特許第6111111号(P6111111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6111111印刷用紙の製造装置、印刷方法、および印刷システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111111
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】印刷用紙の製造装置、印刷方法、および印刷システム
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20170327BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20170327BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170327BHJP
   B05D 5/04 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   B41M5/00 100
   B41M5/52 100
   B41J2/01 123
   B05D5/04
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-64513(P2013-64513)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-188743(P2014-188743A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 博司
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−099968(JP,A)
【文献】 特開2011−207985(JP,A)
【文献】 特開2011−074150(JP,A)
【文献】 特開2011−183676(JP,A)
【文献】 特開2004−243624(JP,A)
【文献】 特開2011−063016(JP,A)
【文献】 特開2012−111845(JP,A)
【文献】 特開2010−201711(JP,A)
【文献】 特開2014−069416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
B41J 2/01 − 2/215
C09D 11/00 − 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンポリマーを含有し、油性インクを受容可能なコート層が基材上に形成されたコート紙の当該コート層内に浸透することによって、水性インクを内部に浸透させて受容するインク受容層を当該コート層内に形成可能な塗布液を調製して供給する供給部と、
前記供給部から供給される前記塗布液を、前記コート層のうち表面側の部分に浸透するように前記コート層に塗布する塗布部と、
前記供給部による前記塗布液の調製を制御する制御部と、
コート層の種類に対して前記塗布液の調製に用いられる各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報を記憶した記憶部と、
を備え
前記供給部は、前記塗布液についての複数の候補材料を貯留し、
前記制御部は前記情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた前記塗布液の調製に用いられる各材料を、前記複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、前記供給部に、コート紙の種類に応じた塗布液を調製させる印刷用紙の製造装置。
【請求項2】
請求項に記載の印刷用紙の製造装置であって、
前記塗布部は、
前記コート層の表面から5um以上の深さまで前記コート層内に浸透可能な液量の前記塗布液を前記コート層に塗布する印刷用紙の製造装置。
【請求項3】
請求項または請求項に記載の印刷用紙の製造装置であって、
前記塗布液は、
前記コート層内への当該塗布液の浸透速度を上げる添加剤をさらに含有している印刷用紙の製造装置。
【請求項4】
請求項から請求項の何れか1つの請求項に記載の印刷用紙の製造装置であって、
前記塗布液が塗布された前記コート紙を乾燥させる乾燥部、
をさらに備える印刷用紙の製造装置。
【請求項5】
カチオンポリマーを含有し、油性インクを受容可能なコート層が基材上に形成されたコート紙の当該コート層内に浸透することによって、水性インクを内部に浸透させて受容するインク受容層を当該コート層内に形成可能な塗布液を調製する調製ステップと、
調製された前記塗布液を前記コート層のうち表面側の部分に浸透するように前記コート層に塗布する塗布ステップと、
前記塗布液が塗布された前記コート紙を乾燥させる乾燥ステップと、
乾燥された前記コート紙に水性インクを吐出するインク吐出ステップと、
を備え
前記調製ステップは、
コート層の種類に対して、前記塗布液の各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた前記塗布液の調製に用いられる各材料を、予め貯留されている複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、コート紙の種類に応じた塗布液を調製するステップである印刷方法。
【請求項6】
カチオンポリマーを含有し、油性インクを受容可能なコート層が基材上に形成されたコート紙の当該コート層内に浸透することによって、水性インクを内部に浸透させて受容するインク受容層を当該コート層内に形成可能な塗布液を調製して供給する供給部と、
前記供給部から供給される前記塗布液を、前記コート層のうち表面側の部分に浸透するように前記コート層に塗布する塗布部と、
前記供給部による前記塗布液の調製を制御する制御部と、
コート層の種類に対して前記塗布液の調製に用いられる各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報を記憶した記憶部と、
前記塗布液が塗布された前記コート紙を乾燥させる乾燥部と、
前記乾燥部によって乾燥された前記コート紙に水性インクを吐出するインク吐出部と、
を備え
前記供給部は、前記塗布液についての複数の候補材料を貯留し、
前記制御部は前記情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた前記塗布液の調製に用いられる各材料を、前記複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、前記供給部に、コート紙の種類に応じた塗布液を調製させる印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクを用いた印刷技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点などから、水性染料インク、水性顔料インク等の水性インクを吐出する印刷システムが普及している。オフセット印刷用紙は、パルプなどの基材の表面を、油性インクの定着性を高めるコート層によってコートしたコート紙である。該コート層は、炭酸カルシウム、カオリン、およびSBR(スチレンブタジエンラバー)等で構成されており、カレンダー処理が施されて光沢性が付与されている。オフセット印刷用紙は、広く普及しており安価であるが、水性インクが吐出されると、滲みや濃度不足などの画質の悪化を生ずる。また、耐水性の悪化や、擦過性の悪化等の問題も生ずる。このため、印刷システムにおいては水性インクの定着性および乾燥性などが高められた各種のインクジェット専用紙が使用されてきた。
【0003】
インクジェット専用紙は、パルプなどの基材上に、水性インクの定着性を高めるコート(アンカーコート)層が形成されることによって製造される。該コート層は、例えば、シリカなどの無機微粒子、ポリビニルアルコールなどの親水性バインダー、および無機微粒子の分散を維持するための分散剤などを含んだコート剤(「塗布液」とも称される)が基材上に塗布されることによって形成される。形成されたコート層においては、印刷用紙に付着した無機微粒子間の空隙に水性インクが吸着されることなどによって水性インクの定着性などが高められるとともに、無機微粒子の表面での正反射などによって印刷用紙の光沢度が高められている。しかし、このようなインクジェット専用紙は、一般的なオフセット印刷用のコート紙などに比べて高価になる。
【0004】
また、ボール紙等の梱包用の用紙に代表される厚紙への印刷おいては、オフセット印刷用紙への印刷よりも良好な擦過性、耐水性等が要求されるため、UVインクをインクジェット方式により厚紙に吐出する手法が一般的である。しかし、UVインクは臭気を有しているために、UVインクで印刷された厚紙は、食品の包装に適さないなど、用途が限定されるという問題がある。このため、厚紙への印刷においても水性インクをインクジェット方式で吐出する印刷方式が望まれているが、厚紙のインクジェット専用紙は、現状では、ほとんど流通していない。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1のインクジェットプリンタでは、オフセット印刷用紙などの一般的な印刷用のコート紙の表面状態を水性インク向けに改質するコート剤を予め有するとともに、該コート剤を印刷用紙に塗布する表面処理機構を備えている。そして、該インクジェットプリンタは、印刷に先立って該コート剤を塗布することによって、一般的な印刷用紙の表面状態を水性インクに適した表面状態に改質した後に印刷を行なうことで、印刷コストの低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−261912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の手法によってもなお、無機微粒子等を含有するコート剤に起因して印刷用紙の製造コストが増加し、印刷コストが増加するといった問題がある。
【0008】
本発明は、こうした問題を解決するためになされたもので、オフセット印刷用のコート紙の表面状態を、水性インク向けに低コストで改質できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、の態様に係る印刷用紙の製造装置は、カチオンポリマーを含有し、油性インクを受容可能なコート層が基材上に形成されたコート紙の当該コート層内に浸透することによって、水性インクを内部に浸透させて受容するインク受容層を当該コート層内に形成可能な塗布液を調製して供給する供給部と、前記供給部から供給される前記塗布液を、前記コート層のうち表面側の部分に浸透するように前記コート層に塗布する塗布部と、前記供給部による前記塗布液の調製を制御する制御部と、コート層の種類に対して前記塗布液の調製に用いられる各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報を記憶した記憶部と、を備え、前記供給部は、前記塗布液についての複数の候補材料を貯留し、前記制御部は前記情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた前記塗布液の調製に用いられる各材料を、前記複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、前記供給部に、コート紙の種類に応じた塗布液を調製させる。
【0015】
の態様に係る印刷用紙の製造装置は、第の態様に係る印刷用紙の製造装置であって、前記塗布部は、前記コート層の表面から5um以上の深さまで前記コート層内に浸透可能な液量の前記塗布液を前記コート層に塗布する。
【0016】
の態様に係る印刷用紙の製造装置は、第または第の態様に係る印刷用紙の製造装置であって、前記塗布液は、前記コート層内への当該塗布液の浸透速度を上げる添加剤をさらに含有している。
【0017】
の態様に係る印刷用紙の製造装置は、第から第の何れか1つの態様に係る印刷用紙の製造装置であって、前記塗布液が塗布された前記コート紙を乾燥させる乾燥部をさらに備える。
【0018】
の態様に係る印刷方法は、カチオンポリマーを含有し、油性インクを受容可能なコート層が基材上に形成されたコート紙の当該コート層内に浸透することによって、水性インクを内部に浸透させて受容するインク受容層を当該コート層内に形成可能な塗布液を調製する調製ステップと、調製された前記塗布液を前記コート層のうち表面側の部分に浸透するように前記コート層に塗布する塗布ステップと、前記塗布液が塗布された前記コート紙を乾燥させる乾燥ステップと、乾燥された前記コート紙に水性インクを吐出するインク吐出ステップとを備え、前記調製ステップは、コート層の種類に対して、前記塗布液の各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた前記塗布液の調製に用いられる各材料を、予め貯留されている複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、コート紙の種類に応じた塗布液を調製するステップである。
【0019】
の態様に係る印刷システムは、カチオンポリマーを含有し、油性インクを受容可能なコート層が基材上に形成されたコート紙の当該コート層内に浸透することによって、水性インクを内部に浸透させて受容するインク受容層を当該コート層内に形成可能な塗布液を調製して供給する供給部と、前記供給部から供給される前記塗布液を、前記コート層のうち表面側の部分に浸透するように前記コート層に塗布する塗布部と、前記供給部による前記塗布液の調製を制御する制御部と、コート層の種類に対して前記塗布液の調製に用いられる各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報を記憶した記憶部と、前記塗布液が塗布された前記コート紙を乾燥させる乾燥部と、前記乾燥部によって乾燥された前記コート紙に水性インクを吐出するインク吐出部とを備え、前記供給部は、前記塗布液についての複数の候補材料を貯留し、前記制御部は前記情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた前記塗布液の調製に用いられる各材料を、前記複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、前記供給部に、コート紙の種類に応じた塗布液を調製させる。
【発明の効果】
【0020】
印刷用紙は、基材と、基材上に形成され、油性インクを受容可能なコート層とを備え、コート層のうち表面側の部分に、カチオンポリマーを含有し、水性インクを内部に浸透させて受容可能なインク受容層が形成されている。このインク受容層をコート層内に形成可能な塗布液は予め調製されている。この調製の際には、コート層の種類に対して、塗布液の各材料と、当該各材料の分量とを対応付ける情報に基づいて、予め取得したコート層の種類に応じた塗布液の調製に用いられる各材料を、予め貯留されている複数の候補材料の中から選択するとともに、選択した各材料の分量を取得し、コート紙の種類に応じた塗布液が調製される。当該印刷用紙に水性インクが吐出されれば、当該水性インクは、コート層内の上部に形成されたインク受容層の内部に浸透して受容されるので、水性インクの滲みが抑制される。また、当該印刷用紙は、無機微粒子等の高価な原料を含有することなく低コストで製造され得る。これにより、オフセット印刷用のコート紙の表面状態を、水性インク向けに低コストで改質できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る印刷システムの概略構成の一例を示す図である。
図2図1に示された塗布装置の概略構成の一例を示す図である。
図3】オフセット印刷用のコート紙の構成を例示する断面模式図である。
図4図3のコート紙に塗布液が塗布された状態を例示する断面模式図である。
図5】実施形態に係る印刷用紙の構成を例示する断面模式図である。
図6】オフセット印刷用のコート紙におけるインクの滲みの一例を示す図である。
図7】実施形態に係る印刷用紙におけるインクの滲みの一例を示す図である。
図8】実施形態に係る印刷用紙におけるインクの滲みの一例を示す図である。
図9】実施形態に係る印刷用紙におけるインクの滲みの一例を示す図である。
図10】オフセット印刷用のコート紙と実施形態に係る印刷用紙とにおけるインクの滲みの一例を表形式で示す図である。
図11】オフセット印刷用のコート紙と実施形態に係る印刷用紙とにおけるインクの滲みの一例を表形式で示す図である。
図12図2に示された塗布部の概略構成の他の一例を示す図である。
図13】変形例に係る印刷システムの概略構成の一例を示す図である。
図14】実施形態に係る印刷システムの動作フローの一例を示す図である。
図15】実施形態に係る印刷システムの動作フローの一例を示す図である。
図16】実施形態に係る印刷システムの動作フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付され、下記説明では重複説明が省略される。また、各図面は模式的に示されたものであり、例えば、各図面における表示物のサイズおよび位置関係等は必ずしも正確に図示されたものではない。なお、一部の図面には方向の説明のために、直交するXYZの3軸、若しくは直交するXZの2軸が付されている。X軸及びZ軸方向は水平方向、Y軸方向は鉛直方向(+Y側が上側)である。
【0023】
<A−1.印刷システム100Aの構成について>
図1は、実施形態に係る印刷システム100Aの概略構成の一例を示す図である。この印刷システム100Aは、オフセット印刷用のコート紙(「オフセット印刷用紙」)1に塗布液2が塗布されることにより製造された印刷用紙101に対してインクジェット方式によりインク9にて印刷する装置である。インク9は、例えば、水性染料インク、水性顔料インク等の水性インクである。
【0024】
図3は、オフセット印刷用のコート紙1の構成を例示する断面模式図である。コート紙1は、パルプなどの基材61上(基材61の上面62上)に、オフセット印刷で使用される油性インクの定着性を向上させるコート層71が形成された印刷用紙である。コート層71は、例えば、炭酸カルシウムやSBR(スチレンブタジエンラバー)等の各粒子72同士の間隙にカオリンが入り込んだものをバインダーにより固めた層であり、カレンダー処理が施されて光沢性が付与されている。コート層71の厚みa1は、一般に、20um〜25um程度である。
【0025】
図1に示されるように、印刷システム100Aは、例えば、印刷装置41、印刷用紙101の製造装置47、搬送系駆動装置44、搬送ローラ51、52、操作部88、記憶部89および制御部90などを主に備えて構成されている。製造装置47は、乾燥装置42と塗布装置43とを備えて構成されている。製造装置47は、コート紙1のコート層71に塗布液2を塗布し、塗布液2をコート層71内部に浸透させて乾燥させることによって、水性インクの定着性を高めたインク受容層75がコート紙1のコート層71内部に形成された印刷用紙101(図5)を製造する。
【0026】
印刷装置41は、インクジェットヘッド(「インク吐出部」)17などを主に備えて構成されている。インクジェットヘッド17は、Z軸方向(主走査方向)に移動可能に構成されており、制御部90からの制御に応じて、印刷用紙101に対してZ軸方向に相対的に移動しつつインクジェット方式によってインク9を吐出することにより印刷用紙101に印刷を行なう。インクジェットヘッド17として、Z軸方向に沿って印刷用紙101の幅以上の長さにわたって並べられた複数のノズルを備え、当該複数のノズルからインク9を吐出することにより印刷を行うインクジェットヘッドが採用されても良い。
【0027】
乾燥装置42は、例えば、不図示の送風装置およびヒータなどを主に備えて構成されている。乾燥装置42は、制御部90からの制御に応じて、塗布液2がコート層71に浸透したコート紙1の表面73に温風を吹き付けることなどによって、塗布液2を乾燥させる。乾燥された塗布液2は、水性インクを受容可能なインク受容層75をコート紙1のコート層71の内部に形成する。
【0028】
塗布装置43は、塗布液2をコート紙1の表面73に塗布する塗布部などを備えて構成されている。該塗布部は、例えば、塗布ノズル15および支持ローラ16などを主に備えて構成された塗布部35A(図2)などによって実現される。塗布装置43は、該塗布部がコート紙1に対して相対的にX軸方向に移動しつつ制御部90からの制御に応じてコート紙1のコート層71上に塗布液2を塗布する。塗布液2は、コート紙1のコート層71の内部に浸透して乾燥されることによりインク9の定着性を向上させる受容層(「インク受容層」)75(図5)を形成する。塗布液2は、例えば、カチオンポリマーなどのインクの定着剤、イソプロピルアルコールなどの親水性の溶剤、および界面活性剤などを含有する水溶液である。
【0029】
図4は、コート紙1に塗布液2が塗布された状態を例示する断面模式図である。図5は、実施形態に係る印刷用紙101の構成を例示する断面模式図である。コート層71の表面73に塗布される塗布液2の厚み(「膜厚」)b1は、塗布液2がコート層71内に浸透する深さ(すなわち、インク受容層75の厚み)c1や、コート層71の構造などに応じて調整される。コート層71上に塗布された塗布液2は、コート層71内部の上部、すなわちコート層71のうち印刷面である表面73側部分(上側部分)に浸透する。コート層71の上側部分に塗布液2が浸透した状態でコート紙1が乾燥されると、塗布液2内の水やアルコールが蒸発し、カチオンポリマーがコート層71内に残留して定着する。これにより、コート層71うち表面73側の部分にインク受容層75が形成される。インク受容層75が形成された印刷用紙101にアニオンであるインク9が吐出されると、インク9とインク受容層75内のカチオンポリマーとの間に作用する電気的な引力によって、インク9は、コート層71の表面73における拡散を抑制されつつ、インク受容層75の内部に浸透する。これによりインク受容層75が形成されたコート層71における水性インクの定着性が高められるとともに、水性インクの滲みが抑制される。また、塗布液2は、無機微粒子を含まない。そして、塗布液2の調整コストを、例えば、無機微粒子が含まれる場合の5分の1程度に抑制できる。このため、印刷用紙101を用いて印刷を行えば、オフセット印刷用のコート紙のコート層に無機微粒子が分散されたコート剤を塗布することによりコート層の表面に水性インクを受容可能なアンカーコート層がさらに形成されたインクジェット専用紙を使用する印刷に比べて、印刷用紙に関するコストを低減できるので、印刷コストを低減できる。
【0030】
搬送系駆動装置44は、モータなどの不図示のアクチュエータおよび動力伝達系などを主に備えて構成されている。搬送系駆動装置44は、制御部90からの制御に応じて搬送ローラ51(52)を駆動して矢印R1(R2)の方向に回転させることにより、コート紙1を印刷装置41、乾燥装置42、および塗布装置43に対して−X方向に相対的に移動させる。なお、コート紙1(印刷用紙101)は、その一端が搬送ローラ51に巻き付けられて固定されるとともに、他端が搬送ローラ52に巻き付けられて固定されることにより、搬送ローラ51から搬送ローラ52に渡って張架されている。
【0031】
コート紙1は、搬送ローラ51が矢印R1方向に回転することにより搬送ローラ51から送り出されたのち、搬送ローラ52の矢印R2方向への回転によって、コート層71内部にインク受容層75が形成された印刷用紙101として搬送ローラ52に巻き取られる。すなわち、搬送系駆動装置44は、予め設定された処理ラインに沿ってコート紙1(印刷用紙101)を搬送する搬送機構である。また、塗布装置43と、インクジェットヘッド17すなわち印刷装置41とは、該処理ラインの上流側と下流側とにそれぞれ配置されている。そして、乾燥装置42は、該処理ラインにおいて、上流側の塗布装置43と、下流側のインクジェットヘッド17との間に位置している。すなわち、乾燥装置42による塗布液2の乾燥工程は、該処理ラインにおける塗布装置43による塗布液2の塗布工程と、該処理ラインにおけるインクジェットヘッド17によるインク9の吐出工程との間で行なわれる工程である。
【0032】
操作部88は、操作ボタン、タッチパネル式の表示部などを備えて構成されている。操作者が操作部88を操作することにより、コート紙1のコート層71の種類の入力、印刷システム100Aに関する各種動作の指示、および各種パラメータの設定などが行なわれる。
【0033】
記憶部89は、例えば、フラッシュメモリなどの読み書き自在な不揮発性メモリやハードディスク装置等によって構成されており、印刷システム100Aの各種制御パラメータや各種動作モードなどの情報を恒久的に記録する。また、記憶部89には、テーブル91が記憶されている。
【0034】
テーブル91は、コート紙1のコート層71の種類と、塗布液2の調製に用いられる材料(「対象材料」)との対応関係などを示す情報である。コート層71の材料や構造によって、コート層71内部への塗布液2の浸透性が異なる。このためコート層71の材料や構造に応じて、塗布液2に含まれる界面活性剤の種類や、溶剤の種類などを変更して対応する必要が有る。また、好ましいカチオンポリマーの種類が、コート層71の種類に応じて異なる場合もある。従って、塗布液2の調製に用いられる対象材料は、コート層の種類に応じて変更される。テーブル91は、当該対象材料のそれぞれについて、塗布液2における混合比を対応づけている。混合比に代えて、混合比と物理的もしくは数学的に等価な指標値が用いられても良い。テーブル91は、予め、実験や、モデルを規定したシミュレーションなどによって決定されて記憶部89に記憶される。また、塗布液2のコート層71内部への浸透深さc1に対応する塗布液2の膜厚b1は、塗布液2が含有する薬液の種類や、コート層71の組成などによって変動する。このため、当該対応関係も、予め実験やシミュレーションによって決定されて記憶部89にテーブル91として記憶される。
【0035】
制御部90は、CPU、ROMおよびRAM等を備える一般的なマイクロコンピュータによって構成されており、印刷装置41、乾燥装置42、塗布装置43、搬送系駆動装置44、操作部88、および記憶部89のそれぞれと電気的に接続されている。そして、制御部90は、予め格納されたソフトウェアプログラムに従って印刷システム100Aの各部を所定のタイミングで制御することにより印刷システム100A全体の動作制御を司る。また、制御部90は、記憶部89に記憶されたテーブル91を参照することにより、コート紙1のコート層71の種類に応じて塗布装置43を制御する。
【0036】
<A−2.塗布装置の構成について>
図2は、印刷システム100Aにおける塗布装置43の概略構成の一例を示す図である。図2に示されるように、塗布装置43は、貯留部30、原液供給部33、混合器13、バッファタンク14、塗布液供給部34、塗布部35A、および水供給部39などを主に備えて構成されている。
【0037】
○貯留部30について:
貯留部30(図2)は、コート紙1のコート層71に塗布されてコート層71内部に浸透し、コート層71のうち表面73側の部分にインク受容層75を形成する塗布液2についての互いに異なる複数の候補材料を個別に貯留する。図2には、貯留部30に複数の候補材料を貯留するためのタンクとして複数のタンクのうち3つのタンク21a〜21cが例示されるとともに、貯留部30に貯留される複数の候補材料のうちタンク21a〜21cにそれぞれ貯留される3つの候補材料5〜7が例示されている。該複数の候補材料は、それぞれ液体状である。
【0038】
候補材料としては、例えば、インクの定着剤であるカチオンポリマー、界面活性剤、イソプロピルアルコールなどの親水性の溶剤などが想定される。また、カチオンポリマー、界面活性剤、溶剤などの各薬液のそれぞれについて、1種類のみが貯留部30に貯留されても良いし、互いに異なる複数の種類が貯留部30に貯留されても良い。また、一部の種類の薬液についてのみ複数の種類が貯留されても良い。なお、貯留部30は、少なくともカチオンポリマーを候補材料として貯留する。
【0039】
カチオンポリマーとしては、アリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、第4級アンモニウム塩ポリマー、アルキルアミン重合物、ポリアミン縮合物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどの溶液が採用される。また、親水性の溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなとの水溶性有機溶剤が採用される。
【0040】
テーブル91を参照する制御部90の制御によって、貯留部30に貯留された各候補材料から、コート紙1の種類に基づいて、塗布液2の調製に用いられる各対象材料が選択されるとともに、選択された各対象材料について、塗布液2の調製に用いられる分量が制御部90によって取得される。具体的には、塗布液2のほとんどは、水3または溶剤によって占められ、カチオンポリマーの含有率は、例えば、5重量%程度であり、界面活性剤の含有率は、0.1重量%程度である。このように、塗布液2のほとんどが、通常、水とアルコールとによって占められていることから、コート層71に塗布された塗布液2は、コート層71の表面73上に滞留することなくコート層71の内部に浸透する。コート層71内部への塗布液2の浸透速度は、界面活性剤やアルコールなどの溶剤などの添加剤を添加することによって上げることが出来る。従って、テーブル91に、塗布液2の浸透速度と、界面活性剤や溶剤などの添加剤の添加量とを対応づけて記憶しておき、制御部90がテーブル91を参照することで、必要な浸透速度に応じて添加剤の添加量を制御してもよい。なお、塗布液2が水3とカチオンポリマーだけを含有するものであってもよい。
【0041】
○原液供給部33について:
原液供給部33(図2)は、制御部90によって取得された各分量に応じて制御部90が選択した各対象材料を貯留部30から混合器13にそれぞれ供給する。具体的には、原液供給部33は、主として、例えば、ポンプとマスフローコントローラ(Mass Flow Controller)との対などを、貯留部30に備えられた各タンクに対応して備えて構成されている。図2の例では、ポンプ11aとマスフローコントローラ12aとの対、ポンプ11bとマスフローコントローラ12bとの対、およびポンプ11cとマスフローコントローラ12cとの対が示されている。制御部90からの制御に応じてポンプとマスフローコントローラとが制御されることによって、選択された対象材料が原液供給配管を介して混合器13にそれぞれ供給される。図2には、原液供給配管83a〜83cが例示されている。
【0042】
なお、各対象材料の単位時間当りの供給量は、制御部90が、各マスフローコントローラによる各対象材料の単位時間当りの供給量を各マスフローコントローラにそれぞれ設定することによって調整可能である。
【0043】
なお、ポンプの代わりに、例えば、窒素ガスや空気を貯留部30内の各タンク内に送り込んでタンク内の圧力を高めることにより各原液を混合器13へと圧送する構成が採用されても良い。また、マスフローコントローラの代わりに、例えば、制御部90からの制御により弁の開度が調節可能な電動弁などが採用されても良い。
【0044】
○水供給部39について:
水供給部39(図2)は、例えば、ポンプとマスフローコントローラとの対などを主に備えて構成される。水供給部39は、例えば、印刷システム100Aが設置されるユーザの製造工場等において予め精製された純水などの水3を不図示の配管を介して供給されるとともに、供給された水3を、制御部90の制御に応じて分量を調整して混合器13に供給する。水供給部39の構成は、水を装置外部から供給される構成に限定されない。水供給部39が、例えば、混合器13に供給する水を貯留するタンクを備えても良い。
【0045】
○混合器13について:
混合器(「混合部」)13(図2)は、例えば、スターラーバー、または撹拌用プロペラなどの不図示の攪拌機を備えて構成されている。混合器13は、原液供給部33から供給された対象材料を、水供給部39から供給される水と混合することにより塗布液2を調製する。得られた塗布液2は、主配管84を介してバッファタンク14に供給される。混合器13に設けられた攪拌機は、混合器13に供給されて、水と混合された対象材料を撹拌することによって、塗布液2の調製を促進する攪拌機である。
【0046】
○塗布液2について:
混合器13において調製された塗布液2(図2)は、コート紙1のコート層71上に塗布されてコート層71内に浸透して乾燥されることにより、コート層71のうち表面73側の部分にインク受容層75を形成するための液状体である。塗布液2における各対象材料の分量比(体積比、重量比)は、制御部90がテーブル91に基づいて原液供給部33を制御することによって予め設定された値に調製されている。塗布液2は、水性インクであるインク9の定着剤としてカチオンポリマーを含有している。塗布液2は、コート紙1の基材61の上面62上に形成されたコート層71内に浸透することによって、インク9を内部に浸透させて受容するインク受容層75をコート層71内に形成可能な液状体である。印刷用紙101に吐出されたインク9は、アニオンであるインク9と、インク受容層75のカチオンポリマーとの間に作用する電気的な引力によって、コート層71の表面73における拡散を抑制されつつ、インク受容層75に浸透して受容される。これにより、インク9の滲みが抑制される。なお、コート紙1は、オフセット印刷用紙であるために、コート層71は、油性インクを受容可能に形成されている。
【0047】
○バッファタンク14について:
バッファタンク14(図2)は、混合器13において調製された塗布液2を一旦貯留するタンクである。バッファタンク14は、バッファタンク14に供給される塗布液2の量と、バッファタンク14から塗布部35Aに供給されて塗布される塗布液2の量との差異に起因して塗布される塗布液2の不足が生ずることなどを防止するために設置されている。バッファタンク14に貯留された塗布液2は、主配管85を介して塗布部35Aへと供給される。
【0048】
○塗布液供給部34について:
塗布液供給部34(図2)は、例えば、ポンプ11dとマスフローコントローラ12dとの対を主に備えて構成される。塗布液供給部34は、バッファタンク14に一旦貯留された塗布液2が塗布部35Aの塗布ノズル15(図3)から塗布されるように、塗布液2を主配管85を介してバッファタンク14から塗布ノズル15に供給する。マスフローコントローラ12dによる塗布液2の単位時間当りの供給量は、制御部90からの該供給量の設定によって制御される。
【0049】
上述したように、貯留部30、原液供給部33、混合器13、バッファタンク14、塗布液供給部34、および水供給部39は、塗布部35Aに塗布液2を供給する供給部31として動作する。
【0050】
○塗布部35A(35B)について:
塗布部35A(図2)は、塗布ノズル15と支持ローラ16とを主に備えて構成されており、供給部31から供給される塗布液2を、コート層71のうち表面73側の部分に浸透するようにコート層71に塗布する。搬送ローラ51および52(図1)によって搬送されるコート紙1は、矢印R3方向に回転可能に構成された支持ローラ16によって支持されつつ塗布部35Aに対して−X方向へと搬送される。塗布ノズル15としては、例えば、大日本スクリーン製造社製のリニアコータ(登録商標)におけるノズル機構が採用される。塗布ノズル15は、コート紙1のZ軸方向の幅に応じて塗布液2をZ軸方向に沿ってカーテン状に吐出しつつコート紙1の上面を、コート紙1に対して+X方向に相対的に走査する。該走査によってコート紙1のコート層71上に塗布液2が塗布される。塗布された塗布液2がコート層71内部に浸透して乾燥されることにより、コート層71のうち表面73側の部分にインク受容層75が形成される。
【0051】
コート層71に塗布された塗布液2のコート層71内部への浸透深さc1(図5)は、コート層71の表面73上に塗布された塗布液2の厚みb1によって異なる。塗布液2の厚みb1は、塗布ノズル15とコート層71の表面73との間隔によって制御される。当該間隔は、制御部90が、不図示の昇降機構によって塗布ノズル15をY軸方向に沿って上下動させることにより設定される。例えば、インク受容層75の厚みc1の目標値が20umであり、塗布液2をコート層71内部に表面73から20um浸透させる必要が有る場合には、コート層71上に塗布される塗布液2の厚みb1は、例えば、5、6um程度となる。従って、コート層71と塗布ノズル15との隙間は5、6umに設定される。なお、塗布液2のコート層71内部への浸透深さc1に対応する塗布液2の膜厚b1は、塗布液2が含有する薬液の種類や、コート層71の組成などによって変動する。このため、当該対応関係は、予め実験やシミュレーションによって決定されて記憶部89にテーブル91として記憶される。制御部90は、テーブル91を参照して、塗布ノズル15の高さを調整することにより、塗布部35Aは、供給部31から供給される塗布液2の液量を、塗布液2がコート層71の表面73からあふれ出ることなくコート層71のうち表面73側の部分に表面73から5um以上の深さまで浸透可能な液量に設定する。これにより塗布部35Aは、塗布液2を、コート層71のうち表面73側の部分に浸透するようにコート層71に塗布する。
【0052】
また、コート層71の表面73に塗布された塗布液2の液量が、塗布液2を受容できるコート層71の受容可能量を超えている場合には、塗布液2が、コート層71内部に浸透して基材61に到達する。すなわち、形成されるインク受容層75が基材61に到達する。インク受容層75が基材61に達すると、コート層71に吐出されたインク9がインク受容層75内をコート層71の下面74側へ向かって浸透して基材61に到達する。パルプなどの基材61は、通常、コート層71よりもインク9の浸透性が良いため、基材61に達したインク9は、基材61内において上面62に沿った方向に浸透して拡散し、滲みを生ずる。このため、コート層71内部への塗布液2の浸透深さc1は、塗布液2が基材61に到達しないように、コート層71の厚みa1よりも小さく設定される。
【0053】
逆に、インク受容層75の厚みが浅く、インク受容層75における水性インクの受容可能量がコート層71に吐出された水性インクの量よりも小さくなる場合には、印刷用紙101に吐出されたインク9は、コート層71の内部に十分に浸透できずに、印刷用紙101の表面で拡がって滲みを生ずる。このため、コート層71における塗布液2の浸透深さ(インク受容層75の厚み)c1は、後述するように、5um以上に設定される。
【0054】
従って、インク受容層75の厚みは、5um以上で、コート層71の厚みa1未満に設定されることが好ましい。実際には、パルプなどの基材61の上面62自身にも凸凹があり、また、コート層71の厚みも変動している。このため、コート層71の厚みa1が25umであれば、インク受容層75の厚みは、基材61の上面62とインク受容層75の下面との間に、例えば、5um程度の余裕空間が形成されるように、15um〜20um程度に設定されることが、より好ましい。
【0055】
図12は、図2に示された塗布部35Aの他の一例として塗布部35Bの概略構成を示す図である。塗布部35Bは、グラビアローラ18と押えローラ19と、バッファタンク14から供給される塗布液2を溜める塗布液パン37とを主に備えて構成される。
【0056】
塗布部35Bにおいて、グラビアローラ18は、その表面に多数の孔を有しており、該孔の大きさや深さを変えることにより表面に保持する塗布液2の液量を変えることができる。これにより、塗布部35Bは、供給部31から供給される塗布液2の液量を、塗布液2がコート層71の表面73からあふれ出ることなくコート層71のうち表面73側の部分に浸透可能な液量に調整し、塗布液2をコート層71に塗布する。グラビアローラ18は、矢印Y1方向へのコート紙1の搬送速度と、グラビアローラ18表面の回転移動速度とが等しくなるように、制御部90から制御される不図示の駆動機構により矢印R4方向に回転される。そして、グラビアローラ18は、該回転に伴って、塗布液パン37に溜められた塗布液2をその表面に保持し、保持した塗布液2をグラビアローラ18に接触したコート紙1に塗布する。また、押えローラ19は、その表面速度が、グラビアローラ18の表面速度と等しくなるように矢印R5方向に回転される。押えローラ19は、グラビアローラ18上に保持された塗布液2がコート紙1に付与されるようにコート紙1をグラビアローラ18へと押し当てて支持するように構成されている。
【0057】
従って、塗布部35Aに代えて、例えば塗布部35Bが採用されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。なお、塗布部35Bが塗布部35Aに代えて採用される場合には、バッファタンク14と塗布液パン37との間に塗布液供給部34が設けられる。
【0058】
<A−3.塗布液の浸透深さ(インク受容層の厚み)とインクの滲みについて>
図6は、インク受容層75が形成されていないオフセット印刷用のコート紙(すなわち、インク受容層75の厚みが0umの印刷用紙)におけるインクの滲みの一例を示す図である。また、図7図9は、インク受容層75の厚みが、それぞれ1um、5um、10umである各印刷用紙101におけるインクの滲みの一例を示す図である。
【0059】
より詳細には、図6図9は、オフセット印刷用紙のコート紙と各印刷用紙101とのそれぞれに対して、シアンとマゼンタの各水性インクが画像の上半分と下半分とに互いに隣り合うようにそれぞれ吐出された状態で、2つのインクの境界部分を撮影した画像から画像処理によって各色の付着領域を抽出して色分け表示した画像である。各画像において、灰色部は、単色印刷されたシアンインクが付着している部分であり、黒色部は、単色印刷されたマゼンタインクが付着している部分である。シアンインクと、マゼンタインクとの印字率(「記録率」、「面積率」とも称する)は、それぞれ90%である。すなわち、図6図9の各画像は、画像全域に亙って90%の印字率でインクが吐出されて印刷されている。図6図9の画像が撮影された各コート紙のコート層の厚みは、25umである。また、各画像のサイズは、画像の幅、すなわち紙面左右方向の長さが3.2mmであり、各画像の高さ、すなわち画像の紙面上下方向の長さは、画像の幅と同じ拡大倍率で表示されている。また、各画像は、互いに同じ拡大倍率で表示されている。
【0060】
図6図9に示されるように、シアンとマゼンタの境界部分は、オフセット印刷用紙のコート紙における境界部分が最もぎざぎざの形状である、すなわちシアンインクとマゼンタインクとが互いに最も滲んでいる(図6)。そして、インク受容層75の厚みが1um、5um、10umと増大するにつれて、シアンとマゼンタとの境界がより明確に(より一本の線に近く)なって、インクの滲みが低減されている(図6図9)。各画像の滲みが許容範囲内の滲みであるか否かを評価した結果、インク受容層75の厚みが5um以上である場合のインクの滲みが、許容範囲内の滲みとなっている。すなわち、90%の印字率においては、インク受容層75の厚みが5um以上であれば、隣り合うインク同士の滲みの程度が許容範囲内となる。
【0061】
インクの印字率は、吐出された各インクの網点状のドットの面積率であり、例えば、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色のインクの印字率がそれぞれ50%であれば、インク全体の印字率は200%になる。ベタ部の印字率は、通常、60%〜250%に設定される。特に、単色印刷の場合、ベタ部の印字率は、通常、60%前後に設定される。従って、インク受容層75の厚みは、ほとんどの印刷において許容可能な最低限の濃度で印刷可能な60%の印字率の印刷において、インクの滲みを許容範囲内に抑制可能な厚みであることが少なくとも必要となる。
【0062】
図10は、インク受容層75が形成されていないオフセット印刷用のコート紙(すなわち、インク受容層75の厚みが0umの印刷用紙)と、インク受容層75の厚みが、それぞれ1um、5um、10umである各印刷用紙101とにおけるインクの滲みの一例を表形式でそれぞれ示す図である。
【0063】
図10に示される表には、印字率とインク受容層の厚みとの組み合わせが互いに異なる20個の画像が、4行5列の行列状の配置により示されている。各画像は何れも、カラーインクを用いて印刷された印刷物を撮影した画像から、画像処理によって各色の付着領域を抽出し、複数段階の濃さにそれぞれ対応した複数の灰色および黒色から選択した各色に適宜変換して表示した画像である。図10の画像が撮影された各コート紙のコート層の厚みは、25umである。また、各画像のサイズは、画像の幅、すなわち紙面左右方向の長さが3.2mmであり、各画像の高さ、すなわち画像の紙面上下方向の長さは、画像の幅と同じ拡大倍率で表示されている。また、各画像は、互いに同じ拡大倍率で表示されている。
【0064】
表の第1行には5通りの印字率(100、150、175、200、255[%])が示され、第1列には、4通りのインク受容層の厚み(0、1、5、10[um])が示されている。各画像と同じ列に記載された印字率が、各画像の印字率(より正確には、画像の各部に吐出されたインクの印字率のうち最大の印字率)を示すとともに、各画像と同じ行に記載されたインク受容層の厚みが各画像の印刷用紙におけるインク受容層75の厚みを示している。また、各画像の上部には、画像におけるインクの滲みに対する評価結果が示されている。
【0065】
なお、評価結果は、滲みが十分に小さい良好な画像である場合には○(Good)、○印の画像よりは滲みが大きいが、許容できる程度の滲みの画像である場合には△(fair)、許容できない程度にまで滲みが大きい画像である場合には×(Poor)で示した。
【0066】
印字率100%の画像は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の3色のインクをそれぞれ印字率100%の単色でベタ印刷した画像である。各画像のうち左端の2番目に淡い灰色部分にはイエローインク、左から二番目のもっと淡い灰色部分にはマゼンタインク、右端の灰色部分らはシアンインクが付着している。また、マゼンタインクとシアンインクとの間の黒色部分は、マゼンタインクとシアンインクとが滲んだことによりマゼンタインクとシアンインクとが混じった二次色を生じた部分である。印字率100%の画像の画質は、イエローインクとマゼンタインクとの境界をなす線のぎざぎざが少ないほど、イエローインクとマゼンタインクとの滲みが少なく良好であり、また、黒色で表示された二次色の部分が小さいほど、マゼンタインクとシアンインクとの滲みが少なく良好である。
【0067】
図10に示された画像に関する2次色のテストパターン、すなわち印字率150%以上の画像用のテストパターンとしては、滲みをより検出し易くするために、以下に説明するように、単色と2次色とが隣接したグラデーションパターンが採用されている。
【0068】
印字率150%、175%、200%の画像は、画像の略右半分の2番目に濃い灰色部分は、互いに等しい印字率で吐出されたシアンインクとマゼンタインクとが混じった二次色のインクがそれぞれ150%、175%、200%の印字率で印刷用紙に吐出された部分である。また、画像の略左半分の最も淡い灰色部分は、右半分における二次色のインクの印字率に拘わらず何れもシアンインクが印字率100%の単色で吐出された部分である。そして、中央部の黒色部分は、印刷用紙の右半分のシアンとマゼンタとの二次色のインクが、印刷用紙の左半分の単色のシアンインク側に向かって滲み出したことにより、当該二次色のインクと、シアンインクとが混じった部分である。従って、印字率150%、175%、200%の各印字率の画像においては、中央部の黒色部分が小さいほどインクの滲みが少ない良質な画像になる。なお、インクは、一般に、印字率が高い側から低い側に向かって、いわゆるインクオンインクの状態で滲みを生じ易いため画像の左側の印字率は、画像右側の印字率よりも低く設定されている。
【0069】
印字率255%の画像の略右半分の黒色に彩色された部分は、互いに等しい印字率で吐出されたシアン、マゼンタ、イエローの各インクが混合した二次色のインクが255%の印字率で吐出された部分である。画像の中央部分の淡い灰色で彩色された帯状の部分は、ブラック(K)インクが印字率50%の単色で吐出された部分である。画像の略左半分の濃い灰色に彩色された部分は、ブラック(K)インクが印字率85%の単色で吐出された部分である。印字率85%の部分は、印字率50%の中央部分の視認性を高めるために印刷用紙上に形成されている。画像の左半分に255%の印字率で吐出された二次色のインクは、インクオンインクの状態で、低い50%の印字率でブラックインクが吐出された中央部分に向かって滲み出す。従って、印字率255%の印字率の画像においては、他の印字率の画像とは逆に、中央部の帯状の黒色に彩色された部分が太く、明瞭に見えるほどインクの滲みが少ない良質な画像であり、細く不明瞭に見えるほどインクの滲みが多く画質の悪い画像である。
【0070】
なお、255%の印字率の画像と175%、200%の印字率の画像とのインク受容層の厚みが互いに等しい場合に、175%、200%の印字率の画像の方が、255%の印字率の画像の方がよりも滲みが顕著に現れている。これは、コート紙では、水性インクの吸収が非常に遅いために、255%の印字率で吐出されたインクが用紙上で池のように溜まる一方、印字率差が大きい50%の印字率の部分で堰き止められて85%の印字率側への滲みの広がりが抑制されているためであると推測される。
【0071】
図10に示されるように、何れの印字率の画像においても、インク受容層75の厚みが厚くなるほど、インクの滲みが小さくなっているが、インク受容層75が形成されていないオフセット印刷用のコート紙と、インク受容層75の厚みが1umの印刷用紙101は、100%〜255%の何れの印字率に対するテストにおいても許容範囲を越えてインクが滲んでいる。これに対して、インク受容層75の厚みが5um以上である印刷用紙101であれば、インクの滲みが許容範囲内となっている。
【0072】
図11は、インク受容層75が形成されていないオフセット印刷用のコート紙(すなわち、インク受容層75の厚みが0umの印刷用紙)と、インク受容層75の厚みが、それぞれ1um、5um、10umである各印刷用紙101とにおけるインクの滲みの一例を表形式でそれぞれ示す図である。より詳細には、図11に示される表には、インク受容層の厚みが互いに異なる4個の画像が、4行1列の行列状の配置により示されている。各画像では、英数字と漢字とを含む文字のテストパターンが採用されている。文字は、通常、印字率100%での印刷が行われるため、図11の各画像における文字は、ブラック(K)インクによって印字率100%、大きさ6ポイントで印字されている。図11の画像が撮影された各コート紙のコート層の厚みは、25umである。また、各画像のサイズは、画像の幅、すなわち紙面左右方向の長さが3.2mmであり、各画像の高さ、すなわち画像の紙面上下方向の長さは、画像の幅と同じ拡大倍率で表示されている。また、各画像は、互いに同じ拡大倍率で表示されている。
【0073】
図11の表の第1行には印字率(100[%])が示され、第1列には、4通りのインク受容層の厚み(0、1、5、10[um])が示されている。各画像には、同じ行に記載されたインク受容層の厚みが対応している。また、各画像の上部には、画像におけるインクの滲みに対する評価結果が示されている。なお、評価結果は、図10の場合と同じ判断基準によって、○(Good)、△(fair)、×(Poor)の三段階で示した。
【0074】
図11に示されるように、印字率100%で文字を印字した場合においても、インク受容層75の厚みが厚くなるほど、インクの滲みが小さくなっているが、インク受容層75が形成されていないオフセット印刷用のコート紙と、インク受容層75の厚みが1umの印刷用紙101は、許容範囲を越えてインクが滲んでいる。これに対して、インク受容層75の厚みが5um以上である印刷用紙101であれば、インクの滲みの程度が許容範囲内となっている。
【0075】
図6図11の実験結果から、90%の印字率で印刷される場合に、インク受容層75の厚みが5um以上であれば、許容範囲内に滲みが抑制された画質で印刷できることが判る。従って、60%の印字率で印刷される場合においてもインク受容層75の厚みが5um以上であれば、許容範囲内に滲みが抑制された画質で印刷できることが判る。また、印字率255%で印刷される場合も、滲みが許容範囲内に抑制されている結果が得られている。従って、より小さい印字率の250%でも滲みは許容範囲内に抑制できる。すなわち、インクが印字率60%〜250%の範囲で印刷用紙に吐出されて印刷される場合には、インク受容層75の厚みが5um以上であれば、許容範囲内に滲みが抑制された画質で印刷できる。また、5um以上の厚みのインク受容層75が形成された印刷用紙101は、60%〜250%の範囲の印字率で印刷した場合に、インクの滲みを許容範囲内に抑制できる印刷用紙である。
【0076】
<A−4.印刷システム100Aの動作について>
図14図16は、実施形態に係る印刷システム100Aの動作フローの一例を示す図である。より詳細には、図14には、印刷システム100Aによる印刷の開始に関する動作フローS100が例示されており、図15には、印刷の終了に関する動作フローS200が例示されている。また、図16には、図14のステップS112の処理の詳細な動作フローが例示されている。以下では、図14図16を適宜参照しつつ、印刷システム100Aの動作について説明する。
【0077】
○印刷の開始に関する印刷システム100Aの動作について:
印刷システム100A(図1)の制御部90は、電源が投入された状態において、操作部88から入力される各種指示信号を待ち受けており(図14のステップS110)、印刷開始を指示する印刷指示信号を受け付けると、処理をステップS112の印刷準備処理へと移す。
【0078】
ステップS112においては、図16に示すように、先ず、操作部88によって、コート紙1の種類などを示す用紙情報の指定操作が受け付けられる(ステップS310)。制御部90は、操作部88から用紙の種類情報を取得する(ステップS320)。
【0079】
次に、制御部90は、ステップS320で取得して認識したコート紙1の種類に基づいて、貯留部30に貯留されている複数の候補材料から塗布液2の調製に用いられる対象材料を選択する(ステップS330)。そして、制御部90は、コート紙1の種類に基づいて、選択した1以上の対象材料のそれぞれについて、塗布液2の調製に用いられる各分量を取得する(ステップS340)。なお、選択された各対象材料の混合器13への供給順序を規定する必要が有る場合には、テーブル91に当該供給順序を記憶し、記憶された供給順序に基づいて制御部90が塗布装置43を制御すればよい。
【0080】
制御部90は、上述したステップS330〜S340の処理を記憶部89に記憶されたテーブル91を参照することによって行う。テーブル91には、コート層71の種類と、該コート層71の種類に適したインク受容層75を形成するための塗布液2の調製に用いられる対象材料との対応関係が記憶されている。また、テーブル91には、各対象材料について、塗布液2の調製のために、混合器13において水に混合される際の混合比などが対応づけられている。従って、制御部90は、テーブル91を参照して、コート層71の種類に基づいて、塗布液2に含まれる各対象材料を特定することにより、ステップS330〜S340の処理を行うことが出来る。
【0081】
次に、制御部90は、認識したコート層71の種類に基づいて、インクジェットヘッド17による塗布液2に対応したインクの吐出の制御に関する印刷パラメータを取得する(ステップS350)。印刷パラメータは、例えば、単位時間当りに吐出するインク量や、単位面積当りに吐出されるインクの付着密度(印字率)や、ドットの制御情報などである。印刷パラメータは、例えば、テーブル91に記録される。印刷パラメータは、テーブル91以外の情報として記憶部89に記憶されても良い。また、インクジェットヘッド17は、制御部90が取得した印刷パラメータに基づいて、塗布液2が塗布されたコート紙1にインク9を吐出する。また、例えば、目標印字率が予め設定されている場合には、目標印字率と、インクの滲みを許容範囲内に抑制可能なインク受容層75の厚みとの対応情報をテーブル91に記憶しておき、制御部90が当該対応情報を参照して、塗布装置43を制御してもよい。
【0082】
図14に戻って、ステップS112の印刷準備処理が終了すると、制御部90が搬送系駆動装置44を制御することにより、搬送系駆動装置44が搬送ローラ51および52を回転させてコート紙1の搬送を開始する(ステップS120)。
【0083】
次に制御部90は、塗布装置43の原液供給部33を制御することにより、塗布液2の調製処理を開始する(ステップS130)。塗布液2の調製処理が開始されると、塗布部35Aによるコート紙1に対する塗布液2の塗布処理が開始される(ステップS140)。次に、制御部90は、乾燥装置42を制御して、塗布液2が塗布されてコート層71内部に浸透したコート紙1の乾燥処理を開始する(ステップS150)。該乾燥によって、コート紙1のうち表面73側の部分に浸透した塗布液2が乾燥されたインク受容層75が形成されて印刷用紙101が製造される。次に、制御部90は、印刷装置41を制御することによりインク受容層75が形成された印刷用紙101上にインク9の吐出を開始することにより印刷処理を開始して(図14のステップS160)、印刷システム100Aにおける印刷開始処理を終了する。なお、動作フローS100の各ステップにおいて開始された印刷システム100Aの各部の動作は、図15に示される動作フローS200の各ステップにおいて制御部90によって処理の終了がされるまで、連続的に行なわれる。該動作によって、塗布液2の調製処理、コート紙1への塗布液2の塗布処理、コート紙1の乾燥処理、および製造された印刷用紙101上へのインク9の吐出による印刷処理が連続的に行なわれる。
【0084】
○印刷の終了に関する印刷システム100Aの動作について:
制御部90は、動作フローS100(図14)によって印刷用紙101への印刷処理が開始された後、開始時に設定された所定部数の印刷物の印刷が完了するタイミングを、例えば、印刷部数のカウントを行なうことなどによって待ち受ける(図15のステップS210)。そして、印刷の終了条件が満たされると、制御部90は、先ず、原液供給部33を制御して塗布液2の調製処理を終了させる(ステップS220)。次に、制御部90は、原液供給部33(塗布液供給部34)を制御して、塗布部35Aによるコート紙1への塗布液2の塗布処理を終了させる(ステップS230)。さらに、制御部90は、乾燥装置42を制御して、乾燥装置42によるコート紙1の乾燥処理を終了させ(ステップS240)、印刷装置41を制御して印刷装置41による印刷用紙101への印刷処理を終了させる(ステップS250)。
【0085】
印刷処理が終了されると、制御部90は、搬送系駆動装置44を制御することにより搬送ローラ51および52を停止させてコート紙1(印刷用紙101)の搬送を終了させ(図15のステップS260)、印刷システム100Aの印刷終了処理を終了させる。該印刷終了処理の終了によって、それぞれ連続的に行なわれていた塗布液2の調製処理、コート紙1への塗布液2の塗布処理、コート紙1の乾燥処理、および製造された印刷用紙101上への印刷処理は、それぞれ終了される。図14図15を参照して上述したように、印刷システム100Aにおいては、印刷装置41の印刷動作、すなわちインクジェットヘッド17の印刷動作に応じて塗布部35A(35B)が塗布液2のコート紙1への塗布を行なう。従って、コート紙1のコート層71にインク受容層が形成されることにより製造された印刷用紙101を格納するスペースを印刷システム100A内部に有する必要がないので、印刷システム100Aの省スペース化が可能となる。
【0086】
また、印刷システム100Aにおいては、コート紙1(印刷用紙101)が予め設定された処理ラインに沿って搬送されるに従って、コート紙1への塗布液2の塗布と、印刷用紙101へのインク9の吐出とが時間順次に行なわれている。
【0087】
以上のように構成された実施形態に係る印刷用紙によれば、基材61と、基材61上に形成され、油性インクを受容可能なコート層71とを備え、コート層71のうち表面73側の部分に、カチオンポリマーを含有し、水性のインク9を内部に浸透させて受容可能なインク受容層75が形成されている。そして、当該印刷用紙に水性のインク9が吐出されれば、インク9は、コート層71内の上部に形成されたインク受容層75の内部に浸透して受容されるので、インク9の滲みが抑制される。また、当該印刷用紙は、無機微粒子等の高価な原料を含有することなく低コストで製造され得る。これにより、オフセット印刷用のコート紙1の表面状態を、水性インク向けに低コストで改質できる。
【0088】
また、以上のように構成された実施形態に係る印刷用紙によれば、インク受容層75は、コート層71の表面から5um以上の厚みに形成されている。これにより、印刷用紙101に対して60%〜250%の印字率で印刷された場合に、インクの滲みを許容範囲レベルに抑制することが出来る。従って、ほとんどの印刷においてインクの滲みを許容範囲内に抑制することができる。
【0089】
また、以上のように構成された実施形態に係る印刷用紙の製造装置によれば、塗布液2を供給する供給部31と、供給部31から供給される塗布液2を、コート紙1の油性インクを受容可能なコート層71のうち表面73側の部分に浸透するようにコート層71に塗布する塗布部35A(35B)とを備えている。塗布液2は、カチオンポリマーを含有し、コート層71内に浸透することによって、水性のインク9を内部に浸透させて受容するインク受容層75をコート層71内に形成可能な液状体である。従って、実施形態に係る印刷用紙の製造装置によれば、コート紙1のコート層71内に塗布液2を浸透させることにより、水性のインク9を内部に浸透させて受容するインク受容層75がコート紙1のコート層71内に形成された印刷用紙101を製造することができる。そして、印刷用紙101に水性のインク9が吐出されれば、インク9は、コート層71内の上部に形成されたインク受容層75の内部に浸透して受容されるので、インク9の滲みが抑制される。また、印刷用紙101は、無機微粒子等の高価な原料を含有することなく低コストで製造され得る。これにより、オフセット印刷用のコート紙1の表面状態を、水性インク向けに低コストで改質できる。
【0090】
また、以上のように構成された実施形態に係る印刷用紙の製造装置によれば、その塗布部35A(35B)が、コート層71の表面73から5um以上の深さまでコート層71内に浸透可能な液量の塗布液2をコート層71に塗布する。従って当該製造装置が製造する印刷用紙101においては、コート層71の表面から5um以上の厚みにインク受容層75が形成される。これにより、印刷用紙101に対して60%〜250%の印字率で印刷された場合に、インクの滲みを許容範囲レベルに抑制することが出来る。従って、ほとんどの印刷において、インクの滲みを許容範囲内に抑制することができる。
【0091】
また、以上のように構成された実施形態に係る印刷用紙の製造装置によれば、塗布液2が、コート層71内への塗布液2の浸透速度を上げる界面活性剤やイソプロピルアルコールなどの添加剤をさらに含有している。これにより、塗布液2の浸透速度を上げて、印刷用紙101の生産効率を向上することが出来る。
【0092】
また、以上のように構成された実施形態に係る印刷用紙の製造装置によれば、塗布液2が塗布されたコート紙1を乾燥させる乾燥装置42をさらに備えている。これにより、コート紙1のコート層71内に浸透した塗布液2からの水や溶剤の蒸発が促進されるので、印刷用紙101の生産効率を向上することが出来る。
【0093】
また、以上のように構成された実施形態に係る印刷システムによれば、コート紙1のコート層71内に塗布液2を浸透させて乾燥することにより、水性のインク9を内部に浸透させて受容するインク受容層75がコート紙1のコート層71内に形成された印刷用紙101を製造し、印刷用紙101に水性のインク9を吐出して印刷することができる。吐出されたインク9は、コート層71内の上部に形成されたインク受容層75の内部に浸透して受容されるので、当該印刷システムによれば、印刷用紙101におけるインク9の滲みを抑制することができる。また、印刷される印刷用紙101は、無機微粒子等の高価な原料を含有することなく低コストで製造されるので、印刷コストを抑制することも出来る。
【0094】
<B.変形例について>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0095】
図13は、変形例に係る印刷システム100Bの概略構成の一例を示す図である。印刷システム100Bは、いわゆる枚葉式の各コート紙1に塗布液2(図1)がそれぞれ塗布されて乾燥されることによりコート層71内部にインク受容層75が形成された枚葉式の各印刷用紙101にインク9(図1)を吐出する装置である。印刷システム100Bと印刷システム100A(図1)との差異は、印刷システム100Bにおいては、排紙装置45および給紙装置46が更に設けられ、コート紙1(印刷用紙101)の搬送系として搬送ベルト55が採用されていることである。図13においては、操作部88および制御部90の記載は省略されている。給紙装置46には、複数枚のコート紙1が備えられており、コート紙1は、枚葉式により給紙装置46から搬送ベルト55上に給紙される。また、印刷装置41により印刷された印刷用紙101は、排紙装置45によって、例えば、吸引されることなどにより搬送ベルト55から引き離されて排紙装置45内の排紙トレイに収納される。
【0096】
印刷システム100Aに代えて、例えば、印刷システム100Bが採用されたとしても本発明の有用性を損なうものではない。また、枚葉式で印刷を行なう印刷システムが採用される場合には、印刷装置41と、印刷用紙の製造装置47とが、互いに独立した搬送系を備えた、互いに独立した装置としてそれぞれ構成されてもよい。この場合において、製造装置47が塗布液2が浸透した各コート紙1を自然乾燥によって乾燥させることにより各印刷用紙101を製造しても良い場合には、製造装置47は、乾燥装置42と塗布装置43とのうち乾燥装置42を備えていなくてもよい。同様に、印刷システム100Aにおいても、印刷装置41と、印刷用紙の製造装置47とが、互いに独立した搬送系を備えた、互いに独立した装置としてそれぞれ構成されてもよい。
【符号の説明】
【0097】
100A,100B 印刷システム
1 コート紙
101 印刷用紙
17 インクジェットヘッド(インク吐出部)
2 塗布液
31 供給部
35A,35B 塗布部
47 印刷用紙の製造装置
61 基材
62 上面
71 コート層
72 粒子
73 表面
75 インク受容層
9 インク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16