(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明について具体例を挙げて説明するが、本発明は、その技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変更や修正が可能であり、下記の具体例に限定されるものでない。
【0025】
本発明における補強ロッド及び補強シートの材料には、アラミド繊維を用いることが好ましいが、その他の強化繊維、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維などを用いることもできる。以下では、アラミド繊維を用いる例について説明する。
【0026】
《アラミド繊維》
アラミド繊維は、高強度かつ軽量で、高耐久性で、衝撃吸収性に優れ、非導電性かつ非磁性であるという特長を備えている極めて有用なエンジニアリングプラスチックである。アラミド繊維は、パラ系アラミド繊維又はメタ系アラミド繊維である。パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デュポン社製の商標名「ケブラー」)、コポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製の商標名「テクノーラ」)等がある。メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(デュポン社製の商標名「ノーメックス」)等がある。
【0027】
アラミド繊維としては、高強度、高弾性率、耐熱性に優れるパラ系アラミド繊維が好ましく、特に、耐切創性に優れるポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と称する。)が好ましい。PPTAは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であり、少量のジカルボン酸及びジアミンを共重合したものも使用することができる。
【0028】
アラミド繊維における単糸繊度は、3.5〜10dtex、好ましくは4.0〜8.0dtexとするのが適当である。単糸繊度が3.5dtex未満の場合には、単糸強力が弱く、特に油剤を付与する以前の工程中にあるロールやガイドから受ける摩擦抵抗により単糸切れを引き起こしやすくなるので好ましくない。一方、単糸繊度が10dtexを超える場合には、紡出時の脱硫酸効率が著しく低下するため、生産性が著しく低下する原因となるので好ましくない。
【0029】
本発明のアラミド繊維の総繊度は、10〜100dtexの範囲であり、好ましくは20〜100dtex、より好ましくは30〜100dtexの範囲である。総繊度が10dtex未満の場合には、紡糸におけるポリマー吐出量が過剰に少なくなり安定した吐出状態を保つことが難しくなるため、アラミド繊維を安定に生産することが難しくなる。一方、総繊度が100dtexを超える場合には、ロール・ガイドとの接触面積が増大し摩擦係数が高くなることで、毛羽や単糸切れを起こしやすくなる。
【0030】
アラミド繊維を構成するフィラメント数は2〜28本である。例えば、5dtexの単糸を20本程度束ねることによって、総繊度が100dtexとなる。
【0031】
アラミド繊維の単糸の引張強度は、15cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは18cN/dtex以上、特に好ましくは21cN/dtex以上である。15cN/dtex以上あれば、高強力繊維としての機能を充分発揮できるからである。この点からはパラ系アラミド繊維が望ましい。
【0032】
《補強シート》
補強シートは、構成繊維の織物または編物からなる。構成繊維としてはアラミド繊維が好ましい。例えば、織物からなる補強シートを得るために構成繊維の単糸の織り方としては、「経糸と緯糸が交互に規則的に公差している織り方である」平織、「経糸と緯糸が交互に交差することがなく、1本公差したら次は1本飛ばして公差する1×2や、さらに1本飛ばして公差する1×3などの織り方がある」綾織、「緯糸の浮きが少なく、経糸のみが表に出ているように見える光沢が多い織り方である」朱子織、「平織や朱子織などの他の織り方をベースにして、その上に背景にしたい色糸を乗せる織り方である」ベタ織、「細かい絵柄や文字を表現するのに最適な織り方で、特殊な糸を使用したり、糸密度を高めることで通常の織り方では表現できない細かな絵柄や文字が再現できる織り方である」高密度織、「収縮やゆがみに強い織り方である」防縮織、「梨の表面のようなザラザラとして光沢のない表情の織り方である」梨地織および「からみ織をしないでからみ織の風合いを持たせる織り方である」模紗織などを挙げることができる。
【0033】
また、編物からなる補強シートとしては、構成繊維が一方向に配置されるように編んだ一方向シート(
図4(a))、構成繊維が直角に交わる二方向に配置されるように編んだ二方向シート(
図4(b))、構成繊維を網目状に編んだメッシュシート(
図4(c))などを挙げることができる。
【0034】
《補強ロッド》
補強ロッドは、例えば、アラミド繊維からなる組紐にバインダー樹脂を含浸させて硬化させることによって得ることができる。この樹脂含浸組紐は、例えば、
図2に示すような方法で製造することができる。
図2において、1は送り出しローラー、2はテンションローラー、3はバインダー樹脂槽、4は原料の組紐、5は加熱炉、6は加熱炉、7は樹脂含浸工程、8は砂付け工程、9は硬化工程、10は切断工程、11は樹脂含浸組紐、12は引き取りローラーである。すなわち、樹脂を含浸していない組紐4(
図1参照)を送り出しローラー1から送り出してバインダー樹脂槽3を通過させることによって前記組紐4にバインダー樹脂(エポキシ樹脂)を含浸させ、前記組紐4に緊張を与えるテンションローラー2を経て加熱炉5で樹脂を硬化させ、砂付け工程8において付着性(接着性)を向上させるために前記組紐4に砂、シリカヒューム等の粒状物を付着させ、さらに、加熱炉6で樹脂を硬化させ、引き取りローラー12を経て切断工程10で適切な長さに切断することにより、樹脂含浸組紐11(
図3参照)を得ることができる。このようにして得ることができる樹脂含浸組紐11の組みピッチpや直径dは、用途に応じて適切なものを採用することができる。
【0035】
上記のようにして製造される樹脂含浸組紐は、組紐の構造を緩めることができるため、バインダー樹脂が組紐に含浸されにくいという問題がなく、軽量であり、コンクリートまたはグラウト材との付着性、物性(強度、耐熱性等)において優れるという特長を有する。上記のようにして製造される樹脂含浸組紐は、鉄を使用していないため、防錆性にも優れる。上記のようにして製造される樹脂含浸組紐は、その特性から鉄筋代替として土木建築分野において特に有用である。
【0036】
アラミド繊維からなる組紐にバインダー樹脂を含浸させて硬化させることによって得ることができる樹脂含浸組紐は市販されており、例えば、ファイベックス株式会社製の品番RA15(直径15.7mm、耐力225kN、ヤング係数68.6kN/mm2)や株式会社竹入製作所製の品番TF−15R(直径15.7mm、耐力225kN、ヤング係数68.6kN/mm2)を本発明の補強ロッドとして用いることができる。
【0037】
《鉄筋コンクリート製柱の補強方法》
本発明による鉄筋コンクリート製柱の補強方法の一例としては、以下の工程順で行うことができる。
(1)下地調査
鉄筋コンクリート製柱に対して打診検査を行って、感知した音から判断して浮き部(間隙、空間など)があれば、その浮き部を撤去して、特殊ポリマーセメントや熱硬化性樹脂に必要な添加物を加えたもの(以下、補修材ともいう)で浮き部の修復を行う。また、浮き部に通じるように鉄筋コンクリート製柱表面に穴をあけ、補修材を上記穴から浮き部内に注入する。さらに、鉄筋コンクリート製柱表面にクラックがあれば、補修材をクラック内に注入する。
【0038】
(2)下地調整
当該鉄筋コンクリート製柱の表面を電動ヤスリ(サンダー)などの研磨機械で研磨して、表面の突起物を除去する。
【0039】
(3)補強ロッドの取り付け
各階層のコンクリート製スラブと天井側コンクリート製スラブに削孔を行い、補強ロッドをその削孔に差し込み、公知の取り付け金具で補強ロッドを鉄筋コンクリート製柱に固定する。そして、各階層のコンクリート製スラブおよび天井側コンクリート製スラブの削孔にグラウト材を充填する。グラウト材としては、セメント(モルタル)系、ガラス系、合成樹脂などを用いることができる。
【0040】
(4)プライマー塗布
適切なプライマーを鉄筋コンクリート製柱の表面に塗布する。
(5)型枠材設置
鉄筋コンクリート製柱の周囲に所定の間隔を確保して型枠材を設置し、高さ方向の中間部には、必要に応じて型枠材の撓みを防止するための撓み防止材を設置する。
(6)グラウト材の充填
鉄筋コンクリート製柱と型枠材との隙間にグラウト材を充填する。型枠はグラウト材の乾燥後に撤去する。
【0041】
(7)補強シートの取り付け
グラウト材表面を適当に剥離、研磨等によって表面の脆弱な層を取り除き、場合によっては隅角部を削り、適度に丸めたり、窪んだ部分にパテ等を充填して、平坦でない面を平らな面に修正する。こうした下地処理を行った後、グラウト材の表面にプライマー樹脂を塗布し、乾燥させる。プライマーは通常、補強シートに含浸させる樹脂と同種類の物を使用する。グラウト材表面にプライマーが塗布され、十分に乾燥したのち、接着・含浸樹脂がその上に塗布される。塗布後、直ちに補強シートを貼り付け、ローラーなどを用いて、グラウト材と補強シートとのあいだに入った空気を抜く。そして、樹脂を十分に補強シートに含浸させる。接着貼り付け用の下塗り樹脂が十分含浸したことを確認した後、同じ樹脂を用いて、上塗りを行う。
【0042】
樹脂が完全に硬化するまで、養生をしておく。補強の程度によっては、補強シートを何層も重ねて貼り付ける。その際は上記の工程を繰り返す。この場合には樹脂の硬化を必ずしも待たなくとも良い。最上層の補強シート貼り付けが終了し、樹脂が完全に硬化したことを確認したら、必要に応じて仕上げとして、耐久性、耐火性を向上させるため、仕上げ塗装を行う。
【0043】
《鉄筋コンクリート構造物の補強構造》
実施の形態1.
図5〜
図9は、本発明の実施の形態1による鉄筋コンクリート構造物の補強構造の一例を示した図である。
図5は、補強された鉄筋コンクリート構造物100を鉛直面により切断した断面図である。
図6及び
図7は、
図5の鉄筋コンクリート構造物100をA−A切断線及びB−B切断線によって切断したときの断面図である。
図8の(a)〜(c)は、
図5の鉄筋コンクリート構造物100をC−C切断線(
図5)、D−D切断線(
図5)及びE−E切断線(
図7)によって切断したときの断面図である。
図9は、
図5の鉄筋コンクリート構造物100をF−F切断線(
図6)によって切断したときの断面図である。
【0044】
補強前の鉄筋コンクリート構造物100は、鉛直方向に延びる鉄筋コンクリート製柱20と、水平方向に延びるコンクリート製梁22と、各階層を仕切るコンクリート製スラブ24とにより構成される(
図5、
図6)。これに対し、補強後の鉄筋コンクリート構造物100には、柱用グラウト材200、柱用補強ロッド201、柱用補強シート202、梁用グラウト材220、梁用補強ロッド221及び梁用補強シート222が追加されている。
【0045】
鉄筋コンクリート製柱20は、矩形断面を有し鉛直方向に延びる柱状体であり、鉄筋コンクリート構造物100の全階層にわたって延びる。
図8(a)に示した通り、鉄筋コンクリート製柱20内には、12本の鉄筋30がコンクリートの長手方向に沿って埋設されている。言うまでもないが、鉄筋や補強ロッドの本数は、必要とされる条件に応じて様々に変更することができる。
【0046】
コンクリート製梁22は、矩形断面を有し水平方向に延びる柱状体であり、各階層の天井側に配置され、隣接する2つの鉄筋コンクリート製柱20を互いに連結する。コンクリート製梁22は、鉄筋コンクリート製柱20の矩形断面の一辺に連結される。例えば、鉄筋コンクリート製柱20の矩形断面の4辺に対し、4本のコンクリート製梁22がそれぞれ連結され、互いに直交する方向に延びる。
【0047】
コンクリート製スラブ24は、水平方向に配置された略平板形状からなり、コンクリート製梁22の上面に連結される。鉄筋コンクリート構造物100は、コンクリート製スラブ24によって2階層以上の空間に仕切られ、コンクリート製スラブ24が各階層の床面を構成する。
【0048】
図5には、2以上の階層からなる補強対象階の構造が一部を省略して示されている。一般に、鉄筋コンクリート構造物100の補強は、低層側の1階層又は2以上の連続する階層が対象となる。つまり、補強対象となる階層は、鉄筋コンクリート構造物100が有する階層の全て又は一部である。ここでは、補強対象となる1又は2以上の階層を補強対象階と呼ぶことにする。
【0049】
(1)鉄筋コンクリート製柱20の補強構造
図5〜
図9に示した通り、鉄筋コンクリート製柱20の側面全周は、柱用グラウト材200で被覆され、鉄筋コンクリート製柱20の長手方向に沿って延びる12本の柱用補強ロッド201が柱用グラウト材200中に埋設され、柱用グラウト材200を覆うように柱用補強シート202が配置されている。
【0050】
柱用補強ロッド201は、補強対象階ごとに配置される短尺ロッド201Sと、2以上の補強対象階にわたって配置される長尺ロッド201Lとにより構成される(
図5、
図9)。短尺ロッド201Sは、鉄筋コンクリート製柱20の矩形断面の辺に対向して配置され(
図6〜
図8)、上端がコンクリート製梁22に挿入され、下端がコンクリート製スラブ24に挿入される(
図9)。長尺ロッド201Lは、鉄筋コンクリート製柱20の矩形断面の頂点に対向して配置され(
図6〜
図8)、コンクリート製梁22と交差することなく、補強対象階の間を仕切るコンクリート製スラブ24を貫通する(
図5,
図9)。長尺ロッド201Lの上端は、補強対象最上階の天井側のコンクリート製スラブ24、つまり、補強対象最上階の一つ上階のコンクリート製スラブ24に挿入され、下端は、補強対象最下階のコンクリート製スラブ24に挿入される(
図9)。
【0051】
図8(a)には、1本の鉄筋コンクリート製柱20に対し、8本の短尺ロッド201S及び4本の長尺ロッド201Lからなる計12本の柱用補強ロッド201が配置された例が示されている。なお、柱用補強ロッド201の本数は必要とされる条件に応じて様々に変更することができる。また、短尺ロッド201S又は長尺ロッド201Lの一方のみを配置することもできる。また、長尺ロッド201Lは、コンクリート製梁22と交差しない限り、鉄筋コンクリート製柱20の矩形断面の頂点付近において、当該矩形断面の辺と対向するように配置することもできる。
【0052】
(2)コンクリート製梁22の補強構造
コンクリート製梁22の下面は、梁用グラウト材220で被覆され、コンクリート製梁22の長手方向に沿って延びる3本の梁用補強ロッド221が梁用グラウト材220中に埋設されている。また、梁用グラウト材220、コンクリート製梁22の側面及びコンクリート製スラブ24下面の一部を覆うように梁用補強シート222が配置されている。
【0053】
梁用補強ロッド221は、コンクリート製梁22の下面に対向して配置され、両端が鉄筋コンクリート製柱20に挿入される(
図7、
図8)。
図7には、1本のコンクリート製梁22に対し、3本の梁用補強ロッド221が配置された例が示されている。なお、梁用補強ロッド221の本数は必要とされる条件に応じて様々に変更することができる。
【0054】
(3)柱用補強ロッド201の両端固定
図10〜
図12は、
図9の一部を拡大して示した拡大断面図である。
図10は、補強対象階の間を仕切るコンクリート製スラブ24周辺を拡大して示した図であり、
図11は、補強対象最上階の空間上部を拡大して示した図であり、
図12は、補強対象最下階の空間下部を拡大して示した図である。
【0055】
鉄筋コンクリート構造物100には、柱用補強ロッド201を固定するための貫通孔203及び挿入孔204,205が形成される。貫通孔203は、コンクリート製スラブ24を厚さ方向に貫通する。挿入孔204は、コンクリート製梁22の下面に形成された非貫通孔(凹部)であり、挿入孔205は、コンクリート製スラブ24の上面に形成された非貫通孔(凹部)である。貫通孔203及び挿入孔204,205は、例えば、ドリルを用いて削孔され、円形断面を有する柱状空間として形成される。また、貫通孔203及び挿入孔204,205の軸方向は、鉄筋コンクリート製柱20の長手方向、つまり、挿入又は挿通される柱用補強ロッド201の方向と一致する。
【0056】
長尺ロッド201Lは、補強対象階の間を仕切るコンクリート製スラブ24の貫通孔203内に挿通される(
図10)。貫通孔203は、長尺ロッド201Lが挿通された後にグラウト材が充填される。このため、長尺ロッド201Lは、補強対象階の間を仕切るコンクリート製スラブ24に固定される。
【0057】
長尺ロッド201Lの上端は、補強対象最上階の天井側のコンクリート製スラブ24の貫通孔203に対し、貫通することなく挿入される(
図11)。貫通孔203は、長尺ロッド201Lの上端が挿入された状態でグラウト材が充填される。このため、長尺ロッド201Lの上端は、補強対象階の最上階よりも上方のコンクリート製スラブ24に固定される。
【0058】
長尺ロッド201Lの下端は、補強対象最下階のコンクリート製スラブ24の挿入孔205に挿入される(
図12)。挿入孔205は、長尺ロッド201Lの下端が挿入された状態でグラウト材が充填される。このため、長尺ロッド201Lの下端は、補強対象階の最下階のコンクリート製スラブ24に固定される。
【0059】
短尺ロッド201Sの上端は、補強対象階のコンクリート製梁22の挿入孔204に挿入される(
図10、
図11)。挿入孔204は、短尺ロッド201Sの上端が挿入された状態でグラウト材が充填される。このため、短尺ロッド201Sの上端は、コンクリート製梁22に固定される。
【0060】
短尺ロッド201Sの下端は、補強対象階のコンクリート製スラブ24の挿入孔205に挿入される(
図10、
図12)。挿入孔205は、短尺ロッド201Sの下端が挿入された状態でグラウト材が充填される。このため、短尺ロッド201Sの下端は、コンクリート製スラブ24に固定される。
【0061】
コンクリート製梁22の高さをHとした場合、柱用補強ロッド201は、コンクリート製梁22内に少なくとも0.1Hの長さだけ挿入されることが好ましい。柱用補強ロッド201のコンクリート製梁22内への挿入長が長くなるほど鉄筋コンクリート構造物100の強度は向上するが、強度向上代は0.5Lの挿入長で飽和するので、経済的には0.5Lの挿入長が上限である。
【0062】
また、柱用補強ロッド201の直径をDとした場合、柱用補強ロッド201は、コンクリート製梁22内及びコンクリート製スラブ24内に少なくとも4Dの長さだけ挿入されることが好ましい。柱用補強ロッド201のコンクリート製梁22内及びコンクリート製スラブ24内への挿入長が長くなるほど鉄筋コンクリート構造物100の強度は向上するが、強度向上代は20Dの挿入長で飽和するので、経済的には20Dの挿入長が上限である。
【0063】
鉄筋コンクリート構造物100では、短尺ロッド201Sの上端をコンクリート製梁22内に挿入し、下端をコンクリート製スラブ24内に挿入することにより、鉄筋コンクリート製柱20の強度を向上させることができる。また、コンクリート製スラブ24を貫通し、2以上の階層にわたって延びる長尺ロッド201Lを配置することにより、鉄筋コンクリート製柱20の強度を更に向上させることができる。また、長尺ロッド201Lの両端をコンクリート製スラブ24内に挿入することにより、鉄筋コンクリート製柱20の強度を更に向上させることができる。
【0064】
また、補強最上階の天井側のコンクリート製スラブ24に長尺ロッド201Lを挿入するための貫通孔203を形成することにより、削孔作業及び長尺ロッド201Lの設置作業を容易化することができる。
【0065】
貫通孔203に代えて、非貫通の挿入孔を形成することも考えられるが、この場合、当該挿入孔は、コンクリート製スラブ24の下側から削孔しなければならず、削孔作業が難しくなる。これに対し、貫通孔203を形成する場合であれば、コンクリート製スラブ24の上側から削孔することができ、削孔作業が容易になる。
【0066】
また、長尺ロッド201Lは可撓性を有し、リール等に巻き付けられた状態で鉄筋コンクリート構造物100内に搬入され、リールから巻き出しながら、鉄筋コンクリート製柱20に沿って設置される。このため、補強対象最上階の天井側のコンクリート製スラブ24に貫通孔203を形成すれば、補強対象最上階の上階から下に向かって、2以上の貫通孔203に順次に挿通し、最後に、補強対象最下階の挿入孔204に挿入すれば、長尺ロッド201Lを設置することができる。このため、長尺ロッド201Lの上端が挿入されるコンクリート製スラブ24には、非貫通の挿入孔ではなく、貫通孔203が形成されていることが、長尺ロッド201Lの配置作業上も望ましい。
【0067】
(4)梁用補強ロッド221の両端固定
鉄筋コンクリート構造物100には、梁用補強ロッド221を固定するための挿入孔223が形成される(
図7、
図8(c))。挿入孔223は、鉄筋コンクリート製柱20の側面に形成された非貫通孔(凹部)であり、例えば、ドリルを用いて削孔され、円形断面を有する柱状空間として形成される。また、挿入孔223の軸方向は、コンクリート製梁22の長手方向、つまり、挿入される梁用補強ロッド221の方向と一致する。
【0068】
梁用補強ロッド221の両端は、鉄筋コンクリート製柱20の挿入孔223に挿入される(
図8(c))。挿入孔223は、梁用補強ロッド221の端部が挿入された状態でグラウト材が充填される。このため、梁用補強ロッド221の端部は、鉄筋コンクリート製柱20に固定される。
【0069】
鉄筋コンクリート製柱20が矩形断面を有する場合、梁用補強ロッド221と平行な辺の長さをLとした場合、梁用補強ロッド221は、鉄筋コンクリート製柱20内に少なくとも0.1Lの長さだけ挿入されることが好ましい。梁用補強ロッド221の鉄筋コンクリート製柱20内への挿入長が長くなるほど鉄筋コンクリート構造物100の強度は向上するが、強度向上代は0.5Lの挿入長で飽和するので、経済的には0.5Lの挿入長が上限である。
【0070】
また、梁用補強ロッド221の直径をDとした場合、梁用補強ロッド221は、鉄筋コンクリート製柱20内に少なくとも4Dの長さだけ挿入されることが好ましい。梁用補強ロッド221の鉄筋コンクリート製柱20内への挿入長が長くなるほど鉄筋コンクリート構造物100の強度は向上するが、強度向上代は20Dの挿入長で飽和するので、経済的には20Dの挿入長が上限である。
【0071】
実施の形態2.
図13〜
図17は、本発明の実施の形態2による鉄筋コンクリート構造物の補強構造の一例を示した図である。
図13及び
図14は、
図5の鉄筋コンクリート構造物100をE−E切断線(
図7)及びF−F切断線(
図6)によって切断したときの断面図である。
図15〜
図17は、
図14の一部を拡大して示した拡大断面図である。
図15は、補強対象階の間を仕切るコンクリート製スラブ24周辺を拡大して示した図であり、
図16は、補強対象最上階の空間上部を拡大して示した図であり、
図17は、補強対象最下階の空間下部を拡大して示した図である。
【0072】
図13〜
図17に示した本実施の形態による鉄筋コンクリート構造物100は、貫通孔203及び挿入孔204,205,223の軸方向が傾斜している点で実施の形態1の場合とは異なる。その他の点については、実施の形態1の場合と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0073】
貫通孔203は傾斜して形成され、その軸方向は、鉄筋コンクリート製柱20の長手方向に対し角度を有する(
図15,
図16)。この場合、貫通孔203に挿通される柱用補強ロッド201に加えられる張力は、貫通孔203内に充填される円筒形状のグラウト材の軸方向と一致しない。このため、柱用補強ロッド201の張力により、当該グラウト材が貫通孔203から容易に脱落するのを抑制することができる。
【0074】
貫通孔203の軸方向は、鉄筋コンクリート製柱20の長手方向に対し3度以上の角度を有することが望ましい。特に、上端に近づくほど鉄筋コンクリート製柱20から離れるように、貫通孔203を傾斜させることにより、貫通孔203をコンクリート製スラブ24の上側から削孔する場合の削孔作業を容易化することができる。また、貫通孔203を鉄筋コンクリート製柱20のより近くに形成し、柱用グラウト材200の厚さを抑制することができる。
【0075】
同様にして、挿入孔204,205も傾斜して形成され、その軸方向は、鉄筋コンクリート製柱20の長手方向に対し角度を有する(
図15〜
図17)。このため、柱用補強ロッド201の張力により、挿入孔204,205からグラウト材が容易に脱落するのを抑制することができる。
【0076】
挿入孔204,205の軸方向は、鉄筋コンクリート製柱20の長手方向に対し3度以上の角度を有することが望ましい。特に、開口端に近づくほど鉄筋コンクリート製柱20から離れるように、挿入孔204,205を傾斜させることにより、挿入孔204,205の削孔作業を容易化することができる。また、挿入孔204,205を鉄筋コンクリート製柱20のより近くに形成することができ、柱用グラウト材200の厚さを抑制することができる。
【0077】
挿入孔223も傾斜して形成され、その軸方向は、コンクリート製梁22の長手方向に対し角度を有する(
図13)。このため、梁用補強ロッド221の張力により、挿入孔223からグラウト材が容易に脱落するのを抑制することができる。
【0078】
挿入孔223の軸方向は、コンクリート製梁22の長手方向に対し3度以上の角度を有することが望ましい。特に、開口端に近づくほどコンクリート製梁22から離れるように、挿入孔223を傾斜させることにより、挿入孔223の削孔作業を容易化することができる。また、挿入孔223をコンクリート製梁22のより近くに形成することができ、梁用グラウト材220の厚さを抑制することができる。
【0079】
《補強構造の具体例》
図18(a)は、鉄筋コンクリート製柱20を一部破断させて示した斜視図、
図18(b)は、コンクリート製梁22およびコンクリート製スラブ24を一部破断させて示した斜視図である。
図18(a)に示す通り、鉄筋コンクリート製柱20内には、鉛直方向に延びる鉄筋30が、周方向に延びる補強筋31によってサポートされている。
【0080】
図19(a)〜(e)は、鉄筋コンクリート構造物の各種補強構造の横方向断面を示す図である。
図19(a)は一辺の長さが150mmの正方形断面の鉄筋コンクリート41、
図19(b)は鉄筋コンクリート41を厚み30mmのグラウト材42で被覆した構造、
図19(c)は鉄筋コンクリート41を被覆するグラウト材42中に4本の直径5mmのアラミド繊維からなる組紐に樹脂を含浸させて硬化させることによって得た補強ロッド43を鉄筋コンクリート41の長手方向に沿って4本埋設した構造、
図19(d)は
図19(c)に示す構造の周囲に厚さ0.193mmのアラミド繊維を一方向に配置されるように編んだ一方向シート(
図4(b)参照)からなる補強シート44a、44bを上下に重なるように横方向に2層にわたって配置した場合、
図19(e)は
図19(c)に示す構造の周囲に厚さ0.193mmのアラミド繊維を一方向に配置されるように編んだ一方向シートからなる補強シート44cを縦方向に配置し、さらに、縦方向に配置した補強シート44cの上に同上アラミド繊維の一方向シートからなる補強シート44dを横方向に配置した場合を示す。なお、縦方向と横方向は、配置方向が90°異なること(直交すること)を意味する。また、補強シート44a、44b、44cおよび44dは、上記(7)「補強シートの取付」に記載した方法に従って取り付けた。
【0081】
《曲げ試験》
図20(a)は曲げ試験方法を説明する図である。
図20(a)に示すように、
図19(a)〜(e)に示す横方向断面を有する各種補強構造を備えた試験片51を2箇所の支点52で支えて、試験片の上面に荷重Pを負荷したとき、公知のひずみゲージ式変位計53(株式会社東京測器研究所社製の商品名SDP−50C)で変位量を測定することにより、試験片51の変位量と荷重との関係を求めた。
【0082】
図19(a)〜(e)に示す横方向断面を有し、長さが1300mmである鉄筋コンクリート構造物の各種補強構造について、
図20(a)に示す曲げ試験を行った結果、各補強構造が破壊に至る限界荷重として、以下の表1に示す数値が得られた。
【0084】
図20(b)は
図21に示す荷重と変位量との関係を求める方法を説明する図である。
図20(b)に示すように、荷重ゼロから限界荷重の約1/3までの荷重Pを
図20(a)に示す試験片51に負荷した後、荷重をゼロに戻し、次に、荷重ゼロから限界荷重の約2/3までの荷重Pを
図20(a)に示す試験片51に負荷した後、荷重をゼロに戻し、最後に、荷重ゼロから限界荷重に至るまでの荷重Pを
図20(a)に示す試験片51に負荷した後、荷重をゼロに戻すという方法で、
図21に示すような鉄筋コンクリート構造物の各種補強構造の曲げ試験における荷重と変位量との関係を得た。
【0085】
図21において、線A、線B、線C、線D、線Eは、それぞれ
図19(a)、
図19(b)、
図19(c)、
図19(d)、
図19(e)の各補強構造に対応している。すなわち、
図21に示すように、線Cで示す「鉄筋コンクリート製柱の周囲全面を被覆するグラウト材中に補強ロッドを鉄筋コンクリート製柱の長手方向に沿って埋設する補強構造」によって、線Aで示す「鉄筋コンクリート柱のみの構造」や線Bで示す「鉄筋コンクリート製柱の周囲全面をグラウト材で被覆する補強構造」に比べて、大幅な強度向上が図れることが分かる。また、線Cの全変位量は、線Aまたは線Bの全変位量に比べて増加しており、靭性も向上していることが分かる。
【0086】
さらに、線Dで示す「鉄筋コンクリート製柱の周囲全面を被覆するグラウト材中に補強ロッドを鉄筋コンクリート製柱の長手方向に沿って埋設し、上記グラウト材を覆うように補強シートを横方向に2層に配置する補強構造」によれば、線Cの補強構造に比べて、さらに強度向上を図り、靭性も向上しうることが分かる。そして、線Eで示す「鉄筋コンクリート製柱の周囲全面を被覆するグラウト材中に補強ロッドを鉄筋コンクリート製柱の長手方向に沿って埋設し、上記グラウト材を覆うように横方向に配置した補強シートの上に縦方向に補強シートを配置する補強構造」によれば、線Dの補強構造に比べて、さらに強度向上を図り、靭性も向上しうることが分かる。
【解決手段】 鉄筋コンクリート製柱20に沿って延びる1又は2以上の補強ロッド201と、鉄筋コンクリート製柱20の側面全周を被覆し、補強ロッド201を埋没させるグラウト材200とを備え、鉄筋コンクリート製柱20が、コンクリート製スラブ24によって仕切られた2以上の補強対象階にわたって延び、補強対象階の間のコンクリート製スラブ24にグラウト材が充填された貫通孔203が設けられ、補強ロッド201として、短尺ロッド201S及び長尺ロッド201Lをそれぞれ備え、短尺ロッド201Sは、補強対象階ごとに配置され、上端がコンクリート製梁22内に挿入され、下端がコンクリート製スラブ24内に挿入され、長尺ロッド201Lは、貫通孔203に挿通され、2以上の補強対象階においてグラウト材200中にそれぞれ埋没される。