特許第6111035号(P6111035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6111035-セラミックスの表面改質方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111035
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】セラミックスの表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/91 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   C04B41/91 E
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-214163(P2012-214163)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-65649(P2014-65649A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安田 雅一
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−182516(JP,A)
【文献】 特開昭50−153729(JP,A)
【文献】 特開2006−176349(JP,A)
【文献】 特開昭64−033084(JP,A)
【文献】 特開平10−218663(JP,A)
【文献】 特開昭62−136897(JP,A)
【文献】 特開平04−228284(JP,A)
【文献】 特開平05−078185(JP,A)
【文献】 特開平09−048684(JP,A)
【文献】 米国特許第05145741(US,A)
【文献】 米国特許第06524663(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80−41/91
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス表面にレーザーを照射することによって導電部を形成するセラミックスの表面改質方法であって、改質すべきセラミックス表面部分を被覆剤で覆った状態で、波長300nm〜900nmのレーザー照射する工程を有する、セラミックスの表面改質方法。
【請求項2】
前記被覆剤は前記レーザーに対し、透明であることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックスの表面改質方法。
【請求項3】
前記被覆剤は液体状被覆剤であって、セラミックス基材がこの液体に浸漬された状態であることを特徴とする、請求項1または2に記載のセラミックスの表面改質方法。
【請求項4】
前記液体状被覆剤は水、酢酸、アルコール類、アセトンから選ばれる1種あるいは2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項3に記載のセラミックスの表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性であるセラミックス材料の表面に、電極や回路となりうる導電部を形成する方法に関する。詳しくは、金属酸化物系セラミックスから酸素を除去し、その表面の所定の箇所に金属単体部分をパターン状に形成する、セラミックスの表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスの表面に導電部を形成する方法としては蒸着法やスパッタ法が用いられた。導電部を所定のパターン形状とするには、マスクを用意して不要部分への金属層形成を防ぐか、あるいはセラミックスの表面全体に金属層を形成した後エッチングによって不要部分の金属を除去するといった方法がとられる。他の方法としては、導電性ペーストを印刷した後焼成して導電パターンを形成する方法、めっき触媒を含むインクを用いて印刷した後めっきを実施して導電パターンを形成する方法などがあげられる。
【0003】
しかしながらこれらの方法ではパターンの精度に問題があり、微細なパターンを形成するのは困難であった。マスクを用いた蒸着法やスパッタ法では、セラミックス基材とマスクとの間に隙間があった場合は導電パターンにズレやにじみが出来て正確なパターンが得られない。セラミックス表面の全面に金属層を形成した後エッチングによって不要部分を除去してパターンを形成する方法においても、エッチングの条件が強すぎた場合には残すべき導電パターン部を浸蝕してしまう虞がある。導電性ペーストやめっき触媒を含むインクによって印刷する方法では、印刷精度の限界や、その後のめっき処理によるパターンの拡大から、微細パターンの形成は困難であった。更に、導電パターンを形成するために複数の工程を必要とする煩雑さがあった。
【0004】
これらの問題を解消する方法として、特許文献1には、セラミックス材料の表面に対して、所定パターンに対応したマスクを介してエネルギー的にセラミックス材料の内殻電子を励起させることが可能な高輝度短波長光ビームまたはそれとエネルギー的に等価な電子ビームを照射することを特徴とするセラミックスの改質加工方法が開示されている。これによりセラミックス材料の表面部に原子の内殻電子の励起に基づく反応を生ぜしめ、酸素原子または窒素原子あるいは炭素原子を脱離させ、導電部を形成することができる。
【0005】
また、特許文献2や3には、非酸化性雰囲気中でセラミックス表面にレーザー等のエネルギー線を照射して導電部を形成する方法が記載されている。これらの方法によれば、エネルギー線を照射するという工程のみでセラミックス表面に導電パターンを形成できるという利点を有し、高精度に微細なパターンを形成できるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−48684号公報
【特許文献2】特開平5−78185号公報
【特許文献3】特開平5−208323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法で得られる導電部については、十分な導電性を示すものを得られていないのが実情である。そのため、上記方法にて導電部を形成した後、更にめっき処理を行うことによってより確実な導電層を積層させる方法がとられている。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、レーザー照射工程のみで十分な導電性を有する導電部をセラミックス表面に形成することが可能なセラミックスの表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、セラミックスの改質部分を特定の被覆剤で覆った状態でレーザー照射することで、高い導電性を有する導電部を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、セラミックス表面にレーザー照射をすることによって導電部を形成するセラミックスの表面改質方法であって、改質すべきセラミックス表面部分を被覆剤で覆った状態で、波長300nm〜900nmのレーザー照射する工程を有する、セラミックスの表面改質方法である。
【0011】
前記被覆剤は照射するレーザーに対し、透明であることが好ましい。また、前記被覆剤は液体状被覆剤であって、セラミックス基材がこの液体に浸漬された状態でレーザー照射されてもよい。前記液体状被覆剤は水、酢酸、アルコール類、アセトンから選ばれる1種あるいは2種以上の混合物であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセラミックスの表面改質方法によれば、レーザー照射工程のみでセラミックス表面に高精度に、高い導電性を有する導電部の微細パターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明のセラミックスの表面改質方法の一実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のセラミックスの表面改質方法は、特に金属酸化物系のセラミックスの表面改質に適しており、例えばアルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ジルコニア、酸化スズ、酸化銅などのセラミックスに対して利用できる。
【0015】
使用できるレーザーは光源としてYAGレーザー、チタンサファイアレーザー、Ybファイバーレーザー、半導体レーザー、色素レーザーなどが挙げられ、そのエネルギーは1Wから200Wであることが好ましい。エネルギーが1W未満ではセラミックス基板の改質が充分に行えないという問題があり、エネルギーが200Wを超えるとセラミックス基材自体が損傷するという問題がある。また、レーザーの発振波長としては300nmから900nmであることが好ましい。この範囲より短波長あるいは長波長の場合、レーザー光が液状被覆物に吸収されてしまい、セラミックス基板の改質を効率よく行えないという問題がある。
【0016】
本発明ではセラミックス基材の表面を被覆剤で覆った状態とし、その被覆剤で覆われたセラミックス基材の表面部分に上記レーザーを照射させることで導電部を形成する。被覆剤の介在によって高い導電性を発現することができるが、そのメカニズムについては不明である。ひとつの可能性としては、金属酸化物系セラミックスからレーザー照射によって酸素原子を除去するにあたり、介在する被覆剤が除去される酸素原子を効果的に捕集するような働きをするものと推測される。
【0017】
このような被覆剤としては、前記レーザーに対して透明であることが好ましい。透明でない場合、すなわちレーザーを吸収、散乱する場合には発熱による蒸散が起きたり、レーザーのエネルギーが奪われたりすることとなり効率が低下する。
【0018】
また、被覆剤は液体であることが好ましい。液体状被覆剤であると改質されるべきセラミックスの表面を容易に覆うことができる。また、セラミックス基材を液体状被覆剤に浸漬させた状態でレーザー照射することも可能である。
【0019】
被覆剤の厚みは1.5mm以下が好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。1.5mmを超える場合、均一にレーザー改質を行うことが困難となり、0.5mm未満の場合、被覆層の維持が困難となる。
【0020】
被覆剤として好適に用いられるのは水、酢酸、アルコール類、アセトンである。これらを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、添加剤として増粘材、酸化防止剤、還元剤などを添加してもよい。添加剤を加える場合はレーザー発振波長に吸収がないものを用いることが好ましい。
【実施例1】
【0021】
基材は、酸化チタン粉末(高純度化学研究所製、TIO14PB)を40MPaで圧縮成型し電気炉に投入した後、5時間かけて1200℃まで昇温、5時間維持し、5時間かけて室温まで降温させて作製した。また、レーザーにはパルス発振YAGレーザー(532nm)(MegaOpto社製、モデル名:高繰り返しパルスグリーンレーザー 型番:#301−01)を用いた。被覆剤としてのエタノールに酸化チタンセラミックスを浸漬させ、繰り返し周波数35kHz、出力1.2W、走査速度1200mm/minにて走査長11mm、走査回数250回、ピッチ5μmでレーザー照射をおこない、幅1.25mmの直線パターンの導電部を酸化チタンセラミックス表面に形成した。このとき、酸化チタンセラミックス上方のエタノールの厚さ、すなわちレーザーの透過経路におけるエタノールの厚さは1mmであった。導電性の評価は、直線導電パターンの両端間の抵抗値をデジタルハイテスター 3256−50(日置電機株式会社製)にて測定した。抵抗値が小さいほど導電性が高いことをあらわす。得られた導電部の抵抗値は3.7×10kΩであった。
【実施例2】
【0022】
被覆剤として酢酸を用いた以外は実施例1と同様にして導電部を形成した。得られた導電部の抵抗値は4.7×10kΩであった。
【実施例3】
【0023】
被覆剤としてアセトンを用いた以外は実施例1と同様にして導電部を形成した。得られた導電部の抵抗値は4.2×10kΩであった。
【実施例4】
【0024】
被覆剤として水を用いた以外は実施例1と同様にして導電部を形成した。得られた導電部の抵抗値は7.4×10kΩであった。
[比較例1]
【0025】
被覆剤は用いず、大気中でレーザー照射を行った以外は実施例1と同様にして導電部を形成した。得られた導電部の抵抗値は1.2×10kΩであった。
[比較例2]
【0026】
被覆剤は用いず、非酸化性雰囲気下(CO雰囲気下)でレーザー照射を行った以外は実施例1と同様にして導電部を形成した。得られた導電部の抵抗値は2.3×10kΩであった。
【符号の説明】
【0027】
1 セラミックス基材
2 被覆剤
3 レーザー装置
4 レーザー
図1