特許第6111185号(P6111185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111185
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】動的骨アンカーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   A61B17/86
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-249097(P2013-249097)
(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公開番号】特開2014-113486(P2014-113486A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月5日
(31)【優先権主張番号】12195758.3
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/733,769
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511211737
【氏名又は名称】ビーダーマン・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BIEDERMANN TECHNOLOGIES GMBH & CO. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ・ビーダーマン
(72)【発明者】
【氏名】ビルフリート・マティス
【審査官】 吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−506043(JP,A)
【文献】 特表2008−535584(JP,A)
【文献】 特開2009−090117(JP,A)
【文献】 特表2014−521380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的骨アンカーであって、
第1の端(11)と、第2の端(12)と、前記第1の端と前記第2の端との間のチューブ状セクション(13)と、前記第1の端から前記第2の端に延びる長手方向軸(L)と、外面と、前記外面の少なくとも一部に骨を係合するための骨係合構造(14)とを有するアンカー部材(1,1′,1″)と、
長手方向コア部材(2,2′,2″,2″′)とを備え、前記長手方向コア部材は、前記チューブ状セクション(13)中に少なくとも部分的に設けられ、かつ、前記コア部材の第2の部分(22a)で前記アンカー部材に接続されており、さらに、前記アンカー部材に接続されていない第1の部分(21a)を有し、前記コア部材は、少なくとも部分的に、Ni−Ti系形状記憶合金を含む第1の材料からなり、
前記コア部材の前記第2の部分(22a)は、歪み嵌合接続により前記チューブ状セクション(13)に接続され、前記第1の部分(21a)は前記アンカー部材に対して移動可能であり、
前記コア部材(2,2′,2″,2″′)の前記第1の部分(21a)の自由端(21)は、アンカー頭部(3″′)に接続されるか、またはアンカー頭部(3″′)として形付けられ、前記コア部材(2,2′,2″,2″′)の前記第1の部分(21a)は、前記長手方向軸に対して横方向における並進運動において、および/または、前記長手方向軸の周りの回転運動において、前記長手方向軸(L)から反らすことができる、動的骨アンカー。
【請求項2】
前記Ni−Ti系形状記憶合金は、使用の条件下で超弾性冶金学的状態にある、請求項1に記載の動的骨アンカー。
【請求項3】
前記Ni−Ti系形状記憶合金はニチノールであり、極低格子間原子(ELI)型のニチノールである、請求項1または2に記載の動的骨アンカー。
【請求項4】
前記アンカー部材(1,1′,1″)は、前記第1の材料と異なる第2の材料からなり、チタンからなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項5】
予め規定された形状を有する前記コア部材の少なくとも前記第2の部分(22a)を製造することと、マルテンサイト最終温度Mf未満に冷却することと、前記アンカー部材内に挿入する間に変形させることと、前記アンカー部材内への挿入後に加熱することにより、形状記憶効果を利用することとを含むプロセスにより達成される圧入接続により、前記コア部材(2,2′,2″,2″′)が前記アンカー部材(1,1′,1″)に固定されることにおいて、前記歪み嵌合接続が形成された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項6】
前記コア部材(2,2′,2″,2″′)の第3の部分(23)は、前記チューブ状セクション(13)の内径よりも小さい外径を少なくとも部分的に有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項7】
前記コア部材(2,2′,2″,2″′)の前記第1の部分(21a)は、前記チューブ状セクション(13)から突出する、請求項1〜いずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項8】
前記コア部材(2,2′,2″)の前記第1の部分(21a)の自由端(21)は、好ましくはチタンである、第3の材料からなるアンカー頭部(3,3′)に接続される、請求項1〜いずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項9】
予め規定された形状を有する前記コア部材の少なくとも一部(21a)を製造することと、マルテンサイト最終温度Mf未満に冷却することと、前記頭部(3,3′)内に挿入する間に変形させることと、前記頭部内への挿入後に加熱することにより、形状記憶効果を利用することとを含むプロセスにより達成される圧入接続により、前記コア部材(2,2′,2″)の前記第1の部分(21a)の前記自由端(21)が前記アンカー頭部(3,3′)に固定される、請求項に記載の動的骨アンカー。
【請求項10】
前記アンカー頭部(3,3′,3″′)は、前記チューブ状セクションに対して動くことができるように前記チューブ状セクション(13)から距離を有する、請求項1〜いずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項11】
前記アンカーは、前記第1の端に先端(12)を備える、請求項1〜10いずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項12】
前記アンカー部材(1″)は、前記第1の端で開いており、前記コア部材(2″,2″′)は、開いている前記第1の端を通って延び、前記骨アンカーの先端(24)を形成する、請求項1〜11いずれか1項に記載の動的骨アンカー。
【請求項13】
請求項1〜12いずれか1項に記載の動的骨アンカーを製造する方法であって、方法は、
第1の端(11)と、第2の端(12)と、前記第1の端と前記第2の端との間のチューブ状セクション(13)と、前記第1の端から前記第2の端に延びる長手方向軸(L)と、外面と、前記外面の少なくとも一部に骨を係合するための骨係合構造(14)とを有するアンカー部材(1,1′,1″)を提供するステップと、
Ni−Ti系形状記憶合金を含む第1の材料から少なくとも部分的になる長手方向コア部材(2,2′,2″,2″′)を提供するステップとを含み、前記コア部材は、前記アンカー部材に接続されるべき第2の部分(22a)を有し、前記コア部材の少なくとも前記第2の部分(22a)は、前記コア部材の前記チューブ状セクション内への挿入を可能にするマルテンサイト冶金学的状態にあり、前記方法はさらに、
前記コア部材を前記チューブ状セクション内に挿入することにより、前記第2の接続部分(22a)を変形させるステップと、
前記第2の部分(22a)が形状記憶効果により変形を失い、かつ、歪み嵌合接続により前記アンカー部材に接続されるように、前記コア部材の少なくとも前記第2の部分(22a)のオーステナイト状態への相転移を行うステップとを含む、方法。
【請求項14】
前記相転移は、少なくとも前記第2の部分(22a)をオーステナイト終了温度Afより高く加熱することにより達成される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的骨アンカーおよび動的骨アンカーを製造する方法に関する。動的骨アンカーは、骨または脊椎に固定するためのアンカー部材と、アンカー部材に設けられ、その一部がアンカー部材に対して可動である長手方向のコア部材とを備える。コア部材は、超弾性特性を有するNi−Ti系形状記憶合金を含む材料から少なくとも部分的になる。このような動的骨アンカーを製造する方法は、コア部材の材料の形状記憶効果を利用する。動的骨アンカーは、動的骨固定または脊柱の動的安定化の分野に特に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
動的骨アンカーは、たとえば、米国特許公開公報第2005/0154390号から知られている。骨アンカーのシャフトは、弾性または可撓性のセクションを備える。
【0003】
さらなる動的骨固定要素が米国特許公開公報第2009/0157123号から知られている。動的骨固定要素は、骨係合要素と、荷重支持体係合要素とを含む。骨係合要素は、患者の骨および管腔に係合するための複数のねじ山を含む。荷重支持体係合要素は、荷重支持体を係合するための頭部と、少なくとも部分的に管腔内に延びるシャフト部分とを含む。シャフト部分の遠位端は管腔に結合され、シャフト部分の外面の少なくとも一部は、頭部が骨係合要素に対して動くことができるように、間隙を介して管腔の内面の少なくとも一部から間隔を隔てている。荷重支持体係合要素は、高強度材料、たとえば、強い金属またはCoCrMo、CoCrMoC、CoCrNiもしくはCoCrWNiなどの強い金属の合金からなり得る。特に好ましい実施形態では、骨係合要素はチタンまたはチタン合金からなる一方、荷重支持体係合部分はコバルトクロム(CoCr)からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開公報第2005/0154390号
【特許文献2】米国特許公開公報第2009/0157123号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、骨アンカーを骨または椎骨内に固定した後、限定的な動作を行なうことができる骨アンカーの頭部を可能にする、さらなる向上した動的骨アンカーを提供することである。さらに、このような動的骨アンカーを製造する方法が設けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、クレーム1に従う動的骨アンカー、および、クレーム15に従う動的骨アンカーを製造する方法により解決される。さらなる展開は、従属クレームに記載される。
【0007】
動的骨アンカーにより、固定または安定化されるべき骨部分または椎骨は、互いに相対的な制御された限定的な動作を行なうことが可能である。動的骨アンカーのアンカー部材に設けられたコア部材は、骨アンカーが患者内で用いられる条件下で超弾性冶金学的状態にある、Ni−Ti系形状記憶合金からなることが好ましい。
【0008】
時に擬似弾性とも呼ばれる超弾性は、応力によって誘発されるマルテンサイトの形成を伴い、マルテンサイトは形成されるとき、加えられた応力を解放するために同時に歪みを受ける。加えられた応力が取除かれると、熱的に不安定なマルテンサイトはオーステナイトに戻り、歪みは零に戻る。この挙動が、材料に高い弾性を与える。
【0009】
コア部材の超弾性挙動のため、アンカー部材に相対的なコア部材の可能な運動の度合いは、超弾性を有さない材料と比較して増加する。Ni−Ti系形状記憶合金の応力−歪み図中のプラトーは、応力により誘発されるマルテンサイトが形成し始めたときに示される、実質的に一定の応力を示す。これにより、たとえば、動的骨アンカーの捩じ込み中に、過荷重に対する保護が設けられる。さらに、他の材料からなる同じ型の骨アンカーと比較して、骨アンカー全体を比較的短い長さで設計することができる。
【0010】
骨アンカーの頭部は、骨アンカーの中心軸に対して回転および/または並進動作を行なうことができる。
【0011】
動的骨アンカーは、モジュールシステムとして設けることができる。モジュールシステムにおいて、コア部材は、異なるねじ山型、アゴ状素子などの異なる形状、異なる長さまたは他の異なる特性のアンカー部材とともに選択的に組合されることができる。このことは、アンカー全体の動的特徴を実質的に規定するコア部材の特徴が、コア部材とアンカー部材との多くの異なる組合せについてわかるという利点を有する。
【0012】
輪郭、長さまたは他の特性について異なるコア部材を設け、これらを好適なアンカー部材と組合せることにより、さまざまな動的特性を達成できる。
【0013】
コア部材のNi−Ti形状記憶合金の形状記憶効果を利用する骨アンカーの製造方法により、コア部材は、異なる長さまたは他の異なる特性のアンカー部材に容易に接続することができる。コア部材とアンカー部材との間の達成された圧入接続は、従来生成された圧入接続よりも高い強度を有する。
【0014】
本発明のさらなる特徴および利点は、付随の図面により、実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に従う動的骨アンカーの斜視分解図である。
図2】組立てた状態での図1の動的骨アンカーの斜視図である。
図3】アンカー軸を含む面で取られた、第1の実施形態に従う動的骨アンカーのアンカー部材の断面図である。
図4】第1の実施形態に従う動的骨アンカーのコア部材の側面図である。
図5図4に図示するコア部材上への上面図である。
図6】第1の実施形態に従う動的骨アンカーの頭部の斜視図である。
図7】頭部が反らされていない状態のときにアンカー軸を含む面内で取られた、図6に図示する頭部の断面図である。
図8a】コア部材が異なるアンカー部材と選択的に組合された、第1の実施形態に従う動的骨アンカーの製造ステップの断面図である。
図8b】アンカー部材に固定される前のコア部材の端部分の輪郭の概略図である。
図9a】アンカー軸を含む面で取られた、第1の実施形態に従う組立てられた動的骨アンカーの断面図である。
図9b】コア部材をアンカー部材に挿入し、コア部材を加熱した後のコア部材の端部分の概略図である。
図10】アンカー部材に相対的な頭部の並進運動を概略的に示す、第1の実施形態に従う動的骨アンカーの断面図である。
図11】アンカー部材に相対的な頭部の回転運動を概略的に示す、第1の実施形態に従う動的骨アンカーの断面図である。
図12】骨アンカーの例示的な応力−歪み図である。
図13】第1の実施形態に従う動的骨アンカーが固定要素として用いられる、多軸椎弓根スクリューの断面図である。
図14】骨プレートとともに用いられて骨部分への動的固定を設ける、第1の実施形態に従う動的骨アンカーの断面図である。
図15】第2の実施形態に従う動的骨アンカーの斜視分解図である。
図16図15に従う動的骨アンカーの斜視図である。
図17】アンカー軸を含む面で取られた、図16に従う動的骨アンカーの斜視図である。
図18】第3の実施形態に従う動的骨アンカーの斜視分解図である。
図19】組立てた状態での図18に従う動的骨アンカーの斜視図である。
図20】アンカー軸を含む面で取られた、第3の実施形態に従う動的骨アンカーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図2に図示するように、第1の実施形態に従う動的骨アンカーは、ねじ部材の形態のアンカー部材1と、コア部材2と頭部3とを備える。コア部材はアンカー部材1内に挿入されてそれに接続されることができ、頭部3はコア部材に接続されることができる。
【0017】
図3にさらに図示するように、アンカー部材1は、第1の端11、対向する第2の端12、および、第1の端11、第2の端12を通って延びる長手方向軸Lを備える。長手方向軸Lは骨アンカーの中心軸を形成する。第1の端11に隣接して、アンカー部材1は、アンカー部材1が第1の端11で開いているようにチューブ状セクション13を備える。チューブ状セクション13は、第2の端12からのある距離まで延び、以下に記載するように、コア部材2の一部を収容するように適合された内径d1および長さを有する。チューブ状セクションの端面13aは、コア部材の挿入に対して停止を設ける。アンカー部材1の第2の端12は、先端部分として形成される。アンカー部材の外面の少なくとも一部は、アンカー部材が用いられるとき、骨または椎骨に係合するように構成された骨係合構造14が設けられる。図示する実施形態では、骨ねじが骨係合構造として設けられている。骨ねじは、実質的にアンカー部材の長さにわたって延びるが、アンカー部材の外面の一部にのみ存在していてもよい。
【0018】
アンカー部材1は、コア部材2の材料の弾性率と比較して、より高い弾性率を有し、すなわち、アンカー部材は、コア部材の材料と比較してより硬い材料からなる。好ましくは、アンカー部材1はチタンまたはステンレススチールからなる。アンカー部材1は、アンカー部材が骨内に挿入されたときに柔軟性挙動を有しないようなアンカー部材の長さおよび壁厚さなどの寸法となることを条件に、生体適合性ポリマー材料からなることもできる。
【0019】
図4および図5に図示するように、コア部材2は、第1の端21および対向する第2の端22ならびに実質的にロッド型の中心部分23を備える長手方向部材である。中心部分23は、アンカー部材1のチューブ状セクション13の内径d1よりも小さい外径d2を有する円形状の断面を有する。第1の端21に隣接して、第1の接続部分21aがあり、第2の端22に隣接して、第2の部分22aがある。特に図5に見られるように、接続部分21a,22aは、丸みを帯びた四角形の外形を有する。四角形の一方の平坦側から対向する平坦側への距離d3は、以下に説明するように、接続部分22aがチューブ状セクション13中に圧入様式で接続されるように、コア部材2の中心部分23の外径d2よりも若干大きい。接続部分22aは、チューブ状セクション13内に十分な固定を設けるように適合された軸方向の長さを有する。第1の端21での接続部分21aは、頭部3との接続のために機能し、第2の接続部分22aの形状と同様の形状を有する。中心部分23と接続部分21a,22aとの間には、それぞれの接続部分21a,22aに向けて増大する外径を有する移行部分21b,22bがそれぞれある。コア部材2の全長は、コア部材2がアンカー部材1内に挿入され、コア部材2の第2の端22がアンカー部材のチューブ状セクション13の端面13aに対して当接するとき、コア部材2が少なくとも第1の接続部分21aおよび第1の移行部分21bとともにアンカー部材の開いた第1の端11から突出するような程度である。
【0020】
コア部材2は、ニッケル−チタン系形状記憶合金を主体とする材料、好ましくは、ニチノールからなる。この材料は超弾性を示す。超弾性は、オーステナイト冶金学的状態に存在する。特に、超弾性は、応力のないマルテンサイトの若干上からオーステナイト転移温度の温度範囲に存在する。これは、体温を含む使用温度でなければならない。より好ましくは、コア部材2は、ELI(極低格子間原子(Extra Low Interstitial))型のニッケル−チタン系形状記憶合金、特に、ELI型のニチノールからなる。このような材料は高純度であり、ELI型でない他のニチノール合金と比較して、特により少ない酸素を含有する。たとえば、酸素含有量は、0.025重量%未満、好ましくは、0.010重量%以下、より好ましくは、0,005重量%以下である。それは、ELI型でない他の形状記憶合金の疲労強度限度より2倍まで高くなり得る疲労強度限度を有する。
【0021】
図6および図7を参照して頭部を説明する。頭部3は、第1の端31、対向する第2の端32、および、第1の端31に隣接する球状セグメント型部分33を備える。第1の端31の自由端面には、駆動体と係合するための係合部分34が設けられる。球状セグメント型部分33に隣接して、コア部材2の第1の接続部分21aを収容するための円筒状凹部36を有する円筒状ネック部分35がある。凹部36の長さおよび内径は、第1の接続部分21aを圧入接続によりその中に収容できるような程度である。
【0022】
第1の実施形態に従う動的骨アンカーの製造ステップを図8aから図9bに図示する。まず、第1の接続部分21aが圧入様式で頭部3の円筒状凹部36に接続されるという点で、コア部材2が頭部3と事前に組立てられてもよい。第2の接続部分22aは、図4および図5に図示するように、既に最終形状にされていてもよい。次に、コア部材の少なくとも第2の接続部分22aは、材料のオーステナイトからマルテンサイトへの相転移が起きるように、マルテンサイト最終温度M未満に冷却される。
【0023】
図8aに図示するように、たとえば、シャフトの長さが異なる少なくとも2つのアンカー部材1,1′を備えるモジュールシステムが設けられてもよい。コア部材2は、少なくとも2つのアンカー部材1,1′の一方のチューブ状セクション13内に選択的に導入されてもよい。
【0024】
図9aを参照して、コア部材の第2の端22がチューブ状セクション13の底面13aに対して当接するまで、頭部3と予め組立てられたコア部材2が、アンカー1,1′の一方のチューブ状セクション13内に導入される。それにより、コア部材の第2の接続部分22aは、たとえば、図8bに図示されるように、平坦側が、元の形状よりも互いからより短い距離を有するように窪みを付けられるように変形される。これにより、第2の接続部分22aをアンカー部材1のチューブ状セクション13内に導入することができる。マルテンサイト相の変形する能力のため、低い力で摩耗もほとんどなく挿入が達成できる。
【0025】
次のステップでは、第2の接続部分22aをオーステナイト終了温度Aより高く加熱することにより、形状記憶効果のため、図9bに図示するように、マルテンサイトからオーステナイトへの相転移、および、第2の接続部分22aの形状が丸みを帯びた四角形の輪郭を有する元の形状に戻る変化が行われる。したがって、製造プロセスは、コア部材2の形状記憶挙動を用いる。この手順および接続部分の四角形状により、形状記憶効果を用いた歪み嵌合接続を通して、従来の加工技術に基づく圧入接続よりも強い、特に強い圧入接続が達成できる。
【0026】
なお、コア部材と頭部3との間の接続も同様に行なうことができる。
図10を参照して、組立てられた状態では、頭部の第2の端32とアンカー部材の第1の端11との間に間隙37がある。さらに、コア部材2の中心部分23とチューブ状セクション13の壁との間に間隙38がある。これにより、頭部3が、アンカー軸Lに実質的に垂直な方向においてアンカー部材1に対する並進運動を行なうことができる。骨アンカーの中心軸から反れる程度は、コア部材2の材料の弾性、および、間隙37,38のサイズ、すなわち、コア部材2の厚さおよび長さにも依存する。並進運動は、コア部材の反れの大部分が第1の接続部分21aの領域中であるときに起きる。
【0027】
図11を参照して、アンカー軸L周りの頭部3の中心点の回転運動も可能である。回転運動については、コア部材の反れは、中心部分23および第1の接続部分21aのほぼ全長にわたって起きる。コア部材2の材料の超弾性のため、アンカー軸からのコア部材2の反れは、別の金属性材料からなるコア部材と比較してより短いコア部材により可能である。
【0028】
使用中、動的骨アンカーは骨部分または椎骨内に挿入される。コア部材2がオーステナイト冶金学的状態にあるため、使用状態では、コア部材2は超弾性特徴を有する。図12に図示する骨アンカーの応力−歪み図では、応力−歪みプラトーが示される。プラトーのため、捩じ込み中にねじ頭部3に作用する力は、ある範囲にわたって一定のままであり、アンカー頭部3の過荷重が起こり得ない。
【0029】
固定された状態では、頭部は限定的な動作を行なうことが可能である。動作は、アンカー部材1のチューブ状セクション13の内面に対するコア部材の当接により拘束される。
【0030】
安定化装置を伴う骨アンカーの第1の適用例を図13に図示する。第1の実施形態に従う骨アンカーは、受部4に結合されて多軸骨アンカーを形成する。受部4は実質的に円筒状であり、上端41、下端42および、上端から下端からのある距離まで延びる同軸ボア43を備える。ボア43は下端42に向けて狭くなり、下端の近傍に開口44を設ける。開口の近傍には、頭部3を回転可能に受けるための座部45が設けられる。U字形状の凹部は、安定化ロッド5を受けるために、上端41から上端41からのある距離まで延びる。U字形状の凹部により、留めねじ6などのロック部材と協働するための雌ねじ48を有する2つの自由脚部46,47が設けられる。さらに、ロック部材を締めることにより、頭部3をある角度の位置にロックできるように頭部3に圧力をかける圧力部材7が設けられる。骨アンカーは、受部および多軸骨ねじの他の設計で用いられてもよい。さらに、コア部材2の頭部3は、他の単軸骨ねじから知られるように、ロッドを受けるため、さらに、ロッドを固定するためにロック部材を受けるためのセクションを備えるように設計されてもよい。使用中、少なくとも2つの多軸骨アンカーが用いられ、ロッド5を介して接続される。一旦アンカー部材1,1′が骨部分または隣接する椎骨内に挿入されると、頭部3,3′は、アンカー部材1,1′に対してそれぞれ限定的な動作を行なうことができる。一旦頭部3が受部4にロックされると、骨アンカーは、骨部分の互いに対する小さな運動、または、脊柱の動作セグメントの小さな運動を可能にする動的安定化を設ける。
【0031】
第2の適用例を図14に図示する。ここでは、第1の実施形態に従う骨アンカーが、2つの骨アンカー1,1′の頭部3,3′をそれぞれ受けるための座部分9b,9b′を有する、孔9a,9a′を備える骨プレート9とともに用いられる。2つの骨アンカー1,1′は隣接する骨部分101,101′に挿入され、骨プレート9は割れ部位102の少なくとも一部をつなぐ。特定の適用例では、骨アンカーの頭部3,3′を収容する2つの孔9a,9a′の中心軸C間の距離は、アンカー部材1,1′の長手方向軸L間の距離よりも若干短い。頭部3,3′を有するコア部材2,2′は長手方向軸Lに対して横方向に限定的な動作を行うことができるため、骨部分101,101′は、図14中の矢により図示するように、割れ部位102で引き合わされることができる。
【0032】
図15から図17を参照して、動的骨アンカーの第2の実施形態を説明する。第2の実施形態に従う動的骨アンカーは、アンカー部材1″がチューブ状部材として完全に形成されている点で、第1の実施形態に従う動的骨アンカーと異なる。すなわち、アンカー部材1″は、第1の端11および第2の端12で開いている。コア2″は、第2の接続部分22aと第2の端22との間の先端24を含む。第2の接続部分22aは、形状記憶効果を用いた歪み嵌合接続を介して、先に説明した態様で、アンカー部材1″の第2の端12に隣接する部分に固定されるように構成される。先端24は、アンカー1″の開いた第2の端12から突出する。先端24は、平滑な表面を有する先端であっても、セルフタッピング構造、アゴ状素子または粗面などのさらなる特徴を有してもよい。第2の実施形態に従う動的骨アンカーのすべての他の部分は、第1の実施形態と同様であり、その説明は繰返さない。
【0033】
図18から図20を参照して、動的骨アンカーの第3の実施形態を説明する。第3の実施形態に従う骨アンカーは、コア部材2″′が、第1の端21での第1の実施形態の頭部3と同様の頭部3″′を備え、頭部3″′が、コア部材2″′の中心部分23と一体的に形成されている点で、第2の実施形態に従う骨アンカーと異なる。したがって、頭部3″′を有するコア部材2″′は、一体式部品であり、骨アンカー全体は2つの部品しか備えない。頭部3″′は、その外径において上に述べた頭部3と同様である。
【0034】
実施形態に記載される動的骨アンカーのさらなる改造または変更が、発明の範囲から逸脱することなく当業者により達成されることが可能である。たとえば、頭部は、骨プレート、安定化ロッドを収容するための受部などの他の安定化装置に接続するために好適な、如何なる他の形状を有してもよい。頭部は、コアの自由端が別の装置への接続に好適であれば、省略すらされてもよい。このような場合、コア部材の自由端は、駆動体用の係合部分を備えてもよい。頭部または頭部分がある場合およびない場合のいずれも、工具との係合のための骨アンカーの駆動部分は、コア部材の可動端にある。
【0035】
如何なる種類の先端が設けられてもよい。実施形態に示す先端は省略すらされてもよい。たとえば、第2および第3の実施形態に従う中空チューブ状アンカー部材は、第2の端にプロングを有してもよい。
【0036】
骨係合構造は、任意の型の骨ねじであってもよく、アゴ状素子により達成されてもよく、または、単なる粗面であってもよい。
【0037】
実施形態は互いの間で組合されてもよく、このような組合せの単なる一例として、第1の実施形態のアンカー部材は、第3の実施形態のような一体的に形成された頭部を有するコア部材が設けられてもよい。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8a
図8b
図9a
図9b
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図18
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図20