特許第6110939号(P6110939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6110939フレキシブル基材上にバリヤー層を製造するための方法および機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6110939
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】フレキシブル基材上にバリヤー層を製造するための方法および機器
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20170327BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20170327BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170327BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20170327BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170327BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20170327BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C23C16/42
   C23C16/50
   B32B9/00 A
   B32B27/36
   H05B33/14 A
   H05B33/02
   H05B33/04
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-517838(P2015-517838)
(86)(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公表番号】特表2015-528051(P2015-528051A)
(43)【公表日】2015年9月24日
(86)【国際出願番号】GB2013051540
(87)【国際公開番号】WO2013190269
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】1210836.1
(32)【優先日】2012年6月19日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509077761
【氏名又は名称】フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】スタロスティン,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴリーズ,ヒンドリク
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/092384(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02226832(EP,A1)
【文献】 国際公開第2010/092383(WO,A1)
【文献】 特開2005−320583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00− 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にバリヤー層を製造するための方法であって、該方法が
基材上に0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機酸化物層を提供し;そして
続いて、無機酸化物層を有する該基材を、大気グロー放電プラズマ中で、処理空間において10W/cm以上の電力密度を用いて、付着速度を5nm/秒以下に制御することにより、処理して封止層を形成する;
ことを含み、
該プラズマは、少なくとも2つの電極により、該少なくとも2つの電極の間に形成される処理空間において発生させ、
該処理空間は、操作中に酸素および2〜50ppmの量の前駆体材料を含む封止層形成用ガスの混合物を含み、
無機酸化物層及び封止層が酸化ケイ素層である、
前記方法。
【請求項2】
無機酸化物層を有する基材の処理空間における処理を150℃未満の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
無機酸化物層を有する基材の処理空間における処理を20分未満の時間中に行う、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
基材がPETまたはPENなどのフレキシブルポリマー基材である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前駆体材料が、TEOS(テトラエトキシシラン)、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)、HMDSN(ヘキサメチルジシラザン)、TMDSO(テトラメチルジシロキサン)またはTMCTS(テトラメチルシクロテトラシロキサン)を含む群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
無機酸化物層を基材上に大気グロー放電プラズマを用いて提供する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法であって、前記プラズマを、少なくとも2つの電極により、該少なくとも2つの電極の間に形成される処理空間において発生させ、該処理空間が、操作中に酸素および前駆体材料を含む無機酸化物層形成用ガスを含む、前記方法。
【請求項7】
無機酸化物層形成用ガスが、5%を超える濃度の酸素と、250〜5000ppmの量の前駆体材料を含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上にバリヤー層を製造するための方法に関する。本発明はさらに、そのようなバリヤー層を製造するための機器に関する。それに加えて、本発明は、酸化ケイ素バリヤー層を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、とりわけ、導電性ポリマーを例えば電子デバイス、光電池および/または半導体デバイスとともに含む電子デバイスの包囲および/または支持基材に適用することができる。
これまで、光学ガラスが電子表示用途において基材として用いられてきた。これは、光学ガラスが光学的および平坦性の要件を満たすことができ、耐熱性および耐薬品性ならびに良好なバリヤー性を有するためである。ガラスの使用の主な不利点は、その重量、フレキシブルでないこと、および脆性に関連する。このため、フレキシブルプラスチック材料がガラスの代替品として提案されてきた。
【0003】
ポリマー基材の使用の不利点は、それらの耐薬品性がより低く、バリヤー性が劣る点である。
化合物または化学元素の付着に用いられる大気圧グロー放電プラズマはダスト形成の問題を有し、これにより、平滑表面の形成を達成することができず、用いられる器材にダストが短時間で蓄積して、バリヤー層の粗さのように、より劣るバリヤー性を有する製品がもたらされることは、公知の事実である。
【0004】
Maechler et al.による“Deposition of dual−layer of SiO/SiO by Townsend dielectric barrier discharge”という論文には、二重層バリヤーをポリマー基材上に形成することが記載されている。該方法では、処理空間において大気圧タウンゼント放電モード(グロー放電モードとは異なる)が用いられる。有機材料SiOの第1(シールド)層を付着させた後、SiOバリヤー層を付着させる。該論分には、大気圧タウンゼント放電プラズマ中でポリマー上に直接付着させたSiOコーティングは、ポリマーの損傷を引き起こして、コーティングされていないポリマーよりバリヤー性が低くなることも開示されている。達成すべきであると報告されている最良の結果は、バリヤー性の10倍の改善である(バリヤー改善係数BIF=10)。
【0005】
出願人により提出されている国際特許出願WO2007139379号には、処理空間におけるダスト形成を妨げるために、所定のton時間および所定のガス組成物を用いて基材上に無機層を付着させるプロセスが記載されている。
【0006】
さらに、国際特許出願WO2006097733号には、最初に平坦化コーティング組成物を施用した後、高エネルギー蒸着によりバリヤーフィルムを提供することにより、バリヤーを有する複合体フィルムを作製する方法が記載されている。
【0007】
ともに出願人により提出されている国際特許出願WO2010092383号およびWO2010092384号には、電力供給源に接続されている2以上の相対する電極の間に形成される処理空間において大気圧グロー放電プラズマを用い、該処理空間において前駆体と酸素を含む調整されたガス組成物を用いて、ポリマー基材上に2つの層を付着させるプロセスが記載されている。どちらのプロセスでも、無機材料の第2層を、酸素が3%以上の濃度を有する処理空間において第1層上に付着させ、電力供給源を、2以上の相対する電極間の間隙の両端間のエネルギーが40J/cm以上になるように制御する。
【0008】
OLEDデバイスの製造プロセスなどガラス基材が関与する多くの製造プロセスでは、ガラス基材を、改善されたバリヤー性を有する金属酸化物の非常に薄い非晶質層を有するポリマーを用いて、軽量のフレキシブルポリマー基材で置き換えることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願WO2007139379号
【特許文献2】国際特許出願WO2006097733号
【特許文献3】国際特許出願WO2010092383号
【特許文献4】国際特許出願WO2010092384号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、基材、とりわけフレキシブル基材上に、改善されたバリヤーを作り出す方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様にしたがって、基材上に(酸化ケイ素)バリヤー層を製造するための方法であって、該方法が以下を含む、前記方法を提供する:
−基材上に0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機酸化物層を提供し;そして
−続いて、無機酸化物層を有する該基材を、大気グロー放電プラズマ中で、
これに関し、該プラズマは、少なくとも2つの電極により、該少なくとも2つの電極の間に形成される処理空間において発生させ、該処理空間は、操作中に酸素および2〜50ppmの量の前駆体材料を含むガスの混合物を含む、
処理空間において10W/cm以上の電力密度を用いて、局部付着速度を5nm/秒以下に制御することにより、処理して封止層を形成する。
【0012】
この点において、細孔容積は容積百分率で表され、層中の開いた空間と層中の中実材料の容積との比である。無機酸化物層の自由細孔容積は、材料の光学濃度差を測定することにより、ローレンツ−ローレンスの式を用いて決定することができる。
【0013】
酸素を含むガスは、1以上のガスが酸素原子を反応性成分として含むガス、例えばOの混合物として理解すべきである。
他の態様において、無機酸化物層を有する基材の処理空間における処理は、150℃未満、例えば100℃未満の温度で行う。
【0014】
他の態様において、無機酸化物層を有する基材の処理空間における処理は、20分未満、例えば10分未満の時間中に行う。先に概略を述べた条件を仮定すると、これは、適した封止層を基材上にバリヤー層の一部として形成するのに十分な時間である。
【0015】
一態様において、基材は、フレキシブル基材、とりわけ、PETまたはPENなどのフレキシブルポリマー基材である。他の態様において、電極はロール電極であり、フレキシブル層を、ある線速度で処理空間に通して移動させる。
【0016】
他の態様において、ガス組成物は、アルゴンまたはヘリウムのような他の不活性ガスを含むことができる。
一態様において、発生させるプラズマは、高周波または無線周波(RF)プラズマまたは放電である。
【0017】
一態様において、形成されるバリヤーの封止層は、2〜15nm、例えば、7〜12nmの厚さである。
一態様において、形成され提供される無機酸化物層は、10〜100nm、例えば20〜80nmの厚さであり、50nmであってもよい。
【0018】
一態様において、無機層を基材上に大気グロー放電プラズマを用いて提供する。これに関し、前記プラズマは、少なくとも2つの電極により、該少なくとも2つの電極の間に形成される処理空間において発生させ、該処理空間は、操作中に酸素および前駆体材料を含むガスを含む。
【0019】
他の態様において、第1の付着段階は、5%を超える、すなわち、10%または15%またはさらには21%の制御された酸素濃度を有する処理空間で行う。他の態様において、第1の付着段階の前駆体の量は第2段階と対比してはるかに多く、迅速に付着される無機酸化物層が可能になるように、250〜5000ppmの範囲である。
【0020】
処理の結果、無機酸化物層を付着させた第1層は、前駆体および局部付着速度および電力密度の制御された条件下、短時間の第2段階の付着後に封止される。これは、予期しない意外な効果であった。
【0021】
第1および/または第2の段階(それぞれ、無機層および封止層を形成する)のための代表的な前駆体材料は、TEOS(テトラエトキシシラン)、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)、HMDSN(ヘキサメチルジシラザン)、TMDSO(テトラメチルジシロキサン)、TMCTS(テトラメチルシクロテトラシロキサン)である。特定の利点を伴い用いられる1つの前駆体材料は、2〜50ppm、例えば5〜25ppmの濃度でのTEOSである。
【0022】
フレキシブル基材は、任意の種類のポリマーフィルムであることができる。代表的態様では、50〜200μmの厚さを有するPETまたはPENフィルムを用いる。
用いることができる基材の他の例は、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、すなわち、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルのコポリマー、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル−ヘキサフルオロ−プロピレンコポリマー(EPE)、テトラフルオロエチレン−エチレンもしくはプロピレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、およびポリフッ化ビニル(PVF)の透明シート、または、ポリエステルとEVA、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリウレタン、液晶ポリマー、アクラー(aclar)、アルミニウム、スパッタリングした酸化アルミニウムポリエステル(sputtered aluminum oxide polyester)、スパッタリングした酸化ケイ素もしくは窒化ケイ素ポリエステル、スパッタリングした酸化アルミニウムポリカーボネート、およびスパッタリングした酸化ケイ素もしくは窒化ケイ素ポリカーボネートの同時押出シートである。
【0023】
本発明の他の観点は、基材上にバリヤー層を製造するための装置に関する。
該装置は、
少なくとも2つの電極を含む大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置、これに関し、該少なくとも2つの電極は、前記2つの電極の間に形成される処理空間において大気圧グロー放電プラズマが発生するように配置されている、
該少なくとも2つの電極に接続されている制御ユニット、および
処理空間と連通しているガス供給ユニット、
を含み、
該制御ユニットおよびガス供給源は、
基材上に0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機酸化物層を提供し、そして
続いて、無機酸化物層を有する該基材を、処理空間において10W/cm以上の電力密度を用いて、局部付着速度を5nm/秒以下に制御することにより、処理して封止層を形成する、これに関し、該処理空間は、操作中に酸素および2〜50ppmの量の前駆体材料を含むガスの混合物を含む、
ように配置されている。
【0024】
他の態様において、制御ユニットおよびガス供給源は、上記態様のいずれか1つに従った方法が実行されるように配置されている。
さらに他の観点において、本発明は、基材、0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機層、および関連する方法態様のいずれか1つに従って製造される封止層を含む、フレキシブル基材組成物に関する。無機層は、他の態様において、他の関連する方法態様のいずれか1つに従って製造される。
【0025】
本発明を、添付図面に関連し、いくつかの代表的態様を用いて、より詳細に以下で論じる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1a図1aは、本発明に従ったプラズマ発生機器の略図を示す。
図1b図1bは、本発明に従ったプラズマ発生機器の略図を示す。
図1c図1cは、本発明に従ったプラズマ発生機器の略図を示す。
図2図2は、本発明の態様の1つに従って処理した機材の横断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ここで、本発明を、本発明の代表的態様に関連して論じる。
図1aは、本発明を実施することができるプラズマ装置の略図を示す。包囲物(図1aには示していない)内の処理チャンバーであることができる処理空間5、または開いた構造を有する処理空間5は、2つの電極2、3を含む。一般に、電極2、3は、処理空間において大気圧でグロー放電を発生させ維持することができるように、誘電体バリヤー2a、3aを備えている(図1b参照)。示している態様において、電極2、3は平面電極であり、処理空間5は長方形の空間である。処理空間5を一方の側面で閉鎖するために、サイドタブ6が提供されている。
【0028】
しかしながら、他の形の電極2、3および他の形の間隙または処理空間5が、例えばプラズマ処理装置の円筒形配置の一部として可能である。例えば、処理空間は、円筒形もしくは楕円形であることができ、または、特定タイプの基材1を処理するために適合させた他の形を有することができる。電極2、3は両方とも、平坦に方向付けられた同じ形態を有することができ(図1aに示すように)、または、両方ともロール電極であることができる(図1cに示すように)。互いに相対するロール電極と平坦または円筒形セグメント形状の電極を用いて、異なる形態を施用することもできる。他の態様において、電極は、マルチセグメント電極であることができる。2を超える電極を用いる態様も考えられる。
【0029】
一般に、大気圧プラズマは、処理空間5において2つの電極2、3の間で発生させる。あるいは、複数の電極2、3を提供する。電極2、3が少なくとも基材1と同程度の大きさの表面積を有する場合、基材1を2つの電極2、3の間の処理空間5に固定することができる。
【0030】
図1bは、2つの基材1a、1bを同時に処理する変法を示している。この代替的態様では、1つの基材1ではなく2つの基材(1a、1b)を、固定して位置決めするか、または、ガスおよびエネルギー供給がさらにより効率的に利用されるように、処理空間5において特定の速度で移動させる。図1cには、2つのサイドタブ6a、6bおよび2つの基材1a、1bを含むそのような態様の他の例を示す。
【0031】
電極2、3は両方とも、誘電体バリヤー層2a、3aを備えていることができる(図1b参照)。第1の電極2上の誘電体層2aはd1(mm)の厚さを有し、第2の電極3上の誘電体層3aはd2(mm)の厚さを有する。操作中、電極形態の全誘電体距離dは、f1(mm)およびf2(mm)により示される(1または2つの)被処理基材1a、1bの厚さも包含する。したがって、少なくとも2つの相対する電極(2、3)の間の処理空間5における誘電体バリヤーの全誘電体厚さは、d=d1+f1+f2+d2に等しい。
【0032】
他の態様において、d1とd2は両方とも0であり、誘電体バリヤーを形成する誘電体材料は基材1a、1bのみである。2つの基材1aおよび1bの場合、この場合の全誘電体厚さはd=f1+f2である。
【0033】
さらに他の態様では、d1とd2が両方とも0であり、1つの基材1のみを用いる。この態様では、全誘電体厚さはf1と等しく、したがってd=f1である。電極3が誘電体材料で覆われていないこの態様でも、安定な大気グロー放電プラズマを得ることが可能である。図1bにおける間隙距離gは、操作中に(すなわち、処理空間5において)大気圧グロー放電プラズマが存在することができる電極2、3の間の最小間隙を示し、自由電極間空間ともよばれる。電極2、3、誘電体バリヤー層2a、3a、および電極2、3間の間隙gの寸法は、処理空間5において大気圧でグロー放電プラズマが発生し維持されるように、あらかじめ決定される。
【0034】
他の態様では、電極2、3、誘電体バリヤー層2a、3a、および電極2、3間の間隙gの寸法、ならびに誘電体バリヤーの全誘電体厚さである全誘電体距離(d)を、間隙距離と全誘電体距離の積が、本明細書中で参考として援用する出願人による国際公開WO2009/104957号に開示されているように、1.0mm以下、またはさらにより好ましくは0.5mm未満になるように配置されるように制御する。
【0035】
基材1が電極領域より大きい場合、基材1を、例えばある線速度でロールからロールへの形態(roll-to-roll configuration)を用いて、処理空間5に通して移動させることができる。この例を図1cの態様に示す。基材1a、1bを、誘導ローラー9を用いて、ローラーの形状をした(ロール)電極2、3と密に接触させて誘導する。ロール電極は、例えば、取り付けシャフトまたはベアリングを用いるなどして操作中の回転が可能になるように取り付けられている円筒形状の電極として実現される。そのようなロール電極は、自由に回転することができ、または、例えば周知の制御装置および駆動ユニットを用いて、特定の角速度で駆動させることができる。サイドタブ6a、6bがローラーの端面に位置決めされていて、これにより、電極2、3の間に閉鎖された処理空間5が作り出される。
【0036】
電極2、3は電力供給源4に接続されている。これは、大気(グロー放電)プラズマが発生するように電極に電力を提供するために配置されている。
電力供給源は、広範囲の周波数、例えばf=10kHz〜30MHzをもたらす電力供給源であることができる。
【0037】
大気圧グロー放電(APGD)プラズマを用いることにより、非常に良好な結果を得ることができる。最近まで、これらのプラズマには安定性が悪いという問題があったが、例えば米国特許公報第6774569号、欧州特許EP1383359号、EP1547123号およびEP1626613号(これらを本明細書中で参考として援用する)に記載されているような安定化回路を用いると、非常に安定なAPGプラズマを得ることができる。一般に、これらのプラズマは、プラズマの局部的不安定性を解消する安定化回路21(図1aに示すような)により安定化される。プラズマ発生装置のための電力供給源4において安定化回路21をAC電源20と組み合わせて用いると、ストリーマー、フィラメント状放電または他の不完全な状態のない、制御された安定なプラズマが得られる。
【0038】
プラズマ処理装置に、被加工基材の内部領域に向けて付着段階用のガスを導くために、基材処理のためのガス供給機器8を配置することができる。供給機器8は、主要キャリヤーガス供給源としても機能する。処理空間5に、酸素ガスおよび所望による他のガスを、前駆体を含めて、ガス供給機器8を用いて導入する。破壊電圧を下げるための添加剤または混合物としてアルゴン、ヘリウムなどのキャリヤーガスを用いて、プラズマを形成してもよい。
【0039】
本明細書中で参考として援用する出願人による欧州特許EP2226832号に示されているように、ガス供給入口8aを用いて、ガスを処理空間5に導くことができる。ガス供給機器8は、当業者に公知のように、貯蔵、供給および混合用の構成部品を備えていることができる。目的は、処理空間5において、前駆体を、基材1、1a、1b上に付着させる化合物または化学元素に分解することである。
【0040】
意外にも、2つの層の付着後、優れたバリヤー性を有する基材1、1a、1bを作製することができることが見いだされた。一態様において、これは、処理空間5において酸素および前駆体を含むガス組成物を用いることにより無機酸化物を迅速に付着させ、第2段階として、10W/cm以上の電力密度、5nm/秒以下の制御された局部付着速度で、処理空間において前駆体を2〜50ppmの量に制御することにより、酸化ケイ素の非常に薄い層を付着させることにより、成し遂げられる。
【0041】
第1層の付着では、ポリマー基材単独のバリヤー性と比較して顕著なバリヤー性の改善をもたらす基材は生じない。これに加えて、10W/cm以上の制御された電力密度、処理空間中の被処理基材表面全体で5nm/秒または5nm/秒未満の制御された局部付着速度で、酸素および2〜50ppmの量の前駆体を制御して、2〜20nm(例えば厚さ7nm)の第2の薄層の付着を施用すると、優れたバリヤー性を有する基材を得ることができる。
【0042】
他の態様において、第2段階の付着のための電力供給は、600〜1200W、例えば700〜1000Wの範囲、すなわち例えば900Wである。
いくつかの(外部)パラメーターは複雑に相互作用するので、局部付着速度を制御するためにはそれらが関係してくる。前駆体種の付着は表面への前駆体フラグメントの拡散により制御され、励起周波数電圧の振幅およびデューティーサイクルにより制御される平均プラズマ出力は、前駆体の解離速度に強い影響を有する。原子酸素のレベルも、局部付着速度において非常に重要である。局部付着が5nm/秒の閾値を確実に超えないように、電極の配列により支配されるガスの流れおよび全体的間隙距離を、ガスの流れの方向におけるガス種の速度が、付着している種の表面への局部拡散を制御するのに十分に速くなるように、調整すべきである。上記パラメーターはすべて局部付着速度をもたらし、したがって、本プロセス態様のバリヤー能力に強い影響を有する。
【0043】
他の態様において、第1の付着段階は、1秒〜5分で非常に迅速に行う。
他の態様において、第1の段階は、酸素濃度を5%超(すなわち、10%または15%またはさらに21%)に制御し、処理空間5において250〜5000ppmという多量の前駆体を用いることにより行う。
【0044】
これらの処置の結果、第1の無機酸化物層の非常に速い付着が行われる。さらに、それは、ポリマー基材と比較して事実上改善されていないWVTR特性を有する第1層をもたらすことができ、0.3〜10容積%の細孔容積を有することができる。
【0045】
他の態様において、第1の付着のためのガス組成物は、上記酸素および前駆体に加え、他の含有ガス化合物を含むことができる。他の含有ガス化合物は、例えば、N(窒素)のみであるが、NH(アンモニア)およびまたはその組み合わせを含むこともできる。好ましい態様において、好ましい条件は、酸素、前駆体および窒素のみを含むことができる。
【0046】
両方の段階で処理空間において基材に供給されるガスの全量は、30〜100slmの範囲である。
さらに、両方の段階中の処理空間5の温度は、150℃未満、例えば100℃未満、例えば80℃である;両方の付着段階におけるプラズマ処理時間は、20分未満、例えば5分未満、さらに場合によっては2分未満である。60秒以下のプラズマ処理を用いて、優れた結果が見いだされた。結果として、非常に穏やかな条件、すなわち、大気圧において低温および高速で、優れたバリヤーを調製することができ、高い経済的価値がもたらされる。
【実施例】
【0047】
WVTRを、最低検出限界が5×10−4g/m×日である電量分析用セル(coloumetric cell)(電気化学セル)を用いるMocon Aquatranモデル1を用いて決定する。この方法により、IR吸収の使用による透過度測定より敏感で正確な透過度の評価が得られる。測定はすべて、40℃/相対湿度90%で行った。
【0048】
無機酸化物の自由細孔容積は、材料の光学濃度差を測定することにより、ローレンツ−ローレンスの式を用いて決定した。光学濃度差は、減圧チャンバーおよび加熱ステージを備えるWoollam分光エリプソメーターを用いて測定した。
【0049】
例えば国際公開WO2009104957号に開示されているような大気圧グロー放電プラズマ装置を用い、処理空間において、600Wのプラズマ出力、200kHzの励起周波数およびガス組成物(85%N/15%O)を用い、15W/cmの電力密度で異なる前駆体2500ppm(HMDSO/TEOS/HMDSN)を用いて、PEN(厚さ100μm)またはPET(厚さ100μm)の基材上に層を付着させることにより、いくつかの試料(ロール)を調製して、以下の実施例を得た。これらはすべて、70nmの酸化ケイ素層を有していた。
【0050】
【表1】
【0051】
付着後のPET試料の典型的なWVTRは5g/m×日であり、PENの場合、WVTRは2g/m×日である。これらのWVTR値は、裸のポリマーフィルムの値と同様である。
【0052】
次の段階として、該実施例を、第2段階において、さまざまなプラズマ出力(単位W/cm、表2に記載する通り)、200kHzの励起周波数およびガス組成物(85%N/15%O)、ならびに、表2に記載するようにさまざまな前駆体量およびさまざまな局部付着速度を用いて、同じ大気圧プラズマユニットを用いて処理した。第2段階により、1〜15nmの厚さ、すなわち、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13nmの厚さを有する酸化ケイ素層の追加的付着がもたらされた。
【0053】
【表2】
本発明は以下の態様を含む。
[1]
基材(1;1a、1b)上にバリヤー層を製造するための方法であって、該方法が
基材(1;1a、1b)上に0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機酸化物層(11)を提供し;そして
続いて、無機酸化物層(11)を有する該基材(1;1a、1b)を、大気グロー放電プラズマ中で、処理空間(5)において10W/cm以上の電力密度を用いて、局部付着速度を5nm/秒以下に制御することにより、処理して封止層(12)を形成する;
ことを含み、
該プラズマは、少なくとも2つの電極(2、3)により、該少なくとも2つの電極(2、3)の間に形成される処理空間(5)において発生させ、
該処理空間(5)は、操作中に酸素および2〜50ppmの量の前駆体材料を含むガスの混合物を含む、
前記方法。
[2]
無機酸化物層(11)を有する基材(1;1a、1b)の処理空間(5)における処理を、150℃未満、例えば100℃未満の温度で行う、[1]に記載の方法。
[3]
無機酸化物層(11)を有する基材(1;1a、1b)の処理空間(5)における処理を20分未満の時間中に行う、[1]〜[2]のいずれか一項に記載の方法。
[4]
基材(1、1a、1b)がPETまたはPENなどのフレキシブルポリマー基材である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前駆体材料が、TEOS(テトラエトキシシラン)、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)、HMDSN(ヘキサメチルジシラザン)、TMDSO(テトラメチルジシロキサン)またはTMCTS(テトラメチルシクロテトラシロキサン)を含む群から選択される、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]
無機層(11)を基材(1;1a、1b)上に大気グロー放電プラズマを用いて提供する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法であって、前記プラズマを、少なくとも2つの電極(2、3)により、該少なくとも2つの電極(2、3)の間に形成される処理空間(5)において発生させ、該処理空間(5)が、操作中に酸素および前駆体材料を含むガスを含む、前記方法。
[7]
無機層(11)が0.3〜3容積%の細孔容積を有する、[6]に記載の方法。
[8]
基材(1;1a、1b)上での無機層(11)の提供を20分未満の時間で行う、[6]または[7]に記載の方法。
[9]
ガスが、5%を超える濃度の酸素と、250〜5000ppmの量の前駆体材料を含む、[6]、[7]または[8]に記載の方法。
[10]
処理空間(5)における無機層(11)の提供を、150℃未満、例えば100℃未満の温度で行う、[6]〜[9]のいずれか一項1に記載の方法。
[11]
基材上にバリヤー層を製造するための装置であって、該装置が、以下:
少なくとも2つの電極(2、3)を含む大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置、これに関し、該少なくとも2つの電極(2、3)は、前記2つの電極(2、3)の間に形成される処理空間(5)において大気圧グロー放電プラズマが発生するように配置されている、
少なくとも2つの電極(2、3)に接続されている制御ユニット(4)、および
処理空間(5)と連通しているガス供給ユニット(8)、
を含み、
該制御ユニット(4)およびガス供給源(8)が、
基材(1;1a、1b)上に0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機酸化物層(11)を提供し、そして
続いて、無機酸化物層(11)を有する該基材(1;1a、1b)を、処理空間(5)において10W/cm以上の電力密度を用いて、局部付着速度を5nm/秒以下に制御することにより、処理して封止層(12)を形成する、
これに関し、該処理空間(5)は、操作中に酸素および2〜50ppmの量の前駆体材料を含むガスの混合物を含む、
ように配置されている、前記装置。
[12]
制御ユニット(4)およびガス供給源(8)が、[2]〜[10]のいずれか一項に記載の方法が実行されるように配置されている、[11]に記載の装置。
[13]
基材(1;1a、1b)、0.3〜10容積%の細孔容積を有する無機層(11)、および[1]〜[5]のいずれか一項に従って製造される封止層(12)を含む、フレキシブル基材組成物。
[14]
無機層(11)を[6]〜[10]のいずれか一項に従って製造する、[13]に記載のフレキシブル基材組成物。
【符号の説明】
【0054】
1 基材
1a 基材
1b 基材
2 電極
2a 誘電体バリヤー
3 電極
3a 誘電体バリヤー
4 電力供給源
5 処理空間
6 サイドタブ
6a サイドタブ
6b サイドタブ
8 ガス供給機器
8a ガス供給入口
9 誘導ローラー
20 AC電源
21 安定化回路
図1a
図1b
図1c
図2