(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111471
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20170403BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/68
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-166116(P2013-166116)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-33928(P2015-33928A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 佳哉
(72)【発明者】
【氏名】藤本 将志
【審査官】
小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第2004/007238(JP,A1)
【文献】
特開平11−266961(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0179477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 −2/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フレームと、金属製の左右のサイドフレームと、から構成されており、左右のサイドフレームが樹脂フレームに対してインサート成形されて成るクッションフレームを備えており、クッションフレームが乗物フロア側のベース部材に対して支持軸と、支持軸の前側において支持軸以外のもう1点の別部材とによって乗物フロア側のベース部材に対して組み付けられている乗物用シートであって、
サイドフレームには、走行中の乗物に前突が発生したとき、着座者からの大荷重によって略く字状の屈曲の折れ曲がり部位を成すビードが形成されており、
樹脂フレームの側面には、サイドフレームのビードが樹脂フレームから露出するように切欠が形成されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
左右のサイドフレームの上側は、樹脂フレームに覆われた状態にインサート成形されており、
ビードは、サイドフレームの下側に形成されており、
切欠は、樹脂フレームの下側に形成されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の乗物用シートであって、
樹脂フレームの着座面は、サイドフレームのビードに対応する位置が肉薄状に形成されていることを特徴とする乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関し、詳しくは、クッションフレームが乗物フロア側のベース部材に対して支持軸と、この支持軸以外のもう1点の別部材とによって乗物フロア側のベース部材に対して組み付けられている乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の乗物には、乗員が着座可能なシートが設けられている。例えば、車両がミニバン等の自動車の場合、その2列目のシート(車両用シート)は、各種のアレンジができるように構成されている。ここで、下記特許文献1には、チップアップといったアレンジができるシートが開示されている。これにより、シートバックに対向するようにシートクッションを跳ね上げるといったアレンジができるため、この跳ね上げ状態のままシートをスライド機構によって車両の前側または車両の後側にスライドさせることができる。したがって、自動車内の荷室スペースを広く確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−35390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に示すチップアップの技術では、例えば、
図5〜7に示すように、クッションフレーム102aの左右のサイドフレーム112、112がチップアップの回転軸b1と、スライド機構120のアッパレール124に組み付けられているボス124aとによってスライド機構120のアッパレール124に対して組み付けられている(支持されている)。このとき、シート101を軽量化するために、例えば、クッションフレーム102aの一部が樹脂で形成されている場合、すなわち、クッションフレーム102aが樹脂フレーム110と、この樹脂フレーム110にインサートされている(インサート成形されている)金属製の左右のサイドフレーム112、112とから形成されている場合、走行中の車両に前突が発生すると、この前突による着座者からの大荷重がシートクッション102の前側に作用するため、樹脂フレーム110がボス124aを支点にシーソー姿勢(樹脂フレーム110の前側が下を向く姿勢になると共に、樹脂フレーム110の後側が上を向く姿勢)になってしまっていた。これにより、樹脂フレーム110が破損してしまうという問題が発生していた(
図8参照)。この問題を解決するために、樹脂フレーム110に肉抜き等を施すことなく強固に形成することが考えられた。しかしながら、この考えでは、樹脂フレーム110の重量が増加してしまうため、シート101の軽量化を図ることができなかった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、走行中の乗物に前突が発生したとき、この前突による着座者からの大荷重が樹脂フレームのシートクッションの前側に作用しても、シートクッションの樹脂フレームを強固に形成することなく、この大荷重を耐え得ることができる乗物用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。請求項1に記載の発明は、樹脂フレームと、金属製の左右のサイドフレームと、から構成されており、左右のサイドフレームが樹脂フレームに対してインサート成形されて成るクッションフレームを備えており、クッションフレームが乗物フロア側のベース部材に対して支持軸と、支持軸の前側において支持軸以外のもう1点の別部材とによって乗物フロア側のベース部材に対して組み付けられている乗物用シートであって、サイドフレームには、走行中の乗物に前突が発生したとき、着座者からの大荷重によって略く字状の屈曲の折れ曲がり部位を成すビードが形成されて
おり、樹脂フレームの側面には、サイドフレームのビードが樹脂フレームから露出するように切欠が形成されていることを特徴とする構成である。
この構成によれば、走行中の乗物に前突が発生すると、この前突による着座者からの大荷重がシートクッションの前側に作用する。すると、この前側に作用した大荷重によってサイドフレームが略く字状に変形していく。この変形により、この前側に作用した大荷重を吸収できるため、従来技術とは異なり、樹脂フレームが破損してしまうことがない。したがって、樹脂フレームを強固に形成することなく、この大荷重を耐え得ることができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の乗物用シートであって、
左右のサイドフレームの上側は、樹脂フレームに覆われた状態にインサート成形されており、ビードは、サイドフレームの下側に形成されており、切欠は、樹脂フレームの下側に形成されていることを特徴とする構成である。
この構成によれば、
樹脂フレームを強固に形成することなく、着座者からの大荷重を耐え得ることができるといった効果を樹脂フレームの上側である着座面側に影響を与えることなく得ることができる。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の乗物用シートであって、樹脂フレームの着座面は、サイドフレームのビードに対応する位置が肉薄状に形成(肉薄部が形成)されていることを特徴とする構成である。
この構成によれば、請求項2に記載したように樹脂フレームが略く字状に変形していくとき、この肉薄部がヒンジ作用を成すこととなる。したがって、サイドフレームの変形に樹脂フレームが追従するとき、この追従性を高めることができる。結果として、サイドフレームが変形しても、樹脂フレームが破断してしまうことを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例に係る車両用シートのシートクッションの内部のフレームの構造を示す分解斜視図である。
【
図4】
図3において、走行中の車両に前突が生じた状態を示す図である。
【
図5】従来技術に係る車両用シートのシートクッションの内部のフレームの構造を示す分解斜視図である。
【
図8】
図7において、走行中の車両に前突が生じた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1〜4を用いて説明する。なお、以下の説明にあたって、『乗物用シート』の例として、『車両用シート1』を説明することとする。また、以下の説明にあたって、上、下、前、後、左、右とは、上述した図に記載した、上、下、前、後、左、右の方向、すなわち、車両(図示しない)に車両用シート1を組み付けた状態を基準にしたときの上、下、前、後、左、右の方向を示している。
【0011】
はじめに、
図1〜3を参照して、車両用シート1の構成を説明する。この車両用シート1は、例えば、ミニバン等の自動車の2列目のシートであり、シートクッション2とシートバック(図示しない)とから構成されている。なお、この車両用シート1は、チップアップ(シートバック(図示しない)に対してシートクッション2を向かい合うように跳ね上げるアレンジ)可能に構成されている。
【0012】
これらシートクッション2とシートバック(図示しない)のうち、シートクッション2について詳述する。なお、シートバック(図示しない)は、公知のものでよいため、その詳細な説明は省略することとする。シートクッション2は、クッションフレーム2aと、このクッションフレーム2aに対して包着状に組み付けられる公知のシートクッションパッド(図示しない)と、このシートクッションパッドの表面をカバーリングする公知のシートクッションカバー(図示しない)とから構成されている。
【0013】
なお、
図1〜4では、本発明の主要部であるシートクッション2の内部のフレームの構造を見易くするために、シートクッションパッドとシートクッションカバーとの図示を省略している。クッションフレーム2aは、その骨格を成すように剛性を有する合成樹脂によって一体形成された樹脂フレーム10と、この樹脂フレーム10の左右の両サイドにインサートされている(インサート成形されている)金属製のサイドフレーム12、12とから構成されている。
【0014】
なお、このようにインサート成形であるため、
図1のように、樹脂フレーム10に対して左右のサイドフレーム12、12が独立して存在することは有り得ない。しかし、シートクッション2の内部のフレームの構造を分かり易くするために、あえて、
図1のように、樹脂フレーム10に対して左右のサイドフレーム12、12が独立して存在しているように図示している。
【0015】
樹脂フレーム10は、軽量化するために、その底面側が大きく肉抜きされている。もちろん、大きく肉抜きされていても必要な剛性を確保するために、この肉抜きされた凹面には、適宜の間隔で複数(この例では、6枚)のリブ10aが形成されている。また、樹脂フレーム10の左右の側面には、左右のサイドフレーム12、12の後述する各ビード12a、12aが樹脂フレーム10から露出するように切欠10b、10bが形成されている。すなわち、各ビード12a、12aと各切欠10b、10bとは対応する位置に形成されている。
【0016】
また、樹脂フレーム10の着座面は、左右のサイドフレーム12、12の各ビード12a、12aに対応する位置が肉薄状(肉薄部10c)に形成されている。一方、左右のサイドフレーム12、12には、走行中の車両(図示しない)に前突が発生したとき、着座者(図示しない)からの大荷重によって略く字状の屈曲の折れ曲がり部位を成すビード12a、12aが形成されている。すなわち、このビード12aにより、走行中の車両(図示しない)に前突が発生すると、着座者からの大荷重によりサイドフレーム12が略く字状に折り曲がることとなる。
【0017】
ここで、クッションフレーム2aに対する左右のロアアーム30、30の組み付け構造を説明する。なお、この組み付け構造は、左右に対象であるため、左側の組み付け構造を説明することで右側の組み付け構造の説明を省略することとする。クッションフレーム2aの左側面の後側と左のロアアーム30とは、クッションフレーム2aと左のロアアーム30とが相対回転可能に段付ボルトB1を介して組み付けられている。
【0018】
この段付ボルトB1が、特許請求の範囲に記載の「支持軸」に相当する。これにより、左のロアアーム30に対してクッションフレーム2aを回転させることができる。すなわち、シートバック(図示しない)に対してシートクッション2を向かい合うように跳ね上げるといったチップアップのアレンジができる。なお、左のロアアーム30は、ロアレール22とアッパレール24とから構成されるスライド機構20の左のアッパレール24に締結されているブラケット26にビスB2、B2を介して固着されている。
【0019】
この左のアッパレール24には、着座可能な状態のシートクッション2(サイドフレーム12)を支持可能なボス24aが固着されている。このボス24aが、特許請求の範囲に記載の「別部材」に相当する。また、左右のロアアーム30、30と左右のアッパレール24、24とが、特許請求の範囲に記載の「ベース部材」に相当する。車両用シート1は、このように構成されている。
【0020】
続いて、車両用シート1の作用を説明する。走行中の車両に前突が発生すると、この前突による着座者からの大荷重がシートクッション2の前側に作用するため、従来技術で説明したように、樹脂フレーム10がボス24aを支点にシーソー姿勢(樹脂フレーム10の前側が下を向く姿勢になると共に、樹脂フレーム10の後側が上を向く姿勢)になっていく。すると、左右のサイドフレーム12、12の各ビード12a、12aが略く字状の屈曲の折れ曲がり部位と成るように、左右のサイドフレーム12、12が略く字状に変形していく(
図4参照)。このとき、この変形に追従する格好で、樹脂フレーム10も切欠10b、10bを屈曲部位とする略く字状に変形していく。
【0021】
本発明の実施例に係る車両用シート1は、上述したように構成されている。この構成によれば、樹脂フレーム10にインサートされている左右のサイドフレーム12、12には、走行中の車両(図示しない)に前突が発生したとき、着座者(図示しない)からの大荷重によって略く字状の屈曲の折れ曲がり部位を成すビード12a、12aが形成されている。そのため、前突による着座者からの大荷重がシートクッション2の前側に作用すると、この前側に作用した大荷重によって左右のサイドフレーム12、12が略く字状に変形していく(
図4参照)。この変形により、この前側に作用した大荷重を吸収できるため、従来技術とは異なり、樹脂フレーム10が破損してしまうことがない。したがって、樹脂フレーム10を強固に形成することなく、この大荷重を耐え得ることができる。
【0022】
また、この構成によれば、樹脂フレーム10の左右の側面には、左右のサイドフレーム12、12の後述する各ビード12a、12aが樹脂フレーム10から露出するように切欠10b、10bが形成されている。そのため、樹脂フレーム10にインサートされている左右のサイドフレーム12、12が略く字状に変形すると、この変形に追従するように樹脂フレーム10も切欠10b、10を介して略く字状に変形していく。したがって、左右のサイドフレーム12、12が変形しても、樹脂フレーム10が破断してしまうことを防止できる。
【0023】
また、この構成によれば、樹脂フレーム10の着座面は、左右のサイドフレーム12、12の各ビード12a、12aに対応する位置が肉薄状(肉薄部10c)に形成されている。そのため、上述したように樹脂フレーム10が略く字状に変形していくとき、この肉薄部10cがヒンジ作用を成すこととなる。したがって、左右のサイドフレーム12、12の変形に樹脂フレーム10が追従するとき、この追従性を高めることができる。結果として、左右のサイドフレーム12、12が変形しても、樹脂フレーム10が破断してしまうことを確実に防止できる。
【0024】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、『乗物用シート』の例として、『車両用シート1』を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、『乗物用シート』は、各種の乗物のシート、例えば、『船舶のシート』、『飛行機のシート』、『鉄道車両のシート』等であっても構わない。
【0025】
また、実施例では、車両用シート1は、チップアップ可能に構成されている形態を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、チップアップ不可能に構成されていても構わない。すなわち、車両用シート1の左右のサイドフレーム12が、車両フロア側のベース部材に対して支持軸と、この支持軸以外のもう1点の別部材とによって車両フロア側のベース部材に対して組み付けられていればよい。
【0026】
また、実施例では、『乗物フロア側のベース部材』の例として、『アッパレール24と、このアッパレール24に固着されているロアアーム30』を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、『乗物フロア側のベース部材』は、『乗物フロアそのもの』であっても構わない。
【符号の説明】
【0027】
1 車両用シート(乗物用シート)
2a クッションフレーム
10 樹脂フレーム
10b 切欠
10c 肉薄部
12 サイドフレーム
12a ビード
24 アッパレール(ベース部材)
30 ロアアーム(ベース部材)