(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111671
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】駆動信号絶縁回路を用いた電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/483 20070101AFI20170403BHJP
H02M 7/5387 20070101ALI20170403BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20170403BHJP
H03K 17/56 20060101ALI20170403BHJP
H03K 17/10 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
H02M7/483
H02M7/5387 Z
H02M1/08 A
H03K17/56 Z
H03K17/10
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-2341(P2013-2341)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-135838(P2014-135838A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 聡毅
【審査官】
佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−000223(JP,A)
【文献】
特表2008−502215(JP,A)
【文献】
特開2010−200403(JP,A)
【文献】
特開2010−130876(JP,A)
【文献】
特開2007−104805(JP,A)
【文献】
特開2012−182974(JP,A)
【文献】
特開2008−092651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 7/483
H02M 7/5387
H03K 17/10
H03K 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチ素子直列回路と、半導体スイッチ素子をオンオフ制御する駆動信号絶縁回路と、キャパシタとからなるフライングキャパシタ形電力変換装置であって、
前記駆動信号絶縁回路は、駆動信号を異電位間で絶縁して伝送し、絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とフォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続して二重絶縁した直列絶縁回路にて構成され、
前記半導体スイッチ素子直列回路は、直流電源と並列に2n(nは2以上の整数)個の半導体スイッチ素子が直列接続されており、
前記半導体スイッチ素子直列回路の中間点を中心に2N(Nは1〜n−1までの整数)個のキャパシタが半導体スイッチ素子直列回路と並列に接続されており、
前記駆動信号絶縁回路は、前記半導体スイッチ素子の各々に適用されており、
前記いずれかのフライングキャパシタの中間電位点に、前記半導体スイッチ素子の各々に適用された前記絶縁トランスを用いた信号絶縁回路と前記フォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続した駆動信号絶縁回路の直列接続点が接続されていることを特徴とするフライングキャパシタ形電力変換装置。
【請求項2】
第1の半導体スイッチ素子直列回路と、第2の半導体スイッチ素子直列回路と、半導体スイッチ素子をオンオフ制御する駆動信号絶縁回路と、キャパシタとからなるフライングキャパシタ形電力変換装置であって、
前記駆動信号絶縁回路は、駆動信号を異電位間で絶縁して伝送し、絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とフォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続して二重絶縁した直列絶縁回路にて構成され、
前記第1の半導体スイッチ素子直列回路は、直流電源と並列に2n(nは2以上の整数)個の半導体スイッチ素子が直列接続されており、
前記第1の半導体スイッチ素子直列回路の中間点を中心に2N(Nは1〜n−1までの整数)個のキャパシタが第1の半導体スイッチ素子直列回路と並列に接続されており、
前記第2の半導体スイッチ素子直列回路は、前記Nの最大値で決められたキャパシタと並列に複数の半導体素子が直列接続されており、
前記第2の半導体スイッチ素子直列回路の中間接続点と前記直流電源の中間電位点との間に双方向のスイッチングが可能な双方向スイッチを接続されており、
前記半導体スイッチ素子の各々に前記駆動信号絶縁回路が適用されており、
前記いずれかのフライングキャパシタの中間電位点に、前記半導体スイッチ素子の各々に適用された前記絶縁トランスを用いた信号絶縁回路と前記フォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続した駆動信号絶縁回路の直列接続点が接続されていることを特徴とするフライングキャパシタ形電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフライングキャパシタ形電力変換装置において、駆動信号絶縁回路は、前記駆動信号の送信元となる基準電位側を絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とし、前記半導体スイッチ素子側をフォトカプラを用いた信号絶縁回路とすることを特徴とするフライングキャパシタ形電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフライングキャパシタ形電力変換装置において、駆動信号絶縁回路は、前記絶縁トランスの1次巻線を前記基準電位側で駆動し、前記絶縁トランスの2次巻線から前記フォトカプラのフォトダイオードにオン信号時の電流を供給することを特徴とするフライングキャパシタ形電力変換装置。
【請求項5】
請求項3または4項に記載のフライングキャパシタ形電力変換装置において、駆動信号絶縁回路は、前記絶縁トランスを用いた信号絶縁回路と前記フォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続する直列接続点を、前記基準電位と前記直列絶縁回路を介して駆動する半導体スイッチ素子のエミッタ電位との間の中間電位点に接続することを特徴とするフライングキャパシタ形電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータなどの電力変換装置に適用する電力用半導体スイッチ素子を駆動する信号の絶縁回
路を適用した電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に電力変換回路の代表回路である直流から交流に電力変換する2レベルインバータの主回路構成図を示す。1は直流電源,2は負荷としての交流電動機,3は電力用半導体素子で構成するインバータ回路で,直流電源1の直流電圧Edを交流電圧に変換し、電圧と周波数の可変出力が可能である。但し一般には直流電源1は,図示していない交流電源とダイオード整流器などを介して,大容量のコンデンサで構成される。また前記直流電圧Edが前記コンデンサ単体の電圧定格よりも高いときはコンデンサを複数個直列に接続する。
【0003】
ここに示すインバータ回路3は3相出力の回路であり、U相用のアーム直列回路3U、V相用のアーム直列回路3V、W相用のアーム直列回路3Wを直流電源1と並列接続して構成される。各アーム直列回路の直列接続点は交流出力となり、負荷としての交流電動機2に接続される。アーム各々は、U相用のアーム直列回路3Uの上アームの例に示すように、スイッチ素子であるIGBT4,IGBT4と逆並列に接続されるダイオード5,ゲート駆動回路6で構成され、これらが6回路で3相インバータ回路となる。7は電力変換装置の制御回路で,制御回路7で各IGBTのオンオフ指令信号(ゲート駆動信号)が生成される。IGBT4を駆動するためのゲート駆動回路6では,制御回路7からのオンオフ信号を絶縁してIGBT4のゲートに供給する。通常制御回路が置かれている基準電位側と,IGBT及びそのゲート駆動回路間には電位差があるため,両者間で信号伝送を行う場合は絶縁器が必要となる。
【0004】
上記システムにおいて従来から適用されている絶縁器を用いた回路例として,
図12に示すフォトカプラ9を用いた回路構成,
図13に示すパルストランス10,11を用いた回路構成,
図14に示す光ファイバケーブル12を用いた回路構成がある。
【0005】
図12に示すフォトカプラを用いた回路は、制御回路7からのオンオフ信号をスイッチ回路16を介してフォトカプラ回路9のフォトダイオードを駆動し、フォトカプラの2次回路であるフォトトランジスタを用いたゲート駆動回路でゲート駆動回路用電源GPSからIGBTQ1のゲートにオン用順バイアス電圧とオフ用逆バイアス電圧を供給する。ここで使用されている抵抗Rpは、制御電源Vcからフォトダイードに流れる電流を所定値に制限するための制限抵抗である。また、抵抗Rgはゲート抵抗と呼ばれ、オン信号の電圧立上り時間の調整や、オフ信号の立下り時間の調整の役割を担う。
【0006】
図13に示す絶縁トランス(パルストランスとも呼ぶ)を用いた回路は、二つの絶縁トランス10、11を用いた変調−復調回路の構成である。絶縁トランスを小型化するために、制御回路7からのオンオフ信号をスイッチ回路17内で、位相の180度ずれた二つの高周波信号に変調して、絶縁トランス10の1次巻線n1と11の1次巻線n1を駆動し、各絶縁トランスの2次巻線n2の電圧を整流ダイオードRDで整流して、復調する構成である。復調された信号はスイッチ回路13でゲート駆動回路用電源GPSからIGBTQ1のゲートにオン用順バイアス電圧とオフ用逆バイアス電圧を供給する。抵抗Rgはゲート抵抗と呼ばれ、オン信号の電圧立上り時間の調整や、オフ信号の立下り時間の調整の役割を担う。
【0007】
図14に示す光ファイバケーブル12を用いた回路は、制御回路7からのオンオフの電気信号を電気−光変換器(E/O)14で光信号に変換し、光ファイバケーブル12で半導体スイッチ素子駆動回路まで光伝送し、この光信号を光−電気変換器(O/E)15で電気信号に変換する。この電気信号はスイッチ回路13でゲート駆動回路用電源GPSからIGBTQ1のゲートにオン用順バイアス電圧とオフ用逆バイアス電圧を供給する。抵抗Rgはゲート抵抗と呼ばれ、オン信号の電圧立上り時間の調整や、オフ信号の立下り時間の調整の役割を担う。
【0008】
これら方式はそれぞれ一長一短の特徴がある。フォトカプラは安価で,実装面積および体積が小さいというメリットがあるが,光絶縁部の伝送効率の点で1次−2次間の距離を離すことができず,1次−2次間の絶縁耐圧を高くすることに限界があることや,ある程度の伝送時間が必要で,その伝送時間にも個体差(ばらつき)がある,といったデメリットがある。
【0009】
絶縁トランスは,フォトカプラに比べて高価であり,実装面積,体積も大きい,さらには増幅機能を備えたスイッチ回路13が必要といったデメリットもある。一方,大きさに制約がなければ絶縁電圧を高くすることが可能であり,また伝送時間もほぼゼロであるといったメリットがある。
【0010】
光ファイバケーブルはこれら3者の中では最も高価であり,また電気−光変換器(E/O)14,光−電気変換器(O/E)15が必要で,増幅機能を備えたスイッチ回路13が必要といったデメリットがあるが,絶縁電圧を考慮する必要がなく,また長距離信号伝送も可能といったメリットがある。
【0011】
上記の特徴を活かして、一般に,200V系や400V系の低圧の装置にはフォトカプラが,装置を並列接続するような大容量のシステムには信号伝送時間ばらつきが問題とならないパルストランスが,また高絶縁耐量が必要となる数1000V系以上の高圧装置には光ファイバケーブルが適用されることが多い。
フォトカプラを適用した例は,特許文献1に、パルストランスを適用した例は特許文献2に,光ファイバケーブルを適用した例として,特許文献3に、各々記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−312796号公報
【特許文献2】特開平7−15949号公報
【特許文献3】特開2006−109686号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】電気学会技術報告 第1093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、数1000Vクラスの高圧の装置では,一般的に信号絶縁手段として光ファイバケーブルを適用しているため,コストアップ要因となる。
また
図11の回路方式をベースに高圧回路を構成する場合の例を
図15に示す。本回路例は非特許文献1に記載されているフライングキャパシタ形電力変換回路と呼ばれ,高耐圧の半導体スイッチ素子を適用せずに,低耐圧の半導体スイッチ素子を直列に接続(Q1〜Q4)し,さらに半導体スイッチ素子Q1とQ2の接続点とQ3とQ4の接続点との間にコンデンサ21,22の直列回路を接続する構成である。例えば、直流単電源1a〜1dで構成された直流電源電圧を4Edとした場合,フライングキャパシタC1、C2の各々の電圧をEd(合計で2Ed)とすることで交流出力点Auには,M電位を基準に2Ed,M,−2Edの3つのレベルの電位を出力可能となるため,本回路は3レベルのインバータとなる。本回路例のように3レベル以上のマルチレベルインバータの場合,一般にスイッチ素子数が多くなるため,その数に応じて光ファイバケーブルの数も必要となり,さらなるコストアップ要因となる。
従って、本発明の課題は、高電圧の電力変換回路を構成する半導体スイッチ素子に制御回路から駆動信号を絶縁して伝送する回路方式として、光ファイバケーブルなどの高価な絶縁手段を用いない低価格の絶縁回路方式とそれを用いた低価格の電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するために、第1の発明においては、半導体スイッチ素子直列回路と、半導体スイッチ素子をオンオフ制御する駆動信号絶縁回路と、キャパシタとからなるフライングキャパシタ形電力変換装置として、前記駆動信号絶縁回路は、駆動信号を異電位間で絶縁して伝送し、絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とフォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続して二重絶縁した直列絶縁回路にて構成され、前記半導体スイッチ素子直列回路は、直流電源と並列に2n(nは2以上の整数)個の半導体スイッチ素子が直列接続されており、前記半導体スイッチ素子直列回路の中間点を中心に2N(Nは1〜n−1までの整数)個のキャパシタが半導体スイッチ素子直列回路と並列に接続されており、前記駆動信号絶縁回路は、前記半導体スイッチ素子の各々に適用されており、前記いずれかのフライングキャパシタの中間電位点に、前記半導体スイッチ素子の各々に適用された前記絶縁トランスを用いた信号絶縁回路と前記フォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続した駆動信号絶縁回路の直列接続点が接続される。
第2の発明においては、第1の半導体スイッチ素子
直列回路と、第2の半導体スイッチ素子直列回路と、半導体スイッチ素子をオンオフ制御する駆動信号絶縁回路と、キャパシタとからなるフライングキャパシタ形電力変換装置として、前記駆動信号絶縁回路は、駆動信号を異電位間で絶縁して伝送し、絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とフォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続して二重絶縁した直列絶縁回路にて構成され、前記第1の半導体スイッチ素子直列回路は、直流電源と並列に2n(nは2以上の整数)個の半導体スイッチ素子が直列接続されており、前記第1の半導体スイッチ素子直列回路の中間点を中心に2N(Nは1〜n−1までの整数)個のキャパシタが第1の半導体スイッチ素子直列回路と並列に接続されており、前記第2の半導体スイッチ素子直列回路は、前記Nの最大値で決められたキャパシタと並列に複数の半導体素子が直列接続されており、前記第2の半導体スイッチ素子直列回路の中間接続点と前記直流電源の中間電位点との間に双方向のスイッチングが可能な双方向スイッチを接続されており、前記半導体スイッチ素子の各々に前記駆動信号絶縁回路が適用されており、前記いずれかのフライングキャパシタの中間電位点に、前記半導体スイッチ素子の各々に適用された前記絶縁トランスを用いた信号絶縁回路と前記フォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続した駆動信号絶縁回路の直列接続点が接続される。
【0016】
第3の発明においては、第1〜第2の発明における電力変換装置の駆動信号絶縁回路において、前記
駆動信号の送信元となる基準電位側を絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とし、前記半導体スイッチ素子側をフォトカプラを用いた信号絶縁回路とする。
【0017】
第
4の発明においては、第
3の発明における電力変換装置の駆動信号絶縁回路において、前記絶縁トランスの1次巻線を前記基準電位側で駆動し、前記絶縁トランスの2次巻線から前記フォトカプラのフォトダイオードにオン信号時の電流を供給する。
【0018】
第5の発明においては、第
3〜第4の発明における電力変換装置の駆動信号絶縁回路において、前記絶縁トランスを用いた信号絶縁回路と前記フォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続する直列接続点を、前記基準電位と前記直列絶縁回路を介して駆動する半導体スイッチ素子のエミッタ電位との間の中間電位点に接続する。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、高電圧の電力変換装置に適用するゲート駆動信号の絶縁器として光ファイバケーブルを使用せず,絶縁トランスと低廉のフォトカプラのみを使用し、絶縁トランスによる信号絶縁回路とフォトカプラによる信号絶縁回路を直列接続構成とし、直列接続点を前記基準電位と前記直列絶縁回路を介して駆動する半導体スイッチ素子のエミッタ電位との間の中間電位点に接続するようにしている。
この結果、絶縁器として低耐圧の絶縁トランスと低耐圧のフォトカプラで、高電圧の回路に信号を絶縁伝送することが可能となり、高電圧回路に適用可能な低価格の信号絶縁回路とそれを用いた低価格の高電圧の電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】第1の実施例を適用したフライングキャパシタ形3レベルインバータ回路例である。
【
図4】第1の実施例を適用したフライングキャパシタ形4レベルインバータ回路例である。
【
図6】第1の実施例を適用したフライングキャパシタ形5レベルインバータ回路例である。
【
図8】第1の実施例を適用したフライングキャパシタ形7レベルインバータ回路例である。
【
図10】第1の実施例を適用した2レベルインバータ回路例である。
【
図11】一般的な2レベルインバータの主回路構成図である。
【
図12】フォトカプラを用いた駆動信号絶縁伝送回路例である。
【
図13】絶縁トランスを用いた駆動信号絶縁伝送回路例である。
【
図14】光ファイバケーブルを用いた駆動信号絶縁伝送回路例である。
【
図15】フライングキャパシタ形3レベルインバータ回路例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の要点は、電力変換装置に適用する半導体スイッチ素子をオンオフ制御する駆動信号を、異電位間で絶縁して伝送する手段として、絶縁トランスを用いた信号絶縁回路とフォトカプラを用いた信号絶縁回路とを直列接続して二重絶縁した直列絶縁回路にて構成し、前記直列絶縁回路の直列接続点を、基準電位と前記直列絶縁回路を介して駆動する半導体スイッチ素子のエミッタ電位との間の中間電位点に接続し、絶縁器として低耐圧の絶縁トランスと低耐圧のフォトカプラを適用可能としている点である。
【実施例1】
【0025】
図1に、本発明の第1の実施例を示す。絶縁トランス10と11を用いたトランス絶縁回路PTCとフォトカプラ回路9を用いたフォトカプラ絶縁回路PCCとを直列接続した二重絶縁回路で、制御回路からのオンオフ信号を絶縁して半導体スイッチ素子としてのIGBTのゲートに伝送する回路である。トランス絶縁回路PTCは、制御回路からのオンオフ信号を端子INからスイッチ回路17に入力し、スイッチ回路17では入力されたオンオフ信号を位相が180度ずれた二つの高周波信号に変調して、絶縁トランス10の1次巻線n1と11の1次巻線n1を駆動し、各絶縁トランスの2次巻線n2の電圧を整流ダイオードRDで整流して、復調する構成である。トランス絶縁回路PTCの出力端子SPとSN間にはIN端子のオンオフ信号が絶縁されたオンオフ信号として出力される。
【0026】
このオンオフ信号はフォトカプラ絶縁回路PCCの入力端子PAとPBに入力され、オン信号時はフォトカプラ回路9の1次回路であるフォトダイオードを抵抗Rpを介して駆動し、フォトカプラの2次回路であるフォトトランジスタを用いたゲート駆動回路でゲート駆動回路用電源GPSからゲート抵抗Rgを介してIGBTQ1のゲートにオン用順バイアス電圧を供給する。オフ信号時は、ゲート駆動回路用電源GPSからゲート抵抗Rgを介してIGBTQ1のゲートにオフ用逆バイアス電圧を供給する。
【0027】
この様な構成において、前記絶縁トランスを用いたトランス絶縁回路PTCと前記フォトカプラを用いたフォトカプラ絶縁回路PCCとを直列接続する端子SNとPBとの直列接続点8を、制御回路側の基準電位と前記直列絶縁回路を介して駆動する半導体スイッチ素子(IGBT)Q1のエミッタ電位との間の中間電位点に接続することにより、基準電位とエミッタ電位との電位差の半分が絶縁トランス10と11の1次巻線と2次巻線との間、及びフォトカプラの1次フォトダイオードと2次フォトトランジスタとの間に印加されることになる。従って、絶縁器として、従来の回路構成に比べて半分の電位差に耐える絶縁トランスとフォトカプラを適用することが可能となる。また、基準電位側にフォトカプラを用いた回路を適用し、半導体スイッチ素子側に絶縁トランスを用いた構成も実現可能であるが、フォトカプラの2次側回路を駆動するための電源が必要となり、コスト的に不利となる。本実施例の構成では、絶縁トランスの2次巻線からフォトダイオードに電流を流すことができるため、絶縁トランスの2次回路(中間回路部)に電源は不要となる。
【実施例2】
【0028】
図2に、本発明の第2の実施例を示す。3レベル出力のフライングキャパシタ形インバータ回路に、実施例1で説明した二重絶縁した直列絶縁回路を用いたゲート駆動回路を適用した3レベル3相インバータの回路である。回路構成は同じ1相分の回路を3回路分(U相用、V相用、W相用)用いて構成しているので、U相について説明する。直流単電源1a〜1dを直列接続した直流電源と並列にダイオードを逆並列接続したIGBTを4個(Q1〜Q4)直列接続したIGBT直列回路を接続し、IGBTQ1とQ2の接続点とIGBTQ3とQ4の接続点との間にコンデンサC1とC2の直列回路を接続し、IGBTQ2とQ3との接続点を交流出力とした回路が1相分の主回路構成である。IGBTQ1〜Q4の各ゲートには実施例1で説明した二重絶縁した直列絶縁回路を用いたゲート駆動回路が接続されており、各ゲート駆動回路の入力INには制御回路7から各々オンオフ信号が供給される。
ここで、各ゲート駆動回路の入力INと制御回路7からのオンオフ信号との接続線に4wと記載されているのは、4個分の信号線が配線されていることを意味する。
【0029】
この様な回路構成において、直流単電源の電圧を各々Ed、コンデンサC1とC2の電圧を各々Edとすると、直流電源の中間点Mの電圧を零として、例えば、IGBTQ1とQ2をオンすると交流出力には2Edが、IGBTQ1とQ3をオンすると交流出力には零が、IGBTQ3とQ4をオンすると交流出力には−2Edが、各々出力され、3レベルの変換動作となる。
【0030】
一般に数kVクラス以上の高圧回路の場合,安全性の観点から浮遊電位となる回路は作らず,全ての回路や金属物はいずれかの電位に接続する必要がある。
図1における端子SNとPBとの直列接続点8をいずれかの電位に接続する必要がある。
図2に示すフライングキャパシタ形のインバータ回路においては,絶縁トランスの1次側(制御回路側の基準電位)をM点(0電位)に接続した場合,
図1における絶縁トランスとフォトカプラ間の直列接続点8は,Q1用はEd電位のE1に,Q2用,Q3用はフライングキャパシタC1とC2の接続点E3に,T4用は−Ed電位のE2に、各々接続する。
【0031】
本回路構成とした場合の各ゲート駆動回路の,ゲート駆動回路が動作する基準電位,絶縁トランス回路PTCの出力とフォトカプラ回路PCCの入力との接続点である中間回路の電位(絶縁トランスの1次と2次間に印加される電圧),およびフォトカプラの1次と2次間に印加される最大電圧値のまとめを
図3に示す。本図から判るように,全ての絶縁トランス及びフォトカプラの1次と2次間に印加される電圧の絶対値はEdとなる。すなわち,Edの電圧に対して必要となる絶縁耐量を有した絶縁トランス及びフォトカプラを選定すればよいことが判る。
【実施例3】
【0032】
図4に、本発明の第3の実施例を示す。4レベル出力のフライングキャパシタ形インバータ回路に、実施例1で説明した二重絶縁した直列絶縁回路を用いたゲート駆動回路を適用した4レベル3相インバータの回路の1相分の回路構成である。直流単電源1a〜1fを直列接続した直流電源と並列にダイオードを逆並列接続したIGBTを6個(Q1〜Q6)直列接続したIGBT直列回路を接続し、IGBTQ2とQ3の接続点とIGBTQ4とQ5の接続点との間にコンデンサC1とC2の直列回路を、IGBTQ1とQ2の接続点とIGBTQ5とQ6の接続点との間にコンデンサC3とC4の直列回路を、各々接続し、IGBTQ3とQ4との接続点を交流出力とした回路が1相分の主回路構成である。IGBTQ1〜Q6の各ゲートには実施例1で説明した二重絶縁した直列絶縁回路を用いたゲート駆動回路が接続されており、各ゲート駆動回路の入力INには制御回路7から各々オンオフ信号が供給される。
ここで、各ゲート駆動回路の入力INと制御回路7からのオンオフ信号との接続線に6wと記載されているのは、6個分の信号線が配線されていることを意味する。
【0033】
この様な回路構成において、直流単電源1a〜1fの電圧を各々Ed、コンデンサC1とC2の電圧を各々Ed、コンデンサC3とC4の電圧を各々2Edとすると、直流電源の中間点Mの電圧を零として、例えば、IGBTQ1〜Q3をオンすると交流出力には3Edが、IGBTQ1、Q2、Q4をオンすると交流出力にはEdが、IGBTQ3、Q5、Q6をオンすると交流出力には−Edが、IGBTQ4、Q5、Q6をオンすると−3Edが、各々出力され、4レベルの変換動作となる。
【0034】
この様な構成における各ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点と、絶縁トランス1次−2次間電圧と、フォトカプラ1次−2次間電圧と、の関係を
図5に示す。接続点E1は直流単電源1aと1bの接続点、接続点E2は直流単電源1bと1cの接続点、接続点E3は直流単電源1dと1eの接続点、接続点E4は直流単電源1eと1fの接続点、接続点E5はコンデンサC1とC2の接続点、接続点E6はコンデンサC3とC4の接続点、である。Q1用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE1に、Q2用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE5に、Q3用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE5に、Q4用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE4に、Q5用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE4に、Q6用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE5に、各々接続すると、絶縁トランス10、11の1次−2次間電圧は2Edに、フォトカプラの1次−2次間電圧はEdとなる。また、Q1用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE2に、Q2用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE2に、Q3用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE3に、Q4用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE6に、Q5用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE3に、Q6用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8をE6に、各々接続すると、絶縁トランス10、11の1次−2次間電圧はEdに、フォトカプラの1次−2次間電圧は2Edとなる。
【実施例4】
【0035】
図6に、本発明の第4の実施例を示す。実施例2で説明した3レベル出力のフライングキャパシタ形インバータ回路のコンデンサC1とC2の直列回路と並列に半導体スイッチ素子(IGBT)Q5、Q6を直列接続した第2の半導体スイッチ直列回路を接続し、前記第2の半導体スイッチ直列回路の直列接続点と直流電源の中間電位点との間に双方向の電流をオンオフ可能な逆阻止形IGBTQ11とQ12で構成した双方向スイッチを接続し、さらにIGBTQ1を3個のIGBT(Q1a、Q1b、Q1c)の直列回路に、IGBTQ4を3個のIGBT(Q4a、Q4b、Q4c)の直列回路に変更したものである。この回路は5レベル出力のフライングキャパシタ形インバータ回路と呼ばれる。詳細は特開2012−182974号公報に記載されているので、動作説明は省略する。
【0036】
この様な構成において、直流単電源1a〜1dの電圧を各々Ed、コンデンサC1とC2の電圧を各々Ed/2とし、直流電源の中間電位点Mを零、直流単電源1aと1bの接続点をE1、直流単電源1cと1dの接続点をE2、コンデンサC1とC2の接続点をE3とした時の、各ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点と、絶縁トランス1次−2次間電圧と、フォトカプラ1次−2次間電圧と、の関係を
図7に示す。Q1a用とQ1b用のゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点をE1に、Q1c用、Q2用、Q3用及びQ6用のゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点をE3に、Q4a用、Q4b用及びQ4c用ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点をE2に、各々接続することにより、絶縁トランスの1次−2次間電圧とフォトカプラの1次−2次間電圧は
図7に示すようになる。絶縁トランスの1次−2次間電圧とフォトカプラの1次−2次間電圧合計値は2Edであるが、EdとEdに分割して負担、3/2EdとEd/2に分担して負担する何れかとなる。ここで、Q7用、Q8用及びQ5用のゲート駆動回路の入出力間には電圧Edが印加されるだけであるので、二重絶縁の必要性はない。
【実施例5】
【0037】
図8に、本発明の第5の実施例を示す。実施例3で説明した4レベル出力のフライングキャパシタ形インバータ回路のコンデンサC3とC4の直列回路と並列に半導体スイッチ素子(IGBT)Q7〜Q10を直列接続した第2の半導体スイッチ直列回路を接続し、前記第2の半導体スイッチ直列回路の中間接続点と直流電源の中間電位点との間に、逆阻止形IGBTQ11とQ12で構成した双方向の電流をオンオフ可能な双方向スイッチを接続し、さらにIGBTQ1を4個のIGBT(Q1a、Q1b、Q1c、Q1d)の直列回路に、IGBTQ6を4個のIGBT(Q6a、Q6b、Q6c、Q6d)の直列回路に変更したものである。また、IGBTQ8とQ9の直列回路と並列にコンデンサC5が接続される。この回路は7レベル出力のフライングキャパシタ形インバータ回路と呼ばれる。詳細は特願2012−004723号に記載されているので、動作説明は省略する。
【0038】
このような構成において、直流単電源1a〜1fの電圧をEd,コンデンサC1、C3〜C5の電圧をEdとし、直流単電源1bと1cの接続点をE1、直流単電源1dと1eの接続点をE2、コンデンサC3とC4の接続点をE3とした時の各ゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点と、絶縁トランス1次−2次間電圧と、フォトカプラ1次−2次間電圧と、の関係を
図9に示す。
IGBTQ1a〜Q1d用のゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点をE1に、IGBTQ2〜Q4用のゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点をE3に、IGBTQ5、Q10、Q6a〜Q6d用のゲート駆動回路の絶縁トランスとフォトカプラの中間回路電位8の接続点をE2に、各々接続することにより、絶縁トランスの1次−2次間電圧とフォトカプラの1次−2次間電圧は
図9に示すようになる。合計値は3Edであるが、Edと2Edに分割して負担する。ここで、IGBTQ8用、Q11用及びQ12用のゲート駆動回路の入出力間には電圧Edが、IGBT7と9用のゲート駆動回路の入出力間には電圧2Edが、印加されるだけであるので、二重絶縁の必要性はない。上述の例の他に、コンデンサC1やC5を分割する方法があり、絶縁トランスとフォトカプラの絶縁電圧分担を変更することができる。
【実施例6】
【0039】
図10に、本発明の第6の実施例を示す。直流単電源1aと1bの直列回路で構成された直流電源と並列に半導体スイッチ素子Q1とQ2の直列接続回路を接続する2レベルインバータ回路の1相分の回路に、実施例1で説明した二重絶縁した直列絶縁回路を用いたゲート駆動回路を適用した2レベルインバータの回路の1相分の回路構成である。上下アーム(Q1用、Q2用)ともに同じゲート駆動回路が記載されているが、制御回路の基準電位を直流電源の負極Nに接続すれば、下アームのIGBTQ2は基準電位となるので、二重絶縁した直列絶縁回路を用いる必要はない。上アームのIGBTQ1は負極Nと正極Pの電位間で動作するので、ゲート駆動回路は絶縁トランスを用いた回路PTCとフォトカプラを用いた回路PCCを直列接続した構成とし、実施例1に示した直列接続点8は直流電源の中間接続点に接続する。この結果、IGBTQ1用のゲート駆動回路の絶縁トランスを用いた回路PTCとフォトカプラを用いた回路PCCへの印加電圧はEd/2となり、絶縁器の小型化が図れる。
尚、本実施例の説明では、インバータ回路について説明したが、PWM整流回路、直流−変換回路、マトリクスコンバータなどの周波数変換回路などの回路についても、適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、高電圧の電力変換回路のゲート駆動信号の絶縁技術に関し、電力変換装置全般に適用可能である。特に、高電圧を取り扱う高圧電動機駆動装置、系統連系用変換装置、鉄道車両駆動装置などへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1・・・直流電源 1a〜1f・・・直流単電源
2・・・交流電動機(負荷) 3・・・3相インバータ回路
4、Q1〜Q10、Q1a〜Q1d、Q4a〜Q4c、Q6a〜Q6d・・・IGBT
Q11、Q12・・・逆阻止形IGBT 7・・・制御回路
C1〜C5・・・コンデンサ 9・・・フォトカプラ回路
10、11・・・絶縁トランス 13、16、17・・・スイッチ回路
RD・・・整流回路 Rp、Rg・・・抵抗 5・・・ダイオード
6・・・ゲート駆動回路 GPS・・・駆動回路電源
12・・・光ファイバケーブル 14・・・電気−光変換器
15・・・光−電気変換器 PTC・・・トランス絶縁回路
PCC・・・フォトカプラ絶縁回路