(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1バンクおよび第2バンクは、ハーフトーンマスク、グレイトーンマスクまたはスリットマスクのうちいずれかを用いたフォトリソグラフィー法により形成されたものである、
請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の一態様を得るに至った経緯]
有機EL装置の機能層の形成方法として、バンク層に設けられた開口に、有機材料インクを塗布および乾燥する塗布法が典型的である。本願発明者らは、塗布法により機能層が形成された有機EL装置の発光効率を向上させるため、有機EL装置の構造と発光効率との関係を検討した。
【0010】
塗布法において用いられるバンク層の開口は、有機材料のインクを保持するため、典型的にはテーパー形状である。すなわち、バンク層の開口に面した側面は斜面である。また、その斜面と基板の上面とのなす角度は、バンク層の開口に面したいずれの領域においても同一であることが典型的である。
【0011】
なお、バンク層の斜面の形状は、典型的には完全な平坦面ではない。例えば、バンク層の斜面の高さ方向の低い位置では曲面であり、バンク層の斜面の中央位置では平坦面であり、バンク層の斜面の高い位置では曲面である。そこで、「バンク層の斜面と基板の上面とのなす角度」とは、バンク層の斜面の高さ方向の中央位置における平坦面で測定したものとする。
【0012】
また、細長い形状のサブ画素領域を形成するため、バンク層の開口を細長い形状とする。ここで、バンク層の一部であって、機能層の短手方向の両側に位置し、長手方向に沿って延びる部分を「第1バンク」とする。また、機能層の長手方向の両側に位置し、短手方向に沿って延びる部分を「第2バンク」とする。
【0013】
本願発明者らは、このような細長い形状のバンク層の開口に、塗布法により機能層を形成した有機EL装置について検討を行った。その結果、第1バンク近傍における機能層の端部の厚みが大きくなり、第2バンク近傍における機能層の端部の厚みが小さくなる、という新たな知見を得た。本願発明者らは、この原因についてさらに検討を行った。
【0014】
バンク層の細長い開口にインクを塗布すると、インクの液体内部に働く表面張力により、インクは球状になりやすい。また、典型的には、バンク層の開口にインクを塗布する際、開口の中央部にインクを塗布する。このような場合、塗布されたインクは、先に第1バンクに到達し、その後第2バンクに到達する。第1バンクに到達してから第2バンクに到達する期間に、インクに含まれる溶媒が蒸発する。このため、第1バンク近傍のインクのピニング位置は、第2バンク近傍のインクのピニング位置よりも高くなる。その結果、第1バンク近傍における機能層の端部の厚みは、第2バンク近傍における機能層の端部の厚みよりも大きくなる。なお、「インクのピニング位置」とは、インクが第1バンクの斜面に到達してからインクの溶媒の乾燥が完了するまでの期間において、第1バンクおよび第2バンクの斜面とインクとが接触する部分のうち、最上点の位置をいう。
【0015】
これに対し、本願発明者らは、塗布されたインクが第1バンクおよび第2バンクに到達するまでの時間を制御することで、これらの機能層の端部の厚みの差を低減することを考えた。例えば、塗布されたインクが第1バンクおよび第2バンクに到達するまでの時間を制御するには、バンク層に設けられる開口の、短手方向と長手方向との比率を変化させることが考えられる。しかしながら、有機EL装置は、一定の面積の発光領域を備える必要があるため、これを実現することは困難である。そこで、第1バンクの斜面と基板の上面とのなす角度と、第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度に着目した。本開示の態様は、このような経緯により得られたものである。
【0016】
上記説明したように、平面視において細長い形状を有する機能層を塗布法で形成すると、第1バンク近傍の機能層の端部の厚みと、第2バンク近傍の機能層の端部の厚みとに差ができることがある。その場合、例えば、有機EL装置の発光効率および発光寿命が劣化するおそれがある。これは、例えば、機能層のうち厚みが小さい部分に電流が集中するために生じる。
【0017】
本開示の一態様は、平面視において細長い形状を有する機能層を塗布法で形成した場合でも、第1バンクの近傍における機能層の端部の厚みと、第2バンクの近傍における機能層の端部の厚みとの差を低減した有機EL装置を提供する。
【0018】
そこで、本開示の一態様に係る有機EL装置では、機能層の長手方向の両側にそれぞれ設けられた第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度θ2が、機能層の短手方向の両側にそれぞれ設けられた第1バンクの基板の上面とのなす角度θ1よりも大きい。
【0019】
これにより、平面視において細長い形状を有する機能層を塗布法で形成した場合でも、第1バンクの近傍における機能層の端部の厚みと、第2バンクの近傍における機能層の端部の厚みとの差を低減できる。
【0020】
以下、実施の一態様の有機EL装置を説明する。続いて、実施の一態様の各性能確認実験の結果と考察を述べる。なお、各図面における部材縮尺は、実際のもとは異なる。
【0021】
[実施の一態様の概要]
本開示の一態様に係る有機EL装置は、基板と、前記基板上に設けられ、平面視において細長い形状を有する開口が設けられたバンク層と、前記開口内に設けられ、平面視において細長い形状を有し、有機材料を含む機能層と、を備え、前記バンク層は、前記機能層の短手方向の両側にそれぞれ位置し前記機能層の長手方向に沿って延びる第1バンクと、前記機能層の長手方向の両側にそれぞれ位置し前記機能層の短手方向に沿って延びる第2バンクとを有し、前記第1バンクおよび第2バンクの前記機能層を囲む開口内壁面は、斜面により構成され、前記第2バンクの斜面と前記基板の上面とのなす角度θ2は、前記第1バンクの斜面と前記基板の上面とのなす角度θ1よりも大きい。
【0022】
また、前記有機EL装置において、前記角度θ1と前記角度θ2とは、
【0025】
また、前記有機EL装置において、前記第1バンク近傍の前記機能層の端部における厚みがT
1(nm)であるとき、前記角度θ1と前記角度θ2とは、
【0028】
また、前記有機EL装置において、前記機能層に含まれる有機材料は、ホール輸送性材料であってもよい。
【0029】
また、前記有機EL装置において、前記第1バンクおよび第2バンクは、ハーフトーンマスク、グレイトーンマスクまたはスリットマスクのうちいずれかを用いたフォトリソグラフィー法によりで形成されたものであってもよい。
【0030】
また、前記有機EL装置において、前記機能層は、前記有機材料を含むインクを塗布し乾燥して形成されたものであってもよい。
【0031】
[実施の形態]
<実施の形態1>
1.全体構成
図1〜
図3を用いて、有機EL装置の構成を説明する。
図1は、有機EL装置のバンク14の上面図である。
図2、
図3は、有機EL装置10の概略構成を示す。
図2は、
図1のA−A断面図である。
図3は、
図1のB−B断面図である。
【0032】
図1に示すように、バンク層14は、細長い形状の開口14cの長手方向に沿って延びる第1バンク14aと、短手方向に沿って延びる第2バンク14bとを有する。開口14cは、X方向に所定の間隔で配置されている。開口14cに機能層等が形成されることにより、サブ画素領域が構成される。隣接するサブ画素領域は、赤色(R)、青色(B)、緑色(G)に対応し、R、G、Bの3つのサブ画素領域を1組として1画素を構成している。なお、図示していないが、開口14cは、Y方向にも所定の間隔で配置されている。したがって、開口14cは、XY方向にマトリクス状に配置されているといえる。
【0033】
図2および
図3に示すように、有機EL装置10は、TFT基板11(以下、単に「基板11」と記載する。)と、反射陽極12と、第1バンク14aと、第2バンク14bと、ホール注入層13と、機能層15と、電子輸送層16と、陰極17と、封止層18とを備える。機能層15は、第1バンク14aおよび第2バンク14bに囲まれた開口14cに設けられる。また、機能層15は、ホール輸送層15aと有機発光層15bとを含む。なお、有機EL装置10は、複数のサブ画素領域21を有するが、これらの図では1つのサブ画素領域に対応する断面図を示す。
【0034】
反射陽極12は、基板11上に設けられる。
図1に戻って、第1バンク14aは、機能層15の短手方向の両側にそれぞれ設けられ、機能層15の長手方向に沿って延びる。第2バンク14bは、機能層15の長手方向の両側にそれぞれ設けられ、機能層15の短手方向に沿って延びる。ここで、機能層15の短手方向とは、
図1に図示したX方向をいう。また、長手方向とは、Y方向をいう。
【0035】
図2、
図3に戻って、反射陽極12および機能層15は、サブ画素領域21毎に個別に形成される。一方、ホール注入層13、電子輸送層16、陰極17および封止層18は、複数のサブ画素領域21に共通に形成される。なお、有機EL装置10において、反射陽極12は可視光を反射する導電性材料で構成し、陰極17は可視光を透過する導電性材料で構成する。これにより、有機EL装置10は、有機発光層15bで発生した光を基板11と反対側から取り出すトップエミッション型として駆動できる。なお、陰極17に接して、画素間に補助配線を設けてもよい。補助配線は、1画素毎に設けてもよく、数画素毎に設けてもよい。
【0036】
以下、有機EL装置10の各部構成を述べる。
【0037】
2.各部構成
[基板11]
基板11は、有機EL装置10の基材となる部分である。基板11は、基板本体部と、基板本体部の表面に設けられたTFT(薄膜トランジスタ)配線部とを有してもよい。基板本体部は、例えば、絶縁性材料で構成される。基板本体部の材料としては、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硝酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、アルミナ、有機樹脂フィルム等を用いることができる。
【0038】
[反射陽極12]
反射陽極12は、有機発光層15bにホールを供給するための電極である。平面視において、反射陽極12は細長い形状を有する。反射陽極12は、可視光を反射する導電性材料で構成される。そのため、反射陽極12は、有機発光層15bから反射陽極12に入射した光を、基板11と反対側に反射することができる。これにより、有機EL装置10の光の取り出し効率を向上できる。反射陽極12を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金材料、銀(Ag)、銀合金材料等を用いることができる。
【0039】
[ホール注入層13]
ホール注入層13は、反射陽極12上に設けられる。ホール注入層13は、有機発光層15b側へホールを注入する際のホール注入効率を向上させる。ホール注入層13は、例えば、遷移金属酸化物からなる透明な薄膜で構成される。ホール注入層13を構成する遷移金属酸化物としては、例えば、酸化タングステン(WO
x)、酸化モリブデン(MoO
x)等を用いることができる。また、トップエミッション構造の有機EL装置10では、ホール注入層13の材料として、可視光を透過する材料を用いることができる。ホール注入層13を、可視光を透過する材料で構成すれば、反射陽極12からの可視光の反射により発光効率を向上できる。
【0040】
[バンク層14]
バンク層14は、サブ画素領域21を区画する構造体である。バンク層14は、機能層15の短手方向の両側にそれぞれ位置し機能層15の長手方向に沿って延びる第1バンク14aを有する。また、バンク層14は、機能層15の長手方向の両側にそれぞれ位置し機能層15の短手方向に沿って延びる第2バンク14bを有する。
【0041】
第1バンク14aは、機能層15に面した斜面14a1を有する。第1バンク14aの斜面14a1と、基板11の上面とのなす角度θ1は、例えば、30.0°である。隣り合う第1バンク14aの間の距離(機能層15を間に挟んで隣り合う第1バンク14aの各端縁間の距離)は、例えば、64μmである。
【0042】
第2バンク14bは、機能層15に面した斜面14b1を有する。第2バンク14bの斜面14b1と、基板11の上面とのなす角度θ2は、θ1よりも大きく、例えば、48.0°である。隣り合う第2バンク14bの間の距離(機能層15を間に挟んで隣り合う第2バンク14bの各端縁間の距離)は、例えば、254μmである。
【0043】
なお、バンク層14の高さ(
図2または
図3におけるZ方向の高さ)は、例えば、1μmである。また、
図2、
図3および以降の図面において、各層の厚みおよび形状はあくまで模式的に示している。
【0044】
バンク層14は、例えば、撥液性を有し、且つ、透明な絶縁性材料からなる。さらに、バンク層14は、有機溶剤に対して耐性を有してもよい。加えて、バンク層14はエッチング処理、ベーク処理に対して耐性を有してもよい。バンク層14を構成する絶縁性材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等のネガ型感光性樹脂材料を用いることができる。
【0045】
[機能層15]
機能層15は、ホール輸送層15aと有機発光層15bとを含む。平面視において、機能層15は細長い形状を有する。機能層15の中央部の厚みT
0は、例えば、80nmである。
【0046】
ホール輸送層15aは、ホール注入層13と有機発光層15bとの間に設けられる。ホール輸送層15aは、有機発光層15b側へホールを輸送する際の輸送効率を向上させる。ホール輸送層15aは、例えば、高分子材料または低分子材料で構成される。高分子材料や低分子材料としては、例えば、フルオレン部位とトリアリールアミン部位を含む共重合体、または低分子量トリアリールアミン誘導体等のアミン系材料を用いることができる。
【0047】
有機発光層15bは、ホール輸送層15a上に設けられる。駆動時には、反射陽極12側から供給されるホールと、陰極17側から供給される電子とが、有機発光層15bにおいて再結合する。これにより、有機発光層15bが発光する。有機発光層15bは、赤色、緑色、青色に発光する有機発光材料で構成される。有機発光材料としては、例えば、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリパラフェニレンエチレン、ポリ3−ヘキシルチオフェンやこれらの誘導体などの高分子材料や、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質を用いることができる。
【0048】
[電子輸送層16]
電子輸送層16は、有機発光層15bと陰極17との間に設けられる。電子輸送層16は、有機発光層15b側へ電子を輸送する際の輸送効率を向上させる。電子輸送層16は、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属で構成される。電子輸送層16を構成するアルカリ金属やアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム(Na)、バリウム(Ba)等を用いることができる。
【0049】
[陰極17]
陰極17は、電子輸送層16上に設けられる。陰極17は、有機発光層15bに電子を供給する電極である。陰極17は、可視光を透過する導電性材料で構成される。可視光を透過する導電性材料としては、例えば、アルミニウム薄膜、アルミニウム合金薄膜、酸化インジウム(ITO)を用いることができる。
【0050】
[封止層18]
封止層18は、陰極17上に設けられる。封止層18は、水や空気等が有機発光層15bに侵入し、有機発光層15bが劣化することを抑制する。封止層18は、水や空気を通さない透明な絶縁性材料で構成される。水や空気を通さない透明な絶縁性材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、炭化ケイ素(SiC)、炭素含有酸化シリコン(SiOC)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等を用いることができる。
【0051】
3.製造方法
次に、有機EL装置10の製造方法を、
図4〜
図6のA−A断面図を用いて説明する。
【0052】
[基板準備ステップからバンク形成ステップまで]
図4(a)に示すように、基板11上に反射陽極12およびホール注入層13を形成する。具体的には、まず、基板11を準備する。次に、パターンマスクを介した真空蒸着法を用いて、基板11上に反射陽極12を形成する。続いて、真空蒸着法を用いて、基板11および反射陽極12上の全面にホール注入層13を形成する。
【0053】
図4(b)に示すように、ホール注入層13上に、バンク層14の材料であるレジスト層14Xを積層する。そして、その上方にパターンマスク30を配置する。さらに、
図4(c)に示すように、バンク層14を形成する。具体的には、ホール注入層13が形成された基板11上の全面に、ネガ型感光性材料で構成されるレジスト層14Xを一様に積層する。次に、レジスト層14Xの上方に、パターンマスク30を配置する。パターンマスク30は、光を全く透過しないマスク部30aと半透過膜部30bとからなる。半透過膜部30bは、第1バンク14aの斜面と基板11の上面とのなす角度θ1を実現するために透過率を変化させている。その後、パターンマスク30を介して、フォトリソグラフィー法に基づき露光を行う。さらに、現像処理を行うことで、開口14cを有するバンク層14が形成される。なお、図示していないが、B―B断面においても、パターンマスク30には、光を全く透過しないマスク部30aと半透過膜部30cとが設けられている。なお、B−B断面において、光透過膜部30cは、第2バンク14bの斜面と基板11の上面とのなす角度θ2を実現するために透過率を変化させている。
【0054】
なお、典型的には、半透過膜部30b、30cの透過率が大きいほど、レジスト層14Xのうち除去される部分の角度、すなわち(π−θ1)、(π−θ2)はより鈍角になる。よって、第1バンク14aと基板11の上面とのなす角度θ1を、第2バンク14bと基板11の上面とのなす角度θ2よりも小さくするためには、第1バンク14aに対応する半透過膜部30bの透過率を、第2バンク14bに対応する半透過膜部30cの透過率よりも大きくすればよい。なお、ポジ型感光性材料で構成されたレジスト層を用いる場合は、透過率の関係を反転させたものを用いればよい。
【0055】
[機能層形成ステップから封止層形成ステップまで]
図5(a)に示すように、第1バンク14aで囲まれた開口14cに、ホール輸送材料と溶媒とを含むインク15aXを塗布する。インク15aXの粘度は、例えば、5cpである。
【0056】
次に、
図5(b)に示すように、ホール輸送層15aを形成する。具体的には、
図5(a)に示したインク15aXの溶媒を乾燥することで、ホール輸送層15aが形成される。
【0057】
さらに、
図5(c)に示すように、第1バンク14aで囲まれた開口14cに、有機発光材料と溶媒とを含むインク15bXを塗布する。インク15bXの粘度は、例えば、5cpである。
【0058】
その後、
図6(a)に示すように、有機発光層15bを形成する。具体的には、
図5(c)に示したインク15bXの溶媒を乾燥することで、有機発光層15bが形成される。
【0059】
最後に、
図6(b)に示すように、電子輸送層16、陰極17、封止層18を順に形成する。電子輸送層16および陰極17には、例えば、ナトリウムまたはアルミニウムのような低融点金属を用いることができる。その場合には、スパッタリング法または真空蒸着法が用いられる。封止層18の形成には、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等が用いられる。
【0060】
以上の工程を経ることで、有機EL装置10が完成する。
【0061】
4.実験と考察
ところで、有機EL装置10において、第1バンク14aの斜面14a1と基板11の上面とのなす角度をθ1とし、第2バンク14bの斜面14b1と基板11の上面とのなす角度をθ2としたとき、θ2>θ1である。そこで、θ2>θ1であることの効果を確認するため、角度θ1、θ2をそれぞれ変化させたサンプルを5つ作製し、その特性評価のための実験を行った。以下、その結果について、
図7〜
図13を用いて説明する。
【0062】
(実験)
上記した製造方法と同様の方法で、角度θ1、θ2をそれぞれ変化させた有機EL装置のサンプルを作製した。5つのサンプルのすべてにおいて、第1バンク14aおよび第2バンク14bの高さは1μmとした。また、隣り合う第1バンク14aの間の距離は64μm、隣り合う第2バンク14bの間の距離は254μmとした。また、有機発光層15bの中央部における設計厚みは80nmとした。
【0063】
なお、各サブ画素領域の短手方向と長手方向との長さの比は、1:4とした。この比は、1画素を3つの細長い形状を有するサブ画素領域で構成する有機EL装置において典型的である。有機発光材料を含むインクの粘度は5cpとした。当該インクの塗布量は、有機発光層15bの中央部において設計厚みが実現するようにサンプル毎に調整した。
【0064】
(θ1、θ2および有機発光層の端部の厚み)
まず、5つのサンプル1〜5において、第1バンク14aおよび第2バンク14bの近傍における有機発光層の端部の厚みを、AFM(原子間力顕微鏡)により測定した。その結果を、
図7〜
図9に示す。
【0065】
図7は、サンプル1〜5における、θ1およびθ2と、第1バンク14aおよび第2バンク14b近傍における有機発光層15bの端部の厚みを示している。なお、θ1は、第1バンク14aの斜面14a1と基板11の上面とのなす角度である。また、θ2は、第2バンク14bの斜面14b1と基板11の上面とのなす角度である。また、第1バンク近傍の有機発光層の端部の厚みは、
図2におけるT
1の位置で測定した有機発光層15bの厚みである。第2バンク近傍の有機発光層の端部の厚みは、
図3におけるT
2の位置で測定した有機発光層15bの厚みである。ここで、
図2におけるT
1の位置は、第1バンクの有機発光層側の端縁から、有機発光層を間に挟んで隣り合う第1バンクの各端縁間の距離の10%の距離だけ、有機発光層の中心方向に離れた位置である。
図3におけるT
2の位置は、第2バンクの有機発光層側の端縁から、有機発光層を挟んで隣り合う第2バンクの各端縁間の距離の3%の距離だけ、有機発光層の中心方向に離れた位置である。また、第1バンク近傍の有機発光層の端部の厚みは、有機発光層の長手方向(Y方向)の中央における値である。また、第2バンク近傍の有機発光層の端部の厚みは、有機発光層の短手方向(X方向)の中央における値である。
【0066】
図8は、第1バンク14a、ホール輸送層15a、有機発光層15bの端部の形状を示すAFMによる測定結果である。
図8(a)はθ1=30.0°のサンプル1に対応する。
図8(b)はθ1=61.8°のサンプル5に対応する。
【0067】
図9は、第2バンク14b、ホール輸送層15a、有機発光層15bの端部の形状を示すAFMによる測定結果である。
図9(a)はθ2=20.0°のサンプル1に対応する。
図9(b)はθ2=54.0°のサンプル5に対応する。
【0068】
(1)第1バンク14a近傍における有機発光層15bの端部の厚み
まず、第1バンク14a近傍について検討する。
図7に示すように、θ1が、30.0°、37.7°、51.8°、54.3°、61.8°と大きくなるほど、第1バンク14a近傍における有機発光層15bの端部の厚みは、100nm、110nm、120nm、125nm、150nmと大きくなっている。また、θ1が小さいとき、例えば、θ1=30.0°のとき、
図8(a)に示すように、有機発光層15bの端部の厚みは100nmである。この値は、有機発光層15bの中央部の設計厚み80nmに近い値である。一方、θ1が大きいとき、例えば、θ1=61.8°のとき、
図8(b)に示すように、有機発光層15bの端部の厚みは150nmである。この値は、有機発光層15bの中央部の設計厚み80nmから離れた値である。
【0069】
(2)第2バンク14b近傍における有機発光層15bの端部の厚み
次に、第2バンク14b近傍について検討する。
図7に示すように、θ2の値が、20.0°、26.6°、41.6°、48.0°、54.0°と大きくなるほど、第2バンク14b近傍における有機発光層15bの端部の厚みは、30nm、50nm、70nm、100nm、110nmと大きくなっている。また、θ2が小さいとき、例えば、θ2=20.0°のとき、
図9(a)に示すように、有機発光層15bの端部の厚みは30nmである。この値は、有機発光層15bの中央部の設計厚み80nmから離れた値である。一方、θ2が大きいとき、例えば、θ1=54.0°のとき、
図9(b)に示すように、有機発光層15bの端部の厚みは110nmである。この値は、有機発光層15bの中央部の設計厚み80nmに近い値である。
【0070】
(考察)
以下、θ1、θ2および有機発光層の端部の厚みについて、さらに考察する。
【0071】
第1バンク14aおよび第2バンク14bで囲まれた開口に、塗布法を用いてインクを塗布し乾燥させて機能層を形成する。このとき、典型的には、インクの塗布から短時間の間にインクの溶媒は乾燥する。そのため、塗布されたインクが、第1バンク14aおよび第2バンク14bで囲まれた開口内を流動する時間は短いといえる。また、インクのピニング位置は、インクが第1バンク14aおよび第2バンク14bに到達した時点でのインクの高さで決まる。インクのピニング位置により、第1バンク14a近傍および第2バンク14b近傍における、機能層の端部の厚みも決まることになる。
【0072】
一方、第1バンク14aおよび第2バンク14bで囲まれた細長い開口にインクを塗布すると、インクの液体内部に働く表面張力によって、インクは球状になりやすい。また、細長い開口にインクを塗布する場合、典型的には、インクは細長い開口の中央に塗布される。ここで、θ1とθ2とが等しい場合には、塗布されたインクは先に第1バンク14aに到達し、その後第2バンク14bに到達する。また、インクが第1バンク14aに到達してから第2バンク14bに到達するまでの期間にも、インクに含まれる溶媒が蒸発する。そのため、第1バンク14a近傍におけるインクのピニング位置は、第2バンク14b近傍におけるインクのピニング位置よりも高くなる。
【0073】
これに対し、塗布されたインクが第1バンク14aおよび第2バンク14bに到達するまでの時間を制御することで、第1バンク14a近傍における機能層の端部の厚みと、第2バンク14b近傍における機能層の端部の厚みとの差を低減できる。具体的には、塗布されたインクが第1バンク14aに到達するまでの時間を長くし、塗布されたインクが第2バンク14bに到達するまでの時間を短くすればよい。塗布されたインクが第1バンクおよび第2バンクに到達するまでの時間の制御には、例えば、バンク層に設けられる開口に対し、平面視における短手方向の長さ長手方向との比率を変化させることが考えられる。しかしながら、有機EL装置には、一定の面積の発光領域を備えるという要請があるため、これを実現することは困難である。
【0074】
そこで別の方法として、第2バンク14bの斜面14b1と基板11の上面11aとのなす角度θ2を、第1バンク14aの斜面14a1と基板11の上面11aとのなす角度θ1よりも大きくすることが考えられる。その結果、第1バンク14a近傍における機能層の端部の厚みが大きくなり、第2バンク14b近傍における機能層の端部の厚みが小さくなるという、
図7の結果が得られたと考えられる。これにより、第1バンク14a近傍における機能層の端部の厚みと、第2バンク14b近傍における機能層の端部の厚みとの差を低減するためには、θ2がθ1よりも大きくすればよいことがわかる。
【0075】
(θ1およびθ2の取り得る値および範囲)
これを踏まえて、まずθ1およびθ2の取り得る値について検討した。
【0076】
図10は、θ1、θ2に対する、有機発光層の端部の厚みの変化を示すグラフである。同図は、第1バンクおよび第2バンクの各々について、θ1およびθ2と、有機発光層の厚みとをプロットしたものである。横軸は、
図7に示したサンプル1〜5における、第1バンクおよび第2バンク近傍の有機発光層の端部の厚みを示す。縦軸は、
図7に示したサンプル1〜5における、第1バンクおよび第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度θ1およびθ2を示す。
【0077】
θ1およびθ2が同じ値をとる場合、第1バンク近傍の有機発光層の端部の厚みは、第2バンク近傍の有機発光層の端部の厚みよりも大きくなる。そのため、第1バンクの近傍における有機発光層の端部の厚みと、第2バンクの近傍における有機発光層の端部の厚みとの差を低減するためには、θ2をθ1よりも大きくすればよい。
【0078】
以下、具体的にθ1およびθ2の関係について考察する。
【0079】
図10に示す二つの線形により、以下の一次式が導かれる。
【0082】
まず、(式1)、(式2)を用いて、θ1、θ2が取り得る範囲について検討する。T
1、T
2の差を十分に小さく、例えば、T
2=T
1±10とする。
【0083】
ここで、(式1)を以下のように変形する。
【0087】
とし、これを(式2)に代入すると、以下の範囲が導かれる。
【0089】
一方、T
2=T
1±10を(式2)に代入し、(式1)を減ずると、以下の範囲が導かれる。
【0091】
θ1、θ2が(式3)、(式4)の範囲であれば、第1バンク近傍の有機発光層の端部の厚みと、第2バンク近傍の有機発光層の端部の厚みとの差を10nm以下まで低減できる。
【0092】
なお、T
1=T
2として、(式2)から(式1)を減ずると、以下の一次式が導かれる。
【0094】
T
1を有機発光層の中央部の厚みとし、θ1を任意の角度とし、(式5)を用いることで、θ2を決定することができる。θ1、θ2が(式5)を満たしていれば、第1バンク近傍の有機発光層の端部の厚みと、第2バンク近傍の有機発光層の端部の厚みとを等しくできる。
【0095】
以下、有機発光層の端部の厚みと有機EL装置の発光効率とについて、実験結果を用いて検討する。
【0096】
(第2バンク近傍における有機発光層の端部の厚みと発光効率)
まず、第2バンクの斜面と基板の表面とのなす角度θ2を異ならせた複数の有機EL装置を用意した。そして、それぞれに対し、IVL測定を実施した。IVL測定とは、電流Iおよび電圧Vに対する輝度Lを測定する実験である。IVL測定の結果により、発光効率を求めることができる。
【0097】
図11は、IVL測定の結果を示すグラフである。横軸はサンプル番号を示し、縦軸は相対発光効率を示す。なお、相対発光効率の値が1となるのは、スピンコートデバイスの場合である。
【0098】
θ2=20.0°であるサンプル6、7では、それぞれ相対発光効率は0.59、0.70である。θ2=27.0°であるサンプル8、9では、それぞれ相対発光効率は0.90、0.85である。θ2=50.0°であるサンプル10、11では、いずれも相対発光効率は0.95である。このように、第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度θ2が増加するごとに、相対発光効率0.59から0.95まで増加している。このように、第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度θ2を大きくすれば、相対発光効率が向上する。これについて、以下で検討する。
【0099】
角度θ2が小さい場合には、第2バンク近傍における有機発光層の端部の厚みが、有機発光層の中央部の設計厚みよりも小さくなってしまう。この構成では、有機発光層が発光する際に、第2バンク近傍における有機発光層の端部に集中的に電流が流れ込む。そのため、有機発光層が劣化し、相対発光効率が小さくなったと考えられる。一方、角度θ2が大きい場合には、第2バンク近傍における有機発光層の端部の厚みが、有機発光層の中央部の設計厚みに近くなる。この構成では、有機発光層が発光する際に、第2バンク近傍における有機発光層の端部に集中的に電流が流れ込むことが抑制されている。そのため、有機発光層が劣化せず、相対発光効率を向上できる。
【0100】
(第1バンク近傍における有機発光層の端部の厚みと発光寿命)
まず、第1バンクの斜面と基板の表面とのなす角度θ1を異ならせた複数の有機EL装置を用意した。そして、それぞれに対し、発光寿命試験を実施した。
【0101】
発光寿命は、累積発光期間に対する相対発光輝度により求めることができる。相対発光輝度とは、発光期間が0時間の場合の発光輝度に対する、発光期間経過後の発光輝度の割合である。
図12は、発光寿命試験の結果を示すグラフである。横軸は、発光期間を示し、縦軸は相対発光輝度を示す。
【0102】
θ1=30.0°の場合、発光期間が2時間、4時間、6時間、8時間、10時間において、相対発光輝度はそれぞれ、0.82、0.76、0.74、0.71、0.68である。θ1=37.7°の場合、発光期間が2時間、4時間、6時間、8時間、10時間において、相対発光輝度はそれぞれ、0.79、0.75、0.72、0.69、0.67である。θ1=52.8°の場合、発光期間が2時間、4時間、6時間、8時間、10時間において、相対発光輝度はそれぞれ、0.78、0.72、0.70、0.68、0.65である。角度θ1が大きいほど、同じ発光期間における相対発光輝度は低下している。すなわち、第1バンクの斜面と基板の上面とのなす角度θ1が大きいほど、発光寿命が低下する。そのため、角度θ1を小さくすれば、発光寿命が向上すると考えられる。以下、これについて検討する。
【0103】
角度θ1が大きい場合には、第1バンク近傍における有機発光層の端部の厚みが、有機発光層の中央部の設計厚みよりも大きくなってしまう。この構成では、有機発光層が発光する際に、有機発光層の中央部に集中的に電流が流れ込む。そのため、有機発光層が劣化し、発光寿命が低下したと考えられる。一方、角度θ1が大きい場合には、第1バンク近傍における有機発光層の端部の厚みが、有機発光層の中央部の設計厚みに近くなる。この構成では、有機発光層が発光する際に、有機発光層の中央部に集中的に電流が流れ込むことが抑制できる。そのため、有機発光層が劣化せず、発光寿命を向上できる。
【0104】
5.効果
細長いサブ画素領域21を有する有機EL装置10において、第2バンク14bの斜面と基板の上面とのなす角度θ2が、第1バンク14aの斜面と基板の上面とのなす角度θ1よりも大きい。そのため、塗布法で機能層15を形成した場合でも、第1バンク14aの近傍における機能層15の端部の厚みと第2バンク14bの近傍における機能層15の端部の厚みとの差を低減できる。
【0105】
<変形例>
1.バンクにおけるテーパー角度の制御
上記実施の形態では、ハーフトーンマスクを用いて、第1バンクおよび第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度を制御したが、これに限らない。例えば、第2バンクの斜面に対応する部分にのみ、ハーフトーンマスクを用いて、第2バンクの斜面と基板の上面とのなす角度を小さくしてもよい。この構成では、第2バンク近傍における機能層の端部の厚みを大きくし、第2バンクの近傍における機能層の端部と、第2バンクの近傍における機能層の端部との厚みの差を低減できる。また、この構成では、露光工程において、第1バンクと第2バンクとが隣接したとしても、それぞれのハーフトーンマスクを半透過した光同士の干渉が発生しない。そのため、第1バンクおよび第2バンクを適正に形成できる。
【0106】
2.第1バンクおよび第2バンクの形成方法
上記実施の形態では、ハーフトーンマスクを用いて第1バンクおよび第2バンクを形成したが、これに限らない。これ以外にも、例えば、グレイトーンマスク、スリットマスク、スタックレイヤードマスク等を用いて、フォトリソグラフィーにより第1バンクおよび第2バンクを形成することができる。
【0107】
3.機能層の製造方法
上記実施の形態では、ホール輸送層および有機発光層を塗布法で形成する例を示したが、これに限らない。例えば、ホール輸送層を蒸着法で形成し、有機発光層を塗布法で形成してもよい。また、例えば、ホール輸送層を塗布法で形成し、有機発光層を蒸着法で形成してもよい。
【0108】
4.本開示の利用形態
有機EL装置の利用形態としては、有機EL表示パネル等がある。有機EL表示パネルは、オーディオ装置と組み合わせたテレビジョンシステムの一部とすることができる。有機EL表示パネルは液晶ディスプレイ(LCD)のようにバックライトを必要としない。そのため、薄型化に適しており、システムデザイン設計という観点から優れた特性を発揮する。
【0109】
5.その他
各部構成は、上記実施の形態に限らない。例えば、ホール輸送層の代わりに、中間層(IL層)を用いてもよい。
【0110】
また、上記実施の形態では、ホール輸送層および有機発光層を塗布法で形成した場合を示したが、これに限らない。例えば、材料構成によっては、ホール注入層等を塗布法で形成する場合にも本開示を適用することができる。