(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の燃料電池用セパレータについて説明する。
本発明の燃料電池用セパレータは、基材と、基材上に形成された下地めっき層と、下地めっき層上に、無電解めっきにより形成された金めっき層とを備え、下地めっき層の金めっき層と対向する面の算術平均粗さRaが80nm以下であることを特徴とする。
【0016】
<基材>
基材としては、特に限定されないが、鋼、ステンレス鋼、Al、Al合金、Ti、Ti合金、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金などを、燃料電池用セパレータとして必要な形状に加工したものを、特に制限なく用いることができる。
【0017】
基材の厚みは、特に限定されず、使用用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.05〜2.0mmであり、より好ましくは0.1〜0.3mmである。
【0018】
なお、本発明においては、基材として、後述するように、得られる燃料電池用セパレータを、金めっき層がより均一に形成されたものとすることができるという観点より、その表面に、燃料電池用セパレータとして用いる際に燃料ガスや空気の流路として機能する凹凸部(ガス流路)が予め形成されたものを用い、これに、下地めっき層および金めっき層を形成することが好ましい。基材にガス流路を形成する方法としては、特に限定されないが、たとえば、プレス加工により形成する方法が挙げられる。
【0019】
<下地めっき層>
下地めっき層は、基材上にめっき処理を施すことにより形成される、金属からなるめっき層である。下地めっき層は、後述する金めっき層を良好に形成するための下地層として作用する。
【0020】
本発明においては、下地めっき層を、その表面の算術平均粗さRaが80nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは2nm以下であるものとする。下地めっき層の表面における算術平均粗さRaを上記範囲とすることにより、下地めっき層の表面を十分な平滑性を有するものとすることができ、これにより、その上に無電解めっき、特に、無電解置換めっきにより金めっき層を形成した際に、被めっき材である下地めっき層の局部的な溶出を抑制することができ、局部的な溶出に起因する、下地めっき層表面における凹部の発生を防止することができる。そして、これにより、金めっき層を、厚膜化することなく、均一であり、しかも金めっき層の不形成部分およびピンホールが発生しないような状態で形成することができる。
【0021】
下地めっき層の表面における算術平均粗さRaを上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、めっき処理により形成した下地めっき層の表面を研磨する方法、予め研磨した基材上にめっき処理を施すことにより下地めっき層を形成する方法、または下地めっき層を形成するためのめっき浴に、光沢剤を添加する方法などが挙げられる。これらの方法は、単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
めっき処理により形成した下地めっき層の表面を研磨する方法としては、その表面を適度に平滑化できるという点より、機械研磨、化学研磨、および化学機械研磨のうち少なくとも1つが好ましく、化学研磨が特に好ましい。
【0023】
予め研磨した基材上にめっき処理を施すことにより下地めっき層を形成する方法を用いる場合における、基材を研磨する方法としては、機械研磨、化学研磨、および化学機械研磨のうち少なくとも1つが好ましく、化学研磨が特に好ましい。この場合における、研磨後の基材の表面の算術平均粗さRaは、好ましくは100nm以下、より好ましくは1nm以下であり、このように、予め基材を研磨し、基材の表面を平滑化することにより、その上に形成した下地めっき層についても平滑なものとすることができる。
【0024】
あるいは、下地めっき層を形成するためのめっき浴に、光沢剤を添加する方法を用いる場合における、光沢剤としては、下地めっき層を構成する成分の結晶を微細化させる作用や、めっき浴のレベリング性を向上させる作用などにより、得られる下地めっき層の表面を平滑化することができるものであれば何でもよいが、たとえば、有機硫黄系化合物や、有機窒素系化合物などが挙げられる。なお、本発明においては、光沢剤としては、環境負荷低減という点より、有機硫黄系化合物が好ましい。
【0025】
また、下地めっき層を構成する成分としては、特に限定されず、めっき層を形成可能な金属元素であれば何でもよいが、たとえば、Ni、Fe、Co、Cu、Zn、およびSnから選択される少なくとも1つの金属元素などが挙げられる。下地めっき層を構成するこれらの元素は、1種単独で含有させてもよいし、あるいは、2つ以上を組み合わせて、たとえば、Ni−Fe、Ni−Co、Ni−Cuなどとしてもよい。なお、Ni、Fe、Co、Cu、Zn、およびSnは、一般的に、単独で基材上にめっき層を形成することができるという特性を有する元素であり、いずれも、下地めっき層を基材に密着させる作用を有するものである。本発明においては、これらの元素のなかでも、めっき液の自己分解を防止し、めっき液の安定性を高めることができるという点より、Ni、およびCoから選択される少なくとも1つの元素を用いるのが好ましく、Niを用いるのが特に好ましい。
【0026】
さらに、下地めっき層は、上記の金属元素に加えて、PおよびBから選択される少なくとも1つの元素などを含有するものであってもよい。PおよびBは、下地めっき層を形成するためのめっき浴中の還元剤を構成するメタロイドであり、通常、下地めっき層を形成する際に不可避的に下地めっき層に取り込まれることが多い。なお、これら還元剤を構成することとなるメタロイドとしては、めっき液の自己分解を防止し、めっき液の安定性を高めることができるという点より、Pが好ましく、この際においては、下地めっき層としては、Ni−Pを用いることが好ましい。
【0027】
なお、下地めっき層の形成効果、すなわち、下地めっき層上に金めっき層を形成した際に、その上に形成する金めっき層の不形成部分およびピンホールの発生を防止できるという効果を阻害しない範囲において、下地めっき層には、不可避的に混入してしまう不純物がわずかに含まれていてもよい。不可避的に混入してしまう不純物としては、たとえば、めっき液の自己分解を防止し、めっき液を安定させる安定剤として添加されるPb、Tl、Biなどの重金属が挙げられる。なお、このような安定剤としては、環境負荷軽減の観点から、Biが好ましく用いられる。
【0028】
また、下地めっき層を形成する方法は、特に限定されず、電解めっき、無電解めっき、スパッタリングなどによる方法を用いることができるが、無電解めっきによる方法を用いることが好ましい。特に、下地めっき層を形成する方法として、無電解めっきによる方法を用いた場合には、基材として、予めガス流路(燃料電池用セパレータとして用いる際に燃料ガスや空気の流路として用いられる流路)が形成された基材を用いた際においても、ガス流路を構成する凹凸部に対して下地めっき層をより均一に形成することができ、さらに下地めっき層上に形成する金めっき層をより均一なものとすることができる。
【0029】
たとえば、下地めっき層を、無電解めっきにより形成する場合には、下地めっき層を構成することとなる各元素と、還元剤および錯化剤とを含有するめっき浴(下地めっき浴)を用いて、基材上にめっきを施すことにより行われる。
【0030】
一例として、無電解めっきにより、Ni−Pからなる下地めっき層を形成する場合には、下地めっき浴としては、通常用いられるNi−Pめっき浴を用いることができる。Ni−Pめっき浴の具体例としては、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケルなどのニッケル塩と、次亜リン酸塩などのリンを含む還元剤と、クエン酸などの錯化剤とからなるめっき浴などが挙げられる。ここで、下地めっき浴としてNi−Pめっき浴を用いる際においては、ニッケル塩としては塩化ニッケルを用いるのが好ましい。
【0031】
なお、上記においては、Ni−Pからなる下地めっき層を形成する場合を例示したが、下地めっき層を、Ni−P以外で構成する場合においても、同様に、下地めっき層を構成することとなる各元素に応じた各成分を適宜調整してなる下地めっき浴を用いればよい。
【0032】
なお、下地めっき層を無電解めっきにより形成する際においては、上述した下地めっき浴を用いて、pH4.0〜7.0、浴温30〜50℃、浸漬時間5〜20分の条件で形成することが好ましい。
【0033】
下地めっき層の厚みは、好ましくは0.01〜1.0μmであり、より好ましくは0.05〜0.2μmである。下地めっき層の厚みを上記範囲とすることにより、下地めっき層上に無電解めっきにより金めっき層を形成した際に、得られる金めっき層をより均一なものとすることができる。
【0034】
なお、本発明においては、基材上に下地めっき層を形成する際には、直接基材上に形成してもよいが、基材に対する密着性をより向上させるために、基材と下地めっき層との間に改質層を設けてもよい。改質層としては、基材および下地めっき層のいずれにも良好に密着することができるものであれば何でもよいが、下地めっき層を構成する金属元素のうち、一部の金属元素を含有する層が好ましく、下地めっき層と同じ成分からなるめっき層が特に好ましい。たとえば、Ni−Pからなる下地めっき層を形成する場合には、改質層としては、下地めっき層を構成する金属元素であるNiを含有するNi系の層とすることが好ましく、下地めっき層と同じNi−Pからなる層とすることが特に好ましい。なお、改質層は、1層のみでもよいし、2層以上としてもよく、また、2層以上とする場合には、各層を構成する成分は異なるものであってもよいし、あるいは、同じものであってもよい。また、改質層を形成する方法は特に限定されないが、電解めっき、無電解めっき、スパッタリングなどにより形成することができる。
【0035】
<金めっき層>
金めっき層は、下地めっき層上に、無電解めっき処理を施すことにより形成される層である。なお、無電解めっき処理としては、無電解置換めっき処理、および無電解還元めっき処理などが挙げられる。また、金めっき層を形成する際には、たとえば、無電解置換めっき処理を施し、さらに無電解還元めっき処理を施すことにより形成してもよい。
【0036】
金めっき層の厚みは、好ましくは1〜200nmであり、より好ましくは5〜100nmである。金めっき層の厚みが薄すぎると、下地めっき層上に均一な金めっき層が形成されず、燃料電池用セパレータとして用いる際に、耐食性や、導電性が低下するおそれがある。一方、金めっき層の厚みが厚すぎると、コスト的に不利になる。
【0037】
本発明においては、下地めっき層および金めっき層を形成するための基材として、上述したように、その表面に、燃料電池用セパレータとして用いる際に燃料ガスや空気の流路として機能する凹凸部(ガス流路)が予め形成されたものを用い、このような基材上に下地めっき層および金めっき層を形成することが好ましい。このように予めガス流路が形成された基材を用いることにより、金めっき層を形成した後に、ガス流路を形成するための加工を行う必要がなくなるため、ガス流路を形成するための加工により生じる応力に起因する、金めっき層のクラックを防止することができる。
【0038】
特に、本発明においては、無電解めっきにより金めっき層を形成することから、予めガス流路が形成された基材を用いた場合においても、金めっき層を均一な状態で形成することができる。すなわち、無電解めっきによらず、電解めっきにより金めっき層を形成した場合には、ガス流路としての凹凸部のうち凸部分においてめっきの析出が優先的に起こるなど、めっき膜の形成速度にばらつきが発生してしまい、これにより、得られる金めっき層の析出が不均一となってしまい、金めっき層の不形成部分が発生してしまうという問題がある。これに対し、本発明によれば、無電解めっきにより金めっき層を形成することにより、ガス流路を構成する凹凸部に対して均一に金めっき層を形成することができるため、このような問題を解決することができる。
【0039】
加えて、予めガス流路が形成された基材を用いる際においては、下地めっき層の形成を、無電解めっきにより行うことが好ましい。下地めっき層を無電解めっきにより形成することにより、基材上のガス流路を構成する凹凸部に対して下地めっき層をより均一に形成することができ、これにより、下地めっき層上に形成する金めっき層をより均一なものとすることができる。
【0040】
なお、電解めっきを用いる場合において、凹凸部への金めっき層の形成が不均一となってしまうことから、ガス流路が形成されていない基材(平板状の基材)に電解めっきにより金めっき層を形成し、その後、ガス流路形成のための加工を行う方法も考えられる。しかしながら、このように金めっき層を形成した後にガス流路を形成する方法では、上述したように、ガス流路を形成する際に加わる応力により、金めっき層にクラックが生じてしまうという問題がある。
【0041】
あるいは、電解めっきを用いる場合において、予めガス流路が形成された基材に対して、平滑な(算術平均表面粗さRaなどが小さい)下地めっき層を形成し、この上に電解めっきにより金めっき層を形成して燃料電池用セパレータを製造する方法も考えられる。しかしながら、このような方法では、電解めっきにより金めっき層を形成するものであるため、下地めっき層が平滑であるか否かにかかわらず、ガス流路の凹凸部において金めっき層の不形成部分が発生してしまうという問題がある。そのため、電解めっきを用いる方法では、下地めっき層の算術平均表面粗さRaなどを小さいものとした場合においても、ガス流路の凹凸部に金めっき層の不形成部分が発生してしまい、得られる燃料電池用セパレータの耐食性、および導電性が低下してしまうという問題がある。
【0042】
これに対し、本発明においては、無電解めっきにより金めっき層を形成するものであるため、基材として、予めガス流路が形成された基材を用いた場合においても、金めっき層を均一な状態で形成することができ、これにより、金めっき層を形成した後に、ガス流路を形成するための加工を行う必要がなくなるため、ガス流路を形成するための加工により生じる応力に起因する、金めっき層のクラックを防止することができる。
【0043】
本発明の燃料電池用セパレータは、基材上に、表面の算術平均粗さRaが80nm以下である平滑な下地めっき層を備え、無電解めっきにより金めっき層を形成してなるものであるため、次のような効果を奏するものである。
【0044】
すなわち、まず、本発明によれば、下地めっき層の表面を算術平均粗さRaが80nm以下の平滑なものとすることにより、その上に無電解めっき、特に、無電解置換めっきにより金めっき層を形成した場合に、下地めっき層の表面が粗面となっていることに起因する、下地めっき層の局部的な溶出を抑制することができるため、下地めっき層表面における凹部の発生を防止することができ、これにより、金めっき層を、厚膜化することなく、均一であり、しかも金めっき層の不形成部分およびピンホールが発生しないような状態で形成することができる。
【0045】
さらに、本発明によれば、金めっき層を形成する方法として、無電解置換めっき処理などの無電解めっきによる方法を用いることにより、基材に予めガス流路が形成されている場合においても、ガス流路を構成する凹凸部に対して、金めっき層を均一に形成することができる。
【0046】
そのため、本発明の燃料電池用セパレータは、下地めっき層の算術平均粗さRaを80nm以下とし、無電解めっきにより金めっき層を形成することにより、金めっき層における不形成部分およびピンホールの発生が有効に防止され、耐食性および導電性に優れたものとなり、さらに、金めっき層を厚膜化する必要がないため、コスト的にも優れたものとなる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0048】
<実施例1>
JIS H4000に規定された5000系の5086アルミニウム合金(Si:0.4重量%、Fe:0.5重量%、Cu:0.1重量%、Mn:0.2重量%、Mg:3.5重量%、Zn:0.25重量%、Cr:0.25重量%、Al:残部)上に、無電解めっきにより、厚みが10μmであるNi−Pめっき層(Pの含有割合が12重量%)が形成された、総厚1.27mmの基材を準備した。
【0049】
次いで、準備した基材について、アルミナ研磨剤(アルミナ砥粒粒径0.6μm、濃度3.9重量%、添加剤として過酸化水素水、有機酸、硫酸、界面活性剤)、およびアルミナ砥粒よりも粒径の小さなコロイダルシリカ研磨剤により化学機械研磨を行い、基材表面の算術平均粗さRaを0.1nmとした。なお、算術平均粗さRaの測定は、レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)により、50μm×50μmの視野をスキャンすることにより行った。
【0050】
その後、研磨した基材を脱脂した後、水洗し、Ni−Pめっき浴(奥野製薬工業社製、ICPニコロンGM−NP)を用いて、無電解めっきにより、基材上に、厚さ2μmのNi−Pめっき層(Pの含有割合が7重量%)を形成し、これにより、表面の算術平均粗さRaが1.2nmであるNi−Pめっき層を得た。
【0051】
次いで、Ni−Pめっき層を形成した基材について、無電解置換金めっき浴(奥野製薬工業社製、フラッシュゴールドNC)を用いて、55℃、1分間の条件で無電解置換めっき処理を施し、その後、無電解還元金めっき浴(奥野製薬工業社製、セルフゴールドOTK)を用いて、60℃、1分間の条件で無電解還元めっき処理を施すことにより、Ni−Pめっき層上に、厚さ31nmの金めっき層を形成し、金めっき被覆材料を得た。
【0052】
<実施例2〜4>
金めっき層を形成した際の、無電解還元めっきにおける浸漬時間を変更して、形成された金めっき層の厚みを、49nm(実施例2)、70nm(実施例3)、および92nm(実施例4)とした以外は、実施例1と同様にして金めっき被覆材料を得た。
【0053】
<実施例5>
基材として、実施例1と同様に、厚み10μmのNi−Pめっき層(Pの含有割合が12重量%)が形成された、総厚1.27mmのアルミニウム合金を準備した。次いで、準備した基材に対し、アルミニウム用化学研磨液(燐化学工業社製、クリーンブライト#1)により化学研磨を行い、その後、基材の表面にエッチング処理およびジンケート処理を施した。なお、化学研磨後における基材表面の算術平均粗さRaは67.3nmであった。
【0054】
次いで、エッチング処理およびジンケート処理を施した基材に対し、Ni−Pめっき浴(奥野製薬工業社製、ICPニコロンGM−NP)を用いて、無電解めっきにより、基材上に、厚さ2μmのNi−Pめっき層(Pの含有割合が7重量%)を形成し、これにより、表面の算術平均粗さRaが76.8nmであるNi−Pめっき層を得た。
【0055】
次いで、Ni−Pめっき層を形成した基材について、無電解置換金めっき浴(奥野製薬工業社製、フラッシュゴールドNC)を用いて、55℃、1分間の条件で無電解置換めっき処理を施し、その後、無電解還元金めっき浴(奥野製薬工業社製、セルフゴールドOTK)を用いて、60℃、1分間の条件で無電解還元めっき処理を施すことにより、Ni−Pめっき層上に、厚さ32nmの金めっき層を形成し、金めっき被覆材料を得た。
【0056】
<実施例6〜8>
金めっき層を形成した際の、無電解還元めっきにおける浸漬時間を変更して、形成された金めっき層の厚みを、55nm(実施例6)、72nm(実施例7)、および110nm(実施例8)とした以外は、実施例5と同様にして金めっき被覆材料を得た。
【0057】
<実施例9>
基材として、実施例1のアルミニウム合金と同じ組成を有し、厚みが0.2mmであるアルミニウム合金を、幅15mm、長さ140mmの大きさに加工した基材を準備し、準備した基材の表面に深さ5mm、ピッチ5mmの溝加工を施した。次いで、溝加工を施した基材に対し、アルミニウム用化学研磨液(燐化学工業社製、クリーンブライト#1)により化学研磨を行い、その後、基材の表面にエッチング処理およびジンケート処理を施した。なお、化学研磨後における基材表面の算術平均粗さRaは55.6nmであった。
【0058】
次いで、エッチング処理およびジンケート処理を施した基材に対し、Ni−Pめっき浴(奥野製薬工業社製、ICPニコロンGM−NP)を用いて、無電解めっきにより、基材上に、厚さ2μmのNi−Pめっき層(Pの含有割合が7重量%)を形成し、これにより、表面の算術平均粗さRaが65nmであるNi−Pめっき層を得た。
【0059】
次いで、Ni−Pめっき層を形成した基材について、無電解置換金めっき浴(奥野製薬工業社製、フラッシュゴールドNC)を用いて、55℃、1分間の条件で無電解置換めっき処理を施し、その後、無電解還元金めっき浴(奥野製薬工業社製、セルフゴールドOTK)を用いて、60℃、3分間の条件で無電解還元めっき処理を施すことにより、Ni−Pめっき層上に、厚さ62nmの金めっき層を形成し、金めっき被覆材料を得た。
【0060】
<比較例1>
基材として、実施例1と同様に、厚み10μmのNi−Pめっき層(Pの含有割合が12重量%)が形成された、総厚1.27mmのアルミニウム合金を準備し、次いで、準備した基材に対し、研磨を行うことなく、エッチング処理およびジンケート処理を施した。
【0061】
その後、エッチング処理およびジンケート処理を施した基材に対し、Ni−Pめっき浴(奥野製薬工業社製、ICPニコロンGM−NP)を用いて、無電解めっきにより、基材上に、厚さ2μmのNi−Pめっき層(Pの含有割合が7重量%)を形成し、これにより、基材表面の算術平均粗さRaが166nmであるNi−Pめっき層を得た。
【0062】
次いで、Ni−Pめっき層を形成した基材について、無電解置換金めっき浴(奥野製薬工業社製、フラッシュゴールドNC)を用いて、55℃、1分間の条件で無電解置換めっき処理を施し、その後、無電解還元金めっき浴(奥野製薬工業社製、セルフゴールドOTK)を用いて、60℃、1分間の条件で無電解還元めっき処理を施すことにより、Ni−Pめっき層上に、厚さ33nmの金めっき層を形成し、金めっき被覆材料を得た。
【0063】
<比較例2,3>
金めっき層を形成した際の、無電解還元めっきにおける浸漬時間を変更して、形成された金めっき層の厚みを、75nm(比較例2)、および117nm(比較例3)とした以外は、比較例1と同様にして金めっき被覆材料を得た。
【0064】
金めっき層の耐食性評価
次いで、実施例1〜9、および比較例1〜3において得られた金めっき被覆材料に対し、耐食性の評価を行った。耐食性の評価は、具体的には、金めっき被覆材料を縦35mm、横20mmの面積が露出するようにポリイミドテープでマスキングし、90℃の硫酸水溶液(体積80ml、pH:1.0)に100時間浸漬した後、金めっき被覆材料を取り出し、金めっき被覆材料から硫酸水溶液中に溶出したイオン(Ni、P、Al)の質量濃度(g/L)をICP(島津製作所社製、ICPE−9000)により測定することにより行った。また、併せて、燃料電池用セパレータの材料として通常用いられているSUS316Lについても、同様に、硫酸水溶液に浸漬させ、硫酸水溶液中に溶出したイオン(Fe、Cr、Mo、Ni)の質量濃度(g/L)をICPにより測定することで、耐食性の評価を行った。結果を
図1に示す。
【0065】
なお、
図1に示すグラフにおいては、各実施例および各比較例における評価結果は、金めっき被覆材料から溶出したNi、P、Alのイオンの質量濃度を示し、一方、SUS316Lの評価結果は、SUS316Lから溶出したFe、Cr、Mo、Niのイオンの質量濃度を示している。また、
図1に示すグラフにおける、各実施例および各比較例の金めっき被覆材料から溶出したイオン(Ni、P、Al)の質量濃度は、SUS316Lから溶出したイオン(Fe、Cr、Mo、Ni)の質量濃度の値を100として、相対値で示している。
【0066】
図1の結果より、基材上に形成した下地めっき層の表面の算術平均粗さRaを80nm以下とし、無電解めっきにより金めっき層を形成した実施例1〜9の金めっき被覆材料においては、金めっき層の厚みが薄い場合でも、SUS316Lと比較して、基材からのイオンの溶出を有効に抑制することができ、耐食性に優れる結果となった。特に、実施例9の金めっき被覆材料は、基材に溝加工を施した後、無電解めっきにより金めっき層が形成されたものであるが、溝加工により形成された凹凸部に対しても、良好に金めっき層が形成され、基材からのイオンの溶出が有効に抑制されていることが確認された。
【0067】
一方、基材上に形成した下地めっき層の表面の算術平均粗さRaが80nm超である比較例1〜3の金めっき被覆材料においては、金めっき層の厚みが薄い場合には、SUS316Lと比較して、基材からより多くのイオンが溶出してしまい、耐食性に劣る結果となった。
【0068】
体積抵抗率の測定
次いで、実施例6において得られた金めっき被覆材料を用いて、
図2に示すような測定系を形成し、形成した測定系を用いて、体積抵抗率の測定を行った。なお、
図2に示す測定系は、実施例6において得られた金めっき被覆材料からなる試験片10、カーボンクロス20、金めっき被覆された銅電極30、電圧計40、および電流計50によって構成される。体積抵抗率の測定は、具体的には、まず、金めっき被覆材料を幅20mm、長さ20mm、厚さ1.27mmの大きさに加工して得た試験片10を、
図2に示すように、カーボンクロス20(東レ社製、品番:TGP−H−090)を介して、金めっき被覆された銅電極30によって両側から挟んで固定することで、
図2に示す測定系とした。次いで、銅電極30に一定の荷重を加えながら、抵抗計(日置電機社製、ミリオームハイテスタ3540)を用いて、試験片10を挟んだ上下のカーボンクロス20間の抵抗値Rを測定した。そして、測定した抵抗値Rに基づいて、下記式(1)にしたがい、体積抵抗率ρを算出した。
ρ=R・S/L ・・・(1)
上記式(1)中、Sは試験片10の断面積(幅20mm×長さ20mm)であり、Lは試験片10の厚さ(厚さ1.27mm)である。なお、上記式(1)からも明らかなように、体積抵抗率ρは、試験片10の断面積および厚さに依らない、試験片10自体の導電性を示すものである。なお、本実施例においては、体積抵抗率ρに際しては、銅電極30に加える荷重を変化させて、異なる荷重における体積抵抗率ρを測定した。得られた測定結果を
図3に示す。
【0069】
また、
図3においては、比較データとして、カーボンセパレータ(東陽テクニカ社製)を用いて測定した体積抵抗率ρの値も併せて示した。カーボンセパレータの体積抵抗率ρは、カーボンセパレータを幅20mm、長さ20mm、厚さ1.0mmの大きさに加工して得た試験片10を用いて、上述した
図2に示す測定系により測定することで得た。なお、
図3においては、体積抵抗率ρの測定結果は、荷重5kg/cm2におけるカーボンセパレータの体積抵抗率ρを100とした場合の相対値で示している。
【0070】
図3の結果より、基材上に形成した下地めっき層の表面の算術平均粗さRaを80nm以下とし、無電解めっきによりに金めっき層を形成した実施例6の金めっき被覆材料においては、いずれの荷重値においても、従来のカーボンセパレータより体積抵抗率ρが低い値となり、導電性に優れる結果となった。