【実施例1】
【0009】
図1は、本実施例に係る膝継手を示す斜視図であり、
図2は、本実施例に係る膝継手の内部構造を示す断面図である。この膝継手100は、ハウジング101と、回転軸105と、ハウジング101の内部に形成される油室102と、油室102に配置され、油室102を第1の室103と第2の室104とに区画するベーン106と、第1の室103と第2の室104とを隔てる隔壁107とを備えている。油室102(第1の室103及び第2の室104)にはオイルが充填されている。この膝継手100は、ベーン106が回転軸105の回転に伴って回動するように構成されている。
【0010】
この膝継手100は、油圧回路を内蔵している。
図3は、本実施例に係る膝継手に内蔵された油圧回路の回路図である。この油圧回路は、第1の室103と、第2の室104と、ベーン106と、第1の室103に連通する油路108と、油路108から分岐する第1の油路109及び第2の油路110と、第1の油路109と第2の油路110の分岐点に設けられる切替バルブ111と、第1の油路109、第2の油路110及び第2の室104に連通する油路112と、第1の室103及び第2の室104に連通する第3の油路113と、第3の油路113に設けられる第1の逆止弁114とを有して構成されている。油圧回路を構成する上記の要素は、第1の室103、第2の室104及びベーン106を除いて、すべて隔壁107の内部に設けられている。
【0011】
第1の油路109は、トルクを発生させるための第1の手段を有している。第1の手段としては、例えば、第1の油路109の一部又は全部をオリフィス(オイルの流量を制限し得る小孔)とする構成を採用することができる。また、オリフィスに代えて、流量調整バルブ又は自動調整バルブを採用しても良い。ここにいう「自動調整バルブ」は、負荷の変化に対応してオイルの流量を自動的に調整し得るバルブである。
【0012】
図4は、第1の手段として採用し得る流量調整バルブの一例を示す断面図である。この流量調整バルブは、弁室200と、弁室200に配置される弁体201とを有して構成されている。弁体201の先端部分は、テーパー状に形成されている。弁体201の後端部分には、弁室200に形成された雌ねじ202と結合する雄ねじ203が形成されている。この流量調整バルブは、弁体201の先端部と弁座204との間隙でオイルの流量を絞ることができる。弁体201は、
図5に示したように、弁体201を一方向(ねじを締める方向)に回転させることによって、弁座204に向かって移動する。このとき、弁体201の先端部と弁座204との間隙は縮小される。一方、弁体201を逆方向(ねじを緩める方向)に回転させたときには、弁体201は、弁座204から離れる方向へ移動する。このとき、弁体201の先端部と弁座204との間隙は拡大される。従って、この流量調整バルブは、弁体201を上記のように操作することによって、オイルの流量を調整することができる。
図4及び
図5において、矢印はオイルの流れ方向を示している。
【0013】
図6は、第1の手段として採用し得る自動調整バルブの一例を示す断面図である。この自動調整バルブは、弁室300と、弁室300に配置される弁体301と、弁体301の移動を抑制するばね302とを有して構成されている。この自動調整バルブは、弁体301の外周面と油路109の内周面との間隙でオイルの流量を絞ることができる。弁体301の移動は、ばね302の弾性力によって抑制されるので、弁体301を油路109に向かって移動させる力(オイルの圧力)が大きくなるほど弁体301の外周面と油路109の内周面との間隙の長さLが長くなる(
図7参照)。そして、この間隙の長さLが長くなるほどオイルは流れ難くなる。従って、この自動調整バルブによれば、負荷の増減にかかわらず回転軸105の角速度を一定に維持することができる。
図6及び
図7において、矢印はオイルの流れ方向を示している。
【0014】
第2の油路110は、第1の手段によって発生するトルクの特性とは異なる特性を示すトルクを発生させるための第2の手段を有している。第2の手段としては、例えば、第2の油路110の一部又は全部をオリフィス(オイルの流量を制限し得る小孔)とする構成を採用することができる。また、オリフィスに代えて、上記した流量調整バルブ又は自動調整バルブを採用しても良い。
【0015】
第1の手段がオリフィスであり、第2の手段もオリフィスである場合は、第2の手段の径を第1の手段の径と異ならせることによって、第2の手段は、第1の手段によって発生するトルクの特性とは異なる特性を示すトルクを発生させることができる。第2の手段が流量調整バルブである場合は、第2の手段が第1の手段によって発生するトルクの特性とは異なる特性を示すトルクを発生させるように弁体の位置が適宜設定される。第1の手段が自動調整バルブであり、第2の手段も自動調整バルブである場合は、第2の手段のばねとして、第1の手段のばねの弾性力よりも大きい又は小さい弾性力を有するばねを用いることによって、第2の手段は、第1の手段によって発生するトルクの特性とは異なる特性を示すトルクを発生させることができる。
【0016】
図8は、第1の手段がオリフィスであり、第2の手段もオリフィスである場合の両者のトルク特性の一例を示している。第1の手段の径は、第2の手段の径よりも小さい。
図9は、第1の手段が流量調整バルブであり、第2の手段がオリフィスである場合の両者のトルク特性の一例を示している。第1の手段は、第2の手段によって発生するトルクよりも大きいトルクを発生させるように、弁体の位置が設定されている。
図10は、第1の手段が自動調整バルブであり、第2の手段がオリフィスである場合の両者のトルク特性の一例を示している。
図11は、第1の手段が流量調整バルブであり、第2の手段も流量調整バルブである場合の両者のトルク特性の一例を示している。第1の手段は、第2の手段によって発生するトルクよりも大きいトルクを発生させるように、弁体の位置が設定されている。
図12は、第1の手段が流量調整バルブであり、第2の手段が自動調整バルブである場合の両者のトルク特性の一例を示している。
図13は、第1の手段が自動調整バルブであり、第2の手段も自動調整バルブである場合の両者のトルク特性の一例を示している。第1の手段は、第2の手段のばねのばね定数よりも小さいばね定数を有するばねを用いている。
【0017】
図14は、切替バルブ111の構造を示す図である。切替バルブ111は、両端に弁座(第1の弁座117及び第2の弁座118)を有する弁室115と、弁室115の内部で自重により移動可能な弁体116とを有して構成されている。弁室115は、細長い空間であり、その中はオイルで満たされている。油路108は、弁室115の長さ方向中央部分に連通している。第1の弁座117は、第1の油路109と連通し、第2の弁座118は、第2の油路110と連通している。弁体116は、弁室115の内部で自重により移動しやすいように球体であることが好ましい。
【0018】
本実施例に係る膝継手100は、
図15及び
図16に示したように、ハウジング101がソケット400に固定され、回転軸105が人工下腿部500に結合されて使用される。義足を構成するソケット400は、使用者の大腿部に装着される。ソケット400は、ハウジング101を固定するためのジョイント401を備えている。義足を構成する人工下腿部500は、使用者の下腿部として機能するように人工的に製作されたものである。人工下腿部500は、回転軸105に結合するアーム501を備えている。ハウジング101は、人工下腿部500が前方へ折れ曲がることを防止するために、アーム501に当接するストッパー119を備えている(
図1及び
図15参照)。
【0019】
膝継手100は、ハウジング101がソケット400に固定されるため、歩行時の大腿部の動きに伴って変位する。具体的には、例えば、
図17に示したように、大腿部601(義足が装着される大腿部)が直立姿勢のときの膝継手100の状態を初期状態とした場合、
図19に示したように、大腿部602(義足が装着されない大腿部)が骨盤700より前方へ移動し、大腿部601が骨盤700より後方へ相対的に移動することによって、膝継手100は、初期状態から時計回り方向に変位する。一方、
図23に示したように、大腿部601が骨盤700より前方へ移動したときは、膝継手100は、初期状態から反時計回り方向に変位する。
【0020】
切替バルブ111の弁室115は、膝継手100が初期状態のときに、弁室115の長さ方向が回転軸105の中心を通る仮想線A(
図17参照)と平行となるように配置されている。
図14は、膝継手100が初期状態のときの切替バルブ111の姿勢を示している。
図18は、膝継手100が初期状態のときの油圧回路図である。弁室115は、膝継手100が
図19に示したように時計回り方向に変位したときには、
図24に示したように、時計回り方向に傾斜する。切替バルブ111の弁体116は、弁室115が時計回り方向に傾斜することによって、第1の弁座117に向かって移動を開始する。
【0021】
次に、
図20に示したように、大腿部601の前方への移動が開始されると、人工下腿部500の屈曲動作が発生する。このとき、ベーン106は、人工下腿部500の屈曲動作に伴って時計回り方向に回転し、第1の室103のオイルが油路108に流入する。それによって、第2の室104までのオイルの流れが発生する。弁体116は、弁室115に流れ込むオイルの圧力によって第1の弁座117に押し当てられる(
図25参照)。これにより、第1の油路109へのオイルの流れが遮断され、弁室115から排出されるオイルは第2の油路110へ流入する。第2の油路110はトルクを発生させるための第2の手段を備えているので、オイルが第2の油路110を通過するときに発生するオイルの抵抗力がベーン106に作用してトルクが発生する。このトルクによって、人工下腿部500が跳ね上がるように屈曲することを防ぐことができる。第2の油路110を通過したオイルは、油路112を介して第2の室104に流入する。
図26は、第1の油路109へのオイルの流れが遮断された状態を示す油圧回路図である。
【0022】
次に、
図21に示したように、大腿部601が骨盤700より若干前方へ移動したときは、膝継手100が反時計回り方向に変位し、弁室115が、
図27に示したように、反時計回り方向に傾斜する。しかしながら、人工下腿部500の屈曲動作が継続しているため、弁体116は、オイルの圧力によって第1の弁座117に押し当てられた状態のまま維持される。従って、第2の手段によって発生するトルクが人工下腿部500に作用し続ける。このため、人工下腿部500の屈曲動作が継続している間は、人工下腿部500の屈曲角度が安定して維持される。
【0023】
次に、
図22に示したように、大腿部601が骨盤700より更に前方へ移動し、人工下腿部500の伸展動作が開始されたときは、ベーン106が人工下腿部500の伸展動作に伴って反時計回り方向に回転し、第2の室104のオイルが第3の油路113に流入する。第3の油路113に流入したオイルは、第3の油路113に設けられた第1の逆止弁114を開放する。ここで、第1の逆止弁114は、第1の室103からオイルが流出したときは弁を閉じ、第2の室104からオイルが流出したときは弁を開くように動作する。第3の油路113は、オイルの流量を実質的に制限しない径を有しているので、ベーン106が反時計回り方向に回転したときに発生するトルクは、ベーン106が時計回り方向に回転したときに発生するトルクと比べて格段に小さいものとなる。従って、人工下腿部500の伸展動作が円滑に行われる。このとき切替バルブ111は、弁室115が反時計回り方向に傾斜しているため、弁体116が第1の弁座117から離れて、第2の弁座118に向かって移動する(
図28参照)。
【0024】
そして、
図23に示したように、大腿部601が骨盤700より更に前方へ移動したときは、ハウジング101に設けられたストッパー119が人工下腿部500に設けられたアーム501に当接して人工下腿部500の伸展動作が終了する。このとき切替バルブ111の弁体116は、第2の弁座118付近に位置している(
図29参照)。
【0025】
一方、
図30に示したように、大腿部601が骨盤700より前方に移動したときに、躓いたり、身体のバランスを崩したりして、人工下腿部500が急激に折れ曲がる、所謂「膝折れ」という現象が発生することがある。この「膝折れ」による転倒を防ぐには、人工下腿部500の急激な屈曲を抑制し得る大きなトルクを発生させる必要がある。本実施例に係る膝継手100によれば、大腿部601が骨盤700より前方に移動したときは、膝継手100が反時計回り方向に変位し、それに伴い切替バルブ111の弁室115が反時計回り方向に傾斜する。切替バルブ111の弁体116は、弁室115が反時計回り方向に傾斜することによって、第2の弁座118に向かって移動する。また、ベーン106は、人工下腿部500の屈曲動作に伴って時計回り方向に回転し、第1の室103のオイルが油路108に流入する。それによって、第2の室104までのオイルの流れが発生する。弁体116は、弁室115に流れ込むオイルの圧力によって第2の弁座118に押し当てられる(
図31参照)。これにより、第2の油路110へのオイルの流れが遮断され、弁室115から排出されるオイルは第1の油路109へ流入する。第1の油路109はトルクを発生させるための第1の手段を備えているので、オイルが第1の油路109を通過するときに発生するオイルの抵抗力がベーン106に作用してトルクが発生する。このトルクによって、人工下腿部500が急激に折れ曲がることを防ぐことができる。第1の油路109を通過したオイルは、油路112を介して第2の室104に流入する。ここで、第1の手段によって発生するトルクの特性は、第2の手段によって発生するトルクの特性と異なる(
図8乃至
図13参照)。「膝折れ」が発生するときは、使用者の自重に等しい負荷が膝継手100に加えられるため、第1の手段によって発生するトルクは、第2の手段によって発生するトルクよりも大きいことが好ましい。また、このときに膝継手100に加えられる負荷は、使用者の体重によって異なるため、使用者の体重に合わせてトルクを調整できるように、第1の手段として流量調整バルブを採用することが好ましい。
図32は、第2の油路110へのオイルの流れが遮断された状態を示す油圧回路図である。