(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記劣化判定部は、複数のPCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数のうち、周波数が低い側から所定割合の固有振動数を閾値として、前記固有振動数検出部が検出した前記たわみ3次モードの固有振動数が、当該閾値よりも低周波であると判定すると、判定対象の前記PCまくらぎが劣化していると判定する、請求項1または請求項2に記載のPCまくらぎ劣化判定システム。
前記劣化判定部は、健全なPCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数に基づいて設定された閾値よりも、前記固有振動数検出部が検出した前記たわみ3次モードの固有振動数が低周波であると判定すると、判定対象の前記PCまくらぎが劣化していると判定する、請求項1または請求項2に記載のPCまくらぎ劣化判定システム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本発明の一実施形態におけるPCまくらぎ劣化判定システムの機能構成を示す概略ブロック図である。同図において、PCまくらぎ劣化判定システム1は、収録・診断器100と、振動測定部200とを具備する。収録・診断器100は、表示部110と、記憶部180と、制御部190とを具備する。制御部190は、固有振動数検出部191と、劣化判定部192とを具備する。振動測定部200は、インパルスハンマ210と、加速度センサ220とを具備する。
【0018】
振動測定部200は、加振されたPCまくらぎ(枕木)の振動を測定する。
インパルスハンマ210は、PCまくらぎを加振する。さらに、インパルスハンマ210は、加速度センサを有し、加振力を収録・診断器100へ送信する。
加速度センサ220は、インパルスハンマ210によって加振されたPCまくらぎの振動を測定する。加速度センサ220は、例えば加速度センサを用いて構成され、加速度(加振力に対する加速度応答)の測定データを収録・診断器100へ送信する。また、後述するように、粘着性のある油脂を用いて、加速度センサ220を判定対象のPCまくらぎに設置することができる。
【0019】
収録・診断器100は、PCまくらぎのたわみ3次固有振動数を検出して当該PCまくらぎの劣化判定を行う。ここでいう劣化判定は、劣化の有無の判定である。さらに、収録・診断器100が、PCまくらぎの劣化の程度を判定するようにしてもよい。
収録・診断器100は、例えばタブレットPC(Tablet Personal Computer)などのコンピュータを用いて構成される。特に、携帯型のコンピュータを用いて収録・診断器100を構成することで、線路の保守点検作業員が、現場で収録・診断器100を用いて容易にまくらぎの点検を行うことができる。
【0020】
表示部110は、例えば液晶パネルなどの表示画面を有し、各種画像を表示する。特に、表示部110は、PCまくらぎの劣化判定結果を表示する。
記憶部180は、収録・診断器100の有する記憶デバイスを用いて構成され、各種データを記憶する。特に、記憶部180は、振動測定部200によるPCまくらぎの振動測定データや、劣化判定の基準となる閾値を記憶する。
【0021】
制御部190は、収録・診断器100の各部を制御して各種機能を実行する。制御部190は、例えば収録・診断器100の有するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)が、記憶部180からプログラムを読み出して実行することで実現される。
固有振動数検出部191は、振動測定部200による振動の測定結果からたわみ3次モードの固有振動数を検出する。
【0022】
劣化判定部192は、固有振動数検出部191が検出したたわみ3次モードの固有振動数が所定条件よりも低周波か否かに基づいて、PCまくらぎが劣化しているか否かを判定する。より具体的には、劣化判定部192は、当該固有振動数が所定条件よりも低周波であると判定すると、PCまくらぎが劣化していると判定する。
例えば、劣化判定部192は、複数のPCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数のうち、周波数が低い側から所定割合(例えば5パーセント(%))の固有振動数を閾値として判定を行う。劣化判定部192は、固有振動数検出部191が検出したたわみ3次モードの固有振動数が、当該閾値よりも低周波であると判定すると、判定対象のPCまくらぎが劣化していると判定する。
【0023】
図2は、PCまくらぎ劣化判定システム1の外形の例を示す概略外形図である。同図において、収録・診断器100と、インパルスハンマ210と、加速度センサ220とが示されている。インパルスハンマ210と収録・診断器100と、および、加速度センサ220と収録・診断器100とは、それぞれBNC同軸ケーブルなどの信号線で接続されている。
加速度センサ220は、PCまくらぎの振動データとして加速度の測定データを収録・診断器100へ送信する。
インパルスハンマ210は、加振力のデータとして加速度の測定データを収録・診断器100へ送信する。
【0024】
加速度センサ220の測定する加速度と、インパルスハンマ210の測定する加振力とに基づいて、収録・診断器100の固有振動数検出部191が、加速度のフーリエスペクトルを加振力で除算したアクセレランス(Accelerance)を算出し、得られたアクセレランスからたわみ3次モードの固有振動数を検出する。
なお、固有振動数検出部191がアクセレランスに変えて加速度のフーリエスペクトルからたわみ3次モードの固有振動数を検出するようにしてもよい。この場合、インパルスハンマ210は加振力を測定する必要がなく、したがって、加速度センサを有していなくてもよい。
なお、インパルスハンマ210と収録・診断器100と、および/または、加速度センサ220と収録・診断器100とが、無線通信を行うようにしてもよい。
【0025】
次に、
図3および
図4を参照して、インパルスハンマ210による加振位値および加速度センサ220の設置位置の例について説明する。
図3は、インパルスハンマ210による加振位置および加速度センサ220の設置位置を、PCまくらぎを上から見た図において示す説明図である。同図の例において、加速度センサ220は、レールより外側かつレールの近傍に設けられている。また、インパルスハンマ210は、加速度センサ220の設置位置と反対側のレールより外側かつレールの近傍にてPCまくらぎに加振する。
【0026】
図4は、インパルスハンマ210による加振位置および加速度センサ220の設置位置を、PCまくらぎを横から見た図において示す説明図である。
図4では、
図3を参照して説明した位置が別の角度から示されている。
図3を参照して説明したように、加速度センサ220は、レールより外側かつレールの近傍に設けられている。また、インパルスハンマ210は、加速度センサ220の設置位置と反対側のレールより外側かつレールの近傍にてPCまくらぎに加振する。
但し、インパルスハンマ210による加振位置や加速度センサ220の設置位置は、
図3および
図4に示す位置に限らない。特に、後述するように、加速度センサ220の設置位置は、PCまくらぎの中央付近とすることもできるし、PCまくらぎの端付近とすることもできる。
【0027】
次に、
図5〜
図8を参照して、固有振動数検出部191が検出するたわみ3次モードの固有振動数について説明する。
図5は、PCまくらぎの劣化による固有振動数の変化の例を示すグラフである。同図の横軸は曲げ剛性を示し、縦軸は固有振動数を示す。
図5では、剛体としての上下、剛体としての回転、たわみ1次モード〜たわみ5次モードの各固有振動数の変動率が、曲げ剛性が1(基準値)の場合の固有振動数を1として示されている。
なお、弾性係数(ヤング率)をEとし、断面2次モーメントをIとして、曲げ剛性はEIで示される。
【0028】
図5に示す各固有振動数のうち、たわみ2次モード〜たわみ5次モードの固有振動数が、曲げ剛性の変化に応じて大きく変化している。従って、PCまくらぎにひび割れや摩耗等の劣化が生じた際に、たわみ2次モード〜たわみ5次モードの固有振動数のいずれかを測定することで、劣化による曲げ剛性の変化を検出することが考えられる。
【0029】
図6は、たわみ3次モード固有振動による、PCまくらぎの各位置での振動の大きさの例を示す説明図である。
同図において、線L11は、たわみ3次モード固有振動の波形の例を示す説明図である。線L11にて示されるように、PCまくらぎのレール部(レールが敷設される位置)付近や中央付近は、たわみ3次モード固有振動における腹の位置となる。
【0030】
また、領域A11およびA12は、ひび割れが発生し易い領域である。
領域A11は、レール部底面の領域であり、領域A12は、中央上面の領域である。レール上を鉄道車両が通過することで、レール部に負荷がかかる。これにより、領域A11が上向き(下に凸)にたわみ、正曲げ(下に凸の曲げ)によるひび割れが発生する可能性がある。
【0031】
また、左右両方の領域A11が上向きにたわむことで、その真ん中に位置する領域A12が下向き(上に凸)にたわみ、負曲げ(上に凸の曲げ)によるひび割れが発生する可能性がある。
振動波形の腹付近にひび割れ等の変形が生じることで、当該振動の周波数が変化することが考えられる。この点において、3次モード固有振動数は、レールを鉄道車両が通過することによるPCまくらぎの劣化の検出に適していると考えられる。
【0032】
図7は、バラスト道床や路盤の支持力の変化による固有振動数の変化の例を示すグラフである。同図の横軸はバラスト道床および路盤によるPCまくらぎに対する支持力を示す。縦軸は、固有振動数を示す。
図7では、剛体としての上下、剛体としての回転、たわみ1次モード〜たわみ5次モードの各固有振動数の変動率が、支持力が1(基準値)の場合の固有振動数を1として示されている。
また、領域A21は、バラスト道床および路盤によるPCまくらぎに対する支持力として通常想定される範囲を示す。
【0033】
図7において、たわみ3次モード固有振動数の変動は、領域A21の範囲において−0.9パーセント〜1.5パーセントとなっている。このように、バラスト道床および路盤によるPCまくらぎに対する支持力の変動が、たわみ3次モード固有振動数の変動に及ぼす影響は小さい。従って、劣化判定部192が、たわみ3次モード固有振動数を用いて劣化判定を行うことで、バラスト道床および路盤によるPCまくらぎに対する支持力の変動をPCまくらぎの劣化と誤判定してしまう可能性を低くすることができる。
【0034】
図8は、PCまくらぎに対する両端支持力の変化による固有振動数の変化の例を示すグラフである。同図の横軸はPCまくらぎに対する両端支持力を示す。縦軸は、固有振動数を示す。
図8では、剛体としての上下、剛体としての回転、たわみ1次モード〜たわみ5次モードの各固有振動数の変動率が、PCまくらぎに対する両端支持力が1(基準値)の場合の固有振動数を1として示されている。
【0035】
同図に示すように、PCまくらぎに対する両端支持力の変動が、たわみ3次モード固有振動数の変動に及ぼす影響は小さい。従って、劣化判定部192が、たわみ3次モード固有振動数を用いて劣化判定を行うことで、PCまくらぎに対する両端支持力の変動をPCまくらぎの劣化と誤判定してしまう可能性を低くすることができる。
【0036】
次に、
図9〜
図12を参照して、加速度センサ220の設置方法について説明する。
図9は、加速度センサ220の設置位置を示す説明図である。同図において、領域A31は、PCまくらぎの中央の領域である。領域A32は、レール直下の領域である。領域A33は、PCまくらぎの端(支持直上)の領域である。
以下、領域A31、A32、A33の各々について、シリコングリス、エポキシ系接着剤、エポキシ系接着剤+絶縁板、養生テープ+エポキシ系接着剤+絶縁板のそれぞれで加速度センサ220を設置した場合の測定状況を示す。
【0037】
図10は、PCまくらぎ中央(領域A31)の上面に加速度センサ220を設置した場合に、加速度センサ220が測定する加速度の周波数分布の例を示す説明図である。同図の横軸は周波数を示し、縦軸は加速度を示す。
同図において、シリコングリス、エポキシ系接着剤、エポキシ系接着剤+絶縁板、養生テープ+エポキシ系接着剤+絶縁板のいずれを用いて加速度センサ220を設置した場合も、同様の波形となっている。特に、600ヘルツ(Hz)から1000ヘルツまでの範囲におけるピークの周波数は、いずれの場合も同じである。このピークの周波数は、たわみ3次モード固有振動数におけるピークである。従って、上記のいずれを用いて加速度センサ220を設置しても同様に、固有振動数検出部191は、たわみ3次モード固有振動数を検出し得る。
【0038】
図11は、レール直下(領域A32)のPCまくらぎ上面に加速度センサ220を設置した場合に、加速度センサ220が測定する加速度の周波数分布の例を示す説明図である。同図の横軸は周波数を示し、縦軸は加速度を示す。
同図において、シリコングリス、エポキシ系接着剤、エポキシ系接着剤+絶縁板、養生テープ+エポキシ系接着剤+絶縁板のいずれを用いて加速度センサ220を設置した場合も、同様の波形となっている。特に、600ヘルツ(Hz)から1000ヘルツまでの範囲におけるピークの周波数は、いずれの場合も同じである。従って、
図10の場合と同様、
図11の場合においても、上記のいずれを用いて加速度センサ220を設置しても同様に、固有振動数検出部191は、たわみ3次モード固有振動数を検出し得る。
【0039】
図12は、PCまくらぎ端部(領域A32)の上面に加速度センサ220を設置した場合に、加速度センサ220が測定する加速度の周波数分布の例を示す説明図である。同図の横軸は周波数を示し、縦軸は加速度を示す。
同図において、シリコングリス、エポキシ系接着剤、エポキシ系接着剤+絶縁板、養生テープ+エポキシ系接着剤+絶縁板のいずれを用いて加速度センサ220を設置した場合も、同様の波形となっている。特に、600ヘルツ(Hz)から1000ヘルツまでの範囲におけるピークの周波数は、いずれの場合も同じである。従って、
図10の場合と同様、
図12の場合においても、上記のいずれを用いて加速度センサ220を設置しても同様に、固有振動数検出部191は、たわみ3次モード固有振動数を検出し得る。
【0040】
ここで、エポキシ系接着剤を用いて加速度センサ220を設置する場合、接着剤が固まるのを待って振動の測定を行う必要があり、測定開始までに多大な時間を要する。これに対して、シリコングリスを用いて加速度センサ220を設置する場合、設置後ただちに粘着性を得られ、速やかに測定可能である。また、シリコングリスを用いて加速度センサ220を設置した場合、加速度センサ220の撤去も容易に行える。このようにシリコングリスを用いて加速度センサ220を設置することで、エポキシ系接着剤を用いる場合よりも設置・撤去時間を大幅に短縮し得る。
また、
図10〜
図12に示すように、加速度センサ220をPCまくらぎの中央、レール下、端部のいずれに設置しても、たわみ3次モード固有振動数を検出し得る。
【0041】
次に、PCまくらぎ劣化判定システム1の動作について説明する。
図13は、PCまくらぎ劣化判定システム1が行う処理の手順の例を示すフローチャートである。
図13の処理において、振動測定部200は、PCまくらぎを加振して振動を測定する(ステップS101)。具体的には、ユーザ(例えば、線路保守点検作業員)が、加速度センサ220をPCまくらぎに設置した状態で、インパルスハンマ210を用いてPCまくらぎを叩く。
【0042】
加速度センサ220の設置位置は、例えば、
図3および
図4を参照して説明したように、レール設置部の外部10ミリメートル(mm)から20ミリメートルの範囲内とする。また、加振位置は、例えば、
図3および
図4を参照して説明したように、加速度計と反対側のレール設置部の外側10ミリメートルから20ミリメートルの範囲内とする。
そして、加速度センサ220は、PCまくらぎの振動を加速度にて測定し、測定データを収録・診断器100へ送信する。また、インパルスハンマ210は加振力を収録・診断器100へ送信する。収録・診断器100において記憶部180は、加速度センサ220からの加速度データとインパルスハンマ210からの加振力データとを記憶する。
【0043】
次に、固有振動数検出部191は、加速度センサ220が測定した加速度に基づいて、PCまくらぎのたわみ3次固有振動数を検出する(ステップS102)。
図14は、固有振動数検出部191がたわみ3次固有振動数を検出する処理手順の例を示すフローチャートである。固有振動数検出部191は、
図13のステップS102において、
図14の処理を行う。
【0044】
図14の処理において、固有振動数検出部191は、記憶部180の記憶しているデータから、衝撃応答が記録された一定時間分を切り出す(ステップS201)。例えば、固有振動数検出部191は、インパルスハンマ210が測定した加振力が振幅最大を記録した時間から0.2秒間について、加速度センサ220が測定した加速度のデータと、インパルスハンマ210が測定した加振力のデータとを切り出す。
以下では、インパルスハンマ210が測定した加振力を単に「加振力」と称する。また、加速度センサ220が測定した加速度を「加速度応答」と称する。
【0045】
次に、固有振動数検出部191は、ステップS201で切り出した加振力、加速度応答それぞれのフーリエスペクトルを算出する(ステップS202)。そして、固有振動数検出部191は、加速度応答のフーリエスペクトルを加振力のフーリエスペクトルで除算することで、アクセレランスを求める(ステップS203)。
さらに、固有振動数検出部191は、得られたアクセレランスのうち、PCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数が励起される周波数帯域を切り出す(ステップS204)。具体的には、固有振動数検出部191は、アクセレランスのうち600ヘルツから1000ヘルツまでの範囲のデータを切り出す。
【0046】
そして、固有振動数検出部191は、切り出したアクセレランスのデータの無次元化を行う(ステップS205)。具体的には、固有振動数検出部191は、切り出したデータを当該データの最大値で除算する基準化を行う。
そして、固有振動数検出部191は、アクセレランスが1(最大値)となる振動数(周波数)をたわみ3次モードの固有振動数として検出する(ステップS206)。
その後、
図14の処理を終了して
図13に戻る。
【0047】
なお、固有振動数検出部191が、アクセレランスに代えて、加速度応答のフーリエスペクトルからたわみ3次モードの固有振動数を検出するようにしてもよい。この場合、ステップS201やS202における加振力に対する処理、および、ステップS203の処理は不要である。また、ステップS204〜S206において、「アクセレランス」を「加速度応答のフーリエスペクトル」と読み替える。
【0048】
図13に戻って、ステップS102の後、固有振動数検出部191は、ステップS101およびS102の処理を所定回数繰り返したか否かを判定する(ステップS103)。例えば、固有振動数検出部191は、ステップS101およびS102の処理を3回実行したか否かを判定する。
ステップS101およびS102の処理の所定回数繰り返しが完了していないと判定した場合(ステップS103:NO)、ステップS101へ戻って繰り返しを実行する。
【0049】
一方、繰り返しが完了したと判定した場合(ステップS103:YES)、固有振動数検出部191は、繰り返しにて得られた複数の固有振動数の平均値を算出し、PCまくらぎを識別するための識別情報(ID)とともに記憶部180に記憶させる(ステップS104)。PCまくらぎの識別情報として、例えばキロ程やまくらぎ番号を用いることができる。
そして、劣化判定部192は、得られた固有振動数に基づいてPCまくらぎの劣化判定を行う(ステップS105)。
【0050】
図15は、劣化判定部192がPCまくらぎの劣化判定を行う処理手順の第1の例を示す説明図である。劣化判定部192は、
図13のステップS105において
図15の処理を行う。
図15の処理において、劣化判定部192は、固有振動数検出部191が算出した平均値が所定の閾値より小さいか否かを判定する(ステップS301)。
【0051】
PCまくらぎの劣化診断データベースが構築されている場合、他のPCまくらぎの固有振動数に基づいて当該閾値を決定する。例えば、ステップS301において劣化判定部192は、データベース内の下位5パーセントに含まれるか否かを判定する。この5パーセントは、PCまくらぎうち劣化しているものの割合が約5パーセントであるとの経験則に基づく値である。
【0052】
平均値が閾値以上であると判定した場合(ステップS301:NO)、
図15の処理を終了し、
図13の処理も終了する。
一方、平均値が閾値より小さいと判定した場合(ステップS301:YES)、表示部110は、重要監視アラームを表示する(ステップS302)。ここでいう重要監視アラームは、対象となるPCまくらぎが劣化している可能性があり監視が必要であることを示すアラームである。
ステップS302の後、
図15の処理を終了し、
図13の処理も終了する。
【0053】
なお、1つのPCまくらぎに限らず、一群のPCまくらぎを重要監視対象としてもよい。具体的には、重要監視アラームの発せられたPCまくらぎと同じ路線の一群のPCまくらぎ、または、同じ製造パッチの一群のPCまくらぎを重要監視対象とする。
路線を対象とする場合、地盤や通過トン数や降雨などの環境的要因の影響を把握する。また、製造パッチを対象とする場合、製造時のコンクリートの材質の影響を把握する。そして、同様のPCまくらぎを重要監視対象とする。
これは、過去に異常が確認されたPCまくらぎと同様の箇所で同様の異常が発生する可能性が比較的高いとの経験則に基づく。
【0054】
PCまくらぎの劣化診断データベースが構築されていない場合、劣化判定部192が、健全なPCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数に基づいて設定された閾値を用いて判定を行うことが考えられる。この場合、劣化判定部192は、固有振動数検出部191が検出したたわみ3次モードの固有振動数が当該閾値よりも低周波であると判定すると、判定対象の前記PCまくらぎが劣化していると判定する。
【0055】
図16は、劣化判定部192がPCまくらぎの劣化判定を行う処理手順の第2の例を示す説明図である。劣化判定部192は、
図13のステップS105において
図15の処理に代えて
図16の処理を行う。
図16の処理において、劣化判定部192は、固有振動数検出部191が算出した平均値が所定の第1閾値より小さいか否かを判定する(ステップS401)。第1閾値は、例えば健全なPCまくらぎの固有振動数の85パーセントに設定する。
【0056】
平均値が第1閾値より小さいと判定した場合(ステップS401:YES)、表示部110は、重大な劣化発生のアラームを表示する(ステップS402)。その後、
図16の処理を終了し、
図13の処理も終了する。
重大な劣化発生のアラームは、例えばひび割れが鉄筋に達する可能性があるなど、重大な劣化が発生している可能性を示すアラームである。
【0057】
一方、ステップS401において平均値が第1閾値以上であると判定した場合(ステップS401:NO)、劣化判定部192は、平均値が所定の第2閾値より小さいか否かを判定する(ステップS403)。第2閾値は、第1閾値より大きい閾値であり、例えば健全なPCまくらぎの固有振動数の95パーセントに設定する。
【0058】
平均値が第2閾値より小さいと判定した場合(ステップS403:YES)、表示部110は、劣化発生のアラームを表示する(ステップS404)。劣化発生のアラームは、重大な劣化発生のアラームよりは軽微な劣化が発生している可能性を示すアラームである。
ステップS404の後、
図16の処理を終了し、
図13の処理も終了する。
一方、ステップS403において平均値が第2閾値以上であると判定した場合(ステップS403:NO)、
図16の処理を終了し、
図13の処理も終了する。
なお、軌道の定期徒歩巡回点検終了時に、当該巡回点検で記録した全てのPCまくらぎの固有振動数の平均値を降順にソートし、劣化状態のランキングとしてアウトプットするようにしてもよい。
【0059】
以上のように、振動測定部200は、加振されたPCまくらぎの振動を測定する。そして、固有振動数検出部191は、振動の測定結果からたわみ3次モードの固有振動数を検出する。そして、劣化判定部192は、固有振動数検出部191が検出したたわみ3次モードの固有振動数が所定条件よりも低周波であると判定すると、判定対象のPCまくらぎが劣化していると判定する。
これにより、PCまくらぎ劣化判定システム1では、目視点検に頼らずにPCまくらぎの劣化判定を行うことができ、この点において、PCまくらぎの劣化状況をより容易に把握することができる。
【0060】
また、劣化判定部192は、複数のPCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数のうち、周波数が低い側から所定割合の固有振動数を閾値として、固有振動数検出部191が検出したたわみ3次モードの固有振動数が、当該閾値よりも低周波であると判定すると、判定対象のPCまくらぎが劣化していると判定する。
これにより、PCまくらぎ劣化判定システム1では、劣化しているPCまくらぎの割合に応じた閾値を用いて劣化判定を行うなど、PCまくらぎの保守点検における実績に応じた閾値を用いることができる。これにより、より正確にPCまくらぎの劣化判定を行うことができる。
【0061】
また、劣化判定部192は、健全なPCまくらぎのたわみ3次モードの固有振動数に基づいて設定された閾値よりも、固有振動数検出部191が検出したたわみ3次モードの固有振動数が低周波であると判定すると、判定対象のPCまくらぎが劣化していると判定する。
これにより、PCまくらぎ劣化判定システム1では、ユーザは、健全なPCまくらぎを基準として比較的容易に閾値を設定することができる。
【0062】
また、振動測定部200の振動測定用センサは、粘着性のある油脂を用いて判定対象のPCまくらぎに設置される。
これにより、PCまくらぎ劣化判定システム1では、加速度センサ220の設置後速やかにPCまくらぎの劣化判定を行うことができる。また、加速度センサ220を速やかに撤去することができる。
【0063】
次に
図17〜
図22を参照して、本実施形態の方法によるPCまくらぎの劣化診断の例について説明する。
図17は、プレテンションPCまくらぎのたわみ3次モード固有振動数の例を示すグラフである。同図の横軸は振動数(周波数)を示し、縦軸はアクセレランスをピーク値で除算して基準化した値を示す。同図に示すまくらぎAは、健全なまくらぎである。まくらぎBおよびCは、比較的浅いひび割れが入ったまくらぎである。まくらぎDおよびEは、比較的深いひび割れが入ったまくらぎである。まくらぎFは、試験済みのまくらぎである。
【0064】
図18は、
図17から検出されるたわみ3次モード固有振動数を示すグラフである。
図18の縦軸は振動数を示し、まくらぎA〜Fの各々について
図17におけるピークにて示される固有振動数が示されている。
図19は、
図18に示される固有振動数を相対化した値を示すグラフである。具体的には、
図19では、まくらぎA〜Fの各々の固有振動数を、健全なまくらぎであるまくらぎAの固有振動数で除算した値が示されている。また、
図19では、第1閾値の例として、健全なPCまくらぎの85パーセントの値、および、第2閾値の例として、健全なPCまくらぎの95パーセントの値が示されている。
【0065】
図19において、健全なまくらぎであるまくらぎAは、固有振動数の相対値が第2閾値より大きくなっている。
一方、劣化したまくらぎであるまくらぎB〜Eおよび試験済みのまくらぎであるまくらぎFは、固有振動数の相対値が第2閾値より小さくなっており、劣化している可能性があることが示されている。
【0066】
図20は、ポストテンションPCまくらぎのたわみ3次モード固有振動数の例を示すグラフである。同図の横軸は振動数(周波数)を示し、縦軸はアクセレランスをピーク値で除算して基準化した値を示す。同図に示すまくらぎAおよびBは、健全なまくらぎである。まくらぎCおよびDは、比較的浅いひび割れが入ったまくらぎである。まくらぎEおよびFは、比較的深いひび割れが入ったまくらぎである。まくらぎGは、試験済みのまくらぎである。
【0067】
図21は、
図20から検出されるたわみ3次モード固有振動数を示すグラフである。
図21の縦軸は振動数を示し、まくらぎA〜Gの各々について
図20におけるピークにて示される固有振動数が示されている。
図22は、
図21に示される固有振動数を相対化した値を示すグラフである。具体的には、
図22では、まくらぎA〜Gの各々の固有振動数を、健全なまくらぎであるまくらぎAの固有振動数で除算した値が示されている。また、
図22では、第1閾値の例として、健全なPCまくらぎの85パーセントの値、および、第2閾値の例として、健全なPCまくらぎの95パーセントの値が示されている。
【0068】
図22において、健全なまくらぎであるまくらぎAおよびBは、固有振動数の相対値が第2閾値より大きくなっている。
一方、劣化したまくらぎのうちまくらぎD〜Fおよび試験済みのまくらぎであるまくらぎGは、固有振動数の相対値が第2閾値より小さくなっており、劣化している可能性があることが示されている。
さらに、まくらぎFおよびGは、固有振動数の相対値が第1閾値より小さくなっており、重大な劣化が発生している可能性があることが示されている。
【0069】
なお、制御部190の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0070】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。