(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レンズを加工する際にその加工部にクーラントを供給しながら加工を行うレンズ加工装置において、前記冷却・加熱手段が、当該クーラントを冷凍固定剤の凝固温度以下の温度に冷却する冷却手段を備えている、請求項1記載のレンズ加工装置。
【背景技術】
【0002】
レンズは、その表裏面の球面加工を行ってから、加工された球面によって決定される光軸を基準にして外周加工を行う。この光軸を基準としてレンズの外周加工を行う装置を芯取機と称している。一般的な芯取機は、レンズを保持して回転するホルダと、このホルダに保持されたレンズの外周に向けて近接離隔する回転砥石と、この回転砥石の前記近接離隔方向の移動位置を制御するNC装置とを備えている。NC装置は、ホルダの軸心ないし回転中心を基準にして回転砥石の位置を設定するので、正確な外周加工を行うには、その前提として加工されるレンズがその光軸をホルダの回転中心に正確に一致させて(芯出しされて)保持されていることが必要である。
【0003】
ホルダ上のレンズの芯出し方法としては、真円のエッジを有する上向きと下向きのベルカップでホルダを形成し、当該ホルダでレンズを軽く上下に挟持した状態で上下のベルカップを同期回転駆動する方法や、レンズを保持したホルダを所定角度ずつ回転させて各回転位置におけるレンズ球面の周辺部分の位置をダイヤルゲージで計測してレンズ光軸とホルダの軸心との偏芯方向及び偏芯量を演算し、偏芯方向を外周研削用の砥石に向け、当該砥石で偏芯量に相当する距離だけレンズを押し動かす方法などが用いられている。なお、本願の出願人は、特願2011−237377において、新たな芯出し手段を提案している。
【0004】
レンズ芯取機は、以上のようにしてレンズをホルダ上で芯出しした後、ホルダにレンズを固定して回転させながら回転砥石でレンズの外周研削を行う。レンズをホルダに固定する手段としては、上記の下向きベルカップのような押さえ部材でレンズを挟持する手段が用いられている。しかし、レンズを傷つけるなどのおそれがあるため、挟持力をあまり大きくすることができず、加工中にレンズがホルダ上で移動して芯ずれを起こすこともあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オートコリメータのような光学計測器を用いるとホルダ上でのレンズの光軸とこれを支持しているホルダの軸心ないし回転中心とのずれを高い精度で検出することができる。
【0007】
この発明は、光軸を基準にして芯出しされたレンズを固定及び固定解除する新たなレンズ固定手段を備えたレンズ加工装置を得ることを課題としており、特にホルダ上のレンズの芯ずれを光学計測器で計測する構造のレンズ加工装置に好適なレンズ固定手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のレンズ加工装置は、冷凍チャック法により回転する受台上に加工されるレンズを固定することを特徴とするもので、加工装置に搬入されたレンズの上方にレンズを固定するための部材を備えることなくレンズを固定できるものである。
【0009】
この発明のレンズ加工装置は、加工されるレンズを載置
して鉛直軸回りに回転する上向きカップ状の受台1と、この受台に載置されたレンズと
当該受との間に冷凍固定剤を供給する固定剤供給装置16と、受台上に供給された冷凍固定剤を凝固及び溶融する冷却・加熱手段60とを備えている。
固定剤供給装置16は、受台1の円形のエッジの部分に冷凍固定剤を付着するように設けるか、又は、受台1の円形のエッジ14の部分に達しない量のペースト状の冷凍固定剤を当該受台の上面の凹所に供給するように設ける。好ましいこの発明のレンズ加工装置は、受台1上に載置されたレンズの光軸と受台1の回転中心軸との偏差を検出する光学計測器3と、受台1上のレンズの側方から当該レンズの芯ずれを修正する芯出し手段4とを備えている。光学計測器3は、受台1の上方に配置される。
【0010】
光学計測器3は、受台1に載置されたレンズLの上方から投射した光ビーム31をレンズ表面で光点にして反射させ、その反射光33を2次元受光素子35上に結像させ、その結像位置で投射光31に対する反射光33の偏芯方向及び偏芯量eを計測する。
【0011】
冷凍固定剤は、種々なものが提案されている(特許文献1、2)。固定剤供給装置16は、停止又は回転している受台1に、ペースト状ないし液状の冷凍固定剤を一定量ずつ供給する。冷却・加熱手段60は、受台1やその上に載置されているレンズLを冷却及び加熱することにより、冷凍固定剤gを冷却凝固及び加熱溶融して、レンズLを固定及び固定解除する。冷凍固定剤は、融点ないし凝固点が常温に近いものを用いる。これにより、レンズLや受台1の冷却・加熱による熱変形を抑えて、これらの熱変形による加工精度の低下を防止する。
【発明の効果】
【0012】
この発明により、レンズLを傷つけることなく、芯出しされたレンズを受台1上に強固に固定することができ、加工中の受台1上でのレンズの芯ずれを確実に防止することができる。また、加工されるレンズの上方にレンズを保持するための下向きベルカップなどの部材が不要になるので、光学計測器3を受台1の上方の最適な位置に配置することが可能になり、レンズの芯ずれを高い精度で検出でき、受台1の側方に配置した芯出し手段4で芯出しを行うことにより、高精度のレンズ加工を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、この発明のレンズ加工装置の1実施例を示した図で、レンズ芯取機の例を示す模式的な正面図である。図において、加工されるレンズを固定する上向きカップ状の受台1は、鉛直方向の軸線(主軸軸線)a回りに回転駆動される主軸11の上端に固定されている。主軸11は、主軸モータ12で回転駆動される。
【0015】
主軸11は、中空軸で、その中空孔13は、受台1のカップ内に連通している。主軸の中空孔13の下端は、受台1上でレンズを浮かすための空気圧供給装置5に連結されている。空気圧供給装置5は、圧力設定器51を備えており、この圧力設定器を通過した空気が切換弁52、回転継手53及び主軸11の中空孔13を通って受台1内に供給されるようになっている。
【0016】
受台1の側上方には、レンズの搬入搬出装置が設けられている。搬入搬出装置15は、負圧でレンズの上面を吸着して、図示しないストッカと受台1との間でレンズLを搬入搬出する。
図1には、搬入搬出装置15を受台1の左側に記載しているが、実際は
図1の手前側に位置している。また、受台1の側方には、筒先を上向きカップ状の受台1の上縁に近接して、冷凍固定剤を供給する固定剤ノズル16が配置されている。
図1には、固定剤ノズル16を受台1の左側に記載しているが、実際は
図1の奥側に位置している。
【0017】
受台1上のレンズの外周を加工する回転砥石2は、横送り台22に搭載された縦送り台25に軸支されている。横送り台22は、図示しない水平方向の横ガイドに移動自在に案内され、横送りモータ(サーボモータ)23で回転駆動される横送りねじ24に螺合している。縦送り台25は、横送り台22に固定した鉛直方向、すなわち主軸11と平行な方向の縦ガイド(図示されていない)に移動自在に装着され、縦送りモータ26で回転駆動される縦送りねじ27に螺合している。
【0018】
縦送り台25には、鉛直方向の砥石軸21が主軸11と平行に軸支されている。この砥石軸の下端に砥石2が装着されている。砥石軸21は、図示しない砥石駆動モータで回転駆動される。縦送り台25には、レンズ加工時に研削部にクーラント(切削液)を供給するクーラントノズル6、6が装着されている。
【0019】
クーラントノズル6、6には、
図5に示すように、冷却槽61f内のクーラントfを送る冷却ポンプ62fと、加熱槽61hのクーラントhを送る加熱ポンプ62hが接続されている。冷却槽61f内のクーラントfは、図示しない冷却装置により固定剤ノズル16から供給される冷凍固定剤gの凝固点より低い温度(例えば摂氏0〜10度)に保持されており、加熱槽61h内のクーラントhは、図示しない加熱装置により固定剤ノズル16から供給される冷凍固定剤gの凝固点より高い温度(例えば摂氏20〜25度)に保持されている。
【0020】
受台1の直上には、光学計測器(オートコリメータ)3が配置されている。
図1には、オートコリメータ3の内部構造が模式的に示されている。オートコリメータ3は、受台1上のレンズLに向けて主軸軸線a方向に光ビーム31を投射する投光器32と、レンズLからの反射光33をハーフミラー34で直角に反射して受光する2次元受光素子35とを備えている。投光器32から投射された光ビームは、主軸軸線a上でレンズLの表面に光点(焦点)となって照射され、その反射光33が受光素子35の受光面上で結像し、その位置情報が電気信号として出力される。
【0021】
レンズLの光軸と受台1の軸心とが偏芯していると、
図3に示すように、レンズが傾く。この傾きは、受台1の円形のエッジ14に当接しているレンズ下面の曲率が大きいほど大きく、凸面か凹面かで傾きの方向が逆になる。レンズの光軸中心では、レンズ面は光軸と直角であり、ここに投射された光ビームは入射方向に反射する。レンズが偏芯して傾いていると、反射光は入射光からずれ、
図4に示すように、受光素子35上の受光点sの位置がずれ、受台1の回転によって受光点sは、円軌跡cを描く。
【0022】
この円軌跡の中心pは、主軸軸線aに対応する受光面上の点である。この中心点pを原点として受光点sの偏芯方向及び偏芯量(円の半径)eを計測すれば、光学計測器3の受光面の原点oが受台1の回転中心からずれていても、正確な偏芯方向及び偏芯量を計測できる。外周加工中、すなわち受台1の回転中は、受光点sの偏芯方向は計測できないが、偏芯量eは計測できる。従って、外周加工中に偏芯量eを監視することで、加工中に芯ずれが起こったときに直ちに検出することができる。
【0023】
光学計測器3は、
図2に示すように、保持具36で昇降シリンダ30の本体37に固定されている。シリンダ本体37は、主軸軸線a方向のシリンダガイド38で昇降自在に案内され、そのロッドの先端39が機械フレームの不動位置に連結されている。すなわち、昇降シリンダ30に流体圧を供給することにより、シリンダ本体37が昇降し、シリンダ本体に固定された光学計測器3が昇降する。光学計測器3は、受台1の搬入搬出時には上方に退避し、芯ずれ計測時に計測位置に下降する。シリンダ本体37の下降位置をストッパで調整することにより、焦点調整可能である。
【0024】
図1の装置には、受台1上でレンズLを半径方向に押して芯ずれを修正する押動体4が設けられている。レンズ押動体4は、合成樹脂製で、圧電素子44を介して移動台41に搭載されている。移動台41は、送りモータ(サーボモータ)43で回転駆動される送りねじ42により、受台1上のレンズ外周に向けて進退する。
【0025】
装置に設けられたNC装置(図示されていない。)は、光学計測器3の検出信号と予め入力されたレンズ下面の凹凸(偏芯方向が180度反対になる)の別に基づいて、受台1の回転中心からのレンズLの光軸の偏芯方向を検出して、当該偏芯方向が押動体4を向くように主軸モータ12の回転角を制御し、光学計測器3の偏芯量eの計測値に基づいて移動台41の進出ストロークを制御する。
【0026】
次に、
図6を参照して、上記装置のレンズ加工動作について説明する。まず固定剤ノズル16をその筒先が受台1の上縁に近接する位置に進出させて、主軸11をゆっくり回転させながら固定剤ノズル16から液状の冷凍固定剤を供給する。供給された冷凍固定剤は、受台1の上縁(レンズを支持する円形のエッジの部分)に付着する(
図6(a))。
【0027】
次に搬入搬出装置15で受台1上にレンズLを搬入する。受台1上にレンズLが搬入されたら、オートコリメータ3は、当該レンズL上に光ビーム31を照射して、その反射光を2次元受光素子35で受光する。次に主軸11をゆっくり回転して、受光素子35上で受光点sに円軌跡cを描かせ、その円の半径から受台1の回転中心に対するレンズLの偏芯量を計測する。次に主軸11を停止し、前記の円の中心と受台1を停止したときの受光点sとの相対位置関係から、偏芯方向を検出する(
図6(b))。
【0028】
加工装置のNC装置(図示されていない)は、検出された偏芯方向が押動体4を向くように主軸モータ12に回転指令を与える。次にNC装置は、送りモータ43に前進指令を与える。この前進中に光学計測器3から受光点sの移動開始信号を受けたときに、押動体4がレンズLの外周に当接したと判断し、計測を開する。そして、計測を開したときの押動体4の位置から計測された偏芯量eだけ押動体4を前進させた位置で、送りモータ43を停止させる(
図6(c))。
【0029】
押動体4でレンズLを押すとき、必要に応じて圧電素子44を振動させることにより、振動送りを選択することができる。レンズが重いときには、空気圧供給装置5から受台1に空気圧を供給することにより、レンズ押動時の摩擦負荷を低減することができる。振動送りは、いわゆるスティックスリップ現象によってレンズLがその停止位置を越えて移動するのを防止するのに有効である。
【0030】
レンズLの芯出しが終了したら、必要に応じてレンズ周縁と受台上縁との接触部に更に冷凍固定剤gを供給し(
図6(d))、受台1をゆっくり回転させながら冷却ポンプ62fを駆動して、クーラントノズル6から冷却槽61f内のクーラントfを受台1の側面及びレンズ外周部に向けて噴射する。このとき、受台1上でレンズが移動するおそれがあるときは、空気圧供給装置5から主軸の中空孔13に負圧を供給してレンズLを受台1に軽く吸着しておくことができる。冷却されたクーラントfにより、受台1の上縁に塗着された冷凍固定剤gが凝固し、受台1上のレンズLを固定する(
図6(e))。
【0031】
そして、冷却されたクーラントfの供給を継続しながら、主軸モータ12で主軸11を回転させてレンズLを芯出しした光軸回りに回転させる。そして、回転砥石2を回転させ、レンズの外周形状が所定形状となるように横送りモータ23で横送り台22を前進させることにより、レンズLの光軸を基準としたレンズの外周加工を行う(
図6(f))。
【0032】
外周加工が終了したら、横送り台22を僅かに待避させて砥石2をレンズLから離し、冷却ポンプ62fを停止して加熱ポンプ62hを駆動する。これによりクーラントノズル6から加熱されたクーラントhが噴射されて受台外周及びレンズ周縁部を加熱して凝固していた冷凍固定剤を溶融させ、レンズLの固定が解除される(
図6(g))。
【0033】
次に光学計測器3を上方に待避し、搬入搬出装置15で加工済レンズLを搬出する(
図6(h))。そして要すれば、図示しないエアノズルからの空気噴射iにより、受台1の上縁に残った冷凍固定剤を清掃し(
図6(i))、当該上縁に新しい固定剤を供給して次に加工するレンズを搬入する。以上の動作を繰り返すことによって、レンズの外周加工を連続的に行う。
【0034】
図7は、ペースト状の冷凍固定剤を使用する場合の例を示した図で、この例では上向きカップ状の受台1の上面の凹所に冷凍固定剤gを供給している。まず、固定剤ノズル16の筒先を受台1の上面中央まで進出させて所定量のペースト状の冷凍固定剤gを供給する(
図7(a))。次に受台1上にレンズLを供給し、
図6の場合と同様にして光学計測器3で搬入されたレンズLの芯ずれを検出し(
図7(b))芯出しを行う(
図7(c))。
【0035】
そして、受台1を回転させながらクーラントノズル6から冷却されたクーラントfを受台1及びレンズLに向けて噴出して冷凍固定剤gを凝固することにより、レンズLを固定する(
図7(d))。そして、クーラントノズル6から冷却されたクーラントfを供給しながら砥石2でレンズの外周加工を行う(
図7(e))。加工が終了したら砥石2を離してクーラントノズル6から加熱されたクーラントhをレンズL及び受台1に噴出して冷凍固定剤gを溶融し(
図7(f))、加工済レンズを搬出する。
【0036】
以上の実施例では、冷却及び加熱されたクーラントによってレンズ及び受台を冷却及び加熱して冷凍固定剤の凝固及び溶融を行う例を示したが、
図8に示すように、受台1の外周にジャケット63を設けて、このジャケットに冷却水と加熱水を交互に流すことによって受台1を冷却及び加熱して冷凍固定剤の凝固及び溶融を行うようにすることもできる。ジャケット63は、回り止めされた状態で設けられており、ジャケット63と受台外周との接触部に設けたOリング64により、ジャケット内の冷却・加熱水が漏出するのを防止している。