(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111382
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリートの切削方法
(51)【国際特許分類】
B28D 1/04 20060101AFI20170403BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20170403BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20170403BHJP
B28D 7/02 20060101ALI20170403BHJP
B23D 47/00 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
B28D1/04 B
B23Q11/00 M
B23Q11/10 F
B28D7/02
!B23D47/00 D
!B23D47/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-12487(P2012-12487)
(22)【出願日】2012年1月24日
(65)【公開番号】特開2013-173232(P2013-173232A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】508117525
【氏名又は名称】株式会社 アクティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】福島 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊也
【審査官】
細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−229935(JP,A)
【文献】
特開平10−280315(JP,A)
【文献】
特開平06−190628(JP,A)
【文献】
特開平01−280507(JP,A)
【文献】
米国特許第05074044(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/04
B23Q 11/00
B23Q 11/10
B28D 7/02
B23D 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
φ450mm以上の円形ブレードによる高架道路や橋梁の伸縮継手を含むコンクリート床版の乾式切削方法であって、切削進行方向に向かって円形ブレードを下から上にアッパー回転させ、その際の円形ブレードの周速を600〜1200m/分とする鉄筋コンクリートの切削方法。
【請求項2】
請求項1において、円形ブレードが水平駆動軸に対して傾斜させて取付けてある鉄筋コンクリートの切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート床版などの構造物を円形ブレードを使用し、冷却水を使用することなく乾式で切断、もしくは、切削する方法に関する。以下、切断もしくは切削をまとめて切削と表す。
【背景技術】
【0002】
不要な構造物を切断して撤去したり、老朽化したり損傷を受けた高架道路や橋梁等の伸縮継手の交換の際に円形ブレードによって鉄筋コンクリートと鋼製の伸縮継手を切断することがおこなわれている。また、ダイヤモンドワイヤソーを使用して伸縮継手を水平に切断して撤去する際のダイヤモンドワイヤソーを走行させる溝を円形ブレードによって切削形成することがおこなわれている。
【0003】
円形ブレードを使用したコンクリート等の切削の際、摩擦熱によって円形ブレードが高温となり、ダイヤモンドチップを損傷させたり、高熱となったダイヤモンドチップやブレード基板に切粉が溶融付着して切削効率を低下させるのでブレードの冷却が必要であり、従来水によって冷却するのが一般的であった。しかし、水を使用することによって切粉を含んだ泥水が毎分3〜5リットル発生し、周囲に飛散したり、高架道路における作業では泥水が高架道路の下に落下するなど環境汚染の問題があり、また、コンクリート微粉末である切粉を含む泥水は産業廃棄物となるので河川や下水に直接流すことができず、水処理をして切粉を除去しなければならなかった。
【0004】
そこで、円形ブレードを冷却水を使用することなく乾式で切削することが提案され、ブレードカバー内に冷却空気やドライミストを供給して円形ブレードを冷却することが特許文献1で提案されている。
本発明者らは、円形ブレードの切削条件を検討することによって乾式切削を達成することを試みた。
従来の冷却水を使用する円形ブレードによる切削の場合、円形ブレードの適正周速は、切削速度とブレード寿命の関係から、アスファルトコンクリートで2500〜3000m/分、セメントコンクリートでは2000〜2500m/分、珪質岩のみの骨材を使用した高強度コンクリートでは1200〜1500m/分とされており、鉄筋コンクリートともなるとブレードの周速を2500m/分以上とするのが一般的とされている。
一方、乾式切削の場合、冷却水を使用した場合と同じ周速とするとダイヤモンドチップを十分に冷却することができず、高温となってダイヤモンドチップの酸価消耗が激しくなって切れ味が低下し、加えて、ブレード基板が高温となって熱変形して切削が円滑におこなわれないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-219422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、円形ブレードで鉄筋コンクリート等を切削する際、冷却水を使用することなく空気だけで円形ブレードを適切に冷却することで、ダイヤモンドチップの劣化を阻止し、ブレード基板が高温となって変形することを抑止し、円滑な切削を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ブレードの切削方向に対する回転方向、及び円形ブレードの周速を制御することによってコンクリート及び鋼材を水を使用せずに円形ブレード基板が高温となって変形するのを抑止し、更に円形ブレードの寿命を水で冷却した場合とほぼ同等で乾式切削が可能であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
鉄筋・鉄骨を含むコンクリートを円形ブレードを回転させ、進行させながら切削する際、円形ブレードを切削方向に対して下から上に回転(アッパー回転)させ、その際のブレードの周速を600〜1200m/分として切削することによって、前記の課題が解決されるのである。
【0008】
円形ブレードの周速を600m/分未満とすると、コンクリートを衝撃で破砕する作用が低下して切削速度が低下してしまい、また、より大きなトルクで円形ブレードを回転させないと切削時の抵抗で回転が停止するので好ましくない。
逆にブレードの周速を1200m/分超とすると、切削速度は上がるが、切削時の発熱量が空気による冷却を上回り、ブレード基板が高温となって変形したり、ダイヤモンドチップが劣化するなどブレードの寿命を極端に低下させるため好ましくない。
【0009】
円形ブレードの切削進行方向と円形ブレードの回転方向について検討したところ、円形ブレードを切削進行方向に対して上から下に向かうダウン回転とすると、下に向かうダイヤモンドチップが未切削状態のコンクリート表面に衝突することになりダイヤモンドチップに対する衝撃が大きく、破砕が生起してブレード基板から脱落する率が、下側から上に向かうアッパー回転より大きくなることが切削後の観察によって判明したので、切削進行方向に対して下側から上に向かうアッパー回転として、円形ブレードの寿命を延ばすことが得策である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の切削方法によれば、鉄筋・鉄骨コンクリートを冷却水を使用することなく円形ブレードの回転によって連行される空気のみによって冷却することができ、また、冷却装置などの特別な付加装置を設けることなくコンクリートの乾式切削を実現することができるのであり、冷却水の準備や切削泥水の処分が不要となり、高架橋、橋梁路下のへの切削泥水の落下防止の汚泥水養生対策コスト、切削泥水の産業廃棄処分等を含めたトータルコストを大幅に低減することが可能となり、切削に要するトータルエネルギーが少なくて済むため地球温暖化対策にも貢献する。
また、円形ブレードを駆動軸に対して所定角度傾斜させて回転させ、円形ブレードの回転時の左右への振れによる周囲の空気の撹拌効果と、形成された切削溝の限定された空間の空気が、円形ブレードの左右に振れながらの回転に連行されてブレード基板とダイヤモンドチップに吹き付けられるので、ブレードが高温になるのが防止され、また、切削溝内の空気の流れによって切削粉が切削溝の外に連行されて押し出されるので、吸引装置によって切削溝から簡単に排除することができる。
円形ブレードの周速を常識を覆す超低周速とする単純な方法と、切削溝からと、ブレードカバー下部からの強制吸引を切削進行方向前方より吸引することによって、水を使用しない鉄筋コンクリートの乾式切削が可能となったのである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】ブレードを駆動軸に傾斜させて固定した断面図。
【
図3】フィン付固定用フランジの側面図及び断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
図1は、溝を切削形成する状態を示すものであり、円形のブレード基板12の外周縁に間隔をおいてダイヤモンドチップ11が固定してある円形ブレード1を有するコンクリートカッターを示しており、矢印(M)の方向にコンクリートカッターを進行させ、円形ブレード1を進行方向に対して下側から上に向かってアッパー回転させている。
ブレード基板12は駆動軸10に固定されており、駆動軸10はコンクリートカッター本体に装備されているエンジンまたは電気モーター等の原動機の出力軸に直接、または減速機を介して連結されている。コンクリートカッター本体自体は、人力または原動機によって移動可能であり、本体には車輪や切削位置指示器、更には、回転ブレードからの騒音を軽減するブレードカバーが装備されている。原動機の出力は50馬力以上が好ましく、円形ブレードの回転トルクを減速機によって調節できるようにしてある。
【0013】
このブレード基板12は、通常のようにコンクリートカッターの駆動軸10に直角に取り付けて切削をおこなうが、
図2に示すように、水平な駆動軸10に角度θ傾けて固定し、駆動軸10の回転によって、円形ブレード1を左右に振らせながら回転させることによって、ダイヤモンドチップ11の幅よりも広い切削幅Tの切断溝を形成することができる。
【0014】
円形ブレード1は、ブレードカバー2で覆われ、切削時の騒音の低減及び切削切粉の飛散が防止されている。このブレードカバー2の底部開口の両側には切削対象物面に接触するブラシ5が取り付けられており、切削切粉の飛散を防止している。
ブレードカバー2の後部には、ブレードカバー2の内部に空気を送り込んで円形ブレード1を冷却するための送風口4が設けてあり、送風機がホースで連結されている。また、ブレードカバー2の前部には、吸引口3が設けてあり、図示しない集塵装置にホースで連結される。
【0015】
円形ブレード1が、左右に振れながら回転して溝を切削形成していくので、ブレード基板12が切削溝内の空気を前方に押し出し、また、切削溝内の空気が撹拌されるため、切削によって発生する熱がこもらず、また、ブレードの周速を従来の適正周速より低めにしてあるため、発生熱量が少ないのでブレード基板12の変形やダイヤモンドチップ11の酸化による劣化が起こらない。
【0016】
鉄筋コンクリート製の厚さ50mm〜150mmの床版コンクリートをブレード径φ300mm、φ450mm及びφ500mmの円形ブレードを使用し、冷却水を使用せず、ブレードの回転方向、周速を変えて切削実験をおこない、鉄筋コンクリート床版の切削状態、ブレード基板の状態、ダイヤモンドチップの状態を観察した。その結果を表1に示す。
【0018】
鉄筋コンクリートを周速1200超〜1800m/分で切削したところブレード径φ300mmとφ450mmではブレード基板12が高温となって歪んでブレードの再使用ができなくなった。また、ダイヤモンドチップ11の部分的破損及び、ダイヤモンドチップのブレード基板からの脱落が見られた。
ダイヤモンドチップがブレード基板から脱落するとそれが切削溝に残置され、この脱落したダイヤモンドチップを切削溝内から除去しない限り新規円形ブレードによる切削を開始できず、切削効率が大幅に低下する。従って、ダイヤモンドチップの脱落は施工効率に大きな影響を与えるものであるので極力防止する必要がある。
【0019】
ブレード基板12が高温となって変形し始めて切削不能となる可能性が認められた時点で、ブレード基板12の冷却にドライミストを使用したところ、切削中のダイヤモンドチップの冷却に対しては有効性が認められた。しかしながら、ブレード基板12の温度の上昇が認められた時にドライミストを使用するとブレード基板12がドライミストで急激に冷却されるが、均一に冷却されず不均一に冷却されるのでブレード基板12の歪みの生成を却って促進させることが認められた。ブレード基板12に変形が生じると切削方向の直線性の維持が困難となり、また、ダイヤモンドチップの脱落飛散が多数発生し、切削続行が不可能となった。
【0020】
周速400m/分以下の場合、切削効率が低下すると共に、ダイヤモンドチップの偏摩耗が発生し易くなり、円形ブレード1枚あたりの切削量が従来適正とされていた周速で切削する場合に比較して円形ブレード1枚あたりの切削量が減少することが認められた。
従って、少なくとも周速を600m/分以上とするのが好ましい。
【0021】
図3は、円形ブレード1を固定するフランジ6にフィン61を取り付けたものである。固定フランジ6の中心穴からフィン61は周縁部に延び、回転時に空気を捕捉しやすいように湾曲させてある。このフィン61が中心穴周囲に放射状に設けてある。円形ブレード1の回転に伴ってフィン61が周囲の空気を回転方向に押し出し、ブレード基板12の側面に沿って気流をおこし、切削溝内に空気が送り込まれてブレード基板12の冷却を促進する。
フィン61はフランジ6とは別体としてもよく、この場合、フィン61は、アルミ合金など軽量金属や合成樹脂で作成することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ブレード
10 駆動軸
11 ダイヤモンドチップ
12 ブレード基板
2 ブレードカバー
3 吸引口
4 送風口
5 ブラシ
6 固定フランジ
61 フィン