(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料などの流体を濾過するに際しては、水分離フィルタによる水分離、プレフィルタによる粗い濾過、メインフィルタによる精緻な濾過という手順で濾過を進めていく。このような濾過手順を実現するフィルタとして従来、水分離フィルタとプレフィルタとを一体化したものを各社開発している。
【0003】
例えば特許文献1には、二以上の濾材を重ね合わせ、それぞれの濾材における燃料の流路の断面積を一次側と二次側とで異ならせるようにして異なる粒径の塵埃を段階的に捕捉するようにした発明が記載されている(特許文献1の特許請求の範囲、段落0024参照)。この発明では、最も外側に位置する濾材(上流側濾材)を織物メッシとし、燃料に含まれる水分と燃料とを分離させて水分がフィルタ体内に入り込まないようにしている(段落0024、段落0034参照)。
【0004】
ところが特許文献1に記載されているような濾材を有するフィルタを用いて粗悪燃料を濾過した場合、燃料中のダスト量が増大するに従って水分離性能が著しく低下していくことが判明した。想像するに、粗悪燃料を濾過する場合、最初に水分離フィルタを通すとダストがその濾材表面に堆積してケーキ層をなし、その部分において水濾過が叶わなくなるために水分離性能の低下を来たすものと思われる。
【0005】
このような課題に着目した発明としては特許文献2に記載された発明がある。
この文献は、「1つの濾材が、燃料中のダストと水分とを取り除く場合、濾材がダストを捕集するにしたがって、水分を取り除く機能が低下する傾向にある。このため、濾材は、水分を取り除く機能が早期に低下してしまうことが考えられる」と記述している(特許文献2の段落0004参照)。
【0006】
上記課題を解決するために特許文献2に記載された発明は、一つのハウジング内に「濾過すべき液中のダストを取り除く機能を有する筒状の第1のエレメント」つまりはプレフィルタエレメントと「液中の水分を取り除く機能を有する筒状の第2のエレメント」つまりは水分離フィルタエレメントとを隙間を開けて収納し、プレフィルタエレメントから水分離フィルタエレメントの順に燃料を通していく。こうすることで「液中の水分を取り除く機能が早期に低下することを抑制できる」ことが謳われている(特許文献2の段落0015参照)。確かにこの効果の発生には信憑性が伺われる。水分離フィルタエレメントによる水分離に先立ってプレフィルタエレメントによるプレ濾過を行なうために水分離濾材に生成されるダストのケーキ層形成が抑制され、著しい水分離性能の低下がみられなくなるものと推定されるからである。
【0007】
ところで特許文献2は、プレフィルタエレメントから水分離フィルタエレメントの順に燃料を通す具体的な実施の形態として、実施例1から実施例3までの三つの実施例を紹介している。
【0008】
実施例1は、第1のエレメント(プレフィルタエレメント)と第2のエレメント(水分離フィルタエレメント)とを外筒・内筒の二重構造とし、第1のエレメントの外周から隙間を通して第2のエレメントの内周へと燃料を流通させるようにしている(特許文献2の
図1参照)。
【0009】
実施例2は、第1のエレメント(プレフィルタエレメント)と第2のエレメント(水分離フィルタエレメント)とを内筒・外筒の二重構造とし、第1のエレメントの内周から隙間を通して第2のエレメントの外周へと燃料を流通させるようにしている(特許文献2の
図6参照)。
【0010】
実施例3は、第1のエレメント(プレフィルタエレメント)と第2のエレメント(水分離フィルタエレメント)とを直列配置し、第1のエレメントの内周から外周、隙間、そして第2のエレメントの外周から内周へと燃料を流通させるようにしている(特許文献2の
図7参照)
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の一形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態のフィルタ1は、燃料を濾過対象流体とする燃料フィルタへの適用例である。
次の項目にしたがって説明する。
1.構造
(1)概要
(2)ハウジング
(3)カバー
(4)ブラケット
(5)プレフィルタエレメント
(6)シール
(7)水分離フィルタエレメント
(8)連絡部
(9)カップとその取り付け構造
2.フィルタの組み立て
(1)ハウジング
(2)エレメントの組み込み
(3)ブラケットの取り付け
(4)カップの取り付け
3.作用効果
(1)濾過対象流体の流通経路
(2)水分離性能の維持
(3)フィルタの寿命
(4)ハウジングとプレフィルタエレメントとの間のシール
(5)プレフィルタエレメントの装着作業性
(6)連絡部に関する作用効果
(7)カップの取付構造に関する作用効果
4.変形例
【0020】
1.構造
(1)概要
図1に示すように本実施の形態のフィルタ1は、ハウジング11の内部にプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とを収納しいている。プレフィルタエレメント101は濾過対象流体である燃料をプレ濾過、つまり粗く濾過するフィルタエレメントである。水分離フィルタエレメント201は燃料から水を分離するフィルタエレメントである。フィルタ1は入口32(流入口52)から導入した燃料をプレフィルタエレメント101でまずプレ濾過し、その後に水分離フィルタエレメント201で燃料から水を分離する。そして水から分離した燃料を出口33(流出口53)に案内する。その一方で燃料から分離した水をカップ71に溜める。
【0021】
図1中、矢印は濾過対象流体の流通経路を示している。次のとおり。
・太い実線矢印:プレフィルタエレメント101でのプレ濾過前の燃料の経路
・太い破線矢印:プレフィルタエレメント101でのプレ濾過後の燃料の経路
・細い実線矢印:水分離フィルタエレメント201での水分離後の燃料の経路
・細い破線矢印:水分離フィルタエレメント201で分離された水の経路
【0022】
(2)ハウジング
ハウジング11は一端側が全面的に開口して他端側が閉じた筒状のもので、金属によって形成されている。もっともハウジング11の閉じられた他端側には取付孔12が形成されている。この取付孔12には後述するカップ71、つまり水分離フィルタエレメント201が燃料から分離した水を溜めるいわゆるクリアカップを取り付けるための構造が組み込まれている。カップ71の取付構造の詳細については「1.構造(9)カップとその取り付け構造」の項目で詳しく述べる。
【0023】
図1に示すようにハウジング11は、いずれの部分においても直径が同一であるいわば直菅形状をしている。
【0024】
(3)カバー
ハウジング11の開口する一端側には金属製のカバー31が固定されている。かしめ止めである。カバー31は燃料の入口32と出口33とを形成している。出口33はカバー31の中心に配置された外部に向けて突出する筒状のもので、内周面に雌ねじ33aを切っている。入口32は出口33の周囲に複数個形成された孔である。本実施の形態では出口33の周囲に開けられた七つの孔が入口32を形成している。
【0025】
カバー31は出口33を生成する筒状の部分の根元を鋭角に屈曲させ、傾斜した領域を形成している。この傾斜した領域に七つの入口32を配列している。また鋭角に屈曲する部分は曲面状に屈曲し、押当部34を形成している。押当部34はプレフィルタエレメント101及びパッキンS2に押し当たり、ハウジング11の内部でプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とを位置決めする役割を担う。この辺のことについては「1.構造(5)プレフィルタエレメント」及び「2.フィルタの組み立て(2)エレメントの組み込み」の項目で詳しく述べる。
【0026】
(4)ブラケット
カバー31にはブラケット51が取り付けられている。ブラケット51は例えば樹脂製であり、その中心部分は筒状に形成されている。筒状になった部分の外周面には雄ねじ52aが切られ、この雄ねじ52aがカバー31の雌ねじ33aに螺合して締め込まれることで、カバー31にブラケット51が連結固定されている。
【0027】
ブラケット51は燃料の配管(図示せず)にフィルタ1を介在接続するためのもので、フィルタ1から見て上流側の配管に接続する流入口52と下流側の配管に接続する流出口53とを備えている。流入口52はブラケット51の側面に開口し、カバー31の入口32に連絡するように形成されている。流出口53はカバー31の出口33にねじ込まれた筒状になった部分内周部分からブラケット51の側面に連絡するように形成されている。
【0028】
このようなブラケット51とカバー31との間には断面矩形形状をした円環状のパッキンS1が介在している。パッキンS1は、ブラケット51の流入口52とカバー31の入口32との間の空間を外部空間からシールして隔絶する。
【0029】
(5)プレフィルタエレメント
プレフィルタエレメント101は一対のエンドプレート111u,111dで筒状の遮断壁112を挟み、遮断壁112の外周側に濾過機能部131を形成し、遮断壁112の内周側を流通空間151としたものである。遮断壁112は金属製の部材であり、一対のエンドプレート111u,111dに接着で固定され、濾過機能部131と流通空間151とを完全に遮断している。
【0030】
濾過機能部131にはダストをプレ濾過するプレ濾材132が設けられている。
つまり一対のエンドプレート111u,111dの間には複数個のパンチ孔133が開けられた金属製のプレ濾材基部134がプレ濾材132と共に接着で固定されている。このプレ濾材基部134は遮断壁112よりも大径の筒状部材であり、遮断壁112との間に空間を開けて配置されている。プレ濾材132はプレ濾材基部134の周囲を取り囲むように配置された筒状のもので、複数個のプリーツを形成している。材質はポリエステルである。ポリエステルは親水性の樹脂であり、水分による性能低下が少ないという特質を備えている。このようなプレ濾材132は一対のエンドプレート111u,111dに接着によって固定されている。
【0031】
カバー31に対面する方のエンドプレート111uは流通空間151に連絡する中心部分にのみ孔が開けられ、濾過機能部131の領域を完全に覆っている。中心部の孔はブラケット51の流出口53を形成する筒状部分を貫通させるもので、その周囲はすり鉢状に窪み、この窪んだ部分に前述のパッキンS2を配置している。パッキンS2は断面矩形形状をした円環状のものである。ブラケット51の流出口53を形成する筒状部分を嵌め込ませ、流通空間151を外部空間から遮断する役割を担っている。このようなエンドプレート111uの窪んだ部分及びパッキンS2は、カバー31が押当部34を押し当てる領域となる。
【0032】
もう一方のエンドプレート111dは濾過機能部131にのみ設けられ、流通空間151に干渉しない。そしてプレ濾材132(プレ濾材基部134)の内周面と遮断壁112との間の空間を外部に連絡させる。この空間はプレ濾材132によってプレ濾過された燃料を流通させるための流通空間となる。ここではこの流通空間をプレ流通空間135と呼ぶ。この部分の構造については
図1中、A部として示している。
【0033】
図2(a)は
図1中のA部の拡大図である。
エンドプレート111dはプレ濾材132の端面が直接接着される内側プレート111d1とこの内側プレート111d1に接合固定する外側プレート111d2とよりなる。内側プレート111d1はその端部がプレ濾材132の方に向けて直角に屈曲し、遮断壁112との間に隙間を形成している。この隙間が第1の連絡孔113である。外側プレート111d2は内周側の端部がプレ濾材132とは反対側に向けて直角に屈曲し、この屈曲部分で遮断壁112と一体になっている。外側プレート111d2は第1の連絡孔113に連絡する第2の連絡孔114を形成している。エンドプレート111dは、第1の連絡孔113と第2の連絡孔114とをもってプレ濾材132(プレ濾材基部134)の内周面と遮断壁112との間のプレ流通空間135を外部に連絡させているわけである。
【0034】
図2(a)を参照すると、エンドプレート111dは内側プレート111d1と外側プレート111d2とに加えてもう一層あるように見える。115で示す部分である。しかしこの部分は遮断壁112を折り曲げ加工して形成した支持片115であり、エンドプレート111dではない。この部分については「1.構造(8)連絡部」の項目で詳しく述べる。
【0035】
(6)シール
ハウジング11の内周面とプレフィルタエレメント101のカップ71側の外周面、具体的には一方のエンドプレート111dとの間の部分はシールS3によってシールされている。この部分の構造については
図1中、B部として示している。
【0036】
図2(b)は
図1中のB部の拡大図である。
シールS3はハウジング11の内周面に二重に接触して弾性変形するダブルリップ構造のものである。プレフィルタエレメント101の一方のエンドプレート111dをなす内側プレート111d1と遮断壁112の支持片115との間に挟み込まれて保持されている。ダブルリップをなす先端側、つまりカップ71側は断面が半円形ないし半楕円形の形状に形成され、後端側、つまりカバー31の側は断面が三角形の形状に形成されている。ここでは便宜上、断面が半円形ないし半楕円形の形状に形成された部分をシール基部S3aと呼び、断面が三角形の形状に形成された部分をシール舌部S3bと呼ぶことにする。シール舌部S3bはその頂点をカバー31の側に向けている。このためシール舌部S3bは、ハウジング11に対してプレフィルタエレメント101を収納する方向に押し込む場合には順方向に弾性変形し、ハウジング11からプレフィルタエレメント101を引き出す方向に引っ張る場合にはその弾性変形方向が逆方向(カウンター方向)になる。
【0037】
(7)水分離フィルタエレメント
水分離フィルタエレメント201は一対のエンドプレート211u,211dで水分離濾材231を挟んでいる。
つまり一対のエンドプレート211u,211dの間には複数個のパンチ孔232が開けられた金属製の水分離濾材基部233が水分離濾材231と共に接着で固定されている。この水分離濾材基部233はプレ濾材基部134と同径の筒状部材である。水分離濾材231は水分離濾材基部233の周囲を取り囲むように配置された筒状のもので、複数個のプリーツを形成している。材質はセルロースに疎水性樹脂を混ぜたものである。プレ濾材132に対しておよそ10倍の濾過効率となっている。このような水分離濾材231は一対のエンドプレート211u,211dに接着によって固定されている。
【0038】
カバー31の側のエンドプレート211uは中央部分のみが開口するドーナツ形状をしている。エンドプレート211uの中央開口部分は、水分離濾材231(水分離濾材基部233)の内周とプレフィルタエレメント101の流通空間151とを連絡させる。このようなエンドプレート211uはその中央開口部分の縁部を垂直に立ち上げて連結筒212とし、その周囲に円環状の溝213を形成している(
図2(a)参照)。この溝213はプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とをシールするためのOリングS4を嵌め込むための溝である。この部分については「1.構造(8)連絡部」の項目で詳しく述べる。
【0039】
カップ71の側に位置付けられるもう一方のエンドプレート211dは、水分離フィルタエレメント201の端面を完全に覆い外部空間から遮蔽している。ただエンドプレート211dは中央部に窪みを形成している。この窪みはスプリングSPを座らせるためのスプリングシート214となる。スプリングSPは圧縮コイルスプリングである。
【0040】
(8)連絡部
プレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とは規定の距離の空隙Gを開けて配置され、この空隙Gから遮断した状態でプレフィルタエレメント101の流通空間151と水分離濾材231(水分離濾材基部233)の内周側の空間とを連絡させている。これを実現しているのが連絡部401である。
【0041】
図2(a)に示すように、連絡部401はプレフィルタエレメント101の遮断壁112の先端部を箱形に屈曲させて形成されている。つまり遮断壁112の先端部は全周に渡って箱形に折り曲げ形成され、その終端部を前述した支持片115としている。こうして箱形に折り曲げ形成された部分のうち、プレフィルタエレメント101の端面から突出する部分をここでは突出部402と呼ぶ。また突出部402から直角に折り曲がり、突出部402の全周からその直交方向に延出する部分をここでは円環部403と呼ぶ。突出部402は水分離フィルタエレメント201の一方のエンドプレート211uに形成した連結筒212と嵌り合う。円環部403はエンドプレート211uに形成した溝213に嵌め込んだOリングS4に押し当てられる。したがって突出部402と円環部403とは、プレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201との間の空隙Gの距離を規定することになる。
【0042】
図2(a)に示すように、連絡部401はプレフィルタエレメント101の一方のエンドプレート111d(内側プレート111d1,外側プレート111d2)にそれぞれ形成した第1の連絡孔113及び第2の連絡孔114を介してプレ流通空間135に連絡する。連絡するのは箱形に折り曲げ形成した部分の内部空間である。このためこのままでは箱形部分の内部空間で閉じてしまい、プレ流通空間135を水分離フィルタエレメント201の外周に連絡させることができない。そこで本実施の形態では連絡部401に第3の連絡孔404を形成している。これによってプレ流通空間135から第1の連絡孔113、第2の連絡孔114、第3の連絡孔404、空隙Gを介して水分離フィルタエレメント201の水分離濾材231の外周に至る流通経路が確保される。
【0043】
ところでプレ流通空間135から第1の連絡孔113、第2の連絡孔114、第3の連絡孔404、空隙Gを介して水分離フィルタエレメント201の水分離濾材231の外周に至る流通経路は、水分離フィルタエレメント201の内周及びこの内周に連絡する流通空間151と隔絶されていなければならない。このような二つの空間の隔絶を実現しているのがOリングS4である。つまり
図2(a)に示すように、水分離フィルタエレメント201の一方のエンドプレート211uに形成した溝213に嵌め込んだOリングS4に連絡部401の円環部403を押し当てることで、上記二つの空間を隔絶しているわけである。
【0044】
(9)カップとその取り付け構造
カップ71は透光性を有する樹脂製のクリアカップである。下部カップ72と上部蓋73とが組み合わさって形成されている。
【0045】
下部カップ72は上面が開口したカップ形状のもので、底部中央にボス74を立てている。ボス74には底がなく、この部分において下部カップ72の底面を開口させている。このような下部カップ72にはドレンプラグ75とドレンボルト76とが取り付けられている。ドレンプラグ75は回転自在であり、ドレンプラグ75を回転させることで下部カップ72に溜まった水を排水することができる。
【0046】
上部蓋73は下部カップ72の開口面を閉鎖する。その外周には上方に向けて突出するフランジ77が形成され、その下面中央部分には湾曲したお椀形状が与えられている。このお椀形状になった部分には複数個の開口78が形成され、これらの開口78が上部蓋73の上面と下部カップ72の内部とを連絡している。
【0047】
上部蓋73のお椀形状になった部分はさらに下すぼまりのテーパー形状の結合筒79となって下方に延び、下部カップ72のボス74に結合している。したがってカップ71は、結合筒79とボス74との内周側に形成された空間によって上面と底面とを貫通させている。カップ71の上面と底面とを貫通させている結合筒79とボス74との内周側空間をここでは貫通孔80と呼ぶ。
【0048】
こうして形成されたカップ71は、上部蓋73の上面に環状のリブ81を形成し、このリブ81の内側にOリングS5を配置している。
【0049】
次にハウジング11に対するカップ71の取付構造について説明する。この部分の構造については
図1中、C部として示している。
【0050】
図2(c)は
図1中のC部の拡大図である。
前述したとおりハウジング11はその底部に取付孔12を形成し、ここにカップ71を取り付けるための構造を組み込んでいる。つまりハウジング11は取付孔12の部分にカップ固定基部91をネジ固定し、このカップ固定基部91に円板形状のベース92を有するナット93を保持させている。カップ固定基部91は樹脂製であり、ナット93は金属製である。カップ固定基部91を射出成型するに際してベース92の部分を樹脂で覆うことで、カップ固定基部91にナット93を保持させることができる。このときカップ固定基部91は、ハウジング11の中心軸とナット93のねじ孔である雌ねじ93aの中心軸とを同軸上に位置付ける位置にナット93を保持する。こうすることでカップ71の貫通孔80に挿入したボルト94をナット93の雌ねじ93aに螺合させることができ、そのままボルト94を締め込めばハウジング11の底面にカップ71を固定することが可能となる。このときカップ71の上面に配置したOリングS5が弾性変形してハウジング11とカップ71とをシールし、水の漏れ出しを遮断する。またボルト94にはヘッド側にOリングS6が装着されている。OリングS6はボルト94の締め付けによって貫通孔80の入口部分で弾性変形し、貫通孔80からの水の漏れ出しを遮断する。
【0051】
ハウジング11に形成した取付孔12にカップ71を取り付けるための上記構造は、ハウジング11の内外を連絡させて水の流通を可能にする仕組みを備えている。ナット93のベース92に形成した複数個の流出孔96である。これらの流出孔96は複数個が円環上に配列されている。
【0052】
ハウジング11の内外を連絡させるための仕組みは、ボルト94にも形成されている。第2の流出孔97である。第2の流出孔97は、ボルト94の先端部から外周に抜ける通路である。第2の流出孔97が抜けるボルト94の外周は、カップ固定基部91のお椀状の部材の辺りである。
【0053】
2.フィルタの組み立て
フィルタ1の組み立てについて説明する。
【0054】
(1)ハウジング
まずハウジング11を用意する。
ハウジング11にはカップ固定基部91によってナット93が予め固定されている。
【0055】
(2)エレメントの組み込み
次にハウジング11にプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とを組み込む。そのための手順は次のとおり。
【0056】
ハウジング11にスプリングSPを入れてから水分離フィルタエレメント201を収納する。水分離フィルタエレメント201はエンドプレート211dの側からハウジング11に収める。これによってスプリングSPの一端側がカップ固定基部91の上面に載置され、他端側がエンドプレート211dに形成したスプリングシート214に収まる。
【0057】
続いてハウジング11にプレフィルタエレメント101を収納する。プレフィルタエレメント101はエンドプレート111dの側からハウジング11に収める。このときダブルリップ構造を有するシールS3のシール舌部S3bは順方向に弾性変形し、ハウジング11に対してプレフィルタエレメント101を押し込み易くする。
【0058】
プレフィルタエレメント101を奥まで押し込むに際しては、水分離フィルタエレメント201の一方のエンドプレート211uに形成した連結筒212に連絡部401の突出部402を嵌め合わせる。これによって連結筒212の円環部403は、自ずと水分離フィルタエレメント201の一方のエンドプレート211uに形成した溝213に嵌め込んだOリングS4に押し当たる。こうしてプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とが連結される。
【0059】
この状態でハウジング11の開口にカバー31を被せてかしめて固定する。
するとスプリングSPが圧縮されて伸びようとするため、プレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とがスプリングSPとカバー31との間で加圧されて位置保持される。このときカバー31の押当部34がプレフィルタエレメント101の一方のエンドプレート111uの上面とパッキンS2とに押し当てられるため、プレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とは自ずと予定の位置に位置決めされる。
【0060】
(3)ブラケットの取り付け
カバー31にパッキンS1を載せ、その出口33に形成した雌ねじ33aにブラケット51の雄ねじ53aを螺合させて締め込む。これによってカバー31にブラケット51が取り付けられ、ブラケット51の流入口52がカバー31の入口32に連絡し、カバー31の出口33に取り付けたブラケット51の流出口53が外部に連絡する。
【0061】
(4)カップの取り付け
ハウジング11の底部にカップ71を押し当てる。カップ71に形成した貫通孔80にボルト94を挿入する。ボルト94に形成した雄ねじ94aをナット93の雌ねじ93aに螺合させて締め込む。するとカップ71の上面に配置したOリングS5が弾性変形し、ハウジング11とカップ71とをシールする。
【0062】
3.作用効果
(1)濾過対象流体の流通経路
フィルタ1における濾過対象流体の流通経路について説明する。
まずブラケット51の流入口52から導入された燃料は、カバー31の入口32を通ってプレフィルタエレメント101のプレ濾材132の外周に至る(
図1中の太い実線矢印参照)。このときシールS3がハウジング11の内周面とプレフィルタエレメント101とをシールしているので、プレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201との間の空隙Gに燃料が漏れ出すことがない。
【0063】
プレフィルタエレメント101の外周に至った燃料はプレ濾材132を通りプレ濾過される。これによって燃料から粗いダストが取り除かれる。プレ濾材132によってプレ濾過された燃料はプレ流通空間135から第1の連絡孔113、第2の連絡孔114、第3の連絡孔404、そして空隙Gを通って水分離フィルタエレメント201の外周に至る(
図1中の太い破線矢印参照)。このときOリングS4がプレ流通空間135から空隙Gを介して水分離フィルタエレメント201の外周に至る空間と水分離フィルタエレメント201の内周側の空間及び流通空間151とをシールしているので、水分離フィルタエレメント201の内周側の空間及び流通空間151に燃料が漏れ出すことがない。
【0064】
水分離フィルタエレメント201の外周に燃料が至ると、水分離濾材231によって燃料から水が分離される。水が分離された燃料は水分離濾材231を通り抜け、水分離フィルタエレメント201の内周側の空間から流通空間151を通って流出口53から流出する(
図1中の細い実線矢印参照)。
【0065】
これに対して燃料から分離された水はハウジング11の底部に落ち、カップ固定基部91に形成した流出孔96及びボルト94に形成した第2の流出孔97を通って下部カップ72に導かれて溜められる(
図1中の細い破線矢印参照)。
【0066】
(2)水分離性能の維持
本実施の形態では、プレフィルタエレメント101によってプレ濾過した後の燃料から水分離フィルタエレメント201によって水を分離している。このため粗悪燃料を濾過する場合であっても、水分離性能を高いレベルに維持することができる。このことを裏付ける実験結果を
図3及び
図4に示す。
【0067】
図3は、本実施の形態のフィルタ1と従来フィルタ(水分離濾材+プレ濾材とを一体化したフィルタ濾材)とを比較してダスト供給量と水分濃度との関係を示すグラフである。菱形のプロットが従来フィルタ、四角形のプロットが本実施の形態のフィルタ1のデータである。水分濃度は、水分離フィルタ(本実施の形態では水分離フィルタエレメント201)で水分離した後の燃料中に含まれる水分の濃度を示している。
【0068】
図3のグラフから、従来フィルタではダスト供給量が250g近くになると濾過燃料中の水分濃度が急激に高まることが分かる。これに対して本実施の形態のフィルタ1では、ダスト供給量が270gを超えても水分濃度に大きな変化が見られない。このことから本実施の形態のフィルタ1によれば、粗悪燃料を濾過する場合であっても水分離性能を高いレベルに維持できることが裏付けられる。
【0069】
図4は、本実施の形態のフィルタ1と従来フィルタ(それぞれ独立した水分離フィルタエレメント+プレフィルタエレメント)とを比較してダスト供給量と圧力損失との関係を示すグラフである。従来フィルタは水分離フィルタエレメントで水分離した後にプレフィルタエレメントでプレ濾過を行なう濾過方式のものである。
【0070】
図4のグラフから、従来フィルタではダスト供給量が増えるにしたがって圧力損失が急増していくことが分かる。これに対して本実施の形態のフィルタ1では、ダスト供給量が増えても従来フィルタほどには圧力損失が増大しない。これはプレフィルタエレメント101や水分離フィルタエレメント201の目詰まりが少ないことを意味している。このことから本実施の形態のフィルタ1によれば、粗悪燃料を濾過する場合であっても水分離性能を高いレベルに維持できることが裏付けられる。
【0071】
(3)フィルタの寿命
このように本実施の形態のフィルタ1は、プレフィルタエレメント101から水分離フィルタエレメント201の順に濾過対象である燃料を流して水分離性能を高いレベルに維持している。しかもプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とを直列配置しているので、フィルタエレメントが大径化することによるフィルタ1全体の大型化を抑制している。このような構成を採用しながらも本実施の形態のフィルタ1は、プレフィルタエレメント101及び水分離フィルタエレメント201のいずれにおいても外周から内周に燃料を流通させることができるようにしている。このためプレフィルタエレメント101の濾過面積を広く取ることができ、フィルタ1全体としてその寿命を長くすることに成功している。
【0072】
(4)ハウジングとプレフィルタエレメントとの間のシール
プレフィルタエレメント101及び水分離フィルタエレメント201のいずれにおいても外周から内周に燃料を流通させるために本実施の形態では、プレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201との間に空隙Gを設けている。そしてプレフィルタエレメント101の外周に導いた燃料を空隙Gに流出させないための仕組みとして、ハウジング11とプレフィルタエレメント101の一方のエンドプレート111dとの間にシールS3を設けている。
【0073】
本実施の形態によれば、このような簡単な構造によってプレフィルタエレメント101の外周に導いた燃料を空隙Gに流出させないようにすることができる。したがって構造の簡略化とこれに伴うフィルタ1の組み立ての容易化とを図ることができる。
【0074】
(5)プレフィルタエレメントの装着作業性
ハウジング11とプレフィルタエレメント101の一方のエンドプレート111dとの間のシールS3として、例えばOリングの採用を想定する。この場合には一つの問題が発生する。Oリングがきつすぎると(ハウジング11内径に対してOリングの外径が大きすぎると)装着が困難で、緩すぎると(ハウジング11内径に対してOリングの外径が小さすぎると)シール漏れが発生するのである。これはある程度許容すべきハウジング11内径の誤差にも起因して発生する現象である。そこで本実施の形態ではいわゆるダブルリップ構造をしたダブルリップシールをシールS3に採用し、これによって上記問題の発生を回避した。
【0075】
つまり本実施の形態のシールS3は、シール構造部分をシール基部S3aとシール舌部S3bとに分担させている。シール基部S3aとシール舌部S3bとの両者がシール効果を果たすわけである。このためシール基部S3aを大きく弾性変形させることなく十分なシール効果を生じさせることができる。そして何より、ハウジング11に対するプレフィルタエレメント101の装着に際して、シール舌部S3bが順方向に弾性変形することからハウジング11に対して大きな摺動抵抗を与えない。これによりプレフィルタエレメント101の装着作業性が著しく向上する。
【0076】
(6)連絡部に関する作用効果
本実施の形態ではプレフィルタエレメント101の構造部品である遮断壁112の端部を折り曲げ加工して連絡部401を実現させている。しかも水分離フィルタエレメント201の一方のエンドプレート211uに形成した連結筒212に連絡部401の突出部402を嵌め合わせるようにしてプレフィルタエレメント101を押し込むだけでプレフィルタエレメント101と水分離フィルタエレメント201とを連結することができる。したがって構造の簡略化、部品コスト・組み立てコストの低廉化を実現することができる。
【0077】
(7)カップの取付構造に関する作用効果
本実施の形態によれば、ハウジング11の取付孔12の周囲にOリングS5を介して接触した状態のままのカップ71を、カップ71に形成した貫通孔80に貫通させたボルト94をカップ固定基部91のナット93に螺合させて締め付けるだけで固定することができる。このためナット93にボルト94が固着してしまったような場合でも工具を用いてボルト94を回転させることができ、ハウジング11からカップ71を容易に取り外すことができる。したがってその作業性を向上させることができる。しかもカップ71それ自体に形成した貫通孔80に貫通させたボルト94を締め付ける構成であるため、フィルタ1全体の大型化を回避することも可能である。
【0078】
4.変形例
実施に際しては各種の変形や変更が可能である。