【0015】
本発明においては、ポリアミン化合物のアミノ基数と脂肪酸の炭素数とのバランスを調整するために、アミノ基1個当たりの脂肪酸の炭素数(A)を規定する。このようにポリアミン化合物のアミノ基数と脂肪酸の炭素数とのバランスを所定範囲に調整することによって、柔軟性と浸透性をバランス良く板紙に付与することができ、板紙の罫線割れを防止することができる。
具体的には、式(2)で表されるアミノ基1個当たりの脂肪酸の炭素数(A)を5.5〜8.5の範囲に調整する。
A=脂肪酸炭素数×アミド化率 ・・・式(2)
アミド化率=(反応開始時のアミン価−反応終了時のアミン価)/反応開始時のアミン価
なお、式(2)における脂肪酸炭素数は、1種の脂肪酸を用いた場合はその脂肪酸の炭素数であり、2種以上の脂肪酸からなる混合物を用いた場合は各脂肪酸の炭素数から加重平均により算出した数値である。また、反応開始時のアミン価および反応終了時のアミン価は、それぞれの試料を例えば酢酸に溶解し、電位差滴定装置を用いて測定することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
〔罫線割れ防止剤の調製〕
表1記載のポリアミン化合物と脂肪酸とを表1記載の反応モル比で縮合反応させ(合成例1〜5、比較合成例1〜6)、アミドアミン化合物を得た。この反応において、ポリアミン化合物と脂肪酸とを混合した直後のアミン価、および反応終了後のアミン価を測定することで、以下の式を基に、得られたアミドアミン化合物のアミド化率を算出した。
アミド化率=(反応開始時のアミン価−反応終了時のアミン価)/反応開始時のアミン価
なお、アミン価は、0.05〜0.2gの試料を酢酸80mLに溶解し、電位差滴定装置COM−1700(平沼産業(株)製)を用いて測定した。
【0023】
このアミドアミン化合物のアミン価に対して当量に相当する量の酢酸をイオン交換水に加え、この酢酸水溶液を反応液に加えて、アミドアミン化合物の酢酸塩を含有する分散液を得た。この分散液を罫線割れ防止剤として、浸透性試験および外部添加薬液試験に供した。なお、分散液におけるアミドアミン化合物酢酸塩の含有量は、浸透性試験用では10質量%、外部添加薬液試験用では0.2質量%とした。
【0024】
〔罫線割れ防止剤の評価〕
上記で得られた罫線割れ防止剤の分散液(実施例1〜5、比較例2〜7)を用いて、以下のようにして手すきシートを抄紙した。なお、比較例1では、罫線割れ防止剤の分散液の代わりにイオン交換水に浸漬させた。
得られた手すきシートについて、外部添加薬液試験として、柔軟性および罫線割れの評価を行なった。また、得られた分散液を用いて、既成の段ボール紙に対する浸透性を評価した。
【0025】
(1)手すきシートの抄紙
JIS P8222試験用手すき紙の調製方法を参考にして、以下の手順に従って手すきシートを抄紙した。NSBKP(針葉樹晒パルプ)を1質量%含有するパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーをビーカーに130gとり、TAPPIスタンダードシートマシン((株)安田精機製作所製)により抄紙し、油圧プレス機((株)安田精機製作所製)で0.35MPa、5分間プレスした後、ドラム式ドライヤー((株)安田精機製作所製)により105℃、2.5分の乾燥を行い、坪量60g/m
2の手すきシートを抄紙した。
【0026】
抄紙した手すきシートを上記分散液に浸漬させることで薬液を外部添加し、再びドラム式ドライヤーにより乾燥を行った。この際、外部添加塗工量は、アミドアミン化合物酢酸塩換算で0.10g/m
2とした。この手すきシートを恒温恒湿室(温度23℃、湿度50%)にて17時間調湿させた。なお、各分散液について3枚の手すきシートをそれぞれ抄紙した。
【0027】
また、坪量300g/m
2の手すきシートも同様にして抄紙した。初期のパルプスラリーを630gとり、上記と同様の工程で手すきシートを抄紙した。この際、ドラム式ドライヤーによる乾燥は2. 5分×3回行い、外部添加後は2回乾燥を行った。
【0028】
(2)柔軟性の評価
調湿した坪量60g/m
2の手すきシートの曲げ剛度を純曲げ試験機(カトーテック(株)製 :KES−FB2)にて測定した。各例で6回の測定を行い、曲げ剛度の平均値を求め、表2にまとめて記載した。
【0029】
さらに、柔軟性を以下の基準に従って評価し、その評価を同じく表2にまとめて記載した。評価基準は、イオン交換水のみに浸漬させた比較例1での曲げ剛度の値に対して90%未満に曲げ剛度の低下が認められたもの、すなわち柔軟性が向上したものを合格とした。
(評価基準)
曲げ剛度が7.5×10
−5N・m
2/m未満:柔軟性が良好である(○)
曲げ剛度が7.5×10
−5N・m
2/m以上:柔軟性が不十分である(×)
【0030】
(3)浸透性の評価
JIS R3257を参考にして、10質量%の分散液を、サイズ性が付与されている既成の段ボール(ライナー・中芯・ライナーの三層構造)に滴下し、ウエハー洗浄・処理評価装置(協和界面科学(株)製:CA−S150型)にて滴下直後の接触角を測定した。各例で3回の測定を行い、接触角の平均値を求め、表2にまとめて記載した。
【0031】
さらに、浸透性を以下の基準に従って評価し、その評価を同じく表2にまとめて記載した。
(評価基準)
接触角の平均値が80°未満:浸透性が良好である(○)
接触角の平均値が80°未満:浸透性が不十分である(×)
【0032】
(4)罫線割れの評価
罫線割れの評価については、以下の手順で行った。調湿した坪量300g/m
2の手すきシートを乾燥器にて105℃、3時間の乾燥を行った。この乾燥シートを半分に折り曲げ、加熱していないドラム式ドライヤーを閉塞型に設定し、1. 5分間通過させた。通過させた半月状の手すきシートを水平に開き、再び同一方向に折り曲げ、この折った部分の割れ長さを測定し、下記式3より罫線割れ長さ率を求めた。各例で2回の測定を行い、罫線割れ長さ率の平均値を求めた。
分散液の代わりにイオン交換水に浸漬させたシートをブランクとして、このシートの罫線割れ長さ率(41%)に対する改善率を下記式4に従って求め、表2にまとめて記載した。
罫線割れ長さ率(%)=[罫線割れした長さ(mm)/シート全体の長さ(mm)]×100 ・・・式(3)
罫線割れ改善率(%)=[1−罫線割れ長さ率(%)/ブランクの罫線割れ長さ率(41%)]×100 ・・・式(4)
【0033】
さらに、罫線割れ改善率を以下の基準に従って評価し、その評価を同じく表2にまとめて記載した。
(評価基準)
罫線割れ改善率が50以上:罫線割れ改善効果が良好である(○)
罫線割れ改善率が50未満以上:罫線割れ改善効果が不十分である(×)
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
本発明の罫線割れ防止剤を使用した実施例1〜5では、いずれも曲げ剛度が7.5×10
−5N・m
2/m未満であり、接触角も80°未満となっていたので、罫線割れ改善率が50%以上となり、優れた罫線割れ防止効果が認められた。
【0037】
一方、アミノ基1個当たりの脂肪酸の炭素数(A)が8.5よりも高い比較例2〜6では、柔軟性は高いが浸透性が低いので、罫線割れ防止効果が不十分であった。また、アミノ基1個当たりの脂肪酸の炭素数(A)が5.5よりも低い比較例7では、浸透性は十分であったが、柔軟性が低いので、罫線割れ防止効果が不十分であった。