(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生体由来の成長誘導対象に培養液を灌流する第一の培養槽、および、サイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第二の培養槽に少なくとも接続され、記憶部と検出部と制御部とを備えた成長誘導制御装置であって、
前記記憶部は、
成長誘導手順を規定する成長誘導プロトコルを記憶し、
前記制御部は、
前記検出部を介して前記成長誘導対象の成長状況を検出する成長状況検出手段と、
前記成長誘導プロトコルに基づいて、前記成長誘導対象の成長状況に応じて、前記分泌体が分泌したサイトカインを含む培養液を前記成長誘導対象に供給する流量を制御する流量制御手段と、
を備え、
前記第一の培養槽にて前記成長誘導対象に灌流された前記培養液は、
少なくとも前記第二の培養槽を含む他の前記培養槽へ還流されるように流体連結されていることを特徴とする、成長誘導制御装置。
生体由来の成長誘導対象に培養液を灌流する第一の培養槽、および、サイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第二の培養槽に少なくとも接続され、成長誘導手順を規定する成長誘導プロトコルを記憶する記憶部と検出部と制御部とを備えたコンピュータにおいて実行される成長誘導制御方法であって、
前記制御部において実行される、
前記検出部を介して前記成長誘導対象の成長状況を検出する成長状況検出ステップと、
前記成長誘導プロトコルに基づいて、前記成長誘導対象の成長状況に応じて、前記分泌体が分泌したサイトカインを含む培養液を前記成長誘導対象に供給する流量を制御する流量制御ステップと、
を含み、
前記第一の培養槽にて前記成長誘導対象に灌流された前記培養液は、
少なくとも前記第二の培養槽を含む他の前記培養槽へ還流されるように流体連結されていることを特徴とする、成長誘導制御方法。
生体由来の成長誘導対象に培養液を灌流する第一の培養槽、および、サイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第二の培養槽に少なくとも接続され、成長誘導手順を規定する成長誘導プロトコルを記憶する記憶部と検出部と制御部とを備えたコンピュータに実行させるための成長誘導制御プログラムであって、
前記第一の培養槽にて前記成長誘導対象に灌流された前記培養液は、
少なくとも前記第二の培養槽を含む他の前記培養槽へ還流されるように流体連結されており、
前記制御部において、
前記検出部を介して前記成長誘導対象の成長状況を検出する成長状況検出ステップと、
前記成長誘導プロトコルに基づいて、前記成長誘導対象の成長状況に応じて、前記分泌体が分泌したサイトカインを含む培養液を前記成長誘導対象に供給する流量を制御する流量制御ステップと、
を実行させるための、成長誘導制御プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の本実施形態にかかる成長誘導システム、成長誘導制御装置、成長誘導制御方法、および、成長誘導制御プログラム、並びに、記録媒体の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。特に、以下の実施形態では、培養槽間が管で接続されており、管内を流れる培養液の流量や切替を、弁(バルブ)を用いて制御するように構成されているが、本発明はこれに限られない。例えば、各培養槽は、独立した槽で互いに連結されないが、培養槽間を行き来するピペットロボット等のデバイスが、培養槽間の液体を運搬することによって、流量制御や切替制御を行ってもよいものである。
【0026】
[成長誘導システムの構成]
まず、以下、本発明にかかる本実施形態の成長誘導システムの構成について説明し、その後、本実施形態の処理等について詳細に説明する。ここで、
図1は、本発明の実施形態にかかる成長誘導システムの全体概要を示す構成図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の成長誘導システムは、成長誘導制御装置100と、少なくとも2槽の培養槽40を備えて構成される。
【0028】
図1において、第一の培養槽40−1は、生体由来の成長誘導対象に培養液を灌流する培養槽である。ここで、成長誘導対象は、細胞、組織、器官(臓器)等であってもよい。成長誘導対象が細胞や組織である場合、培養層に培養液を行き渡らせることにより灌流を行ってもよい。また、成長誘導対象が器官(臓器)である場合、培養臓器の血管に培養液を行き渡らせることにより灌流を行ってもよい。より具体的には、臓器等の血管にカニューレ等のチューブを連結し、血流と同様に培養液を流入および流出させて臓器等を培養してもよい。なお、還流のため、培養槽40ごとに、別個の培養液還流機構を備えていてもよい。
【0029】
また、第二の培養槽40−2は、サイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第二の培養槽である。ここで、分泌体は、細胞、組織、器官(臓器)等であってもよい。分泌体が分泌するサイトカインは、各種のホルモン、リンフォカイン、ケモカイン、モノカイン、マイオカイン、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、造血因子(CSF)、細胞増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF)、アディポカイン、神経栄養因子(NGF)、抗体(アゴニスト抗体等)、液性リガンド、神経伝達物質、シグナル伝達物質、走化性誘引物質、その他、細胞や組織、器官(臓器)等の成長に関わる液性因子であってもよい。なお、本実施形態において、「成長」とは、増殖、分化、アポトーシス、ネクローシス等が含まれる。
【0030】
ここで、
図1に示すように、本実施形態において、第一の培養槽40−1と、第二の培養槽40−2は、流路上に弁1を有する管で流体接続されており、この弁1を開閉することにより流量を制御可能に構成されている。弁の構造としては、フランジ形、ねじ込み形など公知の弁(バルブ)を用いることができ、弁の調整方法としては、空気駆動式、電動式、油圧式等による公知の調整弁を用いることができる。また、逆流を防ぐために逆止弁を備えていてもよい。
【0031】
なお、
図1では、成長誘導システムは、2槽の培養槽40が図示されているが、これに限られず、3以上の培養槽40を、直列、並列、および/または、還流配置にて流体接続してもよい。ここで、
図2は、培養槽40の直列配置の例を示す図である。
【0032】
直列配置の場合、
図2に示すように、成長誘導システムは、一例として、第二の培養槽40−2の分泌体とは別のサイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第三の培養槽40−3を更に備え、後述する制御部102(流量制御部102b等)が、更に、第二の培養槽40−2の分泌体を成長誘導対象として、第三の培養槽40−3の分泌体から分泌されたサイトカインを含む培養液を、第二の培養槽40−2の成長誘導対象に供給する流量を制御することができるように配置されている。このように第三の培養槽40−3から第二の培養槽40−2への流量制御により、第二の培養槽40−2の分泌体(第三の培養槽40−3の分泌体からみた成長誘導対象)の増殖・分化等の成長を誘導することができるので、第二の培養槽40−2の分泌体から分泌されるサイトカインの分泌量や種類等を変化させることができ、同じ流量であっても、第一の培養槽40−1の成長誘導対象へ供給するサイトカインの作用量や作用内容を、間接的に制御することができる。ここで、
図3は、培養槽40の並列配置の例を示す図である。
【0033】
並列配置の場合、
図3に示すように、成長誘導システムは、一例として、第二の培養槽40−2の分泌体とは別のサイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第四の培養槽40−4を備え、後述する制御部102(流量制御部102b等)が、更に、第一の培養槽40−1の成長誘導対象の成長状況に応じて、第二の培養槽40−2の分泌体から分泌されるサイトカインから、第四の培養槽40−4の分泌体から分泌されるサイトカインへ切り替えて、培養液を当該成長誘導対象に供給する切替制御ができるように構成される。このように第二の培養槽40−2から第四の培養槽40−4への切替制御により、第一の培養槽40−1の成長誘導対象へ供給するサイトカインの種類や作用量等を変化させることができる。ここで、
図4は、培養槽40の還流配置の例を示す図である。
【0034】
還流配置の場合、
図4に示すように、成長誘導システムは、一例として、第一の培養槽40−1にて成長誘導対象に灌流された培養液を、他の培養槽40(例えば第二の培養槽40−2)へ還流されるように連結されている。ここで、第一の培養槽40−1の成長誘導対象は、分泌体としてサイトカインを分泌し、他の第二の培養槽40−2等の成長誘導対象としての分泌体に培養液を灌流により供給してもよい。このように第一の培養槽40−1から他の培養槽40への還流流量制御により、第二の培養槽40−2の分泌体(第一の培養槽40−1の分泌体からみた成長誘導対象)の増殖・分化等の成長を誘導することができるので、第二の培養槽40−2等の分泌体から分泌されるサイトカインの分泌量や種類等を変化させることができ、結果として、第一の培養槽40−1の成長誘導対象へ供給するサイトカインの作用量や作用内容を、自ら間接的に制御することができる。
【0035】
なお、以上の直列配置、並列配置、還流配置は、任意に複数で組み合わせることができる。例えば、成長誘導システムは、多段階に培養槽40を直列配置させてもよく、並列配置と還流配置を組み合わせてもよく、第一の培養槽40−1の分泌体から分泌されたサイトカインを含む培養液の還流による供給先を切替制御してもよい。なお、図示しないものの、弁1や流路には、フィルタ機能、熱失活機能、各種のフィルタを備えていてもよい。また、環流系において、ガス交換部と透析部を備えていてもよい。なお、還流系は、培養槽40の培養液を同じ培養槽40に戻すものであってもよい。
【0036】
[成長誘導制御装置100の構成]
再び
図1に戻り、本実施形態の成長誘導制御装置100等の構成について説明する。
図1のブロック図に示すように、本実施形態が適用される成長誘導制御装置100の構成は、該構成のうち本実施形態に関係する部分のみを概念的に示している。
【0037】
図1において、成長誘導制御装置100は、概略的に、成長誘導制御装置100の全体を統括的に制御するCPU等の制御部102、通信回線等に接続されるルータ等の通信装置(図示せず)に接続される通信制御インターフェイス部104、センサやタッチパネル等の入力部112や出力部114に接続される入出力制御インターフェイス部108、および、各種のデータベースやテーブルなどを格納する記憶部106を備えて構成されており、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。ここで、成長誘導制御装置100は、マイクロコンピュータや、パーソナルコンピュータ、サーバ用コンピュータなどであってもよい。
【0038】
記憶部106に格納される各種のデータベースやテーブル(例えば、成長誘導ファイル106aや培養槽配置ファイル106b等)は、SRAM(Static Random Access Memory)等を用いて構成される小容量高速メモリ(例えば、キャッシュメモリ)等や、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の固定ディスク装置等のストレージ手段であり、各種処理に用いる各種のプログラムやテーブルやファイルやデータベース等を格納する。
【0039】
このうち、成長誘導ファイル106aは、成長誘導手順を規定する成長誘導プロトコルを記憶する成長誘導情報記憶手段である。一例として、成長誘導プロトコルは、分化ステージや成長段階等に応じて、必要とされるサイトカインの種類や供給量の閾値を対応付けて格納してもよい。ここで、成長誘導ファイル106aは、各種の培養手順データ等の成長誘導プロトコルを蓄積したデータベースとして構成してもよい。
【0040】
また、培養槽配置ファイル106bは、培養槽40の配置情報を記憶する配置情報記憶手段である。例えば、培養槽配置ファイル106bは、培養槽40の並列/直列/還流配置等の配置情報や、サイトカインの分泌体や成長誘導対象が収納される培養槽40の配置情報、弁1や配管等の配置情報や制御情報(例えば、開閉信号と流量の対応テーブル)等を記憶してもよい。
【0041】
また、
図2において、入出力制御インターフェイス部108は、センサやスイッチ等の入力部112や出力部114の制御を行う。入力部112としては、成長誘導対象の成長状況等を検出するセンサやカメラ、弁開閉の入力デバイス等を用いることができる。また、出力部114としては、弁開閉アクチュエータや、ポンプ等を用いることができる。
【0042】
センサ等の検出部として、入力部112は、培養の対象とする細胞、細胞組織、器官、臓器について、その状態を検出する。一例として、センサ等の入力部112は、培養槽40内部の環境、たとえば臓器の状態を検出する。入力部112は、複数のセンサを備えてもよい。
【0043】
臓器等の状態を検出方法について、臓器等は、現在の状態をあらわす信号伝達物質として、たんぱく質、ホルモンやサイトカインを分泌することが知られている。一例として、入力部112のセンサは、この信号伝達物質を検出することにより、臓器の状態を検知する。より具体的には、入力部112のセンサは、臓器等の状態を検知する指標として、pH、塩分濃度、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、カルシウムイオン濃度、温度、糖度、圧力、シグナル伝達物質濃度、シグナル伝達たんぱく質濃度、特定波長での吸光度などを検出してもよい。
【0044】
シグナル物質伝達物質濃度や、シグナルたんぱく質濃度を検出する方法として、抗体を用いた測定法(Enzyme−linked immunosorbent assay: ELISA法)や吸光度計を用いることができる。ELISA法は、臓器等の成長誘導対象の状態に特徴的なたんぱく質やシグナル物質を選択的に検出することにより、成長誘導対象の状態を特定する(特許文献1参照)。シグナル伝達物質やシグナル伝達たんぱく質は、それを構成する芳香属アミノ酸特定の波長域280nmで大きな吸光度を示すことから(特許文献2参照)、入力部112は、λabs付近での吸光度を計測することで成長誘導対象の状態を検出してもよい。
【0045】
また、入力部112は、上述の成長状況の検出の他、ボタン、レバー、タッチパネル、ネットワーク機器等、他の入力手段を同時に備えてもよい。また、出力部114としては、上述の弁開閉アクチュエータやポンプ等のほか、液晶モニタ等の表示手段を用いることができる。
【0046】
また、
図1において、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラム、各種の処理手順等を規定したプログラム、および所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行うCPU等のプロセッサである。制御部102は、機能概念的に、成長状況検出部102a、および、流量制御部102bを備えて構成される。
【0047】
このうち、成長状況検出部102aは、検出手段(センサ等)としての入力部112を介して成長誘導対象の成長状況を検出する成長状況検出手段である。一例として、成長状況検出部102aは、入力部112のセンサにより検出された情報に基づいて、ELISA法により補足された抗原のシグナル物質伝達物質濃度等を定量化してもよい。他の例として、成長状況検出部102aは、入力部112のセンサにより検出された励起波長λabs付近での吸光度に基づいて、芳香属アミノ酸を含むたんぱく質の定量を行ってもよい。このほか、成長状況検出部102aは、カメラ等の入力部112を介して撮像された顕微鏡画像情報に基づいて、形態認識を行い、分化ステージや、発達ステージや、発生ステージ等の成長状況を判定してもよい。
【0048】
また、流量制御部102bは、成長誘導ファイル106aに記憶された成長誘導プロトコルに基づいて、成長状況検出部102aにより検出された成長誘導対象の成長状況に応じて、分泌体が分泌したサイトカインを含む培養液を成長誘導対象に供給する流量を制御する流量制御手段である。例えば、流量制御部102bは、検出された成長誘導対象の成長状況の成長段階に基づいて、成長誘導プロトコルを参照して、必要なサイトカインの種類や作用量等を判定し、続いて、培養槽配置ファイル106bの配置情報に基づいて、必要なサイトカインの種類や作用量の培養液を当該成長対象へ供給するため、出力部114を介して弁1の切替制御や流量制御を行ってもよい。なお、流量制御部102bは、必要とされるサイトカイン以外の液性因子が影響することを抑制するために、不要なサイトカインを通さないフィルタや、不要なサイトカインが熱失活されるように出力部114を制御してもよい。
【0049】
ここで、成長誘導制御装置100は、成長誘導プロトコルを提供するデータベースや、成長誘導制御プログラムや画像形態認識プログラム等の外部プログラム等を提供する外部機器200と、ネットワーク300を介して通信可能に接続して構成されてもよい。この場合、成長誘導制御装置100は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、ネットワーク300に通信可能に接続されてもよい。
【0050】
そして、
図1において、通信制御インターフェイス部104は、成長誘導制御装置100と、インターネット等のネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信制御を行う装置である。すなわち、通信制御インターフェイス部104は、他の端末または局と、通信回線(有線、無線を問わない)を介してデータを通信する機能を有する。外部機器200は、ネットワーク300を介して、成長誘導制御装置100と相互に接続され、各端末に対して成長誘導プロトコルを提供するデータベース等を提供する外部データベースや、成長誘導制御プログラムや画像形態認識プログラム等の外部プログラム等を実行するウェブサイト等を提供する機能を有する。
【0051】
ここで、外部機器200は、例えば、パーソナルコンピュータや、サーバ用のコンピュータなどのハードウェア要素と、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム、その他のデータなどのソフトウェア要素とで実現されてもよい。例えば、外部機器200は、WEBサーバやASPサーバ等として構成していてもよく、そのハードウェア構成は、一般に市販されるワークステーション、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置およびその付属装置により構成していてもよい。また、外部機器200の各機能は、外部機器200のハードウェア構成中のCPU等のプロセッサ、ディスク装置、メモリ装置、入力装置、出力装置、通信制御装置等およびそれらを制御するプログラム等により実現される。
【0052】
以上で、本実施形態の成長誘導システムの各構成の説明を終える。
【0053】
[成長誘導制御処理]
次に、このように構成された本実施形態の成長誘導システムにおける成長誘導制御装置100の成長誘導制御処理の一例について、以下に
図5を参照して詳細に説明する。
図5は、本実施形態の成長誘導システムにおける成長誘導制御装置100の成長誘導制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0054】
まず、成長状況検出部102aは、センサやカメラ等の入力部112を介して、培養槽40内の成長誘導対象の成長状況を検出する(ステップSA−1)。例えば、成長状況検出部102aは、pHや、塩分濃度、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、カルシウムイオン濃度、温度、糖度、圧力、シグナル伝達物質濃度、シグナル伝達たんぱく質濃度、特定波長での吸光度等を、入力部112を介して検出することにより、臓器等の成長誘導対象の成長状況を判定してもよい。一例として、成長状況検出部102aは、ELISA法により抗体に捕捉された抗原の有無や量に基づいて成長状況を判定してもよく、芳香属アミノ酸特定の波長域280nmでの吸光度でタンパク量を定量して成長状況を判定してもよく、カメラ等で撮像された画像に基づいて形態認識を行うことで成長状況を判定してもよい。
【0055】
そして、流量制御部102bは、成長誘導ファイル106aに記憶された成長誘導プロトコルを読み出す(ステップSA−2)。例えば、流量制御部102bは、成長誘導プロトコルのデータベースから、成長誘導対象の成長誘導プロトコルを抽出してもよい。
【0056】
そして、流量制御部102bは、読み出した成長誘導プロトコルを参照し、成長状況検出部102aにより検出された成長誘導対象の成長状況に応じた、サイトカインを含む培養液の供給量を決定する(ステップSA−3)。なお、流量制御部102bは、厳密な意味で供給量の数値まで決定する必要はない。例えば、サイトカインが閾値以上の濃度で成長誘導対象に成長を誘導するのならば、供給量は、その閾値以上であればよい。さらに、流量制御部102bは、成長誘導プロトコルに閾値のデータがなく、かつ、培養液に含まれるサイトカインの量が不明な場合であっても、弁開閉制御による供給量の履歴情報と、その供給の結果、成長状況検出部102bにより判定された成長誘導対象の成長状況の変化を対応付けることによって、サイトカインの作用量を学習することができる。そして、次回以降、学習データベースを参照して、流量制御部102bは、供給量を概算してもよいものである。
【0057】
つづいて、流量制御部102bは、培養槽配置ファイル106bの配置情報に基づいて、必要なサイトカインの種類や供給量の培養液を、当該成長対象へ供給するため、出力部114を介して弁1の切替制御や流量制御を行う(ステップSA−4)。
【0058】
以上が、本実施形態の成長誘導システムにおける成長誘導制御装置100の成長誘導制御処理の一例である。なお、成長誘導制御装置100は、上述したステップSA−1〜SA−4の処理を繰り返し行ってもよい。
【0059】
[実施例]
以下、本発明にかかる実施形態の様々な実施例について説明を行う。
【0060】
本発明の本実施形態は、サイトカインを分泌する細胞、組織ないし臓器を複数種類培養し、相互作用させ、成長誘導対象の増殖や分化等の成長を誘導するシステムや装置、方法等を提供する。また、本発明の実施形態は、分泌されるサイトカインが、他のサイトカイン分泌体に作用するにあたり、その順序を制御したり、成長誘導対象にサイトカインを作用させたりするシステムや装置、方法等を提供とすることを目的とする。以下、図面を参照しながら本実施例1〜8を説明する。
【0061】
<実施例1>
図6を用いて、本実施例の臓器成長誘導装置の態様を説明する。本発明の実施例1を示す構成図を
図6に示す。
図6は、実施例1および2の構成を示す図である。
【0062】
実施例1の細胞組織41は、成長誘導対象となる細胞あるいは細胞組織ないしは臓器等である。成長誘導対象41としては、細胞、細胞塊、臓器、複数の臓器が連結したもの等でもよい。
【0063】
容器(培養槽)40は、培養する成長誘導対象41を保存する。容器40は、成長誘導対象41を格納できる大きさを持ち、外部からの衝撃や接触から成長誘導対象41を保護する。さらに容器40は、遮光性、耐衝撃性、遮熱性などの機能を有してもよい。
【0064】
容器40内での成長誘導対象41の保存方法として、培養液が流入してくる管を動脈に、流出してゆく管を静脈に接続することにより、臓器に培養液を灌流させてもよい。培養液を望む方向に流すための圧力を与える方法として、流路上でポンプを使用する方法、重力を利用する方法、浸透圧を利用する方法等が考えられる。これ以外にも、特許文献1(特許第5881422号公報)に記載されるように、横隔膜に包まれた状態で吊り下げるなど、公知の方法で担持してもよい。
【0065】
サイトカイン分泌組織収納装置60は、サイトカイン分泌組織50を保存する。サイトカイン分泌組織50としては、摘出もしくは培養された副腎、甲状腺、脳下垂体のほか、サイトカインを分泌する機能を持つ、遺伝子組み換え体を導入した細胞でも良い。サイトカインの種類として、成長ホルモンや性ホルモン、サイトカインとして上皮成長因子(Epidermal Growth Factor(EGF))、線維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor(FGF))、肝細胞成長因子(Hepatocyto Growth Factor(HGF))やケモカインなどが挙げられる。
【0066】
弁1−00もしくは弁1−11を経由して流入してくる培養液には、サイトカイン分泌組織収納装置60にてサイトカインが添加され、弁1−20を経由して流出する。
【0067】
同様に、サイトカイン分泌組織収納装置61には、サイトカイン分泌組織51が格納されている。また、収納装置61について、中にサイトカイン分泌組織51を格納せずに空のままとし、培養液の流路としてのみ用いることもできる。
【0068】
弁1−00,1−01,1−11,1−20,1−21は、環流培養液の流量を制御する。弁の構造としては、油圧、空気圧、水圧などの物理的な力で駆動してもよいし、電磁気力を用いてもよい。
【0069】
ここで、弁1−00,1−11,1−21を開放し、弁1−01と1−20を閉じれば、流路系は透析部30、弁1−00、収納装置60、弁1−11、収納装置61、弁1−21、容器40の順につながる。
【0070】
ここで、弁1−01,1−11,1−20を開放し、弁1−00と1−21を閉じれば、流路系は透析部30、弁1−00、収納装置61、弁1−11、収納装置60、弁1−21、容器40の順につながり、収納装置60と収納装置61の流路上での順番が、先の例に対して逆になる。
【0071】
また、弁1−00と1−20を開放し、弁1−01,1−11,1−21を閉じれば、収納装置60のみが流路系上に乗る。
【0072】
入力部112の一部機能として、センサ70は、容器40内部の環境、例えば臓器の状態を検出する。センサ70によって検出された、臓器の状態に関する情報は、入出力制御インターフェイス108等の入力デバイス80へ向けて送信され、制御デバイス90に入力される。なお、複数のセンサを備えてもよい。
【0073】
図7は、本実施例の制御部デバイス90のシステムブロック図である。本実施例の制御デバイス90は、上述した実施形態の制御部102ないし記憶部106に相当し、
図7に示すソフトウェア、もしくはこれに類似するシステムを備えており、入力デバイス80からの信号に基づき、弁1−00,1−01,1−11,1−20,1−21の開閉を制御する。
図8は、培養手順データとホルモン分泌細胞の配置情報の例である。
図9は、弁開閉操作手順を示すフローチャートの一例である。
【0074】
本実施例の制御デバイス90は、上述した実施形態の成長誘導ファイル106aに相当する、培養手順データ901と、これを格納する培養手順データベース902と、を備える。また、制御デバイス90は、上述した実施形態の成長誘導ファイル106bに相当する、どの収納装置にどのサイトカイン分泌組織が収納されているかを記述したホルモン分泌細胞の配置情報903(
図8参照)を備える。
【0075】
また、制御デバイス90は、培養手順データベース902とホルモン分泌細胞配置情報903から、弁開閉操作手順書を生成する弁開閉手順作成部904(
図9参照、上述した流量制御部102bに相当)と、弁開閉操作手順書に従って弁1−00、1−01、1−11、1−20、1−21の開閉操作を実施する弁開閉制御部905(上述した流量制御部102bに相当)を備える。弁の開閉制御の手段としては、電気信号によるもの、無線によるもの、機械的な作用によるものなど、様々な機構が考えられる。
図10は、本実施形態を用いて臓器を培養し、その過程で弁の開閉操作を実施した場合の、臓器の成長過程での各因子の培養液中濃度を示す図である。
【0076】
以上の構成とその動態により、細胞組織41は
図10のとおりに時間変化する濃度のサイトカインの化学的暴露を受け、細胞組織41の成長と分化が制御される。
【0077】
<実施例2>
実施例2では実施例1の構成(
図6参照)を用いて、胎盤細胞を50、肝臓細胞を51、筋芽細胞を成長誘導対象41とし、容器40の中で筋肉組織を成長させる場合での本発明の実施形態を、フローチャートを参照して説明する。
【0078】
特許文献3では、胎盤細胞が分泌する増殖因子HGFが肝臓細胞に作用し、肝臓細胞を分裂・分化させる。さらに特許文献4(特表2008−513013)では、肝臓細胞が分泌する因子が、筋芽細胞に作用し、これを未分化な状態で増殖させることが報告されており、後にこの因子がTGFβであることが報告された(特許文献5:特許第5797113号参照)。
【0079】
このことを踏まえて、本実験では、妊娠12.5日目のマウス胎児から胎盤、肝臓、筋芽細胞を回収し、それぞれMEMαに10%FBSを添加した培養液で1週間培養を行った。その間、胎盤細胞50の培養上清を肝臓細胞51へ、肝臓細胞51の培養上清を筋芽細胞41へ移動させて行った。培養液の移動量として、全体の50%、25%、10%と、0%の未移動の処理区を設けた。最終的に、培養した細胞数あるいはサイズ別で細胞数をカウントした。
図11は、実施例2における培養手順データとホルモン分泌細胞の配置情報の例を示す図表である。
【0080】
装置を動作させる準備として、
図11の培養手順書とホルモン分泌細胞の配置情報を入力し、弁開閉操作手順書が生成される。
図12は、本実施例での弁開閉操作手順書をフローチャートで表わしたものである。
【0081】
生成された弁開閉操作手順書に従って培養操作が始まると、初期状態では、弁1−00、1−11、1−21は開放され、弁1−01と1−20は閉じている。この構成においては、胎盤細胞50が肝臓細胞51の上流に位置し、胎盤細胞50が分泌する成長因子が肝臓細胞51に作用する。
【0082】
胎盤細胞50がある程度増殖し、センサ70が閾値である100ng/mL以上の成長因子を検出すると、胎盤細胞50を収納する収納装置60から、肝臓細胞51を収納する収納装置61への流路を遮断するため、弁1−01と1−21が開かれ、弁1−00,1−11,1−20が閉じられる。この操作により、収納装置61のみが流路系上に残り、筋芽細胞41に適切な量の血清成分が供給され続け、筋芽細胞41は筋肉組織へと分化する。
【0083】
次に肝臓細胞51がさらに増殖し、センサ70が閾値以上の血清成分を検出すると、肝臓細胞51を収納する収納装置61から筋芽細胞41を収納する容器40への流路を遮断するため、弁1−00と1−20が開かれ、弁1−01,1−11,1−21が閉じられる。この操作により筋芽細胞41に対する血清成分の暴露が停止し、筋芽細胞41のこれ以上の筋肉組織への分化が停止する。
【0084】
その後、筋芽細胞から分化した筋肉組織がさらに成長し、筋肉組織が放出するシグナル物質の濃度が閾値の0.2ng/Lを越えたことをセンサ70が検出すれば、十分な量の筋肉組織が得られていると判断し、培養操作が終了する。
【0085】
この一連の操作の間、センサ70が検出する成長因子、血清成分、およびシグナル物質の時間変化は、
図13に示す通りとなる。
図13は、実施例2の筋芽細胞の培養過程での各因子の培養液中濃度の時系列変化を示す図である。
【0086】
図14は、本実施例2の結果得られた、胎盤細胞培養上清による肝臓細胞の増殖を示す図であり、
図15は、肝臓細胞培養上清による筋芽細胞の増殖を示す図である。
図14および
図15に示すように、本実施例により、胎盤細胞50が肝臓細胞51に作用し、細胞が増殖し、肝臓細胞51が細胞組織41に作用し、細胞が増殖することが確かめられた。
【0087】
<実施例3>
本実施形態の実施例3を示す構成図を
図16に示す。
図16は、実施例3の構成図である。本実施例では、3種類のサイトカイン分泌組織を相互作用させることができる。
【0088】
例えば弁1−00、1−10、1−12と1−21を開放し、それ以外の弁1−01,1−02,1−11,1−20,1−22を閉めることにより、流路系は収納装置60、62、61の順につながる。
【0089】
それに対して、弁1−01、1−11,1−10,1−22を開放し、それ以外の弁1−00,1−02,1−12,1−20,1−21を閉じれば、流路系は収納装置61,60,62の順につながる。
【0090】
弁1−02,1−10,1−20を開放し、それ以外の弁1−00,1−01,1−11,1−12,1−21,1−22を閉じれば、流路系は収納装置62,60の順につながり、収納装置61は流路系から外れる。
【0091】
このように、弁を開閉して流路系の順序や構成要素を制御することにより、サイトカイン分泌組織の活動を制御する手法は、4種類以上のサイトカイン分泌組織を同数の収納装置に1つずつ格納した構成でも適用可能である。
【0092】
<実施例4>
本実施形態の実施例4を示す構成図を
図17に示す。
図17は、実施例4の構成図である。本実施例では、弁1−00,1−01,1−11,1−20,1−21の操作により、収納装置60もしくは61のいずれか、もしくは両方が流路系から独立した場合に、サイトカイン分泌組織50と51あるいはその一方が、死滅せずに保存される手段を提供する。
【0093】
本実施例では、
図1に示す第1実施例に加えて、収納装置60は、ポンプ601、ガス交換部602、透析部603からなる流路系を備えている。
【0094】
例えば、弁1−01と1−21を開放し、弁1−00,1−11,1−20を閉じた場合、収納装置61は透析部30から容器40に至る流路系に乗るが、収納装置60は独立する。この場合、長時間が経過するとサイトカイン分泌組織50の活動により、老廃物の蓄積と、酸素と栄養素の欠乏が起こり、サイトカイン分泌組織50は死滅する。そこで、ポンプ611、ガス交換部612、透析部613が培養液を還流させることにより、サイトカイン分泌組織50の生命活動を維持する。
【0095】
収納装置61に対してのポンプ611、ガス交換部612、透析部613と同様の装置を、収納装置60にも備えることにより、収納装置60が流路系から独立した場合も、サイトカイン分泌組織50の生命活動を維持することができる。
【0096】
<実施例5>
実施例5では、
図1に示す収納装置60,61と容器40、およびそれらを接続する流路に気泡、細胞あるいは細胞断片、その他のごみなどの異物が侵入するのを防ぐ手段を提供する。
図18は、実施例5および実施例6の構成図である。
【0097】
例えば、収納装置60に気泡やごみなどの異物が侵入した場合、細胞あるいは組織に異物が接着することでその細胞部位に培養液が行きわたることができず、栄養素の欠乏と乾燥が起こり、サイトカイン分泌組織50は局所的に死滅する。細胞あるいは細胞が侵入した場合は、細胞あるいは組織に詰まりや接着を引き起こし、細胞あるいは組織の形質を変えるあるいは死滅を誘起する。
【0098】
本実施例では、弁1−00,1−01,1−11,1−20,1−21は、異物を除去する、カラム、フィルタ、トラップ、分岐フロー等の機構を備えている。この機構により、例えば流路系上で生じた異物が収納装置60に流れ込む前に、異物を除去する機構を備えた弁1−00によって異物が除去され、サイトカイン分泌組織50は生命活動を維持できる。
【0099】
異物を除去する機構として、フィルタ、カラム、トラップは、継続して使用するうちに目詰まりを起こし、流路系が妨げられるため、定期的な清掃が必要にある。定期的な清掃を不要となる手段としては、BD社やベックマンコールター社などが販売しているセルソーターを用いてもよいし、層流を用いたオンチップ・バイオテクノロジーズの持つ特許(特許第4601423号公報(特願2004−379327))で公開されているソート技術を用いることもできる。
【0100】
<実施例6>
実施例6では、
図1に示す収納装置60,61と容器40、およびそれらを接続する流路から、特定のたんぱく質や化合物などの成分を除去、もしくはその生理学的効果を滅失する手段を提供する。
【0101】
本実施例では、弁1−00,1−01,1−11,1−20,1−21は、特定のたんぱく質や化合物などの成分を除去、もしくはその生理学的効果を滅失させるための、加熱装置、UV照射装置、レーザー照射装置、化合物もしくはその溶液の注入装置等の機構を備えている。この機構により、除去の対象とする特定のたんぱく質や化合物などの成分が、例えば収納装置60に流れ込む前に、弁1−00によってその成分を除去することができる。
【0102】
例として、血清成分である肝臓が分泌するアルブミンは、60℃を超えた辺りから急速に形質が変化し、生理活性を失うことが報告されている。一方で、乳タンパク質であるカゼインは60℃を超えても比較的安定している(Kato A, Osako Y, Matsudomia Y, Kobayashia K,“Changes in the Emulsifying and Foaming Properties of Proteins during Heat Denaturation”, Agricultural and Biological Chemistry, 1983,47巻33−37:社団法人日本農芸化学会)。これらのようにタンパク質の構造の特性によって熱耐性が異なっており、これらの差を利用して特定のタンパク質の生理学的効果を減失させることができる。
【0103】
<実施例7>
本発明の実施例7を示す構成図を
図19に示す。
図19は、実施例7の構成図である。実施例7では、流路系が環状になっており、培養液が循環して再利用される。
【0104】
ポンプ10は、臓器収納容器40からガス交換部20の方向に培養液を環流させる圧力を供給する。ポンプは、定常流ポンプであっても、拍動型ポンプであってもよいが、拍動型ポンプの方がより望ましい。また、ポンプ10の位置は、ガス交換部20と透析部30の間や、収納装置60や保存する容器40の間など、ガス交換部20、透析部30、容器40を結ぶ流路上で、培養液に還流圧力を加えられる場所ならどこでもよいし、複数設置してもよい。
【0105】
ガス交換部20は、培養液の中から二酸化炭素を除去し、酸素を加える。この機能は、人工心肺などで用いられる、酸素・二酸化炭素交換機能と同等である。
【0106】
透析部30は、流入してくる培養液の一部もしくは全てから老廃物を除去する。除去の方法として、半透膜を使ってもよいし、老廃物を凝縮沈殿させてもよいし、新たな培養液と交換してもよい。
【0107】
本実施例では培養液が還流するため、
図19に示す通りに相互作用が周回し、細胞組織41が分泌する物質が、サイトカイン分泌組織50もしくは51に対して作用する効果も得られる。
【0108】
ここで、
図20は、実施例7における、細胞間作用の周回を示す図である。
図20では、細胞組織41に筋芽細胞、サイトカイン分泌組織50が胎盤細胞である場合に、筋芽細胞が胎盤細胞の増殖を促している結果を示す。ここでは、筋芽細胞が分泌するEFGおよびFGFが胎盤細胞に作用していると考えられる。
図21は、本実施例7による筋芽細胞上清による胎盤細胞の増殖を示す図である。
図21に示すように、本実施例7により還流機構により、各種のサイトカインを含む培養液を循環させて、成長誘導対象を相互作用させて、所望の細胞や組織を得られることが確かめられた。
【0109】
<実施例8>
本実施形態の実施例8を示す構成図を
図22に示す。
図22は、実施例8の構成図である。
【0110】
本実施例では、容器40およびポンプ10、ガス交換部20、透析部30および、それらを接続する流路に、気泡、細胞、細胞断片、その他のごみなどの異物が侵入するのを防ぐ手段を提供する。
【0111】
収納装置40に異物が侵入した場合、細胞あるいは組織に詰まりや接着を引き起こし、細胞あるいは組織41の形質を変えるあるいは死滅を誘起したり、流路の詰まりを引き起こす。異物が細胞あるいは細胞断片である場合は、細胞のコンタミネーションが起こり、正常な増殖、分化が阻害されることがある。
【0112】
そこで、本実施例では、収納装置40は、その上流にカラム、フィルタ、トラップ、分岐フロー等の、異物を除去する機構130を備えている。
【0113】
以上で、実施例1〜8を含む本実施形態の説明を終える。
【0114】
[他の実施形態]
さて、これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施形態にて実施されてよいものである。
【0115】
例えば、成長誘導制御装置100は、スタンドアローンの形態で処理を行うよう一体として構成された例について説明を行ったが、これに限られず、外部機器200等のクライアント端末からの要求に応じて処理を行い、その処理結果を当該クライアント端末に返却してもよい。
【0116】
また、実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0117】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0118】
また、成長誘導制御装置100や培養槽40を含む成長誘導システムや外部機器200に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0119】
例えば、成長誘導制御装置100の各装置が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサおよび当該プロセッサにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアプロセッサとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する、コンピュータに本発明に係る方法を実行させるためのプログラム化された命令を含む、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されており、必要に応じて成長誘導制御装置100や外部機器200に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDD(Hard Disk Drive)などの記憶部106などには、OS(Operating System)と協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0120】
また、このコンピュータプログラムは、成長誘導制御装置100や外部機器200に対して任意のネットワーク300を介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0121】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray(登録商標)Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0122】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。プログラムが、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラム製品として本発明を構成してもよい。
【0123】
記憶部106に格納される各種のデータベース等(成長誘導ファイル106a,培養槽配置ファイル106b等)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、および、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0124】
また、成長誘導制御装置100や外部機器200は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、成長誘導制御装置100や外部機器200は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0125】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【0126】
<先行技術の説明および対比>
なお、先行技術に対する補足として、先行技術の構成・動作の説明を行う。特許文献2(特開2001−120261)では、造血細胞前駆細胞を分化させ、造血をコントロールする手段を提供している。具体的には、ヒト幹細胞を環流培養し、傍らに設置されたヒト造血前駆細胞の環流培養系から造血増殖因子を含む培養液が、ヒト幹細胞の環流培養系に流入するように設定されている。この結果、ヒト幹細胞からの造血が促される。
【0127】
特許文献3(特表2013−510590)では、バイオリアクタまたは他の装置および構成要素を用いて組織及び臓器を成長させるまたは分析するための物品および方法が提供されている。この特許文献3では、(特許文献2でのヒト造血前駆細胞のような)サイトカイン分泌細胞と、ヒト幹細胞のような成長誘導対象の組織が同一の環流培養系に配置され、分泌されたサイトカインが培養液に乗って成長誘導対象の組織に届き、成長誘導対象の組織を成長、分化させる。
【0128】
特許文献4(特表2008−513013)では、サイトカインを分泌する複数種類の細胞を同時に培養し、適宜流路を変更して任意に特定の種類の成長分化サイトカインを、観察対象の細胞および組織に作用させる方法が公開されている。
【0129】
<先行技術と本実施形態との比較>
特許文献2に対して本実施形態では、サイトカイン分泌細胞と成長誘導対象の組織が、同一の環流培養形上に直列に配置されており、成長、分化の構造および制御方法が異なる。
【0130】
特許文献3に対して本実施形態では、複数種類のサイトカイン分泌細胞が、成長誘導対象の組織に対して作用できる構造になっており、より複雑なサイトカインの制御を実現する。
【0131】
特許文献4に対して本実施形態では、成長誘導対象の組織に対して複数種類のサイトカイン分泌細胞が作用できるだけでなく、サイトカイン分泌細胞同士が相互作用できる構造になっており、より複雑なサイトカイン代謝を実現する。これにより、成長誘導対象の組織に対して、より細かなサイトカインによる制御ができる。
【0132】
細胞の増殖、分化、あるいは組織や臓器の発生において、異なる段階にて異なるサイトカインが必要であるが、本実施形態では段階に応じて異なるサイトカインを得る手段を提供することができる。より具体的には、複数の種類のサイトカイン分泌細胞、AおよびBが、順序が変更可能な流路上に直列で配置されており、環流培養されている。ここでは下流に配置されたサイトカイン分泌細胞Bが、上流に配置されたサイトカイン分泌細胞Aが分泌するサイトカインAに応答して、本来のBではなく、別種のサイトカインCを分泌するように転換できる構成になっている。
【0133】
サイトカイン分泌の制御により、未分化な細胞の増殖や分化、未成熟の組織や臓器の成長や分化を制御することができる。応用的な利用として、臓器の長期保存や、臓器の外的要因に対する反応などの観察もできる。サイトカイン分泌細胞の転換は、各種センサによる自動か手動にて培養液の流路を変更することで制御される。
【0134】
<参考特許文献>
1.特許第5881422号「臓器又は組織の灌流培養方法及び灌流培養装置」
2.特開2001−120261号公報「ヒト幹細胞含有組成物の培養方法及び形質転換方法」
3.特表2013−510590号公報「臓器を形成および/または分析するためのバイオリアクタ、システム及び方法」
4.特表2008−513013号公報「細胞培養用の潅流バイオリアクタ」
5.特許第5797113号「バイオ人工臓器作製方法」
【0135】
(付記1)
成長誘導対象が細胞または組織である場合は、培養層に培養液を行き渡らせ、当該成長誘導対象を長期培養し、成長誘導対象が臓器である場合は、培養臓器の血管に培養液を行き渡らせ、当該成長誘導対象を長期間培養する第一の手段と、
サイトカインを分泌する細胞種に培養液を行き渡らせ、培養臓器を長期間培養する第二の手段と、
サイトカインを分泌する細胞種に、サイトカインを分泌させる第三の手段と、
サイトカインが含まれる培養液を、前記成長誘導対象の培養層あるいは培養臓器に行き渡らせる第四の手段と、
サイトカインが含まれる培養液の流量を制御する第五の手段と、
を備えたことを特徴とする、成長誘導装置。
【0136】
(付記2)
細胞あるいは組織あるいは臓器の成長誘導装置であって、
一種類目のサイトカイン分泌細胞あるいは組織(50)と、
サイトカイン分泌細胞あるいは組織(50)を保存するサイトカイン分泌組織収納装置(60)と、
二種類目のサイトカイン分泌細胞あるいは組織(51)と、
サイトカイン分泌臓分泌細胞あるいは組織(61)を保存するサイトカイン分泌細胞あるいは組織収納装置(61)と、
収納装置(60)への培養液の流入量を調節する弁(1−00)と、
収納装置(61)への培養液の流入量を調節する弁(1−01)と、
収納装置(60)と収納装置(61)の間の培養液の流量を調節する弁(1−11)と、
収納装置(60)からの培養液の流出量を調節する弁(1−20)と、
収納装置(61)からの培養液の流出量を調節する弁(1−21)を、その下流に、成長誘導の対象とする細胞あるいは組織あるいは臓器(41)と、
細胞あるいは組織あるいは臓器(41)を保存する容器(40)と、
細胞あるいは組織あるいは臓器41の状態を検出するセンサ部(70)と、
センサー(70)の信号等の、外部からの入力を受ける入力部(80)と、
入力部(80)からの信号に基づき、弁(1−00,1−01,1−11,1−20,1−21)の開閉を制御する、弁開閉制御部(90)を備えたこと
を特徴とする成長誘導装置。
【0137】
(付記3)
付記2に記載の成長誘導装置であって、
さらに3種類目のサイトカイン分泌細胞あるいは組織(52)と、
サイトカイン分泌細胞あるいは組織(52)を保存するサイトカイン分泌細胞あるいは組織収納装置(62)と、
収納装置(62)への培養液の流入量を調節する弁(1−02)と、
収納装置(60)と収納装置(62)の間の培養液の流量を調節する弁(1−10)と、
収納装置(61)と収納装置(62)の間の培養液の流量を調節する弁(1−12)と、
収納装置(62)からの培養液の流出量を調節する弁(1−22)を備えたこと、
を特徴とする、成長誘導装置。
【0138】
(付記4)
付記2または3に記載の成長誘導装置であって、
さらにサイトカイン分泌細胞あるいは組織(50)の収納装置(60)が、ポンプ(611)、ガス交換部(612)、透析部(613)からなる環流系を備えたこと
を特徴とする、成長誘導装置。
【0139】
(付記5)
付記2乃至4のいずれか一つに記載の成長誘導装置であって、
さらに流路上での弁(1−00、1−01、1−02、1−10、1−11、1−12、1−20、1−21、1−22)の位置で、カラム、フィルタ、弁を備えた流路分岐点などの、気泡、細胞あるいは細胞断片、その他のごみなどの異物を、流路系から除去する機構を備えることを特徴とする、成長誘導装置。
【0140】
(付記6)
付記2乃至5のいずれか一つに記載の成長誘導装置であって、
流路上での弁(1−00、1−01、1−02、1−10、1−11、1−12、1−20、1−21、1−22)のいずれか、もしくはすべての位置で、加熱、ろ過、吸着、選択的化学反応などにより、特定の有機化合物、無機化合物、たんぱく質などの化合物を、分解、除去、失活などの方法により、その生理学的活性を喪失させる機構を備えることを特徴とする、成長誘導装置。
【0141】
(付記7)
付記2乃至6のいずれか一つに記載の成長誘導装置であって、
さらに培養液に酸素を供給し、二酸化炭素を排出するガス交換部(20)と、
培養液から老廃物を除去する透析部(30)を備え、
培養液を還流して再使用することを特徴とする、成長誘導装置。
【0142】
(付記8)
付記2乃至7のいずれか一つに記載の成長誘導装置であって、
細胞あるいは組織あるいは臓器(40)を保存する容器(41)が、細胞あるいは細胞断片やその他のごみを通さないフィルタあるいは、除去装置(130)を具備することを特徴とする成長誘導装置。
【0143】
(付記9)
付記2乃至8のいずれか一つに記載の成長誘導装置の機能を実現するための各ステップを含むことを特徴とする、成長誘導方法。
【0144】
(付記10)
成長誘導対象が細胞または組織である場合は、培養層に培養液を行きわたらせ、当該成長誘導対象を長期培養し、成長誘導対象が臓器である場合は、培養臓器の血管に培養液を行き渡らせ、当該成長誘導対象を長期間培養する第一のステップと、
サイトカインを分泌する細胞種に培養液を行き渡らせ、培養臓器を長期間培養する第二のステップと、
サイトカインを分泌する細胞種に、サイトカインを分泌させる第三のステップと、
サイトカインが含まれる培養液を、前記成長誘導対象の培養層あるいは培養臓器に行き渡らせる第四のステップと、
サイトカインが含まれる培養液の流量を制御する第五のステップと、
を含むことを特徴とする、成長誘導方法。
【0145】
(付記11)
成長誘導対象が細胞または組織である場合は、培養層に培養液を行きわたらせ、当該成長誘導対象を長期培養し、成長誘導対象が臓器である場合は、培養臓器の血管に培養液を行き渡らせ、当該成長誘導対象を長期間培養する第一のステップと、
サイトカインを分泌する細胞種に培養液を行き渡らせ、培養臓器を長期間培養する第二のステップと、
サイトカインを分泌する細胞種に、サイトカインを分泌させる第三のステップと、
サイトカインが含まれる培養液を、前記成長誘導対象の培養層あるいは培養臓器に行き渡らせる第四のステップと、
サイトカインが含まれる培養液の流量を制御する第五のステップと、
を含む方法をコンピュータに実行させるための、成長誘導プログラム。
成長段階ごとにサイトカインを添加するコストを抑えて成長を誘導するため、生体由来の成長誘導対象に培養液を灌流する第一の培養槽、サイトカインを分泌する分泌体に培養液を灌流する第二の培養槽、および、検出部と記憶部と制御部とを備えた成長誘導制御装置、を備えた成長誘導システムにおいて、成長誘導手順を規定する成長誘導プロトコルを記憶させ、制御部において、検出部を介して成長誘導対象の成長状況を検出し、成長誘導プロトコルに基づいて、成長誘導対象の成長状況に応じて、分泌体が分泌したサイトカインを含む培養液を成長誘導対象に供給する流量を制御する。