特許第6111384号(P6111384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団の特許一覧

<>
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000003
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000004
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000005
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000006
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000007
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000008
  • 特許6111384-ペプチドカラム 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111384
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】ペプチドカラム
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20170403BHJP
   C07K 17/04 20060101ALI20170403BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20170403BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20170403BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20170403BHJP
   C07K 9/00 20060101ALN20170403BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
   C07K1/22ZNA
   C07K17/04
   G01N30/88 201R
   G01N33/50 Z
   G01N33/15
   !C07K9/00
   !C07K16/24
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-5478(P2013-5478)
(22)【出願日】2013年1月16日
(65)【公開番号】特開2014-136688(P2014-136688A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年10月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年10月3日に横浜市立大学にて開催された横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 機能科学研究室セミナーにて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年11月19日に東京大学にて開催されたBMSシンポジウム2012「バイオ医薬品開発と質量分析 −CMCからバイオアナリシスまで」にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年12月4日にロイヤルパークホテルにて開催されたCMC Strategy Forum Japan 2012にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋井 則貴
(72)【発明者】
【氏名】栗林 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】川崎 ナナ
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/134416(WO,A1)
【文献】 特表2005−527506(JP,A)
【文献】 特開2003−088381(JP,A)
【文献】 特開2009−195184(JP,A)
【文献】 特開2000−154200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着対象のペプチドに特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなるペプチドカラムであって、
TNF-α抗体親和性ペプチドIAVSYQTKが前記官能基に結合されていることを特徴とするペプチドカラム。
【請求項2】
前記抗TNF-α抗体親和性ペプチドIAVSYQTKのN-末端にリンカーが付加されており、前記リンカーを介して前記抗TNF-α抗体親和性ペプチドIAVSYQTKが前記官能基に結合されていることを特徴とする請求項記載のペプチドカラム。
【請求項3】
前記リンカーは、CGSGSGSであることを特徴とする請求項に記載のペプチドカラム。
【請求項4】
前記官能基はトレシル基であることを特徴とする請求項乃至の何れか1項に記載のペプチドカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プチドカラに関する。
【背景技術】
【0002】
TNF-α(Tumor necrosis factor alpha)は、炎症性免疫応答に関わる細胞によって産生されるサイトカインであり、抗TNF-α抗体は、リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎等に対する薬剤として使用される。抗TNF-α抗体は、TNF-αを異種動物(通常マウス)に免疫し、その動物が産生した抗体分子(IgG)から作製される。抗TNF-α抗体の主な作用機序は、標的分子であるTNF-αに特異的に結合し、その生物学的作用を阻害することである。そのほかに、単球等のTNF-α産生細胞の表面に発現された膜型TNF-α分子とも結合し、これら産生細胞を傷害してTNF-α産生を抑制している。
【0003】
この抗TNF-α抗体の回収方法は、例えば特許文献1に記載されているように、アフィニティークロマトグラフィーの使用によりなされる。また抗TNF-α抗体の他の回収方法として、硫酸アンモニウム若しくはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン若しくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、ヒドロキシルアトパタイトクロマトグラフィー等による方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012−506383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の抗TNF-α抗体の回収方法は、操作の簡易性又は回収率において不十分であるという問題点を有する。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、TNF-α抗体を簡易操作且つ高回収率で回収できるペプチドカラムを提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明にかかるペプチドカラムは、吸着対象のペプチドに特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなるペプチドカラムであって、TNF-α抗体親和性ペプチドIAVSYQTKが前記官能基に結合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、TNF-α抗体を簡易操作且つ高回収率で回収できるペプチドカラムが得られる
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)はアダリムマブ由来の親和性ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラムであり、図1(b)はインフリキシマブ由来の親和性ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラムであり、図1(c)はゴリムマブ由来の親和性ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラムである。
図2図2(a)は、ペプチド1のMSスペクトルであり、図2(b)はペプチド1のMS/MSスペクトルである。
図3図3は、リンカー配列を付加させた抗TNF-α抗体親和性ペプチドの模式図である。
図4図4は、抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムの作製工程の概略図である。
図5図5(a)はアダリムマブを添加したヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(b)はインフリキシマブを添加したヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(c)はゴリムマブを添加したヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(d)はヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図である。図5(e)はヒト血漿を試料としてProteinAカラムを用いた場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図である。
図6図6(a)はゴリムマブを添加した培地を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図6(b)はインフリキシマブを添加した培地を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図6(c)はゴリムマブを添加した培養上清を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図6(d)はインフリキシマブを添加した培養上清を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図である。
図7図7(a)は回収前のゴリムマブのLC/MSにより得られたデコンボリューションマススペクトルであり、図7(b)は回収後のゴリムマブのLC/MSにより得られたデコンボリューションマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
(1)抗TNF-α抗体親和性ペプチド
本実施形態にかかる抗TNF-α抗体親和性ペプチドは、下記の方法により得られる。即ち、抗TNF-α抗体をゲルに固定化させて抗TNF-α抗体固相化ゲルを作製する抗体固相化ゲル作成工程と、TNF-αを酵素により断片化させてTNF-α由来ペプチド断片を作製するペプチドライブラリー作製工程と、抗体固相化ゲル作製工程で得られた抗TNF-α抗体固相化ゲルと、ペプチドライブラリー作製工程で得られたTNF-α由来ペプチド断片と、を混合して、抗TNF-α抗体に結合しないTNF-α由来ペプチド断片の一部を除去し、抗TNF-α抗体に結合したTNF-α由来ペプチド断片の残部を回収する選別工程と、を有する方法である。選別工程において、抗TNF-α抗体に結合したTNF-α由来ペプチド断片が、抗TNF-α抗体に親和性を有する抗TNF-α抗体親和性ペプチドである。
【0014】
抗体固相化ゲル作製工程において、ゲルに固定化させる抗TNF-α抗体は、例えばアダリムマブ、インフリキシマブ、ゴリムマブ等の市販の抗体を用いることができる。また、抗TNF-α抗体を固定化させるゲルは、特に限定されるものではないが、例えばシリカ基材のゲルを使用することができる。
【0015】
ペプチドライブラリー作製工程において、TNF-αを断片化させる酵素は、特に限定されるものではないが例えばトリプシンを使用することができる。
【0016】
選別工程では、抗体固相化ゲル作製工程で得られた抗TNF-α抗体固相化ゲルと、ペプチドライブラリー作製工程で得られたTNF-α由来ペプチド断片と、を混合して、抗TNF-α抗体に結合しないTNF-α由来ペプチド断片を除去する。抗TNF-α抗体に結合しないTNF-α由来ペプチド断片の除去は、例えば酢酸アンモニウム等によりゲルを洗浄することにより行われる。ゲルを洗浄した後は、抗TNF-α抗体に結合したTNF-α由来ペプチド断片を酸で溶出させることにより、抗TNF-α抗体に親和性を有する抗TNF-α抗体親和性ペプチドが回収できる。
【0017】
回収した抗TNF-α抗体親和性ペプチドに対して、質量分析により同定を行うことが可能である。同定を行うことにより、得られた抗TNF-α抗体親和性ペプチドがTNF-αの所定位置に相当するペプチドであることを確認することができる。
【0018】
(2)ペプチドカラム
本実施形態にかかるペプチドカラムは、官能基を多孔質担体の表面に固定してなるペプチドカラムであって、前述の抗TNF-α抗体親和性ペプチドがこの官能基に結合されている構造を有している。
【0019】
ペプチドカラムは、例えばシリカ基材等の多孔質担体を基材とする。多孔質担体表面の官能基は、抗TNF-α抗体親和性ペプチドを特異的に結合可能とするものであれば特に限定されるものではないが、例えばトレシル基とすることが可能である。
【0020】
抗TNF-α抗体親和性ペプチドのN末端にリンカーを付加させ、このリンカーを介して抗TNF-α抗体親和性ペプチドが官能基に結合されていることがより好ましい。抗TNF-α抗体親和性ペプチドと多孔質担体表面の官能基とを直接結合させると、立体障害により、抗TNF-α抗体親和性ペプチドの結合部位付近に抗TNF-α抗体がアクセスしにくくなることが考えられるからである。
【0021】
(3)スクリーニング方法
本実施形態にかかるスクリーニング方法は、抗TNF-α抗体をゲルに固定化させて抗TNF-α抗体固相化ゲルを作製する抗体固相化ゲル作製工程と、TNF-αを酵素により断片化させてTNF-α由来ペプチド断片を作製するペプチドライブラリー作製工程と、抗体固相化ゲル作製工程で得られた抗TNF-α抗体固相化ゲルと、ペプチドライブラリー作製工程で得られたTNF-α由来ペプチド断片と、を混合して、抗TNF-α抗体に結合しないTNF-α由来ペプチド断片の一部を除去し、抗TNF-α抗体に結合したTNF-α由来ペプチド断片の残部を回収する選別工程と、を有する。選別工程において、抗TNF-α抗体に結合したTNF-α由来ペプチド断片が、抗TNF-α抗体に親和性を有する抗TNF-α抗体親和性ペプチドである。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
(1)実施例1では、抗TNF-α抗体親和性ペプチドを作製した。
【0023】
(1-1)抗体固定化ゲルの作製
3種類の抗TNF-α抗体(アダリムマブ(アボットジャパン,Tokyo, Japan),インフリキシマブ(田辺製薬,Osaka, Japan),及びゴリムマブ(ヤンセンファーマ,Tokyo, Japan))を0.5Mリン酸水素二カリウム緩衝液(pH7.5)に溶解した(1.0μg/μL)。その抗TNF-α抗体溶液(100μL)をゲル(TSKgel Tresyl-5PW, 10mg)(東ソー, Tokyo, Japan)に加え、室温で一晩振とうさせた。なお、ゲルの官能基はトレシル基であり、リガンドのアミノ基又はチオール基と反応するものであった。200μLの0.5M NaClでゲルを洗浄した後、100μLの0.1M Tris-HCl 緩衝液(pH8.0)で未反応の活性基をブロッキングし、抗TNF-α抗体固相化ゲルを作製した。
【0024】
(1-2)ペプチドライブラリーの作製
精製水で1.0μg/μLに調製したTNF-α(10μL)( TNF-α(Miltenyi Biotech, Tokyo, Japan))にトリプシン(Trypsin Gold (Massspectrometry Grade) (Promega,Madison, WI, USA))(1μL)を加え、37℃で16時間インキュベートし、得られたTNF-α由来ペプチドをペプチドライブラリーとした。
【0025】
(1-3)抗体と結合するペプチドの選別
ペプチドライブラリーを乾燥後、精製水(100μL)で再溶解した後、抗TNF-α抗体固相化ゲルに加え、室温で一晩振とうさせた。抗TNF-α抗体に結合しないペプチドを除去するために、400μLの25mM 酢酸アンモニウム(pH7.0)でゲルを洗浄した。抗TNF-α抗体固相化ゲルに結合しているペプチドを300μLの0.5M酢酸(pH2.5)で溶出・乾燥させて、抗TNF-α抗体に親和性を示す抗TNF-α抗体親和性ペプチドを得た。
【0026】
(1-4)抗TNF-α抗体親和性ペプチドの同定
抗TNF-α抗体親和性ペプチドを40μLの精製水に溶解させ、質量分析用の試料とした。以下に示す条件の液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により、抗TNF-α抗体親和性ペプチドのMS/MSスペクトルを取得した後、データベース検索により一次構造を決定した。
【0027】
LC/MSの条件は下記に示すものであった。
【0028】
(1-4-1)LC
装置:Paradigm MS4 (Michrom Bioresources, Auburn, CA, USA)
トラップカラム:L-column ODS (0.3 × 5 mm, 5μm, 化学物質評価研究機構)
分析カラム:L-column ODS (0.075 × 150 mm, 3 μm, 化学物質評価研究機構)
移動相:バッファーA, 0.1%ギ酸/5%アセトニトリル
バッファーB, 0.1%ギ酸/90%アセトニトリル
グラジェント条件:5−65% (B バッファー) 45分間
流速:300 nL/min
(1-4-2)MS
装置:LTQ-FT(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)
スプレー電圧:2.5 kV
電極:ポジティブイオンモード
MSスペクトルの取得:フルスキャンモード(測定範囲:m/z 400-2,000)
MS/MS スペクトルの取得:データ依存的なプロダクトイオンスキャンモード
(1-4-3)データベース検索
検索ソフト:BioWorks 3.1 (Thermo Fisher Scientific)
データベース:UniProtデータベース
図1(a)はアダリムマブ由来の親和性ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラムであり、図1(b)はインフリキシマブ由来の親和性ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラムであり、図1(c)はゴリムマブ由来の親和性ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラムである。その結果、図1(a)〜(c)に示されるように、ペプチド1〜5が検出された。
【0029】
下記表1は、ペプチド1〜5の同定結果である。表1に示されるように、ペプチド1,2,3,4,及び5は、それぞれTNF-αの83-90,7-32,33-44,16-31,及び91-98番目のアミノ酸配列に相当するペプチドと同定された。
【0030】
【表1】
【0031】
同定したペプチド1〜5のうち、全ての抗体で認められ且つ回収量の最も多いピーク1に由来するペプチド1を、以降の実験に使用する抗TNF-α抗体親和性ペプチドに用いた。図2(a)は、このペプチド1のMSスペクトルであり、図2(b)はペプチド1のMS/MSスペクトルである。
【0032】
(実施例2)
(2)実施例2では、抗TNF-α抗体に対する親和性が高いペプチドカラムを作製した。
【0033】
(2-1)ペプチド1を用いた抗TNF-α抗体親和性ペプチドの作製
抗TNF-α抗体親和性ペプチド(ペプチド1)のN-末端側にリンカー配列を付加させた。リンカー配列はCGSGSGGSとし、図3に示すように、リンカー配列−ペプチド1を親和性ペプチドカラム用ペプチドとして化学合成(東レリサーチセンター(Kanagawa, Japan))した。
【0034】
(2-2)抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムの作製
図4は、抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムの作製工程の概略図である。図4に示されるように、まず、TSKgelTresyl-5PWカラム(2×35 mm, 東ソー)を500μLの0.5M リン酸水素二カリウム溶液(pH7.5)で洗浄した。
【0035】
次に、上記の化学合成ペプチドを0.5M リン酸水素二カリウム溶液(pH7.5)で溶解させた後(1.0 μg/μL)、その100μLをカラムに注入し、4℃で一晩放置した。
【0036】
次に、200μL の0.2MTris-HCl(pH8.0)を注入し、室温で1時間、未反応の活性基をブロッキングした。
【0037】
次に、500μLの25 mMの酢酸アンモニウム(pH7.0)でカラムを洗浄して、未反応の合成ペプチドを除去した。これにより、抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムを作製した。
【0038】
(実施例3)
(3)実施例3では、実施例2で作成した抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムを用いて、ヒト血漿中からの抗TNF-α抗体の回収の確認を行った。
【0039】
(3-1)ヒト血漿中からの抗TNF-α抗体の回収
抗TNF-α抗体(アダリムマブ、インフリキシマブ、及びゴリムマブ)を精製水に溶解した(1.0μg/μL)。
【0040】
次に、これらの抗TNF-α抗体溶液(10μL)を90μLのヒト血漿(KACcorporation (Kyoto, Japan))で希釈した後、実施例2で作成した抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムに注入した。
【0041】
次に、1 mLの25 mMの酢酸アンモニウム(pH7.0)でカラム洗浄した。
【0042】
次に、300μLの0.1M Tris-NaOH(pH11.5)でカラムから吸着物を溶出させた。
【0043】
次に、洗浄及び溶出画分を乾燥後、10μLの精製水に溶解させた(1.0 μg/μL)。
【0044】
(3-2)SDS-PAGE
各画分を試料として、下記条件でSDS-PAGEを行い、本件発明ペプチドカラムの特異性を検証した。
【0045】
SDS-PAGEの条件
グラジュエントゲル:e-PAGEL (18ウェル, 厚さ1.0mm, グラジュエント5−20%; ATTOCorporation, Tokyo, Japan)
ローディングバッファー:0.5M Tris -HCl(pH6.8) 1.25 mL, SDS(Wako Osaka Japan)0.2g, グリセロール(Wako Osaka Japan)2mL, ブロモフェノールブルー(WakoOsaka Japan)少量/10 mL 精製水
泳動バッファー:Tris (Sigma Aldrich Tokyo Japan) 3g, グリシン(WakoOsaka Japan)14.4g, SDS (Wako) 1g/ 1L 精製水
サンプル調製:9 μLのローディングバッファーに2μLのサンプル溶液を添加して、100℃,3分間の加熱処理を行ったものをサンプルとした。
【0046】
ゲル染色:SYPRO Rudy Protein Gel Stain (Invitrogen)
検出:Typhoon 9400(GE Healthcare)でバンド確認
図5(a)はアダリムマブを添加したヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(b)はインフリキシマブを添加したヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(c)はゴリムマブを添加したヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(d)はヒト血漿を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図5(e)はヒト血漿を試料としてProteinAカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス製、HiTrap ProteinAHP 1mL)を用いた場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図である。各図において、コントロールは、抗TNF-α抗体水溶液を試料とした場合の電気泳動である。
【0047】
図5(a)〜(c)に示されるように、その結果、いずれの抗体を添加したヒト血漿を試料としても、コントロールと溶出画分の泳動パターンは類似していた。また、ヒト血漿を試料としたときに、溶出画分の泳動像にバンドは認められなかった。図5(e)に示されるように、ProteinAカラムでは血漿中の抗体が溶出画分に検出され、ProteinAカラムでは特異的に回収できなかった。本件発明にかかる抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムを用いることにより、血漿中の内因性抗体等の非特異的な結合や交差反応の影響を受けることなく、抗TNF-α抗体を高収率且つ特異的に回収することができた。
【0048】
(実施例4)
(4)実施例4では、実施例2で作成した抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムを用いて、培養液又は培養上清からの抗TNF-α抗体の回収の確認を行った。
【0049】
(4-1) 培養液又は培養上清からの抗TNF-α抗体の回収
抗TNF-α抗体(アダリムマブ、インフリキシマブ、及びゴリムマブを精製水に溶解した(1.0μg/μL)。
【0050】
次に、これらの抗TNF-α抗体溶液(10μL)を90μLの培養液又は培養上清で希釈した後、実施例2で作成した抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムに注入した。培地は、FreeStyleTM CHOExpression Medium (Invitrogen, Tokyo, Japan)であった。細胞培養上清は、CHO-S細胞を培養した培養上清であった。
【0051】
次に、500μLの25 mMの酢酸アンモニウム(pH7.0)でカラム洗浄した。
【0052】
次に、300μLの0.1M Tris-NaOH(pH 11.5)でカラムから吸着物を溶出させた。
【0053】
次に、洗浄及び溶出画分を乾燥後、10μLの精製水に溶解させた(1.0 μg/μL)。
【0054】
(4-2)SDS-PAGE
次に、各画分を試料として、実施例3と同じ条件でSDS-PAGEを行い、本ペプチドカラムの特異性を検証した。
【0055】
図6(a)はゴリムマブを添加した培地を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図6(b)はインフリキシマブを添加した培地を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図6(c)はゴリムマブを添加した培養上清を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図であり、図6(d)はインフリキシマブを添加した培養上清を試料とした場合の洗浄及び溶出画分の電気泳動図である。各図において、コントロールは、抗TNF-α抗体水溶液を試料とした場合の電気泳動である。
【0056】
図6(a)〜(d)に示されるように、その結果、いずれの抗体においても、培地成分や宿主細胞由来タンパク質の影響を受けることなく、抗TNF-α抗体のみを高収率且つ特異的に回収することができた。
【0057】
(実施例5)
(5)実施例5では、プロセス解析工学(PAT)として、抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムからの抗TNF-α抗体の回収前後で、抗TNF-α抗体の糖鎖不均一性が変化しないことを検証した。
【0058】
(5-1) プロセス解析工学
近年、医薬品の品質管理戦略の重心は、最終原薬/製品で品質を保証する手法から、重要中間体の管理又は工程内管理により保証する手法に移ろうとしているところ、本実施例にかかるプロセス解析工学(PAT)は、医薬品の原料、中間体の特性や工程を遅滞なく測定できる。
【0059】
実施例2で作成した抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムと逆相系カラムによる脱塩を連続して実施可能なカラムスイッチングシステム(J Pharm Biomed Anal. 2012, 67-68, 1-9.参照)を構築した。脱塩カラムは、MassPREPTM Micro desalting column (2.1 × 5.0 mm, 20 μm; Waters, Milford,MA, USA)であった。このシステムを液体クロマトグラフィー−質量分析装置(LC-MS)に接続して、試料の精製・脱塩・質量測定をオンラインで行った。CHO-S細胞の培養上清に1.0μg/μLになるようゴリムマブを添加した溶液を試料溶液とし、6μLをカラムスイッチングLC-MSに注入した。実施例2で作成した抗TNF-α抗体親和性ペプチドカラムにより回収する前後の抗TNF-α抗体(ゴリムマブ)について、以下に示す条件のLC/MSにより糖鎖不均一性の比較を行った。
【0060】
(5-2) 糖鎖不均一性の比較
まず、抗TNF-α抗体(ゴリムマブ)を添加した培養液を試料として、溶出画分を回収した。
【0061】
そして、回収前後の抗体試料を用いて、以下に示す条件のLC/MSにより得られたデコンボリューションマススペクトルのパターンを比較した。
【0062】
LC/MSの条件は下記に示すものであった。
【0063】
(5-2-1) LC
装置:Paradigm MS4
カラム:作製したPeptide column, MassPREPTM Micro desalting column (2.1 × 5.0 mm, 20μm; Waters, Milford, MA, USA)
移動相:バッファーA, 0.1%ギ酸/5%アセトニトリル
バッファーB, 0.1%ギ酸/90%アセトニトリル
グラジェント条件:10−80% (B バッファー) 30分間
流速:600 nL/min
(5-2-2) MS
装置: QSTAR Elite Qq-TOF mass spectrometer (AB Sciex, MA, USA)
スプレー電圧:4.0 kV
電極:ポジティブイオンモード
MSスペクトルの取得:フルスキャンモード(測定範囲:m/z 800-4,000)
マススペクトルのデコンボリューションするためのソフト:BioanalystTM software(AB Sciex)
図7(a)は回収前のゴリムマブのLC/MSにより得られたデコンボリューションマススペクトルであり、図7(b)は回収後のゴリムマブのLC/MSにより得られたデコンボリューションマススペクトルである。
【0064】
その結果、回収前後のゴリムマブで同様の質量及び糖鎖不均一性が確認されたことから、本カラムは、糖鎖不均一性をモニタリングするためのPATシステムに利用できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
抗体を簡易操作且つ高回収率で回収するのに有益である。
【配列表フリーテキスト】
【0066】
配列番号6:リンカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]