【実施例】
【0028】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0029】
(参考例1)アメリカカブトガニ由来のD−乳酸脱水素酵素遺伝子を導入した酵母
本発明の乳酸生産酵母変異株を得るための親株として、WO2010/140602号に記載されるアメリカカブトガニ由来のD−乳酸脱水素酵素遺伝子を酵母(サッカロマイセス・セレビセ)に導入したSU042株を使用した。
【0030】
(参考例2)アフリカツメガエル由来のL−乳酸脱水素酵素遺伝子を導入した酵母
本発明の乳酸生産酵母変異株を得るための親株として、WO2009/099044号に記載されるアフリカツメガエル由来のL−乳酸脱水素酵素遺伝子を酵母(サッカロマイセス・セレビセ)に導入したHI003株を使用した。
【0031】
(参考例3)乳酸濃度および光学純度のHPLCによる分析方法
乳酸の濃度は、以下の条件でHPLC法により測定した。
カラム:Shim−Pack SPR−H(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/分)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/分)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0032】
また、乳酸の光学純度は、以下の条件でHPLC法により測定したL−乳酸およびD−乳酸濃度の測定結果から、次式に基づいて計算した。
カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー株式会社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/分
検出方法:UV254nm
温度:30℃
D−乳酸光学純度(%e.e.)=100×(D−L)/(L+D)
L−乳酸光学純度(%e.e.)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度であり、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0033】
(比較例1)乳酸生産酵母の乳酸生産能評価
参考例1に記載のSU042株を、表1の発酵培地に2%(w/v)D−乳酸(>99.9e.e.)を加えた培地5ml(pH3、水酸化カルシウムでpH調整。)、サッカロマイセス・セレビセの乳酸発酵至適pH(特開2009−171879号公報の実施例に記載の乳酸発酵酵母の乳酸生産性からpH4.5が乳酸発酵至適pHであると判断した。)になるよう調整した表1の発酵培地5ml(pH4.5)でそれぞれ30℃、72時間振とう培養した。乳酸生産酵母変異株の親株となるSU042株について、培地pH3での乳酸生産能と乳酸発酵至適pH条件下(pH4.5)での乳酸生産能を酵母の乳酸生産量で比較した結果、
図1に見られるとおり培地pH3での乳酸生産能は、乳酸発酵至適pH条件下での乳酸生産性より約55%まで低下することが確認できた。なお、本乳酸生産能評価結果は3回以上再現性を得た結果である。
【0034】
【表1】
【0035】
(実施例1)乳酸生産酵母変異株の作製および乳酸生産能評価
参考例1に記載のSU042株にEMS(シグマ−アルドリッチ社製)による変異処理を行った。SU042株をサッカロマイセス・セレビセの乳酸発酵至適pH(pH4.5)に調整されたSD培地2mlで24時間培養し、さらに該培養液の0.5%を同様のSD培地に植菌して24時間培養しつつ、EMSを添加して乳酸生産酵母に突然変異を誘発させ、その後、突然変異誘発のための培養液の5%を2%(w/v)D−乳酸(>99.9e.e.)含有SD培地2ml(pH2.8、水酸化カルシウムでpH調整。)に植菌して24時間培養した。
【0036】
突然変異処理した培養液について、水酸化カルシウムでpH2.8、pH3.0になるよう調整した2%(w/v)D−乳酸(>99.9e.e.)含有SD寒天培地、pH4.5のSD寒天培地でそれぞれ72時間培養し、pH2.8の寒天培地から1株(KS52)、pH3.0の寒天培地から1株(KS78)、pH4.5のSD寒天培地から1株(KS45)を選抜した。
【0037】
選抜した3株について、それぞれ表1に2%(w/v)D−乳酸(>99.9e.e.)を加えた発酵培地5ml(pH3、水酸化カルシウムでpH調整。)での乳酸生産能の評価結果を親株の乳酸発酵至適pH(pH4.5)条件下で72時間培養した結果を
図1に示す。選抜した株の乳酸生産能は、いずれも親株の乳酸発酵至適pHでの乳酸生産能と同等以上であり、また、親株のpH3での乳酸生産能の約1.8倍であることを確認した。この結果から、選抜した3株は、いずれも乳酸による低pH状態において耐性を有する乳酸生産酵母変異株であると判断し、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託した(KS45株の受託番号:NITE BP−1087、KS52株の受託番号:NITE BP−1088、KS78株の受託番号:NITE BP−1089)。なお、本乳酸生産能評価結果は3回以上再現性を得た結果である。
【0038】
(実施例2〜4、比較例2)乳酸生産酵母変異株のバッチ発酵での乳酸生産能評価
乳酸生産酵母変異株KS45株(実施例2)、KS52株(実施例3)、KS78株(実施例4)と、親株であるSU042株(比較例2)について、それぞれ表2に示す乳酸発酵培地を用いてバッチ発酵によりD−乳酸を製造した。なお、培地組成である粗糖には“沖縄の優糖精”(ムソー株式会社)を用い、該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。
【0039】
乳酸生産能評価のための運転条件を以下に示す。
反応槽容量(乳酸発酵培地量):2L(1L)、温度調整:30℃、反応槽通気量:0.2L/min、反応槽攪拌速度:400rpm、pH調整:5N 水酸化カルシウム懸濁液により適宜調整。
【0040】
まず、変異株3株をそれぞれ試験管で5mlの表1の乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な前々培養と同様な発酵培地50mlに植菌し500ml容の坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。前培養液の全量を植菌してから本培養を行った。本培養はpHを5、4.5、4、3、2.8にそれぞれ調整しながら72時間培養した。それぞれのバッチ培養の結果を
図2に示す。その結果、変異株3株はいずれもpH3以下の低pH状態であっても親株の乳酸発酵至適pH(pH4.5)と同等以上の乳酸生産能を示し、99.9e.e.以上の高い光学純度のD−乳酸を生産した。一方、親株はpH3以下の低pH状態では乳酸発酵至適pHと比較して乳酸生産能が大きく減少した。
【0041】
【表2】
【0042】
(実施例5、比較例3)乳酸生産酵母変異株をアルカリ中和せずに培養した場合の乳酸生産能評価
乳酸生産酵母変異株KS78株(実施例5)と、その親株であるSU042株(比較例3)をそれぞれ表2の乳酸発酵培地5ml(pH5)に植菌し、30℃、72時間の条件で振とう培養した場合の乳酸生産能を
図3に示す。アルカリ中和せずに培養をしたことによって、それぞれの培養液のpHはpH2.5まで低下したにも関わらず、変異株は親株の約9倍の乳酸生産能を示し、本発明の変異株を利用すれば培養工程でアルカリ中和せずに乳酸を高生産できることが確認できた。
【0043】
(比較例4)乳酸生産酵母の乳酸生産能評価
参考例2に記載のHI003株を、表1の発酵培地に2%(w/v)L−乳酸(>99.9e.e.)を加えた培地5ml(pH3、水酸化カルシウムでpH調整。)、サッカロマイセス・セレビセの乳酸発酵至適pHになるよう調整した表1の発酵培地5ml(pH4.5)でそれぞれ30℃、72時間振とう培養した。乳酸生産酵母変異株の親株となるHI003株について、培地pH3での乳酸生産能と乳酸発酵至適pH条件下(pH4.5)での乳酸生産能を酵母の乳酸生産量で比較した結果、
図4に見られるとおり培地pH3での乳酸生産能は、乳酸発酵至適pH条件下での乳酸生産性より約70%まで低下することが確認できた。なお、本乳酸生産能評価結果は3回以上再現性を得た結果である。
【0044】
(実施例6)乳酸生産酵母変異株の作製および乳酸生産能評価
参考例2に記載のHI003株にEMS(シグマ−アルドリッチ社製)による変異処理を行った。HI003株をサッカロマイセス・セレビセの乳酸発酵至適pH(pH4.5)に調整されたSD培地2mlで24時間培養し、さらに該培養液の0.5%を同様のSD培地に植菌して24時間培養しつつ、EMSを添加して乳酸生産酵母に突然変異を誘発させ、その後、突然変異誘発のための培養液の5%を2%(w/v)L−乳酸(>99.9e.e.)含有SD培地2ml(pH2.8、水酸化カルシウムでpH調整。)に植菌して24時間培養した。
【0045】
突然変異処理した培養液について、水酸化カルシウムでpH2.8になるよう調整した2%(w/v)L−乳酸(>99.9e.e.)含有SD寒天培地、pH4.5のSD寒天培地でそれぞれ72時間培養し、pH2.8の寒天培地から1株(KS24)、pH4.5のSD寒天培地から1株(KS30)を選抜した。
【0046】
選抜した2株について、それぞれ表1に2%(w/v)L−乳酸(>99.9e.e.)を加えた発酵培地5ml(pH3、水酸化カルシウムでpH調整。)での乳酸生産能の評価結果を親株の乳酸発酵至適pH(pH4.5)条件下で72時間培養した結果を
図4に示す。選抜した株の乳酸生産能は、いずれも親株の乳酸発酵至適pHでの乳酸生産能と同等以上であり、また、親株のpH3での乳酸生産能の約1.7倍であることを確認した。この結果から、選抜した2株は、いずれも乳酸による低pH状態において耐性を有する乳酸生産酵母変異株であると判断し、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託した(KS24株の受託番号:NITE BP−1189、KS30株の受託番号:NITE BP−1190)。なお、本乳酸生産能評価結果は3回以上再現性を得た結果である。
【0047】
(実施例7〜8、比較例5)乳酸生産酵母変異株のバッチ発酵での乳酸生産能評価
乳酸生産酵母変異株KS24株(実施例7)、KS30株(実施例8)と、親株であるHI003株(比較例5)について、それぞれ表2に示す乳酸発酵培地を用いてバッチ発酵によりL−乳酸を製造した。培地及び培養条件などは前記実施例2〜4と比較例2と同様である。その結果、変異株2株はいずれもpH3以下の低pH状態であっても親株の乳酸発酵至適pH(pH4.5)と同等以上の乳酸生産能を示し、99.9e.e.以上の高い光学純度のL−乳酸を生産した。一方、親株はpH3以下の低pH状態では乳酸発酵至適pHと比較して乳酸生産能が大きく減少した。
【0048】
(実施例9、比較例6)乳酸生産酵母変異株をアルカリ中和せずに培養した場合の乳酸生産能評価
乳酸生産酵母変異株KS24株(実施例7)と、その親株であるHI003株(比較例5)をそれぞれ表2の乳酸発酵培地5ml(pH5)に植菌し、30℃、72時間の条件で振とう培養した場合の乳酸生産能を
図6に示す。アルカリ中和せずに培養をしたことによって、それぞれの培養液のpHはpH2.5まで低下したにも関わらず、変異株は親株の約3倍の乳酸生産能を示し、本発明の変異株を利用すれば培養工程でアルカリ中和せずに乳酸を高生産できることが確認できた。