特許第6111385号(P6111385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マフレン株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社九州電化の特許一覧

<>
  • 特許6111385-ガラスメッキ方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111385
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】ガラスメッキ方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
   C23C18/18
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-279267(P2012-279267)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122391(P2014-122391A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年12月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】312010308
【氏名又は名称】マフレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512110307
【氏名又は名称】株式会社九州電化
(72)【発明者】
【氏名】原田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】大徳 一美
(72)【発明者】
【氏名】山田 登三雄
(72)【発明者】
【氏名】中野 寛文
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−021045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス表面に無電解メッキする方法において、ガラスを無電解メッキ液に浸漬する前の前処理において、該前処理におけるアクチュベーティング処理後に、前記ガラスを、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Li、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質であって、少なくとも1種類以上のフッ化物とホウ化物を含む複数の電解質を、磁場をかけた有機化合物からなる溶媒中で、該溶媒を攪拌しながら電流を流して溶解し、生成した液体フラックスに浸漬した後もしくは前記液体フラックスを塗布した後、無電解メッキ液に浸漬して前記ガラスを無電解メッキすることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法。
【請求項2】
ガラス表面に無電解メッキする方法において、ガラスを無電解メッキ液に浸漬する前の前処理において、該前処理におけるアクチュベーティング処理後に、前記ガラスを前記液体フラックスに浸漬した後もしくは前記液体フラックスを塗布した後、無電解メッキ液に浸漬して前記ガラスを無電解メッキすることにより、エッチング処理を省略することを特徴とする請求項1記載のガラスの無電解メッキ方法。
【請求項3】
前記液体フラックスは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Li、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を、磁場をかけた容器に充填した有機化合物からなる溶媒に入れ、該溶媒を攪拌しながら電流を流して溶解し、生成したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のガラスの無電解メッキ方法。
【請求項4】
請求項3記載の前記容器は、非磁性体からなり、複数のネオジ磁石を配設した円筒の内側に、マイナス電極とプラス電極とモーターと撹拌棒と前記ネオジ磁石が取り付けられた撹拌羽根が内装されており、前記マイナス電極と前記プラス電極に電流を流しながら、前記撹拌羽根で容器内を撹拌して、前記有機溶媒中の前記電解質を溶解するものであることを特徴とする請求項3記載のガラスの無電解メッキ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板やディスプレイなどを製造するためにガラスに金属層を形成するメッキ方法に関するものである。無電解メッキの前処理工程で、ガラスを液体フラックスに浸漬したり液体フラックスを塗布したりすることにより、アクチュベーティング工程でガラスに付着したパラジウムを活性化し、無電解メッキ金属が強固に付着するようにしたメッキ方法である。このメッキ方法によれば、ガラス面をエッチングすることなく無電解メッキが可能である。
【背景技術】
【0002】
ガラスは次のような優れた特性を持っている。(1)工学的に均質で光をよく通す(透光性)。(2)多種多様な元素を溶かし込むことができるので広い範囲の組成や特性の発現が可能である。(3)温度を上げることにより成形性に優れている。(4)表面処理により各種の機能を付加できる。(5)硬さ、強さ、化学的耐久性が優れている。このような特性を応用して、回路基板、ディスプレイ、太陽光発電などの新技術分野においても幅広く使用されている。最近は特にニューガラスとして、さらに新しい作成技術や精密加工技術を用いてガラスが本来持っている優れた性質を高め高機能化したガラスが求められている。このような多種多様なガラスも接合技術があって初めて機能するのであり、従来、ガラスの接合法としては、まず液体溶液中で無電解メッキし、その後電気メッキを行い所要の膜厚を形成し、用途に応じた機能を発揮させていた。しかし、無電解メッキによる接合は、ガラスの表面をエッチングして粗面を形成し、そこにパラジウムなどの触媒核金属を付着させ、Ni、Cu、Auなどの無電解メッキ可能な金属をアンカー効果で付着させるものであった。このため、ガラスと無電解メッキによる金属の接着強度は非常に弱くセロハンテープの引き剥がし試験で大部分が剥離してしまい、せいぜい0.5kg/mm2程度の付着力しか得ることができなかった。
【0003】
ガラス表面に金属層を密着性よく形成し、電子機器の回路基板材料を製造するに当たっては、様々な方法が試みられているが、無電解メッキ法はその代表的なものである。一般的な無電解メッキ工程は、(1)脱脂、(2)エッチング、(3)中和、還元、(4)コンディショニング、(5)センシタイジング、(6)アクチュベーティング、(7)無電解メッキ浴に浸漬するものであり、多くの工程を要していた。又、各工程はそれぞれ高価な薬品を用いて処理しており、薬品の管理や使用後の薬品の後始末にも多大な費用を要していた。例えば、センシタイジング以降の工程では、SnCL2の濃塩酸溶液中で処理することにより表面の感受性化を行い、次にPdCL2の濃塩酸液中で処理しガラス表面に高価なPd金属核を形成する必要があった。
【0004】
ガラスの主成分はNa、Ca、Kなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属でありイオン化傾向の大きい金属である。例えば、Naの標準電極電位は−2.7である。Niの電極電位は−0.24である。ガラスの成分であるNaと無電解Ni−Pメッキ液中のNiの電極電位は10倍以上の電位差がある。これらの卑金属の場合、イオン交換にてガラスからNaが放出されそのあとにNiがガラスに析出するがすぐに飽和状態になり長続きせず密着性もよくない。例えば、トリクロロエチレンによる脱脂後、アルカリ脱脂、湯洗、水洗後、フッ酸(55wt%):硝酸(67wt%)=1:3の溶液にて30〜60秒エッチングした後、水洗し、Niより卑なる金属である塩化パラジウム(0.1wt%)の水溶液中に5〜10秒後浸漬して還元後、無電解Ni−Pメッキ溶液中に同じく10〜20秒浸漬して無電解Ni−Pメッキを施していた。無電解メッキの前処理工程では幾重にも洗浄工程を経て丁寧に処理しているにも関わらず付着強度を向上できなかった。高い付着強度が必要な場合は、PTA(紛体プラズマ溶接)やCVD(化学気相成長)法がガラスメッキの下地処理の主体であり無電解メッキは採用されていないのが実情である。
【0005】
非特許文献1によれば、無電解メッキでは、センシタイジングとアクチュベーティングによりガラス表面に、Sn2++Pd2+→Sn4++Pdの反応により触媒核金属Pdを付着させ、このPdに無電解メッキ浴中でNi、Cu、Auなどのメッキ金属を付着させて金属層を形成させる。無電解メッキでは、メッキ金属はPdを核としてガラス面にアンカー効果で付着しているだけでありその付着力は小さく不安定である。このため無電解メッキではアンカー効果による密着強度を高めるために、ガラス表面を粗面化し、表面積を増大している。これは平滑な表面を必要とする回路基板にとって精密性を低下させる致命的な欠点である。また、例えばガラス中に含まれる不純物を化学エッチングすることにより表面粗化を行うため、純度の低い基板材料にしか利用できない問題があり回路の特性を向上させるための大きな障害であった。これらの理由により、従来の無電解メッキ法により金属層を形成したガラスをエッチングして微細構造の金属層パターンを得るのには限界があり、又、エッチング省略の課題を解決しなければ回路基板の容量アップやコスト削減、生産性向上は不可能な段階になっていた。無電解メッキの前処理としてエッチングレスでガラスへの金属密着性を改善するため種々の方法が提案されている。
【0006】
非特許文献2によれば、一般的な無電解Ni-Pメッキの化学反応は次のように考えられている。
(主反応) Ni2++H2PO2+H2O→Ni+H2PO3+2H2↑
(副反応:H発生) H2O+H2PO2→H2↑+H2PO3
(副反応:共析) H2PO2+H→P+OH+H2O
この原理に基づいて行われている無電解Ni−Pメッキの特徴は、(1)メッキ皮膜の厚さが均一で素材の形状に影響されない、(2)不導体へのメッキが可能である、(3)電源を必要とせずメッキ装置が簡単である、(4)メッキ皮膜にピンホールが少ない、(5)メッキ皮膜中に微量の非金属元素を含むため硬度が高いことなどがあげられている。
【0007】
メッキは溶液中の還元反応であり、無酸化状態で金属イオンを渡すことである。このことから、電気メッキにおけるメッキ浴を非水溶液とし無酸化状態でメッキすることにより、従来電気メッキ不可能であった金属のメッキを可能にしたり、メッキの効率化や特性の向上を試みたりする研究がなされている。非特許文献3において、Niをメタノール、エタノール、ホルムアミドなどの非水液中で電気メッキして、Hv700〜1000程度の高硬度のメッキが得たことが報告されている。又、非特許文献4において、ジメチルスルホンを用い、AL−SiO2の複合電析により、AL−SiO2複合皮膜が得られたことが報告されている。これらの研究は非水液が電気メッキに有効であることを示唆しているが、無電解メッキにおいては全く試みられていない。
【0008】
特開平7−334841号広報「磁気ディスク用ガラスの無電解Ni-Pメッキ方法」において、良好な磁気ディスク用ガラスを得る手段として、十分な密着性と平滑性を有するNi−Pメッキ層をガラス上に形成するための無電解Ni−Pメッキ法が提案されている。これは前処理として、ガラスをまず十分脱脂し、続いてエッチングを行ってアンカー効果を高め、エッチング時に生じた基板表面に付着した異物を除去し、表面調整工程を施して基板表面を化学的に均一化し、続いて感受化処理、活性化処理を行った後、無電解Ni-Pメッキを行うものであり、エッチング液としてはフッ化水素酸とフッ化水素カリウムを含む水溶液を用い、表面異物除去には塩酸を用い、表面調整にはナトリウムメトキシドを含む水溶液を用いると好適とされている。この方法においては、エッチング液として、50wt%のフッ化水素酸を50〜300mL/L、フッ化水素カリウムを50g/L〜300g/L使用しており、明らかにエッチング過剰であり粗度が大きくなりすぎて回路基板の精度が低下する問題がある。
【0009】
特開平5−247660号広報において、無電解Ni−Pメッキのメッキ浴は例えば、硫酸ニッケル6.0g/L、錯化剤150g/L、次亜リン酸ナトリウム30g/L、リン酸(H3PO3):2モル/L、安定剤:微量、アンモニア水でPH4.5に調整したものが示されている。水溶性ニッケル塩としては、硫酸ニッケルの他に塩化ニッケル、酢酸ニッケルなどが使用される。錯化剤としては、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸などのカルボン酸やそれらの塩が使用される。次亜リン酸塩としては、通常次亜リン酸ナトリウムが用いられる。これらの濃度は、例えば水溶性ニッケル塩は0.05〜0.3モル/L,錯化剤はニッケル塩1モルに対して1〜5モル/Lの範囲、次亜リン酸又はその塩は15〜90g/Lとすることができる。メッキ液PHは3.5〜6.5の範囲で調整するのが通常である。
【0010】
特開平6−61619号広報「回路基板の製造方法」において、セラミックス又はガラスに酸化亜鉛層を形成し、無電解メッキの触媒となる金属の金属塩を溶かした溶液と接触させたとき、酸化亜鉛の溶解反応に並行して、金属塩中の金属イオンが、半導体の表面及び内部に取り込まれる現象を利用してセラミックス又はガラスの表面にCu、Ni、Auなどの金属層を積層させる回路基板の製造方法が開示されている。この方法においては、亜鉛のイオンを含む溶液をスプレー状にして空気中、あるいは酸素雰囲気化で加熱した基板上に噴霧するスプレーパイロシス法を用いているため、溶液はガラス表面に小さなアンカー力にて載っているだけの状態である。このZnO膜にNiなどの金属を載せた場合、ガラスやセラミックスとの接合力は極めて弱いものであり、高い密着性を要する半導体基板としての信頼性を低下させていた。又Znイオンをガラス表面に焼き付ける場合は400℃まで加熱する必要があり青板ガラスのような低融点ガラスを使用すると、ガラスの反りや歪などの問題が生じていた。
【0011】
特開2000−163743号広報において、ガラス表面に、水酸化カリウム溶液によるアルカリ脱脂処理、フッ酸によるエッチング処理、温純粋処理、シランカップリング剤処理、塩化パラジウム水溶液によるアクチュベーター処理、次亜リン酸ナトリウム水溶液によるアクサレーター処理を順次施した後、無電解Ni-Pメッキを行い、続いて、加熱処理を施すことによる磁気ディスク用ガラスへの無電解Ni-Pメッキ層の形成方法が開示されている。この方法においては、強力なフッ酸を使用しているため過剰エッチングになり表面粗さが大きくなりすぎる問題と加熱処理による基板変形の問題がある。
【0012】
特開2008−89515号広報「メッキ基板及びその製造方法」において、無電解メッキ用の触媒として機能する触媒金属を含有する任意のパターン樹脂成型体を基板上に形成して、樹脂成型体に金属を析出させる方法が開示されている。この方法では、金属層は樹脂成型体の上に載置されており、金属層の接合強度は樹脂成型体と基板との接合強度で決定される。樹脂成型体と基板との接合はアンカー効果によるものであり、樹脂成型体が剥離すると金属層は一緒に剥離することになり接合の信頼性は極めて悪かった。
【0013】
特開平7−18454号広報「無電解金属付着のために基体をコンディショニングする方法」において、基体表面をアニオン性化学還元剤と接触させ、その後で基体表面を、カチオンを含有する溶液と接触させて、基体表面にカチオンを低い原子価の酸化状態の種に還元する方法が示されている。アニオン性化学還元剤として不飽和芳香族炭化水素、芳香族カルボニル化合物、第4級芳香族窒素化合物などが限定されている。また、アニオン性化学還元剤が中性有機化合物から生成され、その有機化合物が支持電解質塩を含有する非プロトン性溶媒中で電気化学的に還元されるものであり、支持電解質塩はまたテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム、塩素酸リチウムなどであると限定している。この方法においては、アニオン性化学還元剤をあらかじめ基体に付着させておき、メッキ液中のカチオンを原子価の低い酸化状態にして基体に付着させようとするものであり、基体を強くエッチングする必要がないので基板を平滑に保持できるものの基体との機械的結合や化学的結合は期待できないので極めて弱い付着力であった。
【0014】
特開2012−113802号広報「磁気ディスク用ガラスの製造方法」において、一般的に回路基板に好適なガラスは次のようなものがある。アルミノシリケートガラスは、SiO2:60〜70wt%、AL2O3:9〜18wt%、LiO2:2〜4wt%、Na2O:6〜13wt%、K2:0〜5wt%、R2O:10〜16wt%、(但し、R2O=LiO2+Na2O+K2O)、MgO:0〜3.5wt%、CaO:1〜7wt%、SrO:0〜2wt%、Ba:0〜2wt%、RO:2〜10wt%、(但し、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、TiO2:0〜2wt%、CeO2:0〜2wt%、Fe2O3:0〜2wt%、MnO:0〜1wt%、TiO2+CeO2+Fe2O3+MnO=0.01〜3wt%を含有する。他に、ソーダライムガラス、ボロシリケートなどが回路基板用ガラスとして使用されている。
【0015】
特開2011−251854号広報「ガラス」において、SiO2:58〜68wt%、Al2O3:0〜5wt%、B2O3:0〜2wt%(ただしSiO2+Al2O3+B2O3=58〜68wt%)、Na2O:1〜6wt%、K2O:7〜15wt%(ただしNa2O+K2O=8〜21wt%)、MgO:2〜7wt%、CaO:7〜15wt%、BaO:0〜5wt%、SrO:0〜5wt%、ZnO:0〜5wt%(ただしMgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=9〜22wt%)、ZrO2:6〜12wt%となる組成を有したガラスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献01】特開平7−334841号広報「磁気ディスク用ガラスの無電解Ni-Pメッキ方法」
【特許文献02】特開平5−247660号広報「無電解ニッケルメッキ浴の再生方法」
【特許文献03】特開平6−61619号広報「回路基板の製造方法」
【特許文献04】特開2000−163743号広報「磁気ディスク用ガラスへの無電解Ni−Pメッキ層の形成方法」
【特許文献05】特開2008−89515号広報「メッキ基板及びその製造方法」
【特許文献06】特開平7−18454号広報「無電解金属付着のために基体をコンディショニングする方法」
【特許文献07】特開2012−113802号広報「磁気ディスク用ガラスの製造方法」
【特許文献08】特開2011−251854号広報「ガラス」
【特許文献09】特開平2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」
【特許文献10】特開2009−297782号広報「液体フラックスの製造方法及びその装置」
【特許文献11】特開2010−100441号広報「液体フラックスの製造方法と製造装置及び液体フラックス」
【特許文献12】特開2011−088180号広報「溶接用フラックスと溶接法」
【特許文献13】特開2011−098367号広報「溶接肉盛り用フラックスと溶接肉盛り法」
【特許文献14】特願2012−24804号広報「液体フラックス」
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献01】表面技術Vol.55,No.4,2004、P58、「無電解メッキの活性化前処理に用いられるセンシタイジング液の経時変化」、岡本尚樹等
【非特許文献02】北海道立工業試験所報告No.291(1992)「無電解ニッケルメッキに関する研究(第一報)P45、阿部芳彦等」
【非特許文献03】実務表面技術「非水溶液による電気メッキ」、Vol.33.No4.1986武井たつ子
【非特許文献04】機能性複合材料の創製のための非水溶媒電気化学プロセスの開発、平成13〜15年度科学研究費補助金研究成果報告書、粟倉泰弘、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ガラス上に金属層を形成するための無電解メッキ法は、ガラス表面をエッチングにより粗面化し凹を形成し、この凹部分にPdを付着させてメッキ浴に浸漬し、Pdを触媒核としてNi、Cu、Auなどの金属メッキ層を形成する工程を経る。金属メッキ層はPdを核としてガラス表面にアンカー効果で付着している状態であり、付着力を向上するためにはエッチングを強化してガラス表面を粗化する必要があった。ガラス表面の粗さを粗くするほどアンカー効果は大きくなり金属層の付着力は向上するが、電子回路形成における精度は低下するので基板集積度向上の障害になっていた。本発明の課題は、触媒核となるパラジウムをガラス表面に強固に付着させるとともに、パラジウムの表面を活性化してメッキ金属が強固に付着させることである。又、ガラス表面のエッチング工程を省略することにより、ガラス面を必要以上に粗面化することなく、付着力の大きな金属メッキ層を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の解決手段は特許請求項1に示すように、ガラス表面に無電解メッキする方法において、ガラスを無電解メッキ液に浸漬する前の前処理において、該前処理におけるアクチュベーティング処理後に、前記ガラスを、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Li、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質であって、少なくとも1種類以上のフッ化物とホウ化物を含む複数の電解質を、磁場をかけた有機化合物からなる溶媒中で、該溶媒を攪拌しながら電流を流して溶解し、生成した液体フラックスに浸漬した後もしくは前記液体フラックスを塗布した後、無電解メッキ液に浸漬して前記ガラスを無電解メッキすることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0020】
第2の解決手段は特許請求項2に示すように、ガラス表面に無電解メッキする方法において、ガラスを無電解メッキ液に浸漬する前の前処理において、該前処理におけるアクチュベーティング処理後に、前記ガラスを前記液体フラックスに浸漬した後もしくは前記液体フラックスを塗布した後、無電解メッキ液に浸漬して前記ガラスを無電解メッキすることにより、エッチング処理を省略することを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0021】
第3の解決手段は特許請求項3に示すように、前記液体フラックスは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Li、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を、磁場をかけた容器に充填した有機化合物からなる溶媒に入れ、該溶媒を攪拌しながら電流を流して溶解し、生成したものであることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0022】
第4の解決手段は特許請求項4に示すように、請求項3記載の前記容器は、非磁性体からなり、複数のネオジ磁石を配設した円筒の内側に、マイナス電極とプラス電極とモーターと撹拌棒と前記ネオジ磁石が取り付けられた撹拌羽根が内装されており、前記マイナス電極と前記プラス電極に電流を流しながら、前記撹拌羽根で容器内を撹拌して、前記有機溶媒中の前記電解質を溶解するものであることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【発明の効果】
【0023】
第1の解決手段による効果は以下である。(1)液体フラックスが触媒核金属であるパラジウム表面を活性化する、(2)液体フラックスがガラス表面及びガラス表面に付着しているパラジウムやスズの酸化を防止し、無電解メッキ液に浸漬した瞬間にPdとNiが結びつき強固なメッキ層となる、(3)液体フラックスは非水メッキ浴と同様の錯化剤を含有しており、ガラスを無電解メッキ液に浸漬した瞬間、錯化剤がNiと反応しキレートを形成し、このキレートがパラジウムと接触しパラジウムにNiを析出させるのでパラジウムに緻密なNiメッキ層が形成できることである。
【0024】
第2の解決手段による効果は以下である。(1)エッチング工程を省略できるので、ガラス表面を平滑に保ちながら無電解メッキが可能となる、(2)ガラス面の平均粗さが小さくなるので回路パターンの精度が向上することである。
【0025】
第3の解決手段による効果は以下である。(1)有機化合物からなる溶媒の中に電解質を容易に溶解できるので様々な原子を含有した液体フラックスを自在に生成できる、(2)液体フラックス中に最大40%の電解質を溶解できることである。
【0026】
第4の解決手段による効果は以下である。(1)円筒にネオジ磁石が配設されているので、容器の側面、底面から磁界をかけることができ効率的な溶解ができる、(2)液体フラックスの生成が終了したら、容器から簡単に撹拌部や電極を外せるので操作が容易である、(3)容器内に付属品がないので容器の洗浄が容易である、(4)本装置はセッティングやメンテナンスが容易なことから大量の液体フラックスを短時間で製造できることである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】は液体フラックス製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1の解決手段は特許請求項1に示すように、ガラス表面に無電解メッキする方法において、ガラスを無電解メッキ液に浸漬する前の前処理において、該前処理におけるアクチュベーティング処理後に、前記ガラスを、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Li、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質であって、少なくとも1種類以上のフッ化物とホウ化物を含む複数の電解質を、磁場をかけた有機化合物からなる溶媒中で、該溶媒を攪拌しながら電流を流して溶解し、生成した液体フラックスに浸漬した後もしくは前記液体フラックスを塗布した後、無電解メッキ液に浸漬して前記ガラスを無電解メッキすることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0029】
無電解メッキの前処理は、例えば次のような工程を経ている。アルカリ(KOH)脱脂、中和(硫酸)、1次エッチング(酸性フッ化アンモン)、2次エッチング(過マンガン酸カリウム)、中和・還元(硫酸ヒドロキシルアンモン)、コンディショニング(ダインクリーナ810)、センシタイジング(塩化スズ(SnCL4))、アクチュベーティング(塩化パラジウム)などの前処理を経て無電解メッキしている。
【0030】
本発明では、少なくとも塩化パラジウムによるアクチュベーティング処理後に液体フラックスの浸漬後無電解メッキすることを特徴としている。
【0031】
液体フラックス製造方法として、本発明者が発明した液体フラックスの製法を応用している。従来、化合物をアルコールやアセトンなどの非水液に高濃度で溶解するには高温高圧の溶解装置が必要であった。本発明者は特開2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」において、高温高圧下で電解質をアルコールなどの溶媒に溶解した液体フラックスを発明した。常温常圧下でホウ酸(H3BO3)は水に最大3wt%溶解するが、500℃、45MPaの高温高圧下ではアルコール溶媒に最大72wt%溶解することができる。さらに本発明者はアルコールやアセトンの溶媒に磁界をかけながら複数の電解質を最大40wt%まで溶解して生成する液体フラックスを発明した。これらの液体フラックスをガラスの無電解メッキの前処理に使用することにより、ガラス表面にCuやNiなどの金属を無電解メッキできるようになった。
【0032】
半導体基板では、金属メッキしたガラスやセラミックスなどの基板上に回路パターン設け、これを高分子物質でマスキングして、マスキング以外の金属メッキをエッチングによって除去して回路を形成している。即ち、基板に電気回路を設けるためにはまずガラスやセラミックスの表面に金属を無電解メッキして金属を付着させ、この金属の上に回路を形成する金属を電気メッキする工程がとられている。ガラス上に無電解メッキでメッキ金属を付着させるために、あらかじめガラスの表面に触媒核金属を付着させている。従来よく使用される触媒核金属は標準電極電位の小さいパラジウム(−0.13)である。まず、パラジウムと同様に標準電極電位の小さいSn(−0.14)の塩化物(塩化スズ(SnCL4))中に数秒間浸漬した後、塩化パラジウム溶液中に数秒間浸し、スズ原子にパラジウム原子を付着させて基板上にパラジウム原子を載置していた。塩化パラジウム溶液には活性剤としてクエン酸や酒石酸を添加する場合もある。このように複数の工程を経て基板上に触媒核金属であるパラジウムを付着させていたがその付着力は小さいものであり安定していなかった。活性剤となる触媒核金属はパラジウムの他に白金なども使用可能であるが前処理費用が高価にならざるをえない。本発明はアクチュベーティング処理したガラスを液体フラックスに浸漬もしくは液体フラックスを塗布してパラジウムを活性化して無電解メッキ金属が強固に析出するようにしたものである。
【0033】
ガラスの無電解メッキでは、ガラスの主成分が1族(Na、K)、2族(Ca)、13族(B、AL)、14族(Si、Pb)などの元素群から構成されているのに対して、中間の10族(Pd)金属を触媒核金属として、10族金属(Ni、Pt)や11族金属(Cu、Ag、Au)をメッキしようとするところに電極電位的に無理がある。1族、2族は(−)の標準電極電位が大きく、13族14族は(+)の標準電極電位が大きい。このように大きな標準電極電位差を持つガラスは結合力が強いために、中間の触媒作用をするPdを触媒核金属として10族金属をメッキするのは難しく、Pdは単純にアンカー効果でガラス表面に付着しているだけであり付着力は小さかった。
【0034】
触媒核金属として主体は従来パラジウムであるが塩化パラジウムとして最大3wt%溶液中に入れることでパラジウムイオン濃度1wt%がキープできる。触媒核金属は塩化物としてCl(−1.359)、との標準電極電位の差が大きいほど触媒作用が大きくなる。標準電極電位はある電気化学反応(電極反応)について、標準状態かつ平衡状態となっている時の電極電位である。標準電極電位は標準水素電極の電位を基準(0ボルト)として表すと約束されている。従って、標準水素電極と測定対象の電極を組み合わせて作った電池の標準状態における起電力は標準電極電位と等しい。例えば、鉄イオンの場合は、Fe2++2e=Fe(−0.44)である。ギプスの自由エネルギ変化△G=−84.9J/mol、電荷の価数n=2、ファラデー定数F=96.485C/molとすると、E(Fe)=△G/(nF)=−84.9/2×96.485=−0.44Vであることがわかる。例えば、塩化パラジウム(PdCL2)におけるPdとClの標準電極電位の差は、0.987+1.359=2.346Vであり大きな電位が発生する。同様に10族Pdの隣の11族AgのClとの化合物である塩化銀(AgCL)では0.799+1.359=2.156Vとなりやはり大きな電位が生じることから触媒核金属として使用される。参考として他の金属の標準電極電位を以下に示す。
【0035】
Li(−3.03)、Na(−2.71)、Mg(−2.363)、Th(−1.90)、Be(−1.85)、Al(−1.70)、Ti(−1.63)、Zr(−1.534)、Mn(−1.18)、Zn(−0.7628)、Cr(−0.74)、Fe(−0.4402)、Cd(−0.4029)、Co(−0.283)、Ni(−0.24)、Mo(−0.20)、Sn(−0.136)、Pb(−0.126)、H(0.000)、Cu(+0.3419)、Ag(+0.7996)、Pd(+0.987)、Pt(+1.2)、H2O(+1.229)、CL(+1.359)、Au(+1.50)。
【0036】
無電解メッキにおいても微量電流が流れるためイオン移動があり(−)、(+)のやり取りが生じ電位差の分だけ電流が発生する。且つ、無電解メッキ液の主力は水であり、酸化反応も激しく液中より水素が発生するにつれ水酸基(OH)が発生してくる。還元溶液ではこの水酸基を考慮したメカニズムを構築しない限り強度の出るメッキは不可能であった。
【0037】
液体フラックスは、本発明者が発明した各種液体フラックスの製造方法により生成できる。液体フラックスはアルコールやアセトンの溶媒に磁界をかけ電流を流しながら電解質を溶解したものであり、メッキ前処理液、メッキ液だけでなく溶接母材、溶接棒、溶接方法あるいは金属溶断など様々な溶接や溶断条件に応じて作り分けることが可能である。
【0038】
液体フラックスは例えば、特開2009−090368号広報「ガス切断用気化フラックス」において示しているように、ロウ付けなどに使用するフラックスを適宜混合して前処理した混合フラックスを、アルコールやアセトンの溶媒に8〜25wt%混合して、超臨界装置内において温度300〜400℃、圧力34.3〜44.1MPaで溶解し液体フラックスを製造する方法を応用できる。特開2009−297782号広報「液体フラックスの製造方法及びその装置」おいて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Cl、Zn、Seなどの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質をアルコールやアセトンなどの溶媒中で磁場をかけるとともに、該溶媒を攪拌しながら溶解して液体フラックスを製造する方法を応用できる。特開2010−100441号広報「液体フラックスの製造方法と製造装置及び液体フラックス」において、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Znの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質をアルコールなどの溶媒を入れた容器中で、磁場をかけるとともに該溶媒を回転しながら溶解する液体フラックスの製造方法において、溶媒中に電極を挿入し電圧を付加するとともにパルス電圧を付加して液体フラックスを製造する方法を応用できる。特開2011−088180号広報「溶接用フラックスと溶接法」において、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Cl、Zn、Seなどの原子の内少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質をアルコールやアセトンの溶媒に溶解して液体フラックスを製造する方法を応用できる。特開2011−098367号広報「溶接肉盛り用フラックスと溶接肉盛り法」において、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Cl、Zn、Seの原子の内少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質をアルコールやアセトンの溶媒に溶解して液体フラックスを製造する方法を応用できる。特願2010−165565号広報「液体フラックス」において、カリウム(K)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、窒素(N)のいずれかを含むフッ化物の中から1種もしくは2種以上の前記フッ化物を選択し、フッ素(F)含有量が30〜70重量wt%となるように調合した調合フッ化物をアルコールもしくはアセトンの溶媒に溶解して液体フラックスを製造する方法を応用できる。
【0039】
第2の解決手段は特許請求項2に示すように、ガラス表面に無電解メッキする方法において、ガラスを無電解メッキ液に浸漬する前の前処理において、該前処理におけるアクチュベーティング処理後に、前記ガラスを前記液体フラックスに浸漬した後もしくは前記液体フラックスを塗布した後、無電解メッキ液に浸漬して前記ガラスを無電解メッキすることにより、エッチング処理を省略することを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0040】
ガラスの表面に触媒核を定着させる前にエッチング工程がある。このエッチングと触媒核の定着を同時にすることができれば大幅な省力化、表面粗度の平滑化、コスト削減となる。そのためには、無電解メッキ液の根本的な見直しが必要であり、基板の表面に電子移動のできるアニオン電子イオンを定着し、続いて金属イオン又は金属カチオンを含有する化合物でできており、且つ(OH)の発生を抑える溶液とすることである。これらの無電解メッキ液中の化合物の金属は還元されて溶液中での触媒核金属の反応は0価状態の原子の形で基板表面に付着する。そのためには非水エッチング溶液とすることである。非水エッチング溶液は有機化合物であるメチルアルコール、エチルアルコールなどのアルコールやアセトンが主体であり、従来の無電解メッキ液のように水(H2O)が主力液でない。そのため例えば、アルコール中に元来含有されている2〜3wtwt%の水分だけが酸化作用を及ぼすだけであり、エッチング工程を経ずして容易にガラス表面に触媒核金属Pdを定着させることが可能となった。
【0041】
ガラスの平均表面粗さRaはメッキの付着性や精度の観点から、0.0010〜0.10μmである必要がある。0.0010μmより小さいと付着力が弱く、0.10より大きいと回路パタニングの精度が低下する。本発明では、エッチング工程は不要であり、アクチュベーティング後にガラスを液体フラックスに浸漬したり液体フラックスを塗布したりすることにより、ガラスの平均表面粗さRaは0.0005μm以下であり且つ無電解メッキの付着力は強固となる。無電解メッキでガラスに銅メッキやニッケルメッキを施した後テープによる剥離テストでは全く剥離が見られなかった。
【0042】
本発明の最大の特徴は、非水メッキ液として液体フラックスを応用していることである。エッチング処理しなくても液体フラックスの触媒作用で触媒核金属パラジウムをガラスに付着させることができる。液体フラックス中に最大40wt%の化学還元剤を溶解し、この中に還元金属をイオン状態にして1〜3wt%を溶解させている。ガラスエッチングとガラスへの触媒核金属付着を同時進行で処理するために、液体フラックスにエッチング機能を有するF原子と触媒核金属であるPdやSnを活性化するFやPやB原子が溶解している。このため、エッチングと触媒核金属PdやSnの活性化という二つの役割を同時に果たすことができる。即ち、Fはエッチング機能とPやSnの活性化機能の両方を併せ持っているのである。
【0043】
本発明は、従来のガラスへの無電解メッキの前処理工程において、アクチュベーティング後に液体フラックスに浸漬もしくは液体フラックスを塗布する工程を付加することによりエッチング処理を省略したものである。以下に液体フラックスを使用した無電解Ni−Pメッキの実施例を示す。
【0044】
液体フラックスは以下の様に生成した。メチルアルコールは300〜400g、ホウ砂は30〜80g、テトラフルオロホウ酸は濃度42wt%を80〜120g、トリメチルホスフェートは濃度20wt%を20〜50g、を10〜60g、テトラフルホロケイ酸は濃度40wt%を20〜50g、トリメトキシボランは濃度70wt%を80〜120g混合して液体フラックス製造装置に投与した。液体フラックス製造装置のネオジ磁石による磁界は30万ガウスである。通常磁界は30〜90万ガウスがよい。電圧24Vで10〜20Aの電流を流すとともに1回/5秒ごとに電極の+と−を切り替えてパルス電流を流しながら撹拌し完全に溶解させて液体フラックスを生成する。この液体フラックスの濃度は30wt%、PH1である。通常液体フラックスの濃度は20〜40wt%に調整するのがよい。30wt%前後が好適である。この液体フラックスの具体的な成分例が表1である。
表1 液体フラックス成分
【0045】
ガラスはソーダガラス(珪砂:70wt%、ソーダ灰:15wt%、石灰:10wt%)を使用した。工程は以下である。第1ステップとして通常の前処理を実施した。(1)60℃のKOH液(100g/L)に5分間浸漬。(2)室温で硫酸(100g/L)にて1分間中和。(3)室温で酸性フッ化アンチモン(F5Sb)(100g/L)で5分間エッチング。(4)60℃で過マンガン酸カリウム(50g/L)、NaOH(25g/L)にてエッチング。(5)室温で硫酸ヒドロキシルアンモン(10g/L)、硫酸(g/L)にて3分間中和・還元。(6)クリーナコンディショナー(50g/L、メーカー名:ダインクリーナー810)でコンディショニング。(7)室温で塩化スズ(Sn10g/L、塩酸3mL/L)にて3分間センシタイジング。(8)室温で塩化パラジウム(Pd0.5g/L、塩酸1mL/L)にて1分間アクチベーティング。第2ステップとして、ガラスを液体フラックスに1分間浸漬した。この後、ガラスを無電解Ni−Pメッキ液に浸してメッキした。ガラス上に形成したニッケルメッキにテープを張り付け、剥離試験をしたところニッケルメッキは全く剥離しなかった。
【0046】
このように本発明はガラス表面にアニオン性還元剤を連続的に供給し、エッチング作用とアニオン性還元剤よりメッキ物体の表面に(−)電位イオンとカチオン(+)との電位差により同時に両方の作業をすることが最大の特徴であるが、エッチング液は強酸でありガラス表面上は酸化されている。そのため酸化金属イオンの付着は困難である。カチオン金属錯体を無酸化状態でアニオン側に引き渡すためゼロ酸化状態のカチオンを生む必要がある。これが水素化ホウ酸ナトリウム反応でありホルマリン反応であり、リン酸(H3PO3)反応であり、次亜リン酸ソーダ反応であり、ヒドラジン反応であり、ヒドラジンと次亜塩素酸ソーダの相互の瞬時反応である。各反応の式が相互に関連して瞬間的に無酸化金属イオンを生み出している。6種類の還元反応式が生まれる理由である。ゼロ酸化状態のカチオンとして金属錯体を還元することでエッチングと触媒核の付着が同時に完了できる方法である。
【0047】
無電解Ni−Pメッキを例にとり液体フラックスの反応を説明する。(1)液体フラックスの主たる溶媒であるメチルアルコール(CH3OH)はホルマリン(CH2O)に生まれ変わり強力な還元剤となる。CH3OH→HCHO(ホルマリン)+H2↑。分解中に過度的にOH(水酸基)が生まれるため強力な−触媒と酸化反応の熱を生む。OHは電離し+と−の橋渡しをする。ホルマリンは強力な還元剤であり、キレート反応によりNiの錯体を形成する。(2)テトラフルオロホウ酸(HBF4)は水素と反応し3ホウフッ化水素酸(H3BF4)となり触媒反応液となる。HBF4+H2→H3BF4。(3)過飽和ヘキサフルホロケイ酸(H2SiF6)は水と反応し強力な還元剤であるフッ化水素(HF)を発生する。H2SiF6+2H2O→SiO2+6HF+H2。(4)ホウ砂とトリメチルホスフェートの反応から次亜リン酸ソーダが形成され強力な触媒となる。又、次亜リン酸ソーダが水酸化ナトリウムと反応することによりホウ酸が生じ触媒となる。Na2B4O7・10H2O+H3PO3→NaH2PO2・H2O(次亜リン酸ソーダ)+NaOH。ホウ砂は次亜リン酸ソーダを作る主役でありかつ過剰エッチングを防ぐ役目もある。(5)トリメトキシボランとリン酸の反応で、Hが反応し次亜リン酸ソーダが生じ触媒となる。トリメチルホスフェート(P(OCH3))は常にPの補給とリン酸としての触媒ともなる。(6)テトラフルオロホウ酸やテトラフルホロケイ酸はメッキ液に連続的にBやSiを供給する。BやSiは無電解メッキの金属付着のための核の役割をする。
【0048】
上述したように、メチルアルコール(CH3OH)はホルマリン(CH2O)に生まれ変わり強力な還元剤となり、無電解Ni−Pメッキ液に浸漬したときにキレート反応によりNiの錯体を形成する。この時生成するOHは電離し+と−の橋渡しをする。又、テトラフルオロホウ酸(HBF4)は水素と反応し3ホウフッ化水素酸(H3BF4)となり触媒反応液となる。さらに、過飽和テトラフルホロケイ酸(H2SiF6)は水と反応し強力な還元剤であるフッ化水素(HF)を発生し、ホウ砂とトリメチルホスフェートの反応から次亜リン酸ソーダが形成され強力な触媒となる。従来の無電解Ni−Pメッキの前処理ではエッチング工程が必要であったが、液体フラックスの反応過程でHFが生まれるのでエッチングが不要となる。
【0049】
従来の前処理工程は、(1)脱脂(KOHなどのアルカリに浸漬)→(2)中和(硫酸など)→(3)一次エッチング(酸性フッ化アンモンなど)→(4)2次エッチング(過マンガン酸カリウムなど)→(5)中和・還元(硫酸ヒドロキシルアンモンなど)→(6)コンディショニング→(7)センシタイジング(塩化スズ(SnCL2))→(8)アクチュベーティング(塩化パラジウム)である。液体フラックスに浸漬もしくは液体フラックスを塗布することで前処理工程は次のようになる。(1)脱脂(KOHなどのアルカリに浸漬)→(2)中和(硫酸など)→(3)中和・還元(硫酸ヒドロキシルアンモンなど)→(4)コンディショニング→(5)センシタイジング(塩化スズ(SnCL2))→(6)アクチュベーティング(塩化パラジウム)→(7)液体フラックスに浸漬もしくは液体フラックス塗布である。前処理工程において、塩化パラジウムによるアクチュベーティング後、液体フラックスに浸漬もしくは液体フラックス塗布することによりエッチング処理が不要となる。
【0050】
メッキ液中では、イオン化電子順位よりガラスは常に−となり無電解Ni−Pは常に+である。Ni−P無電解溶液中に液体フラックスに浸漬もしくは液体フラックス塗布したガラスを入れるとガラス上に付着している液体フラックス成分やパラジウムの電位バランスが激しく崩れる。主力となるメチルアルコールが無電解液のNiを酸化ニッケルとして析出した際に発生する強力な水酸基(5OH)がガラスの表面でフッ化水素を生じる。5OH+F→HF+2H2O+3O(+)。発生したフッ化水素でガラスの表面は瞬間的にごくわずかエッチングされ、強力な酸化膜がはぎ取られた瞬間に、メッキ液に電離していた電子がガラス表面に吸着し、この電子がNiイオンを強力にひきつけることにより触媒核金属であるパラジウムの上にNiメッキができるのである。従来はエッチングの後にアクチュベーティングしていたがために触媒核であるパラジウムの付着力が弱かった。本発明ではアクチュベーティングとエッチングを同時の行うものである。従来の無電解メッキに必要とする次亜リン酸ソーダ(NaH2PO2・H2O)も、ホウ砂とトリメチルホスフェートの反応及びトリメトキシボランとリン酸の反応から生まれる。ガラスの主成分はNa、Caなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属である。無電解Ni−Pメッキにおいて、次亜リン酸ソーダ(NaH2PO2・H2O)はNi置換の最大の還元剤である。HF(フッ化水素)によるガラス表面エッチング作用で、ガラス表面のNaイオンが溶けるとHFのFの方がNaより−となるためNaが抜けた後に(イオン原子として逃げ出す)入り、瞬間的にHがH2Oと反応し、H2O+H→H2↑+OH(水酸基)、OHがNiイオンをガラス表面に静電引力で引き付けてNiメッキができる。又、液体フラックスの主成分であるメタノール(CH3OH)はOHの供給源として豊富に存在し、ホルマリン(CH2O)生成の基となる。ガラス主成分のNaが一番に電離し、その空間にHFのFが入ろうとする。HFの基になるのが液体フラックスに溶解しているHBF4やH2SiF6であり、Fの分離につれてBやSiが連続的にメッキ浴に供給される。液体フラックスは強酸であるが、HF中のHとFが再分離ガスとなって消費されるためNi−P無電解メッキ液の還元剤としての役目を果たす。
【0051】
液体フラックスはメッキで還元剤として作用しているが、最大の機能は金属イオンの分離結合である。大気中に酸素があるかぎり還元剤は水中でも大気中でも必要である。Ni−P無電解メッキはあらゆるメッキの下地メッキである。液体フラックスはメッキ浴の中に各種元素を安定して溶解していることから触媒としての連鎖反応を連続的にしかも可逆的に発生させている。メッキ液中ではガラスが(−)となるため次亜リン酸ソーダ(+)はガラスに引き付けられる。メッキ液のアルコールは反応してホルマリン(CH2O)生成する。ホルマリンの還元作用でNiイオンが析出して無電解メッキができているのである。ホウフッ化水素酸(H2BF4)→水素化ホウ素ナトリウム(NaHBF4)としたほうが次亜リン酸ソーダになりやすい。2NaF+2H2BF4→2NaHBF4+2HF。水素化ホウ素ナトリウム(NaHBF4)は化学反応式からわかるように容易に生成することができる。溶接、切断、メッキにおける液体フラックスの共通点は金属イオンの分離もしくは結合である。当然ながら関与してくる元素や薬品は共通的なものになり、液体フラックスの中に無電解メッキに必要な元素はすべて含有させることが可能である。
【0052】
第3の解決手段は特許請求項3に示すように、第3の解決手段は特許請求項3に示すように、前記液体フラックスは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Li、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnの原子の内、少なくとも2種類以上の原子が結合してできている電解質を、磁場をかけた容器に充填した有機化合物からなる溶媒に入れ、該溶媒を攪拌しながら電流を流して溶解し、生成したものであることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0053】
有機化合物からななる溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2,3−プロパントリオール(グリセリン)、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、イソプロパノール、1−ドデカノール、エーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ホルムアルデイド、アセトアルデイド、アンモニア、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、クロルベンゼン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、アセトニトリル、ギ酸、酢酸、トリフルオル酢酸、ピロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、シュウ酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸などがある。
【0054】
液体フラックスは、有機化合物からなる溶媒に電化質を溶解したものであり、基本的に水分を含有していない。アルコールなどは2〜3%の水分を含んでいるが微量であり、無電解メッキ前処理液の機能としては無視できる量である。アクチュベーティング後のガラスを、水を主成分とする処理液に浸漬するとH2Oが分解し活性酸素と水酸基に分解し、活性酸素が触媒核のパラジウムやガラス面を酸化する。このため無電解メッキ工程でNiやCuが載りにくくなる問題があった。液体フラックスはほとんど水分を含んでいないので活性酸素の発生は微量であり、反対にFが瞬間的にガラス表面を洗浄しPdをガラス面に強固に張り付けるとともに、PやBが触媒核であるPdに張り付くのでNiやCuが載りやすくなる。このため、無電解メッキ後にテープ剥離試験をしてもメッキが剥がれることがないのである。
【0055】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、B、C、N、O、Si、P、S、Zn、Se、Ni、Cu、Cr、Sn、Pd、Bi、W、Mo、Nb、Mnを含む電解質には下記のものがある。
【0056】
液体フラックスにB(ホウ素)を含有させる場合は、ホウ化物を溶媒に溶解する。ホウ化物はホウ素とそれより電気陰性度が小さい元素との間の電解質(化合物)の総称である。例えば、ホウ酸(H3BO3)、ホウ砂(Na2B4O7、酸化ホウ素(B2OB)、ホウ酸カリウム(K2B4O7)、ホウ酸トリメチル((CH3O)3B)、ホウフッ化水素酸(HBF4)、ホウフッ化アンモニウム(NH4BF4)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)などがある。
【0057】
液体フラックスにF(フッ素)を含有させる場合は、フッ化物を溶媒に溶解する。フッ化物は例えば、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、三フッ化ホウ素(BF3)、四フッ化珪素(SiF4)、酸性フッ化ナトリウム(NaHF2)、ホウフッ化カリウム(KBF4)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)、ホウフッ化アンモニウム(NH4BF4)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)、ケイフッ化カリウム(K2SiF6)、フッ化アルミナトリウム(液晶石、Na3ALF6)、フッ化アルミカリウム(カリ永晶石、K3ALF6)、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)、酸性フッ化カリウム(KHF2)、ケイフッ化ナトリウム(NaHF6)、ケイフッ化ナトリウム(NaHF6)などがある。フッ化物とホウ化物の共通の化合物であるホウフッ化カリウム(KBF4)やホウフッ化ナトリウム(NaBF4)は液体フラックスの生成にとって優れた電化質である。
【0058】
塩化物(クロライド)、臭化物(ブロマイド)、酸化物(オキサイド)、無機類、有機酸類、アミン・アミド類、有機ハロゲン類などの電解質も使用できる。塩化物としては塩化水素酸(HCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化亜鉛(ZnCl)、塩化アンモニウム(NH4Cl)などがある。臭化物としては臭化水素酸(HBr)、臭化カリウム(KBr)などがある。酸化物としては酸化カリウム(K2O)、酸化ホウ素(B2O3)などがある。
【0059】
第4の解決手段は特許請求項4に示すように、請求項3記載の前記容器20は、非磁性体からなり、複数のネオジ磁石40を配設した円筒30の内側に、マイナス電極50aとプラス電極50bとモーター63と撹拌棒61と前記ネオジ磁石40が取り付けられた撹拌羽根62が内装されており、前記マイナス電極50aと前記プラス電極50bに電流を流しながら、前記撹拌羽根62で容器20内を撹拌して、前記有機溶媒中の前記電解質を溶解するものであることを特徴とするガラスの無電解メッキ方法である。
【0060】
円筒30には3000ガウス/個の磁力を有するネオジ磁石を100〜300個配設して30〜90万ガウスの磁界を発生させる。ネオジ磁石は円筒の側面及び底部の内側や外側に配設できる。円筒30及び容器20の材質はSUS304、アルミニウム、チタン、銅、樹脂などの非磁性体がよい。撹拌装置60はモーター63、撹拌棒61、撹拌羽根62から構成されている。撹拌羽根の回転数は30〜180rpmである。撹拌羽根にもネオジ磁石40を取り付けることにより電化質の溶解を速めることができる。容器には電極50を挿入し、24Vで10〜20Aの電流を流す。マイナス電極50aとプラス電極50bの−と+を切り替えてパルス電流を流してもよい。撹拌装置を搭載している架台80は昇降装置70で昇降自在しておくと容器20の取り出しが容易である。
【符号の説明】
【0061】
10:液体フラックス製造装置
20:容器
30:円筒
40:ネオジ磁石
50:通電用電極
50a:マイナス電極
50b:プラス電極
60:撹拌装置
61:撹拌棒
62:撹拌羽根
63:モーター
70:昇降装置
80:架台
90:液体フラックス
図1