5nm〜10.0nmに設定される請求項3記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記引出電極は、前記枠部の外周縁から離間して形成される請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスとしては、水晶振動片などの圧電振動片の表面(一方の主面)に接合材を介してリッド部が接合されるとともに、裏面(他方の主面)に同じく接合材を介してベース部が接合されたタイプが知られている。このタイプで用いられる圧電振動片は、所定の振動数で振動する振動部と、振動部を囲むように形成される枠部と、振動部及び枠部を連結する連結部と、を有している。また、圧電振動片の振動部の表面及び裏面にはそれぞれ励振電極が形成され、各励振電極から枠部までそれぞれ引出電極が形成されるとともに、この引出電極がベース部の外部電極に電気的に接続されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、励振電極から枠部に引き出された引出電極を備える圧電振動片をリッド部及びベース部で挟んだ圧電デバイスが開示されている。そして、この圧電振動片に備える引出電極は、枠部の最外周まで形成されており、圧電振動片にリッド部やベース部を接合した状態(すなわち圧電デバイスとして完成した状態)であっても引出電極の側面が外部に露出した状態となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−200118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される圧電デバイスは、引出電極の側面が外部に露出しているため、外気に晒された状態となっており、引出電極に用いた金属が大気中の水分によって腐食(溶解)する場合がある。この腐食に起因して、圧電振動片に対するリッド部やベース部の接合強度が低下し、リッド部やベース部が圧電振動片から剥離する等、圧電デバイスの破損を招くおそれがある。また、一般に圧電デバイスの内部空間(振動部を保持している空間)内は真空等の所定雰囲気で形成されているが、腐食した引出電極を介して外気が内部空間に入り込み、振動数の変動や励振電極の破損等を引き起こすといった、圧電デバイスの信頼性の低下に繋がるおそれがある。
【0006】
また、特許文献1のように、圧電振動片をリッド部及びベース部で挟むタイプの圧電デバイスでは、振動部の励振電極と枠部の引出電極とがほぼ同時に形成される。従って、引出電極の腐食等を防止するため、これら電極を複数の金属膜による積層構造とすることも考えられる。しかしながら、用いる金属によっては振動部の振動特性への影響や、抵抗値(CI値)の上昇を招くおそれがあるため、複数の金属による適切な積層構造を見つけ出すことが要請されている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明では、引出電極の腐食等を防いで破損防止や動作信頼性を確保するとともに、振動特性への影響や抵抗値の上昇を抑制することが可能な圧電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、振動部を囲んだ枠部を有し、振動部に設けられた励振電極と電気的に接続された引出電極を枠部に備える圧電振動片と、圧電振動片の表面に接合材を介して接合されるリッド部と、圧電振動片の裏面に接合材を介して接合され、引出電極と電気的に接続される外部電極を備えるベース部と、を備える圧電デバイスにおいて、励振電極及び引出電極は、不動態を形成可能な金属で形成された下地膜と、下地膜に積層された第1金属膜及び第2金属膜とを有し、下地膜は、その膜厚が1.0nm〜8.0nmに設定される。
【0009】
また、下地膜は、その膜厚が3.0nm〜7.5nmに設定されてもよい。また、励振電極及び前記引出電極は、下地膜、第1金属膜、第2金属膜の順で積層され、第1金属膜は、下地膜の金属原子が第2金属膜へ拡散するのを抑制するバリア膜であり、その膜厚が0.5nm〜12.5nmに設定されてもよい。また、第1金属膜は、その膜厚が2.5nm〜10.0nmに設定されてもよい。また、引出電極は、前記枠部の外周縁から離間して形成されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下地膜の金属によって引出電極の外周縁部分に不動態の被膜が形成されるため、大気中の水分から保護されることにより引出電極の腐食等が抑制され、圧電デバイスの破損を防止することにより動作信頼性を確保できる。さらに、下地膜や第1金属膜の膜厚を規定することにより、振動部の振動特性への影響や励振電極等の抵抗値の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る圧電デバイスの分解斜視図である。
図2図1のA−A線に沿った断面図である。
図3図2の領域Bを拡大した断面図である。
図4】評価用試料の平面図である。
図5】熱処理前の抵抗値の測定結果をグラフに示した図である。
図6】熱処理後の抵抗値の測定結果をグラフに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。また、図面においてハッチングを施した部分は導電性の金属膜及び接合材を表している。
【0013】
(圧電デバイス100の構成)
本実施形態に係る圧電デバイス100について説明する。
図1及び図2に示すように、圧電デバイス100は、リッド部110と、圧電振動片130と、ベース部120とにより構成されている。なお、以下の説明では、圧電振動片130の軸方向を基準とし、圧電デバイス100の長辺方向をX軸方向、圧電デバイス100の高さ方向をY軸方向、X、Y軸方向に垂直な方向、すなわち圧電デバイス100の短辺方向をZ軸方向として説明する。
【0014】
リッド部110、ベース部120、及び圧電振動片130は、例えばATカットの水晶材が用いられている。ATカットは、水晶振動子等の圧電デバイスが常温付近で使用されるにあたって良好な周波数特性が得られる等の利点があり、人工水晶の3つの結晶軸である電気軸、機械軸及び光学軸のうち、光学軸に対して結晶軸周りに35°15′だけ傾いた角度で切り出す加工手法である。
【0015】
リッド部110は、図1及び図2に示すように、矩形の板状に形成されており、裏面(−Y側の面)に形成された凹部111と、凹部111を囲む接合面112とを有している。接合面112は、後述する圧電振動片130の枠部132の表面132aと対向する。リッド部110は、図2に示すように、接合面112と枠部132の表面132aとの間に配置された接合材141により、圧電振動片130の表面(+Y側の面)に接合されている。
【0016】
ベース部120は、図1及び図2に示すように、矩形の板状に形成されており、表面(+Y側の面)に形成された凹部121と、凹部121を囲む接合面122とを有している。接合面122は、後述する圧電振動片130の枠部132の裏面132bと対向する。ベース部120は、図2に示すように、接合面122と枠部132の裏面132bとの間に配置された接合材142により、圧電振動片130の裏面(−Y側の面)に接合されている。
【0017】
さらに、ベース部120の4つの角部のうち、対角となる2つの角部(+X側かつ+Z側の角部、及び−X側かつ−Z側の角部)には、キャスタレーション(切り欠き部)123が形成されている。また、ベース部120の裏面(−Y側の面)には、一対の実装端子としての外部電極124がそれぞれ設けられている。キャスタレーション123の表面にはキャスタレーション電極125が形成され、さらに、ベース部120の表面であってキャスタレーション123を囲む領域には接続電極126が形成されている。この接続電極126と外部電極124とは、キャスタレーション電極125を介して電気的に接続されている。
【0018】
外部電極124、キャスタレーション電極125、及び接続電極126は導電性の金属膜により形成されている。導電性の金属膜は、例えば、クロム(Cr)の層、ニッケルタングステン(Ni−W)の層、金(Au)の層の順で積層された3層構造を有している。この場合、クロムの層は、ベース部120に用いられる水晶材との密着性に優れているとともに、成膜後にニッケルタングステンの層に拡散してその露出面で不動態の膜(酸化被膜)を形成し、金属膜の耐腐食性を向上させるために用いられる。ニッケルタングステンの層は、クロム原子が金の層に拡散するのを抑制するために用いられる。金の層は、金属膜の導電性及び安定性を向上させるために用いられる。
【0019】
また、導電性の金属膜としては、ニッケルタングステンの層、金の層の順で成膜された2層の構成であってもよい。また、金属膜を3層構造とする場合、クロムに代えて、例えばアルミニウム(Al)やチタン(Ti)、またはそれらの合金などを用いてもよい。また、ニッケルタングステンに代えて、例えば、ニッケル(Ni)やタングステン(W)などを用いてもよい。また、金に代えて、例えば、銀(Ag)などを用いてもよい。
【0020】
外部電極124、キャスタレーション電極125、及び接続電極126は、例えばメタルマスク等を用いたスパッタリングにより成膜されることで一体として形成されている。ただし、外部電極124、キャスタレーション電極125、及び接続電極126はそれぞれ別々に形成されてもよい。例えば、ベース部120の裏面に予め外部電極124が形成され、その後に、この外部電極124と接続するように、キャスタレーション電極125及び接続電極126が設けられてもよい。なお、金属膜は、スパッタリングにより成膜されることに代えて真空蒸着を用いてもよい。
【0021】
なお、ベース部120に形成された接続電極126は、後述する圧電振動片130の引出電極137b、138と接続され、この引出電極137b、138と外部電極124とを、接続電極126及びキャスタレーション電極125を介して電気的に接続している。ただし、このような接続電極126を用いた接続形態に限定されるものではない。例えば、ベース部120を圧電振動片130に接合した後、外部電極124の形成とともに、この外部電極124からキャスタレーション123を介して引出電極137b、138まで延びる金属膜を用いた接続形態でもよい。
【0022】
圧電振動片130は、所定の振動数で振動する振動部131と、振動部131を囲んだ枠部132と、振動部131と枠部132とを連結する連結部133とを有し、振動部131と枠部132との間にはY軸方向に貫通する貫通穴134が形成されている。振動部131及び連結部133は、Y軸方向の厚さが枠部132と比べて薄く形成されている。また、圧電振動片130は、全体として、X軸方向に長辺、Z軸方向に短辺を有する矩形状に形成されている。
【0023】
圧電振動片130の振動部の表面(+Y側の面)131a及び裏面(−Y側の面)131bには、それぞれ励振電極135、136が形成されている。そして、圧電振動片130の枠部132の表面(+Y側の面)132a及び裏面(−Y側の面)132bには、それぞれ励振電極135、136と電気的に接続する引出電極137、138が形成されている。引出電極137は、図1に示すように、励振電極135から連結部133の表面(+Y側の面)133aを通って枠部132の表面132aまで−X軸方向に引き出され、次に、この表面132aを+Z軸方向に延びた後に折り曲げられて+X軸方向に引き出され、表面132aの+X側かつ+Z側の領域まで形成された引出電極137aを有している。さらに、引出電極137は、引出電極137aから、枠部132の内側の面に形成された引出電極137cを介して、枠部132の裏面132bに形成された矩形の引出電極137bを有している。なお、この引出電極137は、枠部132の外周縁から離間して形成されている。
【0024】
また、引出電極138は、図1に示すように、励振電極136から連結部の裏面(−Y側の面)133bを通って枠部132の裏面132bまで−X軸方向に引き出され、次に、この裏面132bを−Z軸方向に引き出され、裏面132bの−X側かつ−Z側の領域まで引き出される。なお、この引出電極138は、引出電極137と同様に、枠部132の外周縁から離間して形成されている。
【0025】
なお、図2に示すように、引出電極137aは、リッド部110を圧電振動片130に接合した際、接合材141によって覆われており、外部に露出しない。また、引出電極138は、ベース部120を圧電振動片130に接合した際、接続電極126と接続する部分を除いて接合材142によって覆われている。
【0026】
圧電振動片130に形成される励振電極135、136及び引出電極137、138は、導電性の金属膜により形成されている。なお、励振電極135及び引出電極137と、励振電極136及び引出電極138は、それぞれ一体の金属膜として形成されている。図3に示すように、この金属膜は、圧電振動片130である水晶材の表面に形成される下地膜201と、この下地膜201に積層される第1金属膜202と、この第1金属膜202に積層される第2金属膜203とを有する3層構造となっている。励振電極135、136及び引出電極137、138は、同一の膜構成により形成されている。
【0027】
下地膜201は、不動態を形成可能な金属材料が用いられ、圧電振動片130を構成する水晶片に対する密着性を向上させるものとして用いられる。不動態を形成可能な金属材料としては、クロム(Cr)が用いられる。また、クロム(Cr)の代わりに、例えばアルミニウム(Al)やチタン(Ti)、またはそれらの合金などを用いることもできる。下地膜201に含まれる金属(例えばクロム原子)が第1金属膜202に拡散してその露出面で不動態の膜(酸化被膜)を形成し、第1金属膜202の耐腐食性を向上させることができる。
【0028】
第1金属膜202は、下地膜201に含まれる金属原子が第2金属膜203へ拡散するのを抑制する、いわゆるバリア膜として機能する。第1金属膜202を構成する金属材料としては、ニッケルタングステン(Ni−W)が用いられる。また、ニッケルタングステン(Ni−W)の代わりに、例えば、ニッケル(Ni)やタングステン(W)などを用いることもできる。
【0029】
第2金属膜203は、励振電極135、136や引出電極137、138の導電性を確保しつつ、電極を保護する役割を有する。第2金属膜203を構成する金属材料としては、金(Au)が用いられる。また、金(Au)の代わりに、例えば、銀(Ag)などを用いることもできる。これら下地膜201、第1金属膜202、及び第2金属膜203は、例えばメタルマスクや、フォトリソグラフィ法によるレジストのマスクを用いてスパッタリングにより成膜される。なお、スパッタリングによる成膜に代えて真空蒸着が用いられてもよい。
【0030】
下地膜201、第1金属膜202、及び第2金属膜203は、図3に示すように、それぞれ膜厚H1、H2、H3に設定されている。これら膜厚H1、H2、H3は、励振電極135、136及び引出電極137、138で同一に設定されているが、これに限定されず、部分的に異なるようにしてもよい。例えば、励振電極135、136では下地膜201の膜厚H1を薄くするとともに、引出電極137、138では下地膜201の膜厚H1を厚くしてもよい。なお、各膜厚H1、H2、H3は、励振電極135、136及び引出電極137a、137b、138においてはY軸方向の長さであり、引出電極137cにおいてはX軸方向及びZ軸方向の長さである。
【0031】
下地膜201の膜厚H1は、1.0nm〜8.0nmに設定される。膜厚H1が1.0nmに満たない場合は、下地膜201として均一かつ安定した膜を形成することが難しく、水晶材との密着性を維持できない可能性がある。さらに、下地膜201を構成する金属(例えばクロム)の絶対的な量が不足するため、下地膜201から第1金属膜202に拡散する金属原子(例えばクロム原子)の量が少なくなり、第1金属膜202の露出面で形成される不動態の膜(酸化膜)も十分に形成されない可能性がある。従って、第1金属膜202の耐腐食性が確保されず(すなわち浸食強度が低く)、金属膜(特に引出電極137bや引出電極138)の耐久性が損なわれ、圧電デバイス100の信頼性が低下する結果となる。また、下地膜201を構成する金属が少ないと、この金属原子が第1金属膜202に拡散することで下地膜201に残る金属が減少し、水晶材との密着性が損なわれることも考えられる。
【0032】
一方、下地膜201の膜厚H1が1.0nm以上では、下地膜201として安定した膜を形成することが可能となり、水晶材との密着性を維持できる。さらに、下地膜201を構成する金属原子が第1金属膜202に十分に拡散するため、第1金属膜202の露出面で不動態の膜が形成され、第1金属膜202の耐腐食性を確保するこができる(すなわち浸食強度を高くすることができる)。
【0033】
また、下地膜201の膜厚H1が8.0nmを超えた場合は、下地膜201を構成する金属の量が多くなるため、下地膜201から第1金属膜202へ拡散する金属原子の量が増大する。その結果、下地膜201の金属原子が第1金属膜202を超えて第2金属膜203中に多く入り込むことになり、励振電極135、136及び引出電極137、138の抵抗値を上昇させ、CI値の上昇を招いて圧電デバイス100の特性を悪化させることになる。さらに、下地膜201の膜厚H1が厚いと励振電極135、136の膜厚も厚くなり、振動部131の振動特性を変化させることになる。
【0034】
一方、下地膜201の膜厚H1が8.0nm以下では、第1金属膜202に拡散する金属原子の量が抑えられるため、第2金属膜203中に入り込む金属原子の量が少なくなり、励振電極135、136及び引出電極137、138の抵抗値の上昇が抑制されて、圧電デバイス100の特性を悪化させることはない。さらに、振動部131に形成される励振電極135、136の膜厚も必要以上に厚くならないので、振動部131の振動特性に与える影響が少ない。
【0035】
このように、下地膜201の膜厚H1を1.0nm〜8.0nmに設定することにより、水晶材との密着性を維持しつつ、第1金属膜202の露出面で不動態の膜(酸化膜)を形成して、第1金属膜202の耐腐食性を確保することができる。これに加えて、下地膜201の金属原子が第1金属膜202及び第2金属膜203中に拡散する量を抑えて、励振電極135、136及び引出電極137、138の抵抗値が上昇するのを抑制し、圧電デバイス100の特性が悪化するのを防止することができる。
【0036】
なお、下地膜201の膜厚H1は、3.0nm〜7.5nmに設定されてもよい。膜厚H1を3.0nm以上とすることにより、下地膜201を構成する金属原子が第1金属膜202に十分かつ確実に拡散するため、第1金属膜202の露出面において不動態の膜をより一層確実に形成させることができる。なお、膜厚H1を3.0nm以上とすることで、水晶材に対する密着性は十分に確保されている。
【0037】
また、下地膜201の膜厚H1を7.5nm以下とすることにより、下地膜201の金属原子が第1金属膜202や第2金属膜203中に拡散する量をより一層抑えるため、励振電極135、136及び引出電極137、138の抵抗値の上昇が確実に抑制され、圧電デバイス100の特性が悪化するのを確実に防止できる。従って、圧電デバイス100として一般的に提供可能な抵抗値の範囲内に抑えることが可能となる。さらに、振動部131に形成される励振電極135、136の膜厚も薄くなるので、振動部131の振動特性に与える影響をより一層少なくできる。
【0038】
次に、第1金属膜202の膜厚H2は、0.5nm〜12.5nmに設定される。膜厚H2が0.5nmに満たない場合は、第1金属膜202の成膜工程において、均一な金属膜(例えばニッケルタングステンの膜)を形成することが難しく、成膜後の膜厚が不均一なだけでなく、部分的に成膜されない状態が生じ易い。従って、第1金属膜202は、下地膜201を形成する金属原子が第2金属膜203へ拡散するのを抑制する、いわゆるバリア膜としての機能が効果的に発揮されないことになる。
【0039】
一方、第1金属膜202の膜厚H2が0.5nm以上の場合は、均一な第1金属膜202が形成されるので、下地膜201を構成する金属原子が第2金属膜203へ拡散するのを抑制する、いわゆるバリア膜として効果的に機能させることができる。なお、下地膜201の金属原子が第1金属膜202に拡散することにより、その露出面では不動態の膜(酸化膜)が形成され、耐腐食性が確保される。
【0040】
また、第1金属膜202の膜厚H2が12.5nmを超えた場合は、下地膜201を構成する金属原子が第1金属膜202に拡散しても膜厚H2が厚いため第1金属膜202の露出面までに十分な量の金属原子が到達せず、その露出面で形成される不動態の膜も不十分となる。その結果、第1金属膜202の耐腐食性が確保されず(すなわち浸食強度が低く)、圧電デバイス100の信頼性が損なわれることとなる。
【0041】
一方、第1金属膜202の膜厚H2が12.5nm以下の場合は、下地膜201を構成する金属原子が第1金属膜202に拡散して第1金属膜202の露出面まで十分な量の金属原子が到達でき、その露出面で不動態の膜を形成することができる。従って、第1金属膜202の耐腐食性が確保され(すなわち浸食強度が高く)、圧電デバイス100の信頼性を確保することができる。
【0042】
このように、第1金属膜202の膜厚H2を0.5nm〜12.5nmに設定することにより、第1金属膜202の露出面において不動態の膜を形成することができ、第1金属膜202の耐腐食性を確保することができるので、圧電デバイス100の信頼性を向上させることができる。
【0043】
なお、第1金属膜202の膜厚H2は、2.5nm〜10.0nmに設定されてもよい。膜厚H2が2.5nm以上の場合は、均一な第1金属膜202が確実に形成されるので、下地膜201を構成する金属原子が第2金属膜203へ拡散するのを確実に抑制し、いわゆるバリア膜をより一層効果的に機能させることができる。なお、第1金属膜202の膜厚H2が2.5nm以上の場合も、下地膜201の金属原子が第1金属膜202に拡散することにより、その露出面では不動態の膜(酸化膜)が形成され、耐腐食性が確保される。
【0044】
また、第1金属膜202の膜厚H2を10.0nm以下とすることにより、下地膜201を構成する金属原子が第1金属膜202に拡散して第1金属膜202の露出面まで到達しやすくなり、この露出面で不動態の膜を確実に形成することができる。従って、第1金属膜202の耐腐食性が十分に確保され、圧電デバイス100の信頼性を確保することができる。
【0045】
このように、第1金属膜202の膜厚H2を2.5nm〜10.0nmに設定することにより、第1金属膜202の露出面において不動態の膜を確実に形成することができ、第1金属膜202の耐腐食性を十分に確保することができるので、圧電デバイス100の信頼性をより一層向上させることができる。なお、第2金属膜203(例えば金の膜)の膜厚H3は、100.0nmまたは128.0nmに設定されている。なお、膜厚H3の値は、励振電極135、136及び引出電極137、138としての機能・効果が得られる範囲内であれば、特に限定はされない。
【0046】
本実施形態に係る圧電デバイス100の構成によれば、下地膜201の膜厚H1を規定することにより、第1金属膜202の露出面に不動態の膜を形成して金属膜の耐腐食性を向上しつつも、この金属膜の密着性の低下や抵抗値の上昇、振動部131の振動特性への影響を抑えることができ、圧電デバイス100の特性が悪化するのを防止できる。また、第1金属膜202の膜厚H2を規定することにより、第1金属膜202の露出面に形成される不動態の膜を確実のものとし、これにより引出電極137、138等の耐腐食性を向上させ(すなわち浸食強度を高くして)圧電デバイス100の信頼性を向上できる。また、引出電極137、138が枠部132の外周縁から離間して形成される場合は、接続電極126と接続する部分を除いて接合材141、142で被覆されるため、第1金属膜202は大気中の水分から保護される。なお、接合材141等が破損しても、第1金属膜202が外気に触れることで不動態の膜を形成するので、第1金属膜202の耐腐食性が維持される。
【0047】
(圧電デバイス100の製造方法)
次に、上記のように構成された圧電デバイス100の製造方法を説明する。
圧電振動片130は、例えば人工水晶をATカットして作成された圧電ウエハから個々の圧電振動片130を切り出す多面取りが行われる。同様に、リッド部110及びベース部120は、ATカットして作成されたリッドウエハ及びベースウエハから個々を切り出す多面取りが行われる。なお、圧電ウエハ、リッドウエハ、ベースウエハに対するそれぞれの加工は、例えば並行して行われる。
【0048】
圧電ウエハは、圧電振動片130を構成する振動部131が所望の周波数特性を備えるように、振動部131を含んだ領域の厚さが調整される。この厚さ調整は、例えば、圧電ウエハのうち振動部131を含んだ領域をエッチングすることにより行う。その後、フォトリソグラフィ法及びエッチングによって、振動部131、枠部132及び連結部133が圧電ウエハに形成される。
【0049】
続いて、圧電ウエハの振動部131、枠部132及び連結部133に、励振電極135、136及び引出電極137、138が形成される。これら電極は、先ず、下地層201として例えばクロムが圧電ウエハ(水晶片)の表面に膜厚H1(1.0nm〜8.0nmの範囲または3.0nm〜7.5nmの範囲)で成膜される。次いで、第1金属膜202として例えばニッケルタングステンが下地層201の表面に膜厚H2(0.5nm〜12.5nmの範囲または2.5nm〜10.0nmの範囲)で成膜される。次いで、第2金属膜203として例えば金が第1金属膜202の表面に膜厚H3(例えば100.0nm〜128.0nmの範囲)で成膜される。
【0050】
これら下地層201、第1金属膜202、第2金属膜203の形成方法としては、例えば、メタルマスクを用いたスパッタリングまたは真空蒸着により順次金属膜を成膜する方法の他に、フォトリソグラフィ法及びエッチングによって各金属膜をパターニングする方法など、各種の方法が用いられる。
【0051】
リッドウエハには、フォトリソグラフィ法及びエッチングによって凹部111がそれぞれ形成される。また、ベースウエハには、フォトリソグラフィ法及びエッチングによって凹部121がそれぞれ形成されるとともに、キャスタレーション123を形成するための開口部が形成される。さらに、ベースウエハには、所定箇所に外部電極124、キャスタレーション電極125、接続電極126が、例えば、メタルマスクを用いたスパッタリング等により形成される。
【0052】
続いて、真空雰囲気下において、圧電ウエハの表面にリッドウエハを接合材141を介して接合させ、さらに、圧電ウエハの裏面にベースウエハを接合材142を介して接合させる。その後、予め設定されたスクライブラインに沿って切断することにより、個々の圧電デバイス100が完成する。なお、圧電デバイス100の製造方法としては、以上の方法に限定されず、種々の手法が用いられる。
【0053】
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。上記した実施形態では、圧電デバイスとして水晶振動子(圧電振動子)を示しているが、発振器であってもよい。発振器の場合は、例えばベース部120にIC等が搭載され、圧電振動片130の引出電極137、138等やベース部120の外部電極150がそれぞれICに接続される。また、上記した実施形態は、圧電振動片130として水晶振動片を用いているが、これに代えて、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等から形成された圧電振動片を用いてもよい。また、リッド部110及びベース部120として水晶材を用いているが、これに代えて、ガラスやセラミックス等を用いてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は、以下のようにして行った。
本評価で用いられる評価用試料230は、図4に示すように、水晶材によって矩形の板状に形成されたPLウエハ231を用い、その表面に金属膜をパターニングしている。この金属膜は、PLウエハ231の中央領域に形成される中央部電極232と、中央部電極232から引き出されて中央領域の周辺に形成される周辺部電極233と、矩形状電極234と、を有する。なお、これら電極は、図1に示す圧電振動片130の裏面側(−Y側の面)をモデル化したものであり、中央部電極232は励振電極136に、周辺部電極233は引出電極138に、矩形状電極234は引出電極137bに、それぞれ相当する。
【0055】
中央部電極232、周辺部電極233、及び矩形状電極234は、下地膜、第1金属膜、第2金属膜の順で積層された3層構造の金属膜であり、例えば、メタルマスクを用いたスパッタリング等により形成されている。これら中央部電極232、周辺部電極233、及び矩形状電極234における各金属厚の構成は同一となっている。下地膜としてはクロム(Cr)が用いられ、第1金属膜としてはニッケルタングステン(NiW)が用いられ、第2金属膜としては金(Au)が用いられる。
【0056】
表1では、クロム、ニッケルタングステン、金の膜厚を変更した実施例1〜11と比較例0、12、13とを示している。表1に示すように、膜構成は水晶側からクロム(Cr)/ニッケルタングステン(NiW)/金(Au)の膜厚について、それぞれ記載している。なお、比較例0は、下地膜としてCrが形成されず、PLウエハ230にニッケルタングステン、金の順で積層された2層構造の金属膜である。なお、表1の左の列は番号のみを記載している。
【0057】
【表1】
【0058】
これら実施例1〜11及び比較例0、12、13について、図4に示すように、各評価用試料230の周辺部電極233上の領域S、及び中央部電極232上の領域Tのそれぞれに測定用プローブを接触させ、S−T間の抵抗値を測定した。この抵抗値は、図1に示す圧電振動片130における励振電極136と引出電極138との間の抵抗値に相当する。なお、データの信頼性のため、評価用試料230ごとにそれぞれ10回測定し、その平均値を抵抗値として用いている。
【0059】
図5は、これら実施例1〜11及び比較例0、12、13について、それぞれの抵抗値を示している。なお、図5に示す各抵抗値は熱処理前の値である。図5を見ると、実施例1〜11では抵抗値が20Ω以下であるのに対し、比較例12及び比較例13では抵抗値が24Ωを超えることが確認された。従って、クロムの膜厚が少なくとも1.0nm〜7.5nmに設定された実施例1〜11は、抵抗値の上昇が比較例12、13に対して抑制されていることが確認された。なお、このような抵抗値の差は、熱処理を加えるとより顕著となる。
【0060】
図6は、熱処理後の各抵抗値を示している。ここで、熱処理について説明すると、評価用試料230に対して、リッド接合機により500N、真空雰囲気、375℃、10分間の条件で1回目の熱処理を行い、次いで、リッド接合機により500N、真空雰囲気、365℃、10分間の条件で2回目の熱処理を行っている。なお、このような熱処理は、圧電デバイスの製造工程において圧電振動片130にリッド110部やベース部120を接合する際の処理に相当する。なお、図6では、実施例6〜8、10、11と比較例0、12、13を示している。
【0061】
図6に示すように、実施例6、7では抵抗値が13Ω以下であり、実施例8、10、11では抵抗値が36Ω以下である。これに対し、比較例12、13は抵抗値が56Ω以上とはるかに大きくなることが確認された。このように、熱処理後の結果から見ても、クロムの膜厚が少なくとも7.5nm以下に設定された実施例6〜8、10、11は、抵抗値の上昇が比較例12、13に対して抑制されていることが確認される。従って、クロムの膜厚が8.0nm以下に設定された場合も、抵抗値の上昇が抑制されることが推察される。
【0062】
続いて、熱処理後の各評価用試料230を90℃の温純水中に20時間浸漬して、ニッケルタングステンの膜(第1金属膜)について浸食状態を観察し、腐食度を評価した。また、熱処理後の金属膜をピンセットで擦り、膜の物理的強度や密着強度を評価するスクラッチ試験を行った。
【0063】
表2は、実施例1〜11及び比較例12、13について、温水浸漬NiW浸食の結果と、スクラッチ試験の結果とを示し、これらの結果から浸食強度(耐腐食性)の評価結果について示している。なお、結果については○または×で表している。表2の温水浸漬NiW浸食における○または×の判定は、比較例0で同様の浸漬処理を行った場合の結果を基準として、浸食が抑制された場合は○、逆に浸食が進んだ場合は×とした。スクラッチ試験についても、比較例0におけるスクラッチ試験の結果を基準として、良化した場合は○、逆に悪化した場合は×とした。
【0064】
浸食強度の評価は、浸食強度を有する場合を○、有しない場合を×とした。また、浸食強度の判定は、温水浸漬NiW浸食とスクラッチ試験の結果のうち少なくとも一方が×となる場合、浸食強度は有しない(耐腐食性が低い)と判断した。例えば、温水浸漬NiW浸食の結果が○で、スクラッチ試験の結果が×の場合、スクラッチ試験の結果から金属膜が脆弱化したことが確認されるため、温水浸漬NiW浸食の結果が×となる直前の状態であって金属膜の強度が不十分と考えられ、浸食強度は有しないと判断して×とした。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、実施例8、10及び比較例12については、浸食強度を有していない。すなわち、実施例8、10及び比較例12のように、ニッケルタングステンの膜厚が15.0nmでは、浸食強度を有しないことが確認された。また、実施例1〜7、9、11は、ニッケルタングステンの膜厚が10.0nm以下であり、これらについては浸食強度を有することが確認された。従って、ニッケルタングステンの膜厚が12.5nm以下で浸食強度を有するものと推察される。また、ニッケルタングステンの膜厚が薄い方がクロムが拡散しやすく、不動態の膜を形成して浸食強度を向上させるため、ニッケルタングステンの膜厚が0.5nm以上であれば浸食強度を有すると推察される。
【0067】
以上の結果から、下地膜としてのクロムの膜厚が1.0nm〜7.5nmもしくは1.0nm〜8.0nmに設定されると抵抗値の上昇が抑制され、さらに、第1金属膜としてのニッケルタングステンの膜厚が2.5nm〜10.0nmもしくは0.5nm〜12.5nmに設定されると浸食強度を有する(耐腐食性が高い)ことが明らかに説明されている。
【符号の説明】
【0068】
H1、H2、H3…膜厚
100…圧電デバイス
110…リッド部
120…ベース部
123…キャスタレーション(切り欠き部)
124…外部電極
125…キャスタレーション電極
126…接続電極
130…圧電振動片
131…振動部
132…枠部
133…連結部
134…貫通穴
135、136…励振電極
137、137a、137b、137c、138…引出電極
141、142…接合剤
201…下地膜
202…第1金属膜
203…第2金属膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6