特許第6111491号(P6111491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6111491-船舶用推進装置 図000002
  • 特許6111491-船舶用推進装置 図000003
  • 特許6111491-船舶用推進装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111491
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】船舶用推進装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/32 20060101AFI20170403BHJP
   B63B 1/40 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   B63B1/32 Z
   B63B1/40 Z
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-141642(P2012-141642)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-4910(P2014-4910A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月10日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000189589
【氏名又は名称】上野 康男
(72)【発明者】
【氏名】上野 康男
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−153197(JP,U)
【文献】 特開平06−179390(JP,A)
【文献】 特開2001−219890(JP,A)
【文献】 特開平08−175478(JP,A)
【文献】 特開昭61−037593(JP,A)
【文献】 特開昭62−043395(JP,A)
【文献】 特開平09−263291(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02644747(FR,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0169191(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0223431(US,A1)
【文献】 特開2005−193747(JP,A)
【文献】 特開2001−219893(JP,A)
【文献】 特開平01−314686(JP,A)
【文献】 特開昭48−002693(JP,A)
【文献】 特開2001−219894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/32
B63B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船首付近の船体両側面の喫水面直下に船体の側舷より左右に張り出し、上面形状が航空機の翼に類似して、断面が航空機の翼断面状をなし、船体への取り付け角度は側面から見て前縁部がやや下方に下がり、正面から見て翼端が下方に下がった状態の翼部材を固定的に設けたことを特徴とする船舶用の推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用の推進装置に関するものであり、特に船首に発生する水切り波を推進力に変えて、結果的に船舶の走行に伴う抵抗を減らし燃料消費量を減少して経済性を高めることを目的とした船舶用推進装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在一般に使用されている船首の水切り波の抵抗を軽減する方法としては、第1にいわゆるバルバスバウと呼ばれるごとく、船首に突起を突き出して、そこで発生する波と船首で発生する波との干渉によって水切り波を小さくしてその抵抗を減少するもの、第2に船首の先端を鋭くして波の発生の減少を図るもの、第3に船体から離れた位置に水中翼を取り付け船体の揺れを利用して推進するものなどがある。
【0003】
ここで、考慮すべきことはその効果の大きさと、その使用範囲の広さと、経済性である。第1のバルバスバウは現在広く使用されているが、実際に有効な走行条件としては一定の速度範囲においてであり、その条件から外れた速度においては充分な効果を発揮するものではない。第2の船体の先端を鋭くしたものについては、第1の方式と同様、抵抗の減少効果はあるがそれ自体に推力を発生する効果を持つものではない。第3の方式は船首波と云うよりは一般的な波による船全体の上下揺れを利用して推進するものであり、緩やかな波で有効に推力を得る為には比較的大きな面積のヒレが必要である上、上下両方向の波を利用しようとする為に翼型は対象性が必要となるが、これでは失速現象が生じて有効性が損なわれる為に、ヒレの後縁を上下に靡くように可動型にするか、フレキシブルな材料で製作するなどの構造的な条件が加わり、結果的に形状が複雑となる上耐久性が低くなるなど使用条件の制限から広く応用するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許 3571083号
【特許文献2】特許 4831384号
【0005】
技術的背景として、化石燃料の枯渇が近いとされる現在、運行に必要な使用燃料の削減効果のある技術の実用化が逼近の課題となっているが、これらの公知技術では広く応用可能で実質的に船首波のエネルギーを推力に変換出来る方式が見られない。既存の船に容易に応用することが可能で、安価で推進力発生の効果が広い使用範囲で得られる方式が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、船舶の省エネ技術と云う観点から総合的に検討して、船舶の大きさ、速度に影響されず、推進装置としての効果とその汎用性と実施費用を一体化して大幅な改善効果のある船舶用の推進装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題を解決するための手段は、船舶の船首付近の喫水面直下に左右に張り出し、断面が航空機の翼断面状の翼型部材を固定的に設けたことを特徴とする船舶用の推進装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、走行中の船首において船体に押しやられた水がその圧力上昇によって重力に逆らって水面上に膨らむような波を形成する。この流れは10°から20°程度の上向き角度を持っている。この上向きの流れが左右に張り出した翼部材に当たると、この流れに直角な方向に楊力が発生する。その揚力の前向きの成分が船舶の推進力となる。これは上昇気流を使ってグライダーが飛行するのと同じ原理である。更にこの翼部材を通過した流れは水平方向に曲げられるので後方に盛り上がった波の形成が抑えられ、結果的に増波抵抗の減少にもなる。これらの相乗的な効果によって船首波は有効に推力に変換される。水槽実験によれば船首波の減少は目視においても極めて明らかであり、推進抵抗が広い船速において減少することが確認されていることで、この翼部材による推進力の発生が有効であることが証明されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の1実施形態を示した側面図である。
図2図2は本発明の1実施形態を示した正面図である。
図3図3は本発明の1実施形態を示した上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の船舶用推進装置の機能を損なわない範囲で簡略化して実現するための実施形態を示す。
【実施例】
【0011】
図1は本発明の船舶用推進装置の1実施形態を示す側面図であり、図2は本発明の1実施形態を示した正面図、図3は本発明の他の実施形態を示した上面図である。
図1図2図3において、船舶の船体1の船首部2には喫水面直下に左右に張り出し、断面が航空機の翼断面状の翼部材3を固定的に設けている。破線4は従来の船舶の船首に発生する波の流線を示すものであり、実線5は本発明の流線を示すものである。図1において翼部材3は喫水線6の直下にあるのが望ましく、角度はほぼ水平方向である。翼断面の形状としては上下対称のものでも良いがやや上側にふくらみ(カンバー)を持つ形状のものが望ましい。図3に示すごとく翼部材3の上面から見た形状は先端が細くやや後に傾斜した形状のものが望ましい。前述のカンバーは翼先端ではほぼフラットとなり、場合によっては前縁がやや下方に下がった形状が望ましい。また、図2において正面から見た場合、翼部材3は先端がやや下方に下がった状態であることが望ましい。なお、該翼部材3には極めて大きな波の力が加わることがあるので充分な強度を持つものでなくてはならない。また、停泊時などには下方向又は後方向に折畳み可能な構造とすることも本発明の主旨に外れるものではない。

【0012】
[動作]
上記実施形態に示す本発明の船舶用推進装置の動作について説明する。前述の、発明の効果の項で述べたごとく、走行中の船首において船体に押しやられた水がその圧力上昇によって重力に逆らって水面上に膨らむような波を形成する。この流れは10°から20°程度の上向き角度を持っている。この上向きの流れが左右に張り出した翼部材に当たるとこの流れに直角な方向に楊力が発生する。その揚力の前向きの成分が船舶の推進力となる。これは上昇気流を使ってグライダーが飛行するのと同じ原理である。更にこの翼部材を通過した流れは水平方向に曲げられるので後方に盛り上がった波の形成が抑えられ、結果的に増波抵抗の減少にもなる。これらの相乗的な効果によって船首波は有効に推力に変換される。上記の説明において翼部材3は多くの場合、10°から20°程度の上向き角度を持った流れを水平又はやや下向きの流れに変えることで推力を発生する。従って、航空機の主翼のように上方にふくらみ(カンバー)を持った断面形状のものが望ましい。しかし、先端部がこのような断面を形成していると、いわゆる翼端渦が発生して誘導抵抗を発生する恐れがある。
【0013】
これを避ける為には翼端におけるカンバー及び迎角を小さくする必要がある。従って翼断面の形状は図1に示すごとく翼部材3の付け根部分でカンバーが大きく、先端部分では対称翼に近いものとすることが望ましい。また、図2に示すごとく、翼部材3が先端をやや下方に下げたごとく形成されているのは、船首波が上向き成分を持つと同時に船首で左右に分けられ、広がる横方向の成分も持っているために、この流れを充分に捉えることが出来るごとくするためである。更に、図3に示すごとく先端が後方に傾いた形状であることは、海上を航行する場合に、浮遊物などが引っかかるのを防ぐ為である。なお、図3に示すごとく、船首波の形状は本発明の翼部材3を取り付けたことにより、後方に加速される為に広がりが狭くなるとともに、波のエネルギーが推進力に変換されて吸収されるために、高さが大幅に減少するために短い範囲で消滅することを示している。
【0014】
尚、一般的な波による船全体の上下揺れを利用して推進するものは、いわゆる波喰い推進装置等として公知技術として存在するが、緩やかな波で有効に推力を得る為には比較的大きな面積のヒレが必要である上、上下両方向の波の運動を利用しようとする為に翼型は上下の対象性が必要となる。しかし、船速が遅い時の波による上下運動において、いわゆる迎角が最大±90°変化することになるので、失速現象が生じて有効性が大きく損なわれる。その対策として、ヒレの後縁を上下に靡くように可動型にするか、フレキシブルな材料で製作するなどの構造的な条件が加わり、結果的に形状が複雑となる上、耐久性が低くなるなど使用条件の制限が加わることからから広く応用するには至っていない。本発明の船舶用推進装置は、船首波の利用に限定した結果、翼部材3に当たる流れの角度は10°から20°程度の上向き角度に限定され、翼部材3の翼断面はこの角度に最適な上側にふくらみを持つカンバーをつけたものとすることが出来、固定的に取り付けることが出来、構造的に単純になり翼部材3の周辺の流れに失速現象が生じることを防止できる。失速現象は気泡の発生の原因となり材料の腐食を促進する為に避けなければならないものである。上述のごとく、本発明の船舶用推進装置は、いわゆる波喰い推進装置とは大きく異なる分野の技術である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の船舶用推進装置は上記の説明で明らかなごとく、船体の船首付近に翼部材を固定的に取り付けるだけで船首波を推進力に変えることが出来るものであり、この効果は船の速度、大きさに影響されるものではなく広い範囲の用途に適応することが出来る上、既存の船に取り付けることも容易で、構造も単純でその費用も大きくないので早い時期に実用化が可能であり、省エネルギー効果を手軽に実現できるものであり、その船舶業界に及ぼす産業力増強効果は極めて著しい。
【符号の説明】
【0016】
1 船体
2 船首部
翼部材
4 破線
5 実線
6 喫水線
図1
図2
図3