(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属にレーザ光を照射することで金属の切削や切断などを行うレーザ加工機が知られており、レーザ加工機にはレーザ発振器が搭載されている。
レーザ発振器は、レーザ媒体(例えばCO
2、YAGなど)を励起し、励起したレーザ媒体が発する光を2枚の反射鏡の間で往復させることにより、その光を増幅させる共振器部を備える。具体的には、共振器部は、レーザ媒体を励起してレーザ光を発振させる軸形の発振部(例えば放電管、YAGロッド)と、発振部の光軸方向の両端にそれぞれ配置された全反射鏡および半反射鏡と、を備える。このため、レーザ発振器は、共振器部を収容および保護する筐体を備えている。
【0003】
さらに、レーザ発振器では、共振器部および筐体を冷却する必要があり、冷却水を用いて筐体内を冷却する方式、すなわち、水冷式のものが知られている。
従来、水冷式のレーザ発振器の筐体内には、上記の共振器部とファンとの間に熱交換器が配置されている。
共振器部の発熱に起因して熱くなった筐体内の温度を下げるときは、冷却装置、例えばチラーにより冷却水を一定の温度に制御して熱交換器に供給する。そして、共振器部の周辺の熱い空気を吸引するようにファンを動作させ、これによって、その熱い空気を熱交換器に接触させて冷却し、冷却された空気を共振器部の周辺に送風している。
【0004】
上記のような冷却ファンの動作は、レーザ発振器の起動と同時に行われている。また、共振器部における発熱が殆ど無く、筐体内を冷却する必要がないときはファンを動作させる必要がない。そのため、筐体内の温度が上昇した時にのみファンを動作させて、レーザ発振器の消費電力を削減することも行われている。
【0005】
また、水冷式レーザ発振器の筐体内のファンを制御する従来例として、特許文献1、2に記載されている方法がある。特許文献1には、冷却水の温度を下げるため、冷却水の温度またはレーザ発振器に供給する電力に応じて、ファンの回転数を変化させる方法が記載されている。
特許文献2には、半導体レーザアレイに接触させて配設された冷却気体流路と、冷却気体流路に冷却気体流を流す冷却気体流生成手段と、半導体レーザアレイの温度検出手段と、を設け、温度検出手段の検出信号に基づいて冷却気体流生成手段を駆動制御する方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、レーザ加工機は、恒温室のように温度が一定な場所ばかりでなく、温度が変化する場所、例えば気温が低下する工場の屋内や、さらには屋外にも設置されることがある。特に冬季において、周囲の温度が低温の状態からレーザ発振器を起動した場合、筐体内の温度が上昇して共振器部の温度が定常状態になるまで暖機動作を行う必要がある。つまり、レーザ発振器の起動後、レーザ発振器が安定して使用できるまでに時間がかかるという問題がある。
【0008】
また、従来の水冷式レーザ発振器では、筐体内の特に共振器部の温度を下げるという目的のためにファンおよびその送風方向が制御されている。したがって、従来の水冷式レーザ発振器をレーザ加工機に採用した場合、上述の暖機動作中に筐体内の冷気が共振器部に送風されてしまうため、かえって共振器部の温度が上がりにくくなる。その結果、暖機時間が長くなるという問題点もある。
【0009】
さらに、レーザ加工機ではレーザ発振器の消費電力を削減するため、レーザ加工を中断したときに、レーザ媒体の励起動作やファンの回転を停止してレーザ発振器を待機状態にすることも行われている。しかし、レーザ発振器の周囲温度が低温の状態であると、共振器部の停止時間が長いほど、共振器部を構成する部材の温度も低下する。したがって、レーザ発振器を待機状態からレーザ加工が可能な状態に移行する際、共振器部の温度が定常状態になるまで、レーザ発振器の動作が不安定になるという問題点もある。
【0010】
そこで本発明は、上述したような問題点に鑑み、低温環境下において、レーザ発振器を起動または再開してからレーザ発振器が安定して使用できるまでの時間を短縮することができるレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様によれば、出力すべきレーザ光を共振させるための共振器部と、共振器部に隣接して配置され、冷却液が供給されるべき熱交換器と、共振器部および熱交換器の両方を挟んだ2つの位置のうち少なくとも一方に配置され、共振器部および熱交換器の両方を通過する一方向の風を発生させるファンと、共振器部の温度を測定する共振器温度測定部と、ファンを制御するファン制御部と、を備えたレーザ発振器が提供される。さらに、第一の態様のレーザ発振器において、ファン制御部は、共振器温度測定部により測定された共振器部の温度に基づいてファンの風向きを切り換えることを特徴とする。
さらに、ファン制御部は、測定された共振器部の温度が所定の温度よりも低いときは、ファンの送風方向を熱交換器から共振器部に向かう方向に制御し、さらに、測定された共振器部の温度が上記所定の温度と同じか、それよりも高いときは、ファンの送風方向を共振器部から熱交換器に向かう方向に制御する、レーザ発振器が提供される。
しかし、本発明は、上述した態様に限られず、以下のような他の態様のレーザ発振器を提供することもできる。
【0013】
他の態様によれば、
上述した態様のレーザ発振器であって、複数のファンが共振器部の長手方向に沿って配置されており、ファン制御部は、測定された共振器部の温度に基づいて複数のファンの少なくとも一つの風量を変更する、レーザ発振器が提供される。
【0014】
更に他の態様によれば、
上述した態様のいずれかのレーザ発振器であって、複数のファンが共振器部の長手方向に沿って配置されており、ファン制御部は、測定された共振器部の温度に基づいて複数のファンの少なくとも一つを停止させる、レーザ発振器が提供される。
【0015】
更に他の態様によれば、
上述した態様のいずれかのレーザ発振器であって、冷却液の温度を測定する冷却液温度測定部をさらに備え、上記所定の温度が、冷却液温度測定部により測定された冷却液の温度である、レーザ発振器が提供される。
【0016】
更に他の態様によれば、
上述した態様のいずれかのレーザ発振器であって、冷却液を一定の温度に制御するためのチラーをさらに備えた、レーザ発振器が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第一の態様によれば、ファンは、筐体内の共振器部および熱交換器の両方を挟んだ2つの位置のうち少なくとも一方に配置されているので、共振器部および熱交換器の両方を通過する一方向の風を発生させることができる。なおかつ、ファン制御部によって、ファンの送風方向を共振器部の温度に基づいて切り換えることができる。例えば共振器部の温度が熱交換器の温度よりも低いときは、ファンの送風方向を熱交換器から共振器部に向かう方向に変更することにより、熱交換器の熱を共振器部に与えることができる。したがって、低温環境下において、レーザ発振器を起動または再開してからレーザ発振器が安定して使用できるまでの時間を短縮することができる。
【0018】
共振器部の温度が熱交換器の温度以上である場合には、ファンの送風方向を共振器部から熱交換器に向かう方向に変更することにより、共振器部周辺の空気の熱を熱交換器が奪うことができる。一方、共振器部の温度が熱交換器の温度よりも低いときは、ファンの送風方向を熱交換器から共振器部に向かう方向に変更することで、熱交換器の熱を共振器部に与えることができる。
【0019】
本発明の
他の態様によれば、複数のファンを共振器部の長手方向に沿って配置し、共振器部の温度に基づいて複数のファンの少なくとも一つの風量を変更することにより、共振器部2を均一に温めることができる。
【0020】
更に他の態様によれば、複数のファンを共振器部の長手方向に沿って配置し、共振器部の温度に基づいて複数のファンの少なくとも一つを停止させることにより、共振器部を均一に温めることができる。
つまり、上記
の他の各態様によれば、あらかじめ実験により共振器部の温度分布を取得し、あるいは、共振器部に全体的に配置された複数の温度測定部により共振器部の温度分布を取得する。そして、そのような温度分布に基づき、相対的に温度の低い共振器部の部分に温かい空気をより多く供給することが可能となる。その結果、共振器部を均一に温めることができるので、レーザ発振器の動作を安定させることができる。
【0021】
更に他の態様によれば、冷却液の温度を測定する冷却液温度測定部を備えるとともに冷却水の温度を所定の温度に設定している。このため、冷却液の温度と共振器部の温度とを比較した結果に基づいて、ファンの送風方向を切り換えることができる。
【0022】
更に他の態様によれば、冷却液を一定の温度に制御するためのチラーを備えることにより、周囲の温度に関わらず冷却液の温度を一定に保つことができる。
【0023】
添付図面に示される本発明の典型的な実施形態の詳細な説明から、本発明のこれらの目的、特徴および利点ならびに他の目的、特徴および利点がさらに明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下では、レーザ発振器として高速軸流型ガスレーザ装置を例にして説明するが、本発明はこれに限られない。
【0026】
図1に本発明の一実施形態によるレーザ発振器の正面図を模式的に示す。
本実施形態のレーザ発振器1は、出力すべきレーザ光を共振させるための共振器部2と、共振器部2の一端に隣接して設置された熱交換器3と、共振器部2および熱交換器3の両方を挟んだ2つの位置にそれぞれ設置された第1のファン4および第2のファン5と、を備える。
さらに、レーザ発振器1は、共振器部2と、熱交換器3と、ファン4、5を収容し保護する筐体6とを備えている。筐体6の外側には、冷却水を一定の温度、例えば20℃に制御しながら熱交換器3に供給する設備であるチラー7が設けられている。なお、本実施形態では熱交換器3に供給する冷却用液を水とするが、本発明はこれに限定されない。
【0027】
筐体6の内部には、共振器部2の温度を測定する共振器温度測定部8と、ファン4、5を制御するファン制御部9と、熱交換器3とチラー7との間を流れる冷却水の温度を測定する冷却水温度測定部10と、を備えている。
【0028】
図1では筐体6の内側にファン制御部9と冷却水温度測定部10とを図示しているが、それらは図示された位置に限定されず、例えば筐体6の外側に装備されていてもよい。
また、ファン制御部9は第1のファン4と第2のファン5の両方を用いて一方向の風を発生させる(
図4A、
図4Bの矢印参照)。しかし、ファンは、当該一方向の風を発生させることができるならば、共振器部および熱交換器の両方を挟んだ2つの位置のうち少なくとも一方に配置されていればよい。さらに、このような一方向の風を共振器部2および熱交換器3に効率よく流すため、
図1に示すように、共振器部2が2つのファン4、5と2つの板状部材11によって囲まれていることが好ましい。
【0029】
さらに
図2を参照して、共振器部2の構成を説明する。
図2は
図1のレーザ発振器1を模式的に示す上面図である。
共振器部2は、レーザ媒体となるガス(例えばCO
2)を収容し、放電によってガスを励起してレーザ光を放出する軸形の放電部を有する。この軸形放電部は、例えば、4本の放電管12を直列に接続し、4本の放電管12を2本単位に折り返して筐体6内に配置されている。このような放電部の光軸方向の両端となる位置にそれぞれ全反射鏡13と半反射鏡14(出力鏡)とが配置されている。放電部の中間位置には折返し鏡15が配置されている。
なお、放電管12の総本数、および、折り返される放電管の単位数は前述の本数に限定されない。
【0030】
さらに、共振器部2の一側(
図2の図面下側)には6つのファン4が共振器部2の長手方向に沿って順次配置されている。また、共振器部2の他側(
図2の図面上側)に2つの熱交換器3が共振器部2の長手方向に沿って順次配置されている。さらに、これらの熱交換器3に隣接して、6つのファン5が熱交換器3の長手方向に沿って順次配置されている。
つまり、筐体6内において、共振器部2の一端に隣接して配置された熱交換器3は、共振器部2と第2のファン5との間に配置されている。さらに、共振器部2の他端に隣接して第1のファン4が配置されている(
図1参照)。
なお、熱交換器3およびファン4、5の個数は前述の個数に限定されない。
【0031】
次に、レーザ発振器1の筐体6内に設置されたファン4、5の制御方法を説明する。
図3はファン4、5の制御フローを示している。
図3を参照すると、まず、共振器温度測定部8によって共振器部2の温度Taを測定し、冷却水温度測定部10によって、チラー7から熱交換器3に流す冷却水の温度Tbを測定する(ステップS1)。
【0032】
続いて、ステップS2において、共振器部2の温度Taと冷却水の温度Tbとを比較する。その結果、共振器部2の温度Taが冷却水の温度Tbよりも低い(Ta<Tb)と判断されたとき、ファン4、5をそれぞれ順方向に回転させる(ステップS3)。順方向のファン4、5の回転により発生する風の向きを
図4Aに矢印を使って示す。つまり、共振器部2の温度Taが冷却水の温度Tbよりも低い場合、ファン4、5によって熱交換器3から共振器部2に向かう風が形成される。
このようなステップS1〜S3は、共振器部2の温度Taが冷却水の温度Tb以上になるまで継続される。
【0033】
一方、ステップS2において、共振器部2の温度Taが冷却水の温度Tb以上である(Ta≧Tb)と判断されたときは、ファン4、5をそれぞれ逆方向に回転させる(ステップS4)。逆方向のファン4、5の回転により発生する風の向きを
図4Bに矢印を使って示す。共振器部2の温度Taが冷却水の温度Tb以上である場合は、ファン4、5によって共振器部2から熱交換器3に向かう風が形成される。
【0034】
ステップS4の後、レーザ発振器1を待機させる指令が無いときは、レーザ発振器1の起動から発振準備完了まで、ファン4、5をステップS1〜S4に従って動作させる。しかし、レーザ発振器1を待機させる指令があったならば、ファン4、5を停止する(ステップS5、S6)。
【0035】
なお、上述の制御フローの開始時機は、レーザ発振器1を起動した時だけでなく、レーザ発振器1を待機させた状態から再開する時も含まれる。
【0036】
また、
図3では共振器部2の測定温度と冷却水の測定温度とを比較する例を示しているが、本発明はこれに限られない。
例えば、
図3のステップS1、S2に代えて、共振器部2の測定温度と予め設定された温度(例えば20℃)とを比較してファン4、5の動作を制御する方法であってもよい。この設定温度については、共振器の光軸調整など製造時の調整作業を行った温度とすることにより、共振器を構成する部材が調整時の状態を再現することができ、最も効率良くレーザ出力を得ることができる。
【0037】
次に、レーザ発振器1の起動から発振準備が完了するまでの間のファン4、5の動作について述べる。
図5A、
図5B、および
図5Cはレーザ発振器1の運転状態と共振器部2の温度に対応したファン4、5の動作とを示している。特に、
図5Aはレーザ発振器1を周囲が低温でない状態から起動する場合、
図5Bはレーザ発振器1を低温状態から起動する場合、
図5Cはレーザ発振器1を待機状態から復帰させる場合、を示している。
【0038】
高速軸流形CO
2レーザ装置であるレーザ発振器1を停止状態から起動すると、当該CO
2レーザ装置のコンピュータ数値制御装置(不図示)は、
図5Aの左端欄に示す工程を上から下に順次実施する。すなわち、1.放電管12内の真空引きを行う、2.放電管12内のガス圧制御を開始する、3.放電管12内にCO
2ガスを高速に流通させるためのターボブロワ(不図示)を起動する、4.放電管12内への放電を開始する、5.発振準備を完了する、といった一連の工程を順次実施する。
【0039】
但し、放電管12内への放電を開始しても、共振器部2の温度が設定値より低い場合には、
図5Bおよび
図5Cの各左端欄に示すように暖機動作を行うことが好ましい。ここで、「暖機動作」とは、レーザ発振器1からレーザ光を出さない状態でレーザ発振を継続させることを指す。放電管12内へのガス供給および放電により、共振器部2を発熱させて、筐体6内を温めることができる。
また、レーザ加工を中断するときは、放電管12内への放電とファン4、5の回転とを停止し、レーザ発振器1を待機状態に移行することが好ましい。これにより、レーザ発振器1の消費電力を減らすことができる。また、レーザ加工を再開する場合は放電管2内への放電やファン4、5の動作を開始することで、発振準備が完了する。
【0040】
以上に説明した工程を行うレーザ発振器1を周囲が低温でない状態から起動する場合、共振器部2の温度は冷却水の温度以上になっている。このため、
図5Aの左端欄に示す各工程に対して、ファン4、5は、
図4Bにおいて図面の左から右へ流れる風を発生させる。つまり、ファン4、5によって発生する風は共振器部2から熱交換器3に向かって供給される。このため、共振器部2周辺の空気の熱を熱交換器3が奪い、空気の温度を下げられる。
温度が低下した空気は第2のファン5から吐出され、筐体6の内側面に沿って第1のファン4側に回込み、第1のファン4によって共振器部2に吹付けられる。このような送風によって共振器部2の温度が定常状態となり、レーザ出力やビームモードが安定する。
【0041】
レーザ発振器1を寒い場所で使用するとき、共振器部2および筐体6は周囲の温度と同じように低温になり、レーザ発振器1を低温状態から起動する場合が生じる。一方、冷却水を供給するチラー7は、冷却水が凍らない程度の温度に冷却水の温度を保っている。特に、本実施形態のチラー7は、凍結防止機能、すなわち、送水ポンプを回す機能や、冷却水を温めるヒータなどを備えており、冷却水の温度を20℃近くまで上げて保っている。
以上の場合、共振器部2の温度は冷却水の温度よりも低くなっている。このため、
図5Bの左端欄に示す各工程に対しては、ファン4、5は、
図4Aにおいて図面の右から左へ流れる風を発生させる。つまり、ファン4、5によって発生する風は熱交換器3から共振器部2に向かって送られる。このため、熱交換器3を通過する空気が熱交換器3から熱を受取り、空気の温度が上がる。温度が上昇した空気が共振器部2に吹付けられるため、共振器部2を温めることができる。
【0042】
上述したように共振器部2を温める操作は、暖機動作の最中だけでなく暖機動作の前の工程からも共振器部2を温めることができる。したがって、低温環境下において、レーザ発振器1の停止状態から発振準備完了までに要する時間を短縮できる。
【0043】
また、レーザ加工を中断し、レーザ発振器1を待機させるときがある。このとき、レーザ発振器1の周囲温度が低温の状態であると、共振器部2および筐体6は周囲の温度と同じように低温になり、レーザ発振器1を低温状態から起動する場合が生じる。この場合もまた、共振器部2の温度は冷却水の温度よりも低くなっている。このため、
図5Cの左端欄に示すようにレーザ発振器1を待機させた状態から再開する時には、ファン4、5は、
図4Aにおいて図面の右から左へ流れる風を発生させるように動作する。つまり、ファン4、5によって風を熱交換器3から共振器部2に向けて送ることにより、共振器部2を温めることができる。
したがって、低温環境下において待機状態から再開するとき、レーザ発振器1が安定して使用できるまでの時間を短縮することができる。
【0044】
以上に説明したように、本実施形態では、レーザ発振器1の起動から発振準備完了までの間、共振器部2の測定温度と、冷却水の測定温度あるいは共振器部2の設定温度とを比較し、その比較結果に基づいてファン4、5の動作と風向きとを切り替えている。このとき、本実施形態では以下のようなファン制御を採用することがさらに好ましい。
【0045】
図6A、
図6B、および
図6Cは本実施形態のファン4、5の一制御例を示した図であり、当該ファンの風向きを
図2中に示したものである。また、
図6Aおよび
図6Bは、共振器部2の測定温度が冷却水の測定温度あるいは共振器部2の設定温度よりも低い場合のファン制御例を示し、
図6Cは共振器部2の測定温度が冷却水の測定温度あるいは共振器部2の設定温度と同じか、それよりも高い場合の制御例を示している。なお、
図6A、
図6B、および
図6C中の矢印は筐体6内にファン4、5によって発生した風を表しており、その矢印の長さは、風量の多少を示す。
【0046】
共振器部2の測定温度が冷却水の測定温度あるいは共振器部2の設定温度と同じか、それよりも高いときには、
図6Aに示すように第1のファン4と第2のファン5の各風量を同じ風量にする。しかし、共振器部2の測定温度が冷却水の測定温度あるいは共振器部2の設定温度よりも低いときは、
図6Aに示すように両ファン4、5の風向きを
図6Cのときとは逆の向きに切り換え、第2のファン5の回転数を第1のファン4よりも多くする。言い換えると、第2のファン5の風量を第1のファン4よりも多くする。これにより、共振器部2周辺の空気の温度上昇を早めることができる。
なお、
図6Aの制御例において、共振器温度測定部8は、共振器部2全体の温度状況を把握するために、熱交換器3や放電管12などの高温部から離れた場所に設置されていることが好ましい。したがって、共振器部2全体の温度状況を把握できるならば、共振器温度測定部8の場所は図示された位置に限定されない。
【0047】
さらに、
図6Bに示すように、
図6Aに示した制御例から、共振器部2の両端部の各近傍に配置されている2つの第1のファン4のみの風量を残りの第1のファン4の風量よりも増やしてもよい。これにより、共振器部2を温めるための風の流れを筐体6内に効率的に作り出すことができる。
勿論、風量を増やすべきファンは、共振器部2の両端部の各近傍に配置されている2つの第1のファン4のみに限られない。例えば、共振器部2の温度が他よりも低い箇所に近いファン4、5の風量を増大させてもよい。この場合、共振器部2の温度分布をあらかじめ動作実験して記憶装置(不図示)に記憶しておき、その温度分布データに基づいて複数のファン4、5の少なくとも一つの風量を変更することが考えられる。あるいは、共振器部温度測定部8の他にも複数の温度測定部(不図示)をそれぞれ共振器部2の全体にわたって配置し、それらの温度測定部の測定値に基づいて共振器部2の温度分布を把握して複数のファン4、5の少なくとも一つの風量を変更してもよい。このような制御により、相対的に温度の低い部分に温かい空気をより多く供給できるので、共振器部2を均一に温めることができる。
【0048】
また、
図7は本実施形態のファン4、5の他の制御例を示した図であり、当該ファンの風向きを
図2中に示したものである。
前述した
図6の制御例では、共振器部2の測定温度が冷却水の測定温度あるいは共振器部2の設定温度よりも低いとき、全てのファン4と全てのファン5とを動作させて、熱交換器3から共振器部2に向かって風を供給している。しかし、
図7に示す例のように、複数のファン4、5のうちの一部(ファン4a、5a)の動作を停止してもよい。つまり、前述したように取得可能な共振器部2の温度分布に応じて、複数のファン4、5の全部または一部を動作させることが好ましい。これにより、共振器部2の発熱部分によって温められた空気を、発熱しない部分に流すことができるので、共振器部2を均一に温めることができる。
【0049】
以上のように、ファン4、5の風向きと送風の強弱(回転数)を各々独立、または組み合わせることにより、低温環境においてレーザ発振器1の起動または再開から発振準備完了に要する時間を短縮することができる。加えて、共振器部2および筐体6内を均一に温めることができる。
【0050】
以上、レーザ高速軸流型ガスレーザ装置を例にして本発明を説明したが、本発明はガスレーザ装置に限定されず、固体レーザや半導体レーザに適用できる。また、本発明は、熱が発生する発熱構造部を筐体内に密閉し、熱交換器とファンとの協同動作によって筐体内を冷却するものならば、如何なるものにも適用できる。
また、以上では典型的な実施形態を示したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲で上述の実施形態を様々な形、構造や材料などに変更可能である。